オラリオで自由気ままに過ごすのはダメだろうか(一時完結)   作:ダーク・シリウス

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冒険譚31

「うわーっ!こんな店ができていたなんてあたし知らなかったよー!」

 

目を輝かせ、眼前に広がる光景に興奮するティオナ。湯気立つ向こうには様々な色がしたお湯が張られている浴槽が女性人達を待ち構えている。女性しか入浴が許されていない神聖な浴場。まるで地上にある神しか入浴が許されていない神聖浴場みたいである。それがダンジョン―――18階層こと安全階層(セーフティポイント)、別名迷宮の楽園(アンダー・リゾート)にあるならず者達の街(ローグ・タウン)にたった一件しかない誰でも自由に入れる共同風呂、通称『銭湯』という店に【ロキ・ファミリア】の女性陣は足を運んだ。

 

『―――風呂が入れる店があるぞ』

 

森の奥にある水浴びができる場所に向かおうとするアイズ達に向かって―――一誠が一言告げた結果。ならず者達の街(ローグ・タウン)とは思えない格安の料金で利用できた。しかも銭湯を営業しているのが

 

『いらっしゃい』

 

『『『ええええええええええええええええええっ!?』』』

 

一誠張本人であったのが驚きものだ。しかし、女性専用の脱衣場で衣服や装備を全て脱装し素肌を見せ合う花も恥じらう乙女達が初めて利用する銭湯の浴場に入れば、多種多彩な色のお湯が張ってある湯船がアイズ達を出迎えた。他にも利用している女性冒険者達も裸体を惜しみなく晒して堪能しているし一列に並べられた椅子に座って『マッサージ部屋』と共通語(コイネー)で書かれた看板がある扉の前で待っている女性客の姿も。

 

「イッセー、こんな方法でもお金を稼いでいたとは驚いたわ」

 

「もう、イッセーって冒険者じゃなくても生きていけれるよ」

 

早速湯に使って一時の束の間の休憩で身も心もダンジョンではできないはずの入浴に

身体を抱き絞めてくる熱い湯の感触。両の目をぎゅっと瞑り、全身という全身を弛緩させる。

 

「・・・・・温かい」

 

「き、気持ちいいです・・・・・」

 

「この階層でこんなお風呂に入れるなら、あたし、毎日来たくなりそうー」

 

「ちょっと、私もそう思いたくなっちゃうじゃない・・・・・」

 

『遠征』での肉体に蓄積していた疲労がここで取れてしまいそうな感覚に陥り、満喫する。

 

「ふむ、滝みたいなものもあるとはな」

 

浴場の奥、一〇M以上もの高さのある滝を一人見つめ、滝行を始め出すハーフドワーフの女性―――椿。左眼の眼帯を外さない彼女の小麦色の肌に勢いよく水滴が伝い、魅惑的な胸の谷間に流れ落ちていく。普段はさらしに封じ込まれているその巨峰の大きさはティオネに比肩するほどだ。

 

「これなら見張りもさせないで思う存分入れるね。しかも、後の人のことも考えず入れるから嬉しい限りだわ」

 

「リヴェリア様は来ませんでしたが・・・・・」

 

「しょうがないよー。リヴェリアはしなきゃいけないことがあるんだし

 しばらくこの18階層に留まらなくちゃいけなくなったんだからさ」

 

「・・・・・」

 

そう、ここは18階層。深層域での凄まじい激戦を経て、アイズ達は今、この階層に留まっている。59階層―――【ロキ・ファミリア】未到達領域への『遠征』を終了させ、根拠地(ベースキャンプ)50階層を出発して六日目。本ならいならばこのダンジョンの楽園に留まらず、地上へと帰還しているはずだった。何故こんなことになっているのか。銘々の会話と熱い湯によって赤く火照ったレフィーヤの声を耳にしながら、アイズは石の天蓋(ドーム)に塞がられる頭上を仰ぎ、これまでのことを思い返した―――。

 

 

所変わって場所は開けた森の一角で、【ロキ・ファミリア】の天幕が陣取っている17階層へ続く連絡路にも近い南端部の森林。幕を開けて風通しを良くした天幕の内部、あるいは木の根元や外の草地に多くの冒険者や鍛冶師(スミス)が仰向けに転がっている。性別も種族も関係ない。身体の一部を変色させ、一様に脂汗を掻いていた。

そこかしこから聞こえてくる苦痛が滲む声。視界に広がっている惨憺たる光景を前に、本営の傍で佇むフィン、リヴェリア、ガレスは言葉を交わす。

 

「『耐異常』のアビリティG評価以外の団員で、毒を浴びた者は軒並み行動不能・・・・・椿を除けばほとんどの上級鍛冶師(ハイ・スミス)もやられおった。全く、相変わらず大した劇毒だ」

 

「ま、一筋縄ではいかんのがダンジョンじゃ。・・・・・今回は流石に勘弁してほしかったが」

 

「ああ、本当にやってくれたな・・・・・」

 

【ロキ・ファミリア】を18階層にとどませる元凶―――三〇C大のモンスター毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の強襲であった。59階層の死闘を経て、50階層に残した仲間達のもとへ戻って休息(レスト)をした後に一誠が地上へ一気に転移できる魔法円(マジックサークル)を展開しようとしたが、

 

『もう少し君と交流をしたい』

 

団長(フィン)の要求に応えなければいけない状態となってしまい、渋々と地道に地上へ戻ることに。しかし、下層域まで進行していたその時、モンスターの大量発生、『異常事態(イレギュラー)』。しかも毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の『怪物の宴(モンスター・パーティー)』に遭ってしまい、純粋な戦闘力は極めて低いものの、口より放出、あるいは体皮から分泌される劇毒は上級冒険者の『耐異常(アビリティ)』をも貫通してのける『毒』の『異常攻撃』を行う種族の中でも最上位の危険度を誇るモンスター。

 

そんなモンスターに夥しい数で襲撃されたら一溜まりもない。故に、【ロキ・ファミリア】は彼のモンスターによる襲撃で行動不能の状態に陥るほどの事態に追い込まれてしまい今現、サポーターを含めた在遠征隊の三分の一以上が被害に遭ってしまった。

 

「ベートに特効薬の入手を任せている。後は彼が頼りか・・・・・」

 

本営から窺える―――頭上に金色の輪っか、背中に六対十二枚の翼、翠と蒼のオッドアイと淡く光る手を身体の一部を変色させ、一様に脂汗を掻いている鍛冶師(スミス)から『毒』を抽出、浄化を施している一誠がいた。リヴェリアはフィンとガレスから離れ治療を施している最中の一誠に近づく。

 

「イッセー・・・・・どうだ?」

 

「解毒は無理だが、浄化と取り除くことぐらいはできる。念の為に専用の薬を呑んで安静させるべきだな」

 

光る一誠の手が一人の鍛冶師(スミス)の変色している腕に翳せば見る見るうちに時間を掛け元の色に戻っていく。苦痛によって呻いていたが次第に収まって、規則正しい呼吸をするようになった冒険者に傍で見守っていたリヴェリアは翡翠の瞳に安堵の色が浮かぶ。

 

「回復系統の能力をも有しているのだな」

 

一誠がいて良かったと安心した。そう思う自分がいることに自覚しながらも次の負傷者にも毒を浄化、抽出し始める一誠を見守り続ける。

 

「のう、どう思う?」

 

「ンー、信頼しているのは分かるけれどね。彼に対して恋愛感情があるのかと問われると答え辛いかな」

 

こっそり、一誠とリヴェリアの関係を愉快気に話し合う団長と老兵のドワーフだった。

 

「・・・・・今回の件は団長としての判断ミスだ。彼の魔法で地上に戻る予定だったのを変えてしまったのだからね」

 

「起こってしまったことに後悔してもどうしようもないじゃろう。これ以上気を揉んでいてもしょうがない。どうせならば前向きに捉えておれ、あやつと18階層に留まる口実ができたとな」

 

「・・・・・そう言えば、彼は何らかの要求をしてこなかったな」

 

後で願いを聞こう、とフィンはガレスの言葉に感謝しつつ一誠に近づいた。

 

「イッセー。彼等はどうだい」

 

「毒を取り除いたり浄化していたりしているから一先ず苦しまずに済むだろう」

 

「治るのか?」

 

「俺はできないことをしない方だ。というか、薬を作れないのか?『大樹の迷宮』に行けば解毒薬の原料(アイテム)があるだろう」

 

その指摘にフィンは首を横に振る。

 

「僕等の派閥には治療師(ヒーラー)や解毒魔法を扱える仲間はいるけれど、どちらも数が少なく毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の劇毒を払拭しのける者がいないんだ」

 

「じゃあ、オラリオにはいないのか?」

 

「いや、ただ一人だけ僕は知っている」と言う【ロキ・ファミリア】の団長を誰のことだ?と問う一誠にその人物の名を告げた。

 

「【ディアンケヒト・ファミリア】に所属する【戦場の聖女(デア・セイント)】、アミッド・テアサナーレという治療師(ヒーラー)だよ」

 

「・・・・・」

 

一誠にとっては滅茶苦茶知っている人物だった。後に、全員の治療し終えると特効薬を集めに地上へ一人向かったベートの後を追うように一誠も地上に戻った。

 

 

「ダメだったね・・・・・」

 

「やっぱり(リヴィラ)ダメー、ぼったくられるー」

 

「人が困っている時ほど腹が立つぐらい足元を見るわね、あいつ等」

 

「どうしましょうか・・・・・」

 

野営地の見回りをする者以外、銭湯兼買出しに行っていたアイズ達が野営地に戻ってくる。18階層に到着した当初、街に存在する毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の特効薬だけはそう急に買い占め、Lv.が低く危険な状態に遭った者達は一命を取り留めた。が、代償は高くついた。上級冒険者が経営する『リヴィラの街』は地上とは比べものにならないほど物価が高い。本日もアイズ達が最低限の食料を買えないか交渉に向かったものの、言葉通りに吹っ掛けられたと言う。元々このダンジョンの宿場街を利用せず野営地を作成したのも、法外な値段を要求されるからだ。水晶で彩られる美しい外観に反して、ならず者達が営む街は『世界で最も美しいならず者達の街(ローグ・タウン)』と呼ばれる所以でもあった。

 

「行く途中で狩ったモンスターの『魔石』と物々交換して、パンなんかはちょっと貰ってきたけど・・・・・遠征用の物資、殆ど残ってないみたいだし~」

 

「ベートが帰ってくるまでまだ掛かる筈だから・・・・・やっぱり、この階層で調達するしかないわね」

 

「あ、森の中の果物ですか?」

 

臍を丸出しにしたお腹を擦る妹の横で、ティオネはレフィーヤに「ええ」と返す。出費は避けたいが、空腹を我慢する道理もないと彼女は肩を竦めた。冒険者本来の有り様らしく、自給自足である。

 

「アキ達にも声を掛けて、いくつか班を作りましょう。水汲みと、後は森の奥から食料を集めてくるの」

 

「わかった」

 

「はいっ」

 

「よ~し」

 

ティオネの指示にアイズ、レフィーヤ、ティオナは順々に頷く。この階層の森には泉の他にも清涼な小川が走り、後はいくつもの果樹も存在する。後者はモンスターだけでなく人が食べても何ら問題ない。

 

「「「「・・・・・」」」」

 

フィンに一言、告げておこうとするティオネが、アイズとレフィーヤ、ティオナが見た矢先は―――。

 

「あ、お帰り」

 

地上から買い占めてきたのか、多くの食材が入っている籠や森から採って来たと思し果物の山の傍にいる一誠がいた。

 

「・・・・・イッセー、それ、どうしたのよ?」

 

「あまりにも暇だったから、毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の毒に侵された冒険者達の治療も終わったし、物資も殆ど無いみたいだったからダンジョンと地上から食料を集めてきた」

 

(リヴィラ)の銭湯に行っていたメンバーを他所に一誠は一人でアイズ達が懸念していた事を全て解決した。

 

「って、皆を治したのっ!?」

 

「暇だったしな」

 

暇だから己ができる全てをしてみせた。そう言ってのける一誠にレフィーヤは毒で倒れた者達の様子を見に駆け走り、

 

「この食糧・・・・・貴方が買ってきたの?」

 

「俺が勝手にしたことだ。気にするな。それにあいつ等をここに連れて来たかったしな」

 

あいつら・・・・・?首を捻って誰のことだと思ったその時、「イッセー」と呼ぶ女性の声が聞こえた。声がした方へ振り向けば、小川から汲んできた水を持って森から姿を現す元【アテネ・ファミリア】の春姫達だった。

 

「ア、【アテネ・ファミリア】?」

 

「アテネがいなくなって【ステイタス】が封印されたんだ。一般人並みの身体能力に成り下がってしまって他の派閥の冒険者に勧誘、もしくは誘拐される可能性があるから俺の傍にと連れてきた」

 

それと、と一誠は口を動かし続ける。

 

「念の為にアミッドも連れてきた」

 

「嘘、アミッドも!?」

 

「事情を言ったら快く来てくれたよ。既に治療したとはいえ、本場の治療師(ヒーラー)の目で確認して欲しかったし」

 

―――ベート、特効薬を買いに行った意味がないんじゃない?―――

 

「・・・・・イッセー一人で、全部解決しちゃうんじゃない?」

 

「・・・・・ええ、呆れるほどにね」

 

「【ロキ・ファミリア】に入ってくれないかな・・・・・」

 

天界に送還されたアテネは、知らなかったとはいえ、何という人材を手中に収めたのだろう。とティオネはそう思わずにはいられなかった。

 

「ねぇ、イッセー達ってこれからどうするつもりなの?」

 

「衣食住は特に問題ない。一般人として生きるのも何ら問題ないな。別に冒険者になる必要性はもう無くなったし」

 

「でも、お金ってなくなるよ?」

 

「もう知ってるだろう?俺が銭湯に働いているのを。それで得た金でも生きていけるさ」

 

完全無欠。その言葉が今の一誠や元【アテネ・ファミリア】の状態。

 

「それに近々、地上は賑やかになる」

 

「・・・・・どういうこと?」

 

「秘密だ」

 

不敵に笑む一誠は立ち上がって戻ってきたレフィーヤに対して何かが詰まった瓶を放り投げる。反射的に受け取って、中身を見た途端に紺碧色の双眸を輝かせた。

 

「こ、これっ!?」

 

中身は飴菓子にも似た涙滴状の果実だった。18階層でも滅多に採取できない、いわば稀少原料(レアアイテム)ならぬ稀少果物(レアフルーツ)水晶飴(クリスタル・ドロップ)だ。硬質な水晶の飴玉を彷彿させる水晶飴(クリスタル・ドロップ)は美味だけでなく稀少性も高い。その宝石のような美しさから上流階級の高級菓子として非常に人気であり、地上では瓶詰にされた水晶飴(クリスタル・ドロップ)が万を超える価格で取引されているほどだ。一誠が入手した稀少果物(レアフルーツ)は瓶が満タンになっているほどの数。

 

「やるよ」

 

「え、でも」

 

「他にもあるからな」

 

何時の間にか両の手の中に同等の数が瓶に詰まった水晶飴(クリスタル・ドロップ)を持っていた一誠に流石のアイズ達も目を丸くする。

 

「それ、ここ(18階層)で採ったものなの・・・・・?」

 

短時間で集められるものではないとティオネは思いつつ尋ねると信じ難い事実を告げられる。

 

「意外と見つかったぞ。場所は秘密だけと密集している箇所が複数あった」

 

「そ、そうなんですかっ!?」

 

それが本当ならばこれだけの数を揃えられたのも頷き一誠の行動力は凄まじいと改めて思い知らされる。

 

「これで新しいデザートが作れたらいいな。形状からして・・・・・無難なのがゼリーか?」

 

頭の中で試行錯誤を始め出す一誠の口からぶつぶつと呟きが止まらなくなった。

 

「・・・・・数が足りない。もう少し集めてくるか」

 

え?と呆けるアイズ達を残して一誠は春姫達を連れて森の奥へと消えてしまった。

 

そして小一時間が経過した頃―――。

 

水晶飴(クリスタル・ドロップ)のゼリー完成っと」

 

「「「「おおーっ」」」」

 

水晶の色をした、揺らすとプルプルと震える弾力のあるデザートに様変わりした稀少果物(レアフルーツ)。試作品ということでドーム状に作られたゼリーは置かれたテーブル、椅子に座っているレフィーヤの前に置かれた。

 

「味見役としてよろしく」

 

「わ、私なんかでいいんですか?」

 

「ティオネとティオナじゃ、俺が欲しい言葉を言ってくれなさそうだし、アイズの感想はあまり期待できない。消去法としてエルフのレフィーヤから感想を聞きたい」

 

あまりの言い様だが、ぐうの音も出せない三人である。言われた三人に対して申し訳ないと思いつつも目の前に出された高級の果物で作られたデザートに唾を飲むレフィーヤ。甘いものに目がない少女らしく口内に唾液を溜め、早く食べたいと言う思いが増す一方だった。

 

「で、ではっ」

 

実食します。と木製のスプーンを持ってゼリーの表面に軽く押し付ける。すると、抵抗が全くなく、するりと裂けて一口サイズのゼリーの欠片を掬うことができた。柔らかい、とこれから始めて食す生まれ変わった稀少果物(レアフルーツ)に緊張と期待感を胸中に渦巻かせて小さく可愛い口を開けてゆっくり入れてレフィーヤはゆっくりと味を堪能し始める。

 

「―――っ!!!!!」

 

味は完璧だった。水晶飴(クリスタル・ドロップ)の味を殺さず、そのままにしてゼリーへと変えた。そのまま胃の中に送り込めてしまう思いを抱くが、それは勿体ないと堪能しつつ咀嚼する。舌全体に広がるひんやりとした冷たさと上品な甘さ、他に余計な素材を入れていないのは水晶飴(クリスタル・ドロップ)を主にしたゼリーだからだろう。それ以上の工夫を、手も加えなくてもこれだけ十分店に出せるデザートだとレフィーヤは確信した。

 

「味は?」

 

「・・・・・」

 

欠けた水晶色のゼリーを前にしているレフィーヤに感想を求める一誠。一度スプーンを置いて紺碧色の瞳をこの至高のデザートを作った少年に真っ直ぐ見据え口を開いた。

 

「とっても、美味しいです。水晶飴(クリスタル・ドロップ)だけで作ったゼリーに他の甘い食材を入れなくても大丈夫です。寧ろ入れてしまったらこの味を殺してしまうかもしれません。ただ、絶対にこれは美味しいのですが、これだけでは何時か飽きてしまいます。これを主役に周囲にも他の味も楽しめるデザートがあれば―――」

 

出てくる出てくるレフィーヤの感想。ティオネは聞き流し、ティオナは既に聞いていなく、アイズは頑張って聞いたが忘れた。

 

「―――と、私の感想です」

 

「んー、分かった。また食べさせるからその時感想を言ってくれ」

 

レフィーヤの感想をメモに残していた一誠が満足気に頷いた。評価は上々で味のバリエーションも増やした方がいいと言うエルフの少女の感想に課題が増えたと一誠は思いを抱く。

 

「はいはい!あたしも食べたーい!」

 

「用意できるかしら?」

 

「食べてみたい」

 

ティオナ、ティオネ、アイズを順々に手を挙げて食べたいと自分の気持ちを一誠にぶつける。様子を見守っていた春姫達も食べたいと懇願されたところで。

 

「何をやっている?」

 

「リヴェリア!団長とガレスもどうしたのー?」

 

「賑やかだったからね。顔を出して見たんだ」

 

「む、それは菓子か?」

 

小人族(パルゥム)王族(ハイエルフ)、ドワーフの【ロキ・ファミリア】の古参達が集まってきた。レフィーヤの前に置かれているゼリーを見て三人は納得した。

 

「リヴェリア、このデザートは美味しいぞ。レフィーヤが太鼓判を打ってくれた」

 

「ほう、そうなのか。・・・・・レフィーヤ。私も一口くれるか?」

 

「は、はいっ」

 

断る理由もないと、尊敬する王族(ハイエルフ)に横から新しいスプーンを出され、手にしたリヴェリアは水晶飴(クリスタル・ドロップ)のゼリーを一口サイズに掬って口の中に含まれ、突然の静寂が包まれること少しして。

 

「・・・・・。っ・・・・・この味、水晶飴(クリスタル・ドロップ)か?」

 

翡翠の瞳を見開いて己がの舌が感じた味を疑わず口に出した王族(ハイエルフ)に肩を竦め感嘆する一誠。

 

「初見のデザートの原料元を見破られるなんてな。お見逸れするよ」

 

「ふふふっ。実はリヴェリアの好物の一つなんだよ」

 

笑みを浮かべるフィンがリヴェリアの好物であると説明すれば、直ぐに看破したことに納得したと頷く一誠にリヴェリアが翡翠の双眸を向けて問うた。

 

稀少果物(レアフルーツ)のはずだが、よくこの大きさのゼリーにするほどの数を集めれたな」

 

「まあな。暇だったからその辺を探索した結果だ。椿も『大樹の迷宮』に行くほどだったし、俺も何かしたいから独自に動いているんだ」

 

「そうか・・・・・。イッセー、私に一つ作ってくれないか?」

 

「増えた・・・・・まあいい。十個分ほど瓶詰にしたから作れないわけじゃないし、ちょっと待っててくれ」

 

小さな形であるが為、予想以上使用する食材故に一誠は大量に採取してきた。再びゼリーを作る為に炊事場へと移動する。

 

「・・・・・彼、お金を稼ぐ天才じゃないかな。万を軽く超える瓶詰めされたのを十個って」

 

「実際、一人で短期間で億という額を稼いでおるからのー」

 

「・・・・・楽しみだ」

 

しばらくして、フィンとガレスの分まで用意した一誠が作ったゼリーはとても美味であると太鼓判を打たれた。

 

―――○●○―――

 

「お、美味しいですっ」

 

双眸を輝かせ、水晶飴(クリスタル・ドロップ)のゼリーを食べた感想を述べるアミッド。18階層に『夜』が訪れた時刻。階層天井の一面を覆う水晶群は中心に太陽を彷彿させる白、その周囲に空を彷彿させる青のクリスタルが生え、発光することであたかも地上の空のような景観を広げる。そして時間が経過することで光は消えていき、階層は暗闇に包まれるのだ。一誠がダンジョンや地上で集めた食糧で見張りを残しながら【ロキ・ファミリア】は携行用の魔石灯を囲み全員で食事を取った。振るわれるのは地上の料理のフルコース、後は椿が『大樹の迷宮』へ赴いて採ってきた巨大キノコの丸焼きだった。客人であることをいいことに彼女は日中勝手に動き回り―――同僚である鍛冶師(スミス)の漢語も任せきりにし―――挙句仕留めたモンスターの戦利品を持って(リヴィラ)で酒と物々交換してきたのだ。同盟派閥といえど目に余る行為だが、『遠征』も既に終わっているようなものなので首領(フィン)達は苦笑して見逃すことにした。無論、規律を守るため自派閥の者には決して許さなかったが。

 

「『毒』に侵された冒険者達はどうだった?」

 

「完全に『毒』が無くなっておりましたし、明日にもなれば回復している頃でしょう。念の為に特効薬を飲ませて様子を見た方がいいと思います」

 

治療師(ヒーラー)の彼女から出た言葉に一先ず安心する。

 

「ですが、どうやって毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の『毒』を解毒したのですか?あれはあのモンスターから得られる体液(ドロップアイテム)の原料でにした特効薬でしか完治できない厄介な劇毒です」

 

「そうだったんだ。それを知ってたら、集めてたのになぁ」

 

一誠は種明かしをした。

 

「毒を直接取り除いたんだ。それと浄化で毒を消した。俺はそういう力を有しててな」

 

「・・・・・」

 

アミッドは円らな瞳を少年に目に向ける。異世界から来たという一誠を知っているためか、天使の姿にもなれる一誠に無条件で納得してしまう。

 

「イッセー、貴方の主神のお話は耳にしてます。これからどうするつもりですか?」

 

申し訳ないと思いつつも訊ねてしまう。精緻な人形のような顔に不安の色を浮かべているアミッドの表情と心情を察して、安心させる笑みを浮かべながら告げた。

 

「取り敢えず、生きる。それから天界に直接乗り込んでアテネを向かいに行く」

 

「えっ?」

 

天界に直接行く―――。それは一誠が死んで天界に行くという意味であろうか?

 

「言っておくが、俺は死んでまで天界に行く気は無いぞアミッド。生きたまま天界に行くんだ。その為の方法は未だ考え中だけど」

 

「可能、があるのですか?」

 

「ああ、少なからずある方だ。問題は成功するかどうかなんだよ」

 

顎に手をやって考える仕草をする一誠。

 

「分かっているのは神の力(アルカナム)を発動した神に呼応して天界に繋がる(ロード)、もしくは(ゲート)みたいなものが開いて神を送還することだ。だったらその神の力(アルカナム)を利用すれば行けるんじゃないかって考えているんだが・・・・・」

 

「―――――」

 

敬うべきの神を利用する。そんな冒険者が目の前にいる事実に驚倒してしまうアミッド。

 

「神から力を奪うだけなら可能だけど、それで天界に行けるのか試してみないとわからないんだよ」

 

「本当に、そうするつもりなのですか?」

 

「まだ、決めかねているがな。神が天界に送還されなきゃ良い話しだと思うが、あまり褒められたことじゃないことも重々承知している」

 

自覚し、罪悪感を抱いて天界に行くつもりの一誠に心のどこか安心した。根っから悪い人ではないことを知っているが、心配と不安でしょうがない。

 

「そんなことしようとする俺を、幻滅するか?」

 

急にそんな事を問われてしまい、直ぐには答えられなかった。だが、己の本心をぶつけた。

 

「できれば、そんな事をしないでほしいと思う私がいます。ですが、私は貴方を止める力も術もありません」

 

できないからこそ、一誠の手の甲に己の手を乗せて応援するしかできない。

 

「ですが・・・本心から、本気で主神を迎えに行きたいと思っているならば、イッセーは前に進んでいくべきだと思います。周りの制止の言葉に耳を傾けず悔い残らないように」

 

アミッド・テアサナーレの気持ち。一誠の心に直接響かせ、銀髪へ徐に手を置きだした。

 

「・・・・・ありがとう。そう言ってくれたのはアミッドが初めてだ」

 

右眼に眼帯を付けているものの、心底から笑う一誠の顔はとても綺麗だったと、後に日記の残すアミッドの感想だった。

 

「―――そ、そうです。イッセー。貴方がくれた角、あの角は凄いです」

 

酒を飲んでいるわけでもなく顔を真っ赤にして、己の今の気持ちを悟らせまいと誤魔化す為に小鞄(ポーチ)から瓶に詰まった赤く小さな玉を見せ付けた。

 

「これ一粒で三日三晩、寝ずに動けるという効果が出ました。一時的にですが全アビリティの能力値が数段も激上することも分かりましたし、反動は大きいですが体力も回復するという結果に主神(ディアンケヒト)様も新たな商品に大変の喜びです」

 

ミアハとナァーザに悪いことした、胸中申し訳ないと罪悪感を抱く一誠に露知らず、アミッドは説明をしていた。

 

その後、夕餉は終わり。天幕の中にいる負傷者以外の者達は外で雑魚寝することになった。幹部のフィン達は当然のように天幕の中で寝る―――。

 

「・・・・・なぜこうなった」

 

金色の十二枚が絨毯を彷彿させるほど広大になった翼の上に、春姫達を寝かせたのが全ての始まり。椿がやってきて、もう少し話がしたいとアミッドがやってきて、また翼の上で寝たいとアイズ達四人が現れ最後にリヴェリアが自然に参加してきたのであった。以下の者達は翼から発する光と温もりに包まれ完全に爆睡する。

 

 

そして、『朝』。

 

 

階層天井に光が戻り、早朝の森を思わせる明るさが野営地に広がる中、

 

「・・・・・起きれない」

 

多くの少女や女性に翼の上に寝転がれて起き上がれない状態の一誠が目を覚ました。しかし、翼をともなく消失させ、腕や脚に抱きついたり頭を乗せている者達の意識が戻らさないように外したり離したりとして自由の身となった一誠は散歩に出かける。せっかく起きてしまったので気ままに歩きたい気分だった。あるいはしばらくしていない、剣の素振りをするのもいいかもしれない。草地を踏む靴から音を鳴らしながらそう考えていた―――直後。

 

『――――――――――――――――――――――――ォォォォォォォ』

 

「?」

 

地鳴りのごとき巨人の咆哮が鳴り渡った。次いで、どおおおおんっ、という強い震動が届く。一誠は何が起きたのかすぐに察した。この18階層の直上、連絡路も繋がっている17階層最奥の大広間で『ゴライアス』が暴れたのだと。

 

「・・・・・しょーもないな」

 

翼を生やして一瞬で空を飛び、目的の場所へ飛翔した。光の軌跡を残すほどの速度であっという間に直上の17階層へ移動できる連絡路の大穴の前に辿り着く。そして、

 

「―――――」

 

草の絨毯の上に倒れ伏す、冒険者達を見た。洞窟前に開けた青い草地。ヒューマンの男性二人に、小人族(パルゥム)の少女。三名のパーティ。全員ボロボロだ。小人族(パルゥム)の少女の顔はすり傷と誇りにまみれ、完全に気を失っている。同じく意識を失っている赤髪の青年は骨が砕けていると思われる左足が酷い。まるで決死行を繰り広げ、この階層に逃げ込んできたかのようだった。そして、残る一人の冒険者は。砂埃に汚れた白い髪。傷付いた軽装に、一部が破けているインナー型の火精霊の護布(サラマンダー・ウール)。うつ伏せに倒れ、ぴくりとも体は動かない。額から夥しい出血をし、横に向いたその顔を紅く染めている。

 

「・・・・・へぇ、久しく会っていないのに。中々どうして・・・・・」

 

早い、速い成長だ。と口の端を愉快気に吊り上げ、白髪のヒューマンの少年に近づいた、次の瞬間。少年の手が動いた。

 

がしっ、と。

 

体を一瞬だけ停止した一誠の左足を掴む。震える指先をズボンに食い込ませながら、その血だらけの形相で、無言で視線を落とす一誠の顔を見上げる。

 

「仲間を、家族を、助けてください・・・・・!」

 

絞り出されたのは懇願だった。こちらのことがわかっていないのか、深紅(ルベライト)の瞳を朦朧とさせながら、二人の仲間だけはとそれだけを告げる。そして今度こそ力つきたように、ズボンを掴んでいた手が剥がれ落ち、少年は意識を手放した。一拍して一誠は膝を折り、血に濡れた前髪と額を触れる。

 

「・・・・・家族、か・・・・・」

 

一誠の唇から落ちた声に、閉ざされた少年の瞼は動かない。

 

「・・・・・早く、お前を会いたいが為に迎えに行くぞアテネ」

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