オラリオで自由気ままに過ごすのはダメだろうか(一時完結)   作:ダーク・シリウス

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冒険譚32

それから半日という時が過ぎた頃―――。

 

【ロキ・ファミリア】の野営地に創造された一軒の家。がちゃり、と扉が開く。開いた扉の先の室内の中は並べられた三つのふかふかのベッドに眠る二人のヒューマンの男性と小人族(パルゥム)の少女が規則正しい寝息をして未だ起きる気配は無い。また時間を改めて様子を見に来ようと扉を閉め掛けた矢先、

 

「リリ、ヴェルフ!?」

 

と聞き慣れた兎の慌てた声が聞こえ振り返った。

 

「―――よう、起きたかベル坊」

 

「・・・・・イッセーさん?」

 

「お前も含め三人は無事だ」

 

動揺の色が兎深紅(ルベライト)の瞳に浮かぶ他所に一誠の胸中では「よかった」と安堵の心情だった。噂で聞いた世界最速兎(レコードホルダー)、【リトル・ルーキー】等々・・・・・。さらに弄り甲斐ができたなぁーと思っていた一誠を露知らず見慣れない部屋の空間を見回し、一誠に尋ねたベル。

 

「え、イッセーさん・・・・・ど、どうしてここに・・・・・?」

 

「ここは18階層だぞ。ここを目指して降りてきたんだろう?」

 

「18階層・・・・・」

 

思わずといった感じで呟くベル。だとすればもう安全であると思ったのか急に全身の力が抜け出したベルのパーティに加わったと思しき赤髪の青年に一誠は目を向ける。

 

「新しい仲間か?」

 

「あっ、はい。名前はヴェルフ・クロッゾって【ヘファイストス・ファミリア】の鍛冶師なんです」

 

「ヘファイストスの・・・・・それにクロッゾって確か、ラキア王国に属している鍛冶貴族の名前だったな。強力な『魔剣』を打てるって噂の」

 

「あの、その話はヴェルフの前では言わないでください。『魔剣』を打つことを嫌っているので」

 

記憶の糸口を探って口から漏らす一誠を、ベルは気まずそうに眉を下げて懇願した。

 

「ん?家名を嫌っているのか?」

 

「えっと・・・はい。そんな感じです」

 

言い辛そうに肯定の言葉を発すると、「そうか」とそれ以上追及しない一誠に安堵の息を漏らしベルは問う。

 

「あの、イッセーさん。女神様が天界に送還されたって・・・・・。なのに、どうしてダンジョンの中にいるんですか?」

 

「・・・・・ああ、しばらく会っていなかったから知らなかったか。俺は今、【ロキ・ファミリア】の『遠征』に付き合っているんだ」

 

「ロ、【ロキ・ファミリア】の『遠征』って・・・・・ま、まさかっ」

 

「この家から出れば直ぐに【ロキ・ファミリア】の野営地に出られる」

 

そう一誠はさらに告げる。

 

「お前らの世話は俺が一任させてもらっている。取り敢えず、起きたからには【ロキ・ファミリア】の団長と会ってもらうぞ」

 

「ええええええええええええっ!?」

 

最大派閥のトップと面談。それには仰天してしまう白兎。一誠に本営の天幕にいる小人族(パルゥム)の団長に王族(ハイエルフ)の副団長、老兵のドワーフに突き出され緊張の面持ちで自分達を助けてくれて感謝の言葉と念を送るのであった。

 

「それにしても驚いたな」

 

「んむ?なにがじゃフィン」

 

「彼がベル・クラネル達を任せてくれってことだよ。他派閥の冒険者にまで手を差し伸べる彼の隔てのない心広さに感服する」

 

天幕から出ていったベルと一誠を見送ってフィンは思ったことを口にした。迷惑は掛けないと懇願され、自派閥と同盟派閥の冒険者達の治療と食糧を確保してくれた手前、断る以前に一誠を感謝している為に承諾したフィン。しばしのベルとの会話で一誠も話に交じってはからかって楽しんでいる様子は瞼の裏に焼き付いている。

 

「それに、ベル・クラネルのパーティに【ヘファイストス・ファミリア】の者がいるらしい」

 

「なんと、それは本当か」

 

鍛冶師(スミス)が教えてくれたから間違いない。イッセーの願いを断って、彼等の保護すらしなかったらどちらも反惑を買ってしまう。特にイッセーはアイズ達のお気に入りだ」

 

チラリとリヴェリアに碧眼の瞳を一瞥させるとリヴェリアもフィンの視線に気づき、意味深な目で見られていることに「なんだ」と横目で睨んだ。だが、団長(フィン)は肩を竦める。

 

「リヴェリア達にまで敵に回したくないからね。団長としてそれは一番避けたい事態だ」

 

「がっはっはっはっ!言えておるわいっ!」

 

自分まで含められてしまい、笑われてしまい、己もイッセーのことを気にしている側であることを言われてしまったリヴェリアは溜息を吐く。そしてそれから数分後のこと。野営地から離れた場所では

 

「よし、ベル坊。武器を持ってこい―――お前の成長具合を見てやろうじゃないか」

 

と、そう言い隻眼の金色の目がキラリと煌めかすドラゴンに、兎は拒否することはできなかった。

片や漆黒のナイフを持つ兎、片や地面から出てきた大剣を手に襲いかかる生物界の王者―――ドラゴンの模擬戦が始まった。

 

「刃を潰してあるからお前に対する打撃しか与えられない。安心して気絶しろ」

 

「それでも当たれば痛いですよねぇっ!?というか、ハッキリと気絶しろって鬼ですね!?」

 

「痛くもない稽古があるなんて思い上がりもいいところだ」

 

絶えず散る夥しい火花、ベルの反応速度ギリギリの剣速で振るい続けられ、顔に動揺と緊張がありありと浮かんでいる。何度も吹っ飛ばされ、地面に転ばされ、土と誇りまみれになってでもベルは相手に死角を作らせない、相手の隙を見つけ突こうと、自分なりの『技』と『駆け引き』で一誠に無様な姿を晒してでも飛び付き―――。

 

ズビシッ!

 

「ぎっ!?」

 

「頭が留守だったぞ」

 

手刀が白髪に降ろされた。そして足で脚を掬われてしまい体勢が崩れ一瞬の宙を浮く感覚が全身で覚えたところで拳砲がベルの腹部に炸裂した。

 

「―――へぇ」

 

と、人体の体では感じられない己の拳に鈍い感触を覚えた。ベルの黒いナイフが腹部の前に構えられ、一誠の拳を完全に防いだのだった。咄嗟、反射的に、それとも本能的か。どちらにせよ一誠の拳を受けとめたのだ。

 

「良く防いだな」

 

「む、無我、夢中でしたっ」

 

ガクガクと震える両腕を支えにして拳から感じる圧力に踏ん張っているのが分かる。顔にも必死の表情で歪めている。それをどこか懐かしげに遠い目で見下ろした一誠。遠い昔、己もこんな時期があった・・・・・と。

 

「そうか。その感覚を忘れるなよ」

 

一度離れてベルの態勢が整うまで待てば、再び無遠慮で怒涛の斬撃が振るわれる。

 

「うわー!イッセーは手加減していると思うけどアルゴノゥト君、頑張ってるねー!」

 

「一瞬、イッセーの腕がブレて見えなかったけど、それに反応したし中々やるじゃない」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

模擬戦をしている二人を遠目から見守っているアイズ達。ティオナとティオネは興奮と感心でベルを称賛し、アイズはベルの急速の成長に感嘆と一誠に模擬戦をして貰っている羨ましさ&嫉妬の眼差しを向け、レフィーヤは興味津々でベルを見ていることからむすっとした。慕っている姉達を奪われた妹のように。

 

「よーし、ベル坊。もう少しきつくするぞ」

 

「へっ?」

 

金色の翼が四対も背中から生え出し、ベルに伸びて迫りかかる。黒いナイフだけでは処理し切れないと、一誠から貰ったトンファーブレードで対処することに腰に佩いていたその武器と瞬時で切り替え防御に徹する。「「おおーっ!」」とアマゾネス姉妹から感嘆の声が聞こえるが、レフィーヤのように何時しかアイズもムスッとした。お気に入りの人形を独占されている子供のように。

 

「衝龍剣っ!」

 

「ほわぁあああああああああああああああああああああっ!?」

 

下から真上に剣を振り突き上げれば、突風と衝撃波がベルを襲って上空に吹き飛ばした。地面に倒れ二人から醸し出す模擬戦の終了を感じて―――よし、次の私の番だと愛剣を構えたアイズ。

 

「ベル、今度は私」

 

「え、ア、アイズさんっ!?ちょ、ま―――ほわああああああああああああああああああああっ!」

 

独占した罰―――ではない。己も久々にベルの稽古をしてやろうと、ちょっとだけ本気で《デスペレート》を振ったのであった。

 

「あー、イッセーと一緒にいるとアルゴノゥト君とは会っちゃうんだねアイズって」

 

「というか、何時もよりアイズがやる気になってない?」

 

「む~~~っ!」

 

―――○●○―――

 

森が暗闇に包まれる中、

 

 

「―――彼等は仲間(おたがい)の為に身命をなげうち、この18階層まで辿り着いた勇気ある冒険者達だ。仲良くしろとまで言うつもりは無い。けれど同じ冒険者として、欠片でもいい、敬意をもって接してくれ。・・・・・それじゃ、仕切り直そう」

 

立ち上がったフィンの声が場に通る。営火(キャンプファイア)のごとく積み重ねられた魔石灯を、大きな輪となって囲む団員達は、一斉に配られた杯を掲げた。

 

『乾杯!』

 

宴が始まった。空間が開けた野営地の中心地。森の枝葉で塞がれた頭上奥では天井のクリスタルが沈黙し、階層全体に《夜》をもたらしている。昨夜に引き続き開かれた晩餐は、一誠が連れてきたベル達の姿もある。彼の仲間もどうやら歩けるまで回復したようで、鍛冶師(スミス)の青年と小人族(パルゥム)の少女もこの場に加わっていた。

 

「さて、俺達は俺達で話し合おうか。今後の為に」

 

一軒家の中で元【アテネ・ファミリア】の一誠達だけが集って食事をしながら消滅した【ファミリア】が辿る末路を考えようと春姫達を誘っての会談。

 

「俺は天界に行ってアテネを迎えに行って再び【アテネ・ファミリア】を復活させるつもりだ。俺の気持ちはこうだが、春姫、アイシャ、ウィルとレリィー、カルラ。お前達はこれからどうしたいのか何をしたいのか教えてくれ。怒りもしない、呆れもしない。皆の意志を尊重する」

 

声が何時もより真剣で、ふざけるつもりはないと雰囲気も醸し出す。五人の少女や女性達はアテネが天界に送還され、一誠がダンジョンにいる間の数日間。己と向き合って考えた決意を一誠にぶつけた。

 

「春姫は、春姫はイッセー様のお傍にいつまでもいとうございます」

 

「私も、レリィーと一緒に故郷を帰る選択もあったけれど」

 

「邪魔にならないように貴方の傍にいるわ」

 

「私の毛の一本から血の一滴を捧げるに相応しい主様から離れるなんて毛頭もございませんわ」

 

アイシャ以外、春姫達は他の【ファミリア】に改宗(コンバージョン)をせず、ともに在りたいと気持ちをぶつけた。ただ一人除いて、

 

「私は他の派閥に入るよ」

 

「・・・・・そうか。寂しいな」

 

「引き止めないのかい?」

 

「こんな時に限ってふざけたことを言う女じゃないってことぐらい分かっているよ。冒険者として生きたいならそうする他ない。それに・・・・・何か、決意している感じもするしな」

 

寂しげに、しかし、一誠は真っ直ぐアイシャにそう言う。

 

「・・・・・なんだい、引き止めてくれるかと楽しみにしていたんだがねぇ」

 

「言ったろ。尊重するって。よほどのことでもない限りは俺は引き止めはしない。これでも、離れて欲しくない気持ちがあるんだぜ?家族が離れて暮らすのってのは寂しいもんだからさ」

 

「寂しがり屋め」と、アイシャは声を出してカラカラと笑う。釣られ春姫達も笑みを浮かべる。

 

「安心しな。たまに顔を出すよ。そしたらアイシャおねーちゃんが可愛い寂しがり屋に甘えてやる」

 

「・・・・・思い出させるな」

 

羞恥で顔に朱を散ばせる一誠。それからすっと手を突き出した。

 

「取り敢えず、無用なことだろうが・・・・・【アテネ・ファミリア】が復活するまで死ぬなよ」

 

「直ぐに死ぬような弱い女じゃないよ私は。ああ・・・・・いつか必ず神アテネを連れ戻しなよ」

 

アイシャも応じて手を突き出して一誠の手を握り握手をする。と、二人の手の上にカルラが己の手を乗せた。

 

「元気で」

 

続いてウィル、レリィーの順で手を乗せた。

 

「離れても私達は家族」

 

「そうそう、そっちはそっちで頑張りなさい?」

 

最後に春姫が遅れ気味に手を乗せた。

 

「アイシャさん、どうかお気を付けて」

 

六人の手が積み重なれ、離れてでも絆は絶えないという想いを手に籠める一同。

 

「・・・・・全く、改宗(コンバージョン)しにくい雰囲気をしてくれる」

 

それでも、笑みを浮かべるアイシャは「ありがとう」と感謝の言葉を送る。【アテネ・ファミリア】の団員として過ごした時は短かったものの、【イシュタル・ファミリア】とは違う意味でとても有意義に過ごせた一時は良い思い出。

 

その時だった。

 

家の扉が勝手に開き、銀髪を揺らしながら精緻な人形のような顔と大きく円らな瞳の小さな女性が訪問してきた。

 

「あの、イッセー・・・・・」

 

「アミッド・・・・・?」

 

「どうした」と一誠達がアミッドに視線を向ける。一身に浴びる視線を受け止める治療師(ヒーラー)はこう告げる。

 

「17階層から誰かが来ました」

 

「「「「「「はい?」」」」」」

 

どうやら、招かれざる客人はまだ増えるようだ。 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

「粗茶ですがどうぞ」

 

「「す、すみません・・・・・」」

 

「・・・・・」

 

招かれざる客―――。ベル達の捜索と救出を目的とした一行、【ヘスティア・ファミリア】の主神と【ヘルメスファミリア】の主神とその団長、【タケミカヅチ・ファミリア】の団長と団員の二人。【ロキ・ファミリア】の団長達との話し合いは既に終わって、ベル達をこの家の中に泊めることになった。

 

「いやー、まさかイッセー君も【ロキ・ファミリア】の『遠征』に同行していたとは驚いたよ。しかも、ヘスティアとヘファイストスの眷族を保護してくれて助かった!」

 

優男の神が、にこにこと笑いながら歯切れよく言葉を連ねる。

 

「目的はもう達成したと思ってもいい方か?」

 

「そうだね。無事に見つけ出すことができたし、怪我も治っている。後は17階層にいる『ゴライアス』を倒してくれる【ロキ・ファミリア】についていくだけだよ」

 

「後学の為に、ベル達もゴライアスの討伐に参加させたらどうだ?」

 

何を言っているんですか!?と悲鳴染みた叫びが聞こえるが一誠は無視、完全無視して聞き流した。

 

「アテネの子供君。ベル君達を見つけてくれてありがとう」

 

ロリ巨乳神ことヘスティアが黒髪のツインテールを小鐘の髪飾りを揺らしながら頭を垂らす。気にするなと首を横に振る一誠も、

 

「俺じゃなくて勇者(ブレイバー)に言ってくれ。最終決断は【ロキ・ファミリア】の団長が決めることなんだからな」

 

「それでもボクは感謝しているんだぜ君に」ヘスティアは一誠の前にその場で土下座をした。「「「おおっ」」」と極東組の三人組が感嘆を漏らすほどの土下座っぷりだった。

 

「それでも、ベル君とサポーター君を助けてくて本当にありがとうっ」

 

「・・・・・たまたまだ。暇潰しにゴライアスを調教でもしようかと17階層に向かっていたら三人が倒れていたところを助けただけだ」

 

助けたことに関しては否定しない一誠の優しさにヘスティアは再び感謝の言葉を発して立ち上がった。女神から優男の男神に視線を変えて話しかける一誠は問いただす。

 

「ヘスティアがいるってことはベル坊を迎えに来たってことでいいんだな。でも、どうして【タケミカヅチ・ファミリア】も一緒にいるんだヘルメス?」

 

俺はともかくベルと接点ないだろう、と一誠の疑問が切っ掛けになったかのようにリリとヴェルフが【タケミカヅチ・ファミリア】に厳しい目で視線を送りだした。

 

「イッセー様。リリ達はこの方達に『怪物進呈(パス・パレード)』を受けたんです」

 

「おかげでこっちは何度も死にそうになったしな」

 

だから、あんな満身創痍の状態で18階層に降りて来たのか。ようやく合点して、一誠は呆気らかんと述べた。

 

「ま、取り敢えずお互い運良く生きながら得たからいいんじゃないか?」

 

水が打ったような静けさが一瞬だけ場に浸透していくのだが、苛烈の勢いでリリが一誠に食って掛かった。

 

「リリ達は死にそうになったんですよ!?それを軽くこの一件を終わらせようとしないでください」

 

「リリスケに同意見だ。俺達を助けてくれたことに関しては感謝するが、その言葉はどうかと思うぞ」

 

ヴェルフも納得できないとリリの考えに同感であると目で訴える。そんな二人に息を零して「じゃあ」と訊ねる。

 

「二人がパーティのリーダー格で、『怪物進呈(パス・パレード)』をしないといけないほど窮地に立たされていたら、お前らは生き残るためにどうやって数多のモンスターに対して対処する?」

 

「「・・・・・っ!?」」

 

「別にそれは良いことではないことは分かっているつもりだ。だけどここはダンジョンだぞ。予想不可能、異常事態(イレギュラー)な現象が起きるのはよくある。己の命を脅かすことが起きればやれることを全部やって、それでも駄目なら最後の手段、誰かに擦りつけてでも生き延びる必死さは冒険者の間じゃ共通の思い。誰も死ぬなんて嫌だし、大切な人を残して死ぬのはもっと嫌だ。弱者は弱者なりに明日を生きる為に強くなるだけじゃなく、工夫だってする。・・・・・って、話が長くなったな」

 

一息入れて、「要は」と言い続ける。

 

「冒険者は常に死と隣り合わせ。ダンジョンの中で綺麗事を並べても結局は我が身が可愛いんだ。今日を生きるために明日を生きるために。理不尽な目に遭わされて酷くお冠なのはしょうがないが、窮地に追い込んだお前らを迎えに来たってことは罪悪感があるからこその行動だ」

 

二人に真っ直ぐ隻眼の瞳を見据える。

 

「今回の一件で互いは危険な目に遭って、明日を生きられる為の糧を得た。違うか?」

 

ぐうの音も出ない。リリとヴェルフを非難しているわけではなく、昨日今日ダンジョンの中で起きた経験を次に活かせと告げているのである。

 

「【タケミカヅチ・ファミリア】も罪悪感を抱いて悪いと思っている。なら、それなりのお詫びをすればいいさ。一緒にダンジョンにもぐったり、ベル坊達の協力を全面的にするとかさ」

 

「イッセー殿・・・・・・」

 

「ベル坊、それでいいんじゃね?」

 

急に話を振られ、どぎまぎするベル。しかし、一誠のおかげで雰囲気は軽くなって場が丸く収まろうとしているのを感じ、「はい」と同意した。

 

「僕も、皆さんと同じ状況でしたら・・・・・きっと同じことをしていたと思います。大切な家族を、仲間を守るために」

 

「ベル様・・・・・」

 

「ベル・・・・・」

 

「だからね、二人とも、許してあげてなんて二人の気持ちを考えるとそこまで言えないけどさ。こうして皆無事で生きられたんだからそれで一先ず安心しよう?」

 

ベルの言葉が完全に場が丸く収まった。割り切るが納得しないと、リリとヴェルフの心情で一段落した。

 

「うん!話が拗れるようだったら俺が収めようと思ったけど、全部イッセー君が俺の代わりに場を収めてくれて凄いじゃないか!」

 

「・・・・・」

 

神からの称賛に気恥ずかしそうに頬を掻いて照れ隠しする一誠。

 

「んで、ヘルメス。このメンバーだけで探しに来たのか?」

 

「うんや、後もう一人・・・・・イッセー君が知っている酒場の子も誘ったんだけどね」

 

「・・・・・よし、一寸待っててくれ」

 

次の瞬間。転移式魔方陣でこの場からどこかへ転移して居なくなった一誠にぎょっと目を張る面々。その三分後、また魔法円(マジックサークル)が発現したと思えば、一誠とフードの付いたケープを身に纏っている澄んだ空色の瞳の女性と一緒に再び一行の前に戻ってきた。

 

「・・・・・よく、短時間で見つけれたね」

 

「大切な彼女の一人を見つけられないようじゃ情けないだろう?」

 

バツ悪そうにこれから言う言葉はきっと一誠達を悲しませてしまうと思いながらもヘスティアは告げた。

 

「アテネが残念だったね。せっかく下界に降りたって言うのにあっという間に天界に戻って・・・・・」

 

若干、暗い雰囲気となる。しかし、一誠は落ち込んでいなかった。

 

「天界に迎えに行くまでだ。永遠の別れでもないしな」

 

「「はっ?」」

 

二柱の神が間抜けな言葉を発してしまう。ヘスティアは一誠が言った発言に理解するにつれ顔を青ざめて狼狽する。

 

「ま、まさか・・・・・死ぬのかい?だ、駄目だよ!?それはアテネが望んでないよ!」

 

「・・・・・今の俺の言葉に死ぬ要素を入っていたか?」

 

「いやー・・・・・イッセー君?天界って神や子供達が死んでなきゃ行けないんだよ?」

 

ヘルメスもヘスティアと同じ気持ちのようで同感と天界には行けれないと告げる。それでも一誠は言い続ける。

 

「可能性はあるんだ。ヒントもある。俺にとってはそれだけで十分、希望を持てるんでね」

 

前向きな発想と発言、ヘスティアとヘルメスは唖然とする。

 

「生きたまま、天界に行くなんて無理があるよ・・・・・」

 

「一応、イッセー君のことを知っている俺としても流石に不可能だと思うぜ」

 

「―――生憎、俺は不可能を可能にする力、能力を有している。できないことを口にする方じゃないんだよ俺は」

 

根拠があるわけでも、どこからそんな自信があるのか、元【アテネ・ファミリア】とアミッド以外、この場にいる面々の心情に呆れと何とも言えない気持ちを抱く。

 

「まあ、これはこっちの問題だからヘルメス達には関係ない。―――ヘルメス」

 

「うん?」

 

「アレ、二日後で開園する予定だったよな。予定通り、やんぞ」

 

【アテネ・ファミリア】と【ヘルメス・ファミリア】しか知り得ない言葉にベル達は首をかしげる一方、ヘルメスは口許を緩ます。

 

「アテネがいなくてもやるんだね?」

 

「俺とアテネは【ファミリア】の存続よりも、お互いが目的していることを達成する為に結託したようなもんだ。アテネはアテネで、俺は俺だ。彼女(アテネ)がいなくても俺は自分の目的を果たす」

 

「イッセー君の目的って・・・・・なんだい?」

 

「それを教える必要あるか?まあ、ヘルメス達や、アイズ達にも教えていないことは他にもあるし?」

 

まだ、一誠は秘密を隠している。一誠のことをあまり知らない面々からすれば疑問が湧くばかりだ。

 

「イッセー様、イッセー様の秘密ってなんですか?」

 

「簡単に言えば、ギルドに知られるとかなり面倒になる」

 

「え、どんな・・・・・?」

 

思わず聞いてしまったベル。とても一誠に問題を抱えているようにも思えないが、本人がそう言うのだからとても危ない橋を何時も渡っているのだと思ってしまう。

 

「んー、絶対にドン引きするし、俺を見る目が変わることは絶対だな。だから言わん。というか、これ以上俺の秘密を教えられん」

 

「リリ達のことを、信用なさられないのですか?」

 

心外です、と不満そうな面持で一誠を見つめるリリ。

 

「付き合いは短くないと自負します。ベル様と一緒に冒険したりして色々とお世話にもなっています。どんな秘密を抱えているイッセー様をベル様とリリはイッセー様のことを嫌ったり、怖がったりしません」

 

リリの言葉に耳を傾け、ベルにも視線を送ると真っ直ぐ深紅(ルベライト)を向けてくる兎と目が合う。

 

「イッセー君、味方は多い方がいいと俺は思うぜ?」

 

秘密を明かしちゃえよ、と言外するヘルメス。ここはフォローする方じゃないのかとアスフィにも視線を送ると首を横に振られた。

 

「否定される前提を覚悟して言っちゃった方がいいかと」

 

ジーザス、お前もかっ!この場に味方がいないことに「せっかくできた友達が減りそうだなぁ・・・・・」と落胆する。それから、まあ、別に問題は無いけど、と溜息交じりに呟く一誠が・・・・・真紅のオーラに包まれ始める。オーラの中で人型の骨格が嫌な音を立たせて変わり、全身が完全に人ではなくなり、身体は真紅の鱗に覆われ、頭部に鋭利な一本の角、凶悪な牙を覗かせる口、全てを引き裂きそうな爪、大きな二対の翼、野太い尾を生やす―――ドラゴン、モンスターへと変貌した。真紅のオーラが消失したと同時に己の全容を晒す。

 

『これがもう一つの俺の姿だ』

 

ヘスティア、ベル、リリ、ヴェルフ、【タケミカヅチ・ファミリア】の三人の団員達に向かって発する龍化した一誠。

 

『・・・・・っ!?』

 

断言したリリですら、目を大きく見開いて固まってしまうほど一誠の変わり様。

 

『・・・・・やっぱり、ドン引きしてるじゃん』

 

「イ、イッセーさん・・・・・なんですか?」

 

『目の前の光景を目の当たりにして、目を疑うかベル坊?』

 

顔をズイっと近づければ、ベルは思わずといった感じで一歩二歩と後ずさりする。眼前にいるのは紛れもなくモンスター。一誠という人型のヒューマンではない。

 

『リリ?』

 

「・・・・・っ」

 

凶暴そうな顔を向けられリリは顔を酷く強張らせ、必死に何かに堪えている様子を窺わせる。

 

「・・・・・ヘルメス」

 

「なんだいヘスティア」

 

「流石のボクも、これは驚いたよ・・・・・」

 

真紅のドラゴンに蒼い瞳を丸くしたままヘルメスに己の心情を明かした。人からモンスターに変化した光景を神は見るまで信じやしないだろう。

 

「その気持ちは凄く分かるぜ?俺もアスフィも最初はそうだったんだからな」

 

微笑みながら同感と答えるヘルメス。ヘスティアも目を見張って落ち込み始める一誠を凝視する。

 

「アテネは当然知ってるよ。勿論、イッセーの仲間達もね」

 

「そ、そうなんだ。ボク達神を襲わないんだね・・・・・?」

 

「ハッハッハッ。おかしなことを言うね。襲っているなら、もうとっくの昔に俺達は襲われてるよ?彼は危害を加えなければ無害に等しいモンスターだ」

 

一誠に近づき、容易くポンポンと触れるヘルメスをヘスティア達は更に驚く。

 

「イッセ~!」

 

危うい雰囲気を知らない来訪者が現れる。

 

「あっ、イッセーがドラゴンになってる!?しかも何時もより小さい!」

 

「あら、本当ね。小さいと何だか可愛くなるものなのね」

 

「お邪魔、します」

 

「な、なんでモンスターの姿に?」

 

「・・・・・正体を明かしたのか?」

 

「おおっ!このドラゴンがイッセーなのか。いやはや、手前は心底驚いたぞ!」

 

「どうしてその姿に・・・・・?」

 

【ロキ・ファミリア】幹部の女性陣、【ヘファイストス・ファミリア】の団長の椿、【ディアンケヒト・ファミリア】のアミッド達がぞろぞろと家の中に上がり込んでは一誠の変わり果てた姿に気にせず囲んでは触れ始めたり乗っかり始める。

 

「ア、アイズさんっ?その、大丈夫なんですか・・・・・?」

 

「・・・・・?うん、イッセーだから平気だよ」

 

ドラゴンの顔を撫でるアイズに動揺するベル。完全に慣れている、というか、イッセーだからってモンスターじゃ・・・・・。そう思わずにはいられず、ベルは「イッセーさんってモンスターだったのですか?」と問えば、

 

「そうだよ?」

 

『そうだな』

 

一誠も同意して二人揃って肯定したところで椿が鎌首に跨って眼下を見下ろしているのを同派閥のヴェルフが口を開く。

 

「おい・・・・・よく乗っかってられるな」

 

「なんじゃヴェル吉。ふっふっふっ、怖いのか?」

 

「怖い以前にモンスターだろうがそいつはよ」

 

「モンスターの前に手前の知っているイッセーだ。主神様も知っておるぞ?お前は当然知らんだろうがな」

 

「んなっ!?」

 

「しかも聞いて驚けヴェル吉。なんとイッセーは鍛冶のアビリティ無しで主神様も認める作品を打つことができるのだ!」

 

それがトドメとばかり、ヴェルフの背後に本人しか分からない稲光が落ちたような現象が起きたのだった。

 

「う、嘘だ!?」

 

「本当だ。手前も認めておるぞ?イッセーが【ヘファイストス・ファミリア】に入ってくれればすぐに手前の下で更なる鍛冶の腕を向上させるつもりだ」

 

『どこにも改宗(コンバージョン)しないからな』

 

左眼を首の跨っている椿に向け、何時ものように断わる一誠を不満げでLv.5の叩きを真紅の頭部の鱗にする。

 

「そう言うではない。いいじゃないか、減るものではないし」

 

『断る。というか、地味に痛いから叩くな』

 

一誠の首辺りから新たに二つの鎌首、ドラゴンの頭部が生えて椿の肩に噛みついて床に降ろしたところで「首が増えたー!?面白いー!」と嬉々としてティオナが鎌首に飛び付きぶら下がる。

 

「降ろすな!」

 

降ろした椿がまたしても軽やかに一誠の首の跨る。もう、ドラゴンの顔は億劫そうな面持ちとなった。

 

「うーん。まさか、ヘファイストスまで彼がモンスターだと知っているなんてね」

 

「い、何時の間に」

 

『取り敢えず、俺の秘密は様々で、知っている神と団員達は殆どこの場に集まっている。ヘスティア』

 

「は、はいっ!?」

 

ドラゴンの顔で近づけられ、ボク食べられちゃうー!?と危機感を覚えるロリ巨乳神に警告する。

 

『俺のこと誰かに少しでもバラしたら・・・・・天界に送還するからな。それとも喰ってみるのもありか?』

 

「言わない!絶対に言わないよ君のことを!?」

 

首が取れんばかりに振って肯定するヘスティアから、【タケミカヅチ・ファミリア】にも首を伸ばし顔を近づける。

 

『お前らもだ。主神は問題ないが他言は無用。いいな』

 

「「「・・・・・」」」

 

コクコクと頷く少女二人と無言で一誠の警告を受け入れる大男。分かってくれて何よりだと一誠は途端に全身を発光させ、見る見るうちに何時も見慣れた人型の一誠へとヘスティアの前で元に戻った。

 

「も、戻った・・・・・」

 

「できるんだから当然だろう?ま、こんなこともできるが」

 

一部龍化、肌に真紅の鱗、頭部に鋭利な角、腰辺りに尻尾と背中に二対の翼を見せびらかす。

 

「・・・・・君って何者なんだい?ダンジョンから産まれたモンスター?」

 

「それについてはノーコメント。―――椿、言うなよ。言ったら許さないからな」

 

「むぅ・・・・・」

 

明らかにつまらなさそうな椿には何かを教えている様子だが、これ以上秘密を教えてはならないと釘を刺す一誠だった。

 

「えー?教えてよイッセー」

 

自分達が知らない他の一誠の秘密。それを知りたいと懇願するティオナに一刀両断。

 

「ダメだ。俺は自慢したいが為に教えるわけじゃないんだ。何度も同じことを説明するのだって面倒なんだぞ。今の立ち位置と状況でいいだろう」

 

「同じ秘密を共有、もしくは他の秘密を有しているならば、共有しても構わないだろう?」

 

リヴェリアの指摘に何人かがその通りだと首を縦に振る。その言葉と周囲の反応に溜息を零す。

 

「知ってどうするよ。大して関係は変わるわけじゃないだろう」

 

「お前のことをもっと知れるではないか」

 

「・・・・・ほほう?そう言うか」

 

左眼がキラーンと怪しく輝かし出す一誠。

 

「なら、お前達が抱えている秘密を教えてもらおうじゃないか。俺だけ秘密の一部を教えているんだ。それぐらいはいいだろう包み隠さず全部、な」

 

「・・・・・」

 

―――失言した。リヴェリアはそう思った。まさか、一誠がそう言うとは思いもせず、深入り過ぎたと猛省する。一誠の矛先は金髪金目の少女に突き付けられる。

 

「特にアイズとかな。アイズ、俺だけじゃなく他の皆に何か隠しているだろう。―――『アリア』のことでな」

 

「・・・・・」

 

秘密を言えと視線で訴えられてしまうアイズは、金目を下に向け、言い辛そうに俯いた。ティオナとティオネ、レフィーヤも一誠の気持ちに同感なのか、視線を彼女に向けるようになる。ヘルメス達もアイズに秘密があるのかと奇異な視線を向け―――。

 

「すまない。私が悪かった」

 

アイズを庇うように腕を広げ、リヴェリアが一誠に対して謝罪の言葉を発する。

 

「確かに・・・・・無理強いに抱えているものを話をさせる道理はない。少し、ふざけ過ぎた」

 

だから、少女(アイズ)から無理強いに聞き出そうとしないでくれ。

 

深く頭を下げる静かなリヴェリアの懇願。そんな王族(ハイエルフ)に言わせるほどまで、アイズが抱えている秘密は奥深いのか。小さな吐息が漏れるのを聞こえる。

 

「分かったよ・・・・・。頭まで下げられちゃあ、これ以上聞くのも野暮ってやつだ」

 

頭を掻き、追求を止めた一誠。身を引いてくれた一誠を心なしか、アイズは申し訳なさそうにしていて、リヴェリアも安堵の表情を浮かべる。

 

「だけどだ。いつか打ち明けてくれよ。心に余裕ができたらでいいから」

 

「そうそう!イッセーの言う通り、あたしも待ってるからね!」

 

一誠の背後から抱き付いて、天真爛漫に笑ってその時を待つと言うティオナ。ティオネとレフィーヤもうんうんと首を縦に振って同意見だと意志表示する。

 

「うん・・・・・それとごめん」

 

「私からも、感謝する」

 

感謝と謝罪。二人から告げられ、場は和やかになる。

 

「それはそうと、ヘスティアの質問に答えれば。俺はダンジョンから産まれたモンスターじゃないからな。それだけは認知して欲しい」

 

「・・・・・完璧な子供の姿でいる君がとてもモンスターとは思えないよ」

 

「俺は他の奴らと根本的に違うんだ。当たり前だ」

 

「ボク達神や下界の子供達に襲ったりしないよね?」

 

恐る恐ると訊ねるヘスティア。だが、一誠は身体から禍々しいオーラを滲みだし始めた。

 

「・・・・・ククッ。さて、それはどーかな?アテネを天界に送還、家族を二度も襲った【ファミリア】を滅ぼさないと気が済まないからそれは無理だな」

 

ドラゴンの逆鱗に触れた謎の輩達の末路は―――死。それしか未来が見えないヘスティアは顔を真っ青に染め、一誠を止める力も術がない自分ではどうしようもなかった。実際、左眼からありありと憎悪の炎が燃え盛っているのが窺えている。アイズ達ですら緊張が走っている。

 

「止めるなよ?これは俺達の問題だからな」

 

「・・・・・君を止められる冒険者が今、この場にはいないよ」

 

冷や汗を流しつつ、止めるつもりは毛頭もないと中立の立場で貫こうと考えるヘルメス。

 

「だけど、やりすぎないでくれ。それだけはお願いだ。君の立場が最悪になってしまうからさ」

 

「・・・・・ああ、善処するよ」

 

間を置かれて返事をする一誠にはとても不安しかなかった。

 

「で・・・・・アイズ達はまた何でここに来た?自分の天幕で寝る予定だったろう」

 

問われたアイズ達は思い出し、「あっ」とティオナが声を短く発すると一誠の腕に抱き付いた。

 

「すっかり忘れてた。―――イッセー、またあの銭湯でお風呂に入りたいから送ってよ!」

 

「って、言い出して聞かないもんだから。まあ、私も入りたい気持ちはあったから・・・・・ね?」

 

アマゾネス姉妹の気持ちを理解し、この場にいるヘスティア一行を見渡し、頷いた。

 

「分かった。もう閉店している時間帯だが、ここまで来たヘスティア達は飯も食ってないだろうし、特別にタダで入浴させてやるよ」

 

―――○●○―――

 

「うわぁ・・・・・ここが銭湯、お風呂場・・・・・」

 

「すげぇなおい・・・・どんだけ広いんだ?」

 

「・・・・・故郷(極東)の風呂まであるとは」

 

「はははっ!俺のホームの浴場とは大違いだ!」

 

三人のヒューマンと一柱の男神が腰にタオルを巻いて銭湯の浴場に足を踏み入れた。壁や天井、床、柱は石造りだが、浴槽は様々な種類と色違いなお湯が広大な浴場に備わっているのを見て感嘆する。一誠の転移魔方陣であっという間に(リヴィラ)まで移動した一行は男女それぞれ別れて入浴を始めたのだった。

 

「豪勢だなぁー。この風呂を毎日、(リヴィラ)の冒険者達が我が物顔で入っているなんてさぞかし大満足しているんじゃないか?」

 

「このぼったくる街の中で一番稼いでいるのは間違いなくこの店を運営しているあいつだろうな」

 

「ヴェルフ、ヴェルフ。あの滝みたいなのは何の為にあるんだろうね?」

 

「さぁな。娯楽的な意味なんかじゃないのか?」

 

桜花がその会話に少なからず興味を持ったのは知らないでいるベルとヴェルフであった。

 

「おっ、ベル君。あそこにマッサージって書いてあるぜ?」

 

「マッサージ・・・・・ですか?なんだろう」

 

好奇心旺盛にヘルメスはベルの手を掴んでそう書かれている扉に近づき、開け放つと―――。

 

「うっふ~んっ!もうマッサージはお終いよ~ん!それでも求めちゃうなら、あっは~んっ!ワ・タ・シ、愛情を籠めて頑張っちゃう―――!」

 

筋骨隆々、ピンクのビキニ一丁の赤い口紅を唇に塗ったスキンヘッドの男性が扉の向こうにいた。変な姿勢(ポーズ)をしながら開け放った二人にそう告げ終える前にバタンッ!と二人の手で閉められてしまった。

 

「「・・・・・」」

 

―――見てはいけないものを見てしまった。ヘルメスとベルは心を一つにしてそう思った。

 

「おい、その扉の中に何があるんだ?」

 

「・・・・・開けていきなり閉めてどうした」

 

ヴェルフと桜花がマッサージ部屋に興味を示してしまった。中身はどうなっているのか―――ベルとヘルメスは橙黄色の瞳と深紅(ルベライト)の瞳を一瞬だけ交わし、

 

―――二人を止めましょう!

 

―――これ以上見てはいけない者の犠牲者を増える前にね!

 

0.01秒という視線の会話を成り立たせ、行動に移した。

 

「ヴェ、ヴェルフ!あの滝みたいなところに行こうよ!僕、体験してみたいんだ!」

 

「桜花君!神と子の裸の付き合い兼背中の洗いっこをしようじゃないか!派閥を超えた交流を交わそう!イッセー君のようにね!」

 

「お、おいベル?どうしたんだよ一体・・・・・」

 

「・・・・・」

 

二人の必死の形相に困惑、当惑するヴェルフに桜花。たった四人しかいない広々とした浴場はとても贅沢であることを露も知らない。

 

一方、女湯では・・・・・。

 

「おおっ・・・・・っ!?」

 

瑞々しい裸体をふわふわな布で巻いた命の第一声は感嘆だった。女湯の浴場を入れば森の香りが仄かにする男湯と同じ規模の広大な空間であった。湯が張られている浴槽も男湯とは変わらないが、初めて銭湯を利用するヘスティア達にとっては珍しいと抱かせるのに十分だった。

 

「千草殿、故郷の浴槽もあります!故郷の香りがする浴槽があります!」

 

「う、うん。懐かしいね。入ろう?」

 

「わーい!」

 

「いきなり飛び込むんじゃないバカティオナ!」

 

「温かいですねアイズさん」

 

「うん・・・・・気持ちいい」

 

「リヴェリア、あのマッサージとやらは何なのだ?」

 

「知らん」

 

「まさかダンジョンの中でお風呂に入れるなんてボクは思いもしなかったよ!」

 

「このぼったくり(タウン)でこのお風呂・・・・・」

 

「・・・・・マッサージ部屋、ですか」

 

「・・・・・ふぅ」

 

種族バラバラな少女や女性達は各々と一緒に入ったり、一人で入浴したり。身体を抱き絞めてくる熱い湯の感触。両の目をぎゅっと瞑り、全身という全身を弛緩させる。

 

「はふぅ、気持ちいいです・・・・・」

 

「この階層でこんなお風呂に入れるなら、あたし、毎日来たくなりそうー」

 

「あんた、同じことをさらっと言ってるわよ。気持ちは分からなくもないけど」

 

「・・・・・【タケミカヅチ・ファミリア】の人達が蕩けちゃっている」

 

「それほどまでに、至福の一時なのだろうさ」

 

エルフであるリヴェリアとレフィーヤは緑のお湯が張られている浴槽、アマゾネスのティオナとティオネは底が見えない焦げ茶色の浴槽の湯の中に、アイズは一人で澄んだお湯の浴槽とそれぞれ入っていれば、

 

「むむっ。このシャンプーとやら、髪に洗うと良い匂いを発するらしいぞサポーター君。これでベル君が僕にメロメロになってくれると嬉しいな!」

 

「その程度でベル様がヘスティア様に鼻の下を伸ばすようなお人ではありません」

 

頭や体を洗い始めているヘスティアとリリもいる。

 

「・・・・・」

 

そして、しばらく全身を湯に使っていたアスフィがタオルを巻いて真っ直ぐ無言でマッサージ部屋という一室の扉を開け放った。

 

―――次の瞬間。

 

『あ・・・・・そこ、んんっ、いいです・・・・・・ひゃんっ!』

 

アスフィの艶めかしく甘い声が聞こえ出した。ヘスティア達は時を止め「なんだ?」とマッサージ部屋に視線を注ぐ最中でも女性が感じている声が浴場に響き渡る。

 

「な、何が起きているんですか・・・・・!?」

 

緊張と羞恥でアスフィの声が途絶えるまでしばらく耳を傾ける面々。忽然と声が止み、がちゃりと開いた扉の奥から・・・・・。

 

『(なんか、肌が艶々している!?)』

 

水を得た魚のように肌が活き活きとして潤っていた。心なしか、恍惚と蕩けているアスフィの顔にはスッキリしているにも見えなくは無い。再び浴槽に入る彼女にリヴェリアは恐る恐ると訊ねた。

 

「【万能者(ペルセウス)】・・・・・。中で何をしていた?」

 

「うむ、一団と肌が潤っているではないか」

 

「・・・・・ただの、マッサージです。彼の手で私の体を解してくれただけです」

 

「彼・・・・・?」

 

「中に入れば解りますよ。ああ、本人ですので心配は要りません」

 

彼って男!?女湯に男がいるなんて信じられないと、羞恥で近づかないと意志を固める数人はいるが、

 

「・・・・・身体を解された感想は?」

 

「気持ちいいですよ。日頃の疲れを吹っ飛ばしてくれる感じに」

 

「・・・・・彼、なのだな」

 

「ええ、彼です。一緒に行きましょうか?」

 

アスフィの誘いに、しばし悩んだ王族(ハイエルフ)はマッサージ部屋にいるであろう頭の中で思い浮かべている少年と信じて浴槽から出てともにマッサージ部屋へ入ってしまった。

 

「さすがリヴェリア・・・・・度胸あるわね」

 

「彼って・・・・・もしかしてイッセーのことかな?でも、マッサージってなに?」

 

「えっと、手で相手の体を揉むように解すって・・・・・言ってたような」

 

しばらくして・・・・・。リヴェリアの声と思しき、甘く喘ぎ声が聞こえてレフィーヤの尖った耳の先まで赤く染まったのは必然的であった。

 

「・・・・・っ」

 

マッサージ部屋から出てきたリヴェリアの顔は何かに堪えるような表情と朱が散らばっていた。心なしか肌が何時もより艶があり、若返っているようにも見える。

 

「リ、リヴェリア様・・・・・?」

 

「聞くな・・・・・」

 

「気持ち良かったー?」

 

「聞くなと言っている・・・・・っ」

 

今の表情を誰にも見せたくは無いと顔をお湯に付きそうなほど俯いて隠す王族(ハイエルフ)は見たことが無いとアイズ達は珍しいものを見る目で見つめた。

 

「まあ、彼の手に掛かればこんな感じです。―――彼女が思わず自分の手で口を塞いで顔が蕩けそうになるのを必死で我慢するほどに」

 

ひゅんっ!と桶が、かこーんっ!とアスフィの頭部に直撃して沈黙させられた。そんなことをしたのは誰なのか想像に任せる。

 

「へぇ・・・・・二人とも、肌に艶ができるほど・・・・・私も体験してこようかしら」

 

「あ、だったら傍で見ちゃうね。何だか気になっちゃってしょうがないもん!」

 

アマゾネス姉妹がマッサージ部屋に消えてしまい数分後。姉妹揃って喘ぎ声が聞こえて、

 

「は、恥ずかしいわっ。だ、だけど・・・次は団長にされたい・・・・・っ!」

 

「あははっ、恥ずかしかった・・・・・・でも、体が凄く軽くなったよ」

 

顔を紅くして、出てきた二人の感想はあの少女を動かした・・・・・。

 

「ティオナ、中に誰がいたの・・・・・?」

 

「うん、イッセーだよ。本当、あたしの身体をただ指とか手の平で押すだけで凄く気持ちがいいんだー」

 

ちょっとくすぐったいけどね、と笑みを浮かべるティオナを見て、興味が湧いたアイズはコクリと頷いた。

 

「・・・・・私も、体験してみる」

 

「ア、アイズさぁああああああああああんっ!?」

 

アイズ・ヴァレンシュタインが動いたのだった。羞恥で顔を真っ赤に制止の声を掛けようとするが既にマッサージ部屋の目と鼻の先まで移動していて―――「わ、私も行きます!」とアイズを追いかけるレフィーヤ。

中に入ると白を基調とした服装を着込んで、ようやく仕事が終えたと思ったのか手を洗っていた一誠の姿が二人の目に飛び込んできた。個室だからか、それなりに広くはあるがいくつもある寝台に、洗面台や色々な瓶が置かれている台もあって少し狭さを感じる。

 

「・・・・・え、なに。マッサージをしに来た?」

 

「うん・・・・・お願い」

 

「・・・・・しょうがないな。んじゃ、うつ伏せになってくれ」

 

布が敷かれている寝台に促し、アイズをうつ伏せにした。

 

「これ、外さなくてもいいの?」

 

「背中だけ露出してくれればいい」

 

アイズの臀部に別の布を被せて一誠は少女の背中を露出させようと手を伸ばしたところで待ったが掛かった。

 

「ま、待って下さい!?わ、私が最初に体験します!」

 

「レ、レフィーヤ・・・・・?」

 

毒牙から守りたい一心で、自分がダメだと非難すればアイズも諦めてくれるはず!と崇拝する最強女剣士の一人として守らないという自己犠牲が発揮した。だがしかし、その考えは甘かった。

 

「なんだ、様子を見に来たんじゃないのか。だったら・・・・・」

 

金色の杖を虚空から発現して呪文のような詠唱を唱え出した一誠がいきなりもう一人増え出した。

 

「「二人一緒にマッサージをしてやるよ」」

 

「え、ええええええええええええええええっ!?って、きゃっ!?」

 

増え出した一誠に驚愕するも、何時の間にかもう一つの寝台が用意され、レフィーヤはうつ伏せの状態で寝かされた。こんなはずではっ!と焦燥がレフィーヤの思考を混乱させる。

 

「ふっふっふっ。逃がさないからなー?求めたのはレフィーヤなんだから文句は言わさないぞ」

 

「ちょ、まっ―――!」

 

軽く腰辺りに跨がれ起き上がることがままなら無くなってしまい、レフィーヤの背中は一誠の手で露出された。

肌の露出を極力隠す潔癖なエルフの汚れも沁みもない綺麗な背中を、初めて異性に見られてしまった。マッサージとはこういうものだと体験してきた者達から聞いているがやはり恥ずかしい。上半身を起こして跨っている一誠に異議を唱えようと身体を捻らそうとしたところで告げられる。丁度ほどよく容量のある歳不相応に育とうとしている双丘の片方が一誠から見えていた。

 

「あんまり暴れると胸が見えんぞ。見せたいなら構わないがな。興味は無いし」

 

「っ―――!?」

 

好きでもない異性に全てを晒すような真似はしたくないとレフィーヤの気持ちが全身を硬直させる。しかし、聞き捨てにならない言葉を言われた。

 

「ちょっと待って下さい。興味がないと言うのはどういう意味で・・・・・」

 

「俺に好意を持っていない異性の裸を見ても、どうでもいいってことだよ」

 

「・・・・・」

 

「まあ、相手は好意を抱いていようがが抱いてなかろうが恥ずかしいことは変わりないだろうがな。んじゃ、始めるぞ。身体から力を抜け」

 

なんだろうか。ここは顔を真っ赤にして恥ずかしがるか、欲情するところではないのかと―――いえ、欲情されても困りますけどっ、とレフィーヤ・ウィリディスというエルフの少女を異性として認めていないのではないのかと思ってしまうではないか。

 

「・・・・・あなたにとって私のことをどう思っているのですか?」

 

「なんだ、変な質問をしてくるな。具体的にどういう意味なんだそれは?冒険者としてか?異性としてか?」

 

「・・・・・両方です」

 

アイズより強くアイズが最も気にしている冒険者。アイズに憧憬を抱いている自分はアイズを倒した一誠にとってどう思っているのか―――。

 

「んー、まず冒険者として言えば・・・・・魔導師としてはあと数年でリヴェリアに次ぐ魔導師になるんじゃないか?でも、もう少し接近戦にもできるようになったらアイズ達も心強いと思うがな個人的に」

 

飴と鞭の攻撃という言葉が同時に振ってきた。自分の善し悪しを把握している一誠に隣でマッサージを受けているアイズも艶のある喘ぎを恥ずかしげに漏らしながら感嘆の言葉を心の中で漏らした。

 

「んで、異性としては・・・・・エルフとして麗しい容姿と肉付きの良い身体をしている少女。その程度だ。特にそれ以上の感情は無い」

 

「お、女の人に興味がないってわけじゃ・・・・・痛いですっ!?」

 

「俺はホモだと言いたいのかなーんん?」

 

思いっきり頭に親指を押し付けたことで痛がったレフィーヤに威圧を発する一誠。元冒険者とは思えない痛みを与えられ悶絶するエルフの少女。

 

「お互い好きでもなければただの赤の他人。俺はそういう風に異性と接している」

 

「じゃ、リヴェリア様とは・・・・・ひぃんっ!」

 

「何故にリヴェリアが出てくるんだ?」

 

背中のツボを押されて思わず甲高い声を発してしまった。押されているだけなのに快感を感じてしまう。己の背中の至る所全て一誠の手に触れられ、触られた箇所が無くなってしまっている。

 

「今はお前のことをどう思っているかの話だろうに。さっきの言った言葉がレフィーヤに対する考えだ」

 

「・・・・・じゃ、私のことはどう思ってるの?」

 

隣からアイズが尋ねてくる。いや、アイズの背中を指圧している一誠に問いかけた。

 

「レフィーヤと同じ感じで答えて欲しいのか」

 

「うん・・・・・」

 

肯定されて一誠は少し言葉を選んでからアイズに答えた。

 

「剣士としては一流であることは確かだな。ただ、風の魔法を工夫することだってできなくはないはず。もう少し自分の魔法の扱い方を模索して見たらどうだ。魔法なんだから可能の筈」

 

なら、どんな感じで風を一誠の場合だったら扱うのか伝授してもらおうと甘い声を発し続けながら決意した。

 

「異性としては・・・・・お互い好きでもないなら好い好敵手(ライバル)ってところだな」

 

―――ライバル。それがアイズに対して思っている一誠の気持ち。

 

「俺は俺に好意を抱いている女にしか興味ないし、好きでもないなら友達程度だ」

 

それが当然の関係だろうと言ってはばからない一誠に―――何故だろう。好敵手(ライバル)として接してくれる嬉しい半面、こんなに寂しい気持ちになるのは。心の中の幼いアイズが一番悲しそうに涙ぐんでいる。

 

「「さて、今度は脚のマッサージをすんぞ」」

 

「えっ、脚もですか!?」

 

「「肩も腕も、揉めるところ全部するのがマッサージだが?胸と尻以外で」」

 

いやー!とエルフの少女の悲鳴が聞こえつつも程なくして艶めかしい声と悩ましい声が一緒に聞こえるようになってきた。後に銀髪の治療師(ヒーラー)とハーフドワーフも体験することにしたが、終われば真紅の髪の少年に熱い視線を向けるようになったのは別の話。

 

―――○●○―――

 

銭湯らしく着物に着替えたヘスティア一行はリビングキッチンにいた。

 

「うううっ・・・・・。お、お嫁にいけない身体にされてしまいました・・・・・」

 

ポニーテールの山吹色の髪は下ろされていて、ロングストレートのように腰まで伸ばしているレフィーヤは羞恥で顔を赤らめ、ぷるぷると身体を震わせていた。そんなエルフの少女にあからさまな溜息を履いた一誠。

 

「大袈裟な・・・・・身体を解しただけだろう。大事な局部を触れられていないだけまだ清らかな身体だと自負できるだろうが」

 

「だからって、や、やっぱり安易に女性の肌を触れるのはどうかと思います!あなたは主神(ロキ)以上の変態ですっ!?」

 

「・・・・・」

 

変態!というグンニグルの槍が一誠をハートブレイクの効果を与えた。その結果―――。

 

「・・・・・イッセーがいじけちゃった」

 

ずーん、とリビングキッチンの片隅で身体を丸くして暗い雰囲気を醸し出し始める一誠の口から「ロキ以上の変態、親父・・・・・」と呪詛の如くぶつぶつと呟いた。

 

「ちょっと!貴女、その言い方は無いでしょう!イッセーは変態じゃないわ!」

 

お冠なレリィーがレフィーヤに食って掛かる。ウィルも「うんうん」と同意し一誠を非難したエルフの少女に心が穏やかではいられなかった。不穏な雲行きが漂い始める。

 

「・・・・・すまん。どうか怒りを治めてくれ。代わりに私から言っておく」

 

申し訳ないと謝罪をするリヴェリアをレリィーはレフィーヤに睨んだまま「わかったわよ」と納得していない面持ちで割り切った。漂っていた雲行きが怪しい雰囲気も霧散し、気持ちを入れ替えようと考えていたのか定かではないが、

 

「主殿の代わりに言わせてもらいますわね。食事はご覧の通り、出来上がっておりますわ。ここまできた神ヘスティア達、どうぞお召し上がりください」

 

カルラの説明にヘスティア達は長大のテーブルに各々と座り込み一誠が改めて作られた料理に太鼓判を打つ。

 

「お、桜花殿っ。千草殿っ。こ、金平糖があります!金平糖がありますよぉおおおおおっ!?」

 

「こ、こっちには羊羹があるよっ」

 

「・・・・・高級な菓子が勢揃いしてやがる。タケミカヅチ様や他の皆に手土産にできないだろうか」

 

青紫の瞳に前髪で隠れた瞳の少女達が目を輝かせ、興奮する。桜花は圧倒されるも懐かしい故郷の菓子に目から離れないでいる。その近くでは既に夕食を済ませたはずのアイズ達も香ばしい匂いで腹が刺激されたのか、好物が目の前にあるからか、席に座りだして食べ始める。

 

「これ、イッセー一人で作ったってのが凄いんだけど」

 

「あの酒場の料理もある!」

 

「・・・・・ジャガ丸君のフルコース・・・・・」

 

「いいな、レフィーヤ。後で説教だ」

 

「ううう・・・・・はい」

 

アイズ達も席に着き食事を始める。

 

「ベル君達は食べないのかい?」

 

「はい、もう食べてしまいましたから。神様が一杯食べてください」

 

「こちらも美味しそうですね。もう食べたというのに食欲が・・・・・」

 

「あいつ、料理人に向いているだろう」

 

ヘスティアの隣で取り敢えず座り込むベルとリリ、ヴェルフ。先に食べてしまいそれほど腹は減っていないが摘まむ程度でまた食べ始めた。

 

「うーん。アテネは毎日こんな料理を食べていたのか。幸せだったろうねー」

 

「・・・・・そうですね」

 

あれも美味いこれも美味いとヘルメスが胃の中に送り続ける隣で「【ヘルメス・ファミリア】に入って毎日この料理とマッサージをしてくれれば・・・・・」と心の中で願望を抱いていたアスフィを知らないでいる。

 

「おーい、イッセー君。物は相談何だけどいいかな?」

 

「・・・・・なんだ」

 

春姫とウィル、レリィーに慰められようやく立ち直った一誠に提案を述べた。

 

「俺達を心配させたお詫びとしてさ、何かしてくれないかなーって」

 

「・・・・・金をよこせって?」

 

「いやいや、それ以上価値のあることだよ」

 

目が弓となり、何か企んでいる顔であるとありありと浮かばせたまま口を開くヘルメスに若干警戒心を抱く。

 

「どこにも他派閥に、【ファミリア】に入る気が無いならさ。食客の形で俺の【ファミリア】に来てくんない?それなら問題ないだろ?」

 

―――――何を言っているんだこの神は。一誠が最初に抱いた思いはそれだった。ほら、ヘルメスの変な事を言うから場が静まり返って―――。

 

「・・・・・なるほど、その手があったか」

 

ヘルメスの提案を聞いて王族(ハイエルフ)の女性が手をポンと叩く仕草をする。

 

「リヴェリアさん・・・・・?変な考えをしていませんよね?ねぇ?」

 

「―――イッセー達はフリーだ。ホームに居座らせる代わりに我々の為になるようなことをすればロキも文句は言うまい」

 

思いっきり考えて口に出したリヴェリアに目を張る一誠の耳に。

 

「あっ、そう言うことならボクのホームに来てもらっても同じことだよね!」

 

「で、でしたら【タケミカヅチ・ファミリア】にもお越しください!?」

 

ヘスティアや命までも便乗する声が聞こえてきてさぁ大変。ヘルメスが愉快気に笑みを浮かべ、一誠にとって話を悪化させていく。

 

「候補が多いところで、はい。イッセー君達を何日間ホームに居座らせようか相談をしようじゃないか!」

 

「「「異論無し」」」

 

「異議有り!?」

 

人の話を聞けぇー!?と叫ぶが当人達は完全無視して、人の意志なんて関係ないとばかり話を進める。

【ヘスティア・ファミリア】の眷族の捜索と元【アテネ・ファミリア】の眷族の行方を同時に解決した一行は一日の疲れと空腹を解消し、一誠が再び野営地に転送して皆と別れて寝る。

 

 

 

 

魔石灯の明かりしか灯していない暗い部屋の中でドアを叩く音が聞こえた。来訪者がいるドアに向かず入室の了承を許せば、入ってくる―――エルフの女性。

 

「起こしてしまいましたか?」

 

「まだ起きてたから気にするな。それで、どうしたんだリュー?」

 

エルフの女性、リューが空色の瞳を真っ直ぐ一誠の背に向けた。

 

「久し振りに貴方を見ましたが・・・・・少し、安心しました」

 

リューの心情を察し、こう問いかけた。

 

「大切な家族を失った私怨から、俺はアテネを襲った【ファミリア】を憎んでいると思ったか?」

 

「・・・・・はい」

 

肯定され、一誠は苦笑いを浮かべた。ここにも一人、心配してくれている者がいるのだと分かって。立ち上がり、背後に立っているエルフの女性に振り返る。

 

「憎んでるよ。大切な女神を襲った連中に。だけど、死んじゃいないから俺は必ず天界に行く。そしてアテネを連れ帰ることができたらまた酒場に働きたい。復讐はその後でもするつもりだ」

 

「・・・・・」

 

復讐はする。かつて、己がした正義の欠片もない復讐の権化と化した愚かで醜い行いをまだ若い少年がしようとしている。―――それは、ダメだ。

 

「・・・・・イッセー・・・・・私と同じ過ちを辿らないでください」

 

澄んだ空色の双眸からも強い眼差しでそう訴える。復讐をしてもやり遂げた後に残ったものは何もないことを、身を持って知ったリューだからこそ己の末路を同じく歩むつもりでいる眼前の情念に懇願する。フード付きのケープを纏う麗しいエルフの言葉の意味と気持ちを理解しているもの、一誠は首を横に振った。

 

「無理だ・・・・・。二度も家族を襲い、狙ったんだからな」

 

「イッセー・・・・・」

 

「それでも止めて欲しいなら、俺をやり過ぎないようにリューが抑えてくれ」

 

エルフの耳朶に刺激する静かな声音。怒気や冷たさを孕んでいないが本気であると感じてしまう。

 

「俺もリューみたいになるかもしれない。絶対に許せないことなんだからな」

 

「愚かで醜い姿を貴方に好意を抱いている者に見せて、見られてもですか」

 

「ああ・・・・・最悪、俺が孤独になってしまっても、アテネが止めようと俺はする。野放しにしちゃならないんだ。絶対に」

 

一誠の強い意志と決意。リューは心から一誠の思いと気持ちを理解している。いや、理解できると言った方が正しいだろう。リューもそうしないと気が済まなかった。

 

「私が貴方を殺すつもりでも?」

 

「無理だよ。リューじゃあ俺には勝てない」

 

断言された。神をオラリオから去ってもらったリューの背にはまだ神の恩恵(ファルナ)が刻まれたままに対し一誠はその逆、神は天界に送還され神の恩恵(ファルナ)が封印されている状態。

 

―――リューは、木刀を差している腰に伸ばした瞬間に高速移動で一誠の背後に回った。背中を向けている少年の首を狙って既に木刀の柄を握った状態の手を頭上に振り上げて袈裟斬に振り下ろす。

 

が、一誠の姿が掻き消えた。まるで間近で蜃気楼の現象を目の当たりにしたような―――。そう思った矢先、向けられる敵意と殺意に目を張って全神経に緊張を張り巡らせて何時でも対応ができるように態勢で身構えた。

 

「ほら、勝てなかった」

 

「―――ッ!?」

 

自然過ぎる背後からの抱擁と感情のない声。そして急激に全身から抜けていく体力や力。抱えてもらわないと一人で立ち上がれなくなるほどになってしまうと床に倒れ込んでしまい、目だけ背後にいた少年を見上げ・・・・・信じられないものを見る目で空色の瞳は映した。

 

紋様状の二対の漆黒の翼、肌に入れ墨のような紋様が浮かび上がって、腰辺りに黒い尻尾、真紅だった髪は濡羽色に染まり切っていて両腕も黒く異形の腕と化していた。

 

「【ステイタス】が封印されていようが、俺は元々強い。神の恩恵(ファルナ)に振り回され、己の強さが左右される神からの恩恵に縋る冒険者とは違うんだよ俺は」

 

次元が違う―――。リューは初めて知った。一誠という存在を。

 

「俺を殺せる存在は俺みたいな存在じゃないと絶対に無理だ」

 

元の姿にリューの前で成り、跪いた一誠はリューの装備をテキパキと脱がしたり外したりとして始める。

それが終えれば横抱きに抱え、ベッドに寝転がせ覆い被さった。

 

「ふふっ。体力を奪っているから今のリューを好き勝手にできるな」

 

勝者の優越感に浸る一誠の言葉に危機感を覚えた。まさか、このまま己の体を貪る気ではないか―――と。

 

「ま、する気は無いけど」

 

彫刻で形を整えられたようなエルフの頬に手を添え、慈愛に満ちた瞳をし出す一誠にリューは不思議に感じた。

頬に感じる少年の手を感じるリューも一誠を見つめる。

空色と金色の瞳がぶつかり視線が絡み合い、目を逸らそうとは二人の頭の中には無い。

 

「そう言えば、久し振りに俺を見て安心したといったけどさ。俺も久し振りにリューを見ると、嬉しいのとリューの顔が綺麗だって改めて思ったぞ」

 

「・・・・・」

 

真正面から言われてリューは恥ずかしさと照れで顔をほんのりと朱を散らすが、無意識で一誠から視線を逸らすことができない自分がいる。垂直のスリット状の獣の目が己の姿を捉えて映り込んでいるその瞳に吸い込まれる感覚・・・・・。

 

「(い、いけません・・・・・)」

 

何がいけないのか、親友に対する罪悪感か、それとも他に一誠を恋している者達に対する申し訳なさか。自分がこれ以上一誠と深い関係になれば横恋慕になってしまう罪悪感を抱く。

 

「イッセー・・・・・ダメです」

 

「ん?」

 

「私と、その・・・・・恋仲になってしまっては他の者達に対する横恋慕になってしまう・・・・・」

 

恥じらうエルフの台詞は一誠の首を捻らす。ただ触れ合っているだけなのにどうしてその言葉が出てくるのかを。リューの気持ちと言葉を理解にするにつれ、

 

「それって、俺が皆を愛すれば横恋慕にはならないんじゃね?」

 

「・・・・・っ!?」

 

あろうことか、一誠は修羅の道―――ハーレムを築けば全て問題ないと言いのけた。

 

「本気で言っているのですか・・・・・?」

 

「愛おしい女に冗談なんて言うつもりは無いぞリュー」

 

一誠の愛は真紅あかい髪と同じぐらい情熱的に燃えている。

 

「女なら誰だっていいわけじゃない。俺の全てを知って、それでも変わらず接して愛してくれる女じゃないとダメだ」

 

「貴方の全て・・・・・」

 

「リューも知っていると思うけど、翼を生やすヒューマンや亜人デミ・ヒューマンなんていないだろう?居るとしたらモンスターだ」

 

沈黙は肯定也。リューは、イッセーはヒューマンではないことを知っている。『豊饒の女主人』に働くミア達も。

 

「こんな俺を受け入れて接してくれる存在は俺にとって貴重なんだ。俺はモンスター、人類の敵だからな。

 こんな外見だけが人型の姿であれば誰だって警戒せず、快く接してくれる。でも、それは相手を騙しているに過ぎない」

 

背中に腕を回し、エルフの手を掴むと胡坐を掻きだす一誠の足の上に身体に力が入らず抵抗もできないことをいいことにリューを乗せた。互いの顔の距離が近く見下ろされる形で見つめられる。

 

「リュー、モンスターの俺を好きでいてくれるか?」

 

「――――――――――――」

 

いきなりのドストレートの告白。澄んだ空色の瞳を見開いてしまった。顔にますます赤みが帯びて―――。

 

『その告白を、受けなさい!』

 

―――突如として、頭の奥からリューにとって懐かしい声が聞こえてきた。そしてあろうことか、興奮気味にリューの恋路を応援しだした。

 

 

『私は言ったわ。あんたの手を握れる男が現れたら逃がしちゃ絶対に駄目よって』

 

 

――――確かに言いましたが彼には使命が、好意を寄せている異性が―――

 

 

『なに言っちゃってんのよこの気真面目エルフ!あんたが好きって言わず何時言うの!無化に相手の告白を断るなんて失礼千万!というか、何時まで生娘でいられると思ったら大間違いよ!婚期を逃しちゃうわそれでもいいの!?』

 

 

―――ですが、横恋慕の真似など私には―――。

 

 

『ええい、じれったいわね!』

 

 

次の瞬間、リューは一誠の、イッセーはリューの顔が間近へと迫った。お互い、顔に当惑、目に動揺の色を浮かべだす。

 

「!?」

 

「・・・・・なんか、逆らえない力が」

 

 

『さぁさぁ!行っちゃいなさい!』

 

 

「イ、イッセーッ?か、顔を横に・・・・・」

 

「・・・・・いや、さっきから抵抗を試みているんだが、何かにがっちりと顔を挟んでいる感覚が凄いんだけど」

 

本当に抵抗している様子を、強張っている顔を震わせている一誠。見えない何かに己等の意志とは関係なく唇を重ね合わされようとしている。互いの合意でも、そんな雰囲気でもないこの状況に一誠も避けたがっていた。

 

 

―――な、なにをっ・・・・・!?こんなことされて私は嬉しくもありませんし、

           亡き戦友達が許すはずが―――!

 

 

『え、そうかしら?ねえ、皆?』

 

 

次の瞬間。懐かしい声が一気に増え出した。

 

 

『『『『『ひゅーっ!ひゅーっ!』』』』』

 

『『『『『ぶちゅーっていっちゃえっ、ぶちゅーってっ!』』』』』

 

 

かつての仲間とは思えないほどノリが良過ぎだった。

 

 

―――馬鹿ですかっ、馬鹿ですか貴方達は!?いえ、馬鹿だったんですねっ!?

         少しぐらい助けてもいいでしょうが!―――

 

 

己の仲間達の傍迷惑な恋路の応援に後で亡き【ファミリア】の仲間の墓が塩の塊になるまで撒いてやると固く決意する。そしてもう一つの決意をした。この状況を打破できないのであればと。そう思いを抱き固く瞑目して、告白の答えを羞恥の気持ちを口に吐きながら発した。

 

「イッセー、私は貴方のことが―――」

 

リューの告白の答えを聞いて直ぐ、二人の影が一つとなった。その意味を知る者は傍迷惑で、興奮、歓喜している知己しかいなかった。

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