オラリオで自由気ままに過ごすのはダメだろうか(一時完結)   作:ダーク・シリウス

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冒険譚33

18階層の『朝』。昨夜に起きたヘスティア等救助隊の合流により、野営地内の密度が一層増す中、朝食を済ませた後の時間帯で、(リヴィラ)に案内する事となった。【ロキ・ファミリア】の出発に会わせて18階層を発つつもりでいるベル達は、せっかくなので今日一日を観光に費やすらしい。アイズはその道案内役で同行するとのことだ。さらに暇を持て余しているティオナやティオネも付いていくことに。

 

「―――椿」

 

本営に残っているリヴェリアは鍛冶師(スミス)達と交ざっているハーフドワーフに話しかけ、手招いて二人きりなれる場所、森の中まで移動して開けた空間に立ち止まると再び口を開いた。

 

「イッセーの秘密を知っているのだな」

 

「おう、リヴェリアが知っている秘密と同じかどうかは分からないがな」

 

「・・・・・ならば、イッセーのことをどう思っている?」

 

むっ?とリヴェリアが椿から何を聞きだしたいのか少し不思議で首を傾げる。率直に聞いているだろうがリヴェリアと接してきた中で初めて誰かに対する意見を求められた。

 

「どうした、イッセーがドラゴンであることを手前よりお前は知っておるのであろう?」

 

「いや・・・・・イッセーを知りたいだけだ。お互いイッセーを知る者同士、情報を共有を願ないかとな」

 

「ふむ、そういうことか」

 

リヴェリアの考えに一理ありと納得する椿。

 

「だが、手前はイッセーに口止めをされておるぞ。話したことを知られたら手前は怒られる。口の軽い奴だと思われても嫌だ」

 

「私が無理に言ってお願いしたと庇うさ。責任は取る」

 

そこまで言うなら・・・・・と一度、周囲へ人の気配は無いか確認した椿はリヴィラの尖った耳に聞こえるぐらいの声を殺した声量で口を開く。

 

「分かった。ならば手前が知ってる事を教えてやろう。・・・・・本当に頼むぞ?」

 

「任せろ」

 

そして、椿は語った。

 

「手前が知ってるイッセーの秘密は・・・・・」

 

太陽と空を彷彿させる天井の白水晶とクリスタルが木洩れ日のように語る椿と聞かされるリヴェリアを照らし包みこむ。

 

「・・・・・イッセーが、異世界の者、だと・・・・・」

 

生を受けて数十年。リヴェリアは未だかつてない衝撃を受け、己が知らない一誠の秘密に絶句、それ以来人語を忘れてしまったかのように言葉を失う。案山子のように立ち尽くす王族(ハイエルフ)を眼帯を付けていない右眼で見据え言い続ける。

 

「手前は嘘を言わんぞ。それに、手前達はイッセーの異常(イレギュラー)を見てきたではないか。それで納得できるとは思わないか?」

 

「―――――」

 

Lv.1、駈け出しの冒険者が『深層』を一人で探索、力でガレスをねじ伏せた。『深層』のモンスターをあっさり倒し、オラリオ唯一Lv.7の最強の冒険者と互角に渡り合った。恩恵を封じられても実力は衰えていない。そして―――その状態でアイズを倒しのけた。

 

「手前達が思いもしなかった違う世界で産まれたイッセーの実力。手前達の実力はイッセーが生まれた世界では劣っているのかもしれん。いやはや、異世界・・・・・手前は是非行ってみたいものだ」

 

リヴェリアの中でイッセーという存在の謎が、いま全て合致した。

 

「(だから、だから・・・・・あの強さだったのか。神の恩恵(ファルナ)に甘えているという言葉は、そう言うことだったのか)」

 

何時しか言われた言葉を思い出し、一誠にとっては―――真の強さを有している者からすれば、成長を促進させる神の恩恵(ファルナ)は甘えだと、認識していた。されていたのだ。

 

「手前の知っている秘密は教えた。今度はそっちの番だぞ、リヴェリア?」

 

「・・・・・ああ・・・・・分かった」

 

ますます、リヴェリアの中で一誠を気になるようになった。

 

「・・・・・身体の中に、ドラゴンを宿している・・・・・だと」

 

一誠の秘密を新たに知った椿もまたリヴェリアと同じ反応そうするのは必然的だった。

 

「ははは・・・・・。イッセーがドラゴンであることを驚いたのに、身にドラゴンを何匹も宿しているなんて聞いても信じられん」

 

「だろうな。だが、本当のことだ。異世界から来たと言われても直ぐに受け入れ難い事実だ」

 

「であれば、そのドラゴン達も・・・・・」

 

「異世界に存在していたドラゴン、なのだろう」

 

強力な攻撃、強固な身体、人語を発し、見たことのない全容。どの要素もダンジョンのモンスターとは思えない強さを有していた。彼のドラゴン達を束ねる一誠もまたドラゴン。異世界でどんな人生を送ってきたのか、リヴェリアと椿は理解できない。

 

「・・・・・異世界のドラゴンの爪や牙、角で打つ武器はさぞかし、凄かろうな」

 

キラキラと隻眼の瞳を輝かせ、今までにない最高の装備を作製する楽しみさを胸中に抱く。一誠に頼もう、そうしようと考えている椿に向かってリヴェリアは首を横に振る。

 

「止めておけ、実際異世界のドラゴンと戦っている私としては挑まない方がいい」

 

「なんだと、何時の間にそんな貴重な体験をしていたのか。で、どれぐらい強かったのだ?」

 

参考にと訊く椿に今まで実体験したことを口にする。

 

「・・・・・『魔石』がないモンスターの上に飛行が可能とし、無詠唱で街一つは軽く消滅できる魔法、火炎球を放ち、兎にも角にもしぶとく、高い知能を備わっている。ソロで挑めば間違いなく喰われる」

 

「・・・・・階層主より強いか?」

 

「束になっても上半身しか姿を現さない『ウオダイス』でも上空からの攻撃に成す術もないだろう。事実、フィンとガレス、ベートを除いた私達【ロキ・ファミリア】の幹部が挑んでも未だに倒せないでいる」

 

とうとう開いた口が塞がらなくなったハーフドワーフの最上級鍛冶師(マスター・スミス)

 

「本当か?」

 

「ああ、私の魔法を食らっても平然としている辺りから勝てる気がしないドラゴンがいる」

 

「・・・・・よくとまぁ、イッセーはそのようなドラゴンを従わせていたものだな」

 

畏怖と畏敬の念を抱く椿と同感で「全くだ」とリヴェリアも首を縦に振る。あれは【猛者(おうじゃ)】ですら勝てないかもしれないモンスターだと思わずにはいられない。それにイッセーが温厚で心が優しいドラゴンで良かったとも思える。とある王国にいる軍神のような性格だったら、オラリオは一夜を待たず滅ぼされる可能性が高い。

 

「イッセーが『深層』でも手前達に付いてこられる理由はよく分かった気がする」

 

「そうだな。彼は強い。間違いなくだ」

 

互いが有している一誠の情報はそこでお終い。お開きと雰囲気的にもなり、軽く感謝の言葉を交わす。

 

「椿、礼を言う」

 

「なんの。手前もイッセーをもっと知れた」

 

そろそろ戻ろうと二人は野営地に足を運ぶ―――。

 

「―――聞かせてもらったよ。リヴェリア」

 

「お主もな、椿よ」

 

木の陰から現れた小人族(パルゥム)とドワーフ。リヴェリアは驚愕し、見開いた翡翠の眼を二人に向けたまま動けなくなる。

 

「リヴェリアがいなくなったから探しに来てみれば、僕達が知らない彼の秘密のことで語り合っていたから本気で気配を殺して立ち聞きさせてもらったよ」

 

「・・・・・勇者(ブレイバー)とは思えない行動だな」

 

「相手が相手だから、ね。だけど、どうして僕等に黙っていたんだい」

 

碧眼の瞳を向けられる。話を逸らすことも駄目だと言わんばかり強い眼差しも向けられ、観念したように溜息を零す。

 

「本人から誰にも言うなと釘を刺されている。神アテネとの約束で、お前達やロキにイッセーの秘密が漏洩、もしくはバレてしまえば、私は責任を負う為に【ロキ・ファミリア】を脱退する約束も交わしていた」

 

「だけど、神アテネはいない。その約束は無効じゃないかな」

 

何時の間にそんな神との約束をしていたのか信じられない気持ちを顔に出さず、真摯な表情でフィンは問うた。リヴェリアも約束を交わした相手がいないので「そうだろうな」と同意見だと肯定する。

 

「アイズ達も、知っておるんじゃな?」

 

「常にイッセーといたから無論知ってる」

 

フィンとガレスは急に揃って溜息を零した。

 

「そう言われているんじゃ、言えないのはしょうがないか・・・・・」

 

「全く、儂らに隠し事など長い付き合いをしている儂らでも気付かなかったぞ」

 

「すまんな。悪いとは思っていたが、イッセーに信用と信頼を失うのも惜しいと思っていた」

 

だが、結界的に約束は破ってしまったとリヴェリアは自嘲気味に発した。

 

「彼が異世界から来たドラゴン・・・・・信じられないが納得できる部分が多くある」

 

「あの強さは異常じゃ。とても神の恩恵(ファルナ)を受けた冒険者とは思えんかったからのぉ」

 

彼等もまた一誠の強さに謎さを抱いていた。だがしかし、リヴェリアと椿から一誠の秘密を立ち聞きしてようやく理解できた。

 

「リヴェリア、アイズ達ともども帰ったら色々と聞かせてもらうよ。ロキと一緒に」

 

「じゃな。仕方がないとはいえ、儂らに黙っていたんじゃ。知っていることを全て白状してもらうぞ?」

 

知られたからには黙っていられなくなった。眼前にいる首領(フィン)と老兵、主神は信用と信頼ができる。話をしても外に一誠の秘密が漏洩はないと安心できる人物達。

 

「・・・・・しょうがない」

 

「―――いや、しょうがなくはないだろう。なぁ、リヴェリア」

 

申し訳ないと一誠に対する思いを口に出して同意したリヴェリアの声に続くように、話の人物が虚空から姿を現して細めた金眼を射抜く感じで翡翠の王族(ハイエルフ)を捉えていた。

 

「イ、イッセー・・・・・ッ?」

 

「ベートが戻ってきた、と知らせに来たんだが・・・・・・。―――何、人との秘密を明かしちゃってんの?」

 

細まる眼を秘密を教えた王族(ハイエルフ)とハーフドワーフに向ける。心中は穏やかではなく、余計な事をしてくれたという思いが顔から出も窺える。

 

「言ったよな、椿にもだ。誰にも俺の秘密を教えるなと。信用して教えたのに、フィンとガレスにバレてんじゃんか」

 

「僕達が信用できないのかな?」

 

話に入るフィンは他者の抱えているものを安易に口から出すような愚か者ではないと言外する。その言葉に一誠はハッキリと答えた。

 

「知られたくなかっただけだ。俺の秘密に信用と信頼は皆無に等しい。変な疑いと期待をされても面倒でもあるし―――いつか、俺は元の世界に帰る為にも、秘密はできるだけ教えたくもなかった」

 

「・・・・・認めるんじゃな。己が異世界から来た者であると」

 

「ガレス・・・・・」

 

だったら、俺はなんだ?どういう存在だ?とガレスに訊ねた。

 

「この世界で俺の立場はお前らの敵、モンスターだ。人類の敵だ。こっちが面倒事を避け、面倒な騒ぎと疑いを生じさせないよう毎日気を使っているんだ」

 

背中に二対の翼、頭部に鋭利な角を生やした。

 

「この状態で【ロキ・ファミリア】と【ヘファイストス・ファミリア】の団員達の前に現れたら・・・・・どんなことになるか、言わずとも分かるよな」

 

「「「「っ!?」」」」

 

ヒューマンだと思っていた相手が実はモンスターだった。自分等を騙し、近づいて隙を突いて襲いかかろうとしていたもかもしれない。反旗を翻すごとく、武器を持って討伐する同盟派閥の冒険者達を容易く思い浮かべることができた。

 

「だからこそだ」

 

絶句する四人に呆れ混じりの溜息を漏らして、

 

「正体を隠してまで俺は生き続けないといけない。俺の強さに疑心するだろうが、恐れ戦かれようが、俺は俺の目的でもある異世界への帰還に、異世界にいる俺の家族達の再会を果たす為に面倒事を極力避けている」

 

リヴェリアと椿を睨み、口から抱いていた思いを吐いた。

 

「口の軽いエルフとドワーフだな。俺の抱えているものの重さは二人に軽視されていたとは思わなかったよ。俺の秘密の共有―――流石にするなとは言っていないが事実、漏洩したぞ」

 

「「っ・・・・・」」

 

「ロキにも伝えられるだろう。もしもロキが変な気を、考えをしたら、俺はお前らから姿を暗まさせてもらうぞ」

 

じゃあな、と一誠が幻のように姿を掻き消して、フィン達の前からいなくなった。

 

「彼の気配が、完全にわからない」

 

「まだいるのか、それとももういなくなったのかすらも把握できん」

 

イッセーという冒険者は異世界からやってきた人型ドラゴン。【ロキ・ファミリア】はようやく、一誠という存在を把握できたのだった。代償に、フィン達に対する警戒と、少なからず信用と信頼を失って。

 

―――○●○―――

 

「えーっ!団長とガレスにバレちゃったのぉー!?」

 

「声が大きい!煩いバカティオナ!」

 

再び『夜』の時間帯となった18階層。17階層の連絡路の付近で設けた【ロキ・ファミリア】の天幕がある野営地の片隅でリヴェリアから告げられた一誠の秘密の漏洩。ティオナが驚きのあまりに叫んでティオネに頭を叩かれる。

 

「じゃあ、リヴェリア様は【ロキ・ファミリア】を脱退なされるのですか?」

 

恐る恐ると訊ねるレフィーヤに「それはない」とティオネ。

 

「神アテネがいないんじゃあの約束も無効でしょ?問題ないんじゃない?」

 

「それについてはイッセーも何も言わなかった。だが、私に対する信用は無くなっているだろう」

 

「流石に言えない秘密だもんね、イッセーの秘密ってさ」

 

胡坐を掻いて身体を揺するティオナの一言で場は沈黙する。その雰囲気の中でアイズが金眼をリヴェリアに向けて問うた。

 

「・・・・・イッセーが違う世界から来たって、本当なの?」

 

異世界の住人であることを確認し、問われたリヴェリアが小さく頷いた。

 

「ああ、椿が嘘を言う者でもないし、イッセー自身も認めた」

 

「い、異世界ってどんな場所なんでしょうか」

 

「オラリオみたいな場所があるんじゃないかなー?」

 

「ない可能性もあるわよ」

 

異世界に興味を湧く少女達。どんな世界でどんな場所があるのか、風習や文化、言葉など様々なことを気になって仕方がない。

 

「そっかー。イッセーの強さって異世界で強くなったからあの強さなんだね」

 

「というと、イッセーみたいなモンスターもとい、人達が多く存在しているのかもしれないわね」

 

「そ、そんな人が本当に当たり前のようにいるんですかっ?」

 

「・・・・・いる、かもしれない」

 

ティオナ、ティオネ、レフィーヤ、アイズの順々で発する会話。静かに耳を傾けていたリヴェリアは椿から得た情報をまた公開する。

 

「椿から聞いた話では、ロキみたいな神々が存在するらしい」

 

「神って・・・・・本当に?」

 

「ってことは・・・・・」

 

―――ロキみたいな女好きな親父が異世界にもいる・・・・・?。

 

四人の心中が一致した瞬間だった。

 

「ねぇねぇ、リヴェリア。他になんか聞いてないの?」

 

「いや、残念だが椿が知っているイッセーの秘密は異世界から来たモンスターと異世界に神がいることぐらいだそうだ。私達が知っているイッセーの正体と身に宿すドラゴン達。あのドラゴン達も必然的に異世界のドラゴンであるという事実が明らかになった」

 

「『魔石』がないモンスターなんて聞いたこともないわよ。これで納得できたわ」

 

「うん・・・・・あのドラゴン達は強い」

 

全て、納得できた。アイズ達は一誠のことを全部知ったように思えた。しかし、それでもほんの一部でしかなかった。

 

「でも、どーしてイッセーは異世界からここに来たんだろうねー?」

 

「それは・・・・・」

 

「私達が分かるわけ無いでしょ。というか、聞けそうにもない話だわ」

 

どんな理由でこの世界に来たのか。また一誠に関する謎が増えた。

 

「・・・・・リヴェリア、イッセーのこと。ロキにも言うの?」

 

「フィンとガレスに知られた以上、言わないわけにはいかない。お前達からもロキに追及されることだろう。すまない、私の落ち度で苦労を掛ける」

 

「そんなっ、気にしてませんよリヴェリア様」

 

「いつかバレることだったし、しょうがないわ」

 

「そうそう。ティオナがいつイッセーの秘密を、口を滑らすのか見ている方がハラハラものだったもの」

 

それはどういう意味だよー!と不満げに姉に食って掛かるティオナの隣でアイズは気になったことを口にする。

 

「イッセーはいま・・・・・」

 

「家の中にいる。夕餉にも加わらずずっと引き籠っているようだな」

 

「んじゃ、イッセーに会いに行こうよ!」

 

勢いよく立ちあがるティオナに続き、「うん」とアイズも立ち上がればレフィーヤ、ティオネも立ち上がった。しかし、リヴェリアは一誠に対して申し訳なさ、罪悪感を抱いているのか「私はいい」と遠慮していたが、

 

「イッセーにバラしちゃったことで謝りに行かないと、何時まで経ってもお互い仲が戻れないって」

 

「そうね。ティオナに同意見よ」

 

「私も、イッセーとリヴェリアが喧嘩するところみたくない、かも」

 

「い、一緒に謝って許してもらいましょうっ」

 

四人に引っ張られ、押される形でリヴェリアは当惑した面持ちで一誠達元【アテネ・ファミリア】がいる家に赴いた。辿り着きティオナが確認もせず、扉を開け放って一番乗りで入った矢先―――。

 

「・・・・・」

 

「「「「「・・・・・」」」」」

 

床と一体化しそうな勢いで土下座を無言でしていた椿と、もう許してあげなよと雰囲気をヘスティア達が醸し出している原因である、床で黙々と春姫の狐の尾と自分の尾を互いに手入れをさせて、してもらっている一誠がいた。

 

「・・・・・アイズ達か。何の用だ」

 

「言いたいことがあるんだけどその前に、彼女は何をやっているの?」

 

「極東式の誠心誠意の謝罪。かれこれ一時間はずっとその状態だ」

 

「ゆ、許していますか?」

 

「勝手に土下座をしている相手に、許すも何もあるか?」

 

椿に見向きもしない一誠にレフィーヤは頬を引き攣った。

 

「まあ、イッセー君もこんな感じでね。俺等もそれとなく止めさせようとしているんだが」

 

「ずっとこの状態なんだよ」

 

ヘルメスとヘスティアもほとほと困っている様子だった。この重苦しい空気をどうにかしたいが、本人達が頑になって止めようともしない。

 

「イッセー。リヴェリアも許してくれない?団長達にバレたのって仕方がないと思うわ」

 

ティオネが許しを乞う。アイズ達も口々に「お願い」「許してあげて」と言うものの、

 

「バレてしまったらもうどうでもいい。別に謝らなくても気にしなくてもいいぞ」

 

素っ気なく言い放ち、「今は春姫の尾の手入れに集中したい」と太い金の尻尾にブラシで梳かし続ける。

 

「でも、椿様が・・・・・」

 

「だから・・・・・」

 

億劫そうにようやく一誠はアイズ達に振り向いた。

 

「勝手に土下座をしている相手に許すも何もあるかって俺は言ったぞ。俺の秘密がフィン達に知られた以上、許す以前にもうどうでもいいって思ってんだよこっちは。だから、謝られても俺は気にしないようにしているんだ」

 

「だけど、土下座してるよ?」

 

「・・・・・」

 

ティオナに言葉で隻眼の瞳は銅像みたいに微動だもしない椿を見据え、距離がある椿に向かってデコピンをしてみせたところで、ビシッ!という音がハーフドワーフの頭から聞こえた。

 

「いだっ!?」

 

同時に、突然の痛みに上半身を起こして―――口の端に涎を流していた椿のまだ眠そうな顔が晒していた。

 

「そいつ、寝だしたからそのままにしていただけだ」

 

『・・・・・』

 

何とも形容し難い空気が醸し出す。心底から、許されないでいた椿が許してもらうまで誠心誠意の謝罪をしているのだと思っていたのに土下座をしたまま寝ていたという何とも間際らしく、呆れた。

 

「じゃあ、二人を許しているんだね?」

 

「俺は気にしていないと言っているんだ」

 

「だってさ。良かったね二人とも」

 

リヴェリアと椿にヘルメスは一誠の代わりに許していると告げた。重たい空気も次第に和らぎ、

 

「イッセーイッセー!聞きたいこと有るんだけどイッセーがいた異世界ってどんな世界だったのか教えてよ!」

 

『・・・・・』

 

天真爛漫なアマゾネスの言葉で場の空気が停止したかのように静まり返った。

 

「・・・・・ティオナ」

 

「うん?」

 

「多分だが・・・・・神ヘルメスと神ヘスティア達まで、イッセーの秘密は知らされていないと思う」

 

それが証拠とばかりヘスティア達は一誠を見つめ、「異世界ってどういうこと」と視線で訴えている様子をリヴェリアは窺えた。「・・・・・へ?」と目をパチクリしたティオナがリヴェリアに向けていた視線を一誠に戻した次の瞬間。真紅のオーラが怒りを表しているかのように一誠から迸り、ティオナにギロリッ、と睨み始めた。

 

「おい、そこのバカゾネス。ちょっとこっちに来い」

 

片腕を龍化に、部分的に大きくしてティオナを鷲掴みにした。そして、そのまま奥の部屋へと連行され―――。

 

 

『―――人の秘密をポロっと言う口はこの口かぁああああああ!なぁおい、あああああああああああああんっ!?』

 

『ご、ごめんなさぁあああああああああいっ!だから許して、イッセーって、それをあたしにどうする気なの!?嫌だ、嫌だよ!ティオネ、レフィーヤ、リヴェリア、アイズ!た、助けてェエエエエエエエッ!―――いやああああああああっ!』

 

 

物凄く五月蠅い音が聞こえ続けること三分間。戻ってきた一誠と・・・・・何らかのトラウマを植え付けられた様子のティオナ。瞳に生気の光が消えていて、ブツブツと呟き、その呟きが聞こえると「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」と馬鹿の一つ覚えに言い続ける。

 

「・・・・・ヘルメス、ヘスティア、ベル坊達。俺に何か聞きたいことがあるかな?今なら何だって答えてあげるが」

 

『・・・・・っ!?』

 

一同揃って、首を横に振る。一誠の拳に赤い液体が付着していて、笑っていない眼で問われ、心から今の一誠に恐怖を抱いたヘスティア達だった。春姫達ですら、顔を青ざめて身を寄せ合っている。

 

「・・・・・イッセー怖いっ」

 

「ティオナ、ねぇティオナたらっ。しっかりしなさいよっ」

 

「そっとしておけ・・・・・というのは無理があるか」

 

「し、失礼いたしましたぁッ!?」

 

あまりに怖さにレフィーヤがアイズ達を押して家から逃げるようにいなくなった。

 

「あ、あ~・・・・・俺達も今日は外で寝ようか?」

 

「そ、そうだね!冒険者は野宿するこそ冒険の意味があるんだ!ベル君達も本懐だろう!?」

 

「「は、はいっ!野宿最高です!」」

 

脱兎のごとくベル達も家から飛び出して元【アテネ・ファミリア】とアミッドと椿だけとなった。

 

「とうとう・・・・・知られちゃいましたねイッセー」

 

「俺が望んでもない形でな」

 

一誠の秘密を知っている他派閥でもう一人、アミッドが一誠から離れようとはしなかった。

 

「お前も外で寝ようとはしないんだな」

 

「私はどんなイッセーでも受け入れていますから」

 

嬉しい言葉に口元を緩ませて笑む少年。

 

「・・・・・もしや、お前もイッセーの秘密を知っておるのか?」

 

椿は何かを察してアミッドに問うと、彼女は肯定した。

 

「はい知っております。戦争遊戯(ウォーゲーム)が始まる前からでしょうか」

 

「なぬっ!?」

 

「ああ、そうだな。椿と出会うのもその後だったし、付き合いの長いアイズ達でさえ今知ったばっかりだ。俺のことに関しては今リードしているのは【アテネ・ファミリア】とアミッドだろうさ」

 

意外なところで他の【ファミリア】にも一誠の秘密を知っている冒険者がいたことに椿は眼を張る。仲の良いのは薄々知っていたが、一誠の秘密すら教えられていたまでは思いもしないでいた。

 

「つかぬことを聞くが・・・・・二人はどんな関係だ?」

 

「っ!」

 

椿の質問に、唇を重ね合った仲―――主神(ディアンケヒト)に隠れて恋人同士になった仲であることを改めて自覚し、精緻な人形を彷彿させる顔に薄らと朱を散ばせた。

 

「俺の傍にいさせたい大切な女性の一人だな」

 

隣で堂々と言う一誠にますます顔を赤くする銀髪の少女(ヒューマン)。羞恥と嬉しさ、照れが混ざった感情がアミッドの

 

「・・・・・」

 

何故だろうか。これほどまでに面白くないと思ったことは初めてであった。一誠が誰と仲良くするのは一向に構わないし口に出すことすらおこがましいと思う。だが、秘密を知る者の中ではアミッドに後れをとっている感が覚えてしまう。

 

「・・・・・むぅ」

 

秘密をフィンやガレスにバレてしまった原因は己にもあると自覚するも、釈然としない。一誠の中で椿(じぶん)の好感度、もとい信用度は減っているかもしれないがせっかく見つけたお気に入りを奪われてしまうのは嫌に決まっている。ならば、どうすればいいと思えば。アミッドに対抗心を燃やし、一誠の腕を徐に抱えた。

 

「・・・・・椿?」

 

「【戦場の聖女(デア・セイント)】。手前は負けんからな、覚悟するがいい」

 

「・・・・・」

 

恋する少女(アミッド)も女として直感で察した。目の前の最上級鍛冶師(マスター・スミス)も一誠を狙っている女であることを。身長と胸の大きさは火を見るより明らかで、確実に劣っているがそれでも想いの丈だけは負けたくないと小柄な体で椿に対抗して恋している少年の腕を抱え出し椿に強い眼差しを送って口を開いた。

 

「負けません。こればかりは」

 

「ふっふっふっ。燃える戦いは嫌いではないぞ手前は?寧ろ好むほうだ」

 

己を挟んで女の勝負の火蓋が切って落とされようとしている状況に一誠はただ佇むばかり。

 

―――○●○―――

 

「おい、鍛冶師(スミス)達が全快になってるんだ!?どうなってやがる!?兎野郎もいるってどういうことだ!?」

 

「イッセーが治して、【ディアンケヒト・ファミリア】の高位治癒魔法が使える治療師(ヒーラー)のアミッドを連れてきてくれたんだよ。んで、こううるさくなるからベートに説明しなかったんじゃーん。ほら、行った行った!」

 

「俺が地上に駆り出た意味がねーじゃねぇかよ!?って、おいこらっ、放せ馬鹿アマゾネス!?」

 

【ロキ・ファミリア】遠征隊、帰還当日。どこもかしこも出発の準備に追われている。アイズの周囲では多くの団員が天幕をたたみ、まとめた物資を運搬用のカーゴに詰め込んでいた。そんな中で、【ヘファイストス・ファミリア】の回復とベルがこの野営地に滞在していたと聞いた狼人(ウェアウルフ)のベートは、声を荒げティオナやティオネに問いただしていた。解毒薬を運ぶため地上と迷宮を往復していたベートにとっては寝耳に水の話だろう。

 

すると・・・・・。

 

17階層に繋がる連絡路から凄まじい衝撃音が響いてきた。地上に帰還する為に物資を纏めていた団員達の手も必然的に止まって誰もが音がした洞穴に目を向けた。しばらくして17階層の連絡路から、真紅の髪を揺らして現れた一人の冒険者が巨大な『魔石』とドロップアイテムと思しきモンスターの巨大な『歯牙』を担いでいた。

 

「・・・・・イッセー?」

 

「階層主を倒してきた」

 

これでスムーズに地上へ帰還できるぞと言ってはばからない少年はそのままアイズから離れた。

 

「アイズ、あいつはなんなんだ」

 

「・・・・・多分、帰ったら分かるよ」

 

眉根を吊り上げ、アイズに訝しむ。何かを知っている様子であるが、金髪金眼の少女は己の仕事に没頭し始める。

 

 

 

「イッセー、私達は帰らないの?そろそろ出発の時間でしょ?」

 

「地上に戻るだけならいつでも戻れる。その前に、ベル坊達の姿が見当たらない」

 

「クリスタルでも集めているんじゃないのかい?」

 

「いや・・・・・そうでもなさそうだ。多くの人の気が集まっている場所に向かっている。そこにベル坊がいるみたいだし、なんか、面倒事に巻き込まれているかな」

 

「なら、様子を見に行く?」

 

「しょうがないが、そうしよう。フィンに伝えてくれるか?」

 

 

 

「・・・・」

 

松明の炎が揺らめいている。『古代』の神殿を彷彿させる石造りの広間。辺りは薄暗く、燃える炎の音を除けば静寂に包まれていた。ギルド本部地下『祈祷の間』である。四炬の松明が設置された中央祭壇の上で、巨大な神座に腰かける老神、ウラノスはその蒼色の双眸を細めた。

 

「どうした、ウラノス?」

 

己の足元を見つめる彼に、傍に控えていた黒衣の人物が声を掛ける。自身の側近である魔術師(メイジ)フェルズに対し、ウラノスは口を開いた。

 

「私の神意(こえ)が、ダンジョンに届かなくなった」

 

その発言に、フェルズは一瞬硬直した後、その漆黒のローブを揺らし驚愕の叫声を上げた。

 

「まさか、『祈祷』が途切れたというのか!?」

 

「そうだ・・・・・ダンジョンが、暴走している」

 

フェルズの問いにウラノスは不穏な発言を持って返答する。彼は眼下、今いる祭壇の真下に広がる地下迷宮を険しく見据えた。

 

「恐らく、神がダンジョンに侵入したのだろう。ダンジョンはそれに気づいてしまった。だが、これは・・・・・」

 

己の考えを悟った後、不動の老神は言葉を途切れさせた。

 

目の前に突如として浮かび上がる魔法円(マジックサークル)に映り込む18階層の光景。数多の冒険者に対峙して暴れ回る漆黒の巨人が。

 

「・・・・・ウラノス、これは」

 

「ああ・・・・・」

 

フェルズの言葉に、ウラノスは頷く。

 

「ゼウス達がいなくなった後に、変転を迎える、か・・・・・」

 

目の前の映像をこの場所で見させてくれる協力者の仕業と察しながら、ここではないどこかに視線を馳せるように、闇で塞がれた頭上を仰ぐ。やがて、神は静かに瞑目した。

 

「時代が動く」

 

満身創痍の兎が漆黒の巨人にその小さな純白の牙で倒し、英雄の器としての行動を見せ付けた。それは―――。

 

 

 

「18階層で・・・・・異常事態(イレギュラー)が発生していたとはね」

 

【ロキ・ファミリア】達にも観られていた。突如現れた魔法円(マジックサークル)に警戒しながらも映り出す18階層の異変に歩みを止めないまま戦いの終幕が閉じるまで見つめていた。

 

「すごーい!アルゴノゥト君がゴライアスを倒しちゃったよ!」

 

「こんなことできるのって・・・・・イッセーだけよね。熱くなるものを見せ付けてくれるじゃない」

 

フィン達一人一人に映像を見せられ、18階層の事の顛末を知り、感動、興奮、驚愕と驚倒。様々な思いを、感情を抱く。

 

「あの兎野郎・・・・・っ」

 

「・・・・・」

 

顔にある入れ墨が歪むほど、ベートの眼に何かが宿った。レフィーヤも息を呑み、仲間に労われ、称賛の言葉を送られ、凱歌と歓喜を雄叫びとして上げて兎を囲む老若男女、女神の姿や心底笑う兎を紺碧色の眼が離せないでいる。

 

「ガッハッハッハッ!熱い戦いを見させてくれたのぉっ!」

 

「ああ・・・・・とても眩しい戦いだった」

 

最後尾にいるガレスとリヴェリアもまた、一人の冒険者として瞼の裏に焼き付いてしまったようだった。

ベル・クラネルという若い兎の少年の戦いを。

 

「・・・・・頑張ったね」

 

嬉しそうに、安心したように優しくベル達を見つめるアイズもまた、負けん気の炎を胸中に抱くのであった。

 

 

 

「・・・・・ああ、お前が羨ましいぞベル坊」

 

一瞬でも異常事態(イレギュラー)の鎮圧を参加せず、ウラノス達やフィン達に映像を見せ続けた一誠がポツリと漏らした。隻眼の瞳からも羨望の眼差しを真っ直ぐベルに向けている。

 

「俺にはお前みたいに喜ぶことはもうできない」

 

一誠は当たり前、ベルは苦難を超えて、その後に勝ち得た喜びは対極的だ。虚空と達成感。

 

「見ていると懐かしくなる・・・・・」

 

「イッセー様・・・・・ッ?」

 

傍で一緒に見守っていた春姫の眼が張った。眼帯を付けている右眼からも、左眼と同じくして涙を流して頬を汚している一誠に。

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