オラリオで自由気ままに過ごすのはダメだろうか(一時完結)   作:ダーク・シリウス

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冒険譚34

「超・有能な俺の子供達(ファミリー)よ!今日という日を俺は待ち望んでいた!全世界にいる子供達の顔に笑みと喜びを与えるであろうこの日を!」

 

数々の【ファミリア】の中で都市最大団員数を誇り、多くの上級冒険者を保有するオラリオの大派閥【ガネーシャ・ファミリア】の主神の登場に、変わり果てた【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)に集結している団員達がガネーシャの話に耳を傾けている。娯楽施設と見紛うことのない数々の施設や建物の中で空間が広い場所で主神の演説は始まっていたのだ。ヘルメスとアテネと同盟を組んでいるのだが、アテネが天界に送還されてしまったものの、ガネーシャとヘルメスはアテネ抜きで一誠の気持ちも組んで決行することに。

 

「お前達、問題が起きても速やかに対処するのだ!お前達、問題なく己の務めを全うせよ!お前達、俺に子供達の笑顔を見せてくれ!頼んだぞ!」

 

『かしこまりましたっ!』

 

乱れのない返事をする団員達に満足げに見つめる。団員達もガネーシャと同じ象の仮面を被って、それが娯楽施設内で働く正式な衣装としてこれから行われ、それに務めることになる。この晴天の空の下で。

 

「―――ガネーシャ」

 

虚空から蜃気楼のように現れる真紅の髪の少年が「開店の時間だ」と短く告げると「分かった!」と叫ぶガネーシャであった。

 

「では、門を開け!【ガネーシャ・ファミリア】の新たな在り方の幕開けだぁっ!」

 

 

 

「ウラノス、彼等が動いた」

 

『古代』の神殿を彷彿させる石造りの広間。薄暗く、四炬の松明が唯一の光源。『目』を放っていた黒衣の人物のフェルズに話しかけられたウラノスの蒼い瞳は瞑目した。

 

「そうか」

 

「これで、異世界のやり方でモンスターに対する警戒を和らぐといいのだが」

 

「少なくとも、我々は彼らに任せる他ない。我々神と下界の子供達の考えと概念、思想を覆す異世界のやり方でオラリオがどう変わるのかをも」

 

 

 

 

『迷宮都市』オラリオの空で爆音が響く。【ヘルメス・ファミリア】の【ガネーシャ・ファミリア】の遊園地の開園日が今日であると事前にオラリオも含め世界各地で知らされている。その為、オラリオに足を運ぶ商人や貴族、一般人が後を絶たず、検問をしているギルド員達は多忙に強いられる。特に商人に対しては違法な取引をしないか、厳密な商品の確認をしなければならない。

 

 

『冒険者の方はこちらからのご入場とさせてもらっております!』

 

『ご入場の際、所持している鞄の中身のチェックをさせてもらいます!ご了承ください!』

 

意気揚々と『娯楽』を求めに【ガネーシャ・ファミリア】の敷地内に入ろうとする人類や神々。老若男女、種族問わず無料か代金を支払ってもらい、中に入場させるのだ。冒険者であれば【ファミリア】のエンブレムと名前を羊皮紙に記入してもらい、全ての装備を預からせてもらう前提でボディチェック、武器の持ち込みを厳禁を徹底的に行われている。

 

「人が多すぎでしょう」

 

「ちょっと、歩き辛いですね」

 

「でも、何だか楽しいじゃん!ねっ、アイズ」

 

「・・・・・うん」

 

四人の少女達、アイズとレフィーヤ、ティオナとティオネも遊園地にやってきていた。事前に遊園地の楽しさを知っているアイズ達にとって、前回と今回の違いは明らかだった。賑やかに【ガネーシャ・ファミリア】の敷地内を闊歩する人類と神々の中に紛れて、人から人へ伝わる楽しさが伝染していくのである。

 

『キャー!?』

 

『ギャアアアアアアアアッ!?』

 

「あっ!あたし達が乗ったことのあるジェットコースターだ!」

 

「ここからでも聞こえるほど物凄い悲鳴を上げてるわね・・・・・」

 

「確か、絶叫系の乗り物だとか言ってましたね・・・・・」

 

「うん、乗っている人達、叫んでるね」

 

あれが本当の絶叫・・・・・と四人は悟った。数えるのも億劫しい組み立てられた鉄製の柱の上で滑っている乗り物から恐怖と歓喜が入り混じっている悲鳴が耳朶を刺激してくる。アイズ達第一級冒険者からすれば動いている乗り物は遅く見えるものの、下級冒険者や一般人からすれば乗るかどうかを躊躇してしまいそうな速度と聞こえてくる悲鳴にますます委縮してしまいそうになる。

 

「あたし達も早く楽しもうよ!」

 

「ちょっと待ちなさいよ。そろそろ怪物祭(モンスターフィリア)ってのが始まるからそれを見ましょうよ」

 

うずうずして落ち付きのないティオナに自分の希望を提案するティオネ。

 

怪物祭(モンスターフィリア)って、調教(テイム)のショーのことでしょうか?でも、闘技場(コロシアム)はここにありませんが・・・・・」

 

知っている見世物(ショー)に疑問を抱き、入場する際に受け取った【ガネーシャ・ファミリア】の敷地内の地図に視線を落とす。六芒星の形をした遊園地の中心部は【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)。各場所にパンフレットがどこに何があるのか怪物祭(モンスターフィリア)が行われる時間帯も記されている。

 

ティオネが見たいその見世物(ショー)はもう間もなく始まろうとしていた。

 

 

―――さあ、始めようか。ガネーシャ、リド達。準備は良いか?

 

―――何時でも構わん!というより、早く披露しようアテネの子供よ!

 

―――頑張るぜ!

 

 

『これから怪物祭(モンスターフィリア)を始めます!どうかお静かに、そして楽しんでください!』

 

【ガネーシャ・ファミリア】の団員達が忙しなく動き始める。侵入を阻む為の柵が設置されていき、アイズ達は設置された柵の前で佇み、これから始まるであろう催しを待っていることしばらく―――。ガネーシャを象った本拠(ホーム)から盛大な音楽を始め、胡坐を掻く股間からゆっくりと動く乗り物を始め、人とモンスターが楽器を巧みに使いこなしては演奏をしつつ出て来て、敷地内にいる全ての客達に見せ付けたのだ。

 

「えええええええええええっ!?」

 

「モ、モンスターが・・・・・というより、あれって」

 

「あっ、リド達もいるじゃん!?」

 

「・・・・・これが怪物祭(モンスターフィリア)・・・・・」

 

人類の敵、ダンジョンに棲息する化け物や怪物。【ガネーシャ・ファミリア】しかできない調教(テイム)で従わせるモンスター達が柵一枚だけで隔離されている状態にて、団員達と一緒にアイズ達の目の前を横切って移動し続ける。中には大型モンスターの背に乗って楽器を扱っている団員もいる。【アテネ・ファミリア】の敷地で知り合った『異端児(ゼノス)』達の姿も窺える。アイズ達の姿を見つけると満面の笑みを浮かべて手を振ってくるその様子に少女達も手を振って「頑張れ」と視線で応援を伝える。

 

「俺がガネーシャである!」

 

鈍い足音を立たせて動く乗り物と交じって歩く木竜(グリーンドラゴン)の背に仁王立ちして謎の姿勢(ポーズ)をし続ける鍛え上げられた褐色肌の肉体と象の仮面を顔に被る主神が現れる。

 

「うわ、凄いことをしてるね【ガネーシャ・ファミリア】・・・・・」

 

「明らかに怪物祭(モンスターフィリア)以上の事を仕出かしてるわね。神がモンスターの背中に乗るなんて前代未聞でしょうに」

 

「ウィーネさん達がいるってことは・・・・・」

 

「うん・・・・・イッセーが関わっているかも」

 

見続ければ、人とモンスターが一緒に踊ったり、空から半鳥半人(ハーピィ)歌人鳥(セイレーン)がガネーシャの腕を足で掴めば空に連れてって「ガネーシャは空を飛んでいるぞー!」とアピールする他所に小型のモンスター達が無邪気に駆けまわったり、木竜(グリーンドラゴン)に負けない大きさのインファント・ドラゴンの背にも数人の団員達が乗っては笑顔で手を振り続ける。

 

「なんだか・・・・・楽しそうですね」

 

「うんっ」

 

調教(テイム)しているところを見るより、こっちのほうが面白いかもね」

 

「そうだね・・・・・」

 

人と怪物(モンスター)の共存は可能と彷彿させ、醸しださせる一団はアイズ達から離れて行き、【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)を一周する為に移動をし続ける。

 

「さーて!あたし達も楽しもう!アイズ、最初は何から楽しむ?」

 

「んと、これ」

 

「あ、怪物判子(モンスタースタンプ)ですか?」

 

「それが始まる時間帯はまだ先だけど?」

 

全種のスタンプを押す、または押してもられば商品を無料で手に入るというイベントである。

 

「えっと、全部のスタンプを手に入れれば・・・・・体力と精神力が同時に回復する二属性回復薬(デュアル・ポーション)っていう道具(アイテム)が貰える!?」

 

「す、凄いです。【ディアンケヒト・ファミリア】でも売ってない回復薬(ポーション)が無料でもらえるなんて!」

 

「これ、次の遠征に絶対に欲しいわね」

 

アイズがやりたがっている理由は理解した三人も手に入れたいと意欲という炎を燃え上がらす。

 

「えっと、違う・・・・・」

 

「「「え?」」」

 

この下、と人差し指を下の方へ示したアイズの金眼が映り込む内容は―――。

 

 

『ジャガ丸君早食い競争!優勝商品は一〇〇〇〇〇ヴァリス分のジャガ丸君引換券!(※【ガネーシャ・ファミリア】内に販売されているジャガ丸君店のみ利用可能)。

 

 

「「「・・・・・」」」

 

 

考えが食い違って気恥ずかしそうに、顔を赤らめるアイズ。丁度、腹部から小さな音が聞こえてますます赤くなるアイズにティオナはからかいが含んだ笑みを浮かべた。

 

「アイズの好物は別腹ってことかなー?」

 

「ふふっ、そうね。私達は楽しみに来たんだから、ダンジョンのことを考えるのは止めましょう」

 

「は、はいっ。アイズさん。アイズさんがしたいと思ったらどんどん言ってください!私、例え火の中や水の中、森の中やダンジョンの中でもお供します!」

 

「「レフィーヤ、アウトッ」」

 

「ええええええええっ!?」といきなりアマゾネス姉妹から駄目だしされる。

 

「ダンジョンのことを考えるのはダメって言ったでしょうが」

 

「か、考えていませんよ!?」

 

「口にしても駄目ってことだよレフィーヤ?」

 

そこまで解りません!?と突っ込むエルフの少女。

 

「・・・・・み、皆?」

 

「ああ、そうね。それってそろそろ始まっちゃうイベントだし、アイズがやりたいことを私達は応援をするだけよ」

 

場所はどこ?とティオネの尋ねにアイズは目的地へ移動し始めるのでティオナとレフィーヤも続く。

 

 

「やぁ、イッセー君。調子はどうだい?」

 

「ヘルメス。ああ、上々だ。売上金も予想している金額の三分の一を過ぎている」

 

【ガネーシャ・ファミリア】の敷地内のとある暗い空間。監視カメラで遊園地内の様子を映して監視している一誠にヘルメスが一人やってきた。優男神の問いに答える一誠の隣で顎に手をやって一緒に監視する。

 

「んー、まだまだってところか。結構な人数が入ってきていると思うんだけどねぇ。実際、どれぐらい来ている?」

 

「大雑把で言えば五万人は超えたぞ」

 

「ははっ、遊園地ってのは凄いね。怪物祭(モンスターフィリア)並じゃないか!」

 

「一ヶ月後の報酬は期待しても良さそうだぞヘルメス」

 

そう言うと、ヘルメスの橙黄色の目は弓なりに作った。

 

「期待させてもらうよ。なんせ、ギルドから18階層の異常事態(イレギュラー)の件でかなりの罰金(ペナルティ)を食らってしまった。蓄えていた【ファミリア】の貯金と以前ルルネが得た報酬も殆どを失ったよもう」

 

「ふははははっ!対して俺はアテネが天界に送還されたから罰則(ペナルティ)すら課せられていない!」

 

「・・・・・君が恨めしいと思った日は今日が初めてだよイッセー君」

 

痛くも痒くもないと言外する主神無き異常(イレギュラー)な元冒険者に悔しげな表情を浮かべ出す男神だった。

 

―――○●○―――

 

【ガネーシャ・ファミリア】で賑やかになっている頃、北部の区画にある【黄昏の館】では主神ロキを始め首領の小人族(パルゥム)、副団長の王族(ハイエルフ)、老兵のドワーフが執務室で狼人(ウェアウルフ)の青年を交えて異常(イレギュラー)な少年の秘密を明かしていた。リヴェリアから話を聞くロキの糸目が驚きに瞳孔を丸くする。

 

「異世界・・・・・やと?しかも、うちらと同じ名前を持つ神がいる異世界から・・・・・?」

 

「ロキ、異世界という存在は神々でも確認できていたか?」

 

茫然自失になり掛けている己等の主神に問うも、朱色の髪を横に振って否定する。

 

「ありえへん。そんな世界が他にもあるなんてうちらは認知すらしてへんで。なぁ、リヴェリア・・・・・どうしてそのことをうちらにアイズ達と隠しておったんや?」

 

「本人に黙って欲しいと言われたからだ。バラしたら、バレたら私は責任を持って【ファミリア】を脱退せざるを得なかった。【アテネ・ファミリア】に改宗(コンバージョン)する形でな」

 

主神の知らぬ間にアテネと交わしていた約束に驚くロキ。だが、肝心のアテネは天界に送還されている為に、改宗(コンバージョン)は無効の結果になっている。

 

「なら、あの子供の秘密を他の神にも教えても平気やな」

 

「それだけは止めてくれロキ。イッセーが姿を暗ますと宣言している。二度と会えなくなってアイズ達が落ち込む様を見たいのか?」

 

うぐっ、と冗談で言ったつもりが翡翠の双眸から非難の色が浮かんで大好きな子供達から笑顔が無くなることを避けたいロキは「すまん」と短く言って反省する。

 

「アテネの子供の異様な強さの秘密は、うちらに向かって言った『甘え』ってのがそーいうことやったか。しかも実はモンスターだなんて・・・・・それこそありえへんわぁ。リヴェリア、今更だけどアテネの子供って大丈夫なん?」

 

「無害だ」

 

断言するリヴェリア。嘘も言っていないことも悟り、溜息を吐く。

 

「無害ならしょーもないな。できればアイズたん達は関わって欲しくないんやけど。話を聞いてアテネの子供は得体の知れない印象を抱いてしもうたわ。フィンとガレスはどう思うんや」

 

「彼、姿形はヒューマンだからね。種族は龍族(ドラゴン)って知った辺りから疑問を抱いていたけれど、本人は偽ってもいなかった。今回の『遠征』で少なからず助かっているし、害は無いと思うよ」

 

「モンスターである事実を除けば、愉快な男じゃな」

 

問題は無いと思う、その思いを心から感じているフィンとガレスの言葉の後にロキはベートにも訊ねた。

 

「ベートはどう思うん?」

 

執務室に来て、一誠の秘密を聞いても黙っていたベートはロキからの質問にようやく口を開いた。

 

「知るか。あの野郎がモンスターみたいな行動をしたら蹴り殺すだけだ」

 

「少なくとも、彼に認めているってことかな?」

 

「ああ!?誰が誰を認めているんだ!」

 

不機嫌な面持のベートはフィンに向かって食って掛かり、舌打ちをして執務室からいなくなってしまった。

 

「んで、アテネの子供の秘密を知ってる神や冒険者は誰なんや?」

 

「今分かっている段階で、【ヘスティア・ファミリア】と【ヘルメス・ファミリア】、【ヘファイストス・ファミリア】、【タケミカヅチ・ファミリア】、怪しいけど【ディアンケヒト・ファミリア】のアミッド・デアサーレかな」

 

「・・・・・イロボケ女神が含まれていないのは幸いかぁ?」

 

フィンとガレス、リヴェリアは知らない。ギルドの主神ウラノスも一誠の秘密を知っている神であることを。

 

「アテネは当然知っておるとして・・・・・どうしてまた異世界からこの世界に来たんやろうな」

 

「さあ、それはリヴェリアも知らないみたいだから本人に聞くしかないだろうけど、言ってくれそうにもないよ。あまり自分のことを言いふらしたくないようだから」

 

「めっちゃ気になるんやけど?というか、異世界のうちってどんな奴なのかも気になるわぁー」

 

「男じゃったらどうする?」

 

顎に生えている髭を擦りながら、愉快気味で問うガレスに「そんなのいややぁー!?」と全力で否定する主神は。実際は本当に男であることをこの時のロキはまだ知らない。

 

「ンー、ロキより身体が豊かだったらどうする?」

 

「それも嫌に決まっとる!」

 

「我儘だな・・・・・」

 

なら、どんな異世界の自分であればいいのかと聞こうかと思ったが、面倒になりそうな予感をして口に出そうになった言葉を喉に詰まらせた。

 

「寧ろ、ドチビのやつが男だったらおもろいわ!」

 

「のう、誰のことを言っているのか分からんがロキ。実際あの者はどうする?敵対しておる派閥の手に渡るとは思わんが今後の元【アテネ・ファミリア】の奴等の同行が気になる」

 

「できれば、僕等の仲間になってくれるとベストだけどね」

 

「むぅ・・・異常(イレギュラー)の塊を野放しにする方も危なっかしいし、かといって爆弾みたいなアテネの子供をうちらが抱えるのも恐いで?アテネの奴、よくとまぁ、あんな子供と【ファミリア】を作ったな」

 

アテネはアテネで、神々を天界に送還すれば他の問題などどうでもいいという考えをロキは知らなかっただけであった。

 

「・・・・・その事なんだが、神ヘルメスと既に話してある」

 

不意にリヴェリアが口を開いた。不思議に首を傾げるロキも口を開く。

 

「リヴェリア、なんのことや?」

 

「イッセー達を食客として【ファミリア】に居てくれないかという話しだ」

 

後は本人達の気持ち次第だとリヴェリアはロキ達に告げた。正式に改宗(コンバージョン)しなくても、元々強い一誠であればどこの【ファミリア】でも問題なく一時的なその派閥の団員となれるではないかとヘルメスの考えだ。それも加えてロキ達に伝えると。

 

「ヘルメス野郎・・・・・なんちゅーことを考えるんや。確実に狙っておるの丸分かりやで」

 

「食客か・・・・・今まで考えもしなかったことだとは思わないかいガレス」

 

「基本、他派閥と干渉することはないからのぉ」

 

フィンとガレスが互いの顔を見合わせては頷き、揃って一誠に懸念しているロキを他所に「「リヴェリア、ナイス」」と親指を立て始める。

 

「ロキ?もしもの場合にリヴェリアの話に乗った方がいいよ」

 

「何でやフィン」

 

「今回の『遠征』で膨大な費用が掛かってしまった上に、特効薬の買い占め・・・・・その結果が貯蓄しておった金銭もしばらくは火の車状態までなくなったからじゃよ」

 

「それは・・・・・」と大好きな子供達が一人も残らず生きて帰ってくれるなら仕方のないことだと受け入れているロキ。しかし、ロキ以上に今後のことを思ってフィン達はギルドに支払う税金のことも考え、一誠の力、異常なまでの行動力を欲している。かつて、団員がまだ一人で零細だったはずの【ファミリア】の貯蓄が数億まで稼いだ一誠を思い出して。

 

「忘れたのかいロキ。彼は一人で数億ヴァリスを稼いだことを。彼の正体、モンスター云々以前に、彼をどこの派閥が引きこまれた瞬間、膨大な富が手に入る。言い方が悪いけど、イッセーを利用しない手は無い」

 

 

 

北西のメインストリートにある武具屋―――。

 

紅髪紅眼の女神が赤髪の青年の背に刻まれている神の恩恵(ファルナ)―――【ステイタス】の更新の作業の光景を黒髪、右眼に物々しい漆黒の眼帯を付けている主神と反対に左眼に眼帯を付けている褐色肌のハーフドワーフの女性が見守っていた。そして、

 

「おめでとうヴェルフ。ランクアップしてるわよ。発展アビリティ『鍛冶』のスキルも発現したわ」

 

「っ!?」

 

青年にとって、鍛冶師(スミス)にとって嬉しい報告と現実であった。Lv.2となり、『鍛冶』のアビリティも手に入り胸張って上級鍛冶師(ハイ・スミス)と成れたのだ。

 

「ヴェル吉もいよいよ成長したか。だが、手前からすればまだまだひよっこだ」

 

「うるせ、いつか絶対にお前を追い抜いてやる」

 

「であれば、己の才能を、その血筋を否定するでないわ」

 

不敵の笑みを浮かべる【ヘファイストス・ファミリア】の最上級鍛冶師(マスター・スミス)に物言いに上級鍛冶師(ハイ・スミス)と成った青年は余計な世話だ!と噛みつこうとしたが、

 

「鍛冶師でもないある者は手前と主神様が認める一級品の武器を打つぞ?些細なことで拘っておるどこかの若造と違ってな」

 

「―――っ」

 

それは、元【アテネ・ファミリア】の団員だった少年のことを差しているのだとヴェルフはすぐに察した。

 

「椿・・・・・」

 

「心配いらん主神様よ。訳あってな、ヴェル吉も知っておるのだ。イッセーの秘密をな」

 

「なっ・・・・・」

 

鍛冶師の女神が隻眼の紅眼を丸くした。つまり、一誠との約束を破ってしまったということになる。

 

「椿貴女・・・・・なんてことを・・・・・彼怒るわよ」

 

「もう怒られた・・・・いや、呆られてしまったわ。口の軽いハーフドワーフとな。後で許されたが」

 

「・・・・・いつか謝りに行かないといけないわね」

 

一誠に対して申し訳ないと溜息を零すヘファイストスと椿の会話のやり取りに意を決してヴェルフは問う。

 

「ヘファイストス様。本当にあいつは・・・・・鍛冶ができるんですか?」

 

お喋りな団長から聞かされたのだろうと瞑目して、気持ちを切り替えて肯定とヴェルフの質問に答えた。

 

「できるわよ。私と椿も彼の作業をこの目で見てきたわ。私自身が認める最高の作品を打つわ」

 

「っ・・・・・」

 

「ふっふっふっ。凄かったぞ?異世界からやって来た―――」

 

「椿!?」

 

本当に口の軽い、と椿に対してこれ以上一誠の秘密を明るみにしてはいけないと叱咤するものの、ヴェルフはヘファイストスの声を遮って「続けろ」と促した。

 

「イッセーはな。この世界とは違う世界からやってきた者でな。異世界の鍛冶師の神に鍛冶を教えてもらったそうなのだ。その神の名は主神様と同じヘファイストスで―――くくくっ」

 

突然笑い始める椿。思い出し笑いであることを椿しか知らない故に「・・・・・なに笑ってやがる?」と訝しい面持ちになるヴェルフ。

 

「なに、異世界のヘファイストスが実は―――」

 

面白可笑しく言葉を続けようとした椿と耳を傾けていたヴェルフに。

 

「いい加減にしなさい」

 

神ヘファイストスの神威が放たれてしまい、椿は口を閉ざすを得なくなった。

 

「椿、お喋りが過ぎるわよ。誰が彼の秘密を言っていいといったかしら?」

 

鋭い紅の眼差しを向けられるハーフドワーフの顔に薄らと冷や汗を浮かばせた。ヴェルフも顔を青ざめて本気で怒っている主神を初めて見たと後にそんな思いを抱くのだった。

 

「私から彼の信用と信頼を失わせたいの椿?下界では神が子供の信用と信頼が無くては生きていけれなくなって、生きる為にそれはとても大事な事なのよ?それを貴女はそれすら解ってないみたいね」

 

「う、む・・・・・」

 

「―――ヴェルフ」

 

「は、はいっ!?」

 

今度は自分の番か、と委縮してしまう。だが、己の考えとは違ってヘファイストスの指先が執務室の扉に差された。

 

「椿と話があるから出てってくれるかしら」

 

「わ、分かりました」

 

「待てヴェル吉!?手前を見捨てる気か!」

 

見捨てる・・・・・?とんでもない、とばっちりを食らいたくないだけだ!と主神の命に従いつつこの場から逃げるよう主神と団長に背を向けて、執務室を後にしたヴェルフだった。

 

 

―――椿、土下座。そうね・・・・・神友が30時間もし続けたからあなたも30時間土下座をしていなさい。まだ言い足りないしね。

 

―――手前が悪かった。だから、もう許して欲しい主神様よ!?

 

 

この時ヴェルフは学んだ。口は災いの元であると改めて―――。

 

「(イッセー・・・・・あの人型モンスターがヘファイストス様を認めさせる鍛冶の腕前・・・・・)」

 

どんな武器を打っているのか、どんな技術の持ち主なのか、抵抗あるも一人の鍛冶師として気になった瞬間でもあった。

 

 

オラリオはすっかり夜となって、【ガネーシャ・ファミリア】が運営する『怪物遊園地(モンスターテーマパーク)』の初日も幕を閉じた。

 

「えー、今日一日の売上金を発表する」

 

「「・・・・・」」

 

ガネーシャ、ヘルメスの二柱の神が一誠から告げられる発表に真摯で耳を傾ける。

 

「お土産や敷地内に構えた店の売上金も含めて・・・・・大雑把で数千万ヴァリスを稼いだ!」

 

「「おおおおおおおっ!」」

 

拍手喝采とまではいかないが、それでも大金を稼いだことを変わりないことに二人は喜びを露わにする。

 

「この状態が一年間続けば億という額まで稼げることができる。が、流石に運営をし続ければ入場客も減ってしまうからそこまでの額は期待できないな」

 

「だったらもっと客を呼び寄せるように頑張ればいいんじゃないかな?」

 

「主にやってくれるのは【ガネーシャ・ファミリア】の団員とギルド員だ。今回みたいな労力が続くと流石にキツいだろう。それとオラリオに誰でも楽しめる巨大な娯楽施設があることを知らせることが目的の一つだし、人から人へと伝われば自ずと向こうからやってくる」

 

ヘルメス達の仕事もこれで終わりだ、と付け加える。後は暇な団員を手伝わせればそれでいいと優男の神に告げる一誠の目の前で「アテネの子供のおかげで子供達の顔に笑顔が浮かんだ!」と歓喜で笑みを浮かべているガネーシャがいた。

 

「ガネーシャ。協力に感謝するよ」

 

「気にするな!子供達の笑顔が見れ、俺の超・優秀な団員達の頑張りで得た利益を得たのだ!このまま遊園地を運営させてもらう!」

 

「二割だけど、それでも高額のお金を貰えるんだから手伝わせてもらうよ」

 

だったら着ぐるみの姿で働いてもらおうか、と明日のことを考える一誠を露知らないヘルメスである。

 

「あっ、【アテネ・ファミリア】にも貰える利益の二割、ガネーシャに譲るよ」

 

「え、どうしてだい?」

 

「二割じゃ、ガネーシャの団員全員に渡す給金が足りないだろう。それに同盟を組んだからってアテネがいないんじゃ、二人だけでやっているような形だ。なら、【アテネ・ファミリア】の売上金二割は主に頑張ってる【ガネーシャ・ファミリア】に譲るよ。俺は俺で、稼いでいる店があるからな」

 

突然言い出す同盟の契約内容。遊園地で稼いだ利益が【ヘルメス・ファミリア】二割と【ガネーシャ・ファミリア】に四割、ギルドに払う税金としての四割という形になった。すると、鍛えられた褐色の肉体が勢いよく

 

「ありがとう!アテネの子供よぉーっ!」

 

「ぎゃー!?」

 

ガバッ!と少年を包みこんだのだった。

 

―――○●○―――

 

「筋肉に抱き絞められた・・・・・春姫、帰ったら抱き締めさせてくれ。モフモフしたい」

 

「モ、モフモフですか?」

 

高い市壁の先で日没が終わり、都市は蒼い闇に覆われる。夜を迎えたオラリオは騒がしさを増していた。酒場や広場から流れてくる陽気な歌声と弾奏。街のあちこちで魔石街灯が発光し、迷宮帰りの冒険者を加えた通りは人込みで溢れ返っている。特に、南のメインストリートに位置する繁華街は一層騒々しい。色とりどりの明かりが大通りを照らし出し、星々に負けないほどの光を放っている。目抜き通りに軒を連ねる店は全て高く、大きく、外観は豪華で派手派手しい。貴族が利用するような高級酒場や賭博場(カジノ)大劇場(シアター)など、都市の他の場所ではお目に掛かれない施設まで数多く建っている。盛り場の名に相応しく、南のメインストリートは非常に混雑していた。そんな大通りから折れた、路地裏の一角。

 

「イッセー、どうしてここに来てるの?」

 

「たまには外食もいいだろうってな。たまにだけど、他の店が作る料理を参考にして作ってるんだ」

 

「今日はその目的で?」

 

「ああ」と肯定する一誠は鳥や獅子など、様々な動物を象った看板が立ち並んでいる酒場を見回して―――。

 

「お―――」

 

金と黒の双眸が何かを捉えた。不思議と春姫達は首を傾げる。【ファミリア】のエンブレムとも似た、真っ赤な蜂の看板を飾る酒場『焔蜂亭』。繁華街の裏道に佇んでいる店に一誠は店内にいる見知った気を四つ感じ取って、四人に対してこの店にしようと伝え、中に入るや否や

 

「威厳も尊厳もない女神が率いる【ファミリア】なんてたかが知られているだろうな!きっと主神が落ちこぼれだから、眷族も腰ぬけなんだ!」

 

荒げた声と同じくしてどこかの主神に対する侮蔑や嘲笑が発せられたと同時に白髪のヒューマンを見つけ、

 

「ベルみーっけ!」

 

「取りけ―――ほわぁあああああああああああああああっ!?」

 

一誠は白兎(ベル)捕獲(ゲット)したのだった。両腕で抱え込み、どこからともなく取り出した獣耳の被り物を頭に被せようとし出す。

 

「やぁやぁ、ベル。数日振りだなー。んで、ここで会うのって偶然だな?」

 

「イ、イッセーさんッ!?って、なにその兎の耳を僕の頭に付けようとしているんですかぁっ!?」

 

「え、ダメ?」

 

「不思議そうに首を傾げないでください!僕は兎じゃないですからね!?」

 

「んじゃ、一角兎(アルミラージ)で。というか、そうなってくれ。主に筋肉に抱き絞められ、心に傷を負った俺を癒す為に」

 

それも違いますし嫌です!と無意味な抵抗であろうとジタバタともがくベル・クラネル。

 

「イッセー様・・・・・?ど、どうしてここに・・・・・?」

 

「俺達だってたまには外食するんだけど?付け加えてこの酒場に選んだのは偶然お前らを見つけたからだ」

 

小人族(パルゥム)の少女と赤髪の鍛冶師(スミス)の青年を見据えながら語る。

 

「俺達も一緒に同席していいかー?俺の奢りでもいいからさ」

 

「え、は、はい・・・・・いいですよ」

 

どこか一誠に対してぎこちなく了承するリリとジッと無言で見つめるヴェルフ。店の給仕に五つ分の椅子を用意してもらってベル達と一緒に食事を始める。その際、指を弾いて魔法による不可視の結界を張った。

 

「三人もここで食事をしていたなんてな」

 

「ああ、二人は俺の【ランクアップ】を祝ってくれているところだったんだ」

 

「んじゃ、Lv.2か?いいなぁ~」

 

羨望の眼差しをヴェルフに送る一誠に、その眼差しを受けるヴェルフは「何で羨ましがるんだよ」と怪訝に言うと。

 

「俺、全然Lv.なんて上がりもしないんだから強く成れるお前らが羨ましいもん」

 

そう言う一誠にベル達は何とも言えなくなる。一誠達は主神が天界に送還され、派閥は解散状態。改宗(コンバージョン)しない限り冒険者として生きていけれなくなる。

 

「イッセー様達はどこかの派閥に入らないのですか?」

 

「入る気しないさ。俺達は主神がいなくても【アテネ・ファミリア】だ。そう思っている」

 

「ですが、冒険者としての地位は得れませんよ」

 

「冒険者として生きられなくても、俺は様々な方法で金を稼ぐことができる。現に今もしているぞ」

 

「「「ああ」」」とベル、リリ、ヴェルフは納得する。ダンジョンの中で泡銭を稼いでいることを知っている者としては納得してしまうだろう。

 

「それとベル達、遊園地は行ったか?」

 

「遊園地って【ガネーシャ・ファミリア】の・・・・・?って、まさか・・・・・!?」

 

リリは何かを悟ったように瞳孔を丸くして見つめると口を三日月のように形を作って、意味深に笑みを浮かべた一誠。それだけで十分、理解した。一誠が関わっていることを嫌でも分かってしまった。

 

「もう・・・・・イッセー様の正体を知って驚いているのにどれだけ常識外れな事をしているんですかぁ・・・・・」

 

「ふははははっ!常識外れは俺にとって日常茶飯事だ!」

 

―――褒めてくれてどうもありがとう。―――いえ、褒めていませんよ!?

 

ベル達と話している間に新たな料理が目の前で置かれ、一誠達も食べ始める。

 

「それはそうとベル達、あの異常事態(イレギュラー)で良く戦い抜いたな」

 

「そう言えば、イッセー様達はどこでなにをしていたんですかっ」

 

「ん?安全な場所で観戦だ。俺がでしゃばらなくても、お前らだけでも十分勝てると信じてたからな。逆に俺が一人で倒したらヴェルフが【ランクアップ】しなかったんじゃないか?」

 

「・・・・・まさか、敢えて戦いに参加しなかったのは」

 

「誤解するなよ?俺は別にベル達だけでも勝てる戦いに参加する気がなかっただけだ」

 

あーん、と食べる一誠に意味深な視線を六つ送る。

 

「(・・・・・あれ?)」

 

ふと、ベルは何か違和感を覚えた。

 

「イッセーさん」

 

「なんだベル」

 

直ぐに気付いた。自分に対する呼び名が変わっていることを。

 

「僕のことをベル坊って呼ばなくなりましたね。それに、眼帯も付けてません。右眼、ちゃんとあったんですね」

 

「ああ、それか?別に大したことじゃない」

 

理由は二つある、と人差し指と中指を立たせた。

 

「大分お前は成長したからな。ベル坊って呼ぶことはもう止めにした。お前の成長具合からして、一、二年の間でLv.4まで昇華しそうだし楽しみに待つことに決めている」

 

「・・・・・随分と、ベルを買っているんだな」

 

「ヴェルフ、俺はこれでも人を見る目があるんだけど?」

 

心外だとばかりふてくされる一誠。もっとさらに強く成れると言われたベルは信じられないと心情で訊ねる。

 

「ぼ、僕がそこまで強くなるんですか・・・・・?」

 

「俺の勘だがな。後はベル本人次第ってところさ」

 

微笑む真紅の髪の少年に兎は茫然とする。

 

「・・・・・あの、イッセー様?今更何ですが」

 

「ん、なんだ」

 

「どうして周りが静かなんですか?他の人達が笑ったり喋っている風に見えるのに声が聞こえないんですが」

 

「確かに・・・・・さっきから気になってしょうがないんだが」

 

リリとヴェルフの問いかけは言葉通りに静かだった。無人の建物の中にいるわけでもなく、一誠達が座っている場所以外静かであった。周囲を見渡せば食事を楽しんで、笑い合って、話し合っている客達がいるというのに騒々しさがまったくリリ達の耳朶に刺激を与えていない。

 

「ああ、俺の魔法で防音の結界を張っているんだ」

 

「魔法による結界って・・・・・一体何時の間に」

 

「気付かないのも無理はない。というか、お前らの口から俺の秘密に関する言葉が出てくることを警戒しているんだから当然の処置だ。口が滑っても対処できるようにしているに過ぎない」

 

「僕達がそんな・・・・・」

 

「念には念をだ。お前らを信用していないからじゃない。周りに警戒しているんだ」

 

一誠には誰にも言えない秘密を抱えている。万が一に備えて気兼ねなく話せる状況を作ったのだと言外する。

 

「それにさ」

 

「「「?」」」

 

「なーんか、必死に俺等に向かって喋っている奴に対して聞こえなかったって言い訳もできるしな」

 

小人族(パルゥム)の男性が必死に何かを伝えている風に口を忙しなく動かしている様子にベル達は今気付いたような顔をする。

 

「聞こえないだろう?」

 

「「「・・・・・」」」

 

確かに聞こえない。三人の心が一致した。小人族(パルゥム)はしばらくして、全身で息をして諦めたかのようにベル達の真横に陣取っていた席に戻った。

 

「イッセー様・・・・・もしかして争いごとを起こらないように?」

 

「はっ?何のことだ?誰かと争うような種を撒いているのかお前ら」

 

「違います!神様を侮辱したんです!」

 

怒りの炎が急に燃え上がったように何か思い出して怒りを小人族(パルゥム)に向けて露わにするベル。その様子に察して呆れ混じりで息を一つ吐いた。

 

「侮辱して、喧嘩の発展しそうになったわけか?―――やめておけ、相手の思う壺だ」

 

「思う壺って・・・・・」

 

「ヘスティアが自分のことを馬鹿にされても誰かに喧嘩をするなって言うかもしれないぞ」

 

「でも―――!」

 

それでも許せないと、深紅(ルベライト)から怒りの色が窺える。

 

「イッセーさんだって、女神様のことを馬鹿にされたら許せないでしょう!?」

 

「当然だ。だが、直接危害を加えたわけじゃない。気分を損なわせるだけ。ベル、時には我慢ってのも必要なんだ。そして胸を張れ」

 

「・・・・・胸を張る?」

 

どういうことですか、と視線で訴えてくる兎に龍は不敵に口の端を吊り上げて両腕を広げた。

 

「俺の女神は心優しく、眷族思いの綺麗な主神だ!ってな。ヘスティアを馬鹿にする奴は何一つヘスティアの良さを知らないからそう言えるんだ。逆にベルとリリは常に一緒にいるんだから知っているだろう?だったら己の主神の良さを自慢すればいい。相手の罵倒を、侮蔑を、嘲笑を跳ね退けるぐらいに自慢話をするんだ」

 

ベルの中の怒りが次第に薄らぎ、一誠の話を聞く姿勢になる。リリとヴェルフもまたそうであった。

 

「俺だったらそうする。じゃあ、お前らは俺の主神の何を知っているんだ。答えろって追求する感じでな。それで言えないんなら口出しするなって言い返せ」

 

パチンと指を弾いた瞬間、突如として騒々しさが戻った。目を張る三人に一誠は愉快そうに見つめる。

 

「それでも喧嘩をしたいなら好きにしろ。俺は止めない」

 

「・・・・・」

 

それからベルは一瞬たりとも席から立ち上がらず、食事が終えるまで黙々と一誠達と食べるのだった。

 

 

 

「ふ~ん、なるほどね、あの子がそう言ったのかー」

 

【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)、教会の隠し部屋でベル、リリ、ヴェルフから事の顛末を報告して、報告を受けたヘスティアは嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「うん、ボクもアテネの子供の意見と同じだぜベル君。君がボクの為に怒ってくれるのはとても嬉しいよ。でも、それで君が危険な目に遭ってしまう方が、ボクはずっと悲しいな」

 

「・・・・・!」

 

身体を揺らすベルに、ヘスティアは優しく語りかけてくる。

 

「アテネの子供はベル君の為にそう言ったんだと思う。あの子はアテネが下界からいなくなって寂しい思いをしているのに拘わらずだ」

 

「あっ・・・・・」

 

そうだ、イッセーさんには女神がいなくなってしまった。ベルは今更ながら思い出した。相好を崩すヘスティアはベルに微笑む。

 

「アテネの子供の言う通り、ボクのことを馬鹿にする奴はボクの自慢話をしてくれ!ボクを知っている上で文句を言われちゃうならしょうがないけれど、知らないんなら言う資格は無いさ」

 

「―――って、ヘスティア様の自慢できる話なんて、当たり前のことを言う以外あまりありませんがね」

 

そこへ横からリリの毒舌が飛んできた。必然的にヘスティアは食って掛かる。

 

「コラァー!?ボクが何一つ自慢できるようなことをしていないというのかサポーター君!」

 

「あるのならば是非とも教えてくださいよ。リリはヘスティア様の日常を見てきた時間は少なくないですからね」

 

「言ってやるさ!ボクの自慢話を聞かせてやろうじゃないか!」

 

幼女と幼女の言い合いが勃発する中、

 

「実際、失礼だがあるのか?」

 

「えーと・・・・・」

 

「まあ、それは置いといてベル。お前に頼みがあるんだが」

 

「ヴェルフ?」

 

「あいつと、イッセーと俺に会わせてくれないか?」

 

 

 

夜空に浮かぶ月の光を浴びて、金属で作られた太陽のエンブレムが煌めいていた。魔石街灯の光が届かない、薄暗い路地裏。ヒューマン、獣人、小人族(パルゥム)と種族の異なった六人組の男達が、無数にある細い裏道の一つに集まっている。

 

「元【アテネ・ファミリア】のおかげで目的が失敗した。これではあの方がお喜びになれない。―――やってくれた」

 

茶色の髪は品良く纏められていて、色白の肌は女性のようにきめ細かい。金属のイヤリングを始めとした、様々な冒険者用装身具(アクセサリー)を派閥の制服の上に身に付けている。瞳は深い海のような碧眼の美青年のヒューマンは一誠に対して憤怒に似た怒りを覚えた。

 

「でも、ヒュアンキトス。主神様の目に留まっている奴らだぜ」

 

「分かっている。主神無き者達に我々が後れを取るとは思わん。一度、主神(アポロン)様に意見を仰ごう」

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