オラリオで自由気ままに過ごすのはダメだろうか(一時完結)   作:ダーク・シリウス

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冒険譚35

「頼む、お前の打った武器を、武器を作る作業を見せてくれ」

 

赤髪を突き出して、頭に鉢巻き、木材を肩に担ぐ出で立ちの少年へ懇願している青年と見守っている白兎や小人族(パルゥム)がいた。その光景になった原因を知るには時少し時は前に遡る。

 

 

 

朝早く廃墟の教会に幼い二人の冒険者、ベルとリリが待ち人であるヴェルフがやってくるのをしばらくした頃に現れた。手を挙げてベルとヴェルフは軽く挨拶を交わし、リリから小言を頂戴する。

 

「悪いな。また俺の願いを聞いてくれて」

 

「大丈夫だよ。僕達は仲間じゃないか」

 

朗らかに鍛冶師(スミス)の青年と歩きながら答える。ヴェルフの要望に応える為、一誠の協力が必要で故にベルは思い当たる場所をしらみ潰しで探さないといけない。

 

「ベル、どこに行けば会えるんだ?」

 

「えっと、多分・・・・・あそこに行けば会えると思うけど。ね、リリ」

 

「高確立で会えますね」

 

今では大変なことになっている場所へ足を運ぶ。西のメインストリート沿いにあった酒場へ。

 

 

ベルとリリの考えは案の定、当たっていた。全焼した酒場を他派閥、作業衣装姿の職人達―――【ゴブニュ・ファミリア】にも依頼して新たな酒場へと建てようとしている者達の中に、頭に鉢巻きを巻いて肩に木材を担いで働いている少年を発見した。

 

「・・・・・あいつのこと分からなくなってきた」

 

モンスターであるはずなのに不自然さも全く感じさせず、完全に溶け込んで活動している一誠に面食らう思いのヴェルフ。

 

「お前ら、よくあいつと接せれたな」

 

「・・・・・イッセー様がモンスターなんて思いもしませんよ」

 

「うん、モンスターの特徴だってないんだし、ヒューマンだと思っていたよ」

 

三人が建設中の酒場を見守るように、常連客だったオラリオの住民達も完成を待ち遠しそうに見守っている。中には力自慢な冒険者や一般人までもが見返りも求めず手伝うほどだ。

 

『お疲れ様です!差し入れを持ってきましたよー!』

 

男が力仕事、女は労いとして働く男達に料理を持ってくる。

 

『おおー!何時もありがとうよ!』

 

『早く建て直してイッセーちゃんの美味しい料理を食べたいからね!』

 

『ガハハハッ!ちげぇーねっ!おい坊主。酒場が復活したら何時ものように朝弁当を作ってくれよ!』

 

『うちの子供も楽しみにしているからねー?』

 

老若男女。種族も問わず一誠に笑い掛け、親し気に言葉を掛ける光景を目の当たりにする。そこへ、一人の麗しいエルフが近づいてきた。

 

「クラネルさん」

 

「リューさん」

 

リュー・リオン。その人だった。

 

「あの件ではお見事でした」

 

「えっ、いや、皆さんのおかげで、協力をしてくれなかったら倒せなかった相手ですし」

 

「それでも貴方は、貴方達は立派に戦った。誇りに思うべきだ」

 

件の事件の事を具体的に言わずともベル達は理解し、少しばかり照れくさそうに「ありがとうございます」とリューに述べる。

 

「イッセーさんも手伝っているんですね」

 

「罪悪感を覚えているようです。自分達の所為で思い出の場所を失わせてしまった、と。その償いを求めていました」

 

「だから、【ゴブニュ・ファミリア】と一緒に?」

 

「はい。全ての費用は彼が出してくれます。私達が今住んでいる場所も、彼が」

 

そこまでして、一誠は本当に心から申し訳ないと思っているのかと三人は働く少年に視線を向けてしまう。

 

「シルさん達は元気なんですか?」

 

「変わりありません。皆、元気でいますよ」

 

それすら一誠のおかげだと小さく笑むリューはリリから問われた。

 

「イッセー様と親しいそうですが、お二人はどういう関係なのですか?」

 

「・・・・・」

 

空色の目がリリを捉え、「同業者です」と答えた。

 

「・・・・・お言葉ですが。あまり、深い仲にならない方がいいですよ」

 

「それは何故と聞いても?」

 

リューの問いにリリだけじゃなく、ベルとヴェルフも言い辛そうに視線を泳がす。意味深な警告を述べた本人が言葉を頭の中で選んでいる時、何とも言えない雰囲気を感じ取り、察してリューは。

 

「―――彼が、イッセーの正体がモンスターだからですか?」

 

ハッキリと一誠の正体のことを告げた。ベル達は目を丸くして、どうしてそれをという表情を浮かべる。ありありとその気持ちを顔に出す三人に淡々と「イッセーからクラネルさん達が秘密を知ったと聞いています」と述べる。

 

「私だけじゃなくミア母さんやシル達、酒場に働く全員、彼の正体を知っています。その上で私達は接しています」

 

「受け入れて、いるのですか?何とも思わなかったのですか?」

 

「酒場に働く者達は何か知らの事情を、人には言えないものを抱えている者達ばかりだ。イッセーの正体を直接見た私達は、特にミア母さんは快く受け入れました。ならば、私達も応えねばならない。イッセーも神アテネも私達に応えてくれました。信用と信頼を築き上げながら」

 

その上で、シル達は彼を気に入っています。モンスターだろうが関係なく、と付け加えるエルフの女性に驚倒する思いのベル達だった。

 

「・・・・・イッセーがモンスターだと知って、警戒するぐらいなら貴方達は彼と接することを止めた方がいい。それは互いの為にもなる」

 

それだけ言い述べ、建設現場に戻るリューをただ見守るベル達。

 

「・・・・・」

 

ヴェルフが無言で前へ歩き始め、ベルとリリも一拍遅れて付いて行き。

 

「頼む、お前の打った武器を、武器を作る作業を見せてくれ」

 

赤髪を突き出して、頭に鉢巻き、木材を肩に担ぐ出で立ちの少年へ懇願している青年と見守っている白兎や小人族(パルゥム)がいた。

 

 

「全く、物好きな鍛冶師(スミス)だぜ」

 

元【アテネ・ファミリア】の工房をベル、リリ、ヴェルフに連れて来た一誠は呆れ顔で述べる。

 

「モンスターの俺の作業姿を見たいなんてよ」

 

それでも要望を了承した一誠である。真摯で頭を下げられては断わり辛い、こうして赤髪の青年の願いを受け入れて直接移動してきた直後であった。

 

「んで、どっちを先にする?」

 

「武器を見せてくれ」

 

「はいはい、了解っと」

 

巨大な炉の中に身を潜らせ、ガコンッと鈍い音が聞こえた矢先。炉自体が下に沈んで、隠し扉をベル達の前に窺わせた。

 

「隠し扉・・・・・」

 

「この中に俺が作った武器が保管している」

 

一誠が開け放てば三人の足が前に動きだす。隠し部屋の中へ入れば、白い天井と壁、床の空間の至るところに様々な武器が飾られ、主役とばかり白い柱のたった一本だけ剣が掛けられている。

 

「―――っ」

 

ヴェルフは一目見ただけで、武器の品質を解ってしまう。主神とハーフドワーフの団長が言う通り、一級品の武器を『鍛冶』のアビリティ無しで打てているのだと。

 

「色んな武器がありますね・・・・・」

 

「色んな武器を作ってきたからな。半分暇つぶしに」

 

「暇潰しでここまで作れるのですか・・・・・」

 

壁に掛けられている武器を眺めるベルとリリでも感嘆の思いでいた。

 

「作っても使わないんですか?」

 

「モンスターの俺に必要だと思うのか?」

 

「・・・・・ですよね」

 

鍛冶師として鍛冶師でもない少年に打ち負かされた気分とショックは大きく受けたヴェルフ。何よりも柱に掛けられている剣はどの武器より逸脱している素晴らしさを誇っていた。

 

「・・・・・この柱にある剣もお前が?」

 

「ん?いんや、それは俺に鍛冶の仕方を教えてくれた恩師から貰った剣だ」

 

恩師―――。椿が口を滑らした異世界の神ヘファイストスのことだろう。そしてこれが―――。

 

「(異世界の神が打った武器・・・・)」

 

と真摯な眼差しを一振りの剣に向ける。神の力(アルカナム)を封印していない神の手で鍛えられた武器―――。

心底、雷に打たれたような感覚を覚えたヴェルフは次に感動で心身ともに打ち震える。衝撃を受けたのだ。

 

「ヴェルフ?」

 

不意にベルが話しかけてきた。視線を兎みたいなヒューマンに向けると「イッセーさんが武器を作るって」と伝えられる。分かった、と既にいなくなっている一誠がいるであろう工房へ見ていた一振りの剣に踵返して戻る。巨大な炉が隠し扉を隠すよう元の位置に戻ったところで一誠が口を開いた。

 

「さて・・・・・お前の要望通りに俺なりのやり方で武器を打つからな。見ておけ」

 

「ああ」

 

ヴェルフが見たことのない金属や鉱石、モンスターのドロップアイテムがゴロゴロと用意されていて、巨大な炉に火種もとい口から火炎球を吐き出せばあっという間に巨大な炉の中は火と熱に猛り始め、部屋全体の温度を跳ねあげる。

 

「おまっ。そうやって火を起こしているのかよ」

 

「俺はドラゴンだぞ。火を吐くぐらいできる」

 

それから一誠は異世界の技術をヴェルフ達に見せつけた。

 

「作る武器は・・・・・ハルバードでいいか」

 

それから時は流れ、武器を手掛ける一誠の背中から、横から見守り続けていたベル達の目に映る。顔に汗を浮かばせ、乳白色に少し紅を差したような色に輝く柄が長い斧、ハルバードの完成した姿を窺わせる光景が目に入る。

 

「『深層』しか手に入らない(ドロップアイテム)で作ったが、どうだヴェルフ」

 

「・・・・・」

 

精緻な武器を完成させた一誠に言葉を失う。『鍛冶』のアビリティ無しでここまで上質的な武器を打った一誠の腕前に。

 

「ありえねぇ・・・・っ」

 

素材も良かっただろうが、それを活かした一誠も悔しいが凄い。主神と団長が認めるのも頷ける。

 

「感想はそれか。まあ、俺は非常識の塊みたいなもんだし・・・・・さて、面白可笑しくこの武器の名前を付けるとするか」

 

顎に手をやって何時にも増して真摯な表情を浮かべる一誠はハルバードを見つめ己の中でピッタリな名前を浮かんだら即座に発した。

 

「アルベール・・・・・いや、一角兎(アルミラージ)か?」

 

「いやいやいやっ!?どうしてモンスターの名前を付けたんですか!アルベールの方がいいじゃないですか!?」

 

「アルベールって一角兎(アルミラージ)とベルの名前をくっつけた名前だけど・・・・・そうだな。それにしよう」

 

「待って下さいぃいいいいいいいいいいいっ!?」

 

名前の由来が発覚したことで血相を激変させるベルを無視して壁にハルバートを掛ける一誠の背中を見つめ「良い名前じゃねぇーか」と喜んだ。

 

「因みにこの杖の名前は、リリに持たせれば魔法少杖(リリカル・アーデ)って考えているんだがどうだ?」

 

「そんなの名前は嫌です!?リリの名前を変えないでください!」

 

ベルと同じ心情で首を激しく横に振って否定するリリ。だが、ヴェルフだけは「複雑だが、仲間が増えた」と内心喜んでいた。

 

「・・・・・まさか、ヴェルフと同じな人だとは・・・・・」

 

「人もとい、モンスターも人掛けによらないです・・・・・」

 

「もう一つ因みに、ミノタウロスで作った武器だったら牛短刀(ミノたん)と面白く名前を付けるぞ」

 

「「―――っ!」」

 

片や硬直、片や感動。デジャブさを感じてしまう両名は対極的な思いを胸に秘めた。

 

「あ、でも最上牛(マスタ-・ミノタウロス)の方が面白そうだな。ベル、ミノタウロスを倒せるようになった証として・・・・・ミノタウロスの角で作った武器にその名前を付けてプレゼントでもするか?」

 

「いらないですし、嫌ですそんな名前ぇっ!」

 

「こいつ・・・・・どこまで俺の上にいるんだ・・・・・っ!?」

 

「ヴェルフ様、変な事で畏怖の念を抱かないでください!」

 

この日を持って、ヴェルフは一誠に対して変な敬意を抱くようになってしまった。

 

―――○●○―――

 

『黄昏の館』―――【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)で異例中の異例が生じていた。主神であるロキが眷族達に他派閥の主神達を招いて顔を突き合わせている状態でテーブルを囲んでいた。それぞれの神の背後に己の眷族を待機させて。

 

「ロキからホームに招き入れてくれるとは嬉しい限りだけど、どういう風の吹き回しだい?」

 

「ボクまで呼ぶなんて・・・・・一体何を考えているんだよロキぃ」

 

「とても大事な話があると言われたから今日の仕事をキャンセルしたのだけれど・・・・・」

 

「俺も、ヘスティアと同じ気持ちだな・・・・・」

 

「私もだ。それにこの顔触れは何の意味があるのだ?」

 

「儂はともかく万年滞納で零細な貧乏派閥の主神ミィ~アァ~ハァ~まで呼ぶとはなぁロキよ」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

ヘルメス、ヘスティア、ヘファイストス、タケミカヅチ、ディオニュソス、ディアンケヒト、ミアハ、フレイヤまで招集したロキは手を組んで男神、女神達の顔を糸目がちな目で見回し軽く来てもらったことに感謝と、忙しいところ申し訳ないと同時に謝罪する。

 

「ここにおる全員に知って貰いたいことがあるんや。まぁ、何の意味があるというかとディオニュソスの言葉を返すなら、この場の神連中が共通している、もしくは関わっていることがあるんや」

 

「共通と関わり・・・・・?ロキ、俺もか?特に重要的なことすら触れてもいないと思うぞ」

 

「私もだロキ。一体ここにいる神がなにと関わっているのか説明して欲しいのだが」

 

「・・・・・そうやなぁ」

 

薄らと糸目を開いてヘルメスへ視線を送る。

 

「既に気付いている食えない神がおるやろうけど、この際ハッキリと言わせてもらうで。―――アテネの子供、イッセーのことや」

 

ハッキリと反応を窺わせる神や首を傾げ怪訝な表情を浮かべる神、普通の態度で見守る姿勢の神と別れた。

 

「彼が、どうかしたのロキ?」

 

「どうもあらへんで。ファイたん自身もアテネの子供と接しておるんやろう?」

 

「それがどうかしたというのよ?別にあの子は―――」

 

「ただの下界の子供ではないことをうちは知っとるぞ。ヘルメス、ドチビ、ファイたん」

 

呼ばれた三人は苦笑いを浮かべ、蒼い目を丸くする、悟ったかのように息を吐くと様子を窺わせる三柱。

 

「どういうことだロキ。あの子はただの子供ではないことぐらいはオラリオに住む者達は少なからず知っているはずだ」

 

「いいんや。それだけじゃあらへん。考えもしなかったか?フレイヤんとこの子供と対等に戦ったこと自体おかしいんやで。その理由を知らないだけやろ」

 

「・・・・・それを、ロキ達は知っているということか?」

 

「せや」と肯定する。

 

「今日来てもらったのは他でもない。アテネの子供に警戒心を持って欲しいのと、ちょっかいを出すなと注意をすることなんや」

 

「警戒心とは・・・・・随分な言いがかりであるなロキよ」

 

「うちも直接見たわけでもあらへんけど、アテネの子供は思っていた以上に危険な存在や。刺激を与えたらなに仕出かすか分からないほどにや」

 

「ロキ、アテネがいなくなった時点であの子は恩恵を刻まれる前の状態になっているのだろう。危険もなにも警戒する理由はないじゃないか?」

 

ミアハとディオニュソスは一誠は危険ではないと気持ちも口にして言うが。それでもロキは言い続ける。

 

「・・・・・アテネの子供は恩恵がなくてもうちのアイズを倒すほど強いんや。その理由を知れば納得すると思う」

 

一誠が知らないところで、ロキ達神々の間で一誠の素性を明かされるのであった。

 

『・・・・・』

 

ヘファイストス達以外、ロキから告げられた一誠の秘密を聞かされ神々達は絶句する。各々の団長達は既に知っている者が多く、あまり驚きはしなかったが一人だけ知らなかった団員は耳を疑い、目を丸くしていた。

 

「―――」

 

「・・・・・彼が、モンスター?」

 

「この世界とは違う、私達と同じ名の神がいる異なるほよ世界からやってきた子供・・・・・?」

 

そんな馬鹿な、有り得ない。神々は胸中否定の言葉を浮かべるが、ロキから窺える冗談半分も言っていないと真面目な顔付きを見れば本当のことであると察する。

 

「受け入れ難い事実であるな」

 

「ああ・・・・・」

 

「姿がヒューマンそのものだから、人の皮を被っているモンスターとは思えない」

 

「ぐぬぬっ、儂らを騙しといたということか!」

 

ヘルメスを除く男神達は神妙な面持ちと怒りを露にする。

 

「ヘファイストス、異世界にボク達がいるってことは、異世界のボク(ヘスティア)はやっぱり女性なのかい?」

 

「・・・・・さあね」

 

「あら、異世界の(フレイヤ)も気になるわ」

 

「うちもやで、ファイたん。ファイたんとこの子供と一緒にアテネの子供がうちらと同じ神がいる異世界からきた秘密を知っているのを聞いたでぇー?」

 

さぁさぁ、教えろとばかり顔を近づけられ眉の根を寄せるヘファイストスは口を開く。

 

「ロキが落ち込むから教えないわ」

 

「どうしてうちなんや?異世界のうちはどんなやつなんや!?」

 

ヘファイストスの背後に佇む声を殺して笑うハーフドワーフの団長にも「笑うな!」と噛みつく。

 

「ファイたん、何か知っておるなら全部吐いてスッキリした方がええで?」

 

「知らないことが幸せだって時もあるわよ。・・・・・私もショックを受けたもの」

 

「・・・・・アテネの子供からなにを聞かされたんやファイたん」

 

肩を落として暗くなり出すヘファイストスを見て聞き辛くなる思いを抱くロキは話を切り換えようと咳を一つ。

 

「ヘルメス、アテネがおらんのにあの子供達はどんな行動をしているのか分かっておるんやろう?」

 

「おいおい。至って普通に暮らしているぜイッセー君達は。俺等に対して害を与えるような真似だけはしてないぜ?」

 

「元はアテネの子供やで。うちらを天界に送還することぐらい容易いはずや」

 

「―――寧ろ、アテネを天界に送還したどこかの神をそうしたいんじゃないかな」

 

意味深い言葉を述べるヘルメスの一言で場の雰囲気は静まり返る。

 

「イッセー君は純情だからね。白が真っ黒に染まり出すことだってあるかもしれないロキ。彼の強さは俺達より俺達の子供達の方がよく知っているだろう。もしも彼が暴走したら、誰にも止められないだろう。フレイヤ様の『魅了』ですら通じないんだからね」

 

ちょっぴり『美』の女神のプライドを刺激して、

 

「いや、彼だけじゃない。―――イッセー君の体に封印されている異世界のドラゴン達も驚異的だ。なんせ、『魔石』がないんだから倒すことは容易いだろうけど、凶暴性と力がダンジョンのモンスターより逸脱しているんだ」

 

『・・・・・』

 

ヘルメスも一誠の秘密の一つを打ち明けた。ロキは事前にリヴェリアから全て知っている。やはり、この食えない神も知っていたかと胸中で漏らす。

 

「・・・・・ヘルメス、そのドラゴン達を見たのか?」

 

「勿論!【剣姫】達と一緒にな。うん、【剣姫】達でも倒せない異世界のモンスターだったよ」

 

ロキから「オイコラ」と鋭く睨まれ、苦笑いを浮かべるヘルメスの背後に立つアスフィも溜息を零す。最大派閥に余計な事を言うなと、思いで顔に疲労が浮かび上がった。

 

「・・・・・まさか、そのモンスター達と戦っていたからアイズたん達の急激な成長を遂げたのは」

 

「多分、そうだと思うよ」

 

フィンも合点したと頷く。

 

「身体にモンスターがモンスターを宿すって・・・・・」

 

「それこそ見ない限り信じられん」

 

だろうな―――。胸中でそう漏らすヘルメスもまた、三つ首龍の巨大なモンスターを見るまでは信じられなかった。

 

「うちもそれだけは鵜呑みにできへん。断言できないけどリヴェリアが教えてくれたことは嘘ではないで?」

 

せやから―――。

 

「これで理解できたんかな。アテネの子供を警戒する理由と必要を。その気になればモンスターを率いてオラリオを襲撃、滅ぼすことが可能だからや」

 

男神女神達は口を閉ざして沈黙を保つ。聞けば聞くほど、脅威的で危険極まりない。

 

「・・・・・ギルドは、この事を知っているのか?」

 

ディオニュソスがロキに問うと「ウラノスの爺辺りが知っていそうやな。確証はあらへんけど」と返される。知っていたら既に要注意人物一覧(ブラックリスト)に載せられ、賞金も懸けられているだろう。

 

「味方であれば頼もしいが、敵となれば絶望的」という考えがヘスティア達の頭の中で浮かび、一誠に対する警戒心を抱かざるを得ない。

 

「だけどロキ。何も警戒しなくてもいいんじゃない?これまで通り、接すれば問題は無いわ」

 

「人の皮を被ったモンスターが街中を当然のように歩いておるんやで?」

 

ヘファイストスとロキの会話が神々に己の気持ちを口から述べる切っ掛けとなった。

 

「俺もヘファイストスの考えに賛同かなー?なんたって俺とイッセー君は友だからね!」

 

「私もだ。ナァーザや【ファミリア】に対して色々と助けてもらっている」

 

「あの者がモンスターだと言うならば、色々と利用できそうであるな!というか助けてもらっているとはどういうことだミアハァァァァァァァァッ!?」

 

「・・・・・ミアハに同意見だ。フィルヴィスの件で感謝していることがある」

 

「そうだなぁ・・・・・俺もミアハみたいな感じだ。極東の食材をくれるし、風呂まで作ってくれたんだ」

 

「うーん、ベル君達が世話になっているから・・・・・」

 

「ますます欲しくなるわね」

 

恩を感じている神や利用しようとする神、心から零す願望の神。

 

「心配し過ぎよロキ」

 

「アテネの子供やで?それでなくても、警戒しておいてもええと思うんや」

 

「・・・・・あなた、アテネに怒られてトラウマになっているの?」

 

「ち、違うわっ!?うちはただ異世界から来たアテネの子供の今後の活動に―――!―――っ!?」

 

不意に、ロキの口が固まったように動かなくなった。

 

「・・・・・ロキ?」

 

「―――人の秘密をベラベラと喋りやがってこの堕神が」

 

忽然と虚空から姿を現し、朱色の頭を鷲掴みにして冷めた隻眼の金の瞳を向ける。

 

「やっぱり、下界に降り立った神なんて信用に値しないか。教えなければよかったぜ。俺からすればこの世界にいる神は、神であって神じゃない」

 

第一級冒険者がいるにも拘らずこの部屋に入ってくる気配すら感じなかった、感じさせなかった少年がロキに質問した。

 

「アテネから言われたはずだよな?俺のことを誰にも話すなって」

 

「・・・・・い、何時から・・・・・ここにおったんや?」

 

「さぁ?それを俺が答える以前にやりたいことがあるんだよ。今の俺の気持ち、分かるか?」

 

「・・・・・さ、さぁ」

 

脂汗をだらだらと顔中に浮かばせ、流して助けを視線で求めるが、誰一柱として恐れているので答えはNOだった。結果的に―――。

 

「神に対する神罰をしたいって思いだ」

 

無情にも朱色の頭を掴まれている手から電撃が迸ってロキの全身を痺れ渡らせる。絶えまなく続く激痛と痺れで悲鳴を上げる最大派閥の主神に見かねて小人族(パルゥム)が動く。

 

「イッセー、止めてくれ」

 

「今の俺は勝手に秘密を話す堕神に怒りでどうしようもないんだがフィン?―――アテネの代わりにこいつを天界に送還してもいいとも思っている」

 

「――――――っ」

 

本気でしかねない。フィンは槍を構え臨戦態勢になるや否や一誠の双眸から怪しく煌めく閃光を見てしまった次の瞬間。

 

「・・・・・」

 

物言わない石化したかのように動かなくなった【ロキ・ファミリア】の団長となってしまった。

 

「まっ、そんなことしたらアイズ達に迷惑を掛けるからやらないがな」

 

フィンから視線を外してロキの頭から手を放せば電撃が止み、床に倒れ伏す【ロキ・ファミリア】の主神。

 

「ディアンケヒト」

 

「っ!?」

 

ビクリッ!と激しく肩を跳ね上がらす老神は顔を青ざめる。

 

「誰が誰を、利用するだって?生憎俺は誰の命令も指図も受けないんでね。―――力尽くでもそうしたいなら、全てを失う覚悟で後悔のないようにしてくれよ?そうじゃないと俺が罪悪感を抱いてしまう」

 

そう言いつつ、ギラギラと鋭い眼光が獲物を狙う猛禽類のようにディアンケヒトを向け続けていたが、視線を徐に少年は犬人(シアンスロープ)の女性を見つめる。

 

「・・・・・ナァーザ。ごめんな。モンスターが苦手な事を知っていたが、恐がらせたくないと思って騙していた。いや、翼を出した時点でただのヒューマンではないことを察していただろう」

 

「・・・・・」

 

「ごめん」ともう一度謝罪の言葉を発して、衝撃的な事実を告げた。

 

「俺の秘密がここまで知られた以上、しばらく姿を暗ませてもらう。面倒事に巻き込まれるのはご免だからな」

 

『っ!?』

 

神々が目を見開く他所に淡々と言い続ける。

 

「前々から決めていたことだし、リヴェリアにも言っていた。それにこの世界での俺の立場はお前達の敵だ」

 

それを明かすように少年は真紅のドラゴンへと、龍化になって。

 

『これがもう一つの俺の姿だ。―――じゃあな』

 

足元に展開する魔法円(マジックサークル)の光に包まれ、一誠はヘスティア達の前から姿を暗ました。

 

―――それから後日。元【アテネ・ファミリア】の姿はオラリオ中くまなく探しまわっても見つからず、18階層に赴いても、営業している銭湯に尋ねればボールスが「あいつから任されているからこの店は俺のものだ!」と店番をしていた。仕舞には【アテネ・ファミリア】のホームすら消失している始末だった。

 

「・・・・・イッセー・・・・・どこにいっちゃったの・・・・・?」

 

金髪金眼の少女は蒼天を見上げ、寂しそうに今日も少年を探し求めた。

 

さらにそれから―――。『迷宮都市』オラリオに前代未聞な事が起きることをまだ神でさえ気づきもしなかった。

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