オラリオで自由気ままに過ごすのはダメだろうか(一時完結) 作:ダーク・シリウス
「イッセー君が姿を暗ましたかぁ」
大通りを歩くヘルメスの背後に
「ホームも綺麗に無くなっていました。あの『
「彼等は多分、ガネーシャのところにいるかもしれないよ。その方が色々と好都合だからね。でも、肝心の彼等はどこにいるのやら」
帽子の鍔を触れて橙黄色の瞳を空に向ける。
「・・・・・どうなさいますか」
「んー・・・・・。俺もちょっとばかり当惑しているんだよ」
苦笑いを浮かべる己の主神から探せと言われても困難を極まる。
「それに俺だけじゃなく、他の神連中やその眷属達も心配しているに決まっているだろうけど、俺達もしばらくイッセー君のことは放っておくことしかできないね」
何時もと変わらない、何も変わらない。蒼い空も変わらない下で『迷宮都市』オラリオは
「すまんなお前達。こんなことを頼んで」
「いえ、タケミカヅチ様。俺達も少なからず彼等のことを心配ですから」
【タケミカヅチ・ファミリア】の眷族達が一誠達の捜索隊として活動しようとしていた。
「見つけたらここに連れて来て欲しい。あの子達を保護したい」
「わかりました。では、行ってきます」
「ゲゲゲゲゲッ!イシュタル様ぁ?もう知っているだろうけど【アテネ・ファミリア】が消滅したよぉ~?」
「ああ、だろうね。【イシュタル・ファミリア】は今まで通りになるってことだ。・・・・・特にあの処女神からは命令されてはいないけれどねぇ」
繁華街を牛耳る【ファミリア】も動こうとしている。
「んじゃ、今なら春姫を奪い返せれるんじゃないかぁ?あのガキも【ステイタス】を封印されちゃこのアタイに手も足も出せないだろうさぁ」
嬉々として今が
「また、春姫を手に入れるのも悪くは無い。あのおっかない処女神がいない時点で私らは自由だ」
「ゲゲゲゲッ!んじゃ、イシュタル様。そういうことでいいんだねぇ~?」
「お前の好きにしな。ただし、捕まえたらイッセーを私の前に連れてきなよ」
肯定も否定もなくフリュネは不気味な笑い声を漏らすだけでイシュタルを後にした。バルコニーに足を運び、己の支配下である街々を見下ろす。
「お前の代わりにあの子をたっぷりと可愛がってやる」
「ベル様、イッセー様達はどこに行ったのでしょうか」
「う~ん・・・・・酒場はあんな状態だし、女神様も天界に送還されちゃって・・・・・ホームも無くなっちゃっているし・・・・・」
「まだオラリオにいるはずだろう。オラリオの外に出ていったとしても、行く宛てがあるとは思えない」
「ヴェルフ?」
「アイツのことを考えたってもしょうがねぇだろ。いなくなった奴のことを心配してもよ」
ベルにとって頼れるお兄さんみたいなヴェルフから発せられた言葉にリリは無言で頷く。
「はい、ヴェルフ様の仰る通りです。リリ達はリリ達の今後のことを少なからずとも心配しないといけません。何時までもイッセー様達のことを思ってもしょうがないです。―――イッセー様がいなくても18階層に行けるぐらい強くなないといけません」
「・・・・・うん」
二人の言うことも道理であると頭では分かっているが、親しい者がいなくなってしまった寂しさは辛いものである。
しかし、【ロキ・ファミリア】―――。
「アイズさん、また・・・・・」
朝食時、姿を見せない己が崇拝する少女に顔を曇らせて寂しそうな表情を窺わせるレフィーヤがいた。一誠達のホームが無くなり、一誠達も姿を暗ませたことでアイズは毎日彼等を探すようになった。同時に
「リヴェリア、アイズが彼に好意を抱いていたかな」
「本人に聞けばすぐに分かることだが、肝心の本人は今日も帰ってこないでいる」
「家出同然じゃな」
古参の三人も珍しいアイズの行動に溜息。まさか、深刻な事態までとは言わないがここまでアイズを変えてしまうとは誰も驚きを隠せないでいる。
「帰ってきたらしばらく謹慎させよう。アイズの行動で下の者達まで影響が出かねない」
「仕方ないの。相手が相手じゃが、儂らには儂らの立場がある」
「・・・・・そうだな」
嗅覚が優れている
噂されているアイズは幽鬼のように歩き回った挙句、滅多に来ない南東のメインストリート、歓楽街まで足を運んでいた。既に時間帯は夜となって蠱惑的な女性達が隠微な雰囲気を漂わせ、醸しださせてアマゾネスを中心に、ヒューマン、獣人、
「・・・・・いない」
アイズを見掛け声を掛ける男神や男性達に対して空気のごとく無視して足の歩みを止めない。
「・・・・・どこに行っちゃったの・・・・・?」
胸にポッカリと空いた穴は少女に寂しさを感じさせる。突然姿を消してしまって、会えなくなって、辛く感じる。心の中の幼いアイズは涙を浮かべ暗闇の中で手を突き出して何かを見つけようと一寸先が闇でも探し当てようとしている。
「イッセー・・・・・」
都市の大四区画にもいなければ長居をする必要は無いと、ホームに戻ろうと考える少女は踵を返して歩き始める。
金眼が移る眼前には丁度、常連客と風な雰囲気を醸し出している男神達が歩いていた。快楽主義者たる神々が歓楽街に出没するのは日常茶飯事であり、派閥によっては暴走する主神を拘束せんと、団員達が怒り泣きながら手段を尽くすという。アイズはそんな男神達と派閥の内情を知らないが、やっぱりここに来るんだと思った。
―――そんな思いを抱いたのは男神達の真上から影が現れたのと同時だった。
『『『『『ん?』』』』』
目の前に現れた不審者に気付くが、快楽を心身ともに堪能して警戒することも忘れている神々。全身を黒いローブで身を隠す黒衣の人物が包帯だらけの手を男神達に向かって伸ばし開いた。
「強奪」
「―――っ!?」
聞き覚えのある声がフードの奥から発せられたことを気付き、神々の全身から神々しい光のオーラが滲み出て来ては黒衣の人物の手の前に集束する。
手の平に集まる何かを奪われている男神達は苦痛の表情を浮かべる。
―――なにを、している。
アイズが茫然とその光景をただ見守ることほどなくして、固形化された玉が完成した。
全身で息をする男神の鎖を解き、ローブからかなりの大金が詰まった亜麻袋を放り投げた。
「協力してくれた報酬だ。くれてやる」
それだけ言い残し、黒衣の人物が手の中にある数個の玉を一瞥。この場から去ろうと足を動かす仕草をするや否や、アイズが駈け出した。
「待って!」
黒衣の人物も駈け出してアイズから逃げる。
後に被害に遭った神はギルド本部に駆け込み、自分の身に起きた事を説明した結果、ギルド側も敬うべきの神を襲った黒衣の人物を
待って、待ってっ、待ってっ!
逃走し続ける黒衣の人物を追いかける。知っている者であれば、自分など振り切れるはずの足であるのにまるで、わざと付いてこられるような速度で逃げているような感じであることに、アイズはどうしてそんなことをするのかと疑問を浮かべる。疑問を抱く中、謎の人物は包帯だらけの指を弾いた矢先、
オラリオ上空に巨大な
「っ!?」
有り得ない大規模な魔法による攻撃に襲い黒衣の人物から意識を変えざるを得ない。このまま追い続ければ間違いなくオラリオは甚大な被害を被る。それだけは何としてでも見逃すわけにはいかない。
「【
風魔法を発動し、上空から迫りくる巨大な火炎球を止めようと試みるアイズ。黒衣の人物を逃がしたくないが、もう眼と鼻の先に迫っている火炎球をどうにかしないといけない。
しかし、少女の決断を嘲笑うかのように火炎球は急激に膨張をしたと思ったら色鮮やかな火の花が凄まじい轟音とともに炸裂したのであった。
「なにこの音ぉー!?」
「雷・・・・・?」
『黄昏の館』にまで聞こえる轟音に、【ロキ・ファミリア】は騒然と化する。外へ出れば、綺麗な花火が騒々しい音を鳴らす。
「なに、あれ」
「綺麗ね・・・・・」
オラリオ上空に広がる夜空を彩る儚くも散ってしまう花火に住人達は視線を上に向けて見惚れるように見続ける。
「・・・・・」
意識を逸らす為の
どうしてこんなことをしたのか、なにをしたいのかアイズは分からない。
「・・・・・どうして」
夜空を彩る花火は少女の心を魅了することは敵わなかった。
―――ギルド本部―――
『おい、またかよ』
『ああ。夜に紛れて神連中を襲う黒衣の人物が現れたらしいぜ。これで十二人目だ』
『でもよ?襲われた割には報酬をたんまり貰っているようだぞ』
『襲われた神々も大した怪我もないし、天界に送還されてもない』
『しかも、歓楽街に現れる神だけ襲われているんだよな』
『なにがしてぇんだろうな。この黒衣の人物』
『自作自演でもしているんじゃないかって噂も聞いているが・・・・・』
巨大掲示板に
「・・・・・」
アスフィ・アル・アンドロメダ。Lv.4のオラリオ『神秘』のアビリティ保有者で有り生粋の
「あなたなのですか・・・・・イッセー」
一誠達の失踪からもう七日が経過していた。ギルドに展示されている情報を収集した彼女はヘルメスに報告とホームに戻ったその日の夜―――。
「―――流石に、もう放っておくことはできん」
主神として、己の眷族達をホームの門前に集わせて意識を一身に浴びるロキ。今夜で一週間、一週間で十二人の神々が襲われた事件に手を打たねばならないと悟った。今夜、黒衣の人物を捕獲に乗り出した。
「皆、悪いんやけど今絶賛噂中の黒衣の人物を捕えて来てほしいんや。噂の奴は夜に紛れて神を狙う。せやから夜の街に歩いている神を見張っていれば現れる可能性が高い。どんな方法で捕まえようとうちは咎めへん。ギルドから責任を負わされるならうちが全部請け負う。これ以上、オラリオを騒がす黒衣の人物の好きにさせたらあかんからな!」
武装した冒険者達が首を揃って頷く。己等の主神にまで襲いかかる前に捕縛することを異論は無いと雰囲気で窺える。
「フィンとガレスはここ北部の大通り、アイズとリヴェリアは西部の大通り、ティオナとティオネは東部の大通り、ベートとレフィーヤ、ラウルは南部の大通りに。それぞれ10人引き連れて捜索するんやで!」
「皆、そう言うわけだから迅速に行動をするよ。もしも見つけたら空に向かって合図を出してくれ」
『はいっ!』
「では。総員、出動!」
【ロキ・ファミリア】総出で捜索が始まった。神を狙う黒衣の人物を捕える為に―――。
だが、それは【イシュタル・ファミリア】も同じことであった。己等の支配下に好き勝手にしている無法者を許さないとイシュタルはアマゾネスを中心とした眷族達に捕縛の命を与えていた。歓楽街に現れる武装した【イシュタル・ファミリア】の眷族。
「絶対に見つけて捕まえるんだよぉ~!捕まえた奴はアタイに教えなっ!可愛がってやるんだからよぉー!」
何時も以上賑やか、騒々しい『歓楽街』。巨女の団長を筆頭にギラギラと猟奇的な目をしていた。捕まえたら男であれば貪り、女であればそれ相応の体罰を与えんと考えているようなソレだ。
―――○●○―――
―――始めるぞ。心の準備は良いか?
―――は、はいっ。
―――うん。
―――ええ。
―――どこまでも付いて行きますわ。
五人の少年と少女、女性達がどこかで暗躍を企てていることをオラリオは気付かない。
西方で逆行する大瀑布のように、天空に突き刺さる光柱。そこは女神が天界に送還された場所と時刻が同じだたった。
―――っ!
オラリオに住む住民達が目を張った。また誰かが天界に送還されたのだろうかと。
「リヴェリア!」
「ああ!」
黒衣の人物の捕縛の為に西のメインストリートに足を運んでいたアイズとリヴェリアが一番近かった。場所は―――【アテネ・ファミリア】のホームがあった場所だ。夜空に合図を出すまでもないと少女達は駆け足で移動する。
「無くなっていたはずなのに・・・・・」
辿り着けば、見慣れた一〇〇Mの石壁がアイズ達を阻んでいた。【アテネ・ファミリア】のホームごと無くなっていた、はずなのにまるで前からあったかのように聳え立っていた。壁の向こうから発生している巨大な光の柱は―――。
十を超える同じ光の柱が至るところに発生していた。
「どうなっているっ?」
「わからない。でも、単純なことじゃなさそう・・・・・」
「壊せっ!」とリヴェリアの指示に言われるまでもないと《デスペレート》を、風魔法が付加された剣を石壁に突き付けて盛大に風穴を開け放った同時刻。
東―――。
「なにこれっ!?なにこの光の柱!数多いよっ!」
「まさか、神の送還・・・・・!?」
アマゾネスの二人の少女が目を張る。最初に現れた西の光の柱に呼応するかのように続々と天空にまで伸びる光柱に驚倒する。
南―――。
「ベートさん。これって・・・・・っ」
「ちっ、なにが起きてやがる・・・・・」
困惑、当惑するレフィーヤとベート達。今しがた『歓楽街』に辿り着いて【イシュタル・ファミリア】の団員達と睨み合っていたところで起きた摩訶不思議な現象にアマゾネス達と一緒に見ていた。
北―――。
「フィン、ここまで同時に神が天界に送還された事が過去に起きたかの」
「・・・・・いや、流石に僕も知らない。だけど、これはオラリオ創設以来の大事件だ」
フィンとガレスの目でも捉えていた。今でも天空に突き刺さるこの世界で何物よりも美しい光の輝きが発生している柱を。
神―――。
「誰や、誰がこんないっぺんに下界から神を天界に送還したんや!?」
最大派閥の主神が戦慄する。
「ふふ・・・・・少し、オラリオは騒がしくなりそうよオッタル?」
「・・・・・はい」
「一体、どうなっているのよ・・・・・・」
愕然と見開いた紅眼を幾つものの光の柱を凝視する鍛冶の女神。
「神様・・・・・」
「ボク達神にとって・・・・・最悪な光景を目の当たりにしているに違いない」
「ヘスティア様・・・・・」
己の眷族と廃墟の教会から目を焼き付ける小さな女神。
「ヘルメス様っ・・・・・」
「確証は無いけれど・・・・・多分、彼の仕業だよ」
苦労人の団長と肩を並べ橙黄色の双眸を細める優男の神。
「―――ウラノスッ」
「・・・・・神からすれば、思いもしなかった災い。今日の出来事は未来永劫神と下界の者達の間で語り継がれるだろう」
フェルズから発せられる焦り声に『古代』を彷彿させる地下神殿の神座に座る老神は蒼い目を瞑って静かに語る。オラリオ創設以来、今まで起こらなかった現象に何かを悟ったような風に。
元【アテネ・ファミリア】ホームの壁を貫いて見慣れた森の中を駆け抜ける。目指す逆行している光の柱の発生源にリヴェリアと少し遅れて十人の団員達と走り続けるアイズ達。この騒動を止めなくてはという思いがアイズ達を突き動かす。
『―――おやおや、やはり来てしまいましたか』
突然投げかけられる言葉。アイズとリヴェリアが聞き覚えのない声に反射的で足を止めて警戒する。夜の為か、周りは巨大な木々に囲まれていてどこに隠れているのか―――。
『こちらですよ』
不意に己の示す場所を教えられて顔を上に動かす。葉々の
「―――お前はっ」
翡翠の双眸を丸くするリヴェリア。かつて一度だけ見たことがある故に、驚きを隠せなかった。
『お二人はお久しぶりですねぇ。他の人間は初めてでしょうが、どちらも私のことを知らないでしょうから自己紹介をしましょう』
赤い目が弓なりに、愉快そうに笑っているようにも見える。アイズ達が完全にソレの全容を確認できた時には。
『私は結界と障壁を得意とし担当しております「
己の名を告げた巨大な木の姿に赤い双眸のドラゴン―――の顔と思われる部位が、大きく裂ける。
「イッセーの、ドラゴン・・・・・ッ」
『その認識程度ではしょうがないでしょう。こうして会話すらしませんでしたからね。主にグレンデルやアジ・ダハーカ殿が相手をしておられましたし。ですが、ようやく私も遊ばせてもらえる機会が来ましたのでお相手をさせてもらいます』
そう言うラードゥンに気を取られてしまった。アイズ達を一人一人まるっと包みこむ結界に閉じ込められてしまった。
『さてさて、貴女方・・・・・特にお二人の実力は知っておりますが、異世界の人間達の実力は如何ほどなのかその結界を破れるか試させて貰います』
―――今までにないモンスターによる攻撃。アイズ達は酷く当惑して戸惑うが、結界を壊さない限り前に進めないと瞬時で理解した。
「―――この森の向こうに、イッセーはいるのかっ!?」
突然
『ええ、おりますよ。準備ができ次第、私もここから離れる次第ですので』
「準備?イッセーは、一体何をしているっ?」
さらに問うリヴェリアに対して、『そうですねぇ』と意味深な笑みを浮かべる。教えてもいいか少しだけ考えた後に自己完結をする。
『何でも神の力で天界に繋がる道を作ろうとしております』
「「―――っ!?」」
『この世界は実に見ていて面白い。天界で生きることを飽き、娯楽・刺激・快楽を求め神が下界に降り立つ―――そんな世界が存在していたとは。いやはや彼に敗れて以来私達に飽きさせませんね』
天界に生命を受けたまま乗り込むことが目的。一誠が天界からアテネを連れ戻すと言う話を聞いていたリヴェリアからすれば本気で考えていたと改めさせられて驚かされる。
『もしも天界で暴れさせてもらえるならば、異世界の神と戦うまたとない機会。楽しみたいですねぇ、神の力とはどこまで強大で神自身は強いのか興味があります』
そんなこと、イッセーがさせるわけもしようとはしない!そう、アイズとリヴェリアは心を一つにした。
「アイズー!リヴェリアー!って、なにそのモンスター!?」
「―――イッセーの、モンスター!?」
壁に空いた穴から侵入してここまできたのだろうアマゾネス姉妹が東から反対側の西まで駆けつけてきたようだ。
これは幸いとリヴェリアは疾呼する。
「お前達!イッセーを止めろ、この先にいる!」
『させませんよ』
ラードゥンの赤い眼が煌めき、アイズ達を閉じ込めている結界がティオナ、ティオネや団員達十人も閉じ込めた。
「なにこれ!?というか、あのモンスターってイッセーのドラゴンだよね!」
『ラードゥンです。以後、お見知りおきを』
「―――ダメ、斬れないっ!」
斬ろうとして
『無駄ですよ。その程度の力では我が防壁結界を破ることはできません。さあ、頑張って破ってください。命までは奪うつもりはございませんので』
完全に遊んでいる異世界のドラゴン。ここで時間を、ラードゥンに足止めをされ続けるわけにはいかない―――!アイズの気持ちが、魔法が応えようとする。
「【
最大出力!!!
攻防一体の風魔法を発動するアイズは破壊せんと《デスペレート》を結界に突き刺す。
『・・・・・そう言えば、貴女の魔法は風でしたね。その破壊力ある魔法を封じてみましょう』
ラードゥンの眼が怪しく輝き、アイズの身体を別の結界で覆う次の瞬間、アイズの魔法が忽然と止んでしまった。
「・・・・・え」
茫然自失、アイズの金眼が見開き酷く動揺の色が浮かぶ。今までに体験したことのない魔法無力化。
「【
発動呪文を発声した。
「【
信じたくない現実、アイズが
―――奪われた。
目の前の違う世界のモンスターによって奪われたアイズの相棒とも言える
「なんてモンスターだ・・・・・っ!」
アイズが茫然と立ち尽くす姿に恐れ戦くリヴェリア。こんなことできるモンスターはダンジョンでは未だ発見できていない。少女と同じように
『ふふふっ。彼は、拳一つで私の体に直接攻撃をしてきますよ?私が何重も張った結界を打ち砕きながらです』
「あいつは、そこまで強いと言うのか・・・・・っ」
『切り札を何らかの方法で、形で失われても最後に残る己の体を武器にして挑む。この世界で例えるならまさしく英雄のような―――』
言葉を連ねるラードゥンの顔の近くに小型の魔方陣が現れた。口を閉じて魔方陣に意識を向ける木のドラゴンは笑みを浮かべた。
『準備が整ったそうなので、貴女達とのお遊びはここまでのようです』
一誠からの連絡だったのか、ラードゥンがそう言いだす。天界に行く為の何らかの方法ができたのだと言外すると道理であった。
『では、しばらくの別れですがまたこの世界に降りてきますよ。その時は―――兵藤一誠が求めている女神を連れてくることでしょう』
ラードゥンは転移魔方陣でアイズ達の前からいなくなり、一誠のところへ戻った。そこはオラリオに起きている幾つものの逆行している大瀑布の光柱の元凶。
「―――結界が解けたっ」
「急ぎましょう!」
動きを封じていたドラゴンがいなくなったせいか結界が消失して自由の身となったアイズ達。
「・・・・・【
魔法の発動呪文を呟くアイズの体に甦った風が包みこむ。戻った魔法に安堵で胸を撫で下ろす少女は金眼を光の柱に見つめ、駈け出す。リヴェリア、ティオナ、ティオネとともに目的の場所へ向かう。―――そして、前代未聞な光景を目の当たりにする。湖に囲まれた砦は無くなって、展開されている
「イッセー!」
アイズが叫ぶ。
「天界に行かないでよ!ずっとここにいてよ!」
ティオナは必死に制止の声を掛けるが一誠は答えない。変わりに応えたものはアイズ達の横から現れる深紅のドラゴンを模した
『それは無理だ。俺はアテネを天界から連れて帰ると約束したんだ』
『アテネが天界に送還される際に誓ったんだ』
『これは俺達の問題だ。お前らには関係のないことだ【ロキ・ファミリア】』
『邪魔をするなら、全身全霊を以ってお前らを倒す』
魔法による分身体、アイズ達に向ける言葉と臨戦態勢は本気であると伝わせるのに十分だった。
「なんで?どうしてそこまで女神様を拘るの?」
『言ったはずだ、約束したと。俺は約束を必ず果たす主義でな。お前らとは根本的に考えも概念も存在価値も違う。お前らに理解してもらおうなんざ考えてもいない』
ティオナの問いに冷めた返事で返す。
「他の女神ではダメなの?」
ティオネの一言に分身体達は問い返す。
『なら聞こうかティオネ。もしもフィンが死んで、死んだフィンを甦らすことができる何らかが目の前にあるとしたらお前はどうする』
『愛の為に甦らす為に悪魔の所業をするか?死んだ愛しい者の分まで生きて過ごした時間を思い出として大切にするか?』
『どっちだ?』
ティオネは―――直ぐに答えられない。
『当然の迷いだろう。だが、俺が求める女神は死んでいない。天界に戻っただけだ。ならば、アテネと再会できる可能性がある』
「それを、お前はしようとしているのか」
『俺は本気だぞリヴェリア。「遠征」時にも言ったはずだ。そして俺は異世界の出身者。この世界でできないことを異世界から来た俺はやり遂げて見せる』
『だから、お前らが邪魔だ』
その言葉が開戦の合図として、数多の分身体が瞬く間にアイズ達へ襲いかかった。第一級冒険者なら何とかできるが他の団員達はそうじゃない。あっさりと捕縛され、人質にさてしまいアイズ達は輝きを増して眩い閃光を放つ光の中にいる一誠達の足が地面から浮き始め―――。
「約束しよう―――俺達は必ず、この世界に戻ってくる!」
「イッセー・・・・・」
―――○●○―――
―――後日談。
「・・・・・そうか。ご苦労さんやったな」
アイズ達に労うロキ。犯人は一誠、そして本当に生きたまま天界に行ってしまったと事の顛末をロキを含め【ロキ・ファミリア】の幹部達は神妙な顔つきになった。
「ロキ、こんなこと有り得るのかい」
「ほんまに有り得へんで?まさか、他の神連中から
「じゃが、事実。それを仕出かして可能にしたぞぃ」
「その上、力を奪われた神は天界に送還され、十を超える派閥が消滅。まるで神アテネがやろうとしていたことをイッセーは変わりにしたようにな」
天界に行く為に十を超える神々が犠牲となった。まさしく悪魔の所業。だが、誰もが不可能だと思っていたことを見事に成し遂げた天界の侵入―――見かたを変えればまさに『偉業』。
「このこと、ギルドに伝えるべきかロキ」
「・・・・・いや、待っとって」
余計な事を言って【ロキ・ファミリア】に疑われるのは好ましくない。幸い、この事実を知っているのは一部の団員達だけだ。他言無用と厳守して、今までの見聞や言動をその胸の中に仕舞ってもらうことで謎の
「じゃあ、他の神にも教えるのかい?以前、彼が異世界から来たモンスターだと説明したように」
「・・・・・あの時のおかげでうちは酷い目に遭った手前なんやけど」
思い出したくもないと身体を震わせ珍しく顔を青ざめるロキ。天界送還されるほどの重症ではないにしてもあの痛みは酷かったらしい。
「・・・・・これで完全に【アテネ・ファミリア】は言葉通り消滅しましたが」
「被害が甚大よね。と言っても神様がいなくなっただけだけど」
「消滅した派閥の冒険者達はこれから大変だねー」
「雑魚がどこで何しようが俺達には関係のねぇことだ」
「・・・・・」
今後のオラリオはどんな未来を待ち受けるのか、ロキやフィン達は分からない。
「そう言えば、【アテネ・ファミリア】のホームはどうなるんだろうか?」
「・・・・・ああ、それについては」
リヴェリアは語った。あの後、追い出されてしまうと強固な結界を張られてしまい、侵入不可という状態になったと。
装飾と意匠が凝った門が神々しく光り輝いていた。その現象はニヤニヤと浮かべ待ち遠しそうにいやらしい笑みを浮かべている集まって老若男女達の姿を見ればなにが起きようとしているのか把握済みなのだろう。
『さーて、今度は誰が負けたかなー?』
『ヒヒヒッ。楽しい楽しい罰ゲームのお待ちかねだぜぇー?』
双眼から血のごとき真っ赤な眼光を迸らせているのが異様だった。まさしく
「門を開けーっ!負け犬のお帰りだぁー!」
『いらっしゃーい!負け犬ぅっー!』
どこからかそんな掛け声が聞こえてくると、門の扉がゆっくりと開きだすにつれ眩い閃光が門の向こうから迸る。野次馬達の全身を照らしだされると歓喜の雄叫びが、怒声が上がるその中で、一人、また一人と男達が現れ―――。
『さぁ、今すぐ働いてもらうぞッ!てめぇらも不眠不休という最高のプレゼントがあるんだからねぇーっ!』
「「「「「いっやぁぁぁぁああああああああああああっ!?」」」」」
生者に群がる
「・・・・・」
その様子を、門から迸る神々しい光に照らされる一柱の女神は不審に思った。周りは気付いていない、あるいは気にしていないだろうか。―――一度に天界に送還される人数が過去を振り返っても異様なほど多いことを。数えると十二人。これは、誰かが意図的に故意的にしなければ二桁の数字で神が送還される事はほぼ有り得ない。
門を視界に入れ続けると神が現れる気配は無い。これで終わりだと門が再び神が送還されるまで閉じようとする光景を―――ドンッ!と巨大な真紅の鱗に覆われた異形の手が飛び出してきて扉をブチ破いた。
『・・・・・』
一気に静まり返った。誰一柱とも、信じられない光景を目の当たりにして思考が停止し立ち尽くす。異形の手がもう一本増え、門の柱を掴むと巨大なドラゴンの顔が飛び出してきたではないか。
『ここが・・・・・天界っ』
ドラゴンから聞こえる人語。門から出ようとする仕草をするが、身体がデカいのか中々抜け出ずにいる。すると仕方なくといった表情をしたドラゴンは全身を真紅に輝かせ、一条の光として門から飛び出しては宙に留まって姿を現す。老若男女の神々が目を丸くして全長一〇〇Mの
胸を大きく仰け反り、天界特有の空気を肺に送って腹部を膨らませ―――。
『アテネェエエエエエエエエエエエ!迎えに来たぞぉおおおおおおおおおおおおっっっ!』
一気に口から迸る轟くドラゴンの咆哮。天界全体に、果てまで届く勢いの叫びが天界を響かせる。
―――我、約束を今ここで果たさん―――!
「ああ・・・・・・あああ・・・・・っ!そんな、本当にっ、本当にあなたは約束を
守ってくれたのねっ」
天界に現れし真紅のドラゴンに感激の涙を頬に流し、女神も叫んだっ!
「イッセェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!」
叫びは、思いが籠った声がドラゴンの耳まで届き、隻眼の眼を真下に向け―――銀髪に灰色と青色の双眸の女性に目が入って瞳を潤わせた。翼を羽ばたかせ、一気に急降下するドラゴンから離れようと神々達は一人を残して蜘蛛の子が散らばるように逃げた。その途中、またしても全身が真紅の光に包まれにモンスターではなく人間の姿になって四人の女性達を金色の翼で包んだ状態で降り立つ。
「「「「アテネ様っ!」」」」
翼から解放された四人は元主神に駆けて再会の喜びを露わにするのだった。
「貴女達も来たのね!」
「はいっ、本当に天界に来れるとは私は思いもしませんでした。・・・・・ううっ、良かったですよぉ」
「久し振り、元気にしていたようねアテネ様」
「変わりないようで良かったです」
「念願だったことが叶って私達は嬉しいですよ」
春姫達と嬉しそうに会話をし、笑みを浮かべて接すると一人の少年が近づいてくる。アテネも少年の姿を見るや近寄って―――。
「―――約束、果たしに来たぞアテネ」
「信じていたわ。イッセー・・・・・」
どちらからでも抱き絞め合って、喜びを分かち合い、唇を重ね合った。
―――○●○―――
天界に辿り着き、アテネと再会を果たした次の朝、一誠は背中に
「―――よし、戻った!」
「ふふふっ・・・・・」
嬉しそうにはしゃぐ一誠を微笑んでアテネも喜ぶ。本当に天界にやってくるなんて凄い子だと思って潤う瞳を向ける。
「イッセー達。一体どうやって天界に来たの?」
「神から
なるほど・・・・・。そこまで考えつく一誠は紛れもなく『偉業』を果たしたはずだ。残念ながら【
「・・・・・ここが、アテネの家なのか」
『古代』を彷彿させる建造物の中に一誠達は一夜を過ごした。一誠達にとっては興味深いアテネの家である為に、
「よし、昨日は寝るだけで過ごしちゃったから天界の観光でもしようか」
「えっ、下界に戻らないの?」
寧ろ、下界に戻って結婚式を挙げたい!と想うアテネなのだが、一誠の瞳は好奇心で輝いている。
「帰りはどうやって行けばいいのか分からないんだよなー。それに、せっかくアテネの故郷ともいえる天界に来たんだ。天界のことを思う存分知って、それから下界に戻っても遅くは無いと思うんだけど・・・・・ダメ?」
「・・・・・」
一誠の願いにどうしよう、と考える。そうさせたいのは山々だが他の神々がしつこく追及してきそうだし、なにより一誠達との時間が減らされる可能性がある。天界にいる神は暇を持て余し―――。
「アテネェエエエエエッ!いるんでしょー!出てきなさーい!」
女性の声が響き渡った。一誠達は何事だ?アテネは覚えのある声に「やっぱりこうなったか」と溜息を零し、己の領地に上がり込んできた女神に悟った。
「ちょっと、行ってくるわ」
それだけ言ってアテネは玄関へ赴く。細い美脚を動かして歩く先にアテネを呼ぶ女神がいる玄関先に進む。
「ア、アテネ様」
「気にしないで自分の仕事をしなさい」
『古代』から領地に住まわせることを許した一人の
「朝から騒々しいわね・・・・・何か用なの、。純潔の女神アルテミス」
億劫そうな気持ちを顔に出すアテネ。
「あなたも相変わらず堅苦しい挨拶をするんじゃない。それより、どういうことよ」
アルテミスは真意を尋ねにやって来たと言外する。アテネも目の前の女神がここに来た理由を察している為―――。
「・・・・・じゃあ、私は仕事するから」
バタン、と扉を閉めようとしたアテネの思惑を瞬時に察知して、第一冒険者顔負けの鋭い槍の一突きのように背を向け出す女神の肩に掴んで制止した。
「面倒くさがらない!アテネ、いま天界中が大騒ぎをしているのよ!モンスターや下界の子供達が天界にやってきて、女神とキ、キスをしたって―――!」
アテネを振り向かせて今度は両手で肩を掴んで耳まで顔を真っ赤にするアルテミス。ああ、やっぱりと一誠達のことについて窺いに来たのだと女神とは思えない面倒くさそうな面持をし出す。
「ちゃんと下界に送り返すからそれでいいでしょう」
「いやいや、下界から天界に直接きた子供達をどうやって送り返すのよ。地上に真っ逆さまに落ちてトマトの様に潰れるのがオチよ」
「あの子はドラゴンだから問題ないわよ。空、飛べるし」
「やっぱり!あのモンスターはなんなのよ!?零から十まで教えなさーい!」
ついには揺さぶられ始め、心底面倒くさいなーと思ったところで。
「アテネを揺らすな」
アルテミスの、女神の頭にたたまれた分厚い髪がバシンッと小気味の良い音を鳴らして打撃を与えた。
突然の頭部から伝わった衝撃と鈍痛にその場で跪き頭を両手で抑える。そんな罰当たりな事を仕出かす張本人、一誠はアルテミスに呆れ顔で見つめ、視線をアテネに変える。
「アテネ、この女神は誰なんだ?」
「アルテミスよ、イッセー」
「・・・・・狩猟と純潔の女神。ヘスティアとアテネと同じ処女神の一柱だったな」
異世界からやってきた一誠によく知っているわね、と感嘆する。下界の子供達が知らないことを一誠は分かっていることに扉の奥から春姫、ウィルとレリィー、カルラが現れてくる様子を見ながら称賛する。
「め、女神の私には、叩くなんて・・・・・」
「俺にとっては神とは思えないんだが・・・・・」
「なんでよ!?」
ガバッ!と顔を上げて一誠に抗議する。自分は女神だ、下界の子供であれば敬うべき
「下界にいる快楽主義者の神々や女好きの女神とか、―――神とは思えない振る舞いを見続ければなぁ・・・・・」
「・・・・・」
二柱の女神の間で沈黙が発生した。神を敬うのは当然であるが、神として威厳のある、尊敬できる言動や立ち振る舞いをしているのかと問われれば、全員が全員ではない。断言もできもしない。
「・・・・・ちょっと待って、まさか私もそうだと思いたいの?」
もしもそうであればそれは心外の良いところだと文句の一つや二つ、言おうとした矢先。
「アテネから聞いたんだけど、神にも仕事があるんだよな?不眠不休の。アルテミスは仕事を終えたのか?」
・・・・・。・・・・・。・・・・・。
「・・・・・」
あからさまに、アルテミスは自然のつもりで一誠から視線を逸らした。
「し、したわよ?」
「嘘ね。貴女が私の領地に来ること自体、あんまりないもの。私とあなたの領地、それなりに距離があるし、しかもこの朝っぱから。まだ、仕事もしてないでしょう」
看破された。呆れ混じりの溜息を零しながらアテネに言われたアルテミス。一誠の顔から「敬えねぇ」とありありと浮かんでいる。
「だ、だって!他の神連中が『アテネが怖いから友神のお前が訊いてきてくれ』って五月蠅かったんだもん!」
開き直った・・・・・一誠とアテネの心が重なった。
「天界に生きた状態で下界の子供達が来るなんて誰も思わなかった上にモンスターまで!天歴に刻まれる大変なことだって分からないはずがないでしょう!?」
「天歴?」なにそれ、と一誠の質問にアテネは応答する。
「下界で起きた
「そ、そのようなことを私達はしてしまったのですか?」
おっかなびっくりと春姫が翠の眼を丸くする。ただ天界に来ただけで大騒ぎ、自分達の行動で神々を騒がせることになろうとは思いもしなかったと気持ちが大きいだろう。
「なにより・・・・・ペルセポネーやハーデスの耳に入ったら、ヤバイわよ」
アルテミスの口から発する一誠でも知っている冥府の神を訊いた途端、今まで見たことのない強張った顔をするアテネから緊張が伝わってくる。
「・・・・・イッセー、貴方が知っているハーデスとペルセポネーはどんな感じなの?」
「ん?外見は怖いけど優しい骸骨のお爺ちゃんだなハーデスって、ペルセポネーは優しい女神だ」
「は?なに言ってんの?」
「アルテミスは黙って。イッセーのこと、何も知らないんだから」
「いい、イッセー」とアルテミスから一誠に意識を向けて真摯な気持ちで春姫達にも教える。
「私達神々の中で、あまり関わりたくない神もいるの。その中で一番関わりたくないのは死を司る神が主なの。何故だか分かる?」
一誠達は分からないと風に雰囲気を醸し出す。アテネはその理由を告げる。
「下界の子供達の死後、『魂』の多くが死を司る神のもとで管理される。その神と同様、私達も『神の審判』という死んだ子供達の魂を転生させるのが仕事の一つがあるのだけれど」
「私達以上に不眠不休の仕事をしているから、何千年何万年と下界から送られてくる魂に審判をし続けたから『死神』って二つ名で呼ばれるようになった」
アルテミスも話に加わり補足する。
「フレイヤも死を司る神でもあったんだけど、今下界にいるでしょう?だから彼女がいなくなった穴埋めとして他の死を司る神がその分の仕事をせざるを得なくなった」
「今じゃ、憤怒を通り越して生きた屍状態なのよ」
・・・・・・んん?
「どの辺がハーデス達が危険な感じがするのか、良く分からないんだけど」
天界一苦労人、としか印象がない一誠の中で定着しそうになる。特別恐ろしいというわけでもなさそうだが、二柱の女神が緊張するような相手なのだろうか、と首を傾げた。
「―――私は魂を喰らうのよぉ」
次の瞬間。この世とは思えない寒さがアテネ達を包みこんだ。
「気付くのが早過ぎるわよっ」
毒吐くアテネ。アルテミスの顔は凍り付き、尻目で見れば・・・・・。
「あれだけ神が騒げば、嫌でも聞こえちゃうわぁ」
目すら覆い隠し、地面にまで伸びる漆黒の神。黒と紫を基調としたメイド服のような衣装の出で立ちでアルテミスの後ろに立っていた女性。素肌が見える頬や手を見ればとても健康的な肌とは思えないほど青白い。
「・・・・・全然、違う」
骸骨の死神ハーデスと接してきた一誠にとっては恐れよりも驚愕の方が勝っていた。顔を青ざめ、カルラ以外一誠に抱きついて恐がっている春姫とウィル、レリィーと違って。
「ハーデス、貴女仕事はどうしたのよ」
「何時も通りの休憩よぉ~?直ぐに戻るけどねぇ。フレイヤがいなくなってもう私達は能天気に下界で謳歌をしている神とは違って忙しいのだからぁ」
甘ったるく、そして不気味な声音で前髪の隙間から赤い目が窺わすハーデスは真っ直ぐ一誠に近づき、品定めするような目つきで、凝視する。
「ふ~ぅん?貴方・・・・・ただの子供じゃなさそうねぇ・・・・・魂が他にも幾つかあるものだものぉ。禍々しい魂や清らかな魂、硝子のような魂・・・・・色んな魂が一つの体に合ってとっても・・・・・」
「―――――」
死神ハーデス。そこまで見抜くことができた目の前の死神に気を抜けない一誠の頬がハーデスの手に包まれた。
包まれた頬から極寒の冷気を感じさせる冷たさが体温を奪っていく。永年、魂と触れ続けた結果なのか分からないが、アテネ達が警戒する理由が少しわかって来たところで。
「気に入ったわ。貴方に憑いちゃう」
「「―――っ!?」」
一誠は死神に気に入られてしまった。
「憑く?」
十分後―――。
「・・・・・憑くって、こういうことかよ」
「うふふ♪」
ベッタリと背後から抱き憑くハーデスを言葉の意味を理解した一誠だった。そして、何とも言えないとアルテミスや不機嫌に頬を膨らませるアテネ、ハーデスがいることで一誠の傍から離れざるを得なくなった春姫達。現在、一行は天界の街中を歩いていた。
―――天界に来た下界の子供達は貴方達だけ、特別の意味で初めてよぉ?だから案内してあげるわぁ。
ハーデスの好意を無化にできない一誠達は、案内するはずの神が少年の背中にしがみ付いた状態で天界に存在する神々の街へ出向くことに。
「つーか、どうして俺はお前を背負わなければならない?」
「だってぇ、貴方から伝わる温もりがとっても心地がいいんだものぉ」
―――誰かの温もりを感じることなんて、他人の温もりがこんなにいいものなんて生まれて初めてだし・・・・・。
言葉とは裏腹に秘めた思いを胸中で呟く。当然一誠達は気付くはずもない。
「それにしても、私に抱きつかれて冷たくないのぉ?」
「もう慣れた」
「・・・・・慣れるものじゃないと思うのだけれどぉ?」
「いや、逆に懐かしさも感じているんだこれが。何時も俺の肩に乗っかる家族がいるんだが、最近はそんなことされないから」
嫌がるそぶりもしないどころか、懐かしさを感じている。ハーデスにとっては良くて不思議な人、悪くて変な人という印象。誰も自分と自ら関わろうとはしない。それは別に気にしないしハーデスからも気安く接せられるのは嫌だし、鬱陶しいのはもっと嫌だ。初めて下界から天界に来た生身の子供達と接触してからというものの、自分の中で何かが変わろうとしていることに戸惑いそうになる。
「・・・・・しっかし」
不意に一誠が口を開く。
「ここ、大して物珍しい物は無いんだな。見慣れた風景しか見えないんだけど」
奇異と驚愕、好奇の視線が一身に浴びている中で一誠はつまらなさそうな顔をする。天界に住むことを許された『古代』や『現代』の人類と思しき姿がちらほらと見掛け、下界にあるような出店が見当たらない。―――因みにここはアテネの領地である。
「イッセーの世界にある天界はどうなの?」
よくぞ聞いてくれた!と嬉しそうに一誠は隻眼の瞳を輝かせた。
「ああ、俺の世界の天界はな?全部で第七階層―――第七層ってあるんだ。言い方があって、第一層を第一天と俺達はそう呼んでいるんだ天界の階層をさ」
第一天、第二天、第三天と全部ひっくるめて言えば第七天だと付け加える少年にアテネと春姫達は興味津々に耳を傾ける。
「第一天の層では天使が働き、空に浮かぶ天使が働く建物があるんだ」
「そうなの?じゃあ、他には?」
「第二天は主に星を観測する場所でもあるが、罪を犯した天使が幽閉する場所でもあって―――」
「「ちょっと待って」」
アルテミスとハーデスから待ったが掛かった。
「あなたぁ、さっきからアテネとなにを話しているのぉ?」
「貴方の世界の天界って、なに、どういうこと?」
話について行けれず、一誠に問いだたす。今いる天界の中で一誠を知る者はアテネと【アテネ・ファミリア】だけだ。二人の疑問はもっともで、疑問をぶつけてしまうのは致し方がない。
「イッセー・・・・・言っちゃっていい?」
「んー、そうだな。ロキが口を滑らしたし、今更か」
「・・・・・後でその話を聞かせて頂戴ね」
約束を破った神に天から天誅をしてやる、と意気込む女神の口から真実が発せられる。
「もう何となく察しているだろうけど、イッセーはただの下界の子供じゃないの」
「そうねぇ?でぇ?」
「イッセーは私達の名前と同じ、神がいる世界、異世界からやって来た人なのよ。正体はモンスターだけど」
「「・・・・・」」
アテネから冗談染みた発言がされた。アルテミスとハーデスは、ないない、有り得ないと心から否定した。
「アテネが冗談を言うなんてね」
「珍しいわぁ」
絶対に信じていない反応にこうなることを見透かしていたアテネは、
「イッセー、証拠を見せてあげて」
論より証拠とそうした方が早いと決めたアテネに応え、青白い天使化になった。
「「・・・・・」」
アテネの隣からアルテミス、一誠の背中にしがみ付いているハーデス。二柱の神が目を丸くして空いた口が塞がらなかった。モンスターが十二枚の翼を生やす天使になった。しかも色違いのだ。しかもあっさりとなった。
「下界の子供達が、こんなことできると思うか?」
「「・・・・・」」
無言で首を横に振る。ごめんなさい、信じなかった私達が悪かった、と後に謝罪される一誠だった。
「ほ、本物・・・・・?」
「一応、本物だぞ。触れる」
「じゃ、じゃあ・・・・・」
恐る恐る青白い翼を触れるアルテミスの手に伝わる感触は、ふんわりとした弾力に温もり。モコモコしていると純潔の女神の感想であり、
「不思議ねぇ・・・・・えい」
「ぐおっ!?そこ、引っ張るな!」
ハーデスが頭上に浮かぶ青白い輪っかを掴んだ。その結果引っ張れば悲鳴を上げる一誠の頭もつられるように動いて「あ、掴めるんだ」とアテネ達も新たな事を知った。
「信用できたか?」
「・・・・・取り敢えず」
「ええ、下界の子供じゃ絶対にできないことだものぉ」
納得してくれたところで、元の姿に戻る。
「ところで、神が送還されて辿り着いたあの門ってやっぱり下界に繋がっている?」
「そうよ。下界に行く神はあの門から飛び降りるの。送還される際もあの門から」
「ふーん・・・・・やっぱり天界は下界と同じ世界にあるんだな」
だとすれば―――と一誠の中である考えが過ぎった。もしも予想通りならばいけるかもしれない。であれば、
「ラードゥン、アジ・ダハーカ、メリア!」
アテネの家の広い敷地にアテネ達に見守られる中で一誠は金色と黒い
『どうした我が主?天界にいる神と戦ってもいいのか?』
「お前達の能力で下界と天界を別のルートを作れないか?」
『我が結界とアジ・ダハーカ殿の魔法で、ですか。なるほど、それはまた面白そうな実験ですねぇ』
『そうですね』
漆黒の身体に時折紫色の発光現象を起こす三つ首のドラゴンと木の幹が幾重にも重なって形を成したかのような木のドラゴンと全身が金色、翼も金色と頭上に天使の輪っかを浮かばせるドラゴンに用件を言いだす。
『異世界のまた異世界を繋げる為の手段を編み出すなど、こんな機会は滅多に有りませんねアジ・ダハーカ殿』
『俺はそんな事よりもこの天界にいる神と死闘を繰り広げたいがな。主よ、ダメか?』
『そんなこと主が許すはずがないでしょう。主よ、では早速始めましょうか』
「そうだな。そんじゃ、前代未聞をやろうか」
三匹と一人が目を輝かす。遥か上空にドラゴン達の能力を発動した―――。
―――下界―――
蒼穹の彼方、オラリオは何時もと変わらない平和を保っていた。ダンジョンへ金を稼ぐ為に、己の名を挙げる為に繰り出す冒険者、店を構えて商売繁盛、金を儲けようと奮闘する一般人、バイトをする神や働く神、快楽と娯楽を求め街中を彷徨う快楽主義者の神達。今日もまた、平和なオラリオが一日の始まりの時間を過ごす。
誰もが心を一つにして今日も平和であると、信じ込んでもいた。だがしかし、突如オラリオ上空に暗雲が発生し、雷鳴が轟くまで誰一人、疑わなかった。
忽然と変わった天気にオラリオの住民は不安を抱き、雨でも降るんじゃないかと思う者は少なくない。
雨雲だと思っている暗雲はただただ不気味に雷鳴を鳴り響かせ、今にでもオラリオに落雷しそうな雰囲気を醸し出しそれが数分も続いた。
が―――それも突然終わりを迎えた。暗雲を裂くように日差しがオラリオを包みこむ天幕やカーテンのように照らし出す。それから暗雲は徐々に消え去って・・・・・オラリオの上空から神々しい光を照らしだすもう一つの世界の街並みが合わせ鏡のように映し出される。
神は目を見開いて驚愕した。神しか知らない風景が上空で映し出されたのだと理由で。こんな
―――○●○―――
天界と下界を行き来できる手段を編み出してからその日の夜。女神しか入らない、というよりも不眠不休する神々はあまり風呂に入らないのが日常的なのだとか。その為、一誠達に風呂を宛がわれ入浴することができた。『古代』風な石造りの浴場にある湯が張ってある湯船は一つしかなく五人しか入れないような大きさの風呂に春姫達は先に入り、最後は一誠が入っている。
しかし、アテネの家に住みついている
「・・・・・さぁて、明日はどうするかなぁ」
まだ下界に降りるつもりは無い一誠は天界を思う存分見聞するつもりでいる。次はどんな場所に行ってどんな神と触れ合うか、そう思った楽しみにしていると心が弾んだ。
「ばぁー」
「ぬぉっ!?」
驚きの意味で―――。湯船に肩まで浸かっている少年の肩に感じた極寒の冷たさと気を緩んで警戒や気配を察知していないところに驚かされ本気で驚いた一誠。反射的に振り向き、黒を基調としたメイド服のような衣服を身に包み、顔の半分、床まで届いているほど長い黒髪の女性が前髪の奥から時折覗ける赤い目を向けている様子を隻眼の瞳で捉えた。
「ハーデスッ?どうしてここに?」
「ふふふぅ・・・・・貴方に会いたくて来ちゃった、こっそりアテネにバレないようにねぇ?」
口元が三日月のように吊りあがり、驚かすことができたと、愉快な気分となっているハーデスは湯船に浸かっている一誠を見下ろす。本来、この浴場にさえ現れない女神に隠さず溜息を零した。
「仕事はしなくて良いのかよ」
「終えたわよぉ~?一時的にだけどぉ、他の神々に行くように仕向けたわぁ」
職権乱用という言葉が頭の中で思い浮かぶが、なにそれぇ?美味しいのぉ?とはぐらかすに違いない。帰れと言っても帰る気はないだろうと思い一誠は呆れ顔で言った。
「俺と話をしたいなら風呂の前で待ってくれるか?上がるからさ」
「・・・・・いいわよぉ」
「そうか、それじゃ―――」
しゅるしゅる・・・・・ぱさっ。布が擦れる音がし、最後は被さるような音が聞こえた。
「私も・・・・・一緒に入るからぁ」
「はっ?」
いいわよ、と言葉の意図は―――そんなことしなくてもここで話をすればいいだけが籠っていたのだ。
一誠の目の前ではハーデスの衣服はすべて取り払われ、青白い不健康的な色の肌を露出させる死神がいた。そのまま無言で湯船に入り、一誠とは反対側の位置で肩まで入る。まさか、こんなことになるとはと考えもしなかった一誠は眼前にいる全裸の死神と少しばかり無言でいると。
「不気味だったぁ?」
ハーデスから声を掛けてきた。そして嘲笑するような発言を発したハーデスに「はっ?」と顔を向けながら漏らした一誠に再度口にした。
「私の身体、他の神や女神と違ってぇ、青白いでしょお?」
「・・・・・」
「私達
手の中に湯を掬い上げるとたちまち凍りついてしまった。
「私に触れたものは皆冷たくなって、最終的にあまりの冷たさで凍ってしまうこともあるのぉ。だから他の神々からは冷たい私を触れ合いたくないのぉ」
「・・・・・じゃあ、ハーデスの周りは」
「ええぇ、冷たいとしか感じられないわぁ。水の中に入っているような気分よぉ?」
だから、一誠の隣ではなく離れた場所で入ったのだと言外するハーデスに一誠は隻眼の瞳を丸くする。今まで出会ったことのない女性で驚きを隠せなかった。
「ねぇ、貴方はぁアテネのことが好き?」
「ああ」
「それは女神として?それとも一人の女の子として?」
「両方だ」
即答で答え続ける一誠から嘘偽りは無いと感じさせない清々し返答。
「どうしてぇ、アテネのことを好きになっちゃったの?」
「これでもアテネとは短くない付き合いをしているんだ。最初はお互い、それぞれの目標があって、互いがそれを叶うまで協力し合う形で生きていたんだ。でも、打ち明けた俺の正体と事情を全て受け入れてくれた。だからこそ彼女には信用と信頼をするようにもなった。それからだな、何時しか俺達は好きになったのは」
腕を龍化にして、ハーデスに向かって突き出した。
「事情があって俺はモンスターになった。本来、モンスターが恋なんてできるはずもない。なのに、アテネは俺を受け入れてくれたんだ。これほど嬉しいことは無いだろう?」
「物好きな女神だとはぁ?」と質問に一誠は苦笑いを浮かべた。
「ははっ、まあ、思わなかったと言えば嘘になるかな」
だよねぇ~?とハーデス。好き好んで神がモンスターと恋をするなんて悪趣味過ぎる。周りから侮蔑と嘲笑、罵倒されるのは確実。
「だからさ」
一誠は子供のように笑った。邪のない純粋で心から笑う子供のように。
「俺は俺を必要として、俺のことを心から好きになってくれたり、好意を抱いてくれる女を一人残らず愛することにしているんだ。俺の大切な家族になってくれる、俺の隣で何時までも一緒にいてくれる、何時までも笑顔を浮かべてくれるそんな女を大切にしたいんだよハーデス」
「・・・・・」
「俺から伝える愛情に優劣は無い、順番もない、全員平等の形で愛する」
それに知らないだろハーデス。と一誠は口を開き続ける。
「こう見ても俺、寂しがり屋なんだぜ?何時も誰かの傍にいないとちょっと心細いんだわ」
それにはポカーンと開いた口が塞がらなかったハーデス。しかし、次第にそんな一誠はおかしいと笑みを零す。
「ふふっ、くふふふっ・・・・・!あ、貴方が、寂しがり屋だなんてぇ・・・・・」
つまりは、誰かに甘え続けないと寂しく感じる幼い子供だということであった。なるほど、だからアテネを天界に来てまで会いたかったのか、離れず一緒にいるのかとハーデスは一人納得する。
「可愛いわねぇ」
「うっさい」
可愛いと言われふてくされる一誠に暖かい視線で微笑むハーデス。
そっか・・・・・なんとなくだけれどぉ、アテネが好きになっちゃった理由を少し解った気がするわぁ。
そんな事を思っていると一誠の背中から生え出す翼がハーデスに伸びては、背中や臀部、太股に優しく包んだかと思えばその状態で一誠の方まで寄せられ膝の上を乗せられる。
「な、なに・・・・・?」
「言っただろう?寂しがり屋だって。そんな離れたところじゃなくて俺の傍にいてくれよ」
己の胸が一誠の前に突き出される形でハーデスの冷たい身体に腕を回され、しっかりと抱き絞められる。ここまで異性にされたことは産まれて一度もないハーデスは動揺と困惑、当惑する。こんな状況をどう対処すればいいのか、ハーデスは分からず己を抱き絞める一誠から放れようと身動ぎする。
「い、いやっ・・・・・放して」
「嫌だ。それじゃ、触れられないだろう?」
「え・・・・・?」
なにを言っているの?と赤い眼は一誠を見つめる。自分を触れる?どうしてそうしたいのか理解できないと思っていれば、
「ほら、俺はお前を触れれるぞ」
背中に回された腕と手はしっかり一誠の温もりを直接感じさせる。冷たさしか感じられないはずの身体が確かに温もりを感じる。初めて抱き絞められている―――。
「ハーデス、お前の身体は不気味じゃないぞ。それと身体が冷たいからって何だ。こうして触れ合うことができるじゃないか」
徐に背中を回していた手を前髪に触れてハーデスの隠された赤い眼を覗き込むように額を重ねた。
「俺も他の神連中と同じだと思っているならそれはお門違いだ」
死神の青白い頬を両手で添える。一誠から赤い眼を逸らさせない為か、それともハーデス自身が逸らすことを忘れて見つめているのか一誠に視線を送り続ける。
「例え、他の神がお前を否定するなら俺がお前の全てを肯定する。その肌も目も、魂も全てだ」
「―――――」
「断言するよ。俺はお前を拒まない。全て受け入れる。この冷たさもハーデスの温もりだと感じて好きになろう。だから好きなだけ俺に抱き付け、俺もお前を抱き絞めてやるよハーデス」
「―――――っ!?」
真っ直ぐ自分を見つめる隻眼の瞳に酷く赤い眼から動揺の色が浮かんだ。そんなこと、言われたのは初めてであり完全に一誠に呑みこまれている自分がいる事を気付き、半ば焦心に駆られて
「・・・・・え?」
「な、なんなのよぉっ・・・・・」
浴場から一瞬でアテネの領地から離れ夜空の下で一人だけハーデスは胸に手を添えて、感じたことがない激しい動悸にどうすることもできないまま立ち尽くす。
「なんなのよぉ~・・・・・」
重ねられた額、直接赤い双眸を見られた隻眼の眼、自分を受け入れる言葉を発する口、それら全てが下界からやって来た子供の姿をしたモンスターに瞼の裏が焼きついたのか、中々消えないでいる。
お前を抱き絞めてやるよハーデス。
「~~~~~!?」
あの眼差し、真っ直ぐ見てくる隻眼の瞳・・・・・ダメだ。あの眼を見たらきっと思い出してしまう。自分が自分でいられなくなる予想とその恐怖と不安、それ等を胸に抱くがその半面。とても嬉しかったという感情が不思議と出てきた。
「イッセー・・・・・」
全てを受け入れる。そんな言葉、覚悟がない者には絶対に言えない発言だ。なのに、一誠の眼から確かな覚悟と本気、嘘すら感じなかった。
―――本当に、本気でハーデスという死神であり女神を心から受け入れてくれるのか?
「明日・・・・・明日、確かめてやるわ」
もしも、受け入れてくれたら自分は・・・・・。
「ふふ・・・ふふふっ・・・・・ふふふふふっ・・・・・・・」
翌日の朝―――。【アテネ・ファミリア】完全消滅がした次の日。遥か上空一〇〇〇Mから数多の影が何気に悲鳴を上げていた。
「ちょっとっ!?どうして空から落とされるのぉー!」
「あの人曰く、自分もそうだったと言っておりました」
「こんな落とし方をされたら堪ったもんじゃないです!?」
「はははは!私達もやってきたぞ異世界!頼んでみるもんだな!」
「この人、目的を忘れていないか?」
少年少女、大勢の男女達が空中落下をしても恐れは無い。あるのは今自分達の身に起きている状況に不満と愉快に対する思いを抱いているだけ。
「待っていてください・・・・・」
肩にゴシックロリータ風の衣装を着用している濡羽色の長髪と瞳の幼女を乗せて銀の長髪に琥珀の瞳、容姿が整った美しいメイド服を身に包んでいる女性が
「今、貴方の元に馳せ参じます。―――一誠様」
一誠の名を口にした。