オラリオで自由気ままに過ごすのはダメだろうか(一時完結)   作:ダーク・シリウス

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冒険譚37

「アテネ、下界に戻るぞ」

 

天界に来て早三日目が経った朝。唐突に一誠はそう言いだして「えっ?」と漏らす女神。春姫達も手を止めて視線を一誠に向ける。「もう戻るの?」と視線に乗せて。周囲からの視線の意図を汲んで詳細を告げる少年。

 

「厳密に言えば、下界に降り立って、下界から天界へ向かうことができるのか、その方法を改めて試したいんだ。前回は直ぐに戻ってきたから問題なかったが、二つの世界が隔離された状態でもう一度天界へ繋げる方法を試したい。もしもアテネを残して下界に降りたって、そこで失敗したらまた神を天界に送還しないといけなくなる。念の為にアテネも一緒に下界へ降りてもらいたいんだ。失敗しても、アテネが一緒に下界にいれば以前のような生活を送れるからさ」

 

「「「「なるほど・・・・・」」」」

 

少年の言葉の意味を理解した春姫達は感心した様子で口から漏らす。そこまで考えを張り巡らせている一誠はやっぱり凄いと感嘆もする思いだ。

 

「そういうわけだから。アテネ、一緒に下界へ帰ろう。そんで【アテネ・ファミリア】の再結成をしよう」

 

「ええ、わかったわ。戻ったらロキのところに行きたいわね。色々とお話をしたいし・・・・・」

 

主に一誠のことに関して。銀髪の女神は瞳の奥で怒りの炎を燃え上がらす。異議無しと場は一致して下界に降りることに。

 

 

「え、下界に降りる?」

 

玄関に出たところでアルテミスが訪問してきて一時の別れをアテネが告げると純潔の女神は目を丸くする。

 

「そうよ。でも、直ぐに戻るつもり。と言っても一緒に下界へ降りて、また天界に行けても行けれなくてもイッセー達と一緒だから個神的に何も問題ないしね」

 

下界に繋がる『鏡』を上空に展開している一誠を他所に友神と会話をする。既に下界の、『迷宮都市』オラリオの光景が映し出されていて何時でも向かえる態勢でアテネを待っている。

 

「それとも一緒にくるかしら?」

 

「ちょっと待って、どうして誘いのお話になるのよ。それに私が下界に降りても―――」

 

「私のホームに住まわせてもいいわよ?衣食住は絶対に困らせないわ。イッセーが天界に行き来できるようになれば貴女を天界に送ることができるし、悪い話じゃないと思うけれど?」

 

直ぐに戻れるなら本当に悪くない話しだが、もしも天界に戻れなくなったらどうしようという不安を胸中で膨らませるアルテミス。

 

「そうなったらそうなったで、後で考えればいいじゃない」

 

「私の心を読まないで、って手を掴んで引っ張らないでよ!貴女、そんな積極的だったっけ!?」

 

「アルテミスってば悩むとじれったいほど優柔不断になるじゃない。こういうのはノリで前向きに進まないとやっていけれないわよ」

 

大きく目を張っては、貴女変わったね!?と気真面目な女神とは思えない行動力に驚きを隠せないアルテミスは己の手を掴んで一誠に向かって歩き出すアテネに連れられる。

 

「イッセー、アルテミスも連れていくわ」

 

「そうか。こっちも話が終わったところだったぞ」

 

話?アテネは心の中で首を傾げる思いで―――一誠の背中に抱きついた目まで覆う黒髪に黒と紫を基調としたメイド服のような衣服を身に包むハーデスに対して「なんでここにいるのよ」と肩を落とすほど落胆する。

 

 

一方、下界ではまたしても上空に出現した天界の光景を映し出す『鏡』に神々は「どうなっているんだ」と思いで見上げる。一般人も冒険者も上空へ見上げつ中、北部にある【ファミリア】のホームの屋根の上に乗っている少女が。

 

「―――来る」

 

金髪金眼の少女が射抜くような視線を神々しい空に向けて発したその時だった。空から青白い軌跡がこのオラリオに向かって落ちてくる。その方角は西で、元【アテネ・ファミリア】のホームがある場所だった。青白い光が西の方へ落ちたと同時に空も元通り青い空へと戻って、また変わらない平和の象徴としてオラリオの上で彼方まで広がる。

 

「久々のホームへ到着!」

 

巨大な黄金の大鐘楼(グランドベル)を背後に白亜の巨城の前で降り立つ一誠達。初めての下界に、白亜の魔天楼施設ことバベルの次に高い【アテネ・ファミリア】のホームから見下ろせるオラリオの街をアルテミスとハーデスはその目で焼き付ける。

 

「ここが下界・・・・・」

 

「ふぅ~ん・・・・・ここに能天気に暮らしている他の神もこの地にいるのねぇ?」

 

興味津々と眺めている二柱の女神を微笑み、アテネも久し振りの下界、オラリオを眺めたところで異変に気付いた。

 

「あれ?火事かしら・・・・・」

 

アテネの視界に映る、黒煙が青い空へと伸びる。頭の中であの場所は確か、とある処女神のホームが有ったはずだと記憶の糸を探る。

 

「イッセー、調べてほしいんだけれど」

 

 

 

「リリッ!?どこへ行こうとしてるの!?」

 

「イッセー様のホームへ参ります!私とベル様だけならともかく、ヘスティア様というお荷物を抱えたままではいずれ捕まってしまいます!」

 

「こらぁっー!ボクをお荷物よばりするんじゃない!」

 

現段階で【ヘスティア・ファミリア】は他派閥に追われていた。右から、左から、背後から、前方から、襲撃の気配が途切れない。リリの言う言葉はもっともであり焦燥でベルの顔が歪む。非力な女神(ヘスティア)を抱えたままでは戦えない。一刻も早く敵のいない戦域外に派離脱しなくては、と前へ動かし続ける足は停まらない、止められない状況に強いられているし陥っている。

 

「幸い、リリ達はイッセー様達の敷地内に入れる方法を教えてもらっております。今まで利用したことは無いですが、この状況を一気に逆転する力を持っているのはイッセー様しかおりません!」

 

戦えないベルの代わりに多種多彩な道具(アイテム)を駆使して翻弄や迎撃、足止めなどをして【アテネ・ファミリア】のホームへと駆ける。

 

『あの小人族(パルゥム)ッ、やけに変な道具(アイテム)を使ってくるぞっ!』

 

『回り込めっ!』

 

『というか、すばしっこい!』

 

三人を追い回す冒険者の声が止まない。そしてどこまでも三人の前に現れては追いかけるその執着心はベルとリリの心に焦りを浮かばせる。

 

「ベル君、前だッ!」

 

先回りしていた数人の冒険者が行く道を阻んでいた。ベルが深紅(ルベライト)に決死の覚悟をした決意の光を浮かばせたところでリリからの疾呼。

 

「ベル様、ヘスティア様。鼻をつまむか息を止めて走ってください!」

 

えっ?どういうこと、とベルとヘスティアの視線を向けられているリリが拳大の袋を複数取り出す。投擲する前から彼女に鼻をつまませるそれは―――前後、上にも向かって薙ぎ入れた。瞬間、ブワッッと不気味な緑色の粒子もとい臭気が周囲に広がって爆散する。

 

「「―――――っ!?」」

 

ぎゃああああああああああああああああああああああっ!?と凄まじい複数の絶叫が上がった。ヘスティアに鼻をつまされ走り続けるベルや鼻をつまんでいるヘスティアにもその悪臭の威力に悲鳴を上げたい思いだった。前方にいた冒険者の横をすり抜けて西へ西へと突き進む。

 

「リリィッ!?」

 

「サポーター君っ!なんて物をここで使うんだぁっ!?」

 

「状況が状況で仕方がありません!」

 

嗅覚が優れている獣人、狼人(ウェアウルフ)だったら一発で昏倒しそうな臭いが全身に沁みついたまま走り続ける二人。街中で傍迷惑な悪臭を放つ道具(アイテム)を使用しないといけない状況に責めるならリリ達を追い回すあっち(他派閥)にしてくださいっ、と心の中でリリは毒吐く。

 

『―――よお、なんだか楽しそうなことをしてるな』

 

不意に耳元で聞き覚えのある声が聞こえてきた。驚きで反射的に声がした方へ振り返ると小型の魔法円(マジックサークル)が走るベルとリリの間に浮かんでいた。

 

『状況はあまり掴めてないが、必要なら手を貸すぞ』

 

魔法円(マジックサークル)から聞こえる声の主、これから助けを乞いに行こうとしている者からの助力の提案に、リリは躊躇もなく「お願いします!」と懇願した。

 

『了解了解。三日振りに下界へ降りてみればこの騒ぎ。報酬はお前らでモフモフさせてもらうからな』

 

そう発した魔法円(マジックサークル)は消失したと同時にだんっ、と何者かが前方で着地する。ベルの深紅(ルベライト)がその者の姿を見やると、そこに立つのは、冷笑を浮かべる美青年。白を基調とした戦闘衣(バトル・クロス)、腰に佩いた長剣と短剣、揺らめく大型のマント。

 

「っっ!?」

 

肘を曲げて前傾を取る敵にヘスティアを脇手へ放り出した瞬時、敵の影が眼前に迫った。目にもとまらぬ速度で抜剣し、紅炎(オウロミネンス)のごとく輝く長剣―――波状剣(フランベルシュ)が斬り上げられる。咄嗟に《ヘスティア・ナイフ》の刃で受け止めたベルは、衝撃に負けて吹き飛んだ。

 

「ベル君っ!?」

 

「ベル様っ!?」

 

後方に飛び石畳へ墜落したベルを、敵は追撃する。

 

「―――たかが女子供を大勢で追い回した揚句、大の大人がまだ弱い子供に攻撃するなんて、美を追求する奴の言葉を借りるなら、あまりにも美しくない光景だなぁ」

 

忽然聞こえてきた声。ベルに振り下ろされる剣尖を槍のごとく突き出されたように伸びた刃化した翼で受け止め、兎を庇う少年が宙を浮いたまま敵に対して見下ろしていた。

 

「イッセーさんッ!?」

 

真上からの登場にベルの深紅(ルベライト)の目が丸くなる。一誠は聞こえる声を聞き流しながら下に降りて眼前の敵を見据える。

 

「元【アテネ・ファミリア】の眷族が私の邪魔をするなら容赦はしないぞ」

 

相手は目を細め、波状剣(フランベルシュ)を構える。主神無き冒険者に後れを取る訳がないと全身から自身が満ちている相手にせせら笑う。

 

「どうぞご自由に。まあ?俺は戦う気がないからさっさと去るから」

 

一誠やベル、リリ、ヘスティアに覆いだす霧が発生してあっという間に全身を覆い尽くしたら敵の目の前で姿を暗ました。まるで神隠しに遭ったかのように―――。

 

―――○●○―――

 

「臭いっ、ヘスティア、貴女、物凄く臭いわよ!?何週間もお風呂入っていないの貴女は!」

 

「待ってくれッ!?ボクはちゃんと入ってるさ!って、それ以前にどうして天界に送還されたはずの君や天界にいるはずのアルテミスやハーデスまでここにいるんだい!?」

 

一誠に助けられ【アテネ・ファミリア】のホームに連れて来られたヘスティア達は落ち着きを取り戻して―――。

 

「風呂に入って来い。臭いぞ」

 

と、一誠からの強制命令で入浴をすることになった。それから三十分後。

 

「改めてお礼を言うよアテネの子供君」

 

「リリからも。本当にありがとうございます」

 

「助かりました・・・・・」

 

臭いが綺麗に取り除けた三人はリビングキッチンで長大のテーブルの反対側に座っている一誠に揃って頭を下げて感謝の念を伝える。

 

「礼を言うならアテネに行ってくれ。三人のホームがある場所に黒煙が上がっているって言ってくれたから気付いたようなもんだ」

 

「―――そうだよ。どうしてアテネがここにいるんだい!?」

 

感謝から打って変わって、信じられないと雰囲気を醸し出すヘスティアに当のアテネも口を開いた。

 

「イッセー達が直接天界に来て、私を下界に連れて来てくれたからよ」

 

「じゃ、じゃあ・・・・・あの天界の光景が見えたのって」

 

「下界と天界が『鏡』を通して繋がった時に起きた現象だ」

 

あっさりそう言いのける一誠は空いた口が塞がらないヘスティア達にもう一言付け加える。

 

「別に信用して欲しいなんて言うつもりは無いけれど、これで【アテネ・ファミリア】は復活したも当然だ。また、アテネとこの世界で暮らせることができる」

 

また、ギルドに申請しないといけなくなるがな。脳裏に浮かぶ赤い髪の狼人(ウェアウルフ)に尋ねないといけなくなったとどんな顔をして会いに行けばいいか分からず苦笑いを浮かべる。

 

「異世界から来た人って、何でもできるのかい?」

 

「何でもは無いな。俺がただイレギュラーだけだ」

 

ヘスティアの問いに一誠はそう言う。

 

「ああ、そうだ。ヘスティア」

 

「うん?」

 

「―――俺の秘密は、他の神に漏れていないだろうなぁ?」

 

ゴゴゴゴゴッ、という迫力あるプレッシャーが一誠から聞こえてくるような幻聴が薄らと汗を浮かべるヘスティアの耳に入る。元々秘密だったものをどこかの女神と団員が漏らしたせいで予期せぬところで広まってしまった。

その為、一誠は懸念を抱いている。

 

「だ、大丈夫・・・・・だと思う」

 

「神のくせに曖昧な発言だなぁ・・・・・まあいいや。ロキとは近い内に会いに行くとしよう」

 

「んで」とまた問いかける。

 

「追われていたけど、なにが遭ったんだ?教えてくれ」

 

一誠の質問にヘスティアは首を頷いて事の顛末を教えた。【アポロン・ファミリア】の主神がベル達【ヘスティア・ファミリア】によって重傷を負った己の眷族に深く心を痛んだ結果、ヘスティアに代償を払ってもらうと言いがかりを付けてきたのだ。ベルの身に覚えのないしそんなことするはずは無いと異論を述べたが他派閥の主神は眷族の重傷をダシにしてベルを賭けた戦争遊戯(ウォーゲーム)を申し込んできた。無論、ヘスティアは断ったが、その次の日。つまり今日、【アポロン・ファミリア】の襲撃に遭って逃げ回っていた。

 

「そう言うわけなんだよ・・・・・」

 

「「・・・・・」」

 

憐れ、とアテネとアルテミスがヘスティアに同情の眼差しを向ける。

 

「アポロンってアルテミスと一緒で狩りが得意神だったよな?」

 

「異世界のアポロンはそうであろうけど、こっちの世界のアポロンは恋に関する話が多いのよ」

 

「鬱陶しいったらありゃしないわ。一部の女神を除いて色んな女神に求婚をしたんだから」

 

溜息を吐くアテネとアルテミス。何故そんな疲れた表情をしだすのか一誠達は首を捻っていると、

 

「ああぁ~、あの男神ねぇ~?でも、噂で聞いたのだけれどぉ~。三大処女神(スリートップ)の貴女達全員、求婚されていたんじゃなかったっけぇ~?」

 

ハーデスからの話を聞いて、「えっ」と一誠達眷属はアテネとヘスティア、アルテミスに求婚されたのかと衝撃の事実を受けた。

 

「そ、そうなのか・・・・・」

 

「す、既にアテネ様はアポロン様とお付き合いをしているのですか?」

 

「アテネ様も女性だから恋の一つや二つは有ると思っていたけれど」

 

「驚いたわぁ~」

 

「隅に置けませんわねぇ?」

 

五人の会話を聞き捨てることはできなかった女神。

 

「待って!?イッセーも物凄くショックを受けないで!?皆も勘違いもしないで!この処女神(わたし)が守備範囲の広すぎる変神の求婚なんて受け入れていないからねッ!!!」

 

「ベル君!君もだからなァッ!!」

 

ヘスティアまでもベルに鬼の形相のような顔で必死に誤解を解く。

 

「「ハーデス、余計な事を言うなっ!?」」

 

「あらぁ?でも、事実でしょう?」」

 

「「じ、事実だけれど・・・・・受け入れていないからっ!」」

 

否定はできない、と悔しそうな顔をしてそれでも受け入れていないと強く否定する。

 

「うーん、やっぱり三人って綺麗だから求婚されるのか。なぁ、ベル。あ、ヘスティアは身体が小さいから可愛い方か。妹みたいな感じだし」

 

「え、ま、まぁ・・・・・」

 

ガーンッ!と黒髪ツインテールのロリ巨乳の女神が『妹』みたいだとベルに肯定されショックを受けた。

 

「・・・・・イッセー、無意識にヘスティアを黙らせちゃったわよ?」

 

「うん?」

 

尊敬されているだろうが、敬愛されているだろうが、妹みたいな女神だと認識されている事実で物凄く落ち込むヘスティアを知らないベル。

 

「それで、三人は今後どうする?ホームが襲撃されて住めない状況なら宿に住む他ないだろう」

 

「いえ、それでも【アポロン・ファミリア】は襲いかかってくると思います。―――アテネ様。お願いがあります」

 

アテネに真っ直ぐ顔を向けて、栗毛の頭を下げた。

 

「しばらくの間、リリ達をこのホームに住まわせてください。その変わりにリリは何でも致しますのでどうかご慈悲を」

 

「・・・・・」

 

リリの言い分は分かる。アテネはどうする?とそんな思いを視線に乗せて一誠に訴える。春姫達も口を閉ざして肯定か否定の言葉を出てくるのを待つ。

 

「うーん、俺が決定して良いのか?実際、アテネの方が主神として偉いんだからアテネの決定に従うつもりだぞ?」

 

「私はもう決めているわ。だからイッセーの気持ちを聞きたいの。イッセーは困っている人を見捨てる子じゃ二って私は分かっているからね」

 

くすくす、と小さな笑みを零し、全て見透かされているのだと察して一誠はリリにこう言う。

 

「・・・・・条件付きだったらいいがな」

 

条件付き―――。リリはどんな条件でも呑む覚悟を心から決めて一誠から告げられる条件を耳にした。

 

「衣食住は提供するが、小さなことでも何でも俺達【アテネ・ファミリア】に役立て。ただそれだけだ」

 

「・・・・・っ」

 

己のできる事をしてアテネ達の役立て、寛大な条件で住まわせることを承諾され、感謝の言葉を送った。

 

「さーて、ベルとリリ」

 

「「はい?」」

 

徐に立ち上がった一誠はどこからともなく取り出して手に持っているふわふわでもこもこの着るぬいぐるみを二人に突き出す。

 

「助けた報酬として、これを着て満足するまで俺に触れさせろ。拒んだらこのホームから追い出す」

 

「「――――――っ!?」」

 

忘れていたぁー!?と心の中で叫び、一誠に逆らえず、命令通りに動く他なかった少年幼女。

その後、二人を抱えるだけで幸せそうな一誠にうずうずと物欲しそうな目で乞うヘスティアがいたのをアテネ達は苦笑いを浮かべる。

 

 

 

「えいさーっ!」

 

「・・・・・」

 

『ぎゃああああああああああああっ!?』

 

一〇〇Mの石壁の前では、魔法を放って石壁を破壊している【アポロン・ファミリア】の団員達に、一誠に会いに来た【ロキ・ファミリア】の女性幹部達が蹴散らす。

 

「す、凄いですね・・・・・」

 

「ああ、イッセーが天界から戻ってきたと分かって、嬉しいんだろうさ」

 

「恋する乙女よ。今のあの二人は」

 

単純に【アポロン・ファミリア】を攻撃しているわけではない。中に入る為の鍵穴がある場所に彼等が群がっているせいで進むことができず、他派閥の玄関ともいえる石壁の破壊をしている光景を見過ごすことはできないのと、純粋な『邪魔』でしかない。

 

因みに、最初は当然穏便に言葉で解決しようとしたが、団長の美青年が断ったので早く少年に会いたい金髪金眼の少女が無言で、風魔法で一蹴、吹き飛ばした。それが抗戦、アイズからすれば邪魔者を排除する作業の合図となって、その他の団員達を三分も掛からない内に【アポロン・ファミリア】の部隊は壊滅。

 

「よしっ、終わりっと。アイズー?そっちはどぉー?」

 

「・・・・・ん、壊れてない」

 

壁の中から出てくる扉を開く為の仕掛けがアイズの前にあり、番号を入力して会い言葉を発した。その直後、石壁が人一人分が潜れるぐらいの間隔に開きアイズ達は【アテネ・ファミリア】のホームの敷地内に入り、石壁は閉まった。

 

 

「うん・・・・・?誰か入ってきたな」

 

ハーデスやアルテミス、ヘスティア達にホーム内の案内を春姫達に頼んでいる状況でホームの敷地内に侵入した者の気配を察知した。

 

「アテネ、敷地に行ってくる」

 

「分かったわ」

 

転移式の魔法円(マジックサークル)を展開して、ホームから一気に敷地へ跳ぶ。

 

 

アイズ達が湖の前に辿り付いていた。しかし、ホームに直接向かう要塞がなく、湖に囲まれている大きな足場しかなかった。一誠のところへ行く手段がない状況にどうしようか、という当惑の色を顔に出すアイズの眼前に詠唱を唱えていないのに魔法円(マジックサークル)が展開して光に包まれながら五人の前に深紅の長髪に隻眼の金色の瞳の少年が現れた。

 

「やっぱり、お前―――」

 

「イッセー久し振りぃーっ!」

 

口を開いた少年を遮っては天真爛漫な満面の笑みを浮かべてティオナは抱きついた。

 

「天界から戻って来たんだ!?じゃあ、女神様を連れて来たんだね!」

 

「ああ、天界を少しだけだが観光したぞ」

 

「すごーい!どんな場所だったのか教えてよ!」

 

無事に天界から帰って来た一誠の話を聞きたいと乞うティオナの背後からリヴェリアも口を開く。

 

「願いは果たせたようだなイッセー。ところで、壁の前にいた【アポロン・ファミリア】の団員達がいたのだが、帰ってきて早々なにをしたのだ?」

 

「俺達は何もしていない。【ヘスティア・ファミリア】が狙われていたところを保護しただけだ」

 

「・・・・・【アポロン・ファミリア】はあの子を狙っている」

 

事情を知ってるとそんな風に発するアイズ。「そうか」と相槌を打つ一誠は質問した。

 

「で、壁の前にいたそいつらは?」

 

「アイズとティオネが率先として蹴散らしたわ」

 

「んじゃ、今はいないんだな。後で壁の状態を見ないといけないか。―――で、リヴェリアさん?」

 

俺の秘密はあれから他にもどこぞの神に堕女神が話しているのかなー?と笑顔で尋ねれば、五人揃って首を横に振られた。

 

「お前が数多くの神を天界に送還したことはロキに伝えているが、お前のことはロキが他の神に伝えていない」

 

「それは本当に信じてもいいのか?どーも信用できんのだよ。人の秘密を他の連中に言うしさぁ」

 

「・・・・・それについては本当にすまないと思っている」

 

バツ悪そうに目が据わっている一誠に対して謝罪の言葉を口にするリヴェリアを庇うようにレフィーヤも「あの、リヴェリア様を許して下さい」と言うのだった。アイズやティオナ、ティオネも視線でレフィーヤの気持ちと同じで一誠に訴えることで、

 

「・・・・・二度は無いからな」

 

「ああ、肝に銘じておく」

 

「心にしろよ」

 

契約書にでも書かせるか、とそんな心情の一誠は近づいてくるアイズと視線をぶつける。

 

「・・・・・お帰り」

 

「・・・・・ただいま」

 

はにかむアイズに釣られて、口元を緩ます一誠。

 

「ま、また天界に行くけどな」

 

と、帰って来たのに天界へまたすぐに行こうとする一誠に呆けるアイズ達。

 

「この世界に返ってくる際にな。アテネの知り合いの女神も一緒に連れて来たんだ。んで、今度は下界から天界へ、アテネの知り合いの女神を天界に送らないといけないんだ」

 

「それは、また他の神を犠牲にしてか?」

 

リヴェリアから発した会話は一誠の首を横に振らす。

 

「いんや、天界で編み出した天界と下界を繋げる方法で行くんだ。天界から下界へ行けるようになったけど、その逆はまだ試していないんだ。今日中にしないといけないから、アイズ達と話をする暇はあまりないんだ」

 

だから悪い、と軽く謝ってホームへ戻ろうと転移式の魔法円(マジックサークル)を天界した一誠にそうはさせまいと、

 

「今度はあたしも行く!」

 

「私も」

 

ティオナとアイズが素早く一誠の手首や腕を掴み、

 

「アイズさんが行くなら私もお供します!」

 

「まぁーたこの流れだわ。リヴェリア、どうする?」

 

「まだ見ぬ未知の世界、天界か。興味があるな」

 

レフィーヤとティオネ、リヴェリアまでもが一誠の魔方陣の中へ入る。

 

「・・・・・お前ら、自由すぎやしないか」

 

一誠ほどではない、と揃って言い返されたのは必然的だった。そんな五人にしょうがなく、アテネがいるリビングキッチンに直接戻った。

 

「・・・・・なんか、増えたわね?」

 

「天界に行きたいと言われてなぁ」

 

もう一度天界に行くことを告げたからじゃないの?と言いたい気持ちを心の中に仕舞って了承した。

 

「でも、本当に天界に行けれるの?」

 

「試したいことがあるんだよ。俺の新しい魔法のスキル、見ただろう?」

 

「・・・・・あれね」

 

再び恩恵を与えた際に既に発現していた二つ目の魔法。魔法の効果もこれからすることに対して理にかなっているかもしれない。アテネの健在にリヴェリアが声を掛けた。

 

「神アテネ、お久しぶりです」

 

「ええ、お久しぶり。―――私がいない間に随分と、イッセーが色々と世話になったわねロキのところの子供。主に約束を破ってくれたことに関してだけど」

 

「「「「「・・・・・」」」」」

 

やはりこの女神も腹の内では思うところがあるようだと五人は焦心を抱く。

 

「―――それに貴女、私と交わした約束を覚えていわよね?」

 

灰色と青の瞳がリヴェリアという王族(ハイエルフ)を見据え、捉える。一誠の秘密の漏洩、もしくはバレたら【アテネ・ファミリア】に改宗(コンバージョン)をする約束のことを差す。それはアテネとリヴェリア、神と子供の間で交わした絶対に反故ができない契約でもある。アイズ達はそのことを思い出して目を丸くする。

 

「イッセーの秘密が漏洩した場合は、責任をもって絶対服従をするって、貴女の口から確かに言ったわ。ならば、その責任を果たしてもらいたいのだけれど―――」

 

「ま、待って下さい!それは―――!」

 

レフィーヤは抗議する。リヴェリアから聞いたアテネとの約束は無効になっているはずである。と、しかしアテネは抗議するエルフの少女に目を鋭く細めた。

 

「これは彼女と私の個人の問題。横から口出し無用よ」

 

レフィーヤに冷たく言い放つ。

 

「それとも、貴女が彼女を庇って変わりに全責任をもつの?」

 

「っ―――」

 

リヴェリアの変わりに自分が今の派閥を脱退。

 

「【アテネ・ファミリア】に所属する。それが彼女の責任だけど、貴女がそれを望むなら構わないわ」

 

女神とは思えない冷笑。責任を背負う覚悟を試されているレフィーヤにリヴェリアが待ったを掛ける。

 

「彼女は関係ない神アテネ。―――約束は守る」

 

「リヴェリア様ッ!」

 

「「・・・・・」」

 

アイズとティオナは一誠に視線を向ける。無言の視線に「どうにかして」と籠められている。二人の視線を悟る一誠も言葉の変わりに「口出しはできない」と首を横に振る。

 

「わかった。貴女の言葉を信じましょう」

 

アテネが区切りをつけた。それは、リヴェリアは【アテネ・ファミリア】に改宗(コンバージョン)することが一時的に決定した瞬間でもある。

 

「話は終わったことでいいのか?」

 

「ええ、終わったわ。後はロキに承諾してもらうだけ」

 

「それはまた今度な。直ぐにハーデスとアルテミスを天界に送らないといけないからさ」

 

そう言う一誠はいままさにこの場へ戻ってきた件の二人へ視線を向けたら、

 

「ねぇ~、外に案内してくれない?」

 

ハーデスが外に行きたいと言い出した。

 

―――○●○―――

 

ハーデスの要望に応じた一誠とアテネは、早速とロキがいる北部へ直行しながらアルテミスとハーデスにオラリオを案内しつつ辿り着く。

 

「へぇ、ここがロキの住処なのね」

 

「天界にあるロキの城とどこか似てるわ」

 

興味津々で【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)、槍衾のような形状の『黄昏の館』を見上げる二柱の女神。【ヘスティア・ファミリア】はお留守番、アテネの護衛を兼ねている一誠を除いて春姫達も一緒である。

 

「さて・・・・・久し振りにロキと話をしましょうかしら」

 

フフフ・・・・・と笑うアテネだが、どこか怖さを孕んでいる。アイズ達に招かれる形でホームへ入り、真っ直ぐ大食堂へ連れられては待機させられる。

 

「・・・・・あの」

 

レフィーヤだけ、一緒にいるようにリヴェリアから指示を受けた。なので、話し相手としてこの場にいさせられ、内心は緊張しっぱなしでちょっとだけ勇気を振り絞って尋ねた。

 

「どうして、抱きついているのですか?」

 

死神ハーデス。一誠の背後から抱きついて一向にも離れる気配なんて微塵も感じさせないハーデスにだ。

 

「あらぁ~?抱きつくのに理由が必要なのぉ~?」

 

「い、いえ・・・・・」

 

ねっとりとした声に相まって前髪で隠れている赤い双眸に畏怖の念を抱く。陽気な主神(ロキ)とは真逆の陰湿みたいな感じのハーデスに見られると心臓を鷲掴みされている気分で気分が凄く悪い。というか、怖い。

 

「(どうして、この人は何ともないのだろうか)」

 

怖い女神に抱き絞められている一誠は、アテネに右腕を抱えられている状態だ。それはハーデスに対抗しているのだということをレフィーヤは気付かない。

 

「か、神アルテミス様」

 

「なにかしら」

 

何とか話をして場を盛り上げなくてはっ、と思ってこの中で一番優しそうな女神に尋ねた。お題は己の主神、ロキのことについて。

 

「天界のロキはどんな感じだったのかなーと思いまして」

 

返ってきた言葉は、

 

「基本は親父よ親父。色んな女神の身体を触りまくってはたまに落ち込んでいたり、酒好きで暇だから神をけしかけて殺し合いを企てていたりとか」

 

―――あんまり大差は無かった。

 

「で、ではっ。神アルテミス様とロキはどういう関係ですか?」

 

「関係・・・・・」

 

顎に手をやって、何故か思考の海に飛び込んでしまった。

 

「別に仲が良いわけでもないし、悪い訳でもないから・・・・・顔見知りの程度よ」

 

そんなこと場が返って来た時には、この場にいる全員が知っている声が聞こえてきたのであった。

 

「なんやアイズたん。うちに会わせたい奴っちゅーのは?」

 

大食堂に姿を現すアイズの背後から束ねた朱色の髪と糸目がちの最大派閥の主神、ロキがひょこっと一誠達をその目で捉え―――。

 

「―――久し振りじゃないの。ねぇ、ロキィ?」

 

にっこりと微笑むアテネとその声に不自然なまで全身を硬直させる。すす、とアイズがロキから離れ様子を見守る姿勢に入る他所に一誠は密かに動いた。

 

「・・・・・」

 

一秒、五秒、十秒とアテネを見つめたまま固まるロキは十五秒ほどして再起動する。踵返して一誠達に背を向けて一歩足を前に出したその直後、一誠の隻眼の瞳が怪しく輝く。

 

「ロキ。俺の女神がどうしても下界に帰ってきて大神友のお前の顔を見て山ほど話をしたいそうだ。だからアテネの願いを聞き受けてくれるな?」

 

ロキの意思と反して身体が勝手に動いて最も行きたくない、会いたくない女神のところへ移動する。

 

「なんやこれ、うちの身体が勝手に・・・・・っ!?」

 

「酷いわロキ。私の顔を見て一目散に逃げようとするなんて」

 

「逃げようとしたとちゃうん!用事を思い出しただけなんや!」

 

「と、言っているがアイズとレフィーヤ。ロキに用事なんてあった?」

 

「「・・・・・(首を左右に振る)」」

 

眷族に裏切られ、うおぉーいっ!?とロキの悲鳴が大食堂に響く中、アテネの前に勝手に動く身体が腰を下ろして見えない縄にでも縛られているのか、身動ぎもできないでいるロキであった。

 

「久し振りねロキ」

 

「お、おお・・・・・久し振りやなアテネ。本当に・・・・・天界から戻って来たんやな」

 

「ええ、私の愛しい眷族が未だかつてない『偉業』を果たして天界に来てくれたわ」

 

「そ、そっかぁ・・・・・それは凄いやん。それに、アルテミスとハーデス・・・・・久し振りやん。―――助けてくれん?」

 

「「いや、後が怖いから無理」」

 

味方がいないこの状況でアテネと対話する。

 

「それじゃロキ。お互い暇な神同士、一杯お話をしましょうか」

 

「な、何の話をするんや?」

 

「そうねー」とアテネはニコニコとロキに向かって笑みを浮かべ続ける。

 

「そうだ。まずお礼を言わないといけないわね。私の不在の間、イッセーが世話になったそうじゃない。ありがとう」

 

「お、おおう。気にせんでええで。うちの眷族()も世話になっとるやさかい。ここはお互い様ちゅーことでええやろう」

 

「ありがとう。そう言ってくれるととっても嬉しいわ。でもね、とっても残念な事を聞いてしまったの」

 

残念な事・・・・・ロキは内心びくびくして、脂汗を流す心境で「どうしたん?」と聞いてしまった。

アテネは悲しそうに悲痛の声を上げた。

 

「私のイッセーがオラリオで生活することができなくなりそうなのよ。どこかの誰かが秘密を喋っちゃったみたいなの。このままじゃいつかギルドにまで知らされて私達はオラリオから永久追放。最悪私はまた天界に送還されてしまう恐れもあるし、また残してしまうイッセー達は悲しんでしまうわ」

 

秘密を喋った―――。その言葉が出てきた瞬間、朱色の髪の女神はギクリと顔を引き攣らせる。

 

「ねえ、ロキ。私の子供の秘密を、天界にいる私を他所に秘密を他の神々に喋った神を知りたいの」

 

「そ、そうなんや・・・・・それで、聞くけどアテネ。アテネの子供の秘密を喋った神を見つけたらどうするつもりなん?」

 

アテネの魂胆は既に明白。怯えに怯え、顔色は真っ青を通り越して紫になるロキ。その女神の質問にスラスラと答えるアテネ。

 

「まずは考える限りの説教をして、その神の生き甲斐を奪って、秘密を漏洩した罰に神の【ファミリア】全財産を没収、しばらく天界に過ごして溜まっている仕事を片付けさせたり―――ああ、天界にあるその神の家と財産も没収をしましょうかしらね。どうせ、天界に戻らないんだから家も二つも要らないでしょう?ロキもそう思わない?後―――」

 

出てくる出てくる。アテネの神罰の内容に、レフィーヤは放心してしまい、流石にそれは・・・・・とアイズと一誠は頭を痛める。

 

「と、まあ、こんな感じだけれど・・・・・あら、ロキ。顔色が凄く悪いじゃない?」

 

既に生きた屍の状態だった。もう、好きにしてぇ・・・・・みたいな感じで真っ白状態。

 

「それじゃ、ロキ。私達【アテネ・ファミリア】の秘密を喋った口のかるーい神を探しに行きましょうか。二人きりで」

 

「イッセー」と指を弾いたアテネの意図を悟って一誠は首を縦に振った。すると、ロキ自身しか分からない身体の拘束が解かれた。逃げるなら今しかない、と思った矢先。

 

「逃げたら、承知しないわよ」

 

ドスの利いたアテネの声によって逃走の考えは霧散した。

 

「―――ロキ」

 

銀の長髪が逆立て、怒りに満ちた瞳の奥から炎が燃え盛り、

 

「私の一番嫌いな事、約束を破ったわねぇえええええええええええええええええええええ!?」

 

『天界の怒髪天姫』が降臨した。全身から怒気を発し、神威を解放したアテネを中心に蜘蛛の巣のような罅が食堂全体に生じる。

 

「特によりにもよってフレイヤにまで教えて・・・・・・私達に弱みを握らせた

貴女を絶対に許しはしないからねこの堕女神がぁっ!」

 

「ひぇえええええええええええええええええええっ!?」

 

アテネの怒声とロキの悲鳴がホームの隅々まで響き渡り、駆けつけた【ロキ・ファミリア】の団員達は大食堂に辿り着くや否や、意識を失う謎の現象が立て続けに起こるのだった。間近にいたレフィーヤも堪え切れず意識を失った。

 

「・・・・・春姫達を連れてこなくて良かったと、この瞬間思った」

 

「ひ、久々に見たわ。アテネのブチ切れた瞬間」

 

「・・・・・怖いわぁ、ねぇ?」

 

「・・・・・うん」

 

怒る女神にしばらくして、完全にアテネに怯えてしまったロキは全身を可哀想なまで震える。怒声が止んだ頃を見計らってリヴェリア達も姿を現して、フィンは天界から戻ってきたアテネに心底驚嘆する。

 

「イッセーの秘密を知って他の神に教えた口の軽ーいロキ?一つ聞いて良いかしら?」

 

震えるロキに対してアテネは用件を言いだす。

 

「貴女の眷族から全部聞いているなら、リヴェリアというエルフがイッセーの秘密の漏洩してしまった場合、責任を持って絶対服従をするって約束も聞いているはずよね?」

 

「っ!?」

 

碧眼の瞳が丸くなる。まさか、リヴェリアを引き抜こうと神アテネは考えているのではないかとロキにそのことを告げていなかったフィンは焦心を抱く。

 

「貴女の眷族はそれに従う心構えでいるわよ。後は貴女の協力で全部解決するわ」

 

「んなっ!?」

 

酷く驚くロキ。糸目が見開き、リヴェリアへ顔を向けた。

 

「ほんまか、リヴェリア!?」

 

「ああ、これは神アテネと私の問題だ。すまないロキ」

 

王族(ハイエルフ)も認め、ロキに衝撃を与える。フィンとガレス、ベートにも少なからず衝撃が襲われる。

 

「そういうことだから、ロキ。改宗(コンバージョン)の協力をして貰うわよ」

 

次の瞬間。

 

ロキがアテネに待ったを掛ける。

 

「リヴェリアの改宗(コンバージョン)はできん!リヴェリアは【ロキ・ファミリア】の副団長やで!?うちの知らないところで勝手に約束をしてうちが認めるわけがないことを分かっているはずや!」

 

「―――イッセーの秘密をバラしたあなたがどの口で言うの?」

 

うぐっ、と一度口を閉ざすがそれでも認めないと食って掛かる。

 

「後ろめたいもんを抱えていながらも秘密を教えた方が悪いんや」

 

「絶対服従の覚悟をした貴女の眷族に信用したのよ。なら、それに応じてこそ神と子供の間に信頼が築かれるものじゃない?」

 

正論なアテネと拒むロキ。双方の二柱の意見は平行線する一方。

 

「イッセー・・・・・君はどう思っているんだい?」

 

「アイズとティオナと一緒にリヴェリアが絶対服従を誓ったんだ。後は主神の考えと気持ち次第だろう。俺がどう思うと本人達の意志で決定する」

 

フィンからの問いにそう言い返す一誠は互いの主神が言い合う光景をまだ続きそうだなぁ、と見ているとちょんちょんと背中が小突かれる感覚に後ろへ振り返るとハーデスが口元を尖らしていた。

 

「ねぇ、まだ話は終わらないのぉ?」

 

どうやら退屈でしょうがないらしい。街の案内のついでにここへ来たのだと思い直したことで。

 

「アテネ」

 

声を掛け、振り返った己の主神を素早く横抱きに抱えてこの場から離れようとする。

 

「イッセー?待って、まだロキと話の決着が―――!」

 

「それはまた今度だ。今はハーデスとアルテミスを街の案内をする方が先決だ」

 

尻目でリヴェリアに視線を向け、「またな」と無言で別れを告げた。

 

―――○●○―――

 

「まったく、あの無乳神。今度会ったら約束を守って貰うんだからねっ」

 

ご機嫌斜めな主神は一誠をキッと見上げた。

 

「どうして話の邪魔をしたのよ」

 

「約束は大事だが、今はこの二人の案内が先だって。ロキと話をするなんていつでもできる」

 

「貴女の秘密を喋った責任を負うとあのエルフが言ったのよ?なら、その通りにして貰うのが当然じゃない」

 

「分かってるさ。だけど、それは『今』じゃない。今はアテネにも知ってほしいこともあるんだ。そっちを俺は優先にしたい思いなのさ」

 

北部から移動を始め、北西の『冒険者通り』の真っただ中に足を運んでいる。様々な店が軒を争っている様子を二柱の女神は興味を持って忙しなく視線を動かす。

 

「イッセー、今どこに行こうとしているのぉ?」

 

「ん、ウラノスに会いたいんだ」

 

「ウラノス・・・・・大分前に下界へ降りたあの男神」

 

ハーデスの質問に答えた一誠の会話にアルテミスがそう口から漏らす。

 

「そ、その前に【ファミリア】の再結成を申し込まないと」

 

「・・・・・それもそうね」

 

一先ず気持ちを切り換え、割り切ることにしたアテネ。【アテネ・ファミリア】の再結成はとても重要だ。

あの時、イッセーと一緒に【ファミリア】を作ったようにまた・・・・・。

 

「ふふっ・・・・・」

 

まだ一年も経っていないというのにまるで昔のように懐かしさが胸の奥から湧き上がる。「どうした?」と一誠が突然小さく笑う主神を問うたら、アテネは双眸を隣に歩く少年に向けた。

 

「ええ。また、貴方の主神としていられるのが楽しいなって思ったら嬉しくて」

 

「・・・・・ああ、俺や他の皆の主神は気高い神じゃないとな」

 

背中に上着で隠れているアテネの神血(イコル)によって神との契りの証を刻まれている神聖文字(ヒエログリフ)は、【ステイタス】は施錠(ロック)されていない。敢えて見せびらかすことで己はアテネの眷族であると自己主張をする思いを抱いている。

 

「―――おっ」

 

不意に、一誠はとある神と護衛を兼ねて付き沿っている団員の後ろ姿を捉えた。アテネも同様に気付き、二人揃って悪戯を思い付いた。それはただ単純な事である。そっと背後から気配を殺して近づき、声を殺して声を掛けた。

 

「やぁやぁ、アスフィ。久し振りだなぁ」

 

「久し振りねぇ、ヘルメス?」

 

「「っ!?」」

 

うおっ!?と悲鳴を上げる男神と背後から抱き絞められている水色(アクアブルー)の髪と純白のマントを羽織っている女性は顔だけ動かし理知が富んだ碧眼を一誠に向けた。

 

「ア、アテネェッ!?」

 

「イ、イッセー!」

 

作戦は大成功!と笑みを浮かべる一誠とアテネ。女性から離れ、改めてアテネと眼前の男神と団員、ヘルメスとアスフィと対面する。

 

「お、驚いたなぁ・・・・・まさか、アテネが下界にいるなんて・・・・・」

 

「イッセーが天界に来てくれたのよ」

 

「ああ、どうやらそうみたいだね。アレだけのことをしてイッセー君が手ぶらで帰る筈がない」

 

橙黄色の瞳は弓なりに作り、『偉業』を果たした少年に心の中で称える。だが、視界に入ってくる二柱の女神にギョッと大きく目を見開く。

 

「―――ちょっと待ってくれ。イッセー君、アルテミスとハーデスまで連れて来ちゃったのかい!?」

 

「うん?うん、そうだよ。すっかり仲良くなったから下界へ連れて来たんだ。また天界に送るけど」

 

ある意味二人の存在が一誠が天界に来たという証拠にもなりうる。

 

「天界に送り返すって・・・一体どうやって?」

 

「当然、天界に繋げる方法でするんだよ。今日中にするけど成功したら何時でも天界へ行くことができるってわけだ」

 

愕然とするヘルメスとアスフィ。もう、一誠は何でも有りじゃないかと呆れ果ててしまう。生身で天界へ自由に行き来できるなど、到底ありえないことだ。それは全人類や神々が口を揃えて無理だと告げるほどに。それをやり遂げる一誠は異常(イレギュラー)過ぎるではないか。

 

「それじゃ、また今度会おうな」

 

「またね」

 

ヘルメスとアスフィから離れ目と鼻の先にある目的地のギルドへ赴く。

 

 

 

広々としたギルド本部のロビー。異なる種族や派閥の冒険者達が各々行動している中、赤い長髪で狼人(ウェアウルフ)の女性、ローズは溜息を零す。【アテネ・ファミリア】の完全消滅の一方が届いてから彼の【ファミリア】の団員である一誠達が他の派閥に属したという噂や話は一切ギルドに届いていない。一般人として生活を送ることにしたのか。それとも、オラリオの外で生きることにしたのか、獣人の女性は知る由もない。

 

「(どこでなにをしているのよ・・・・・)」

 

担当アドバイザーとして心配が不安に変わり、件の報告を知って以来、ローズは気が気でならない。一度でもいいから一誠の顔を見て安心したい。そうすれば、頑張れと応援もできる。

 

「はぁ・・・・・イッセー」

 

「呼んだか?」

 

何時の間にか真紅の長髪、右目に眼帯を付けている金眼の少年が自分の顔を覗き込んでいた事実に改めて知ったローズは声にならない悲鳴を上げた。

 

「あ、ああああなたっ!?」

 

「久し振り。しばらく顔を出さなくて悪かったな」

 

目を有らん限りに開いて頭の中で思い浮かべていた張本人が、変わった様子もなく朗らかに話しかけてくる。

眼前にいる一誠をローズは落ち着きを取り戻し、会話をすることに専念しようと冷静になる。

 

「今の今までどこで何をしていたのよ」

 

「ん、ちょっと天界に行って来たんだ。主神を天界から連れ戻しにさ」

 

「はっ?」と理解不能だと怪訝な気持ちで隣にいる女性を視界が入って―――本当なのだと悟ってしまった。

 

「・・・・・本当に、天界に?」

 

「方法は秘密だけどな。それで、【ファミリア】の結成を登録したいんだけど」

 

用件は派閥の再結成の登録。天界に送還された神が再びオラリオに降りて崩壊した【ファミリア】の復活を臨んでいる。こんなことオラリオ創設以来なかった前代未聞のことである。ローズはこの手の対応は初めてであり、再結成を許して良いのか判断をしかねる。

 

「ちょっと待ってて」

 

班長に意見を仰ぐ必要上がると犬人(シアンスロープ)の中年男性に元へ足を運ぶ。

 

「班長・・・・・」

 

「どうした?」

 

「一度消滅した派閥の再結成を許して良いのですか?」

 

案の定、眉間に皺を寄せて自分の発言に理解しかねている。

 

「どういうことだ?消滅した神の【ファミリア】の再結成など本来ありえない。天界に送還された神は二度とこの下界に降りれ来られないのは知っているだろう」

 

「・・・・・それが、【アテネ・ファミリア】の元団員がそれを臨んでおられます」

 

「―――――」

 

班長はとうとう動き出す。同僚の言葉を聞くだけじゃなく、直接その主神と団員と話をした方が理解できるかもしれないと受け付けの窓口に足を運んだ。後を追いかけてくるローズを背後に、【アテネ・ファミリア】の元団員だった冒険者と銀の長髪に灰色と青の双眸の女神が窓口の前で立って待っていた様子を肉眼でも確認できた。その他にも二柱の女神も同伴していることもだ。

 

「・・・・・神アテネ様でよろしいですね?」

 

「ええ、そうよ」

 

「天界から、降りてこられたのですか?」

 

「実際、この地にいるのだからそうでしょう」

 

―――天界に送還された神は下界に再び降臨した。班長でも見聞したこともない神の再来。冷静に対応しなくてはと心構えで口を開く。

 

「神アテネ。天界に送還された神の派閥は消滅ということでギルドもその記録に残されるのです。本来ならば、二度と下界に降りてくることは禁じられているからです。ですが、神アテネは再びこの下界に降臨なされている事実は確かでしょう。しかし、私達ギルドの職員が再結成を許して良いものか安易に判断していいものではありません」

 

「じゃあ、ギルド長かウラノスに確認してくれないか?」

 

最終的にそうなるだろう。いや、そうする他ない。

 

「分かりました。分かり次第、召喚をしますのでしばらくお時間を下さい」

 

直ぐには決められないと言外する班長の気持ちを汲みとってアテネは了承の意味で頷いた。

 

『―――ここに来い』

 

その時だった。

 

厳威のこもった声がロビーに響いてきたのは。顔を上げ「ウラノス・・・・・?」とアテネは漏らす。

 

『アテネとアテネの子供を、ここへ案内しろ』

 

班長に対して言っているのだろうか。二人は班長を見やると顔に当惑の色を浮かべていた。

 

「・・・・・こちらに来てください」

 

ギルドの真の王からの直々の使命に踵返して従う班長に従う。

 

「私達も行きましょうぉ~?」

 

「いいのかしら・・・・・」

 

「いいんじゃないか?一人二人増えても同じだろう」

 

窓口の側を掠め、ロビーから奥に続く関係者以外立ち入り禁止の廊下へと進む一行。班長に続くアテネ一行は、書類の束を抱え持つギルド職員達と何度も擦れ違う。作業机(デスク)がぎっしりと並ぶ第二事務室、図書館然とした資料室、本部一階の各部屋の前を通り過ぎる。班長を追えば職員専用の廊下を何度も曲がっていくと、やがて金糸が用いられた鮮やかな赤絨毯が視界に飛び込んでくる。その先に広く長大な一本の通路にぶつかって列柱が立つ大通路に敷かれた赤絨毯は、道の先、地下に伸びる階段まで続いている。

 

「・・・・・これ以上一介の職員である私は進むことはできません」

 

不意に道を開けるようにアテネ達の横へ佇む班長へ「わかったわ」とアテネは返事をし、歩みを止めずどんどん赤絨毯と列柱が導く先、地下階段へ足を運ぶ。

 

かつん、かつん、と靴音を反響していく中、魔石灯の光が心もとない長い段差を下りていく。

 

「・・・・・また、会えるとは思わなかったわね」

 

階段を下りた先は、長い年月を感じさせる石造りの広間、祭壇だった。暗闇に包まれる周囲は四角を描く四炬の松明に囲まれる祭壇の中心には、闇を裂くように灯る松明によって『古代』を彷彿させる石造りの王座―――神座に座る神の全貌を照らしている。

 

「久し振りね、ウラノス」

 

ギルドの真の王、ウラノスは蒼の双眸はアテネ達を捉え、目の前の現実を静かに受け入れた。

 

「数多の神を犠牲にしてたった一柱の女神を天界から連れ戻したか」

 

「見るに堪えない神の言動を、俺はこの世界に必要とは思えなかったからな」

 

肩を竦める一誠。全てお見通しか、と思いながらウラノスに問う。

 

「で、俺を要注意人物一覧(ブラックリスト)に載せるのか?」

 

「・・・・・」

 

瞑目するウラノス。犯人は黒衣の人物。素顔を隠している為に正体はどんな人物なのかギルドでも把握していない。よって、一誠がした証拠は何一つない。

 

「載っているのは黒衣の者だ。アテネの子供が載せる理由は無い」

 

「はは、そうか。ありがとう」

 

「―――それでも。とんでもないことを仕出かしたよ君は」

 

闇から静かに現れる謎の黒衣の人物。

 

「神アテネを連れ戻したということは、天界に行けたんだね」

 

「ああ、行けたよフェルズ。今度は俺自身の力で天界に行くつもりだ」

 

「・・・・・できるのか?また天界に行くなど到底不可能だと思うのだが」

 

「不可能を可能にする。それが俺という存在なんだよ」

 

やはり、ただ者ではない。ウラノスは胸中で漏らし、アテネと一誠、その他にこの場へやってきたハーデスとアルテミスにも蒼い眼を向けて声を掛けた。

 

「久し振りだな、アルテミス、ハーデス」

 

「ええ、お久しぶりねぇ?元気そうで何よりだわぁ~」

 

「アテネとこの子に連れられた形だけど、貴方の顔をまた見るとは思いもしなかったわ」

 

再会を喜ぶでもなく、旧知に接するように応じる。

 

「・・・・・」

 

やっぱり、といった感じで一誠は二柱の女神、そしてアテネの顔に視線を向けた。

 

「なに?」

 

「・・・・・見掛けで判断できないなって―――」

 

「いま考えていることを頭から抜き出しなさぁいっ!」

 

むぎゅーっ!と一誠の頬を引っ張りだすアテネ。言いたいことを、発した言葉の意味を理解したアテネは久し振りにお仕置きをするのであった。

 

「・・・・・アテネ。なにしてるのよ」

 

「おかしな女神ねぇ~?」

 

「―――この子、私達女神に、『女神って実際お婆ちゃんだろう?』言おうとしているのに?」

 

二柱の女神から呆れの言葉を聞いて、アテネが言い返すと、

 

「「・・・・・私も参加する」」

 

無表情なアルテミスとハーデスがアテネとお仕置きをすることになってしまった。お仕置きが三倍となり一誠は神座に腰を下ろしている老神に乞うた。

 

「助けてウラノス!?」

 

「・・・・・表で遊べ」

 

「ハハハ・・・・・」

 

助けを乞う少年の言葉を呆れて瞑目し見放すウラノスに、乾いた笑い声を発するフェルズ。

 

数分後―――。

 

「それで、私を呼んだのは?」

 

顔中、引っ張られた痕を残した一誠を他所にアテネは本題に入った。

 

「天界に戻って来たということは【ファミリア】の結成をするのだな」

 

「ええ、既に私の子供達に恩恵を与えたから」

 

手が早い女神だと、フェルズはそんな思いを抱く。刻めば神の眷族となるので、下界に降り立てば後は派閥の設立をするだけだ。全て問題なく終われば【ファミリア】の再結成となる。

 

「ウラノス、再結成はダメなの?」

 

アテネの質問にただ神座から見下ろすウラノスはしばらくして答えた。

 

「一度天界に送還された神は、二度と下界に降りてはいけない決まりだ。ならば、天界の規則(ルール)に従えば、派閥の再結成は認められない。例え、神の恩恵(ファルナ)を刻んでもだ」

 

「そんなっ!」

 

酷いわウラノス!と食って掛かるが、ウラノスは考えを変えようとせず、蒼い双眸はアルテミスへ向けられる。

 

「アルテミス、アテネの変わりに主神となれ」

 

その一言に『古代』のような祭壇がある場に静寂は突然訪れた。

 

「・・・・・へ?」

 

「え?」

 

「は?」

 

理解したアルテミス、そしてアテネと一誠は間の抜けた声を漏らした。

 

「「・・・・・えええええええええええええええええええっ!?」」

 

驚きでアテネとアルテミスは声を上げる。

 

「ちょっと待ってウラノス。私、天界に戻るつもりでいたのだけれど。どうしてアテネの子供の主神にならなくちゃいけないのよ」

 

「そうよ!イッセーは私の眷族!」

 

抗議する女神達に淡々とウラノスは理由を述べ出す。

 

「天界の規則(ルール)を型破りで破ったアテネは主神としての立場にいる事は許されない。天界とこのオラリオで決められた規則(ルール)を己の感情と気持ちで破っていい筈がない」

 

「それはっ・・・・・」

 

「オラリオでの滞在程度ならば許す。だが、派閥を設立し主神としているのであればギルドの真の長として認めるわけにはいかない」

 

【ファミリア】として『迷宮都市』オラリオの滞在許可を左右するのはギルド。認められないのではアテネでもどうすることはできない。悔しそうに、正論を述べるウラノスに言い返せず胸中で抱いている感情を隠すように顔を俯いて拳を握りしめる。

 

「そもそも、以前のアテネはオラリオに移住している神々を天界に送還する目的で降りてきた。ならば、【ファミリア】を設立せずともよかろう」

 

「っ・・・・・」

 

「今回もそのつもりでいるつもりならば、アテネの子供とともに在りたいならば【ファミリア】を結成しなくともよい」

 

感情が籠っていないギルドの真の王の言葉はアテネの心をきつく絞め上げる。

 

「・・・・・アテネ、行くぞ」

 

「イッセー・・・・・?」

 

「ウラノスに言うことは正しい。ウラノスが認めてくれないんじゃ、俺でもどうすることはできない」

 

「―――っ」

 

眼を大きく丸くして悲しみで瞳を潤わせる。己の主神を無言で抱き絞めると、身体にしがみ付いて俯いたまま嗚咽を漏らす。泣く女神を撫でて慰めつつウラノスへ声を掛けた。

 

「また会おう、ウラノス」

 

転移式魔法円(マジックサークル)で地下神殿からいなくなった。

 

「ウラノス、認めて上げても良かったんじゃないか?彼の協力は不可欠だろうに」

 

「・・・・・どんな神にも特例は無い」

 

暗闇を照らす四炬の松明に視線を送るフェルズに蒼い双眸を瞑って口を閉ざすウラノス。

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