オラリオで自由気ままに過ごすのはダメだろうか(一時完結)   作:ダーク・シリウス

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冒険譚3

とある日の朝。

 

「あれ、おーい、ミア母ちゃん。お酒がなくなっているニャー」

 

「あん?またかい。あの酒は本当勢いよく減るね。今日は予約の団体が来るから補充しなきゃいけないから―――坊主、また使いっぱしりになってくれるかい」

 

「ああ、別にいいぞ。元々は俺が店の繁盛の為と思って仕入れたもんだし。リューも連れて行っていいか?」

 

「仕事が残っているんだ。早く仕入れて戻ってきなよ」

 

「あいよ。そんじゃ、アテネとリュー。行こう」

 

「「はい」」

 

一誠とアテネ、リューは酒の仕入れととある【ファミリア】のホームへ足を運んで赴いた。

 

「ねえ、そんな大金が入った亜麻袋を堂々と背に担いで大丈夫なの?」

 

「寧ろ、狙ってくる敵を釣っている方だけど?」

 

「故意的に敵を作ってどうするのですか」

 

無益で無意味な戦闘はよろしくないと、リューは言いたげに大量のヴァリスが詰まっている亜麻袋を擦れ違う一般人や冒険者がちらほらと見掛けることに警戒する。

 

「いやー先日。久々に強い冒険者と戦って楽しかったんだ。一方的に倒しかけたけど」

 

「「あなたはダンジョンの中で何をしている」」

 

主神とエルフに突っ込まれても笑みを浮かべるだけの一誠にリューは尋ねる。

 

「あなたが強いと言う冒険者はどこの【ファミリア】の者なんですか?」

 

「アイズ・ヴァレンシュタイン」

 

「・・・・・」

 

一方的に倒しかけた―――。その相手が最大派閥の【剣姫】の二つ名の少女。言葉を失い、ただ一誠を見つめることしかリューはできなかった。

 

「倒しかけたって最後は倒せなかったのよね?」

 

「彼女の仲間が横やりで邪魔してくれたからな。また後日改めて倒す」

 

不敵に笑みを漏らす眷属に主神は純粋に漏らした。

 

「あなたは【ステイタス】と見掛けによらず強いわね」

 

「俺は『神の恩恵(ファルナ)』に左右されない。自分の力を信じて格上の相手を倒すだけだ」

 

「・・・・・」

 

キュンと胸がときめいた。唯一無二の自分の眷属の少年の真っ直ぐな言葉に、何とでもない一言で。アテネは一誠のことを好意的に想っている。【ファミリア】を増やそうとしないのは一誠の計らいだ。今のままで十分だ、と言って団員を増やそうとするアテネと二人きりで生きていたいと言う願いに受け入れたのだ。当の本人が女性に人気なのは少々複雑な思いでいるがそれでも自分と常に共にありたいという考えに賛同したアテネは―――。さり気なく一誠に寄り添い歩き始める。

 

それから三人は目的地に辿り着いた。一誠はとある神物がいるであろう本拠(ホーム)の敷地の庭に無断で堂々と進んでそこに畑を耕している神物を発見した。

 

「やっぱりここか」

 

「そうね」

 

以前どころか、何度もこの場所に来た者としての納得と呆れの反応。アテネは神物に声を掛けた。

 

「ソーマ。あのお酒を買いに来たのだけれど手は空いているかしら?」

 

耕していた手を止めて三人振り返る男神。ゆったりとしたローブに似た服は、袖や裾の辺りが土色に薄汚れていた中背の青年。体の線は細くどこか繊細そうな印象が見受けられる。

 

「いらっしゃい」

 

「ええ、勝手に上がらしてもらっているわよ。というか自分の本拠(ホーム)の管理、全然なっちゃいないじゃない。もう少し周りに目を向けたらどうなの?自分の趣味だけに没頭しないで」

 

「・・・・・」

 

【ソーマ・ファミリア】の主神、ソーマ。酒の神と称されている一柱の神。ソーマはアテネの言葉に大した返事もなく無関心を貫き、直接自分を尋ねてあの酒を購入してくる客にある場所をついてくるように案内した。

場所は都市の東南、『ダイダロス通り』付近。そこにはソーマが製作している酒を保管する倉庫があり、一誠達が求む酒もそこに眠っている。辿り着けば多くの冒険者が警備をしていて、一誠達を引き連れるソーマに道を開けるのは【ソーマ・ファミリア】の冒険者達だからだ。

 

「どれぐらい買う?」

 

「んー、前回と同じ酒樽分の『ソーマ(さけ)』を五つ」

 

「わかった」

 

交渉も短く終わり、自分の眷属に酒樽を用意するように指示を下す。大きな亜麻袋をソーマの前に置く。

口を閉めていた紐を解き、大量のヴァリスを確認してソーマはアテネに「ありがとう」と述べた。

 

「これでまた酒造りに没頭できる」

 

「あなたねぇ・・・・・」

 

どこまでも自分の趣味にしか興味のない神に心底呆れ果てる。一誠は苦笑いを浮かべ、しょうがないと自分の主神を宥める。しばらくして五つの樽を乗せた台車が運ばれて来た。

 

「また買いに来てくれ」

 

唯一、多額の金額を払って酒を買いに来てくれる冒険者に願った。その言葉に一誠は肯定と頷き、こう言う。

 

「それ以前に、ギルドからずさんな【ファミリア】の管理で罰則(ペナルティ)を食らわないでくれよ?そうなったら買えなくなるんだから」

 

「・・・・・わかった」

 

それだけは避けたいとソーマも自分の趣味を奪われるのは嫌なのか首を縦に振った。

購入した酒を酒場に持って帰る為、台車を押して五つの樽を運び出す。

 

「今日も店は繁盛するだろうなー」

 

「そうですね。しかし、私は初めて来ましたがあの本拠(ホーム)から人の気配が全くありませんでした。一体どういうことなのですかアテネ様?」

 

「ソーマは自分の趣味の為に【ファミリア】を作っただけに過ぎないのよ。酒を作るにしてもかなりの費用が掛かる。だからソーマは―――」

 

リューに【ソーマ・ファミリア】の状態と状況を説明する。アテネも不思議で当初、直接本人に問いだたして聞けば・・・・・最後は怒りを露わにして怒鳴ったほどだ。一誠はその記憶が新しく思う。

 

―――○●○―――

 

その日の夜―――。『豊饒の女主人』の酒場は変わらず賑やかで酒を飲み、料理を食べに来る客達で溢れかえっていた。酒場のウエイトレスは皆容姿のレベルは高く、何よりあの女神が酒を注いでくれるということなのだから日頃命を懸けてダンジョンに冒険する冒険者や、日頃の働きで溜まった疲れや鬱憤などを吹き飛ばそうと女神に注がれた酒を飲む一般人が多い。間違ってでも女神に触れたら―――。どこからともなく感じる背筋を凍るほどの殺意とプレッシャーが襲いかかり、仕舞にはテーブルに凶器(包丁)が飛んでくるという現象が起きる。

 

「アテネ様ー!酒を注いでくれぇー!いえ、くださーい!」

 

「はーいっ(営業スマイル)」

 

「うおぉー!アテネ様、今日も萌えぇー!」

 

「女神の微笑み・・・・・俺、今日も生きてて良かった・・・・・っ」

 

アテネのファンが続出。信仰値も高まる勢いだった。

 

「アンタところの女神様の人気も増えてきたねぇー?」

 

「とても複雑な気分だよ」

 

「はっはっはっ!横から奪われないようにしっかりするんだよ!」

 

なんて、言われてしまった一誠は面白くないと態度で醸し出す。

 

「そう言えば、予約している団体って?」

 

「坊主も知ってる【ロキ・ファミリア】だよ」

 

Oh ・・・・・と、最近会っているファミリアがまた会うことになるとはなんとも言えない気持ちとなった。

 

「イッセー!食器の処理が追い付けなくなってきたよー!」

 

「だ、そうだから奥に行ってくる」

 

ヘルプの呼び声に応えてカウンターからいなくなったその時、

 

「ニャー、ご予約のお客様がご来場ニャ」

 

アーニャが対応して酒場に招いた団体が入ってくる。

客達がざわめきの色を変える。先頭にいた朱色の髪に糸目がちな女性の目はアテネに真っ直ぐ向いた。

 

「来たでーアテネ」

 

「いらっしゃい。空いている席に案内するわ」

 

お互い笑みを浮かべ、脚として現れたロキに営業スマイルで対応するアテネ。

 

「ぐふふふっ、アテネに奉仕してもらう日がくるとはうちはもうたまらんッ!」

 

「奉仕するのは私の子供だけよ。で、どんな勝負するのか決めたの?」

 

さっそくとばかり本題に入った。本題はロキ達がテーブルに座ってから入ろうとしたが、団員達が「勝負?」と興味を抱いた。

 

「ロキ、勝負とは何だい?」

 

「この女神の子供がアイズたんたちより強いかもしれないってアテネが自慢するようにゆーてな?んじゃ、勝負してやろうじゃんって話になったんよ」

 

女神同士のいつぞや交わした会話を【ロキ・ファミリア】団長、黄金色の髪に碧眼の小人族(パルゥム)のフィンが深い溜息を吐いた。

 

「僕達の知らないところで【ファミリア】同士の交戦をおっぱじめ様としないでくれよ」

 

「えー、フィン達を弱いって言われたんやで?主神として黙ってられへんわ!これは勝負してうちらが強いってことを思い知らせなあかんやろ?」

 

それでも翡翠の長髪を一つに結い上げた『王族(ハイエルフ)』のリヴェリアもフィンに同意した。

 

「口喧嘩程度ならともかく、私達まで巻き込むなと言いたいのだ。遠征から戻って来たばかりの私達の労力を考えてくれ」

 

あまり乗り気ではない団員達に「どうするの?」とアテネですら勝負を吹っかけてきた女神に見つめる一方。

「頼む!誰か戦ってくれー!」と自分の眷属に懇願し出すロキ。

 

「ロキ、自分から吹っかけた勝負事を今更反故なんてしないわよね?神同士が決めた事は軽くないのだから・・・・・待ったは無しよ。天界に戻る準備はできたかしら?」

 

「ちょ、待ってーな!?天界の送還はマジで勘弁してや!」

 

―――一体、自分達のいない間に神同士で何をやっていたのだろうか。天界に送還される展開にまで発展していたとは驚きものであった。同時に呆れ果てる。

 

「・・・・・しょうがない。いまロキを天界に帰られても残された僕達は【フレイヤ・ファミリア】に吸収され兼ねないね。―――ロキ、金輪際僕達のいない間に、神同士で勝手に勝負事を決めないでくれよ?」

 

「うっ・・・・・すまん」

 

結局、【ファミリア】存亡を懸けて団長のフィンが仕方なしと神同士の交戦の話に乗ることを決めた。

団長が決定したことでアイズ達も交戦に応じる他なかった。

 

「アテネ、こっちはやる気を出してくれたで。そっちの子供は?」

 

「奥にいるわ。ちょっと呼んでくる」

 

カウンターの奥へ姿を消すアテネは少しして戻って来たのだった。傍らに腰まで伸びた真紅の髪、隻眼の金色の瞳の少年を引き連れて。

 

「あー!?」

 

ガタッ!とアテネの眷属を知るアイズ、ティオナ、ティオネが立ち上がった。フィンとリヴェリア、ガレスもまた三人と同じ心情であった。

 

「まーた会ったな【ロキ・ファミリア】」

 

と、軽く挨拶した少年こと一誠にティオナが驚きを口にした。

 

「どうしてここにいるのー!?」

 

「どうしても何も、俺達はここで住み込みで働いているからだ。仮の本拠(ホーム)といった感じで住んでいる」

 

「酒場が仮の本拠(ホーム)だなんて聞いたことないわよ」

 

何とも言えない気持ちで言うティオナ。働く神はいるけれど、酒場で働く神など見聞したことがなかった。一誠は肩を竦めて現在の事情を説明した。

 

「しょうがないじゃん。住む場所がなかったんだから金が溜まるまでしばらく住み込みで働かせてもらっているんだよ俺達は」

 

「金が溜まるって今はどのぐらい溜めているんだい?」

 

フィンの尋ねに対し「えーと、八億ヴァリスだったな」と指を立てたり閉じたりして数えた金額は莫大な額だった。

 

「は、八億・・・・・?ひ、一人で君は稼いだっていうのかい・・・・・?」

 

「ああ、ギルドや商業系の【ファミリア】にドロップアイテムや魔石を売りまくったからなーここ一ヶ月」

 

「一ヶ月で八億も大金をぉっ!?嘘やろ!」

 

「本当よ。私達の部屋の金庫にその額のお金があるわ」

 

驚くロキとフィン、肯定と一誠とアテネが認める。

 

「で?俺と戦う相手は誰なんだ?」

 

アテネから説明されたようで席に座る【ロキ・ファミリア】を見回す。一誠の態度にフィンが苦笑いを浮かべ、参ったなーと心中で漏らした。

 

「・・・・・まさか、君が【アテネ・ファミリア】の冒険者だったなんてね。親指が全然震えなかったから分からなかった」

 

「どーしたん?相手はLv.1の冒険者やでフィン。まあ、八億の大金を稼いだってのも嘘くさいけどなぁー」

 

「Lv.・・・・・1?」

 

有り得ないの気持ちで一誠を見据える。アイズを追い詰めた冒険者は同等かそれ以上の力を有しているはず。だからLv.は5か6、あるいは7かもしれない。だが、ロキはLv.1だと言うのだから信じられなかった。

 

「アテネ、戦いはどんな方法なんだ?」

 

「ロキが決めていると思うけれど?ねえ、早く教えてくれない?」

 

「お、おおーそうやったな。純粋に力比べでどうや?」

 

「力比べ・・・・・なら、腕相撲だな」

 

「腕相撲?」と自分が考えた力比べのやり方とは違う風に提案を出した一誠の言動を静観する。

手頃なテーブルを一つ借りて、ティオナを呼んで木製の台の上に肘を突かせた。

 

「腕相撲ってのは相手の拳を倒したら勝ちの力の根競べだ」

 

「なーるほど。分かり易くていいね。それって本気とかだしていいの?」

 

「いや、全力でやれ。じゃないと勝負は一瞬で決まる」

 

アテネに開始の宣言を頼んで一誠とティオナは互い手を握ってテーブルに肘を突く姿勢に整えたところで―――。

 

「アテネ」

 

「分かったわ。それじゃあ・・・・・始めっ!」

 

女神の開戦の合図が告げられた。褐色の手に力を込めて、腕にも倒されないように力んで一誠の拳を倒そうと抑え込もうとした直後。

 

「おりゃ―――!」

 

ゴンッ!

 

「ーぁぁ・・・・・・?」

 

自分の手の甲がテーブルに叩きつけられた。それはあっという間だった。

 

「勝者、私のイッセー!」

 

「まあ、予行練習だ。今の勝利は無しで」

 

お手本と見本をロキ達に見せ付けてやり方を覚えさせた。

 

「・・・・・ティオナ、あんた・・・・・」

 

「ち、違うよ!?全力でやろうとしたら何時の間にか―――!」

 

「・・・・・次、私」

 

アイズが自ら買って出た。

 

「君の手を、倒せばいいんだよね?」

 

「その通りだ。全力で来い」

 

あっさりやられたティオナと同じ姿勢で一誠の手を掴んでテーブルに肘を突く。

 

「イッセー。この子を倒したら私達の勝ち?」

 

「んや、違うな」

 

「そう・・・・・それじゃ、第二開戦・・・・・始めっ!」

 

二度目の腕相撲。ティオナみたいにあっさり腕ごと手を倒されはしなかったが、感情が乏しいアイズの顔は険しくなってきた。手を握って相手の力が把握した時、倒されてはいけない方向へ腕が手とともに抑えつけられて―――最後は一誠の勝利で手は完全に倒された。

 

「はい、二連勝」

 

「・・・・・次は負けないっ」

 

「どけアイズ。今度は俺がやってやらぁ」

 

再度挑戦しようとした少女を押しのけてドンッとテーブルに膝をつくベート。

 

「てめぇ、アイズを倒したからって調子に乗るんじゃねーぞ。俺はド貧相のアマゾネスとアイズとは違うぜ」

 

「ド貧相言うなー!?」と抗議するアマゾネス(妹)を無視して好戦的に口の端を吊り上げて一誠に対して不敵な発言をする。

 

「アテネ」

 

「はい、始め。(ドンッ!)はい、イッセーの勝利」

 

瞬殺した一誠、瞬殺されたベート。【ロキ・ファミリア】に対して三連勝を挙げる。

 

「誰が調子に乗るなって~?うわ、負けて恥ずかしいなおい」

 

「~~~~~っ!?」

 

憤怒と羞恥で顔を真っ赤に染まるベート。「よくやったー!」と一誠に褒め称えるティオナ。

「すごい」とパチパチ拍手を一誠に送るアイズ。

 

「力比べで負けた第一級冒険者・・・・・ぷっ」

 

「て、てめぇー!?」

 

「落ち着かんかベート」

 

「うごっ!?」

 

殴り掛からんとするベートの頭部に拳骨をお見舞いしたガレス。その場で蹲り鈍痛に全身を震わせながら拳骨食らった頭を両手で押さえるベートを余所にガレスは腕を鳴らすように片腕を準備運動のように振り回しながら発する。

 

「次は儂が相手じゃ。熱い戦いができそうで、やりたくなってきたわい」

 

「本命が来たか。アテネ、このドワーフを負かしたら俺達の勝ちとするよ」

 

「分かったわ」

 

一誠を信じ、期待の眼差しをアテネから向けられる眷属の少年は右腕の袖を捲りながら巻いた。

 

「第一級冒険者のドワーフ。その力は砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)を振り回すことができそうだな。―――お前との勝負は全力で臨もう」

 

既に勝負の姿勢になっている一誠とガレス。アテネは「頑張って」と己の眷属の頬に唇を軽く押し付け、二人の手の上に手を置いた。

 

「それじゃ、準備は良いわね?」

 

「「おう」」

 

「じゃあ―――始めっ!」

 

アテネの開戦の合図によって四回目の腕相撲が行われた。今度の勝負は・・・・・。お互い、腕を力のあらん限りに力を握りしめる手とともに込めているので、腕は震え、顔は真剣そのもの。相手の顔を見て不敵に笑みを浮かべながらギリッと握る手から音が鳴る。

 

「なるほどぉ・・・・・この腕相撲という勝負はドワーフが好みそうな遊びじゃ」

 

「だろうな。あんたを打ち負かす為に敢えて他の奴らとの勝利を無効にしたんだからな」

 

「がっはっはっはっ!まだまだ小童ごときが儂に力で負かすとは腸が痛い!」

 

拮抗する二人の力。何時しか周りが二人の腕相撲を見て賑やかになり、密かに賭け事も行われていた。

 

「ぬぅっ・・・・・ぐぅっ・・・・・」

 

「・・・・・っ」

 

生まれ持ったドワーフの力は伊達ではない。それに加えて神の恩恵(ファルナ)も後押ししてガレスの【ステイタス】が成長の促進となっている。ドワーフという種をまさに体現する剛力の老兵。【ロキ・ファミリア】を超えて都市(オラリオ)一、二を争う『力』と『耐久』の持ち主であり、『力』の能力値(アビリティ)、そして『力』を強化するドワーフ特有の『スキル』の恩恵をもって、一誠との腕相撲を誰よりも長く堪え続けていられるのだ。

 

「・・・・・ふぅ」

 

一誠は瞑目して一呼吸。ここで勝負に負けたらアテネに顔を合わせることはできない。自分を信じて見守る主神に応えようとカッ!と隻眼の金色の眼が見開いた。

 

「ぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

全力の全力―――。ただ相手を打ち負かす純粋な力を腕や手に込めて、ドラゴンの咆哮を上げながらガレスの腕を徐々に押し倒していく。

 

「負けんわぁあああああああああああああああああっ!」

 

ガレスもまた怒声を叫んで押し倒された分、押し返して一誠を負かそうとする。

二人の男の熱い戦いが『豊饒の女主人』で行われ、店内の賑わいはヒートアップ。

 

「イッセー!頑張ってぇっ!」

 

「ガレスゥ!ここで負けたらいかへんでー!?」

 

『どっちも頑張れこの野郎ぉー!』

 

歓声が湧き、腕相撲という遊びは何時しか一種の戦いと化していた。ギラギラと戦意が宿る瞳、険しい顔に浮かぶ汗。冒険者としてではなく『男』として純粋な力比べを競い合う二人の真剣勝負に―――見えないところでビシッとテーブルが悲鳴を上げていたことに誰も気付かなかった。だからこそだ。

 

「「っ!?」」

 

二人の力を支えきれなくなったテーブルが瓦解するかのように壊れて、二人の態勢は大きく崩れた。

それでも二人は床に倒れようとも手を離さず、最後まで―――。

 

「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」」

 

男の勝負を続けた。そして床に揃って倒れた直後。片方の手が片方の手によって床に小規模のクレーターができるほど倒された。その様子を見ていた周囲の者達は息を呑み、どちらが勝ったのか静かに確かめたその眼に映り込む光景は・・・・・。

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・・ぜぇ・・・・」

 

「はぁ・・・はぁ・・・・・・・」

 

仰向けになって倒れたガレスの手が床に叩きつけられていて、うつ伏せ状態でガレスの手の甲を床に抑えつけている一誠が全身で息をしていた。誰が勝者なのか、アテネは顔を明るくして笑みを浮かべた。

 

「ははは・・・・・勝利の女神が俺に微笑んでくれた」

 

「こっちは飲んだくれの女神じゃからな。勝利よりも酒を突き出してきおったわ」

 

「その酒の誘惑に勝てんかった」と倒れたまま笑ったガレスは一誠の拳を突き出す。

 

「熱い戦いができた。また儂と勝負してくれ。今度は儂が勝つ」

 

ガレスの要望に一誠は口の端を吊り上げて突き出された拳に拳で小突く。

 

「ああ、いいぞ。また酒場に来い。来た時には『ここ(豊穣の女主人)』はもっと賑やかになっているかもしれないぜ」

 

「がっはっは!それは楽しみじゃわい!」

 

勝利は【アテネ・ファミリア】の兵藤一誠。最大派閥の【ロキ・ファミリア】のLv.6の第一級冒険者、【重傑】の二つ名を神々から与えられたガレス・ランドロックの敗北。この結果に店内は驚嘆と感嘆で大盛り上がり。

 

「ガ、ガレスが力で負けた・・・・・!?」

 

Lv.6の勝利を信じ揺らぎらなかったロキが糸目を極限まで見開き開いた口が塞がらなかった。

 

「さて・・・・・ロキ?約束の罰ゲームを執行しましょうか?」

 

「はっ!?」

 

天界への送還は免れたが罰ゲームは免れなかった。恐る恐ると振り返り気持ちのいい笑顔を浮かべるアテネに、乾いた笑みと引き攣った顔で「お、お手柔らかに頼むで・・・・・?」と慈悲を願うロキに対し。

 

「勝ったら要求を何でも呑むという権利・・・・・。ロキの子供から私の【ファミリア】に引き抜いても文句は無いわよね?」

 

ロキは過敏に反応した。アテネの足元に縋りつく勢いで。いや、実際に涙目で縋った。

 

「アイズたんだけは勘弁してぇっ!?うちのオキニなんやぁー!」

 

『おいっ』

 

俺達、私達はどうでもいいのかと主神に突っ込む【ファミリア】だった。そんなロキの懇願にアテネは知恵をフルに活かす。

 

「それって【ファミリア】解散って私が願えば同じことなのだけれど?後で私が恩恵を与えるだけだし」

 

「んなっ!?」

 

「しかも要求は何でも―――だからロキ?あなたは私の要求を全て呑む責任がある。自分の言った言葉をちゃんと責任を持って行動で示しなさい?」

 

ガタガタと可哀想なぐらいロキは全身という全身を震わせる。アテネは勝者の余裕な態度でどんな要求をしようかと考えた。

 

「そうね。ロキ、決めたわ」

 

「な、なにを・・・・・?」

 

「―――【ロキ・ファミリア】は存続する限り私とイッセー、【アテネ・ファミリア】に全力で支援や援助、協力をして貰うわよ。実質、【ロキ・ファミリア】は【アテネ・ファミリア】の傘下に加わるってことね」

 

神が神を吸収―――取り込む。そんな有り得ないことをするのは『迷宮都市』オラリオの創設以来の出来事だった。

 

「仮に、もしもよ?ロキの子供がイッセーに好意を抱いたら、ロキは黙って派閥を超えた恋愛を全面的に応援する」

 

「はぁっ!?そんな【ファミリア】のルールを―――」

 

「天界に送還するわよ。その権限を私は持っているのよ?」

 

アテネから感じる力にロキは目を張る。―――神力―――。下界で使えば一発退場よろしくで天界に送還されてしまう。なのに、目の前の女神はその一部でも使っても天界へ送還される気配はまったくない。下界に降りる際決めたルールを唯一、アテネだけ特別に無効とされて、下界にいる神々をいい加減に天界へ戻らせろという神々の願いが籠ったような神の力、神の力(アルカナム)を使用可能な状態で下界へ降り立ったのだ。本当の意味で神が下界に降臨したのだ―――。

 

「ア、神の力(アルカナム)を使えるんかいな・・・・・!?」

 

「ええ。ただし、使用していい条件は神を天界に送還する時のみだけどね。間違っても下界の子供達には振るえないわよ」

 

「それとむやみに下界にいる神連中を送還する気もないわ」と付け加える。

 

「私とイッセーに敵意と牙を向ける【ファミリア】だけにこの力を振るうつもり。だからロキはまだまだ下界にいられるから安心なさい」

 

そう言われても、安心できない自分がいることをロキは自覚する。敵に回すつもりは毛頭もないが、それでもアテネに対して油断はできないのは変わりないのだ。

 

「それじゃ、これから末永く友好的な関係でいましょうロキ?」

 

「お、おう・・・・・」

 

最大派閥の【ファミリア】を取り込んだ【アテネ・ファミリア】。二人の女神の会話を他所に「ごめんなさい」とフィン達に頭を何度も下げていた一誠がいた。

 

「・・・・・ところでアテネ。あのイッセーとか言う子供のアビリティ、教えてくれない?」

 

「ギルドで確認すればいいじゃない」

 

至極当然な返答をされてロキは朱色の頭を掻きながらこう言う。

 

「やー、な?実際にフィン達がギルドで調べにいったらしいんやけどギルドが何故か調べさせてくれなかったんや。何でも他の冒険者には見せられないほど異常だからっとか」

 

「そう」と短く相槌を打つ。異常だと言うのはオールとオーバーSのアビリティと到達階層数のことだろう。

 

「悪いけれど。彼の秘密を安易に明るみにすることはできないわ。私から見てもあの子は異常の存在だもの」

 

「異常って・・・・・どのぐらいヤバいん?」と好奇心で聞いたところ、アテネから返ってきた言葉は「ランクで言うとオールSとオーバーS」という返事だった。「・・・・・嘘やろ」と言葉を失うロキに対してアテネは仕事に戻った。

 

「・・・・・イッセー」

 

仕事に戻ろうとする一誠を呼び止めた。

 

「なんだ?お勧めの酒は『ソーマ』だけど」

 

「ソーマやて!?」と酒好きな女神が激しく反応したのを無視してアイズは尋ねた。

 

「ここに来れば、君に会える?」

 

「そうだな。会えるっちゃあ会える方だ。店の仕事を終わったらダンジョンに潜る方だし」

 

「・・・・・分かった」とアイズは明日の朝、会いに行こうと固く決意した。力だけで自分達を負かし、ガレスでさえも打ち負かされた。

 

「お?」

 

一誠が出入り口へ目を向けた瞬間。何かを発見し―――。

 

「兎をGETだぜぇっー!」

 

「ほわあああああああああああああああっ!?」

 

白髪の赤い瞳の少年を捕獲した。

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