オラリオで自由気ままに過ごすのはダメだろうか(一時完結)   作:ダーク・シリウス

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冒険譚39

【アテネ・ファミリア】のホームのトレーニングルーム。

 

『待て待てぇっ~!俺のご飯っ~!』

 

「ほわぁあああああああああああああああああああああああああっ!?」

 

「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

幼い少年少女は今絶賛、手足と翼がある胴体が蛇のドラゴンに追いかけられている。足が取られやすい砂浜で既に三〇分は走り続けている。二人の服装は走り易い恰好ということで水着姿の上に、ジューシーで巨大な肉を背負わせられて自分達も巻き込んで食われないように逃げ惑っているのだった。

 

一方、こちらでは

 

『まだまだ私の障壁を貫通するまでに至りませんねぇ。もっと魔力を籠めて撃って下さい』

 

遠距離攻撃、魔法攻撃を専念するカルラを除く三人は巨大なドームの中からラードゥンの張った結界を破壊する特訓をされていては、

 

「カルラ、後五十回だ。頑張れ」

 

腕立て伏せをしているカルラの背に重りとして大きな石を二つ重ねた上に一誠が乗っている状態で応援をしていた。

 

「・・・・・アテネ、君の子供達の修行や特訓はいつもこんなことをしているのかい」

 

「というか、これが小さい頃のイッセーもしていたことらしいのよね」

 

「凄まじい光景ねぇ~」

 

同じ場所で遠くから眺めている三柱の女神達は目を丸くしていたり、見慣れた光景だと見つめ、ハワイアンな飲み物を飲んでいたりと見守っていた。

 

「ベ、ベル君とサポーター君は食べられないんだよね?」

 

「そこはイッセーから言ってあるから大丈夫よ。見た目はアレだけど」

 

「今にでも食べられそうになっているけれどねぇ~?」

 

ドラゴンに追いかけられている自分の眷族に心配でハラハラするヘスティア。元【アテネ・ファミリア】に匿われてから三日が経ち、このトレーニングルームでいる時間はその倍だ。

 

「Lv.は上がらないけれど、基本アビリティはかなりの激上するのは間違いないでしょう?」

 

「う、うん・・・・・『敏捷』のアビリティがSSSになっちゃってるよ。サポーター君もBになってる」

 

「ふふっ。成長が著しいようで何よりだわ」

 

ドラゴンに鍛えられて何らかの変化もなければおかしすぎる話だ。器の昇華よりもまず基礎から鍛える一誠の考えにアテネやヘスティアは何も言わず見守る姿勢を貫く。この成長を見守る親のように信じて、終われば労いの言葉を掛ける。それでいいではないか。

 

「それじゃ、私達は表に出ましょうか。ヘスティア、ハーデス。家事の仕事をするわよ」

 

「も、もうちょっとだけでも・・・・・」

 

促す家主に特訓の光景を見守りたいヘスティアは渋ると、綺麗な銀の柳眉が「なに言っているの?」と語る風に寄った。

 

「ダメよ。言うこと聞かなきゃ、イシュタルのところのアマゾネス達のところに貴女の兎を放り込むわよ」

 

「それだけは絶対に駄目だァッー!?」

 

大切な眷属が野蛮で飢えた猛獣に喰われてしまう!と断固否定するロリ女神。仕方なくとアテネに従い、トレーニングルームからハーデスとともにいなくなった。女神達がいなくなっても特訓は続く。

 

「イ、イッセーさんッ!助けてぇー!?」

 

「泣き言を言うなベル。もう一匹追加するぞ」

 

「イッセー様の鬼畜ぅっー!?」

 

「・・・・・よし、二体追加だ」

 

「―――リリィー!?」「ご、ごめんなさいっ!?って―――」と肩を並べ合って逃げる二人の背後に更なるプレッシャーが増えた。

 

『しっかり逃げてください』

 

『手加減は苦手だからな。死ぬ気で逃げろ』

 

「「本当に増やしてきたぁっー!?」」

 

ベル・クラネルとリリルカ・アーデの特訓は地獄そのものだった。誰もこの光景をオラリオで行われていることは知らない。ただし、オラリオに人の姿をしたモンスターがいるということを神々や冒険者達は知っていた。

 

勿論、緊張を走らせている中立を保っているギルドも。

 

神会(デナトゥス)で発覚した元【アテネ・ファミリア】の冒険者イッセーが異世界から来た人型ドラゴンである事実を認知し、ギルドはこの冒険者をどうすべきか、頭を抱えている。オラリオからの追放も討伐も易々と出来ない相手であることに手を拱いている。以前のホームにモンスターを匿っている件で派閥の再結成は認められなくとも迂闊に詮索ができない上に異世界から来た一誠の実力は最強の冒険者と渡り合える実力。間違ってオラリオから戦力流失などされ、いくどもオラリオに侵攻する王国へ行かれてしまっては大問題だ。

 

「でも、結局は静観と様子見なんでしょうねぇー・・・・・」

 

一誠の担当だったローズは腫れ物に触れるような扱いの元【アテネ・ファミリア】に対してギルドは何もしないという方針で決まるだろうと高を括る。オラリオの中で一番、取り扱いが難しい【ファミリア】だ。『異世界からやって来た人型ドラゴン』という情報はもう手遅れなまでにオラリオ中に浸透してしまっている。騒ぎは起きていないが、大人しくホームに謹慎しているのか、はたまたはオラリオからいなくなってしまったのか。

 

「あの、ローズさん・・・・・お気をつけて」

 

元担当として上からの指令で元【アテネ・ファミリア】のプライベートを装った調査を行うことになった。私服姿で、仕事に関する道具は一切持ち込まない。人型ドラゴンがどういう生活を送っているのか、その白羽の矢が自分に立たれたのだ。ハーフエルフや他の女性ギルド員達から心配そうな顔で見送りされているのをローズは苦笑いをする。

 

「大丈夫よ。あの子が人を襲うような冒険者じゃないのは分かっているから。勿論、警戒はするけれど」

 

「それじゃ」と見送ってくれる同僚達から背を向け、西へと向かう狼人(ウェアウルフ)の女性。

 

そして、神や幹部総出で西へ向かう派閥もいることをローズは知らない。

 

『冒険者通り』を経由して、北西と西のメインストリートに挟まれている区画へと赴くローズ。街中を歩くだけで何らかの目立った影響や変化は見当たらず、至って平穏が窺える。一誠が街に出向いていない事が明らかだ。となればホームに・・・・・。

 

「あ」

 

あの大きな石壁、どう越えればいいのだろう。阻む巨大な壁のことを頭の中からすっぽり抜けていたローズ。どうしよう、他の派閥に頼む・・・・・?いや、プライベートとして訪問をするのに冒険者も引き連れては警戒される。等々目的地に進みながら考える女性はふと目が留まった光景を目の当たりにした。どこかの派閥らしき冒険者が大挙で西へ移動している。武装した鎧や服に刻まれているエンブレムを見て絶句する。

 

「(【アポロン・ファミリア】・・・・・っ!?)」

 

元【アテネ・ファミリア】のホームを襲撃した際に【イシュタル・ファミリア】の団員達によって捕まった経歴を持つ彼の派閥がまた襲撃を目論んでいるのか。血走った眼で建物の上やら地上で駆け抜け西へ進む冒険者達に目を丸くする。

 

「まさか、また・・・・・」

 

ローズの思い描いていた予想はしばらくして激しい爆音が聞こえてきた。

 

「なんてことを・・・・・っ!?」

 

 

「・・・・・また、襲撃してきたようね」

 

けたたましく鳴り響く警告音に溜息を吐くアテネ。一誠が創造したホーム内であればどこでも見れることができる映像で確認すると、壁に穴を空けて自然豊かな森に火を放ちながら侵攻する冒険者達を見つけた。

 

「ヘスティア!直ぐにイッセーを呼んで来て頂戴!」

 

「わ、分かったよっ!」

 

二度目の体験と経験にこの状況を理解し、アテネの指示に従ってトレーニングルームへと駆けるヘスティア。

残った二人は映像を見続ける。

 

「私達はどうするのぉ~?」

 

「どうするって、見守ることしかできないわよ。無力な神なもの」

 

まあ、ここに通じる道だけ封じることは可能だけどね。とどくろまーく(スイッチ)を押しながら心中で呟いた。

 

「さて、どうやってこの城まで来るつもりなのか、高みの見物とさせてもらいましょうか?」

 

大勢の団員達の中に紛れ込んでいる一人の男神を見据えるアテネは冷笑を浮かべた。

 

―――○●○―――

 

アミッド・テアサナーレは居ても立ってもいられなくなっていた。広がる噂や話を耳にするようになった。当然、それは一誠の関する事だ。秘密を守って来た彼女の知らないところで漏洩。どうしてこんなことに、そんなことになったのかアミッドは把握できていない。絶対に守らないといけない彼の秘密はオラリオに知れ渡り、街中を歩けば放っておけない状況と発展するのは間違いない。

 

「(イッセー・・・・・大丈夫でしょうか)」

 

恋する乙女の心情は憂いていた。目の前にいる主神には悟られないよう気配りをしながら話を聞いていた。

 

「あのアテネの人型モンスターからまた角だけではなく、次は爪や牙も欲しいぞアミッドよ!」

 

倍加薬(ブースト・ドラッグ)』、と名付けられているドラゴンの角から作製された商品は一粒で一〇〇万ヴァリスで直ぐに完売。購入した派閥からまた購入したいと希望を求められたが数に限りがある商品をそう容易く販売できる物ではない。アビリティが激上する道具(アイテム)を欲しさに求められては治療薬や道具(アイテム)の提供をを生業としている【ディアンケヒト・ファミリア】としては応えないわけにはいかない。

 

「アミッド?」

 

「はい」

 

「儂の話を聞いておるな?」

 

「牙と爪が欲しいと仰られました。その役目を交流ある私に任せたいと」

 

「うむ!」

 

慕っている少年の身体の一部を商品化にしたい主神に一人の女としてそれは反対の思いだ。ディアンケヒトは派閥の活動自体も同じとある神と派閥に対してデカい顔を立てたい腹なのだろう。アミッドの言葉を聞いて満足そうな顔で頷く主神に内心溜息を零す。

 

「申し訳ございません。あの角は私と同行してくれた報酬として受け賜わった物です。利益の為にイッセーは身体の一部を提供してくれないかと」

 

「なんだとっ?それではあの万年滞納者どもに後れを取られるではないか!」

 

【ミアハ・ファミリア】のことを差して言うディアンケヒトはどうにか異世界のモンスターのドロップアイテムで商品にし、彼の【ファミリア】よりさらに大きく出たい思いでいる。

 

「ええい、なんとかならんのかアミッドよ」

 

「申し訳ございません。無理です」

 

頭を垂らすアミッドを「ぐぬぬぬっ」と唸るディアンケヒト。

 

「アテネの人型モンスターに遠慮しておるのかアミッドよ!異世界のモンスターだ。冒険者ならば躊躇してはならないぞ!」

 

冒険者以前に自分はイッセーのことが好きなのだと言いたい。しかし、言ったらこの主神はどう言動するのか分からない為に発言も気を付けて意見を述べる。

 

「私の言葉よりも、ディアンケヒト様の言葉でイッセーに頼んだ方が・・・・・」

 

「傍にアテネがおるから嫌だ!」

 

なんですかそれ・・・・・。と内心呆れたところで―――外から雷が落ちたような轟音がした。

 

「なんだ・・・・・雷?」

 

まだ朝だというのに雷のような音が轟いた。それが二度も三度も立て続けに聞こえれば怪訝な心情と成りディアンケヒトは外へ出ようと動く。行く主神を追い、ホームである大豪邸の外へ赴こうとしている最中でまた落雷が発生したような轟音が響いてきた。その発生源は・・・・・西だった。

 

少し時間は遡る。

 

【アテネ・ファミリア】のホームに襲撃する【アポロン・ファミリア】。敷地内の湖のところまで辿り付いて中央にある要塞を発見しているのだが、既に崩壊している為にオラリオで二番目に高い城までの行く手段は失ってしまっている。

 

「アテネェッ!出て来いっ!ここにいるのは分かっているのだぞぉっ!?」

 

主神アポロンは絶叫する。いや、そうする他ないのだった。聞こえようが聞こえまいが、愛する眷族の身も心も穢した元凶に許せずアテネに挑もうとしているのだ。

 

「私の派閥とお前の派閥同士で決闘をしようではないかっ!いまっ、ここでぇっ!」

 

【アポロン・ファミリア】の団員達が雄叫びを上げる。あの時の屈辱をいま晴らさんと思いが籠った叫びを上げた。戦争遊戯(ウォーゲーム)ができなければ、真っ向から勝負して勝つまでだと気持ちが一致した。後でギルドから罰則(ペナルティ)を課せられようが、この憤怒の気持ちを抑えられるほど神や団員は我慢強く無い。攻め込んできた派閥の戦意が高揚していくつれにそれはついに現れた。湖に囲まれた崩壊した要塞の上に魔法円(マジックサークル)が発現してたった一人だけ、少年が姿を現した。

 

「これはこれは、アマゾネス達に喰われた【アポロン・ファミリア】じゃないか。本日はどのようなご用件で?」

 

いけしゃあしゃあと嘲笑う笑みで口を開いた少年にアポロンが言い返した。

 

「異世界のモンスターかっ。アテネはどうしたっ!?」

 

「俺の女神はお前ごときに会うわけ無いだろう。人の敷地を滅茶苦茶に壊しやがって、今度は請求してやろうか?」

 

目の前で燃える森林と奥で風穴が空いている石壁・・・・・。二度も襲撃してきた【ファミリア】に溜息混じりで言う一誠に鼻で笑うアポロン。

 

「私ごときだと?私よりアテネの方が上のような発言だな。派閥の結成を認められず、主神としての立場を無くし、何もできない、何もしない堕落した女神が、天界と下界の共通規則(ルール)を破った女神が調子に乗っているだけだろう」

 

「ルールは破る為のものでもあるのさ。そんなことも分からない神は神じゃないな。というか、俺からすれば天界と下界にいる神は、神じゃないんだよ。俺が知っている異世界の神の方がまだ神様らしいぜ?」

 

挑発するように手を招く。

 

「口頭弁論したっても何にも変わらない。アテネに会いたいなら俺を倒してからして貰おうか?お前らにはできないだろうがな」

 

「―――高が一人で、人型のモンスターが私の眷族に勝てると思っているのかっ!」

 

「オッタルが百人いたら、俺も全力を出さないといけないかな?お前らに本気も出すまでもないんだよ」

 

―――高が人間ごときが、俺に勝てると思っているのか?と付け加えてせせら笑う。

 

「断言してやる。お前らは俺には勝てんよ。どう足掻こうが一生な」

 

その一言で【アポロン・ファミリア】の怒りのボルテージがMAXになった。各々は得物を構え、魔導士は詠唱を唱え始める。目の前の敵対派閥から感じる敵意と殺意を感じることで()る気満々だと口角を上げる。

 

「死んでもいい奴は掛かって来い!問答無用でお前らに絶望と恐怖を骨の髄まで味わわせてやる!」

 

「行けっ!お前達!」

 

『『『うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!』』』

 

一斉に駆けだす【アポロン・ファミリア】と

 

「―――龍化」

 

人の姿から、全長一〇〇Mは優にある真紅のドラゴンへとある意味本来の姿になった一誠は隻眼の瞳を輝かせ―――敵に対して雷を落とした。

 

 

 

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』

 

どの階層主を軽く超える全長のドラゴンが目の前に現れた上に落雷が何度も【アポロン・ファミリア】の団員達に直撃し、一撃で戦闘不能に陥る。

 

「な、なんだこのデカさはあああああああああああああ!?」

 

「こ、これが・・・・・異世界のモンスター!?」

 

恐れ戦く、畏怖の念を抱く、戦慄する、恐怖感を覚える、―――絶望する。晴天の空から降ってくる雷に直撃する者、その余波でダメージを負う者、衝撃で吹っ飛ぶ者など誰一人無傷でいられる者はいない。

 

『ハハハハハッ!どうした、それが冒険者の戦い方かっ!?俺はまだまだ本気すら出していないぞ!そら、もっと雷を落としてやる!』

 

幾重の轟音と雷光が敷地に降り注ぎ、大地は抉れ、大木は貫き真っ二つに裂き、さらに燃える戦場と化する。

 

『ギェエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

 

咆哮。口から発せられた絶叫は衝撃波。全てを薙ぎ払い、吹き飛ばすその威力は燃える火炎をも消し去って消化する。【アポロン・ファミリア】の団員と主神すら衝撃波に襲われ薙ぎ倒される。

 

「ひっ、ひぃっ!?」

 

「か、勝てるわけねぇ!?こんなモンスターに!」

 

「アポロン様ぁ!お逃げくださいっ!」

 

死屍累々の一歩手前、地獄絵図、阿鼻叫喚と化している敷地はさらに悪化する。

 

『逃がさんぞアポロン』

 

翼を羽ばたかせ、数人の団員に囲まれながら逃れようとしている男神に腕を伸ばし、風圧で吹き飛ばしてアポロンだけを足で地面に潰さないよう気を付けながら押し付ける。

 

『冒険者なら、冒険して見ろよ。なぁ?』

 

一誠の頭上に黒い魔方陣が出現して、全身が漆黒で時折紫色の発光現象を起こすニ対四枚の翼と三つ首のドラゴンが咆哮を上げながら二匹目のドラゴンとして『召喚』された。

 

『殺さず適当に遊べ』

 

『はっ!我が主よ!』

 

翼を羽ばたかせ、滑空し、【アポロン・ファミリア】の団員達を吹き飛ばし薙ぎ倒し払う。見たことも聞いたこともない新たなモンスター、ドラゴンの出現に【アポロン・ファミリア】の大半は戦意喪失、絶望と恐怖に陥った。

 

『ギェエエエエエエエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!』

 

叫べば面白く人は転げ回る。魔導士の魔法を直撃しても仕返しとばかり魔法を放たれる。剣や槍、弓で攻撃しても弾かれるか、折れるか、傷を負わせても傷口から出てくる血が、禍々しい爬虫類として生まれ敵に襲いかかる。ダンジョンのモンスターとは桁違いな強さと丈夫さ、攻撃に【アポロン・ファミリア】は何時しか心を折られ、ドラゴンに恐怖するようになっていく。

 

「殺せぇっ!?もういっそのこと俺を殺せぇっ!」

 

「嫌だっ!死ぬのや嫌だっ!助けてくれぇっ!」

 

「ハハハッ!ハハハハハッ!アハハハハハッ!」

 

手や足、尾で軽く振るって吹き飛ばす。三つ首のドラゴンに敵う【アポロン・ファミリア】にいる冒険者は皆無。

 

『クハハハハッ!弱い、異世界の冒険者は何と弱いのだろうか!最大派閥の人間ならばもっと楽しめるぞ主よ!』

 

『そうか。なら丁度良いんじゃないか?』

 

隻眼の金眼は種族が異なる八人の新たな冒険者達の姿を捉えた。

 

『アイズ達が来た』

 

 

 

「イッセー・・・・・っ!」

 

敷地内は酷い有様だった。自然豊かな森林は全て薙ぎ倒されていた上に燃えた跡のような黒コゲになっていて、【アポロン・ファミリア】の団員達は満身創痍、戦意喪失、心を折られ、恐怖で全身を震わす冒険者もいた。

それが全て、目の前にいる二匹のドラゴンが元凶だろう。

 

「・・・・・なんじゃ、あのデカさと見たことのないドラゴンは」

 

砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)よりプレッシャーがあるね・・・・・」

 

「これがあの野郎の正体だってことかっ!」

 

一誠の正体を知らないフィンとガレス、ベートは緊張と最大限の警戒で気を引き締める。異世界のドラゴンがオラリオで暴れ回れたらとんでもない被害が生じる。

 

「イッセー!どうしてこんなことをしてるの!?これじゃ、オラリオに入られなくなっちゃうよ!」

 

ティオナの叫びは真紅のドラゴンが溜息を零す。

 

『俺の秘密がオラリオに知られた時点でとっくに居辛くなってるし、んなことはもうどうでもいい。この神が眷族を率いてまた襲撃してきたんだ。―――二度と三度目の襲撃を起こす気をしないよう骨の髄まで異世界のドラゴンの力を見せ付け、絶望と恐怖のどん底に突き落としていた。誰一人も殺さずに』

 

足で押さえているアポロンに視線を落として、軽く押さえれば「ぎゃあっ!」と悲鳴が聞こえてきた。

 

『さて、お前等は俺達と決闘をしたがっていたな?もはやこの凄惨を見れば誰が勝者なのかもう歴然だ』

 

なら、勝者の願いを聞き受けるのも道理だと、一誠は付け加えた。身も心も満身創痍な【アポロン・ファミリア】は

 

『天界に送還されたくなければ、俺の言う通りにして貰おうか?』

 

「誰が、モンスターの言うことを―――ぐあああああああああっ!?」

 

『お前に、拒否も異論の権利は無いんだよ。このまま踏み潰してもいいんだぞ?』

 

踏む圧力を加えてアポロンを苦しめる。その悲鳴を聞き地に平伏していた一人の団員が波状剣(フランベルジュ)を片手に一誠の顔に目掛けて跳躍した。

 

「アポロン様を、放せぇええええええええええっ!」

 

「ヒュ、ヒュアンキトス・・・・・ッ!」

 

勇ましく主神の為に飛び掛かった。強大なモンスターに立ち向かうその姿はアイズ達の目に飛び込み、

 

『そのお前の行動には称賛を与えん。だが、相手は悪過ぎる』

 

無感情で拳を振り、ヒュアンキトスに殴り飛ばして地面に叩きつけた。

 

「あ、ああ・・・・・・」

 

『これ以上、お前の大切な者を傷つけられたくないだろうアポロン。お前の誠心誠意の言動次第で眷族達は助かる』

 

茫然自失と殴り飛ばされた眷属を見ていたアポロンに上から提案を突き付けられる。断ればどうなるか、分からないはずがない。モンスターに屈服する屈辱を震えながら耐え、一誠の言うことを聞く姿勢になった。

 

「・・・・・お前の望みは何なのだ」

 

『なーに、簡単な事だ。―――【ヘスティア・ファミリア】と戦争遊戯(ウォーゲーム)をするんだ』

 

「・・・・・は?」

 

『え?』

 

【ファミリア】の解散を命令されるのかと思えば戦争遊戯(ウォーゲーム)をしろと言われた。しかも、当初の目的でもあった【ヘスティア・ファミリア】とのゲームだ。

 

「な、何故そんな事を・・・・・」

 

『ベル・クラネルを狙っているなら、匿っている俺達にまで迷惑が掛かるだけだ。白黒はっきり付けて決着を付けろ』

 

―――○●○―――

 

「君はなんてことを言うんだぁー!?」

 

全てを終え、ホームに戻ればヘスティアの開口一番と黒髪のツインテールが一誠の首に巻きついた。

 

「よりにもよってアポロンとゲームをしろなんて、何を考えているんだ君は!?」

 

「阿呆」

 

小さな女神の頭髪に手刀を叩きこんだ。地味に痛いチョップでその場で蹲るヘスティアに指摘した。

 

「何時までもここに匿ってもらえるなんて考えてないわけはないだろう。結局、勝負をしてどちらかが勝敗を決めなきゃお前らはずっとアポロン達に追いかけ回され、狙われる人生を送るんだぞ」

 

「うぐっ・・・・・」

 

「分かっているならさっさとアポロンとゲームを決め合え。そんでベル達を信じろ」

 

正論な言葉にぐうの音も出ない。

 

「ですが、リリ達は二人しかいないのですよ?【アポロン・ファミリア】と真正面からぶつかって勝ち目なんてあるはずが・・・・・」

 

「うん・・・・・」

 

【ヘスティア・ファミリア】の構成員の人数は二人だけ、百人以上いた派閥にどう戦っても勝ち目は薄い。Lv.も人数も【アポロン・ファミリア】の方が上なのだ。

 

「・・・・・問題ないだろ」

 

「「「?」」」

 

「お前らを味方になってくれる冒険者は絶対にいる。例え数が少なかろうと心強い仲間がな」

 

それから数日後。

 

ヘスティアとアポロンの戦争遊戯(ウォーゲーム)は、間もなくギルドにも承認されることとなった。

同時に開催される運びとなり都市の動きは活発に、そして慌ただしくなっていく。割を食らったのは都市管理機関であるギルドだ。派閥同士の勢力戦という物騒な催しによって間違ってもオラリオに被害が及ばぬよう、物資や人員の手配、宣伝、戦争遊戯(ウォーゲーム)の舞台候補となる戦場の絞り込みなど、近隣地域への呼びかけも含め様々な作業に追われることとなった。神々の身勝手な要望もそれに拍車を掛ける。件の話題が冒険者や一般人問わず持ちきりと成り、都市内外での注目を集める中、戦争遊戯(ウォーゲーム)への準備は着々と進められていった。

 

「よし、大体の走り込みも慣れてきたようだな」

 

「「一瞬の気の緩みもできませんでした!」」

 

「今度は攻撃をするから避けながら走り続け」

 

「「まだやるんですか!?」」

 

ヘスティアが神会(デナトゥス)で不在の間でも二人は一誠に鍛えられていた。

 

「当然だろう?まあ、それをやる前に二人には今まで頑張った。だから俺からプレゼントがある」

 

「「・・・・・」」

 

また、変な物を渡されるんじゃないのかと思わず身構えるベルとリリを他所に、四枚の護符を懐から取り出した一誠が口を開く。

 

「これだ」

 

「・・・・・これは?」

 

護符には何やら紋様みたいな描かれた文字がある。読めないので渡してくる張本人に問うしかない。問えばこう返ってきた。

 

「『力』と『耐久』のアビリティを激上させる護符だ。持っているだけで効果がある。俺の新しい道具(アイテム)だ。お前らの為に作ったから受け取ってくれ」

 

「本当に、この護符で二つもアビリティが上がるのですか?」

 

「実際に春姫達にも協力して試した。熟練度が二つ以上ランクアップしていたぞ。具体的な数字は250」

 

そ、そんなにっ!?とリリは目を大きく見開く。その道具(アイテム)を売れば数十万ヴァリスはくだらないだろう。一誠しか作れない希少な道具(アイテム)、腫れ物を触れるような感じで受け取った。

 

「あ、ありがとうございます・・・・・大事に使いますね」

 

「使うというか持っていろ。それは御守りみたいなものだからな」

 

「「お守り・・・・・」」

 

「おう、強大な相手に打ち負かす必勝のお守りだ」

 

にっ、と気さくさに笑う一誠に、絶対に無様な負け方だけはしない決意を胸中に秘める二人。

 

「さて、リリには訊きたいことがあるんだが。変身魔法ってイメージしたものだったら何でも変身できるんだよな?」

 

「ええ、そうですがそれが?」

 

「うん。ベルと同じ姿にも変身できるかなーって」

 

「え、僕ですか?」と自身を指で差すベル。リリがベルと同じ姿になる。どうしてそんなことをするのか不思議と感じた。

 

「特に理由は無い。ただ、同じ種族と人物が二人もいれば、色々と面白いだろう?」

 

「まあ、それはそうですけど。リリがベル様に変身したらちっちゃいベル様になってしまいます」

 

「それは分かってるさ。それじゃ、特訓の続きをするぞ。今度は技法というものを習ってもらう。ベルの今の足なら、この特殊なトレーニングルームの中で磨けば自分の物にできるかもしれない。リリはサポーターとしての立場を武器にして緊迫した状況下でも様々な道具を駆使できるようにならないとな」

 

「「はいっ」」

 

それと、と一誠は付け加える。

 

「相手はモンスターじゃない。人間だ。ダンジョンで戦うモンスターよりも人間の方が侮れないぞ。相手を倒すんじゃなくて、殺す覚悟で臨め」

 

「こ、殺す・・・・・」

 

「要は気持ちの問題だ。倒せばそれで終わり、じゃない。相手を確実に殺して倒す気持ちではないとダメだ。俺は戦いの時は何時もそんな感じだ。できればお前らにもその心構えでいてほしい」

 

まずはベルからだ。と己の編み出した技法を伝授する一誠。

 

「名を、デビルバット・ゴースト。これはアイズ・ヴァレンシュタインも驚くだろう、まだ誰にも見させたことのない技法だ。ベル、アイズの背を追い掛けるぐらいなら、驚かせなきゃだめだぜ?」

 

 

 

その一方、神会(デゥナトゥス)では話し合いもそこそこして、女神(ヘスティア)男神(アポロ)、両者の必要書類の自署(サイン)や手続きを周囲の監修のもと済ませて公平に、戦争遊戯(ウォーゲーム)の方法をくじで決める事になった。そして誰かがくじを引くということになったわけだがヘスティアとアポロンの神意が一致してヘルメスに託された。本神は「えーと・・・・・本気(マジ)?」と思わずというように苦笑を浮かべた。断われる雰囲気でもない、と観念して、立ち上がる男神はクジが入っている箱の中に手を突っ込み、ゴソゴソとあさる。固唾を呑むヘスティア達の前で、彼は取りだした一枚の羊皮紙を確認すると・・・・・ん?と一度首を捻って、ぴらりと広げた羊皮紙を神々へ公開した。

 

『運動会』

 

―――?????

 

魔天楼施設(バベル)三十階に集結している老若男女の神々が揃って頭上に疑問符を浮かべ首を捻った。

 

「えーと、この羊皮紙を描いたのって誰?」

 

ヘルメスの質問には神々の間でざわめきが生じる。

 

「ヘスティア、まさかお前ではあるまいな?」

 

「ボクが書いたのは一対一だよ。そういうアポロンじゃないのかよ」

 

「ふん、私は―――」

 

己がクジに書いた内容を口にしようとしたアポロンの目に挙手する一柱の女神が映る。そして、忌々しげに頬を歪ませた。

 

「私だけれど?」

 

元【アテネ・ファミリア】の主神であり女神のアテネだ。挙手するアテネに神々の視線が向けられるようになり、ヘルメスは質問した。

 

「運動会ってなんなのかな?」

 

「二チームに別れて大勢で運動することよ。運動会って異世界では結構盛り上がるらしいわ」

 

「アテネ、それは戦いなのかい?」

 

「ある意味、戦いでしょうね。でも、武器は要らない戦いよ?何せ、私達神々でも参加できる戦いだもの。とても平和的で殺生も許されない異世界の楽しい催し」

 

一部の神がそれは面白そうだと目を怪しく輝かす。異世界の催しと心から魅かれたのだろう。眷族同士の戦いも盛り上がるが、自分も楽しみたいという欲求がここで湧き上がった。「もっと詳しく!」と催促の声が聞こえ、アテネはそれに応えるように口を開き続ける。

 

「様々な運動があって、二チームでそれを行い競うの。その種類はたくさん。私が口で言うより、運動会を今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)にしてくれれば―――皆を楽しませることができるでしょうね。異世界の楽しい催しが」

 

瞑目して最後の捨て台詞と言わんばかり、娯楽に飢えている神々の前に「神も参加」「楽しい」と餌を吊るした結果。

 

 

「よし、決定でいいだろう」

 

「異論無し」

 

「神聖かつ公式なクジで決まったんだから今更やり直しってのもなんだしな」

 

 

周囲の神々は食い付いた。その様子を静観していたロキは腹黒い女神だと思っていた。

 

「(アテネの奴、他の神連中が惹かれ易い事をここぞとばかり言いおって・・・・・しかも、それはアテネも参加できるということやないか)」

 

それは一誠達も参加できると繋がる。つまり、アテネはヘスティアの味方として有利な状況を築き上げようと魂胆と踏んでいるのだ。

 

「待てアテネ。神も参加できるとなればお前もできるということだな?」

 

「ええ、そうだけど先に言わせてもらうわよ。【ファミリア】の結成を認められない神の眷族が参加できると思うの?」

 

「むっ・・・・・」

 

それだけでアポロンは口を閉ざした。懸念していたことがアテネの口から出た言葉で後顧の憂いが無くなったのだ。一誠の参加は認められないと、はっきりとアテネから十分な言質を耳にしたので追求はしないアポロン。

 

「ヘスティアもいいわね?貴女の味方になってくれる神と眷族が一緒に戦ってくれるのだからこれ以上のない心強さだと思うのだけれど」

 

「本当に、大丈夫なのかい?異世界の催しは信憑性ないんだけど」

 

「信じてくれるならそれに応えるわよ。―――アポロンもいいわね?ヘスティアと対等の状況になるから問題は無いはず」

 

「・・・・・私の味方になってくれる神と眷族とともにヘスティアとその味方の神と眷族を真正面から倒せるのだな?」

 

そうよ、と肯定するアテネにしばし思考の海に潜って利点(メリット)欠点(デメリット)を考慮して、それから運動会を提案したアテネへ目を向ける。

 

「いいだろう。今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)は運動会として認める」

 

「アポロンが認めるなら、ボクも認めないといけないね」

 

両者が認めたこの瞬間、運動会をやることに決定した。

 

「それじゃ、やる場所はオラリオの外でいいわね?広い場所と言えば外しかないもの。運動会の下準備は私達に任せて、ヘスティアとアポロンは味方になってくれる神を探してちょうだい。零細派閥だろうが最大派閥だろうが問わないから。神も含めて参加人数は百人。でも、第一級冒険者の参加は認めない。Lv.3の第二級冒険者までの参加。構わない?」

 

「・・・・・よかろう」

 

小さく舌打ちをするアポロン。最大派閥も参加が認められるならばロキやフレイヤを味方に引き込んで戦に備えようとしたが、アテネはそこまで見抜いていたのかもしれない。

 

「なら、これで決定。皆、楽しみましょうね」

 

『『『『『はーいっ!』』』』』

 

アテネの提案は通り、異例の神と人類の混合戦争遊戯(ウォーゲーム)をすることとなった。

 

「それじゃ、一週間後までにヘスティアとアポロンの味方になる神は誘いを待つか自分を売り込むか好きにしてちょうだい。眷族全員参加というわけでもないから二人と話し合って参加してね。参加を認められた派閥は、参加の申し込みを羊皮紙に記入し、私のホームの前にある二人の味方になる表示として赤と白の箱を用意するからそこに入れて」

 

おおーっ!と盛り上がる神会(デナトゥス)はこうして幕を閉じたのだった。

ぞろぞろと神々が広間を出ていく中、アポロンは去り際にヘスティアに向かって「可愛い兎は私のものだ」と捨て台詞を残した。「ふざけるなぁっ!」と言い返すことしかできないヘスティアは、彼が姿を消した後、ふぅと息を吐いた。彼女の他にこの場に残ったのは、彼女の味方である神だけだ。

 

「いやー、まさかアテネがあんな提案を言うなんて。しかも異世界の催しは実に興味深いよ」

 

「私が書いた羊皮紙をヘルメスの手が掴んでくれたから通った話よ」

 

近寄って話しかけてくるヘルメスにアテネは苦笑を浮かべた。

 

「アテネ、異世界の催しはあの子から聞いたことだよな?」

 

「じゃなきゃ、あんなこと言わないわよ」

 

「我々もヘスティアの味方に成り易い状況を作ったそなたに感嘆した」

 

「そうね。流石はアテネだわ」

 

周囲からも称賛の言葉を送られ、ヘスティアに振り返る。

 

「アテネ、俺はお前の味方に成る。いいな?」

 

「私も出来る限りの助力をしよう」

 

「タケ・・・・・ミアハ・・・・・」

 

「自分の意思で決めて良いなら、腐れ縁のあんたの味方に成るわ」

 

「ヘファイストス・・・・・」

 

「勿論、俺も心友(マブダチ)の味方に成るよ!」

 

タケミカヅチ、ミアハ、ヘファイストス、そしてヘルメスがヘスティアの味方となった。ヘスティアはジーンと感動で瞳を潤わせる。アテネは彼女の味方にはなれないが自分のできる事をして陰から応援、支えようと考えていたところで苦笑を浮かべるヘルメスが話しかけてきた。

 

「残念だけどアスフィは参加できないなー。アテネ、どうしてLv.4までにしなかったんだい?」

 

「色々と理由はあるけれどアポロンの眷族の最高Lv.は3だからよ。対してヘスティアの眷族は二人とも2。力の均衡を考え、オラリオにいる全ての神々の眷族達で最も多いのは第二級以下の子供達。なら、最も公平的かつお互い平等な戦いができる環境を作るにはLv.4じゃなくてLv.3の方がいいの」

 

アテネの考えにヘスティア達は驚いたように目を丸くする。

 

「・・・・・よくそこまで考えつくものだな」

 

「本当ね。私でも直ぐに考えられないわよ」

 

感心する、と一言である。

 

「私のことよりもヘスティア。貴女はさっさと他の神に協力要請をしてきなさい。アポロンは第一級冒険者の子供達を味方に引き込もうと考えをしていただろうけど、それができなくてもロキやフレイヤ、最大派閥の神に協力を求めるはずだから」

 

「うっ・・・・・こっちには最大派閥のヘファイストスがいるからいいと思うんだけど」

 

「ダ・メ。貴女、この戦いは数と子供達の実力の質が勝利のカギとなるのだから、嫌いな神でもいけ好かない神でも関わりのない神でも頭を下げて力を借りなさい。特にガネーシャはヘファイストスと同じぐらい必要不可欠!」

 

渋るロリ女神に一喝の気持ちで催促し、小振りな臀部に蹴りを入れてヘスティアを促した。

 

「・・・・・アテネにしてはちょっと乱暴じゃない?」

 

「気の知れた神と一緒なら問題は無いなんて甘い考えをしているのよヘスティアは。アポロンの方が手強いんだからヘスティアももう少し危険を抱いて欲しいものだわ」

 

まったく、と嘆息するアテネをミアハは質問した。運動会に参加できないのであれば何をするのかと疑問を抱いて。

 

「で、アテネはこれからどうするつもりなのだ?」

 

「どうするもなにも、これから雑務をすることになるわ。イッセー達にも忙しい思いをするだろうから」

 

「女神でも参加できる運動会って実際どんな感じなの?」

 

「それは当日になってからのお楽しみよ」

 

ヘファイストスの質問に敢えて教えないアテネ。それからその日、戦争遊戯(ウォーゲーム)は運動会に決まったと報告をすれば、「なんだそれっ!?」とドラゴンが血生臭い戦いとは無縁な結果に驚いたのは別の話である。

 

―――○●○―――

 

「・・・・・鍛える意味、全然ない」

 

「えーと、運動会ってどんなことをするのですか?」

 

「武器を持たず、身体能力を主に依存した勝負する催しだ。戦いっちゃあ戦いだけど、ベルとリリが想像していたのと全然違う」

 

翌朝。特訓をする時間帯なのだが、戦争遊戯(ウォーゲーム)の内容に何とも言えない心情の一誠にベルがそんな質問をしたのだ。

 

「それって戦いになるのですか?」

 

「戦いってのは色々あるんだよ。しかも、ベルとリリはヘスティアの味方になってくれる【ファミリア】の冒険者達と一緒に戦うことになるから一先ず安心できるだろうよ」

 

「そ、そんなことが可能なのですかっ!?」

 

「運動会ってのはさっきも言ったように身体能力を依存した催しでもあり、集団戦でもあるんだ。アテネが指定した参加人数は百人。百人まで【ヘスティア・ファミリア】の仲間として【アポロン・ファミリア】と運動会で勝負する」

 

凄い・・・・・。ベルとリリは驚きを通り越して歓喜で打ちひしがれる。相手も同じ条件だろうが本来の戦争遊戯(ウォーゲーム)と比べれば破格の優遇。勝てる見込みは格段に上がったはずだ。

 

「それじゃ、イッセーさんも僕達の味方に・・・・・」

 

「いや、無理だな。味方に成りたくても【ファミリア】の結成は許されていない。二つの派閥同士が中心となっている運動会だ。参加資格も派閥に属している冒険者のみ」

 

ベルの淡い期待は現状のアテネ達の状態を知らされて失った。

 

「・・・・・残念ですね」

 

「別に落ち込むことでもないだろう。俺以外にもお前らの味方になってくれる冒険者達が集ってくれるんだ。これほどの心強いことは無い。しっかり勝ちながら楽しめ。運動会は楽しむ為の催しでもあるし」

 

白髪頭を触れ、撫で始める。

 

「ま、とにかくやることは同じだ。勝負に勝て。それだけだ。頑張れよ二人とも」

 

「「はい」」

 

 

 

味方になってくれる神の勧誘活動は順調に進んでいる。殆どは娯楽の為にヘスティアの協力を承認した神が多いが、それでも勝利の為には目を瞑って勢力として加える。

 

「ふぅー。大体人数は集まったけど、中堅の派閥は皆アポロンの味方になっちゃってるなぁー」

 

既に味方としているアポロン側の派閥に行ってみればニヤニヤと笑みを浮かべて意地の悪いお断りを何度も受けたヘスティアだったが、めげずに東西南北と駆け回っている。その最中、一般人から応援されることもしばしば。

 

「アテネがくれたこの好奇(チャンス)を逃すものかっ」

 

休憩と裏路地に置かれている木箱に下ろしていた腰を上げて立ち上がっては、よーし、やるぞぉー!と気合の入った一声を放つ。

 

「ベル君の為に頑張るぞボクはーっ!」

 

勧誘の意欲を増して、大通りに突撃しようと足をそこへ向けて動かした途端、顔や小柄な身体に不相応な双丘が硬い物とぶつかって尻餅をついた。

 

「いたた・・・・・なんだよぉ・・・・・」

 

壁なんてあったっけ、とぶつかった何かを確認しようと蒼の双眸の視線を上に向けた途端に、巌のような巨躯が二Mもある男性、獣人がヘスティアの行く道を阻むかのように佇んでいた。

錆色の双眸が女神を捉えるその様子に威圧感すら感じる。「まさか、アポロンの差し金かっ」と非力な女神の警戒にソプラノの声が獣人の背後から聞こえてきた。

 

「こんなところにいたのヘスティア」

 

「―――っ?」

 

長い紺のローブを全身に覆っている女性が現れたが、彼女から発するものと覗けるその美貌に蒼い瞳を丸くする。

 

「随分と探したわ。そのおかげで足が疲れちゃった」

 

「フ、フレイヤ?ボクを探しにって・・・・・」

 

「勿論。アテネが決めた異世界の催しに参加する為よ?貴女の味方に成ろうと声を掛けようと思ってね」

 

フレイヤがヘスティアの味方に成る。零細派閥にフレイヤのような美の女神が自ら探し回るほど協力を臨んでいることに度肝を抜かされた。最初は何の冗談かと思ったが、フレイヤに限ってそんなことをするような女神ではないと冷静に考え、問うた。

 

「アポロンの味方に成らなくてもいいのかい?実際、アポロンの方が勝ちそうな感じだけど」

 

「血生臭い戦いじゃないなら、ロキと対立するのは面白いかしらと思ったのよ」

 

「―――ロキの奴、アポロンに協力したのかっ!」

 

いや、あんな無乳の助けなんて要らないけどさっ!と心の中で否定する。しかし、フレイヤの話が本当であれば、ますます戦力の差が広がる一方だ。それに負けない戦力を、ヘスティアは向こうから現れた最大派閥の片割れの協力を受け入れることに決めた。

 

「・・・・・分かった。フレイヤの力を貸してくれ」

 

「話の早くて助かるわ。やっぱり、ヘスティアのそういうところ私は好きよ」

 

男神や人類、モンスターですら魅了してしまいそうな美しい微笑みがヘスティアに向けられる。付き人であろうフレイヤの眷族から羊皮紙を受け取り、確認すると【フレイヤ・ファミリア】が【ヘスティア・ファミリア】の味方になるという神血(イコル)で書かれている神聖文字(ヒエログリフ)が刻まれていた。

 

「聞くのは野暮だけど、君のところの子供達にLv.3はどれぐらいいるのかい?」

 

「大体二十人はいるわ。貴女の力となるよう、言っておくから安心してちょうだい?」

 

「ああ、分かった。フレイヤ、助かったよ」

 

深々とツインテールの黒頭髪を垂らして、フレイヤの横を通り過ぎて大通りへと出た。

 

「・・・・・よろしかったので?」

 

「あら、私が戦争遊戯(ウォーゲーム)という茶番を交ざることかしらオッタル?」

 

錆色の視線をフレイヤに向けず真っ直ぐ路地裏の向こうまで見つめながら問うたオッタルに、口元を緩ます美の女神。そう己の主神から返されたオッタルも無言で肯定だと示した。

 

「ただのきまぐれよ」

 

「・・・・・」

 

返ってきたのは気まぐれの一言。オッタルは横目で主神を見るが何も言わず、「戻るわ」と告げるフレイヤの護衛として付き沿う。

 

 

 

「ふははははははははははっ、邪魔するぞぉおおおおおおおおおおおおおおぉー!!」

 

西のメインストリートの路地裏にある建物が存在する。鼓膜に響く呵々大笑とともに、建物の扉が蹴り破られた。

 

「何をしに来た・・・・・!」

 

「今月分の借金を取り立てに来てやった―――と言いたいところだが、用件は他だ。ミアハ、お前は戦争遊戯(ウォーゲーム)に参加するつもりであろう?儂もアポロン側と参加することを決めたのだ!」

 

その時点で初老の男神、ディアンケヒトの言いたいことを察したミアハ。

 

「私達を倒して優越感を浸りたいのか」

 

「阿呆め。その程度で儂が喜ぶと思うか?―――この遊戯(ゲーム)に乗じて儂とお前も決闘をしようではないか!」

 

「―――っ!?」

 

「敗者は当然勝者の言うことを全て受け入れる!全てだぞぉ?」

 

ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる目の前の男神にナァーザは軽蔑の眼差しを向ける。

 

「儂が勝てばこのオンボロなホームを貰い売り飛ばしてやる!覚悟しておけよ!?」

 

唾を吐き散らしながら、ディアンケヒトは豪快に笑った。

 

「ふははははははっ!!帰るぞ、アミッド!」

 

「はい」

 

扉の前でずっと立っていたのか、ディアンケヒトの背後に控えていた女性団員が動く。

 

「おのれ、ディアンめ・・・・・っ!」

 

「・・・・・絶対に勝ちましょう」

 

「ああ、我々のホームを守り、見返してやるのだ」

 

ヘスティアの知らないところでもう一つの戦争遊戯(ウォーゲーム)が成立した瞬間をミアハとナァーザは噛み締めた。

 

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