オラリオで自由気ままに過ごすのはダメだろうか(一時完結)   作:ダーク・シリウス

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冒険譚40

ヘスティアとアポロンの味方となる派閥の参加名簿を整理するようになって三日目。

 

「意外ね。フレイヤがヘスティアの味方に成るなんて」

 

「どうせきまぐれだろう」

 

一誠とアテネが中心として雑務をこなしていく内に知ることが多くなる。アポロン側として参加する派閥の多くは中堅の【ファミリア】が占めているに対し、ヘスティア側として参加する派閥の多くは極端なほど最大派閥と零細派閥が参加を希望している。

 

「【フレイヤ・ファミリア】に【ヘファイストス・ファミリア】、【ガネーシャ・ファミリア】がヘスティアチームの中で唯一三大最大派閥として参加してるな。それ以外は殆ど零細派閥だ。中堅の【ファミリア】もぼちぼちと感じで混ざっているが、【ファミリア】の規模だけを見れば、戦力として極端すぎるのも問題だな」

 

「でも、Lv.3以下の冒険者のみの参加だからそうでもないんじゃない?」

 

「どっちも平等の戦力・・・・・か。後残るのは勝利に対する意欲と執念だな」

 

出来れば俺も参加したかったなー、と胸中で呟く一誠は共通語(コイネー)で別の紙で参加者の名前と派閥を記入していく。

 

「ヘスティアには勝ってほしいところだが、勝負が始まればどっちが勝ってもおかしくないんだよなぁ」

 

「運動会で行う競技の内容次第で有利になるけれどね」

 

「勝負事に手を抜くようなことも贔屓をするようなことも俺は絶対にしない」

 

【ヘルメス・ファミリア】製の道具(アイテム)、羽付きのペンを置いて今まで記していた紙を束ね始める。

 

「よし、参加者名簿の作成は終わった。人数分を作るにはあのトレーニングルームでするしかないが十分間に合う」

 

「こっちもそろそろ終るわ」

 

ともに雑務に追われる二人を、茶菓子をお盆に乗せて運んでくる春姫が「お疲れ様です」と一声を掛けながら邪魔にならないよう振る舞った。

 

「ありがとう」

 

「私にできる事と言えばこれぐらいですので・・・・・。あの、どうですか?」

 

雑務の進み具合は、と言外する春姫に茶を口に含んだ一誠から状況を説明した。

 

「大体は終わったよ。後は複製をするだけで、それが終われば運動会の会場準備の手伝いだ。(リヴィラ)の冒険者の連中に依頼して会場の建設をして貰っているしな」

 

「異世界の催し、私は知らないので楽しみです」とはにかむ春姫を意地の悪い笑みを浮かべる一誠。

 

「運動が苦手な奴だと、恥ずかしさと苦しさしか感じられない催しだから絶対に嫌がるがな」

 

「そうなのですか?」

 

以外だと返す春姫に肯定する。

 

「ああ。まっ、そんな運動が苦手な奴はこのオラリオにはいないだろうがな」

 

Lv.3、第二級以下の冒険者達が主に活躍するのだ。運動音痴な冒険者は皆無に等しい筈。

種目次第で下級冒険者も活躍する運動会だ。参加できない一誠達は楽しく見させてもらうことになるが。

 

「冒険者なら・・・・・苦労をすると喜ぶよなぁ?」

 

運動会を主催する者ができる特権と権利は一誠であることを参加する神や眷属達は、一誠の考えていることを知る由もない。

 

すると―――ゆとりの時間を満喫していた時、ゴォオオオオオオンッ、と鐘の音が鳴りだした。それは外にある黄金の大鐘楼(グランドベル)が誰かの手によって鳴らされた事実でもあった。徐に怪訝な心情となり春姫に問うた。

 

「・・・・・?春姫、ウィル達はどうしてる?」

 

「は、はい。お部屋でカルラ様はお酒を飲んでいらして、ウィル様とレリィー様は歌の練習を、ヘスティア様は出かけていらっしゃいますし、ベル様とリリ様は特訓をしておられます。ハーデス様は見掛けませんでした。申し訳ございません」

 

それぞれ自由に満喫している報告を聞き、一誠は『来訪者』を出迎えることにした。自分達を呼びだす鐘として利用した者達の来訪した理由を知る為に。アテネを残して春姫と一緒に玄関の門へ赴く。

 

「誰でしょうか?」

 

「ここまで来れる奴は簡単に絞れられる。全く、こっちは忙しいっていうのに何をしに来たんだか・・・・・」

 

誰であろうと文句の一つを言おうかと思った一誠と歩く春姫の二人の目の前に壮大で装飾と意匠が凝った扉に出迎えられ、その扉を片方だけ開け放ち外へ出た途端。

 

「・・・・・こんにちは」

 

金髪金眼の少女を筆頭に【ロキ・ファミリア】の幹部達が―――。

 

バタンッ。

 

「・・・・・あの」

 

「会うだけ時間の無駄だ」

 

扉を閉めて背を向ける一誠に当惑する春姫。ドンドンと扉を叩く音や『閉めないでー!?』『ちょっと、それは失礼でしょう!』と声が聞こえてくる。

 

「せ、せめて・・・・・お話だけでも」

 

「一人二人だけならともかく、【ロキ・ファミリア】としてきたんなら会う必要もない。散々迷惑掛けてきたんだからな」

 

扉から離れる一誠と扉の向こうにいるアイズ達を、おろおろと交互に忙しなく動かした後、扉の方へ申し訳なそうに見つめ一誠の背中を追う春姫。

 

 

「イッセー!開けてよぉーっ!」

 

扉を叩くティオナの言葉は空しくも聞き受けてもらえず、アイズ達を冷たく拒む扉が立ちはだかる。

来訪者達は当惑して立ち往生することになってしまった。

 

「・・・・・物凄く警戒しておるのかもな」

 

「我々を見た瞬間に扉を閉めたほどだからな。三度も我々は彼の秘密をバラしてしまったからな・・・・・」

 

「仕舞には嫌な顔を浮かべてたね彼は」

 

「でも団長。顔すらみたくないって感じに閉められちゃ堪ったものではありませんよ」

 

「けっ、会いたくねぇんなら仕方がねーだろうが」

 

約一名、拒絶されてその場で膝を抱え、頭を垂らす落ち込んだ少女を山吹色のエルフの少女が必死に慰めている様子を視界に入れながら言葉を発するフィン達。

 

「しょうがない・・・・・日を改めて来よう」

 

「団長、それでも顔を出してくれなかったらどうするんですか?」

 

「遠回しに、イッセーや神アテネと交流を持っている神やその眷属に頼むしかないよ」

 

「それでも駄目だったらどうしようもない」と付け加える首領(フィン)はリヴェリア達を引き連れて元【アテネ・ファミリア】のホームから離れる気持ちを抱く。

 

「ううう・・・・・イッセーェ・・・・・」

 

「・・・・・」

 

ティオナとアイズは落ち込みながらホームへと帰宅する。

 

 

「イッセー、誰だったの?」

 

「【ロキ・ファミリア】だった」

 

「・・・・・そう、どうでもいいわね。しばらく会わないでいましょう」

 

「同感だ。こっちは忙しいんだからな。会う暇もない」

 

最もなことを言う二人だが、【ロキ・ファミリア】との溝が何気に作っていることを春姫は何となく察した。

 

異例の戦争遊戯(ウォーゲーム)開始まで残り四日。

 

―――○●○―――

 

遊戯(ゲーム)が始まる二日前。『迷宮都市』オラリオの外では賑やかに会場作りが進んでいた。主に地上の規則(ルール)を嫌い、好き勝手に商売を経営するならず者の冒険者達が主に昼夜問わず、不眠不休で精を出して依頼人の要望通りの作業を続けた。

 

「てめぇーら!さっさと完成させなきゃ依頼人から膨大な報酬がもらえねぇーぞ!今日中に仕上げるんだぁっ!」

 

報酬金額一億二〇〇〇万ヴァリス。

 

(リヴィラ)のならず者達は目がヴァリスになるほど依頼人からの冒険者依頼(クエスト)の報酬金額に魅力、興奮して我先と引き受けた結果。閑古鳥になるぐらい(リヴィラ)から冒険者がいなくなり、資材や物資などダンジョンの中で調達し、今日までに巨大な会場を作り続けているのだった。

同じならず者に声を荒げている冒険者+ならず者の風格が似合う黒い眼帯を付けている筋骨隆々の男もまた報酬に目がくらみ依頼を引き受けた冒険者だ。会場作りの進み具合は七割まで至っている。

 

オラリオの外の広大な土地を利用して巨大な観客席、選手入場の為のアーチ等指示されたものを作り上げていく。

 

「ボールスー」

 

この場を仕切っている男性に声を掛ける声が聞こえボールスは振り向く。自分に近づいてくる者に口角を上げて笑って言葉を発した。

 

「おう、イッセー。どうだ、お前の言われた通り作っているぜ」

 

「みたいだな。だが、間に合うか?」

 

「間に合わせてやるって!前払いを貰った以上残りの報酬も貰わないと割り合わねぇからな!」

 

一人少なくても一〇〇万ヴァリスが手に入るならず者達のやる気は凄まじく、会場は形になっているところまで進んでいる。頼んだ一誠も満足できる順調さだ。

 

「ボールスは戦争遊戯(ウォーゲーム)に参加するつもりか?」

 

「金にならねぇことはしたくない主義だ」

 

ならず者らしい返事が返ってきて、適当に相槌を「あっそ」と打てば一誠を横目で視界に入れながら興味深そうに言う。

 

「しっかし、お前がモンスターだとはな。見た目はまんまヒューマンなのによ」

 

「見た目で判断するなよ?というか、図太い神経だな。俺と普通に会話をするなんてよ」

 

「金をくれる奴ならモンスターだって大歓迎だからなっ!」

 

ガハハハッ!と豪快な笑いで一誠の肩を叩く。たまに、人の気持ちが分からなくなると心中呟く少年を露知らず、ボールスは己の仕事に戻る。

 

「あっちの方は大丈夫みたいだな。後はこっち(おれたち)の方か」

 

一誠もオラリオへ戻ろうと踵返し翼を生やして、最後の仕上げが待っているとオラリオで二番目に高い建造物へと空を切るように向かいながら飛んで行く。

 

「運動会が終われば、旅にでも出てみるかな」

 

そう口にした一誠は―――突如。見えない何かに引っ張られる。「お?」と不思議に思いながらも無抵抗のまま引っ張られ続けるととある建物の前に連行された。そこは何なのかすぐに理解し、

 

「姿を隠して俺を連れてくるなんてどういうことだ?」

 

虚空からいきなり姿を現す空色(アクアブルー)の髪に碧眼の女性に向かって発した。頭に被っていたらしき兜を手に持ちながらアスフィは謝罪の念を籠めて一度頭を下げた。

 

「申し訳ございません。貴方を連れて来てほしいと頼まれまして。そちらに窺いに行こうと思っていたところ丁度空を飛ぶ貴方を確認した次第にここまで連れてきました」

 

「誰に頼まれたんだ?」

 

「それは・・・・・」

 

彼女の碧眼は一誠の背後へ向けられる。アスフィの視線の先を辿り、振り返れば。

 

「【剣姫】です」

 

「「「「「・・・・・」」」」」

 

アイズが頼んだとアスフィは言う。そしてアイズだけではなく、リヴェリアやティオナ、ティオネ、レフィーヤもいて一誠を見続ける。

 

「・・・・・帰るわ」

 

嫌そうな顔をして、そう言った矢先にアスフィを始め、アイズやティオナがそうはさせまいと身体に抱きつき、腕を掴んだ。

 

「待ってよ!どうしてあたし達と会ってくれないの!?会いたがらないの!?」

 

「俺は忙しいんだよ。戦争遊戯(ウォーゲーム)の主催者として色々とやることあるんだ。お前らに構ってられるか。というか、アスフィ計ったな!?」

 

「いえ、計ったわけではないですが話しぐらいは聞いてもいいじゃないですか」

 

身体に抱きついて動きを止めるアスフィの言葉に「そうだよ!」とティオナが同意する。

 

「ふざけんなっ。こっちは三度も秘密をバラされたんだぞ。もう【ロキ・ファミリア】に信頼や信用とかできないんだよっ」

 

「わ、私達は謝りたいんですっ。ですから、私達の話を聞いて―――」

 

「謝ってどうする。もう俺の正体がオラリオに知られた以上、どうすることもできないんだぞ。謝ったぐらいで何かが変わるなら始めからこっちからそうさせている」

 

レフィーヤに怒気が孕んだ瞳で睨む。金色の垂直のスリット状の瞳の睨みに、ビクッと畏怖の念を抱くエルフの少女やアイズ達を見回す。

 

「面倒な事をしてくれたよ【ロキ・ファミリア】が。仲良くなるってのも考えもんだ」

 

「・・・・待ってよ。私達も悪かったと思うけれど、貴方を受け入れない人がいないわけじゃ」

 

聞き捨てに成らない、という風にティオネが一誠に話しかけるものの、首を左右に振られる。

 

「それは俺が人の姿をしているからだ。だから、誰でも俺と接することができるんだ。現に、お前らも人の姿をした俺をモンスターとは知らずに接してきただろう。―――こんな姿で誰かと接すればどうなるか、火を見るより明らかだろうが」

 

頭に角、肌という肌に真紅の鱗が覆われ、腰に尾、背中にドラゴンの翼が生える。異形の姿に成った一誠に抱きついている三人は目を丸くする。

 

「お前らが知っている俺の秘密は俺が経験した事の方だ。お前らは上っ面しか知らない。俺の上っ面で経験してきた人生の裏の部分をお前らは知らない」

 

『・・・・・』

 

「それを知っている奴はただ一人だけいる。そいつと俺は似た境遇で、その時の境遇に抱いた気持ちも一緒だった。アイズ達が知らない俺の闇の部分―――。教えるに値しないよ、今のお前らには」

 

冷たく言い放つ一誠にアイズ達は沈黙する。一誠の闇の部分・・・・・。それはこの場にいる全員も知らない秘密。

 

「イッセー・・・・・【剣姫】達の事は嫌いなのですか?」

 

「・・・・別に。好きでもなければ嫌いでもない。こっちは本当に忙しいんだ。こうして話し合う時間も無い」

 

アスフィの質問にそう返事をして自分は忙しいんだと強調する。

 

「それにティオネ。俺がモンスターだと知って、受け入れてくれるってことは俺と恋仲の関係になってもいいってことだよな?」

 

「・・・・・はっ?」

 

「そんな風に俺は聞こえるんだがどうなんだ。アイズ達も俺とそんな関係を望もうなんて考えたことないだろう」

 

実際、アテネ達以外で三人―――いや、二人だけいるがな。と心中で小柄な銀髪の少女や金髪のエルフの女性の姿を脳裏に浮かべる。

 

「モンスターと契りを結ぶ。女冒険者がそれを望むと思うか?」

 

「そ、それは・・・・・っ」

 

戸惑うアマゾネスの少女を自嘲で口の端を吊り上げる。

 

「この世界での俺の立場は人型モンスター。ヒューマンでも、亜人(デミ・ヒューマン)でも、獣人でもない。モンスターだ。俺は受け入れてくれるなら軽い方ではなく、深い方で受け入れて欲しい方だ」

 

「お前らには何の期待もしない」と付け加え、半ば強引にアイズやティオナを振り払って宙に浮く。

 

「じゃあな。運動会が終わるまで俺に話しかけてくるな」

 

「イ―――」

 

アイズが口を開く前に一誠は抱きついているアスフィごとホームへと飛び去ってしまった。残された五人の少女と女性はその場でただ佇む。

 

「・・・・・私の所為だろうな。こんな現状になってしまったのも」

 

「リヴェリア様・・・・・」

 

「お前達、こんなことになってしまってすまないな」

 

謝る王族(ハイエルフ)の顔にある決意の表情をしていた。この状況を何時までも続くことは良しとしないと決心したそれだ。

 

 

―――どうして私まで連れてきたのですか?

 

―――ちょっとアスフィにも手伝ってほしいんだ。手伝ってくれたらマッサージをするからさ。

 

―――・・・・・分かりました。私も手伝いましょう。

 

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)開始まで残り一日となったその日。アテネと一誠達は今しがた完成した幟を見て、息を吐いた。白と赤、ヘスティアとアポロンが描かれている。これで敵味方と分かれて運動会を始めようと一誠の、異世界のやり方であり、規則(ルール)

 

「ねぇ、こんな絵でいいの?」

 

「おう。これでいいのだ」

 

当の二人が見た反応を予想しながら肯定する一誠。色塗りに手伝っていた春姫達は絵の出来映えに若干当惑する。

 

「これ、怒るんじゃない?」

 

「うん、塗った私達も今まで気付かなかったしね」

 

「か、可愛らしいと思いますよ?」

 

「この、変な絵がですの?」

 

絵の内容は一言でいえば『変』である。一誠の芸術の才能がないわけではなく、ヘスティアとアポロンの絵が可笑しく書かれているのだった。こんな絵がヘスティアに見せたらどうなるか、想像し難くない。

 

「まぁ、イッセーが楽しむ為でしょうし、私達が別に気にするようなことでもないわね」

 

「うんうん」とレリィーの言葉に同意する春姫達だった。

 

「ところでぇ、運動会でどうやって勝つのか聞いてないのだけれどぉ~?」

 

「様々な競技で勝つごとに点数が追加されるんだ。だから一番点数の高いチームの勝利となる」

 

「なるほどねぇ~。それで、どれだけさせるつもりなのぉ

~?」

 

甘ったるい言葉とともに腕を胸に抱き締めるハーデス。それを見たアテネも己の胸でもう片方の腕を抱き抱える。その状態で一誠は答える。柔らかいなー、と感じつつ。

 

「午前と午後に分けて十種目はやる予定だ。内容は俺の頭の中で考えている」

 

トントンと自分の頭に指を突く一誠とガチャリと扉が開く音が重なった。

 

「おーい、ドラゴンくーん」

 

「見させるかぁーっ!」

 

「ぐあああああっ!?」

 

一誠の渾身のぶちかましがヘスティアに炸裂する。腕での体当たりを鎖骨に決められた幼女神は両目をかっ開き、愕然と開いた口が塞がらないベルとリリの目の前でぶちのめされた。壁と激突してそのままぐったりと人形のように動かなくなった女神に腕を組んで見下ろす一誠が口を開く。

 

「おいこら。扉を叩くなりノックをするなりして、入室の許可を得てからどうなんだ」

 

「いえ、イッセー様。どっちも同じなんですが・・・・・」

 

「神様っ!?神様ぁーっ!?」

 

「アハハ、カワイイウサギガタクサンイルヨー」とベルが心配するほど何かが吹っ飛んだヘスティアだった。

 

「で、なんだ?ヘスティア。寝てないで用件を言え」

 

「「貴方は鬼ですかっ!?」」

 

扉を閉めて、中を見させないと意志表示する一誠が二人に突っ込まれる。自分達の主神をぶちかました張本人が何を言っているんだと思いながらも、仕方なしにとヘスティアの代わりに用件を述べた。

 

「勝負の内容を知りたいんですが・・・・・」

 

あー、そういうことか。と内心納得し、

 

「うん、ダメだな。教えられない」

 

「あっさり拒否しないでくださいよ・・・・・」

 

「今回の主催者は俺達だから当然だろう。情報収集は悪くないが、今回はどっちも味方にも贔屓もするつもりは無い【ヘスティア・ファミリア】と【アポロン・ファミリア】の決闘なんだ。真っ向から勝て」

 

お互いフェアな戦いにする為に敢えて教えないと言外する一誠。そう言われてしまえば無理強いに聞くことはできなくなる。

 

「それより、特訓は終わったのか?」

 

「え、ええ・・・・・本当、あの場所で過ごすと体感時間が狂いますね」

 

「そういうところだ。しょうがない」

 

リリの気持ちを察してヘスティアをベルの背中に背負わせたところで鐘の音がホームの中まで鳴り響いた。

「またか」と億劫そうにぼやく一誠だが、気を探知すれば珍しい人物の気を感じたのだった。

 

「・・・・・しょうがないな」

 

キョトンとするベル達を他所に玄関へ赴く。一誠は真っ直ぐ歩き、玄関の扉に近づき開いて表に出れば二人の男神と二人の女性が六つの双眸を向けてくる。

 

「やぁ、忙しいところ悪いねイッセー君」

 

朗らかに羽付きの鍔広帽子帽子を被っている旅装の橙黄色の髪と瞳の男神が挨拶の言葉を投げた。その隣に佇む美女も無言でお辞儀をする。そんな二人に視線を送り、もう一組の男神と美女にも目を配った。

 

「ヘルメス、アスフィ・・・・・は、ともかく・・・・・」

 

長身でしなやかな体格。群青色の長髪で、どこか貴公子然とした印象の上に、身に付けているくたびれた灰色のローブによって美しい容姿を引き立たせている男神ミアハ。半袖の上着にロングスカートから伸びるふさふさの犬の尻尾、眠たそうな表情は相も変わらずと、犬人(シアンスロープ)のナァーザを見るや否や気まずいと雰囲気を醸し出す。

 

「どうしてミアハとナァーザがいるんだ?」

 

「んー、それは俺よりミアハから直接聞いた方が早いかな」

 

ヘルメスからミアハへ話が振られる。必然的に一誠の意識はミアハへ移ることに。

 

「アテネに用か?」

 

「うむ。いや、君でも話が通じるだろうから教えておこうと思ってな」

 

何を、とミアハの言葉を待つ一誠の耳に貴公子然とした男神から少なからず衝撃を受ける発言が発せられた。

 

「ヘスティアとアポロンの戦争遊戯(ウォーゲーム)に乗じて我々【ミアハ・ファミリア】と【ディアンケヒト・ファミリア】と戦争遊戯(ウォーゲーム)をすることになってしまったのだ」

 

「・・・・・」

 

本気(マジ)かよ、と呟く。知らないところでまた一組派閥同士の遊戯(ゲーム)が勃発したのだとたった一人しかいない団員の派閥を心配に成った。

 

「やる内容は、運動会で間違いないのか?」

 

「ディアンはそこのところ何も言ってはいない。きっとそうだと思う」

 

「ンー、そうか・・・・・。まあ、どちらにしろヘスティアが勝てば問題ない話だが一応、明日には公言させてもらうぞ」

 

「構わない」とミアハから了承を得たところで四人に別れを告げ、ホームの中へ戻ろうとした。

 

「・・・・・イッセー」

 

ここで初めて、ナァーザから話しかけられる。首だけ後ろへ振り向き、尻目でナァーザを見る。

 

「・・・・・イッセーは、モンスター・・・・・なんだね」

 

「・・・・・ああ」

 

一度聞いた彼女の心傷(トラウマ)。一誠はモンスター。だからナァーザがその拭いきれない恐怖の対象でもある自分(いっせい)に怖がられているのだと悟る中、肯定と頷く。

 

「人の姿をしてられるのはどうしてなの・・・・・?」

 

「これが、異世界の力の強いドラゴンができることだからさ。モンスターとしての角や鱗、牙、爪、尾も自由に隠すこともできるんだ。この世界の人類と神ですら、俺の正体を気付くことは無かった。だから、敢えて騒ぎを起こさない為に黙っていたんだ。この世界の概念を知って以来な」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・じゃ」

 

黙って話を聞くナァーザから離れようと足を前へ動かした。モンスターに恐怖するならば目の前にいない方がいいと判断をして―――。

 

「―――――」

 

背中に軽い衝撃が生じる。

 

「・・・・・」

 

腹部に回される健康的で細い腕を見下ろし、背中から感じる温もり。どうしてだ?と疑問が浮かび振り返らず問うた。

 

「・・・・・モンスターだぞ」

 

「・・・・・うん」

 

「この世界にとって、俺は人類の敵だぞ」

 

「・・・・・分かってる」

 

なら、なんでだ。と言いたい一誠の気持ちを読んだのか、それとも察したのか、ナァーザは少年の背中に顔を埋めながら言った。

 

「最初は驚いた・・・・・怖かった。モンスターと一緒に接していたんだって思ったら震えが止まらなかった」

 

「・・・・・当然の反応と気持ちだな」

 

「でも、モンスターは・・・・・あんな温かい笑みとか、私の右腕を元通りにはしてくれないよ」

 

腹部を絡める両腕は、以前まで冷たい金属の義手だった事を一誠は思い返す。自分ができる事をただしただけだ。それは今でも変わらない思いと気持ち。

 

「それから、ね。イッセーが異世界から来たことを・・・・・ムカつくけど、【ディアンケヒト・ファミリア】の治療師(ヒーラー)から改めて聞いたよ」

 

「っ・・・・・!?」

 

その言葉を聞いて反射的にナァーザへ振り返った。―――アミッドがナァーザに秘密を教えていたとは信じられなかった。有り得なかった。アミッドが誰かに自分の秘密を明かすなど、思いもしなかったからだ。

 

「イッセーは元々人間だったこと、ドラゴンがイッセーを甦らす為にドラゴンにしたこと・・・・・」

 

元人間、という単語にそれは知らないと目を張るヘルメス達。ナァーザにそこまで教えたのかと、アミッドに対して深い溜息を胸中で漏らす一誠を知らないアスフィは「本当なのですか」と問うた。

 

「・・・・・ああ、そうだよ。この髪とこの目も、ドラゴンとして甦った時になったんだ。この眼帯は戦いの際に負傷した―――まあ、事情があってしているんだがな」

 

眼帯に触れながら肯定した一誠。その経緯まで教えてもらえなかったが、それでも驚く事実だった。

 

「驚いた・・・・・イッセー君が子供の皮を被ったモンスターだと知っていたけど、元々人間だったなんて・・・・・」

 

「・・・・・異世界で君はどんな人生を送っていたのか、我々では到底計り知れないほど過酷だったのやもしれんな」

 

二柱の神が絶句する。その様子に、ナァーザへ振り返った一誠の顔を抱きついている女性が眠たげな顔で覗きこんでくる。

 

「もしかして、今の会話も秘密だった・・・・・?」

 

「ん、その通りだ。というか、異世界にいた俺に関する事は全部秘密そのものなんだがな。なぁー、ヘルメス」

 

「うっ・・・・・」

 

仕方なしにバラしてしまったヘルメスが一誠からの視線を逃れようと明後日の方へ顔を向ける始末。

 

「他に・・・・・」

 

「まだ何かアミッドは言ったのか」

 

「うん、物凄くムカつくことを言った」

 

ナァーザがアミッドから見聞した言動を一誠に伝えた。

 

―――私は、イッセーがモンスターであろうと心から愛を捧げることを躊躇もしません。

 

「・・・・・」

 

そんな事を言ったのか・・・・・。一誠はその時のアミッドに今でも気持ちは変わっていないのだな、とナァーザを見ながら驚嘆するのであった。

 

「だから・・・・・ムカついた。あそこまで真っ直ぐイッセーのことが好きなのだと言えるあの女に」

 

―――私もイッセーの事を好きなのに。

 

一誠を慕う女として宣戦布告されては黙っていられない。今回の訪問はナァーザの気持ちが大きい。ミアハは報告と団員の気持ちを汲んでヘルメスに協力を願ったことを一誠は知らない。

 

「アミッドには負けたくないからか?」

 

「それもある。今日、私がここに来たのは・・・・・」

 

瞳を覗き込む仕草をするナァーザの唇は「私のことで心配させた。謝りたかった」と動かした。

 

「ごめん、ね」

 

それだけを言いたかったと頭を下げた。謝罪するそんな彼女に気持ちを知り、やんわりと頭を上げさせる。そして言った。正体のことを黙っていたことを、そして心傷(トラウマ)を抱えながらも受け入れてくれたこと。謝罪と感謝の言葉をナァーザの顔を見つめながら言った。また一人、正体を知って尚、慕ってくれる異性が増えたことに嬉しく感じる。

 

「・・・・・怖くないからね」

 

見つめているとナァーザが笑みを浮かべた。

 

 

「ほほーう。ミアハの子供はイッセー君に夢中なのかぁー。ミアハ?今の心境を感想してくれよ」

 

「私は応援するだけだ。ナァーザが心からあの子の事を好きでいるなら、主神として見守る義務がある」

 

「じゃあ、彼女がイッセー君の傍にいたいと言ったら、ミアハはどうするんだい?」

 

「状況次第では、応援するつもりだ。今はもう少しだけ待っていてほしい」

 

質問されるミアハの答えに「そっか」と相槌するヘルメスにも質問される。

 

「そなたの眷族にもアテネの子供に好意を抱く者がいればどうする?」

 

「そりゃ、神として応援はするよ。下界の子供は神にとって宝みたいなものだからね。大切にしてくれるなら俺は構わない」

 

二柱の神の会話は何時しか抱き絞め合う一誠とナァーザを見ながら言葉を交わす。

 

「・・・・・」

 

不意にアスフィが一誠とナァーザに近づき一言。

 

「イッセー、またマッサージをお願いします」

 

お気に入りの少年との触れ合う口実を行使したのだった。

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