オラリオで自由気ままに過ごすのはダメだろうか(一時完結)   作:ダーク・シリウス

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冒険譚41

『迷宮都市』オラリオは今日も晴天を迎える。蒼穹の彼方まで広がる青い空は

神や人類、モンスターを見下ろす。そして都市が賑わいを見せている。

街に臨んだ戦争遊戯(ウォーゲーム)当日。オラリオには尋常ではない熱気と興奮が

溜め込まれていた。

 

朝早くから全ての酒場が店を開き、街の至る所で出店が路上に展開している。今日まで通りの壁を彩って来た無数の絵羊皮紙(ポスター)は悪乗りを下神々が散々周囲に喧伝した結果だ。絵の内容は【アポロン・ファミリア】の太陽のエンブレムと、徽章を持っていない

【ヘスティア・ファミリア】の代わりに一匹の兎が描かれている。

 

今日ばかりは殆どの冒険者達が休業し、酒場に詰め寄せ観戦準備を整えている。何とか休暇を申し込んだ労働者達、一般市民も大通りや中央広場(セントラルパーク)に出て、今か今かとその時を来るのを待ちわびていた。

 

『第一回!チキチキ、戦争遊戯(ウォーゲーム)IN運動会を始めるぞぉ~っ!!!』

 

対してオラリオの外では数多くの者達が集っている。皆、観戦・待機場として設けられた巨大な赤と白の階段状の席にヘスティアとアポロンの味方となる派閥が座っていた。そして宣言する一誠は二つの待機場の間に仁王立ちして運動会の進行役の務めを果たしている。

 

『運動会の解説と実況はこの俺、元【アテネ・ファミリア】のイッセーだ!』

 

『同じくアテネよ。よろしく』

 

オラリオでも都市の外でも人々は色めき立つ。

 

『既に観戦者達には俺の魔法でどんな角度からでも映像が見えるよう神々の力で「鏡」展開しています。思う存分楽しんでほしいかな!さて、此度の戦争遊戯(ウォーゲーム)を軽く説明をするぞ』

 

区切りを付けて、説明口調で一誠は語り続ける。

 

『運動会とはこの俺がいた世界―――神々からすれば違う世界、つまり異世界では当然のように行われている集団で競い合う催し(イベント)だ!競い合う方法は至って単純。日々ダンジョンや仕事で鍛えられた体―――身体能力のみ相手と勝負し勝敗を決める訳だが、今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)は今までの戦争遊戯(ウォーゲーム)とは一味も二味も違い過ぎる異例中の異例。それは―――神も戦争遊戯(ウォーゲーム)に参加できることだ!』

 

 

なんせ身体能力で競うのだから、武器やら鎧やらそんな物騒な物を身に付けず面白可笑しく誰でも楽しめる。

 

 

一誠の言葉に神々は大いに沸く。

 

『それでは、勝敗を決める方法を説明しよう。午前と午後とそれぞれ十一の試練―――競技を分けて行う。最終戦の午後までより今まで競技で勝利し得た点数が高い方が勝利となる』

 

勝利の内容を告げる一誠の口は止まらない。

 

『さて、今回の運動会の裏には【ヘスティア・ファミリア】と【アポロン・ファミリア】、二つの派閥同士の決闘が行われるのは説明しなくてもいいよな?そんな女神と男神の味方となる他派閥達の活躍によって勝敗が決まる。因みに【アポロン・ファミリア】の味方に成った派閥は軽くニ十を超えている。大半は最大派閥から中堅派閥・・・・・一方、【ヘスティア・ファミリア】に味方する派閥はガネーシャ、ヘファイトス、フレイヤと始めとする最大派閥から零細派閥と戦力だけを見ればアポロンの方が優位に立っている。しかし、今回はあくまで身体能力。武器や魔法などの行使は一切厳禁。もしも妨害や悪意ある行いもすればその派閥は強制失格、退場とさせ―――【イシュタル・ファミリア】の団長と参加できなかったアマゾネス達と二人っきりにするからそのつもりで』

 

どこからか、ゲゲゲゲッと不気味な声が聞こえてくるのは気のせいだとこの場にいる全員が心中一致した。

 

『と、前置きの話と警告を言ったところで皆に知らせることがもう一つある。【ヘスティア・ファミリア】と【アポロン・ファミリア】の決闘の他にも他の派閥同士がこの戦争遊戯(ウォーゲーム)に乗じて競い合おうとしている。―――【ミアハ・ファミリア】と【ディアンケヒト・ファミリア】だ』

 

はっ?なに?とそれぞれの陣地にいる当の男神に視線を送りだす神々と冒険者達。

 

『別に正式であろうが無かろうが、運動会は行うつもりだ。今こうして対立している神と派閥もこの機に乗じて決闘をしたいんなら自由に申し込め。お互い了承すれば、ヘスティアが勝つか、アポロンが勝つかで決闘の勝敗は必然的にそう決まる。優劣がある実力勝負よりも平等で戦えるこの運動会でなら―――下剋上も夢じゃない』

 

ざわっと会場はどよめきざわめきだす。本当にそんなことが可能なのかと疑いの声も騒然とする場に掻き消されるが、神々は一誠の話を聞いて目が怪しい光を発する。

 

『決まったら羊皮紙に書いて俺のところに持ってくれよ~。運動会の主催者と同時に今回の決闘の審判でもあるから、ある意味今の俺はギルドと同じ権利を有しているんで。決定権は全て俺にある』

 

その一時間後、十を超える羊皮紙が目の前に置かれる光景を目の当たりにする一誠であった。

 

『そんじゃ、ま。早速運動会を始める!皆、準備はいいな?』

 

 

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!

 

 

「頑張るぞ、ベル君っ、サポーター君!」

 

「「はいっ!」」

 

「ヴェルフ、あなたの頑張りで勝敗が決まるそうよ」

 

「あいつらと、ヘファイストス様に恥じないようにします」

 

「こんな形でロキと対立するのは面白味があるわね」

 

「ナァーザ、勝つぞ」

 

「はい・・・・・絶対に勝ちましょう」

 

「お前達、今こそヘスティア達の役立つ時だ。どんな醜態を晒そうが、勝利を目指すぞ」

 

「「「「「「はいっ、タケミカヅチ様!」」」」」」

 

「我が超・優秀な子供達よ!全力でお前達の勇姿を見せ付けてやるのだ!」

 

「さぁーて、イッセー君の異世界の催し・・・・・このヘルメス、楽しませて貰うよ?」

 

 

「負けるのはお前だぞヘスティア。そして、あの可愛い兎を手に入れて見せる」

 

「勝つのはこの儂だぁっ!ミ~ア~ハァ~ッ!」

 

「かぁ~っ!あんのイロボケ女神まで参加しているなんてどんな気まぐれなんやっ!でも、いい機会やで。勝負を吹っかけたるっ。ついでに可能ならアテネもや!」

 

「ディオニュソス様。勝ちましょう」

 

「ああ、こんな面白い催しは後にも先にも今回だけだろう。私も楽しませてもらうつもりだよ」

 

「アテネに決闘を申し込めるのかい?まあ、あの子供に聞けばいいと思うが、何時の間にフリュネと結託していたんだ・・・・・」

 

「ヒヒヒヒッ。こいつは面白そうだなぁ~・・・・・・」

 

 

『―――戦争遊戯(ウォーゲーム)、開始ッ!』

 

―――○●○―――

 

異例の戦争遊戯(ウォーゲーム)はついに始まった。無数のラインが描かれた楕円形に立っている一誠は最初の競技を発表した。

 

『まずは!Lv.1、2、3、神と言う順に徒競走をしてもらう!純粋な脚力で勝敗が全て決まる!足に自信がある神と冒険者達は気軽に参加していいぞ!最初はLv.1の冒険者!参加人数は二十人、神は十人だ!参加する者は元【アテネ・ファミリア】の狐人(ルナール)虎人(ワータイガー)人魚族(マーメイド)のところに並んで待機してくれ』

 

 

「―――よし、ベル君とサポーター君。頑張ってくれ」

 

「あれ、神様も走らないんですか?」

 

「そうですよ。【ファミリア】一丸となる時です」

 

応援をすると徹する姿勢のヘスティアに不思議と首を傾げるベルと最もなことを言うリリ。唯一の眷族達にそう言われ、小柄に相応しい細く短い両足をブラブラと動かしながら苦笑を浮かべる。既に周囲にいる神と眷族達は意気揚々と立ち上がって春姫達のところへと移動を始めていた。その様子を見て苦笑を浮かべるヘスティアだった。

 

「ボクが走ったってもビリになっちゃうよ」

 

男女交じって走るならば、足が短い自分は火を見るより明らかな結果に遠慮するとベル達に言うが。

 

『あっ、言い忘れてた。冒険者と神には男性と女性と分けて走ってもらうんで、女性も気兼ねなく参加してくれ』

 

「「出ましょう」」

 

「ぬぐわぁっ!?」

 

女神同士ならば、一生懸命走ればビリはないと踏んで一誠の話を聞いた積極的な二人は己の主神を連行した。(リヴィラ)から運搬した木材で五Mの高く太い支柱によって待機場となっているヘスティアの陣営から続々と長く大きい階段から降りてくる参加者や席から応援を徹する神や冒険者達と二つに分かれ、

 

「れ、Lv.1の方は私の方へ集まって下さーいっ」

 

「Lv.2の冒険者は私の元へおいでくださいな」

 

「Lv.3の人はこっちに来てー!」

 

「神様はこちらへぇー!男神が最初に走りますので女神様は男神の後ろで好きな順に並んでくださーい」

 

「「「「順番を決めるくじも引いてもらいます、どうかご協力を」」」」

 

春姫達の懸命な働きによってスムーズに事が進み、十分も掛からず競技が始まった。

 

 

「よ、やっぱりベルも走りに来たか」

 

春姫さんにくじを引かされた結果。僕は一番最初に走らされることになってしまった。イッセーさんの世界の催しには興味はあるけれど、武器も魔法も禁止、身体能力だけで勝負するなんて・・・・・。今でも始まっている決闘の一つはただ走るだけでどっちかが勝つだなんて、変わった決闘だ。そう思っていると僕の肩にポンと触れられるのと一緒に聞き慣れた声に振り返ると長身で赤髪の青年、ヴェルフが僕の後ろに立っていた。

 

「ヴェルフッ」

 

「お前なら断トツで一番になるだろうな。緊張せず思いっきり走れ」

 

朗らかに笑みを浮かべるヴェルフ。リリは女の子同士で走ることになっているからここにはいない。

 

「しっかし、アイツの考えていることはさっぱり分からん。走るだけで勝敗が決まるなんてよ」

 

「ははは・・・・・ヴェルフもそう思っていたんだね」

 

僕達冒険者にとって武器や魔法、実力で勝敗を決めるものだと当たり前に思っていた。だけど、イッセーさんはそんな勝負の仕方を、僕達の考えを覆す。異世界の人同士だと考えることも違うんだね。

 

「ヴェルフ、ヘファイストス様は?」

 

「走るそうだ。少しでもヘスティア様に手助けしたいそうでな。できるだけ午前と午後の競技に出る姿勢でいる」

 

「・・・・・今思えば、派閥を超えて僕達の為に協力してくれるなんて夢みたいだよ」

 

見知らぬ神や見知らぬ冒険者達。そんな人達が僕達の為に(運動会を楽しむ神が主だろうけど)派閥という壁を超えて協力をしてくれる。Lv.3までの冒険者達だけど、僕にとってはとても心強い。

 

「ああ、俺も冒険者になってから他派閥の神や冒険者と一緒に戦争遊戯(ウォーゲーム)をすることになるなんて夢にも見なかった。ダンジョンでもないのによ」

 

「うん、そうだね」

 

 

『次はLv.2の冒険者達による徒競走を始めます』

 

あ、アテネ様の声だ。って、もう僕の番!?

 

『と、その前にLv.1の徒競走の結果発表ー!ヘスティア組が5、アポロン組が5と引き分けの状態で走り終えたぞー!次で勝ち越しが多いと優位に立てるから皆、頑張れ!』

 

―――Lv.1の人達が引き分け。となると僕達の走りはLv.1の冒険者達よりも冒険をしているから勝負の行方はもっとわからなくなる。だけど、僕は同じLv.の人達よりも冒険をしているはずだ。

 

・・・・・怖いドラゴン達に追いかけ回されているから。

 

『それじゃ、スタートラインに並んで』

 

地面に描かれている白い線の前に立ち駆ける姿勢に入る。

 

『合図を出す前に飛び出したら仕切り直しだから気を付けて』

 

と、説明を受け合図の声を待つ僕達。僕の他に走ろうとしている三人は丁度種族がバラバラだ。狼人(ウェアウルフ)小人族(パルゥム)虎人(ワータイガー)と足の速そうな人達ばかりだ。

 

『―――位置について』

 

淡々とした声が走る合図の前兆だと悟っては何時でも駈け出す姿勢でいると少しして―――。

 

『よーい・・・・・(パンッ!)』

 

水色(アクアブルー)の髪に眼鏡を掛けた女性が離れた場所に立って何かを空に向かって掲げている様子をちらっと見えた。そして先に走ったLv.1の冒険者達で理解した発砲音は駈け出す合図を聞いた瞬間。

 

 

僕は全力で走った。

 

 

『迅っ!【ヘスティア・ファミリア】の噂の【リトル・ルーキー】が他の冒険者達をあっさり置いて文句無し断トツで一位ぃーっ!因みに走り切った時間は12.4秒!この時間を超えるLv.2の冒険者はいるのだろうか!』

 

その声が聞こえたのは、金髪金眼の少女と褐色肌の少女が持つ白い紐を切った後だった。後ろを振り向けば唖然と目を丸くし、開いた口が塞がらない獣人の人達と目があった。その人達はまだスタートラインの半分も走っていなかった。僕、ここまで速くなっていただなんて・・・・・。

 

「・・・・・速くなったね」

 

「ア、アイズさんっ!?」

 

「すごーいっ。見ない間にもっと速くなっているよアルゴノゥト君!」

 

だけじゃなく、ティオナさんまでも声を掛けてきた!?

 

「ねぇねぇ、どうやったらそんなに速くなったの?」

 

「え、えっと・・・・・イッセーさんに鍛えられて―――」

 

『おい、まだ走っている冒険者がいるんだから私語は禁止だぞ』

 

イッセーさんから注意されティオナさん苦笑いを浮かべつつも目で「頑張れ」と応援してくれたのだった。

 

「・・・・・ずるい」

 

「えっ?」

 

アイズさんから何か聞こえたけれど、アイズさんは首を静かに横を振って何でもないと雰囲気を醸し出す。

僕はそんな彼女を見ながら、数字が書かれている旗に並んでいる人達、一番に成ったL.1の冒険者達の後ろへアマゾネスの人に連れられた。その後、ヴェルフは惜しくも三位と結果で走り終えた。それからリリは―――。

 

「あの修行のおかげで・・・・・リリは一位になりました・・・・・」

 

青い空を見ながら遠い目であの修行を思い出していたのだった。LV.2の冒険者達が走り終えれば次はLv.3の第二級冒険者達の走りだ。

 

「アイズさんが見ている手前、私が負けるなんて絶っっっ対にあってはありませんし兎には負けれませんっ!」

 

山吹色の髪のエルフの少女が物凄い勢いでポニテールを揺らしながらゴールラインまで駆けた。

その光景にエルフとは思えない一条の光を残す速い走りに僕達は目を奪われた。

 

『・・・・・4.1秒って・・・・・レフィーヤ、速すぎるだろう』

 

・・・・・エルフって、あんなに速く走れるんだっけ?

 

―――冒険者達が全員走り終え、いよいよ神様達の走りが始まった。

 

「ディアン、いい歳なのだから激しい運動は大変であろう」

 

「お、おのれっ!ミィ~ア~ハァ~ッ!?」

 

『おーっと!案外早くも決着か!ミアハとディアンケヒトの競争の勝負は、優雅に長髪を靡かせながら貴公子のごとく格好良く一位だぁっ!』

 

キャーッ!とどこからか歓喜の声が聞こえてきた。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおっ!

 

「俺はガネーシャであるぅぅぅっ!」

 

威風堂々と駆けるタケミカヅチ様、走りながら変な姿勢(ポーズ)をしながらどっちも一位になった男神様だった。

 

「ディオニュソスとこんな形で勝負するなんてなぁー」

 

「不思議であるのはこちらとて同じだぞ」

 

本気でもない二人の男神様の走りは僅差でヘルメス様が負けてしまった。

 

「俺が負けるはずもなかろう」

 

一位に成ったアポロン様が腕を組んで胸を張る。その視線は僕の方へ熱く注がれることになり、ブルリと身震いしてしまう。

 

『次はいよいよ女神達の走り!』

 

うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!と何故か男の人達が異様に盛り上がる。

何でだろう?

 

『・・・・・欲望が満ちた変態の声を綺麗に無視して女神達は走ってちょうだい』

 

何故かアテネ様の声が呆れているようにも聞こえたのは気のせいだろうか?と思っていると女神様達の競争が今始まった。見麗しい女神様達が僕達の目の前で走っていく姿を何度か見ている内に―――。

 

『おーっと、女神の中で一番速かったのはやはりと言ったところか!最大派閥のロキが最高新記録叩きだしたぁー!アテネ、これはどう思う?何かの秘訣とかあるのかな?』

 

『ロキに「重み」だなんて全くないから、あんなに速く走れるのでしょうね。いいわねー。あれだけ速く走れるなら体も軽いわよきっと。ええ、同じ女性として「重み」がないのは羨ましいことだわ』

 

何やら意味深なことを言うアテネ様。重みが特に強調しているようにも聞こえ、男神様達がニヤニヤとアテネ様の言葉を理解しているのか笑っていて・・・・・。

 

『~~~~っ』

 

当の女神様が髪と同じ色を顔中に染め上げていたのを僕は気付かなかった。

 

『ベル君の為にボクは負けられないんだぁー!』

 

神様だっ!小柄な体で一生懸命走ってツインテールを激しく揺らしながら何とか他の女神様よりもゴールに辿り着いた!

 

しばらして、男神様より少ない女神様が走り終わった。

 

『えー、これで全員が走り終えたことで最初の競技は終了しました。一番多く一位に成ったのは・・・・・白組、ヘスティアチーム。よって10ポイントの点数を白組に与えられます』

 

おおーっ!と歓喜の声が湧きあがった。や、やった!最初は僕達の勝ちだっ!

 

『次の競技も行うから、参加者達は速やかに自分の席、陣営に戻ってくれ』

 

イッセーさんの促しに僕等は立ち上がってそれぞれ戻ることになった。

 

 

『初戦は白組、ヘスティアチームが勝利を飾った!さて、次も白組が勝つか。それともここで巻き返すか赤組のアポロンチーム。―――次の競技はこれだ!』

 

一誠は指を弾いた次の瞬間。地面が揺れ、鳴動に変わるのは直ぐで一誠が立つ場所が隆起を起こし造形物が飛び出した。

 

『先にあの旗を取ったチームが勝利!冒険者にとってはお馴染み、この迷宮の中をさまよいながらここまで辿り付け!』

 

高さ十Mの壁で形は円形の建造物、そしてその建造物の中央には聳え立つ塔の上に一本の旗があった。はtの傍に立つ一誠の発言と新たな競技場の出現によって運動会の場は騒然と化する。

 

『Lv.は問わず冒険者のみの参加!参加人数は十名で代表者として【ヘスティア・ファミリア】、【アポロン・ファミリア】の団長は強制参加だ。さあ、残りの九名は主神達が三分間相談し合って自分の冒険者を参加させてもらおうか』

 

あっ、それと―――。

 

『もしも壁をぶち抜いたりと俺がルール違反だと思い、相手に害とかした場合は空から雷を落とすからよろしく』

 

これがそうだとばかり、迷宮に轟く落雷が目の前で発生する。ゴクリと緊張と恐怖で息を呑む一同。

 

『それじゃ、主神達は集まって相談だ。制限時間は三分』

 

と、一誠の催促によって赤組と白組の主神達は集って己の眷族を出すか否かと相談を始めた。

 

 

―――三分後。

 

 

「さーてと、ベルとリリスケの為に頑張るか」

 

「【ヘスティア・ファミリア】に協力すると心構えだったが、他の派閥まで協力してくれるとはな」

 

「ベル達と・・・・・私とミアハ様の為に頑張るね」

 

「よろしくなー」

 

ヴェルフ、タケミカヅチ様とミアハ様の派閥から巨躯の身体の桜花さん、犬人(シアンシロープ)のナァーザさんと同じ種族のヘルメス様の派閥のルルネ・ルーイさん、他四人の派閥の眷族達が円形の迷宮の前にこれから挑もうと佇んでいる。

 

『迷宮を彷徨う冒険者達が集まったろことで早速中に入ってもらおうか』

 

両陣営から十人の冒険者達が選抜され、イッセーさんの促しに迷宮の入口へと足を運ぶ。

入口に侵入すれば十の入り口がベル達を出迎えた。「えっ?」と、この中のどれかが頂上にある旗のところへ目指せるのかと思っていると。

 

『全ての入り口に塔へ目指せる可能性がある。しかし、その可能性ってのはこれから冒険するお前達の「運」によって決まる。敵味方が鉢合わせってこともあるので気を付けつつ勝利を目指せ。ただし、迷宮には塔まで辿り付けれる様々な仕掛けや(トラップ)もあるから気を付けろ。この競技の時間制限は無制限なので気楽に攻略してくれ』

 

十の入り口が次々と迷宮へ誘うように扉が開き始め、僕達の侵入を待つ雰囲気を醸し出した。

 

「それぞれの入り口に俺等が入れってことか」

 

「そうみたいだな」

 

「じゃ、皆が合流できるように右と左に寄ってみる?」

 

ナァーザさんの提案にヴェルフ達はふむ、と言った感じで考え始めた。えーっと、つまりは・・・・・。

 

「①の入り口に入るとすれば、左寄りで進むってことか」

 

「なら、②は右寄り・・・・・」

 

「悪くは無いね」

 

皆で相談し合った結果。僕は①の入り口、②はルルネさん、③はナァーザさんで④はヴェルフ、⑤は桜花さんとなった。

 

「それじゃ、あの塔を目指しつつ合流を果たそう」

 

「同時に誰でもいいからあの旗をアポロンチームに奪われる前に手に入れよう」

 

「うん」

 

「はいっ」

 

一時、皆と離れ離れになるけどきっとまた会える気がする。皆、それぞれの入り口に侵入して―――扉が閉まった。

 

 

『ところでイッセー』

 

『なんだアテネ?』

 

『塔に行けれる仕掛けや(トラップ)なんて、それじゃ宝探しになっちゃうんじゃない?それに(トラップ)があるって教えたら警戒するんじゃないの?』

 

ニ十人の冒険者が迷宮に入って直ぐアテネは一誠と通信できる機会で問いを訴えた。塔の上にいる主催者から見える迷宮に彷徨うベル達を見下ろしながら肯定と発する。

 

『まあ、当然警戒はするだろうな。だが、それを逆に利用してここまで進めるモノもあるんだ』

 

『・・・・・どういうこと?』

 

自分に害しか与えない障害が勝利へと導くなんて本当にあるのかと怪訝な心情のアテネ。

競技の内容は一誠しか分からないので現在進行中、運動会を行っているわけなのだが。

愛おしい少年は悪い笑みを浮かべた。

 

『冒険者は冒険しないとな』

 

赤組の冒険者があからさまな宝箱(トラップ)の前に辿り着き、恐る恐ると開けようと腕を伸ばしていたのを見て。

 

『うぎゃああああああああああああああああっ!?』

 

「っ!?」

 

突然の誰かの悲鳴で身体を竦ませた。まさか、誰かがやられちゃったの?

 

『あーっと、赤組の冒険者が勇ましくハズレの(トラップ)を作動させた!―――どの家庭の台所に存在する数千匹の昆虫が今、迷宮に放たれてしまったぁー!?これはある意味恐ろしい展開に成ったぞぉっ!』

 

・・・・・イッセーさん、貴方、何をしているんですか。

 

「左・・・・・」

 

ルルネさんと合流をする為にも左寄りに進んでいるんだけど、同じ壁ばかりでこの迷宮の構造の把握がとても難しい。『古代』の英雄達が初めて入るダンジョン、何の情報もないまま『未知』に挑戦し続け、命懸けで正規ルートを開拓した英雄達もこんな感じだったのかな。

 

「・・・・・」

 

同じ壁、これを頼っても同じ場所を行き来しているのかさえ分からない。なら、分かり易くすればどうすればいいのか・・・・・。壁に印を残す?でも、武器を持っていない僕にそんなことはできない。左右は硬そうな壁に下は地面、上は青い空―――と見上げた次の瞬間。轟音が鳴り響いた。

 

『はい、迷宮から飛び出した冒険者(バカ)に雷を落としましたー。また同じことをしようとする冒険者がいない事を願うぞ』

 

飛び出すって・・・・・この壁から飛び上がったってこと!?た、確かに・・・上から見れば塔まで行ける道が分かるし、上から進めれば楽に行ける。だけど、そのどれかもイッセーさんは許さなかった。冒険者は冒険しろって地道に進めってことなのかもしれない。

 

「気を付けよう」

 

イッセーさんの攻撃は受けたくないと地道に歩き始める。左へ行けれる、もしくは左に行く為に右へ進むって感じで歩き続けると、ソレがあった。

 

「・・・・・っ」

 

息を呑み、ちっちゃな宝箱を見つけてしまった。これが(トラップ)の可能性がある箱・・・・・。赤組の冒険者がハズレの箱を空けてしまったから警戒心が・・・・・。

 

「(でも・・・・・背中がちょっと熱くなったような?)」

 

背中―――刻まれている【ステイタス】が、一瞬だけ熱を帯びた気がした。熱くなった箇所を、確かめるように指でなぞってみる。

 

「・・・・・『幸運』?」

 

指の触れた場所が、アビリティのスロット付近であると、何となしに感じた。鏡越しに見たことのある背中の神聖文字(ヒエログリフ)を思い浮かべ、何だろう、と首を傾げながら。

 

『ただいま、ベル・クラネルが宝箱の前に佇んでいるぞー!さあ、開けるのか否か!』

 

ちょっ、イッセーさん!煽らないでぇっ!?

 

『宝箱を開けるのも運次第!人に必要な生きる為の要素の一つ!ベル・クラネルはそれを持っているのかぁっ!』

 

「―――――っ」

 

運・・・・・まさか、イッセーさん・・・・・。僕のスキルが役立つこの迷宮にしたんじゃ・・・・・。

 

「それにしても・・・・・」

 

てっきり宝箱は大きいのばかりだと思っていたけれど、意外と手でも運べれる大きさだから・・・・・。

手を伸ばして箱を掴んでみた途端、ひょいっと持てた。あ、持てた。よし、これなら大丈夫だ。

来た道に戻って、まだ進んでいない道へと突き進む。

 

 

『あら、宝箱を持ってちゃったわよ?』

 

『ルール上、宝箱を所持してはいけないなんて言ってないから問題ない』

 

『ふーん?あの箱、当たりなの?』

 

『ああ、ある意味では。だけど同時に大ハズレだ』

 

 

「あ、ベル・クラネル!」

 

「ルルネさん!」

 

「って、宝箱を持っちゃってんの?」

 

犬人(シアンシロープ)のルルネさんとようやく再会できた。よかったぁ、これで協力し合いながらあの塔まで進めれるよ。

 

「あ、はい。まだ開けていませんが持てそうだったので、一応持ってみようかと」

 

「んー、まあ、それは私達の他にも合流できてからでも開けた方がいいかもしれないね。いい判断だと思うよ」

 

ルルネさんから褒められ安堵で胸を撫で下ろす気分でいると一緒に塔へ目指す。

 

「こう言うこと慣れているんですか?」

 

「私の主神様はアレだからねー。旅をしている時、謎の遺跡とかそういうところに足を踏み入れたこともあるんだ。だから、こういう場所は私が役立つかなって思って参加したんだ」

 

な、なんて心強い人なんだろう・・・・・。

 

「だから、見慣れない場所が深かったらこういうこともしておくんだよ」

 

小鞄(ポーチ)から意識をしなければ見つからないほど小さな玉を無造作に一つだけ落とした。

 

「一度通った場所に目印があるなら迷わず別の場所に行くんだ」

 

「えっ、それって大丈夫なんですか?」

 

「もう何度もしているし、イッセーも黙認している。つまり規則(ルール)違反じゃないってことだ」

 

驚いた・・・・・。そんな方法もあるんだと僕は思い知らされた。イッセーさんもルルネさんの行動にも注目しているはずだし、どっちの味方では無い中立の立場でいる。だからルールを違反した冒険者には敏感に反応するだろうからてっきりルルネさんに雷が落ちるんじゃないかって思ってしまった。

 

「イッセーさんが僕達のことを優位にさせているとは?」

 

「それはないんじゃないかなー。私達に勝たせる気でいるなら、もっと他にもやり方があるだろうし」

 

それももっと物理的な。とルルネさんは言う。うーん、そうかな・・・・・。

歩いてもあるいても同じ壁に挟まれながら進む僕は淡い期待を胸に抱く。彼女と次の曲がり角へ進むと行き止まりにぶつかってしまった。

 

「見慣れない迷宮だと、行き止まりにぶつかってしまいますね」

 

「それが迷宮だからね」

 

踵返そうと来た道に戻る僕達の視界に―――カサカサと黒光りする数えるのも億劫しい動く何かが突如として現れた。

 

「「ゴ―――っ!?」」

 

ぎゃああああっ!とルルネさんと一緒に悲鳴を上げてしまう。反対側にいたはずの昆虫がここまで来ちゃっていただなんてぇっ!僕達は当然逃げようとしたけど、昆虫達の足が速くあっという間に逃げ込むはずだった未知まで占領―――僕達を避けるように大移動し、行き止まりの方へ突き進み・・・・・吸い込まれるように消えてしまう。

 

「え、へっ?ど、どうなって・・・・・」

 

「仕掛けって・・・・・まさか、そう言うことなのか?」

 

『ギャーッ』と悲鳴が聞こえたけれど、行き止まりだと思っていた壁に消えていく昆虫達に唖然とする。全部いなくなると僕等も後を追うように壁へ近づき、恐る恐ると手を伸ばしてみれば・・・・・突き抜けた。

 

「―――隠蔽のような壁かっ!」

 

理解したルルネさんは叫んで壁の向こうへと消えた。僕も慌ててすり抜けるとあの昆虫の大群は姿が見えなくても音だけは微かに聞こえる。

 

「ベル・クラネル!あの昆虫を追うよ!」

 

「は、はいっ!?」

 

ルルネさんが見失ってはいけないと僕にそう言い走ってしまった。あの昆虫を好きこのんで追いかける人は絶対にいないと思うのに僕も追いかけてしまうこの状況に何とも言えない。追いかける途中、

 

「ベルっ?」

 

③の入り口から入ったナァーザさんと合流を果たせた!④の扉に入ったヴェルフとはまだ合流をしていなかったようだ。

 

「急いで!さっきの昆虫を追いかけなくちゃ!」

 

「・・・・・アレ、嫌い」

 

ですよねー。ナァーザさん、物凄く嫌そうな顔をして追いかける僕達とは違う別の道へ行ってしまった。

 

「私だって嫌いなんだけど・・・・・って、ああ、もう聞こえなくなった」

 

追いかけていた昆虫の足の方が僕達よりも速く遠くへ行ってしまったとルルネさんは言外する。だけど、壁に仕掛けがあるのだと分かった。一度足を止め、息を零す。

 

「・・・・・しょうがない。ベル・クラネル。それ開けてみなよ」

 

「い、いいんでしょうか・・・・・」

 

「壁に仕掛けがあるなら、それも何かの作動させるものだと考えると開けた方がいいかもしれない」

 

僕から宝箱を取りながら言うルルネさんは―――躊躇もなく開けた。開けた瞬間、何かが起こるんじゃないかと警戒していた僕だけど・・・・・なにも起こらなかった。ルルネさんも空けた箱の中を凝視するだけで一言も発しない。

 

「あの、ルルネさん・・・・・?」

 

―――カチッ。

 

『―――あっ、開けたな?』

 

イッセーさんが僕等のことを言う。この小さな宝箱の中を僕も見た次の瞬間。

 

『大ハズレ!ここからは冒険者達を捕まえる狩猟(ハンター)が登場する!各陣営の代表の冒険者達が捕まったら即失格!無制限の時間も有限となり―――三十分以内にこの塔の旗を取らなければどのチームも敗北!』

 

人の顔だけど、ヒキガエル―――いや、モンスターみたいな女性の顔が描かれたカードが入ってあった。

 

「「え・・・・・」」

 

『因みに狩猟(ハンター)は男が好きなので、優先的に男の冒険者を狙うから頑張って―――逃げ回れ。特に赤組のアポロンと白組のベル』

 

心なしか楽しそうに発するイッセーさんの言葉が聞こえなくなった途端に、塔の方から轟音が。

 

「な、なに?」

 

「・・・・・嫌な予感がする」

 

轟音は―――絶え間なく続いてついには誰かの悲鳴が上がった。

 

『赤組、代表者が捕まった為失格。残りは十九人だ』

 

「「っ!?」」

 

この迷宮に、狩猟(ハンター)というモンスターが放たれてしまった!?しかも、上空に時計のような数字が何時の間にか浮かんでいて段々減っていく!あの時間が本当に制限時間だと知った僕は焦心に駆られた。

 

「や、やばい!早く塔の方へ行かなくちゃ!」

 

「なんかごめんよ!」

 

駆ける。速く走って旗がある塔へ目指す為にも!悠長に進むことはできなくなり、塔の近くに!とあちらこちらと迷宮の中を走り回ったところで―――上からいきなり何かが落ちてきた!

 

「―――【リトル・ルーキー】じゃないかぁ~」

 

「っ!?」

 

大きな鼻穴をひくひくと動かしながら、彼女は、現れた。二Mを超える。巨漢ならぬ巨女。狩猟着に似た赤黒の衣装から覗く褐色の短い腕と短い脚は比喩抜きで筋肉の塊だった。身の丈もさることながら横幅も太いずんぐりとした体型で、手足と胴体との釣り合いがおかしい。極めつけは、その大きな顔。黒髪のおかっぱ頭で、ギョロギョロ蠢く目玉と横に裂けた口唇、まさにまさしく宝箱の中に入っていた女性の顔と一致していた―――。

 

狩猟(ハンター)が白組の代表の兎を捉えてしまったぁっ!逃げ出さなければ骨の髄まで貪られ尽くされるぞぉっ!』

 

イッセーさんの言葉はその通りだとばかり目の前の彼女は僕を見て爛々と目を輝かしている。

・・・・・訂正しよう。イッセーさんは僕達を優位にさせようとしているんじゃない。誰よりも一番自分が楽しもうとしている!

 

「さっき、赤組の代表とやらの【太陽の光寵童(ポエブス・アポロ)】の男と再会の口づけをしてきたところだぁ~。今度は『兎』を可愛がってやるよぉ」

 

「逃げろっ!?」

 

ルルネさんの疾呼に僕は返事を惜しむほど彼女から逃げた。僕でも分かる絶対的な強者とイッセーさんとは違う意味で恐ろしい人だと、背を向けてルルネさんと逃げる。

 

「だ、誰ですか!?あの人はっ!?」

 

「私も初めて見たけど、あいつはヤバイ!Lv.5、第一級冒険者だよ!」

 

「なっ―――!?」

 

第一級って・・・・・アイズさんがこの前までそのLv.5だった階級じゃないかっ!?ルルネさんは顔を青ざめて口を開く。

 

「今の私達じゃ、あいつに勝てるどころか捕まってしまう!さっき言っていた主神アポロンの派閥の団長ですら敵わない相手だよ!」

 

そ、そんなっ!?じゃあ、僕達もこのままじゃ―――!

 

「ゲゲゲゲゲッ!待ちなぁ~!」

 

って、褐色の隕石が迷宮の壁の上から振って来たぁ~っ!?

 

「うわぁあああああああああああああああっ!?」

 

 

 

 

 

『・・・・・イッセー?流石にこれは、勝負にもならないんじゃない?』

 

『何を言うんだ。俺はできる限り平等で戦えるように仕組んであるんだ。ならば、平等に恐怖と危機感を与えるのも俺の仕事じゃないか』

 

狩猟(ハンター)の登場によって誰も予想だにしなかった展開にアテネは『引き分け』と二つ目の競技に幕を閉ざさずを得なかった。

 

―――○●○―――

 

『えー、二回目の競技は引き分けという結果で皆は納得してないだろう。だがしかし!次はそうならないので楽しみにしてくれ!』

 

迷宮は役目を果たし終えたと地面の中に沈み元の会場へと戻った。

 

『さあ、まだまだ運動会は始まったばかりだ!三回目の競技は―――神同士の決闘を始める!その競技の内容は―――!』

 

眩い光とともに発現した金色の杖を掲げ、閃光を放った。光は運動会の中心部に照射され、キラキラと輝く光の粒子が形を成して行く。

 

『神VS神 水上の戦い!』

 

円形の囲いに張られた大量の水に浮かぶ長細い台の戦場と、その傍には白組と赤組に大きな赤と青の色が分けられている施設も会場に一誠の力で創造された。

 

『ルールは至って簡単だ。男神、女神達が水に浮かぶ台の上で勝負をし、相手を台から水へ落とした神が勝利だ。使用する武器は、この弾力のある棒だ』

 

一Mの棒を持つ一誠は思いっきりその柔らかさを見せ付けるように曲げてみせた。

 

『この棒以外にも手足、己の身体を使って落とすのも自由だが、仕掛けがある神の戦場となる台は揺れるのでともに落ちる、または道連れに落とされることもある。さて、神の参加人数は男神と女神―――全員とする』

 

一誠の説明を聞き、神々達は盛り上がりを見せる。本格的に自分達も楽しめるのだとやる気や楽しむ意欲を体で表現する。

 

『ただし、男神と女神と分けて戦ってもらうからそのつもりで。それじゃ、いったん俺のところに来てくれ』

 

その催促に神々達は眷族達に声援をされながら見送られ、一誠のところに集結する。集まってくれたことで、神々にはある物を見せ付けた。

 

―――水着である。

 

『そのまんまで競技を始めたら水に濡れるのは確実だ。服が濡れたまま運動会を楽しみたくないだろう?水上戦の正装としてこの水着を着てもらうぞ。赤は女神専用の着替え室、青は男神専用の着替え室だ。あの中には様々な衣装&水着を用意してあるから自由に着ても構わないから。それでも制限時間は三十分以内でしてくれよ』

 

まずは男神からと一誠は進行をする。男神達はゾロゾロと青の更衣室へ移動を始める様子を一瞥して残された女神達に告げる。

 

『えー、男神達の戦いが終わるまで、女神達も着替え室で待機してもいいぞ。水着は数多くあるから選ぶ時間も必要だろうしな。女神達の着替え室の中には別の個室があるんで、その中に着替えてくれ。後、待っている間退屈だろうから茶菓子も用意してある。気長に待っててくれ』

 

異論は無いと女神達は男神達に続いて更衣室へと赴く。

 

そして、三十分以内に殆どの男神達は上半身裸、下半身に水着のズボンを穿いて水上戦を行う水場へ現れる。

片手に弾力性のある棒を持ち、赤組と白組の男神達が対峙し合う。

 

『さて、男神達が水着に着替え終えた。赤組が勝利か?それともまたしても白組が相手を負かすか?制限時間は十五分、水に落ちた瞬間、神は他の神の手出しを一切禁じるこの水上戦の開戦の合図が―――』

 

ゴォオオオオオンッ!

 

『いま、鳴り響いたぁっ!』

 

何時の間にか用意されていた大きな銅鑼を叩くハーデスによって水上戦が始まった。赤組と白組の男神達が水に浮く長細い浮き場に駆け、敵対する神と直撃する。

 

「ヒャッハーッ!いっくぜぇー!」

 

「オラァッ!こいやぁッ!」

 

一対一の戦いとなる戦場に早速、活躍する男神が注目される。

 

『タケミカヅチが不安定な足場に仁王立ちして次々と赤組の男神を水に沈めて行くっ!流石は武神と名を轟かせた神だっ!その名に恥じない威風堂々とした立ち振る舞いと無駄のない棒術!白組の勝利のカギとなるのはやはりこの男神かァッ!?』

 

力説する一誠の声は内心照れているタケミカヅチと、己等の主神を称賛してくれる一誠に感動する眷族達。

 

『だがしかし、赤組も負けていないっ!アポロンの動きも注目だっ!』

 

浮く足場の手前で豪快に棒を振るい、横薙ぎに払われるソレは、相手の横っ腹を叩き、体勢を崩して水に落として行くアポロンも前へ進まず、その場に佇んで相手から来させるその立ち振る舞いに一誠は解説する。

 

『でしゃばらず、冷静に敵を誘いこんで己の有利な状態と状況で相手を倒すアポロンの姿はまさしく狩猟!確実に白組の男神を仕留めるこの男神もまた手強いぞっ!タケミカヅチとアポロン、この二柱の衝突は見逃せない!』

 

と、熱く実況と解説をしていた一誠に一人の男神が質問をしてきた。

 

「おーい、イッセーくん。ちょっと良いかな?水に落ちなければ何だっていいんだよね?」

 

足場から落ちれば失格、水上戦の勝敗のルールを改めて聞いてくるヘルメスに肯定と頷く一誠。

 

『そうだけど、それがどうしたんだ?』

 

「いやー、一応、再確認をね?」

 

にやぁーと口角を上げるヘルメスに首を傾げる一誠の目に型破りな光景が目の当たりにした。

優男神が「よっと」と別の足場へと乗り移って赤組の男神の背後から水へ落とした。何がしたくて何が言いたいのか瞬時で理解した一誠は言った。

 

『あーそういうことか。別に問題は無いぞ』

 

「ありがとうっ!」

 

認められたことで、ヘルメスは忙しなく別の足場へと飛び移っては男神を突き落とす。ならば、とそんなヘルメスの真似をする男神も現れるが、着地に失敗して水に落ちたり、既に身構えられていた男神に妨害されたりと数を減らす。

 

「今度は負けんぞミィ~アァ~ハァ~ッ!」

 

「くっ・・・・・」

 

先の勝負で敗戦してしまったディアンケヒトは怒涛の攻撃をしてミアハを苦しめる。ミアハとディアンケヒトの足場が激しく揺れ、不安定な状況で体勢を保つのに精一杯であったミアハ。

 

「ミアハ、助けは必要かっ?」

 

「・・・・・いや、問題ない」

 

タケミカヅチからの救援に不要とディアンケヒトの攻撃をただ耐えるミアハの表情は真剣。察するに自分の事より勝負を優先してくれと風に敢えて共闘を望まなかった―――。

 

「・・・・・分かった」

 

彼の神の神意を受け止め、タケミカヅチが一歩前に足を踏み込んだ。

 

「アポロンは俺がやる。それまで持ち堪えてくれよ」

 

ミアハにそう言い残して、ダッと駆けるタケミカヅチは真っ直ぐアポロンへと向かった。

 

『―――っ!』

 

一誠は歓喜の色を目に浮かべた。

 

『男神と男神の友情を俺は見たぁっ!相手を信頼、信用して己のやるべき事を果たそうとする男神!俺は感動しているぞぉッ!格好いいぞ、ミアハとタケミカヅチィッ!』

 

冒険者達からも拳を握って興奮を覚えた様子だった。両陣営の神の数は残り半数を切り、慎重に相手を倒そうとする構えが見られるようになる中、

 

「うおおおおおおっ!アポロン、お前を倒すっ!」

 

「小癪なっ!私を倒せると思うなよ!?」

 

足場がしっかりしているアポロンと不安定なタケミカヅチの攻防が激しくなり、苛烈を極まる。

ミアハとディアンケヒトの戦いも防戦一方な戦いについにはミアハの体勢が崩れてしまい、

 

「落ちろぉおおおおおおっ!」

 

「ぐぉっ!」

 

振るられる棒が貴公子然の印象を持たせる男神の身体に直撃した。その衝撃で完全に水へ落下する運命を辿ってしまった。

 

「ぐはははははっ!今度は儂の―――」

 

「隙ありっ!」

 

「ごはあああああっ!?」

 

勝利を確信したディアンケヒトの真横からヘルメスの飛び蹴りが。完全に油断していた初老の神の横っ腹に直撃してミアハ諸共、水に落ちてしまった。

 

『・・・・・・シマらねぇ。まあ、いいや』

 

仕掛けを発動させよう、手の中にあるスイッチをカチッと押した矢先に、戦場に異変が生じた。

 

「ぬっ!?」

 

「これは・・・・・・」

 

水上の足場が端から水の中へ沈んでいく光景に生き残っている男神は目を疑い、張った。

 

『俺は言ったぞ、仕掛けがあると。残り時間も少なくなってきたから仕掛けを発動させた。一定時間ごとに足場が減り続けて行く仕掛けをな』

 

淡々と述べる一誠にそれは聞いていない!と男神達の心が一致した。抗議する暇もなく、アポロンが立っている足場すら水の中へ沈もうとしている。ここにいるのはダメだと、アポロンも不安定な足場へと乗り移る他なかった。

 

「あのドラゴンっ!余計なことを!」

 

「だが、これで同じ土俵で立たされたなアポロン」

 

未だ闘志を燃やしているタケミカヅチと奥歯を噛みしめる思いのアポロン。

 

「おのれ、異世界のモンスターと共謀などしていないだろうなっ」

 

「いやいや、アポロン。イッセー君はそんなことしないよ」

 

アポロンの隣の足場に立つヘルメスは朗らかに笑みを浮かべ、楽しげに言った。

 

「彼がこんな娯楽に飢えた俺達にとって嬉しい催しを考えてくれるのに贔屓をするような子じゃないよ。それにヘスティアを庇うなら、アポロン。君を天界に送還させた方が早いって」

 

「―――っ」

 

度肝を抜かされる発言をヘルメスから言われ、足場がまた水へ沈んで行き、前へ移動せざるを得ないアポロンは、タケミカヅチと距離を縮める。

 

「イッセー君は完全なる中立の立場だ。あからさまな勝利をさせるんじゃない。きっと、自分も楽しめる方法で異世界の催しを開催したと思うよ?」

 

そういいながら、自前の棒をアポロンへ投げ放った。武器である棒を投げるヘルメスに虚を突かれ、前に構えた棒で防いだその隙をタケミカヅチは逃さなかった。沈み行く足場を駆ける武神に反応するアポロンは上段から振り下ろし、叩き潰そうとした―――。しかし、嘲笑う者がいた。

 

「ヘルメスキーック!」

 

「なぬっ!?」

 

飛び蹴りをしてくる優男神に目をひん剥く。二対一の状況にアポロンはピンチ。直ぐに対応等と考えはない。どうやり過ごすか、乗り越えられるかを考えたアポロンは、今沈もうとしている足場へ目を留めた。

 

「―――一か八かっ!」

 

ヘルメスのように違う足場へ乗り移ろうとする選択を選び実行した。そんなアポロンをタケミカヅチは察して攻撃を止め隣のうき場へ飛び移って逃げ場をなくそうと動いた途端、

 

「なんてな」

 

棒を飛び蹴りしてくる男神に投げ放っては―――。

 

「はうっ!?」

 

下半身に直撃し体勢を崩した彼の男神は、そのまま水の中へ沈んだ。アポロンの相対する男神はタケミカヅチとなり、水に浮かぶ二本の棒を掴み取った。

 

「一人、一本ではなかったか?」

 

「さあな。あのドラゴンが何も言わないのならば問題は無いのだろう」

 

黙認している一誠に口角を上げるアポロンはタケミカヅチの前に飛び移って臨戦態勢の構えを、二つの棒をクロスして不敵の笑みを浮かべた。

 

「行くぞ。お前の武勇はここで終わらせてやる」

 

「負けんっ。俺の子供達が見ている手前で無様な敗北は見せるわけにはいかない」

 

両者、戦意の意欲を燃やさして足場もいよいよなくなってどちらも背水の陣と言う感じになった。

 

「「―――――」」

 

そして、狩猟の神と武神がついに衝突を始め―――。

 

『勝者は―――赤組ぃっ!』

 

男神の部の水上戦はアポロンチームの勝利と終えた。次は当然―――。

 

『男神達の戦いが終わり―――次は女神達が水の上で戦う。皆、心の準備は良いか?』

 

楽しげに言い、瑞々しい肌、艶姿、抜群のプロモーションを誇る水着姿の女神達を見られるこの機会に巡った全ての男達は。

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!』

 

『ありがとぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!』

 

熱烈な歓声を上げた。そして、一誠に対して何気に感謝の叫びも聞こえてきた。

 

『では、さっさと始めよう。麗しき女神達の水上の戦いを!―――刮目せよっ!女神達の参上を!』

 

扉は勢い良く開き、中から恥ずかしそうに棒を持った女神達が―――水着姿で戦場に現れた。男達は当然、興奮しないわけがない。この瞬間を脳内に、瞼の裏に焼き付けんとばかり血走った目で凝視する男神や冒険者も数多くいた。露出のある水着や控えめの水着も問題なく着こなす女神達。豊満な胸、くびれた腰、すらりとした脚などと異性を魅了させる姿の女神達がこの時だけ違う魅力を発揮していた。

 

『男達の興奮が留まることを知らない!この美しい花も恥じらう女神達の艶姿に興奮しない男はいないだろう!』

 

『イッセーも興奮、するの?』

 

『いや、普通ーだな。俺が好意を寄せてない女神の裸なんて見ても魅力すら感じないもん。まあ、相手が俺に心から好意を抱いているなら話は違ってくるけれど』

 

アテネから口を挟まれ女神にとってプライドを刺激する発言をした一誠であった。それを聞いて不敵の笑みとともにとある女神に対して優越感を浸ったアテネ。

 

『ふふふっ!フレイヤ、聞いたわね?イッセーは貴女の身体を見ても興味ないって言っているわよ!』

 

『何故にフレイヤに喧嘩を売るようなことを言うんだ。まあ、そんなことはどうでもいいとして、水上戦を始める前にルールを一つ加えさせてもらうぞ』

 

二つの魔法円(マジック・サークル)が女神達がいる場に発現し、旗が現れた。

 

『女神達の水上戦に旗があるだろう?勝利方法は相手を全員水に落とすか、旗を奪い取るかで決着を付けてもらおう。どちらにしろ、相手を倒さないといけないが、楽しめるだろう。―――それじゃ』

 

徐に腕を空に向けて挙げた。その仕草に釣られ、誰もが意識を向ける。

 

『始めっ!』

 

ハーデスが鳴らす銅鑼によって二回目の水上戦が始まった。水に浮く不安定な足場に駆け、敵対する女神を水に突き落として行く。その最中、王道的なハプニングも起きる。とある女神が思いっきり横薙ぎに女神の豊満な胸に当てた途端、結んだ上の水着の紐が勢い良く外れ―――青空の下で上半身裸になってしまった。

 

「きゃあああああああああっ!?」

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!?』

 

片方は羞恥心で悲鳴を上げ、片方は鼻血を吹きながら興奮の絶叫を上げる。胸を露出してしまった女神は自分から水の中に落ちてリタイアに、気のない実況をする一誠。

 

『あーと、曝け出した女神の胸に男達の目が釘付けだぁー。紐の水着を着ている女神達も気を付けなよー。激しく動くと外れるからなぁー。特に巨乳の女神』

 

それを早く言ってよ!?と非難の声が聞こえるが、完全に聞き流す主催者に、男達は一誠に深く感謝をしたのだった。

 

『それは嫌ね・・・・・。でも、逆に無い神は安心じゃない?』

 

『そうだな。見られても男のような身体をしている女神でも、あまりにも無乳っぷりでも自分は男だと言い張れるぐらいにな』

 

『そんな女神いるわけ無いじゃない(笑)』

 

『はははっ、それもそうだな。いたら見てみたいぜ(笑)』

 

二人の会話は明らかに誰かを見て差している。そんな女神はぷるぷると全身が震え、八つ当たり気味に女神を破竹の勢いで突き落として行く。

 

「へへんっ、君の事を言われているぜ!悔しかったら言い返してみなよ!」

 

「うっさいわボケェツ!ドチビの水着を剥いでやろうかアアンッ!?」

 

乱闘が激しくなるにつれ、数も減っていく。だが、その中で一番優雅に旗の傍で佇む美の女神もいた。

 

『フレイヤが優雅にのんびりとしているな』

 

『あの女神が戦うわけ無いじゃない。美の女神なんだから』

 

『その対照的にイシュタルは暴れ回っているけどな。真っ直ぐフレイヤに向かって』

 

『イシュタルは一方的にフレイヤを敵視しているもの。理由は同じ美の女神だから』

 

アテネからの指摘に「へー」と一誠は気の抜けた相槌を打つ。

 

『なるほどな。美の女神同士の戦い、興味あるなぁー。・・・・・よし』

 

いきなり一誠は―――身体が小さくなって子供に成った。

 

『大好きなフレイヤお姉ちゃんッ!イシュタルお姉さんを倒してぇー!』

 

美の女神フレイヤに対して純粋な眼差しに邪がない笑みを浮かべた子供一誠。そんなことであのフレイヤが動くはずがないだろう、とフレイヤを知る者達は―――驚いた。

 

「・・・・・」

 

旗に寄り添って佇んでいた美の女神が、棒を持って戦いに身を投じようとする行動に目を疑った。

 

『・・・・・フレイヤを、動かしたですってっ?私のイッセーの魅力がそこまで発揮すると言うのっ!?』

 

アテネの驚愕は驚いている者達と同じ心情だった。当のフレイヤは真っ直ぐイシュタルに歩を進めていた。

迫ってくる女神にイシュタルは口角を上げた。

 

「驚いたねぇ?まさか、天下のフレイヤ様が子供の言うことを聞くなんてさぁ」

 

「私だけ何もしていないなんて、不公平だと思ってね」

 

「あそこでじっとしてれば、その綺麗な肌に傷を負わずに済んだかもしれないのにかい?」

 

「ええ」

 

イシュタルにとっては絶好の機会でもあった。敵対している主神を己の手で直に倒すことができる実感を得れる。こんな催しを考えた一誠には後で可愛がってやると決め、宣言した。

 

「フレイヤァ。お前を倒したらあの異世界のドラゴンは私が貰うよ」

 

「あら、何でかしら?」

 

「当然だろう?あんな強い存在を私達神が野放しにすると思うのか?有り得ない話じゃないか。それに―――」

 

褐色の手を己の腹部に艶めかしく触れ、

 

「私は一度、あのドラゴンと一日過ごして気に入ったのさ」

 

「――――――」

 

「最高の甘美で、快感だったよ。フレイヤぁ?くくく、あれは本当に凄かった」

 

思い出させば下半身が熱くなるのを感じ、フレイヤに優越感と恍惚の表情を顔に出した。

 

「あの天下のフレイヤ様でも私に後れを取っている。ああ、これはとても愉快過ぎて笑いが出そうになる。なぁ、フレイヤ?アテネの子供に私と同じことをされたこと無いだろう?ああ、好意を抱いていない女神には興味がないって言われたばかりだったな。残念だねぇ?」

 

挑発し続けるイシュタル。しかし―――自慢話に浸って気付かなかったフレイヤの表情を見た途端に、固まった。

 

氷のように冷たい眼差しと感情が一切消え去った無表情な顔のフレイヤに。

 

「あの子が・・・・・貴女と一日過ごした?」

 

ひた、ひた、と。フレイヤは歩きだした。

 

「面白いことを言いだすのねイシュタル?ねえ、もう一度言ってくれないかしら?」

 

「ひっ・・・・・!?」

 

ちっとも笑っていない瞳で、微笑んだ。

 

「例え、それが本当だとしてもあの子は絶対に、私のモノにする」

 

秘めたる劇場の片鱗を窺わせながら、微笑んだ。

 

「私のモノに手を出す女神(おんな)は、絶対に許しておけない」

 

横暴なまでの独占欲と一誠の執着を晒すフレイヤに、イシュタルは言葉を失う。まるで合わせ鏡のようだった。フレイヤに嫉妬したイシュタルが瞳に黒い炎を宿したように、フレイヤもまたその銀の瞳に執心という名の黒い炎を帯びている。静かな怒りを放つフレイヤは、瞳を細めたまま唇を動かす。

 

「貴女―――潰すわ」

 

女神の死刑宣告に、イシュタルは青ざめた。

 

そして、委縮している女神の足を軽く棒で振り、体勢を崩して水へ落とした。

 

「貴女達も例外じゃないからね?」

 

フレイヤの顔を見て話しかけられ、イシュタルの背後にいた赤組の女神達は恐れ戦き、近づいてくる彼女から水の中に飛び込むなり、後ろへ下がったりとして避け、フレイヤは赤組の陣地にある旗に手を伸ばした。

 

『―――試合終了!勝者は白組だぁっ!』

 

赤い旗は美の女神の手の中に。その瞬間こそ白組の勝ちとなったのである。

 

『これで神々の戦いは終わったが、どちらも一勝一敗。ここで引き分けで第三回戦は終わったっ!と次に進めたいのは山々だが俺は引き分けなど勝負の結果は好かん。なので、水上戦で生き残った神々の数で勝敗を決めさせてもらう』

 

男神と女神達の総合人数で勝敗は決まる。と言うことは―――。

 

『男神の水上戦はアポロンただ一人、女神達の水上戦では赤組の女神達が白組の女神達より多かったな。であれな本当の勝者は―――赤組、アポロンチームだ!』

 

赤組の歓声が沸く。

 

『それじゃ着替える神々の準備が整い次第次の競技を始めたいと思う。それまでは小休止とする―――うん?アイズ?』

 

そう言った矢先、未だ子供の姿の一誠は忽然と現れる金髪の少女に抱きかかえられ、どこかへ連れ去られてしまった。

 

『ちょっ!?イッセーをどこに連れて行く気なのッ。待ちなさーいッ!』

 

―――○●○―――

 

『・・・・・えー、大変お待たせしました。第四回戦の競技を始めようか』

 

何とか抜け出せてきた疲労感を顔に出す一誠はアテネに守られる中、進行をするのだった。金色の杖でまた、何かを創造をする。二つの眩い光が、形を成していき―――ヘスティアの顔とアポロンの顔がデカデカと大きな台の上に乗っかった状態で会場に出来上がった。

 

『参加者は冒険者。しかも全員でヘスティアとアポロンの顔を全部崩すと言うシンプルな競技を行う。方法はこうだ。見ててくれ』

 

どこからともなく一誠は全員に見えるようボールを掲げ、それで思いっきり投げてヘスティアの顔を轟音とともに全て崩した。

 

『こんな感じに早く、勢い良く玉を投げて顔を相手チームより先に崩すことが勝敗を決する。ただし、用意する玉は重く、崩す顔も重くしている。玉を投げる距離も離れているから容易く崩すことは難しいので頑張ってくれ』

 

一人で勝手に積み重なり、元通りに完成するヘスティアの顔を他所に説明をする。

 

『そんじゃ、始めるから赤組はヘスティア、白組はアポロンと集合して玉を持って待機だ』

 

二つの顔を囲むように眩い閃光が発し、たくさんの玉が入れられた円形状の柵のような籠が創造された。

それを見て冒険者達は各々と動き、指定された顔のところに集結を始める。

 

『制限時間は無し。完全に顔を崩したチームが勝利だ。足元に描かれている線から少しでも足をはみ出さないようにな。もしもはみ出た場合、顔は自動的に元通りに動く魔法を仕掛けてあるから早く崩したいなら線から出ない事だ。―――それじゃ、競技開始だっ!』

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