オラリオで自由気ままに過ごすのはダメだろうか(一時完結)   作:ダーク・シリウス

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冒険譚42

ヘスティアとアポロンの顔を模したブロック崩しは思いの他熱が入り、線を超えると自動的に元の形と元通りになるのは度々起きてしまう。それでも根気よく重たい球で主神の顔のブロックを早く―――赤組が先に崩したことで勝敗は決した。

 

 

『第五回戦はダルマ落とし!』

 

巨大な木の円盤状の塊が十二も積み重なられた物が二つ、その間に一誠は解説をする。

 

『ダルマ落としとは、単純に言えば下から木の塊をこれから誰かが乗った状態でこの巨大な槌で打ち抜き続けてもらう。まあ、実際に俺がやってみせよう』

 

【ロキ・ファミリア】にとっては経験したことがある遊びだ。一誠は魔法による分身体を一人作って十二段目の木の塊の上に乗って貰うと、下から木の塊を横薙ぎに槌を振るっては、最後に二つ同時に打ち抜くこと十回。その度にダルマに乗っている分身体は少しだけジャンプして打ちやすくしていた。

 

『見ての通り、こんな風に槌で打ち抜いて一番上にいる者や他の木の塊を途中で崩さずここまで打ち抜いたチームの勝利となる。ダルマ落としに必要なのは力と器用、そして上に乗る者と息の合った動き―――。この三つが勝つ要素だ』

 

冒険者や神々が一誠の解説に耳を傾け好奇の色を瞳に宿す。

 

『そうだな。この上に乗って貰うのは神にして、木の塊を打ち抜くのを冒険者にしようか。キッチリ三回勝負で神を最後まで落とさなかった陣営が勝利だ。それじゃ、力と器用が秀でている冒険者は参加が決まった神と来てくれ。参加名は神三人、眷族三人。他派閥から眷族を選抜しても構わないぞ』

 

 

「ベル君とサポーター君じゃあ、あの大きな木の塊を打ち抜くことできないかもしれないから、ヘファイストス、君の眷族を借りたい。頼めるかい?」

 

「ええ、力と器用なら鍛冶師(スミス)の出番ね。こちとら、参加させた眷族は全員Lv.3だから期待に応えられるわ」

 

それに、ロキからよく『ドチビ』と言われたヘスティアの身体ならあの木の塊なんて打ちやすそうだしね、と言い小さく頬を緩ます紅髪紅眼の女神。

 

「ヘスティアが出るとなると・・・・ヘルメス、お前の身軽さなら何とか落ちないじゃないか?」

 

「俺かい?まあ、さっきイッセー君がしてたようにすれば落ちない自信はあるけれど」

 

「それなら問題ないね。後は・・・・・」

 

「私が出てもいいか?」

 

残り一人を選抜しようとしたヘファイストスに挙手をし、志願した―――ミアハだった。

ヘスティア達は物珍しそうに視線を送ってしまう。

 

「ミアハ、自分からそんな事を言うとは珍しいな。特に競い合うことに関しては消極的だったろう」

 

「そうであるな。まあ、理由は色々あるが・・・・・私が出ればディアンも必ず出てくると踏んでいる。奴の注意を削ぐことはできよう。その為にも―――」

 

 

 

「アポロン~ッ!ミアハが出るならば儂は出るぞぉー!?」

 

「ドチビが出るならうちも出るでっ!」

 

「お前達、私の言うことを聞かんかっ!?」

 

一方、赤組では白組の出方を把握して暴走気味となっていて、アポロンは頭が痛い思いをする。自己主張が激しいと言うよりも気に食わない神が出て美味しい思いをしているのが堪らなく癪に障ると言った感じで、対抗心を燃やしているのだ。アポロンの陣営にいる派閥は皆強力故に個性的で自我が強い。

 

「アポロン、気苦労しているようだな」

 

「そう思っているなら私のフォローをしろディオニュソスッ」

 

常識神の一柱に求めても肩を竦められるだけで頭と肩を落とす心情のアポロンだった。仕方なしにロキとディアンケヒトを自由にさせることで苦労を減らすことしか手段は無いのである。

 

『さてさて、赤組と白組から神と眷族が決まったところで早速始めようか』

 

白組からヘスティア、ミアハ、ヘルメス。赤組からロキ、ディアンケヒト、イシュタルと神々がダルマ落としの前に立ち並び、神々の後ろにはダルマを打ち抜く冒険者達がいて、肩に大きな槌を担いでいる。

 

『最初は誰から始めたい?』

 

「私からだ」

 

「儂だぁっ!」

 

ミアハ、ディアンケヒトと最初にダルマ落としをすることに決定。一誠によって十二段目の上に乗せられついに始まろうとしていた。

 

『両者、心の準備は良いか?打ち抜く冒険者も気合を入れて槌を振るえよ』

 

腰を低く落として振り抜こうとする体勢の二人の冒険者と落ちないように身構える二柱の神は始まるその時を待った。

 

『―――第五回戦試合開始っ!』

 

鳴り響く合図の銅鑼の鐘が蒼天の空にまで轟き、競技が始まった。

 

「ぐっはっはっはっ!ミィ~アァ~ハァ~ッ!さっさと落ちてしまえー!この貧乏万年滞納神がぁ!」

 

「・・・・・」

 

挑発する初老の男神に対して、貴公子然とした男神は瞑目し出して完全に聞き流している。

ミアハのダルマを打ち抜くドワーフの冒険者も合図を待っているかのような姿勢で今まさにディアンケヒトのダルマを打ち抜こうとしている様子を見守っていた。

 

『最初はディアンケヒトのダルマが打ち抜かれようとする!さあ、綺麗に打ち抜くことができるのか!説明したが、力と器用のアビリティが秀でているほど勝利しやすくなる!そして神が最後の一段となるまで打ち抜かず、途中でダルマが崩れ、地面に落ちればその時点で失格!相手の勝利となるぞ!』

 

白組の冒険者は槌を横薙ぎに振るい、思いっきり木の塊に当てた。そして、振られた槌の衝撃で積み重なっている木の塊は、難なく完全に打ち抜くことができて鈍い音と一緒にダルマが十一段と減った。

 

「うおっ!?とっ!あ、あぶなっ―――!」

 

打ち抜かれ、一段減った衝撃で上まで伝わり危なげに揺れ、落ちないように四つ這いになって必死でしがみ付くディアンケヒト。

 

『赤組のダルマが危なげだが、ヒューマンの冒険者は一段減らした!さあ、白組のダルマは―――!』

 

「ふんだらばぁっ!」

 

ドワーフが力のあらん限り槌を豪快に横薙ぎで振るい、あろうことか―――一段と二段目の木の塊を器用に同時で打ち抜いた。

 

『なんと、白組の冒険者が一気に二つも打ち抜いたぁっ!?規則(ルール)違反ではないので問題ありませんが、いきなりこんなことをする冒険者がいようとは思いもしなかったぁー!だが、肝心の神はどうだ!』

 

二つも同時に無くなり、地面に落ちたダルマの震動はミアハにまで伝わり―――軽く跳躍して震動から逃れて、しっかりと着地したことで難を逃れたのであった。

 

『成功っ!白組のダルマは二つ分減ったことで赤組より一歩リード!赤組も負けていられないぞっ!』

 

「そうだぞっ!こちらも二つ同時に打ち抜け!」

 

ディアンケヒトからの指示に、できるかな・・・・・と不安と緊張の色を顔に浮かべたヒューマンは見よう見まねで槌を振るって二つ同時抜きを試みた結果―――。

 

『あ』

 

会場とオラリオから見ていた者達の心情が一致した一誠の声が代弁と現すようにダルマの中心が大きくずれ、ディアンケヒトを乗せたダルマはぐらりと横に傾き―――。

 

「欲張り、高望みをした結果がそういうことになるのだディアンよ」

 

淡々と地面に落ち行く初老の男神に述べるミアハ。

 

『勝者、ミアハァッ~!』

 

完全に倒壊したディアンケヒトのダルマを他所に宣言した一誠に呼応して盛り上がる会場。これで終わりではないと進行をするのだった。

 

『さあ、どんどん行こうかっ!ダルマの上に乗る神はだーれだっ!』

 

「俺だよー」

 

「イシュタル、よろしゅうな」

 

「別に構わないけどねぇ」

 

ヘルメスとイシュタルが出番として、二回戦あっという間に積み上げられたダルマの上に乗せられる。

 

『準備も整ったことで、ダルマ落とし二回目開始だっ!』

 

賑やかで楽しい催しは何時までも続くのだと誰もが疑わなかった。今日一日戦争遊戯(ウォーゲーム)で終わり、興奮を冷めないまま過ごすのだと皆そう思っていた。

 

ヘルメス、イシュタルのダルマ落としは、イシュタルの魅力でヘルメスのダルマお落とす冒険者が魅了してしまい手元が狂って男神を地面に落としてしまった結果、赤組の勝利となってしまい今現在―――。

 

「さっさと地面に落ちて今度は無い胸のように顔も潰れてしまえぇー!」

 

「それはこっちの台詞じゃぁっ!?ドチビこそ落ちてその無駄な脂肪を地面にぶつけて潰れてしまえやぁー!」

 

聞くに堪えない口ゲンカを飽きずに言い合っていた。ダルマの上に乗っている為、衝突することはないが、お互いの手が届く距離であったら掴み合いをして神々からすれば毎度おなじみのケンカをするだろう。

 

『えー、二人とも。さっさと始めたいから喧嘩しないでくれるか?』

 

「「こいつが悪いっ!」」

 

お互い相手に指を突き付けながら声を揃え異を唱える。未だに始まってもいないのに喧嘩でただ二人だけ盛り上がっているので、米神に指を添えてしまう一誠は身体を異形へと姿を変えた。

 

『―――それ以上喚くと言うなら、俺は怒るぞ。お前らの所為で時間が過ぎているんだからなぁ』

 

龍化した一誠。身体が巨大で鋭い眼差し、凶悪で鋭利な牙を覗かすドラゴンの逆鱗に触れたくもないと先ほどの態度と言動が打って変わってヘスティアとロキは静まった。今噛みつけば女神など噛み砕かれてしまうだろう。運動会に緊張が走る中、ヘスティアとロキに顔を寄せて、警告を発した一誠。

 

『どっちかが落ちるまで黙っていろ。喋ったら即座に踏みつぶす。いいな』

 

「「はいっ!申し訳ございませんでした!」」

 

素直に従う女神達と脅迫する一誠の光景は異様だった。というか、龍化した一誠がとても怖いと一部を除いて心に抱いた一同。これでようやく始められ『まったく・・・・・』と心中で呟くドラゴンは人型に戻り―――。

 

『さてと、無駄な時間を費やした堕女神どものダルマ落とし最後の試合を始める。―――競技、開始だ』

 

ようやく始まるダルマ落としの結果はロキの勝ちとなったが、最後まで一誠に睨まれ、終わるまで黙っていたので気に食わない女神に勝てたのにあまり喜べないままダルマ落としは赤組の勝利と終わった。

 

『えー結果発表。白組は現在ニ十点、対する赤組は三十点。白組をリードしている。このまま赤組みが勝ち越せば白組の敗北は必須だ。白組、赤組に負けずに頑張れ。赤組は今の勢いで勝ち進め。では、午前の部、最後の競技を始める』

 

青い『YES』と赤い『NO』と描かれている巨大な敷物の間に立って競技の内容を説明する一誠。

 

『最後は俺が出題する問題を全員が肯定と否定をしてもらう。青は肯定、赤は否定で俺が出す問題に本当か嘘かを神や冒険者達が考えて自分がこれだ!と思ったらどっちかに移動して欲しい』

 

赤組や白組の神と冒険者達全員が一先ずYESとNOに集められ、準備が整い次第始められた。

 

『全部で七つの問題を言うからよーく聞け。因みに、問題は俺が住んでいた異世界のことに関することだけだ。これなら異世界のことを知らない神や冒険者は平等に答えられるだろう。極一部の神と眷族を除いてな。なあ、ロキ?』

 

一誠が出す問題は全てロキが知っていると風な発言をした為、敵味方問わず視線はロキの方へ向けられる。

この女神についていけば自分達は勝ち残れるのではないかと期待や見え透いた結果に勝利を確信した神々だった。

 

「・・・・・ヘファイストス、どうしてロキだけ言ったんだろうね」

 

「根に持っているとしか思えないのだけれど・・・・・何か思惑があるのかしら」

 

異世界のことはロキ以外にも知っている神がいる。一誠はそれには触れずロキだけを注目を浴びせる言動にヘスティアとヘファイストスは怪訝な心情で言葉を交わす。

 

『それじゃ、第一問!』

 

ドドンッ!と擬音が聞こえそうなノリの良い一誠が発する問題を聞き逃さないと静かに耳を傾ける一同。

 

『異世界にも神は存在している。ただし、同じ名を持つ神でも全て同じである。―――肯定なら青、否なら赤に移動してくれ。制限時間は30秒。移動開始!』

 

早速出題された問題の真意を答えようと動き出す。

 

「赤よ」

 

「え、何でだい?」

 

「何でもよ・・・・・・はぁ」

 

ヘスティアを引っ張る形で否定の赤へ移動を始めるヘファイストス。他の冒険者も神々もそれぞれの考えで肯定と否をし赤組と白組が入交じった30秒後。

 

『正解は・・・・・赤!同じ名を持つ神はこの世界に存在している神とは違う部分があるので正解は赤だ!』

 

なにぃー!?と割と多い青の肯定にいる神々と冒険者から驚きの声が聞こえてくる。

 

『異世界とこの世界の神は性別が違うし性格も違うんだよ。―――因みにロキはこの世界じゃ女神だけど、俺が住んでいた異世界のロキは―――男だ』

 

知りたくもない真実にロキは物凄く落ち込んでしまい、他の神々はニヤニヤと面白いものを見る目でいやらしい笑みも浮かべていた。

 

「分かる、その気持ちは凄く分かるわ・・・・・ロキ」

 

「え、まさか・・・・・知ってたのかい?」

 

「・・・・・知りたくもなかった事実をね。ヘスティア、異世界の貴女の名前を持つ神も知ってるわよ」

 

「――――――」

 

まさか、自分も男じゃないだろうな・・・・・。と思わずにはいられなかった。

 

『問題を外した神と冒険者は失格!速やかに自分の陣営に戻ってくれ』

 

一誠からそう言われ、少々残念そうに青の肯定から遠ざかり赤組白組と別れて戻った一同を見て『第二問!』と問題を出題する一誠。

 

『異世界でも「迷宮都市」オラリオみたいなダンジョンがあるか、肯定か否か自分達の足で選んでくれ』

 

む・・・・・。これは・・・・・。そんな呟きがちらほらと出てくる。一誠の秘密を知っているロキ達でもダンジョンの存在の有無は知らない。

 

「おい、ベル。どう思う?」

 

「うーん・・・・・分からないとしか言えないよ。でも」

 

「でも?」

 

ヴェルフとリリはベルの顔を見つめる。異世界にもダンジョンがあるとすれば、一誠の力も納得できそうかな?と足を青の肯定へと自信無さげに向けた。

 

「僕はこっちにするよ。本当にあるかどうかだなんてわからないけど」

 

「・・・・・それもそうだな。おし、俺はベルについていくぜ」

 

「リリもです」

 

信頼する仲間を信じてともに行動をする。主神のヘスティアとヘファイストスも自分の眷族を信じ、行動を始める。それから30秒後―――。

 

『おー、肯定の方が多いな。んじゃ、答えを言うぞー。正解は・・・・・青!異世界でもダンジョンは存在しているから肯定だ!否定した神と冒険者達は残念!』

 

驚嘆と嘆息が聞こえる中、外した一同は速やかに場外へと移動をするのだった。

 

『それじゃ第三問!この神はだーれだ?』

 

上空に魔方陣による立体的な映像、綺麗な初老の男性が映し出され一同へ「ん?」と首を傾げた。筋骨隆々で見た目の雰囲気でも豪快そうな老人だった。

 

『青はヘスティア、赤はゼウス。さあ、この神はどっちの名前の神なのか選んでくれ!因みに、この神は異世界の神の姿だ。性別が違うってことも先ほどの問題で知ったから―――もしかしたらヘスティアって可能性もあるから当てにくいと思うけどな』

 

ガーンッ!とロリ女神が蒼の双眸を丸く見開き、絶対に違う!と赤の方へ選んだ。そんな女神の腐れ縁のヘファイストスも静かに赤の方へ選ぶ。

 

『さて30秒も過ぎたので正解を言おう。正解は・・・・・ヘスティア!ではなく、ゼウス。赤が正解だ!』

 

青にいた一同は糠喜び、赤にいた一同は安心と安堵で胸を撫で下ろす。当女神は筋骨隆々の初老が自分だと知った時には絶望に打ちひしがれそうになったが、違うと知って物凄く喜んだ。

 

『続いて第四問!異世界にもダンジョンが存在する。では、異世界にも当然冒険者がいると思うか。肯定か否定か、それぞれ移動を始めてくれ』

 

その問題に、それはいるだろー。と当たり前のように青の方へ移動する一同の中、約数名だけは否定の赤に留まった。

 

『ほほう、青の方が圧倒的に多いな。そんで、赤は少ないと・・・・・。だが・・・・・残念!正解は赤である!異世界にはダンジョンを攻略する冒険者はいないのだ!理由は単純、ダンジョンがある国と場所が遠く、ダンジョンの存在は世界にはあまり知らされていない上に国を治める者達が危険極まりないダンジョンの出入りを規制しているので、冒険者は存在しないんだ。言っとくが、嘘は言ってないからな』

 

なにぃー!?とそんな馬鹿な、と信じられない真実に耳を疑った青にいる一同。ダンジョンが存在しているなら冒険者もいてもおかしくは無いと疑わなかった故に。

 

『さて、第五問の問題を言いたいところだが―――ここで午前の部の競技はここで終了だ』

 

「「「「「え?」」」」」

 

『だって、もう勝ってるし』

 

正解した、否定の赤にいる数名を見れば――――ロキとアポロン、赤組の派閥の眷族数名が佇んでいた。

 

『白組は一人残らず問題の答えを外して赤組が正解した。だから赤組の勝利と言うこと。理解したか?』

 

赤組の陣営から歓声が沸く。青の肯定にもいた赤組の神と冒険者達も思いもしなかった勝利に唖然としていた。

 

『白組十点、赤組五十点。四十点の差で赤組は白組を上回った。さあ、負けているぞ白組。午後の部の競技で勝たないと敗北してしまう!』

 

赤組の勝利に沸く歓声の最中、白組は次は負けないと言う瞳の奥で燃やす炎の意欲を滾らせ、午後の部の競技を臨む。

 

『ここから二時間の休憩をする。各自、自由に二時間後まで過ごしてくれ。食事をするのも良し、ホームに戻るのも良し、好きに自由時間を満喫して午後の部の競技に備えてほしい』

 

―――○●○―――

 

「うーん、取り敢えず何事も問題なく終わったな」

 

「お疲れ様。でも、楽しんでいるでしょう?」

 

「まあ、そうでもあるがな」

 

元【アテネ・ファミリア】とハーデスはほのぼのと昼食。競技は二時間後始まることからゆとりができ、草原に敷いた布の上で前以て作ってあった料理を置き輪になって食べている。他の神々や冒険者達は一度オラリオに戻って食事をしに行っているので、運動会は閑古鳥が鳴いたような感じで人はいない状態になっていた。

 

「さて、午後にやる競技のLv.を上げてやるかな」

 

「ま、まだあれ以上のことがあるのですか?」

 

「あるっちゃあるほうだぞ。集団で行う踊りとか見せものとかやるんだ。単純な事や力を合わせる事も」

 

「へぇ・・・・・運動会って奥が深いのねぇ~?」

 

感心したように話に加わりつつ、一誠が掻く胡坐の上に乗っているハーデス。羨望の眼差しを向けられていることに気付きながらもあからさまに見せつけ、優越感を浸っている女神は頭を撫でられる心地良さに身を寄せて一誠の体温を堪能することで幸せを実感するのであった。

 

「あ~、俺も運動会に参加して暴れてぇ・・・・・」

 

「ダメよ。イッセーは強過ぎるから勝負にもならないわ」

 

「そうだよ?」

 

「おのれ・・・・・強いってのも考えもんだ」

 

あまりにも強い故に不便さを感じて、溜息が出る思いだった一誠の発言には苦笑いを浮かべるアテネ。神の恩恵(ファルナ)がなくても第一級冒険者並み以上の実力を有している。強過ぎる故に対等な勝負ができず暇を持て余しているのだろう。

 

「イッセーの世界の運動会ってどんな感じだったの?」

 

「そりゃ、楽しかったぞ。強い奴が交じって運動会をしていたんだ。参加している奴も人間だけじゃないから盛りあがったな」

 

途中、神の襲撃が遭ったけどと内心あの時のことを思い出し、苦笑いを浮かべた。

 

「まあ、元の世界と比べれば、この世界の実力のレベルは低い方だ。オラリオに野望を抱くよりも俺はこの異世界の全てを見聞したいかな」

 

「言ってたわね。旅をするって。本当にする気なのね?」

 

「異世界から来た俺にとって、この世界を把握したい方だ。オラリオが全てじゃない。だから、この運動会が終われば旅に出るつもりだ」

 

アテネ達も付いていく雰囲気を醸し出し、頷く。

 

「そういえば、イッセー。天界と行き来できるあの魔法って、異世界にも通じれないの?」

 

ふと、アテネはそう言いだしたことで一誠はピクリと反応を示した。超越魔法(レアマジック)による効果で別の世界に行けれないかと提案した女神に、春姫達は「どうなの?」と視線を送る。

 

「・・・・・どうだろうな。やってみないことには」

 

「じゃあ、やってみなさい」

 

主神からの命令にやってみる価値はあるとハーデスを退かせて立ち上がり、魔法の詠唱を唱え始める。思い描くのはこの世界に存在しない建物。瞑目して精神を研ぎ澄ませ集中力を高めて魔力を―――。

 

「おーい、アテネー」

 

「ロキ?」

 

金髪の少女を率いる最大派閥の登場に集中力を霧散してやってくる女神に意識を向ける一誠やアテネ達。

 

「何の用かしら?」

 

「さあ、無乳女神の頭の中が分かれば苦労なんてしないんだけどな。あ、頭ン中は酒と女だけか」

 

「そうだったわね。それじゃ、頭の中を覗く価値もないわけね」

 

失礼極まりない発言をされて頭に怒りのマークが浮かび上がるロキだった。

 

「オイコラ、聞こえてんぞ」

 

「何を言っているんだロキ。聞こえるように言ったんだよ」

 

「それすら分からないの?」

 

ムッキーッ!と怒りを抱くロキは一先ず冷静になって、用件を言い出す。

 

「派閥同士が了承すれば決闘がこの運動会の形で成り立つってホンマやろうな」

 

「ああ、それ?ロキ、どこぞの派閥と決闘をしたいのか?」

 

暗に肯定する一誠はロキに訊ねる。大方、同じ最大派閥なんだろうとフレイヤ辺りかと推測していたのだが、ロキは一誠の考えを覆した。

 

「そうや。うちが決闘を申し込みたいんのは・・・・・アテネ、お前や」

 

「はっ?」

 

何故か、【ファミリア】の再結成を承認してもらえなかったアテネに決闘を申し込むロキ。

どうしてアテネなのか、「何言ってるの?」と怪訝な表情で朱色の髪の女神を見る。

 

「ロキ・・・・・それは嫌味か何かしら?決闘は派閥同士でしかできないものなのよ?それに私は神として戦争遊戯(ウォーゲーム)の監視を務めているの。決闘なんてできるわけがないじゃない」

 

「決闘できるかどうかは一先ず置いて。うちと決闘する気はあるかどうかを聞きたいんや」

 

赤組が勝ち越しているから決闘を申しこんできているのか。それとも今までロキにした愚行を運動会で晴らす気なのかアテネの思考の中でロキの思惑の意図を読もうとする。

 

「・・・・・仮に、貴女が勝ったら何を望むの?」

 

「当然、アテネの子供、イッセーを貰うで」

 

「―――――」

 

こいつ、天界に送還してやろうか・・・・・と静かに怒りを覚えた女神はふと、デジャブを覚えた。こんなこと前にも似たような出来事が合ったような、と。

 

「・・・・・ふう、分かったわ。その決闘を受け入れましょう」

 

アテネが決闘を受けた事実をロキは間抜けな「へ?」と声を漏らす。

 

「何?私が断る前提で申し込んできたのでしょう?」

 

準備が良い一誠から羊皮紙をインクいらずの羽ペンを受け取って自分の名前を記せばロキにも突き出す。

 

「決闘を申し込んできたからには―――絶対に守って貰うからね?守らなかった場合、イッセーに貴女ごと派閥を潰させるからそのつもりで」

 

「いやアテネ?そんなことしたらオラリオに居られなくなるんやけど?」

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)が終われば旅に出るつもりだから丁度良いわよ」

 

確信犯かっ!と叫びたくなるロキは絶対に負けられない戦いに成った。ロキの名前と【ファミリア】のエンブレムを記された羊皮紙をアテネは受け取り、

 

「それじゃ、負けないように頑張りなさい?」

 

「今のうちらにドチビ達が負かすとは思えへんけどな」

 

不敵に言い残しロキは踵返して去る。そして一誠達はアテネを問う。

 

「いいのかよ?俺達が参加できるわけじゃないのに決闘を受け入れて」

 

「後、六回も戦いが残っているのだからヘスティア達に勝利の希望はあるわよ。一条の希望の光程度だけれど」

 

「不安過ぎる・・・・・今後の競技、どうしてくれようか・・・・・」

 

―――○●○―――

 

『さてさて、これから午後の部に突入するが、皆。腹いっぱい飯を食ってきたかぁー!』

 

両陣営から一誠の声にノリの良い返事が沸き立つ。現在白組は赤組に負け、このまま敗北を積み重ねれば敗北は必然的、ヘスティアはアポロンに負ける運命を辿ることに避けれなくなる。

 

『では早速。運動会の続きを始めるぞ。午後の競技の部の最初はこれだ!』

 

進行する運動会に突如、上空から降ってくる長大で紅白の色がついた綱。

 

『題して綱引き!主に必要なアビリティは「力」だ!力自慢のドワーフがいる陣営は有利かもしれない!全ての冒険者はその綱を持って全力で力を合わせて引っ張ってもらう為に全員、集合ぉっ!』

 

 

白組

 

「ベル君、サポーター君、頑張れェッ!」

 

「力なら私の眷族の出番だわ」

 

「桜花達も頑張ってくれるだろう」

 

「俺の超・優秀な眷族達もだ!」

 

「ただの引っ張り合いでも競技になるんだねぇー」

 

「運動会とは奥深いものであるな」

 

「ふふっ、そうね」

 

 

赤組

 

「お前達!負けるではないぞぉっ!?」

 

「せやっ!力ならこっちも負けておらんでぇっ!」

 

「参ったねぇ・・・・・・ドワーフなんてうちにはいないけどねぇ」

 

「まあ、一勝ぐらいは譲ってもいいじゃないか」

 

綱を引く為、戦場に赴く眷属達を見送る神々。

 

 

『それじゃ、ルールを説明するな?綱引きの丁度真ん中に布を巻いているだろう?その布が赤組白組の最前列にある白い線のところまで引っ張れば勝利となる。単純なことだが一致団結で力を合わせる競技として相応しいだろう』

 

運動会に参加している冒険者達は綱の横に待機して一誠の話に耳を傾けていた。

 

『んで、もしも開戦の合図の途中、綱を引っ張った者がいればもう一度やり直すから注意してくれよ。ただし、三度もしたら―――午前の部に現れたあのアマゾネスと二人っきりにしてやる』

 

ゾッ!と背筋が凍るような恐怖感を覚えた冒険者。特にヒュアンキトスとベルは顔を青ざめ、若干身震いを起こす。先の競技で被害者となってしまった故にフリュネと言うアマゾネスの恐ろしさを身を持って体験しているからだ。ヒュアンキトスはそれ以前の問題だが。

 

『では、始めるぞー。位置について!』

 

揃った動きをする冒険者は綱を持つ為体勢を低くする。白組はこれ以上の敗北は許されず、赤組はこの一戦で勝敗が決まるも当然。どちらも譲れない一線が綱引きであるとオラリオから観戦している面々も分かっているだろう。

 

『よーい・・・・・』

 

指を弾く音が響き渡った直後、叩かれる銅鑼の音が開戦の合図として周囲に轟く。

 

『『うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』』

 

同時に綱を持って立ち上がり、こちらへ引っ張ろうとする冒険者達。最初は力の拮抗が続くものの、徐々に、徐々に白組の方へ引っ張られ赤組も負けじと引っ張るが―――ついに白組は線のところまで布を引っ張ったことで文句なしの勝利を得たのだった。

 

『終了ぉっ!午後の部の競技の最初の勝利は白組ぃー!ここでド根性を見せた白組に拍手を送りたい気分だ!』

 

喜びの歓声が響く中一誠の実況は続く。

 

『さて、続いては神が主役だ。神々はここに集まってくれ』

 

今度は神が参加する競技。何をするのだろうかと思いながら一誠の元へ集う。

 

『第八回戦の競技は・・・・・借り物競走!』

 

上空からバラバラと振ってくる羊皮紙の巻物。その一つを手にする一誠は羊皮紙を掲げ説明に入った。

 

『この羊皮紙には冒険者依頼(クエスト)が記されている。記された物は全てオラリオにあるのでそれを持って俺のところまで来てくれ。ただし―――競技に参加している神々対する妨害は一切禁止する。もしもそんな事をした輩には、連帯責任としてお前ら神々のホームを全部潰す。無論、オラリオで観戦している冒険者、神々、一般人でも例外ではないからな。応援するだけで見守れ、いいな?』

 

警告もとい脅しは一誠がすれば十分過ぎるほど効果があった。それから借り物競走は銅鑼の音が鳴り響く事で始まりを迎え神々は巻かれた羊皮紙をそれぞれ拾い上げて内容を確認する。

 

希少果物(レアフルーツ)!?」

 

「ソーマの酒って借りられるのかよぉっ!」

 

「ガネーシャの仮面を取れって・・・・・」

 

拾った途端に悲鳴が上がる。

 

『因みに、殆どは高級な借り物しか記されていない。中には簡単な借り物もあるので手当たり次第とろうなんて考えない方が良いぞ』

 

今更な実況に神々は愕然とした。中には指名されているモンスターを借りろ描かれた巻き物もあってそれを手にした神は絶望したほどだ。さて、そんなヘスティアはどんな借り物をするのかと言えば―――。

 

―――花の名前がある冒険者。

 

「・・・・・誰だよ」

 

よもや、人類まで借り物の対象にされていたとは羊皮紙を手に入れるまで思いもしなかったヘスティア。

「だったら、ベル君を借り物の対象にしてくれば良かったのにっ」とぼやくものの羊皮紙に視線を落としていた蒼い双眸を丁度近くにいた男神に向けては助けを求めた。

 

「タケ、手伝って欲しい―――」

 

「おお、丁度良かった!ヘスティア、お前の髪飾りを貸してくれ!」

 

「・・・・・・へ?」

 

安堵の表情でヘスティアにそう申し込むタケミカヅチ。彼の男神の手の中にある羊皮紙の借り物の内容は鐘であった。その理由を知り、勝利の為あらばと蒼い花弁を彷彿させる飾り付けのリボンに、小さな銀色の鐘が付いているソレを二つともタケミカヅチに手渡して一誠のところへ向かせた。

 

『査定をお願いする』

 

『ん、えーと借り物は鐘だな?・・・・・うん、問題ない。白組、タケミカヅチ最初にゴール!』

 

この瞬間、白組が勝利に終えたのだが、まだまだ借り物を持ってきていない神々の為に競技を続けた。そしてヘスティアはタケミカヅチの手助けによって桜花を連れて一誠の元へ連れて行けばゴールを果たせた。

 

『第九回戦の競技は―――的当てだ!』

 

空中に浮かぶ数多の的が忽然と現る。

 

『全部で百の仕掛け付きの的がある。制限時間内にどれだけ的を当てて数を競うこそが的当ての勝敗のルールだ。対象を狙うことに腕のある冒険者達は俺のところまで集まれ。参加人数は十人までだ』

 

的当ての競技に参加する冒険者は神々同士の相談で決まり、合計二十人の冒険者が集った。

 

『弓矢が必要な物は俺が用意したもので使ってもらうぞ。ただし、矢の数は有限で使い終えればそこで終わりだ』

 

弓と十本の矢が一誠の前に置かれていて、弓矢で的を当てる冒険者は各々と手にする。的当ての競技の中に参加者はベルとアポロンもいた。

 

『矢にそれぞれ赤と白が塗られているな?これは的に刺さるか、刺さらずともぶつかるだけでこんな感じに』

 

赤い一本の矢を持つ一誠が宙に浮かぶ的へ投げ放ち、当てると的自体が赤く染まり出した。

 

『的は色に染まる。だが、赤の的に白の矢が刺されば塗り替えられるから射るタイミングも考えなくちゃないけない。これで説明は終わりだ。他に何か聞きたい事はあるか?』

 

弓矢を持つ冒険者達に問うが冒険者達から訊ねの言葉が来ない為、一誠は言った。

 

『それじゃ、始めるから構えろ』

 

弓矢を持った冒険者達が上空に浮かぶ的へ狙いを始める。弓に腕がある者達と魔法を放つことができる者達の集団が的を狙う。

 

『―――始めっ!』

 

一誠の開戦の合図の後に叩かれる銅鑼の音。弓で矢を射る冒険者達は矢を一斉に放った。

動かぬ物体は格好の的。冒険者の腕前ならば的を当てることは可能だろう。

 

そう。的が動かなければの話だ。

 

的が左右に動き、放たれた矢から回避したのだった。

 

『はぁっ!?』

 

動く的など聞いていないとばかり目を張る面々。

 

『おいおい、言ったぞ。仕掛け付きの的だって。だから的が動く事も想定しとけよ』

 

バーカ、と的がそんな字に並んで冒険者達を馬鹿にした。的を動かしているのは主催者側だと察した時は苦い顔をする。

 

『フハハハハッ!制限時間はたったの三分、当てれるもんなら当ててみなぁっ!』

 

縦横無尽に飛びまわる的を相手に冒険者達は四苦八苦を強いられることに。射る状態で照準を動く的へ合わせようとするが動き回り続ける対象に絞れず、中々不用意に矢を消費することができない。ただただ時間が過ぎる一方だ。

 

『残り一分』

 

残り時間が少なくなったことで、冒険者達は半ば自棄になって矢を放ち始めた。当てずっぽうで一つぐらいは的に当たるだろうと考えで。矢は空を切り、的に掠めもしないで飛んで行く中でたった一本だけが的の端っこに刺さり、もう一本の矢がその先に矢が刺さった的に当たり・・・・・白く染まった。

 

『時間終了ッ!赤組惜しい!矢が刺さったが、後から刺さった白組の矢の色に染まったことで白組の勝利となってしまったぁっ!唯一、この的しか刺さっていない!このまま白組の破竹の勢いで勝利となるか!?』

 

白組の追い上げに赤組からざわめきと不安感を抱くようになった。そんな赤組みの心情を知らない一誠は凹凸が激しい三十Mの楕円形の壁を創造した。

 

『今度はこの壁をよじ登って、頂にある旗の争奪戦だ!参加するのは勿論男神全員!この壁にも仕掛けがあるが見事に旗まで登り切って手にして貰おう!』

 

見上げれば高い楕円形の壁。掴む場所と踏み場が至るところにあり、精神と腕力、体力の維持が続かなければ登り切れないだろう。

 

「ねえ、イッセーくん。俺達が壁から落ちたらどうなるんだい?」

 

『当然、受け止める。おーい、出番だぞー』

 

誰かを呼びだす一誠の声に褐色の隕石が不気味な声を上げながら登場した。その他に十数人のアマゾネス達も続々と現れる。

 

『【イシュタル・ファミリア】のアマゾネス達に受け止めてもらうから安心して彼女達の胸の中に飛び込め』

 

ヘルメスの質問の答えたその場合に起きた一誠の対処方法に男神達は青ざめる。特に潔癖な男神は身体を貪られる想像をしただけで委縮する。特に巨女のアマゾネスのところには飛び込みたくないという思いだけは一致していた。

 

『それでは、位置について―――よーい』

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

開始の合図が鳴り、男神達は一斉に壁をよじ登り始める。赤組白組から声援が聞こえ、絶対に登ってみせるという意欲が頂に目指す男神達の姿から見れる。

 

『最初の仕掛けを発動する!』

 

一誠が何かを仕掛けた。主催者に警戒する男神達は―――壁ごと横へ動き始め、やがてぐるぐると回り始めた。

 

『回転する壁!男神達は遠心力の勢いに負けず登る他ないぞぉー!』

 

男神達の動きが鈍り、回る壁の遠心力が凄まじく掴む手が壁から放してしまい男神は下に落ちて―――悲鳴と共にアマゾネス達の餌食となった。

 

「くっ・・・・・」

 

回る壁の中でも男神達は登る。振り落とされそうになっても確実に上へ目指す気力は人類に感嘆を漏らすほど諦めない根性だった。

 

『ほほう?なら、これはどうだ』

 

意地の悪い一誠がまたもや何かし駈け出した。壁の回転が止まり―――今度は縦に揺れ始め出した。これには少なくない数で男神達は流石に壁から落ちてしまい、肉欲に飢えた猛獣に捕獲されてしまった。

 

『白組の残りは八人、赤組の残りは七人となった。さあ、仕掛けだらけの壁を無事に登り切れる事は出来るかなー?』

 

どちらの味方でもない中立の存在は楽しそうだった。縦の揺れは治まって未だに壁をよじ登っている男神達は中間辺りまで進んでいた。

 

『さーてさて、残り半分と切ったところで―――下からアマゾネスのフリュネが迫ってくる!捕まえられたら即失格!逃れるには頂点に上り詰める他ないぞー!』

 

なにーっ!?と驚きの声が聞こえる最中、巨女のアマゾネスが獲物を補足した肉食獣の目をしながら難なく登り男神達を迫る。

 

『イッセー。神と子供達の身体能力の差があると思うのだけれど?』

 

『んー、大丈夫だと思うぞ。ほれ』

 

アテネの問いに壁を登っている男神達へ見てみろとばかり視線を向けさせた。女神の双眸に映る光景は―――。

 

『うおおおおおっ!?』

 

『イッセー君。君は鬼だぁああああああああああっ!』

 

『俺はガネーシャである!だが、捕まりたくはないぞぉー!』

 

『・・・・・酷いではないかっ』

 

アマゾネスに劣らない速度で上へ目指す男神達がいた。まさに火事場の馬鹿力といえようか。

 

『これ以上の無いやる気をさせる事をすれば、今まで以上の力を発揮するんだよ。人も神も』

 

『・・・・・イッセー。流石に私もこれはヒクわよ』

 

二人が話しているその間にもフリュネは螺旋状に登り、遅れている神から一人、また一人と男神達を捕まえては熱いキスをお見舞いし下に落とす。捕まった男神は意識を失って後日。夢の中でも巨女に追いかけられる悪夢を見て目覚めたその瞬間、しばらくの間部屋に閉じ籠ってしまうのであった。

 

「あ、後ちょっとっ!」

 

「あの者にだけは捕まりたくないぞー!?」

 

『おーっと、白組のタケミカヅチ、ガネーシャが頂点までもう少しだ!続いて若干遅れてミアハとヘルメス!赤組はアポロンを始めとする三名の男神達はフリュネに追いかけられて登る速度が二倍に上がったー!ははは、見ている分楽しくて面白いなー!』

 

お前は悪魔だっ!と一誠に対する突っ込みと非難が炸裂している他所に男神(えもの)を追いかけていたフリュネはアポロン達を追いかけていた意識を、ぐるりんっと視界の端に映った今まで美味しく食べたことがない貴公子然とした男神へ変えたと思えば、四肢の筋肉をバネのように跳ねて真横へと移動した。

 

「ゲゲゲゲッ!捕まえ―――」

 

「うおおおおおおおおっ!」

 

間一髪、今いた場所から速く移動していなくなった途端にフリュネが着壁した。ミアハが上へ行ったことで追いかける巨女のアマゾネス。タケミカヅチとガネーシャを追い越し、その二人に目が入ったフリュネはニマァーと笑みを浮かべることで顔色が凄く悪く、青ざめた当の二人は―――数秒後、捕まった。

 

そして、ミアハはアポロンと一対一の対決を始めた。

 

『ミアハとアポロンの一騎討ち!下からはフリュネが迫る!さあ、どっちが勝つかぁー!?』

 

両男神の名前のコールが聞こえてくる。

 

「ま、負けてたまるものか・・・・・っ」

 

「おおおおおおおっ!」

 

二柱の男神はどん欲なまでに勝利を求め、壁を登り腕を頂にある旗へ伸ばす。

 

ガシッ!とその旗の柄に二つの内の一つの手が握った。その手の持ち主は―――。

 

「はぁ・・・・・っ!はぁ・・・・・っ!はぁ・・・・・っ!」

 

顔中に汗を浮かべ、疲弊しきった表情を全身で息をする―――ミアハの手であった。

 

『―――決着がついたぁっ!勝者、白組のミアハアアアアアアアアアアアアアアアッ!これで赤組白組の点数は同点だぁああああああああああああああああっ!』

 

うおおおおおおおおおおおおおおおっ!と会場は熱気に包まれ盛り上がった。惜しくもアポロンの手は―――アポロンの足を掴んでいたフリュネによって旗まで届かず。

 

「いっただきまーす」

 

「いぎゃああああああああああああっ!?」

 

ミアハを残して全ての男神達はフリュネに食べられてしまった。

 

「あのー?俺もいるんだけどー」

 

優男を除いて。壁の頂点に立ち旗を掲げるミアハの姿はオラリオにいる女性達の心を射止めてしまったのは別の話だった。

 

『さあ、残る競技は最後の一つ!果たして勝利の女神に微笑められるのは赤組か白組のどちらか!』

 

白組の怒涛の勢いで同点に追い付いた。対して赤組は白組の予想以上の食い下がりに最大の警戒をせざるを得ない。最後の競技、勝っても負けてもこれが最後の戦争遊戯(ウォーゲーム)

 

『さーて。最後に華を飾る競技は・・・・・やっぱり、力と力のぶつかり合い、ガチンコ対決じゃないか?』

 

静寂に包まれる運動会の会場。全員、オラリオからも観戦している者達がいる空間も口を閉じて『鏡』へ凝視すると一誠は高らかに最後の競技の内容を告げた。

 

『―――白組、ベル・クラネルVS赤組、ヒュアンキトスの一対一の勝負で全ての決着を付けてもらう!』

 

―――○●○―――

 

「よ、ベル」

 

「イッセーさん」

 

武器を取りに来たベルの前に一誠が現れた。ヒュアンキトスとの一対一を最後の勝負にした張本人が声を掛けて来て歩みを止めた。何やら包みを持っていてベルに突き出した。

 

「ただのアドバイスをしに来ただけだ。鍛練と特訓を思い出せ」

 

「・・・・・」

 

「憧憬を強く想い燃やせ。願望(ねがい)を吠え叶えろ。誰かを想う力がお前を強くする」

 

真摯に話を聞くベルは一誠から受け取った包みの中身を見れば今まで使用してきた装備であることが分かりその一式渡されたことに驚嘆する。

 

「無様な姿を晒しても構わない。恥ずかしい思いをしても構わない。ただ、悔いが残るような戦いだけはするなよ」

 

それだけ言って一誠はベルから離れた。渡された装備の一式を抱えている腕に力を静かに込め、負けられない戦いに勝利を目指す想いが高まる。

 

 

『さあ、いよいよ戦争遊戯(ウォーゲーム)IN運動会も大詰めだ。最終競技はベル・クラネルとヒュアンキトスの一対一の勝負!泣いても笑ってもこれが全てが決まる!同点の赤組白組はこの一戦で決着が付く。オラリオの住民達、そして冒険者、神々よ。一瞬の瞬きすら惜しい戦いをこれから行われるから見逃してはいけない!』

 

装備を整えた両者が対峙し合う他所に一誠の実況が場を盛り上がらせる。

 

『長ったらしく話をして焦らすのも俺は好まないから早速競技を始めるぞ!戦う場所は今いる運動会の会場だ!』

 

金色の杖から眩い閃光が迸り、ベルとヒュアンキトスの上空からカーテンのように金色の膜が広がり、一誠まで包みこむように覆った。

 

『この結界は全ての攻撃を遮断する。ただし、人の出入りは簡単にできる。試しにこの結界の強度を知らしめさせようか。【ロキ・ファミリア】のレフィーヤ。一発魔法をブチこんでくれ』

 

山吹色のポニーテールのエルフの少女が目を丸くしまさかの指名に当惑する。だが、自分がやらない限り一誠は待ち続ける雰囲気を感じて観戦席から降りて金色の結界の前に佇む。

 

『全力で撃ってくれよ?』

 

不敵に言う一誠に対して、レフィーヤは返事も肯定もせず精神を集中した。

 

「【解き放つ一条の光、聖木の弓幹(ゆがら)。汝、弓の名手なり】」

 

魔法の詠唱を始めると同時、地面に山吹色の魔法円(マジックサークル)を展開する。レフィーヤの魔法の中で短文詠唱の魔法だ。

 

「【狙撃せよ、養成の射手。穿て、必中の矢】!」

 

彼女の詠唱が高速で終わる。目の前の結界に貫こうと思いを精神力(マインド)に注ぎ込む。そして玉音の響きとともに、魔法円(マジックサークル)から強い光が立ち上がった。

 

「【アルクス・レイ】!」

 

撃ち出される光の矢。速度が重視された矢の短発魔法、しかしレフィーヤのもともとの強大な『魔力』に加え大量の精神力(マインド)が注ぎ込まれたことで、もはやそれは『矢』ではなく『大閃光(ビーム)』であった。さらに、放たれた魔法が持つのは自動追尾の属性。発動すれば絶対命中であり回避は叶わない。だが、対象物は結界だ。追尾の属性の効果は意味が成さずただ真っ直ぐ突き進むだけ。レフィーヤの魔法は狙いを違わずこともなく金色の膜と直撃し―――穴を開け突き破るどころか罅すら生じせず魔法は光粒を散らす。

 

『―――と、Lv.3の魔導士の魔法攻撃ぐらいなら防ぐことができるんで、観戦している冒険者と神々に被害は被らないから安心してくれ。レフィーヤ、ありがとうな』

 

Lv.1、下級冒険者。しかも異世界のドラゴンが張った結界はレフィーヤの魔法攻撃を完全に防ぎきった。

その事実に驚嘆、驚愕する一同。

 

『それじゃ待たせたな。最後の競技の勝敗のルールを説明する。単純な事だ。相手の戦意を無くすか戦闘不能にさせるか、武器を破壊するかだ。まあ、武器破壊は最低限の条件だがな』

 

朗らかに説明を終えると一誠は二人に視線を向け口を開く。

 

『最後の競技を始める。両者、戦闘準備!』

 

ベルは漆黒のトンファーブレードを、ヒュアンキトスは波状剣(フランベルジュ)を構えた。二人とも瞳に戦意の光を宿し、負ける気もないと雰囲気でも察することができる。

 

『―――戦闘』

 

一誠の開始宣言の途中、激しく銅鑼の音が鳴り響いた。

 

『開始っ!』

 

ベル・クラネルとヒュアンキトス、正真正銘の【ヘスティア・ファミリア】と【アポロン・ファミリア】の大将同士の一騎打ちにオラリオが、震えた。

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