オラリオで自由気ままに過ごすのはダメだろうか(一時完結)   作:ダーク・シリウス

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英雄譚45

西沿いの大通りに一軒の店が以前とは形を変えて甦った。『豊饒の女主人』と看板が飾られている店の前にヒューマン、獣人、エルフの少女、女性達が待ち望んでいた運命を叶い、感動と喜びを胸中に抱く。

 

「ようやく、ですね」

 

「はー、完成するのに大分掛かったニャ」

 

「その分、店も大きく変わったニャ!」

 

「イッセーには色々と助けてくれましたから無事に完成ができました」

 

「そうだねー。でも、これでようやく前のように過ごせれるね」

 

思い浮かべる楽しい日常。【アテネ・ファミリア】とともに働く光景。シル、リュー、クロエ、アーニャ、ルノア達は揃って同じ妄想(かんがえ)をしていたのか、笑みを浮かべ出す。あれから色々と遭った。アテネが天界送還され、数多の神が天界に送還され、モンスターがいる遊園地が開幕し、二度目の戦争遊戯(ウォーゲーム)なんて最近新しい出来事である。

 

「いっそのこと、服も新しく変えてみニャいか?」

 

「ミア母さんが許したらね」

 

「小娘どもっ!何時までそこにいるんだい、さっさと食材の調達をするんだよ!」

 

「って、それどころじゃないかもっ」

 

店の中から聞こえる女将の声にシル達が弾かれるように動き始め近日開店予定の店の

準備に追われる。そんなオラリオは変わらない。何も変わらなかった。例え遥か西方の雲天とは無縁な晴れた青空が広がり、うららかな日差しを浴びる都市の住民達は、このオラリオに『軍神』が統治する軍事国家の軍勢が侵攻してこようが動じる素振りを欠けらも見せない。

 

 

最大派閥の派閥の冒険者達が侵攻してくる敵国の軍勢と今回で六度目の戦争を始めていた。

 

軍馬の嘶きが轟く。直ぐに続くのは草原を蹴りつける激しい馬蹄の音だった。オラリオから真東に三〇Kに進んだ大平原。軍旗をはためかせる無数の騎馬が驀進する。戦場の華とも言える騎兵隊。甲冑で身を固める騎士と鎧を装備した軍馬は進路上のあらゆる物を蹴散らし粉砕する。それは多大な突破力を秘めた戦場の大槍に相違ない。槍衾のごとく前方に構えられた馬上槍が日差しを反射し銀の輝きを放つ。戦場で遭遇すれば歩兵が一様に恐怖する、そんな無数の騎兵隊の中に―――軍馬と同じ速度で走って交じっている女がいた。

 

息を乱さず、汗を浮かばせない彼女の持久力は凄まじい。黒髪をなびかせ目的のオラリオまでまだまだ距離があると言うのに表情は戦場の空気にあてられているのか、わくわくと楽しそうだった。

 

「た、隊長!大変ですっ!?前方に敵がいます!数は一!」

 

「よーし、お前達は左右に大きく分かれながら前進しろ!相手が一人なら私だけで十分だ!」

 

「は、はいっ!」

 

鉄兜の下で青ざめている騎士の一人の報告に女は更なる速度で軍馬を追い越し、一人の隆々とした肉体に厚い重装、その鎧の上にはマント。目深く兜を被っているドワーフと急接近した。

 

「むぅっ!?」

 

突然飛び出てきた女に若干反応が遅れ、携えている大戦斧を水平に構え防御の構えでまさかの拳での打撃を防ぎ吹っ飛んだ。

 

「お気をつけて」

 

軍馬の上に騎乗している味方の一人から声を掛けられるも返事をする前にオラリオへ向かってしまった。女にとって返事をせずとも心配はいらないと伝えた方だ。さて、ようやく暴れる。

 

「ははっ、ドワーフかぁ。私の相手に丁度良いな」

 

数多の騎兵達が左右に別れ、進軍の阻止を失敗に終えてしまったドワーフにとってはこれが初めての経験である。

目の前の敵を倒さない限り、この場から動くことはできないとドワーフ―――【ロキ・ファミリア】所属ガレス・ランドロックは、大きく嘆息する。

 

「この儂を殴り飛ばす者がラキアにも現れおったか」

 

Lv.はガレスと同じかそれ以上―――は有り得ない。そもそも、軍事国家『ラキア』にダンジョンがないしLv.を上昇、器の昇華をする環境がない。疑問は尽きないが、敵を倒すことに専念するガレスは眦を吊り上げ大戦斧を構え直す。

 

「おぬし、名前は何と言う?」

 

油断できない相手、そして見知らぬ強者の情報を収集とガレスの心情を知らない女は戦意に燃える赤い瞳と臨戦態勢の姿勢をして名乗り上げた。

 

「私の名前は川神百代。―――オラリオにいるイッセーというドラゴンの幼馴染だっ!」

 

 

 

 

 

「ガレスが・・・・・誰かと戦っている?」

 

「嘘・・・・・・」

 

「相手、誰なの?」

 

ガレスが川神百代とガチの戦闘(バトル)を繰り広げる大平原から離れた広野、驀進する騎馬と激しい馬蹄の音が響く主戦場。長槍を構える【ロキ・ファミリア】団長、小人族(パルゥム)のフィン・ディムナは遥か後方から複数の戦域の動きを見極め、指示をいくつも飛ばしていた中で、味方の古参のドワーフがたった一人の少女と攻防を繰り広げ続け、足止めにも等しい戦いの光景を見て目を疑った。攻め寄せて来た総勢三万の王国(ラキア)軍に対し、オラリオは仕方なしに応戦。管理機関(ギルド)の命令―――強制任務(ミッション)が発令され、都市に属する特定の【ファミリア】はこれの迎撃に当たっていた。今回も前回と同じだろうと踏んでいた神や冒険者達からすれば、初めて予想を裏切られた戦場となる。

 

「ひゃっほーいっ!」

 

突如として空から元気の良い声が聞こえてくる。フィン達が意識を空に向け、目を丸くした。

 

金色の雲に防具を身に付けている女が棒を片手に作戦本部へ急接近してきているではないか。

 

「だ、誰ぇっ!?」

 

「誰って敵しかいないじゃない!」

 

ティオナとティオネは迎撃態勢に入る。まさかの空からの奇襲に動揺するも冷静で敵を対処と頭と体が動き出す前に、

 

「太っとく、伸びれ如意棒っ!」

 

前に構えられた棒が何倍も大きく、何十倍の伸びてフィン達に襲撃した。あまりにも虚を突かれた攻撃に誰もが信じられない思いで一杯だった。地面を激しく穿ち、衝撃で予想していたより吹っ飛びながら体勢を立て直す。

 

「ぼ、棒が伸びた!太くなったよティオネ!」

 

「見りゃわかる!」

 

アマゾネス姉妹はどこかで身に覚えがあるデジャブを感じてやまない。敵は金の雲を三人の前まで降下させて対峙し、体の部分的に鎧を纏う女が朗らかに口を開いた。

 

「よっ、オイラは美猴ってんだ。よろしくな」

 

「美猴?聞いたことがない名前だね。それに、奇妙な道具を使う」

 

「しらねーのも当然だろうな。ま、ちょいっとばかりオイラと遊んでもらうぜ?お前らの主神が捕まるまでの間だけどよ」

 

あっさり爆弾発言をした美猴にフィンは後方の小高い丘へ碧眼を向けた。

 

―――聞こえてくる騒音と立ち昇る黒煙。あの丘には今回の迎撃に参戦している派閥の主神達がいる場所。

全ての指揮をしているフィンですら見抜けなかった本営の直接襲撃と奇襲。

 

「バカな・・・・・僕達に気付かず、奇襲なんて・・・・・」

 

「気付かれず奇襲するのはオイラ達は得意なんでね。主神ってのを捕まえりゃお前らは大人しくなるんだよな?無駄な戦いをしないでいいじゃん」

 

「私達を脅す気なのねっ」

 

「さあ?オレっち達はどうでもいいんだけどねー。オラリオにいるある奴を迎えに行くついでで戦争を手伝っているに過ぎないし?」

 

棒の柄をトントンと肩に叩きながら言う彼女に「誰のことだい」とフィンが問えば美猴は満面の笑みを浮かべた。

 

「イッセーだよイッセー。オレっちの大好きなイッセーだ」

 

「「「っ―――!?」」」

 

この世界にその名を持つ物はただ一人しかいない。そして、納得せざるを得ない。美猴の奇妙な道具と、嘘とは思えない発言にフィン達は確信した。

 

「異世界の、イッセーのいた世界の人・・・・・っ!」

 

「おっ、イッセーの事を知ってんだな?しかもそこまで知っているってんなら仲が良い?」

 

「ああ、少なからず彼には助けられたこともある。彼の友人で有れば話が通じるはずだ。武器を収めて投降してくれないか?」

 

未知数の力を持つ相手と戦うのはあまりにも危険。それも一誠の知り合いで有れば実力は第一級冒険者並なのかもしれない。どうにか無駄な浪費を避けたいフィンの考えは――――通じなかった。

 

「オレっちは暴れることが大好きなんだよねー。それに負けた訳でもないのに投降とか無理な提案だぜぃ」

 

攻撃の姿勢をする美猴。交渉は決裂とフィンも長槍を構え、ティオネとティオナも得物を構え―――。

 

「あん?」

 

顔の傍に展開した小型の魔方陣に耳を傾ける美猴は、突然つまらなさそうな表情を浮かべだす。

どうしたんだ?と対峙する三人へ彼女は告げた。

 

「伝言だぜぃ。主神を捕縛した。神を天界に送還されたくなければ武器を捨て投降しろってよ」

 

「「「――――――」」」

 

「あーあー、残念。お前らとの戦いをおっぱじめたかったのによぉ」

 

王国(ラキア)軍の兵士達が集まってきてフィン達を囲む。主神を脅しに使われては手も足も出せない。美猴も良しとしないようだが、最大派閥の一角が敵の手に落ちてしまった。

 

 

巌のような巨躯を誇る猪人(ボアズ)、オッタルは静かに驚愕する。

 

「我、負けない」

 

見た目は子供。だが、どういうことだ。自分を赤子のように扱い、自分以外の第一級冒険者の味方すら一撃で倒しうるこの子供は一体誰だ。主神(フレイヤ)を捕縛したラキアの者に後れを取るなど今までなかった。

 

「貴様・・・・・何者だ」

 

満身創痍、全身は重症で夥しい出血、血濡のオッタルは揺らがない確固たる意志を錆色の双眸に宿し、中途半端に折れた武器を振るった。猛牛(ミノタウロス)を頭から両断する彼の斬撃が軽く躱され、

 

「――――――――――」

 

淡く光る小さな子供の手を突き付けられた。

 

 

「我は無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)オーフィス。我、イッセーの家族」

 

 

最後に見た閃光がオッタルの意識を狩る。彼のオラリオ最強のLv.7を誇る冒険者が幼女に倒された事実は後にオラリオ中に知れ渡る。

 

 

「ほ、報告します!敵主神と派閥の有力冒険者の捕縛が成功したと伝達がっ!」

 

「ふははははははっ!どうだ、オラリオォ――――――ッ!?今回の俺は一味違うぞぉ~~~~~っ!?」

 

―――陣最奥、最も大きな幕舎の中では、一柱の男神が拳を握りしめて興奮していた。獅子を彷彿させる光り輝く金髪に真っ赤な鎧。精悍かつたくましいその容貌は『美の神』に迫るものがあり、まさに美丈夫と言うに相応しい。今回の戦争もとい抗争勃発の張本人、ラキア王国―――【ファミリア】の主神アレスである。椅子に腰かける彼はもたらされた兵の報告に勝利の瞬間の喜びを噛みしめ、その相貌を盛大に歪めた。

 

「な、尚・・・・・陣営に現れたオラリオの金の亡者どもも一網打尽しています。この機にいま、オラリオに身代金の要求をするようにと、あの方々に申されましたがいかがしますか?」

 

「無論、するに決まっている!今まで味わった屈辱と敗北をここでスッキリにしてくれる!」

 

六度目のオラリオ侵攻劇は今までと一味も二味も違うことにアレスや将校の者達は肌で実感している。

まさか、本当にオラリオの侵攻が成功してしまうのではないのかと今でも信じられなさそうに、良い方向へ進む戦争の状況に思わず武者震いする者もいるほどだ。

 

「それと他にも報告が。あの方々は我々も進軍し、オラリオまで進めとの進言が」

 

「よかろうっ!この私自らオラリオを侵攻する様を見てくれよう!全軍、直ちに進撃の準備をするのだっ!」

 

意気揚々と誰かの指示に従って動き出すラキア軍。そして経験を積むため主神付きの副官として同行している王国(ラキア)の第一王子―――【アレス・ファミリア】の若き副団長は、異性の憧れである美貌に不安の色を浮かべていた。

 

「なんか、嫌な予感がする」

 

 

 

 

ギルド本部地下神殿―――。

 

忘れ去られた古代の神殿の雰囲気を漂わせる暗闇に塞がられている石板の床と天井と壁に、唯一の四炬の松明が周囲の闇を裂く灯となって静けさを保ってモンスターの巣窟、ダンジョンに祈祷を捧げ続けている老神の姿を照らしている。

 

「ウラノス・・・・・大変なことが起きた」

 

黒衣のローブを全身に覆うように被っているフェルズから発せられる静かな声に蒼の双眸が彼の者を見下ろし向く。神座の下に佇むフェルズは得た情報を打ち明ける。

 

「ラキアの軍勢が真っ直ぐこちらに向かって来ている。捕縛した神と冒険者の身代金の要求もされたようだぞ」

 

「・・・・・ロキとフレイヤがアレスの手中に落ちたということか」

 

「真に信じられないが、今回の王国(ラキア)は何かが違うようだ。どんな魔法(マジック)を使えば第一級冒険者を捕縛、倒すことができたのか・・・・・」

 

最大派閥の主神や冒険者の捕縛は予想外過ぎるオラリオ。最強の冒険者まで打破される考えはできようか。否、できない。フェルズの言う通り、足並みを整え彼の王国はゆっくりと進軍をしオラリオに迫っている。

 

「どうする。オラリオに今のラキアを止められる勢力、冒険者はいないぞ。ましてやロキとフレイヤの眷族を打ち破るほどの実力ある冒険者を超える者は・・・・・」

 

「いや、まだいる」

 

遮る声がフェルズの口を閉ざした。

 

「まだ希望はある」

 

「・・・・・彼等に頼むのかい?【ファミリア】の結成を許さなかった貴方が」

 

最後の賭けに等しい懇願をフェルスがするのだが、皮肉な言葉をウラノスに掛けた。

蒼の双眸はゆっくりと重く、瞼で閉る。

 

「特例として、この時をもって【アテネ・ファミリア】の結成を認める。報酬も思うがままと伝えてほしい」

 

「・・・・・貴方の神意のままに従おうウラノス」

 

暗闇と同化し、フェルズは老神の前から姿を暗ます。信頼できる手駒に託した懇願は無事に成功することを、迫りくる軍勢を撃退してくれることを祈った。

 

―――○●○―――

 

空飛ぶ絨毯で【アテネ・ファミリア】のホーム『天地の城』へ辿り着いたフェルズは問題もなく件の人物と接触が果たし、四人も増えた一誠も含め九人のギルドから正式に認められない冒険者とその主神、食客として下界に降りた女神の十一人が内密な冒険者依頼(クエスト)の内容以前にラキア王国の応戦として出陣した最大派閥が打ち破られた話に興味と疑問を抱いた。

 

「ラキアって強かったのか?」

 

「今まで五度も侵攻されてきたが全て圧倒的に対処ができていた。だが、今回は信じられないほどラキアで何かが起きたのか、ラキアの進行が止まらないでいる。後数時間もすればオラリオに辿り着くはずだ」

 

「で、【ファミリア】の再結成を認められていない、一般人の俺達に強制任務(ミッション)が発令されたわけだ?随分と無視の良い話じゃないか。正直、オラリオがどうなろうが個人的にどうでもいいんだけど」

 

やはりというか、いい感情を抱いていなかった。だが、オラリオの侵略を成功させてはならないウラノスの神意を受け賜わったフェルズは頭を下げる思いで願いでた。

 

「もしも依頼をやり遂げたら報酬は望みのまま。【ファミリア】の結成も特例として認めてくれる。だから頼む。ラキアがオラリオを支配することになればこの都市はどうなるか想像ができない。ウラノスの神意をどうか・・・・・」

 

「・・・・・」

 

旅の支度を進めているところに面倒な依頼が白羽の矢のごとく振って来た。

捕まった神と冒険者であれば、ロキ達も含まれているのだろう。助ける義理は、もうないと思っていたが

 

「イッセー・・・・・」

 

「・・・・・」

 

アイズとリヴェリアがかつての仲間と主神だった神の救出を望んでいる。家族と成った彼女達の想いを一誠は応えない訳がない。静かに深い息を洩らして首肯した。

 

「分かった。追い返せばいいんだな」

 

「その通りだ。それと、殺生は極力控えてくれ。できるか?」

 

「ああ、分かってるさ」

 

【ファミリア】の復活ができるなら、捕えられた神と眷族、ラキア王国の軍勢を退かせる難易度の高い依頼を引き受けた一誠。感謝の言葉を発するアイズと無言で頭を垂らすリヴェリア。フェルズも感謝の念を抱き、ウラノスのもとへと舞い戻った。

 

「それじゃ、作戦を考えるとするか。というか、前線で戦えるのって俺とアイズぐらいだな。他の皆はこのオラリオに留まって俺とアイズが打ち漏らしてしまった敵に対して迎撃、魔法を放ってくれ」

 

「私達も前線に出なくて良いのか?」

 

「いんや、いい。フィン達を捕まえた実力者が何人もいるとすれば、後衛がメインのリヴェリア達じゃあっさり捕まってしまう。それと、情報じゃ【ヘファイストス・ファミリア】はいるんだったな」

 

「ああ、そうだ。椿にも頼むか?」

 

頼めるか?と視線で訴える一誠に王族(ハイエルフ)は任せろと首肯する。Lv.5の第一級冒険者の椿・コルブランドの実力は欲しいと考えるドラゴンの戦力増強は必須だと悟る。

 

「相手は強敵だろう。俺達もそれなりの準備をして敵を迎撃するぞ」

 

重々しく頷く仲間達に行動を移させる。

 

「さて・・・・・相手は誰だか知らないが、思い通りになると思うなよ」

 

 

 

「ふっふっふ・・・・・無様な姿だなぁ。ロキ、フレイヤァ?」

 

縄で拘束されている二柱の女神の前にいやらしい笑みを浮かべ、愉悦に浸っているアレス。

他の神々もまさかの状況に余裕がない表情で大人しく拘束されて助けを乞うた。

だが、オラリオが身代金を支払う額は膨大で全て支払えば大打撃を食らってしまう。

ギルドはこの事態を重く受け止め、慎重に検討をしていることをこの場にいる神々は知らない。

 

「アレス・・・・・なんやお前。何時の間にとんでもない子供を眷族にしたんや」

 

牢屋もとい檻の中で奥歯を噛みしめ、悔しさを隠さず顔に出すロキ。解放されたら絶対仕返ししてやると胸中決意して問いだたした。

男神は鼻で笑い、腕を組んでロキの発した言葉を否定した。

 

「残念だが眷族にしていない。一時的な協力関係だ」

 

「なんやと?」

 

「オラリオに用があるらしくてな。衣食住の提供と眷族の強化、オラリオの侵攻の達成を交換条件に協力を得たのだ」

 

―――恩恵を与えられていない子供が神々を捕まえ、最強の冒険者達も相手にでき倒し、捕まえることが可能な下界の子供。

 

そんなありえない現実をロキは覚えがあった。まさか、と思いながらロキは聞き出す。

 

「おい、まさかと思うけどアテネの子供、イッセーってちゅう子供と手を組んでいるわけないんやろうな」

 

「答える義理は無いなぁ?」

 

ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべるアレスを「ムカツク~ッ!」と歯を剥き喚くロキの隣で静かに座っているフレイヤも尋ねた。

 

「私達の子供達は?」

 

「お前達と同様に檻の中だが、手当てが必要な者には治療をしてる」

 

「・・・・・お前、なんでそんなことをしているん?」

 

「私の協力者がそう従っているのだ。仕方なかろう」

 

アレスの意志ではなく、協力者が独断で行っているとロキとフレイヤは不思議と小首を傾げた。

 

「今は眷族の事を心配するより己の心配をするのだな。お前らを利用してオラリオに乗りこんでやる。フハハハハハッ!」

 

悪役の最後の捨て台詞を言い残し、ロキ達の前からいなくなるアレスに付き沿う副官も去れば捕まった神々の牢屋軍馬の場敵の音がだけが聞こえてくる。

 

「アテネの子供が繋がっているとは思えないのだけれど」

 

「せやけど、神の恩恵(ファルナ)無しでうちらの子供達を相手にできるのはイッセーしか知らんで」

 

「そうね・・・・・。でも、私達を捕まえたあの子達はどう説明できるの?」

 

「むぅ・・・・・」

 

捕まってから一瞬も自分達の眷族の顔を見ていない。できれば一目でも見たかったが敗者に情けはないようだった。そして、神々を捕まえた敵はまだ若い少年少女達だった。一誠が魔法で違う姿に変身しているのかと思ったがアレスが言った「オラリオに用がある」と発言に確信はないがどうやら別人の可能性が浮上した。

 

「ホント、誰や。うちらをこんな目に遭わせたあいつらは」

 

 

 

 

強制任務(ミッション)が発令して二時間が経過した。その間、戦闘準備を済ませ、共闘する仲間も集め終えた。前衛は一誠、アイズ、椿、ミアに頼んでリューの力やヘルメスにも助力を求めアスフィも借りることができた。

 

「何時振りだ?お主らと共闘をするのは」

 

「相手は人間だがな」

 

「ええ、分かっています。最大派閥の冒険者を捕まえたラキアの者の顔を拝みに行きますかね」

 

「やり過ぎない程度に倒します」

 

「・・・・・助ける」

 

オラリオの市壁上部から西の方角を見据える五人の少年少女と女性。全員完全武装で何時でも出陣ができる身支度を整えていた。

 

「それじゃ、作戦の最終チェックだ」

 

一誠が話を切り出す。

 

「俺とアイズ、椿が派手に暴れ回る。意識を向けられている敵陣にアスフィとリューは悟られず捕まえられている神を救出してくれ。その際、この玉を砕かせてほしい」

 

二つの亜麻袋の中身は緑の玉が多く入れられていた。アスフィとリューはそれを受け取り、中身を見て訊ねだす。

 

「これは何ですか?」

 

「帰還玉。違う場所から指定した場所に移動できる玉だ。それを砕けば魔法円(マジックサークル)が展開してここオラリオに転移できる」

 

「・・・・・これ、量産できれば絶対にバカ売れしますよ」

 

稀代の魔道具作製者(アイテムメイカー)も唸らす道具(アイテム)だった。知的が富んだ眼鏡越しの碧眼は物欲しそうな眼差しを一誠に向けないはずがないアスフィ。

 

「イッセー・・・・・改宗(コンバージョン)しませんか?ヘルメス様も大歓迎してくれますよ」

 

「―――【万能者(ペルセウス)】。それは手前の台詞でもあるぞ。イッセーの鍛冶の腕前は目を張るものがあるからな」

 

椿に抱き寄せられ、窮屈にサラシで巻かれた胸へと押し付けられ自分のだと自己主張(アピール)をする。

「むっ」と面白くなさそうにお気に入りの少年の腕を掴めば、両腕を絡め、負けじと胸に抱き寄せた。

 

「ダメです。イッセーだけは譲りません」

 

「ほう、奇遇だな。手前もそのつもりであるぞ?」

 

一誠の腕を見込んで、気に入って是非とも欲しい人材とお気に入りの異性。共通する思いは一致して衝突し合うのはもしかしたら必然的だったかもしれない。だが、二人の他にも譲れないと主張する女がいた。

 

「・・・・・」

 

腰まで届くフードの付いたケープを被らず妖精と呼ばれても過言ではない美しい容貌を表に晒し、金髪に澄んだ空色の瞳に確かな嫉妬と負けない意志が宿っていてリューは前から一誠を抱き絞めた。

 

「イッセーは私の・・・・・大切な人です」

 

「「・・・・・」」

 

まさかの第三者による介入に椿とアスフィは以外だったようで新たな恋敵の存在を心に刻んだ。

 

「・・・・・」

 

だがしかし、リューだけではなかった。一誠の服を摘まむように掴んで口で主張しないものの、負けたくない意志が確かに身体と雰囲気で主張しているアイズも、一誠の事を気に入っているのだ。

 

「「「「・・・・・」」」」

 

四人の少女と女性が無言で睨むように見つめ目から火花を散らす。そして、四人に気に入られている当の本人は―――。

 

「すまん。今は件の方へ集中してくれ。終わったら俺ができることなら何でも願いを叶えるから」

 

「「「「はい(おう)(うん)」」」」

 

そう告げればあっさりと言うことを聞き、一誠のお礼を頭の中でどうしてくれようかと楽しく悩む恋する乙女達を知らない少年は西へ目を向ける。

 

「行くぞ。全部取り戻す為に」

 

 

オラリオから一〇K先まで進んでいる王国(ラキア)軍は停止をしていて、最終調整を整えていた。英気を養い、念願のオラリオ侵攻達成までもう目と鼻の先というところまで迫っていることに緊張で高鳴る鼓動、武者震いを起こしている。

 

「全軍、前進せよっ!」

 

将軍の指揮の言葉に三万の軍勢が乱れのない動きで、騎馬、歩兵と言う順に動き始める。

 

「突撃ぃっ!」

 

うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!と雄叫びを上げる。主力の勢力は殆ど捕縛し、自分達の妨げとなる恐怖の冒険者はいない。心おきなく攻め立てられることができると心に余裕が生まれ、恐怖心はない。

 

『―――――――――――――――――――――!!!!!』

 

激しい馬蹄の音が地面を鳴らし、草原を駆ける。兵士達は心から、魂から雄叫びを上げ、軍旗をはためかせる。

六度目のオラリオ侵攻は成就する。そう誰もがここまで来て確信していた。

 

 

しかし、嘲笑うように突如として形容し難いプレッシャーが襲われた。

 

 

人だけではない。軍馬もそれを感じ取って驀進していた四足を停止してオラリオへ進みたくないと馬上している騎士達を振り落とすか、乗せたまま踵返して生物の本能に従い蜘蛛の子が散るように逃げ出した。

これには騎士達や逃げ出す軍馬の様子を見ていた兵士達も目を疑い、動揺する。

 

「―――――向こうから来てくれるなんてな」

 

騎馬隊ではなく、歩兵隊に交じっていた川神百代は嬉しそうに口の端を吊り上げ、赤い瞳に歓喜の色を浮かべた。

気を探知すれば、複数の気を感じ取れ真っ直ぐこっちに向かっていることが把握できる。

 

「進め!敵はまだ諦めてないぞ!」

 

彼女の言葉に歩兵隊は歩みを再開させる。前線の騎馬隊は潰走中だ、突破力の優れた軍馬が逃げ出してしまっては地道に走ってオラリオへ進むしかない。

 

―――その歩兵達も恐怖を植え付けられる。

 

前線にいた歩兵の一人の懐に三人の少年と少女、女性が飛び込んできた。

 

「へ?」

 

次の瞬間。軽く数十人が上空に舞い上がって吹き飛んだ。難を逃れた兵士達から見れば何が起きたのか理解できていない。ただし、それはすぐに自分達も体験することに。

 

「アイズ、椿。蹴散らし続けるぞ!」

 

「おう!」

 

「うん」

 

三万の軍勢の中をたった三人だけで飛び込み、兵士達の戦意や士気を削り、殺がす。

 

「け、【剣姫】!?」

 

「け、【剣姫】だぁあああああああああああああ!」

 

『逃げろぉおおおおおおおおおおっ!』

 

・・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

「ふむ、流石は【剣姫】。存在を見せ付けるだけで敵が逃げ出すぞ?」

 

「・・・・・アイズの強さがラキアにも知れ渡っていたんだな」

 

「・・・・・」

 

三人の活躍以上に兵士達がアイズの存在を目の当たりにして、勝ち目がある筈がない!と潰走する。

その恐怖が後ろの兵士達にまで伝染して、武器を手放しに逃げ出す始末。

 

「意外と、アイズだけ戦線に出せば楽に追い払えるんじゃなかったか?」

 

「元【ロキ・ファミリア】の最強の剣士アイズ・ヴァレンシュタインの名は世界中に知れ渡っておるからなぁ。【剣姫】の強さ、たった一人で階層主を倒す力は恐怖の対象として見られてもおかしくはない」

 

「そんなこと、ない」

 

何気に失礼なことを言いだす二人に頬を膨らませて否定する。だが、現に美しさと強さを兼ね備えているアイズを一目で見た途端に王国(ラキア)軍は逃げ惑っている。

 

「まあいい。作戦は順調と言えよう。俺達はこのまま―――暴れるぞ」

 

逃げる草食動物を追いかける三匹の肉食獣。無駄に傷を負わせるのではなく気絶させ、意識を狩る程度で千切っては投げ、千切っては投げと一方的な戦いは―――。

 

迫りくる巨大な光柱が一誠に向かうまで続いた。

 

「こいつは―――!?」

 

バシンッ!と手の平を横薙ぎに振って光柱を明後日の方向へ弾いた。後に轟く轟音。一誠は信じられないと愕然とした表情を光柱が現れた方向へ目を向ける。今の技は、今の『気』は、一誠しか気付かない気の持ち主のものだった。この世界にいる筈がないと疑いようもなかった。そう思っていた。

 

―――まさか

 

―――まさかっ

 

―――まさかっ!

 

「お前・・・・・なのか・・・・・?」

 

腰まで伸びている黒い長髪、豊かな双丘、華奢な腕とくびれた腰、しなやかな脚を動かして近づいてくる少女に呟いた。その呟きは彼女に届いたかは知らないが―――。

 

「久し振りだなぁ一誠」

 

聞き間違える筈がない声。見間違えるはずもない彼女の笑み。一誠は今度こそ驚愕した。

 

「どうして、この世界にいるっ!?」

 

「当然、お前を探しに来た!」

 

彼女の堂々とした発言に酷く動揺する。こんなタイミングで、敵として再会するなんて考えもしなかった、思いもしなかった。

 

「イッセー、誰?」

 

「手前も知りたいぞ」

 

アイズと椿の問いかけに若干震えた声で答えた。

 

「名前は川神百代・・・・・俺と同じ異世界からやって来た、体術・格闘術だけなら俺並みに強い人間だ」

 

「「―――っ!?」」

 

一誠と同じぐらい強く一誠と同じ異世界から来た人間。帰って来た信じられない彼女の正体に第一級冒険者と一誠の三人掛かりなら倒せるはず、とアイズは考えた。だが、彼女がいるとすれば・・・・・。

 

「百代!まさかとは思うが・・・・・リーラ達もこの世界に?」

 

「当たり前だろう。お前を探しに一人残らずやって来た。立場上来れなかった奴もいるが、全員いる」

 

「―――――」

 

信じ難い事実に動悸が治まらない。本当に、本当に皆がいるのか・・・・・。嬉しいはずなのに、この戦争の所為で素直に喜べない。一誠は戦意を滾らせている川神百代は戦う気満々な雰囲気を感じ取り―――己も手を固く握りしめた。

 

「オラリオを守らないといけない理由がある」

 

「・・・・・」

 

「百代。お前が、皆がこの世界に来るまで俺は大切な家族を見つけてきた。今、あのオラリオにいる」

 

―――――だから。

 

「悪いが、オラリオ侵攻の野望を打ち砕かせてもらうぞ」

 

その発言に川神百代は歓喜極まった笑みを浮かべ出した。まるで最初から戦うことを臨んでいたように一誠だけ見つめ、体勢を低くして肉弾戦で勝負する姿勢に入る。一誠も然りだ。

 

「アイズ、椿。手を出さないでくれ」

 

「「・・・・・」」

 

二人は沈黙を保ち、肯定と取った。静観してくれることに心中で感謝し、

 

「行くぞ、百代」

 

「ああ、久々の一誠との勝負だ。この世界でどれだけ強くなったのか私に教えてくれ!」

 

どちらからでもなく、一誠と百代は大平原を駆け、衝突した―――。

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