オラリオで自由気ままに過ごすのはダメだろうか(一時完結)   作:ダーク・シリウス

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冒険譚4

東の空より朝日が上がり、広大な街並みが照らし出されている。高い市壁に囲まれるオラリオにも朝の日差しは届き始めていた。清涼な空気に都市全体が包まれている。都市北部の来たメインストリート沿いにある【ロキ・ファミリア】の本拠(ルーム)、『黄昏の館』では朝早くから街へ赴こうとする金髪の少女がいた。

金の長髪を左右に揺らし、武装した状態のアイズ・ヴァレンシュタイン。彼女から並々ならぬ形容し難い何かが伝わってくる。

 

「(あの人の居場所は分かった・・・・・)」

 

強い―――とても強い―――。そんな人が誰でもすぐに行けれる場所、気軽に会える場所にいる。それはこれから一誠に会いに行こうとするアイズにとって接しやすい環境だろう。これからもずっと会いに行けやすい場所なら何時でも会える。

 

「(行こう)」

 

そして、彼の強さの秘訣をあわよくば教えてもらおう。自身の限界を超える為に―――。

 

「―――やはり、行こうとしていたな」

 

前に足を動かした矢先、耳朶に触れる静かな声。聞き慣れた声であり首だけ背後へ振り向かせると視界に翡翠の長髪と同じ色の双眸の王族(ハイエルフ)のリヴェリア・リヨス・アールヴが佇んでいた。

 

「・・・・・ダメ?」

 

と、これからどこに行こうとしているのか把握している風なリヴェリアにダメと言われたらどうしようと・・・・少し困った顔で―――ダンジョンに行く振りしてでも会いに行こうとアイズらしかぬ考えてたところでリヴェリアは真っ直ぐ告げた。

 

「逆だ。私も同行させてもらう」

 

驚いた。リヴェリアも一誠に会いに行こうとする。その理由は自分と同じかそれとも別の理由か・・・・・。

だが、気がかりがあり「フィンには?」と尋ねたところ。アイズの気持ちを汲んでいたのか。

 

「お前のことだ。明日になれば朝一にあの酒場に行くかもしれないからと私のことも含めフィンには言ってある」

 

―――ナイス、リヴェリア。アイズの心の中の幼いアイズも親指を立ててグッジョブッ!と可愛く称賛した。

これでどれだけ遅くなっても一誠と一緒にいるだろうと言う認識をされて心配もしなくなるだろう。

 

「ありがとう・・・・・」

 

「気にするな。長年お前を見守っていれば少しぐらいはお前の気持ちが分かる」

 

先に歩きだすリヴェリアに続くアイズ。目指すは西のメインストリート沿いにある酒場だ。

 

 

「よってらっしゃいみてらっしゃい!今日の朝弁当は【ソーマ・ファミリア】製の酒、『ソーマ』がついた朝弁当!仕事の休憩の合間に、ダンジョンの中で飲んで活力を得よう!期間限定な為に値段は三九〇ヴァリスだー!」

 

『『『『『うおぉー!』』』』』

 

「「・・・・・」」

 

目的の人物がいた。しかも、朝だと言うのに酒場の前は大勢のヒューマンや亜人(デミ・ヒューマン)がこぞって集まっては用意されている朝弁当と少し小さめな酒瓶を買い求めていた。とてもじゃないが冒険者とは思えない商売上手だった。

弁当と酒は十分もしないうちに完売して買えなかった消費者は「明日こそは・・・・・っ!」と悔いの念を抱いて去っていく。

 

「あ、アイズとリヴェリア。おはよう」

 

「・・・・・おはよう」

 

「・・・・・お前は何時もこんなことをしているのか?」

 

「週に三日はこうして販売しているぞ」

 

テキパキと片付けて売上金が詰まった亜麻袋を店の中に持ち込んで行く。

 

「・・・・・冒険者、だよね」

 

「ここに住み込みで働いているらしい。その影響を受けているんじゃないか?」

 

自分と同等以上の戦いを繰り広げた人物とは程遠かった。酒場の店員として違和感もなく溶け込んでいた。

程なくして一誠は店から出てきた。

 

「二人も弁当を買いに来たのか?だったら悪いけど見てた通り完売してしまったぞ」

 

「いや、私達はお前に用があるんだ。今日一日、お前の行動を見てみたい、とな」

 

「俺の行動を今日一日・・・・・?」どうしてそんなことを、と二人に不思議で見つめる。

 

「一日?」

 

「うん、一日」

 

「本当に?」

 

「ああ、本当だ」

 

念の為に確認と思って尋ねれば真剣(マジ)だった。

 

「ついてこられるか?なんて愚問なことは言うつもりないが・・・・・まぁ、いいや」

 

二人の同行を許すことにした一誠。ダンジョンに向かう為、白亜の魔天楼の塔に二人を引き連れて移動を始める。

 

「イッセー、今日は何階層まで行くつもりなんだ?」

 

「深層だ。また62階層に行くつもりだ」

 

「深層・・・・・?とてもじゃないが一日で辿りつける階層ではないぞ」

 

最大派閥の冒険者として深層までの道のりは遠く険しい。アイズもリヴェリアも深層まで辿り着く時間はかなり掛かることを熟知している。

 

「ああ、地道にダンジョンの中を歩くんだったら一日で辿り着くのは不可能だろう。でも、俺は他の冒険者とは違うんだよ」

 

「・・・・・違う?」

 

「そうだ」

 

急に足を停めた一誠に合わせてアイズ達も足を停めた直後。前触れもなく石畳の地面に魔法円(マジックサークル)が発現した。

 

「まずは50階層に行く」

 

「「―――っ!?」」

 

魔方陣が発する光に包まれ、三人の視界は真っ白に染まった。

 

―――○●○―――

 

思いもしなかったアイズとリヴェリアの同行。まぁ、別に問題は無いだろうと許したが今回はどのぐらい稼げれるだろうか。転移魔方陣で一気に深層の50階層までジャンプして移動したことで―――。見覚えのある階層が突然来て二人は目を張った。

 

「本当に、50階層だ」

 

「どうなっている・・・・・我々はさっきまで地上にいたはずなのに」

 

「瞬間移動―――まぁ、一気に50階層まで転移したんだよ。魔方陣で」

 

「魔方陣で別の場所に移動したと・・・・・?」

 

翡翠の瞳は大きく開いて俺に聞いてくる。本当・・・・・この世界の魔法は凄いんだが凄くないんだがわからん。

 

「そういうことだ。だから一瞬で深層に行けたり地上に戻ったりすることができる。この転移式魔方陣は俺しかできないだろうなオラリオに存在する魔導師の中じゃ」

 

時間も惜しいから下層へと足を運ぶ。鉛色の天井や壁、床に続くルートへ突き進み、例の場所まで赴く。

繋がっている横穴を通り過ぎようとした矢先、俺の腕に大糸が絡んできた。

 

「HIT!」

 

「「え?」」

 

そこは普通、驚くのではないか?と二人の反応を無視して両腕で糸を巻き上げていくと横穴から巨大蜘蛛が俺に引き摺られながら現れた。―――まだまだ殺さんよ?全貌を晒す巨大蜘蛛『デフォルミス・スパイダー』の周囲の地面から魔剣を出現させて動きを封じて

 

「い~とまきまきい~とまきまき~♪」

 

蜘蛛の糸は色々と便利だ。今度、アスフィにも教えてみようと思いながら、

 

「・・・・・私達の考えとは明らかに異なっている行動だなアイズ」

 

「うん、そうだね・・・・・」

 

蜘蛛の糸を絞るだけ搾り取って、最後は魔石ごと剣で貫き倒す。採取した糸をバックパックに仕舞って待たせている二人に振り返った。

 

「よし、行くか」

 

「あの糸をどうするのだ?」

 

「色々と利用活用するさ。糸は利用価値がある」

 

「・・・・・とてもそう思えないのだがな」

 

ふふん、君達と考えは違うのだよ。まあ、今後のお楽しみだ。

 

「イッセー・・・・・分かってると思うけど、50階層から下は・・・・・」

 

「ああ、狙撃されるんだろ?分かってるよ。だが―――」

 

敢えて狙撃されて俺は竜穴に飛び込む所存だぞアイズ。鉛色の通路を進み、遭遇(エンカウント)するモンスターは「私もやる」といってアイズが倒してくれる。俺とアイズの活躍で出会うモンスターを一蹴し続け、小一時間で52階層まで辿り着いた。

 

「よし、待つか」

 

「待つって・・・・・なにを?」

 

「狙撃だよ」

 

足元に巨大な魔方陣を展開してその時を待つ。リヴェリアとアイズは目を張って俺の言動に「馬鹿な真似は止めろ」とリヴェリアが警告してくるが―――響いた。地の底から昇ってきたかのような、禍々しい雄叫びが。

この咆哮を待っていたかのように俺は深い笑みを浮かべた次の瞬間。地面が爆砕した。が、防御式の魔方陣が轟炎と紅蓮の衝撃波を完全に防いで俺達に直接ダメージは皆無。

 

「防いだ・・・・・だと・・・・・!?」

 

「この足元に展開している魔方陣は防御式魔方陣だ。全てとは言えないが攻撃を防ぐことができる砲竜(ヴァルファング・ドラゴン)の攻撃もご覧の通り、防いだ」

 

そして―――魔方陣を消して俺達は『竜の壺』に垂直落下を始める。

 

「なっ―――!?」

 

「作ってくれた穴でさらに『深層』まで行った方が早いだろう?」

 

まさかの落下にリヴェリアは目を張って口内から驚きの声を漏らす。

 

「常識外れな行動をしてくれる・・・・・!」

 

「はっはっはっ!俺の行動は何時も常識外れなのさ!」

 

アイズとリヴェリアの腰に腕を回して、真下へ宙を蹴って突き進む。通過した縦穴の蟻塚のような横穴から飛竜(ワイヴァーン)が夥しい数で飛び出してきて俺達の後を追いかけながら火炎球を放ってくる。―――奈落の底と彷彿させてくれる58階層の地底にいる大紅竜からも巨大な轟炎球が迫る。

 

「―――返すぞ!」

 

おらぁっ!と気合の入った蹴りを瞬く間に凍らせた巨大な火炎球を下へ突き飛ばし上からやってくる飛竜(ワイヴァーン)に鎌風を起こした巨大な斬撃を放って駆逐している余所に、巨大な氷塊に何度か火炎球がぶつかって徐々に形が崩れ、最後は完全に焼失した同時に俺達は58階層に辿り着いた。

 

「到着っと」

 

また遊びに来たぞ砲竜(ヴァルファング・ドラゴン)。既に俺達を囲んでいる大紅竜を一瞥する。

警戒するアイズとリヴェリアは俺の背と合わせて戦いを臨もうとしているが。

 

「悪いが連れがいるんでな。早々に倒させてもらう」

 

いなかったらゆっくり遊んでやるところなんだがな。地面から生える巨大な剣に貫かれ、首を両断されるドラゴン達が灰と化する様を見届ける。死骸の中にあるドロップアイテムを見つけてはバックパックに入れる作業をしつつ、新たにダンジョンの壁から生まれたモンスターには攻撃させる余地も与えずに屠る。

 

「お?稀少なドロップアイテムゲット!」

 

『砲竜の宝玉』と名付けようか。仄かに伝わる温もり、固い感触を感じさせる硝子細工のような膜の中では紅い光を発していて光量は何時までも消えない。これもバックパックの中に仕舞い込んで、アイズ達に振り返る。

 

「そんじゃ、59階層に行くぞ。心の準備はできているか?」

 

「・・・・・うん」

 

「もう・・・・・お前には驚かされるばかりだ」

 

何を言っているんだ?これからもっと驚くような出来事がこの先待っているんだ。

そんなんじゃ心身ともに保てないぞ。寒気を感じる通路へ足を運ぶ。

 

 

 

59階層の『氷河の領域』の中を踏みしめながら前へ歩くアイズ達。【ロキ・ファミリア】が目指していた未到達領域の階層をアイズとリヴェリアはフィン達を差し置いて先に到達した。

 

「ここが・・・・・59階層」

 

「寒いな・・・・・体が凍りそうだ」

 

至るところに氷河湖の水流が流れ、空気は極寒の冷気。息を吐けばたちまち白い煙となってしまう。

肌に服越しで突き刺さる冷気は第一級級冒険者の動きを凍てつかせるほどの恐ろしい寒気。

肌を露出させているアイズは堪らないだろう。何度も腕をさすって体を震わしているほどだ。

対して一誠は平然とした態度で進み辛い足場を難なく進む。

 

「・・・・・イッセー、『サラマンダー・ウール』ない?」

 

「ん?『サラマンダー・ウール』?」

 

アイズの尋ねに何それ?と首を傾げて―――初めて知ったとそんな様子を窺わせる一誠にリヴェリアは頭が痛くなる思いだった。火の耐性と防寒の属性が備わっている『火精霊の護符(サラマンダー・ウール)』を知らずにここまで到達できた冒険者など聞いたこともないと。軽くリヴェリアが常識の一つだと説明すると、「ああ、そうなんだ」と軽く返事をされた。

 

「悪いな。そういうのは無い」

 

「・・・・・そう」

 

肩を落とし、この極寒の冷気に堪え切れる自信は無いと自分の腕で体を抱き締めだすアイズ。そんな少女を見て、進む足を停めてリヴェリアに振り返る。

 

「リヴェリアも寒いか?」

 

「この極寒の冷気を感じていないお前がおかしいと思っている」

 

「鍛えているんでね。こういう寒いところで昔修行したことがるんだ。なので、寒さには慣れている」

 

二人の状態と様子を見て、このままじゃ危ないかと―――背中に背負っていたバックパックを下ろして二つの赤い液体が入った瓶を取り出す。

 

「これを飲め」

 

「・・・・・なんだこれは?」

 

「体が温かくなるものだ。これで少しは寒さを緩和するだろう」

 

半ば強引に渡されたソレを最初は訝しむものの、寒さをどうにかしたい一心で意を決してグイっとあおった。

そして次の瞬間。金目と翡翠の目がこれでもかとカッ!と見開いたら「かっ!?」と激しく舌に刺激を与えられ、言葉にできないほど―――辛さが二人を襲った。同時に全身から寒さが感じなくなったのだが二人はそれどころではなかった。

 

「【ミアハ・ファミリア】に頼んで調合してもらった『ホットドリンク』だ。寒さに対して効果は抜群だろう?」

 

確かに寒さは感じなくなったがこの辛さも堪え難い。しばらく身悶える二人を愉快そうに見守る一誠。

ようやく激辛な刺激がなくなったことでアイズとリヴェリアは全身で息をする。恨めしいと一誠に翡翠の双眸を向けるリヴェリア。

 

「辛いなら、言え・・・・・」

 

「遅かれ早かれ分かるんだから同じだろう?ああ、『ホットドリンク』の持続効果は大体十五分ぐらいだ。効果がなくなったらまた飲んでもらうぞ」

 

二人にとって最悪な話だった。あの辛さをまた味わわなければならないのだから。

 

「・・・・・今度からは『火精霊の護符(サラマンダー・ウール)』を持参しよう」

 

「・・・・・うん」

 

固く決意する二人だった。こんな辛い思いをするぐらいなら用意してダンジョンに潜った方がいいと。

それからの三人は寒さに適したモンスターとの激しい遭遇(エンカウント)と撃破を繰り返し、

領域に存在するアイテムの採取をともにして、金属や鉱石も採掘し59階層を攻略と同時に60階層へ突き進んだ。一誠の行動を一日掛けて見守ったアイズとリヴェリアは少しだけ一誠という存在を知ることができた。

 

―――○●○―――

 

一日の半分十二時間後、転移魔方陣で地上に戻りギルドの万神殿(パンテノン)の換金所にまっしぐら。

 

「換金お願いしまーす」

 

意気揚々とドロップアイテムや魔石など大量に換金して返ってきた金額は、亜麻袋の数を片手では数え切れない程の量となって変換された。換金されたヴァリスを入れられた亜麻袋をせっせとバックパックとは違う別の大きめな亜麻袋に入れる最中。

 

 

『おい・・・またあのガキだぜ』

 

『ああ・・・・・どうやったらあんなに稼ぐんだってんだよ』

 

 

妬みが含んだ視線とともに声が聞こえてくる。一誠がこうして大量のヴァリスを換金するようになって既に十回も超えている。真紅(あかい)髪の若い冒険者が大量に金を換金するという事実は冒険者達の間でも有名になりつつある。上級冒険者ですら一人で膨大な額のヴァリスを稼ぐのはほぼ不可能。第一級冒険者ならパーティで数日ダンジョンに籠っていれば可能だろうが、一誠はたったの一日で膨大な金額を稼いだのだった。稀少のドロップアイテムも換金した結果か、今回の報酬は深層のモンスターのドロップアイテムも含め、二八六九〇〇〇〇万ヴァリス。

 

「(残り一億を切った・・・・・ようやく目標の金額が達成しそうだ)」

 

明日丸一日、ダンジョンにでも潜ってようかなーと思いつつ片手で亜麻袋を担いで待たせている少女とエルフの女性が座っているソファへ近づこうとした。

 

「よーあんちゃん。ちょっといいかぁ?」

 

亜人(デミ・ヒューマン)の中年男性とヒューマンらしき二人の男性が一誠に近寄る。自分のことらしいなと察し、話しかけてくる三人組に亜麻袋を置いて顔だけ向ける。

 

「なんだ?」

 

「最近あんちゃんをここで見掛ける度に結構な金を稼いでいるじゃねぇーか。一体どうやって稼いでいるのか俺達にも教えてくれねーか?」

 

「別に、普通にモンスターの魔石やドロップアイテムで稼いでいるだけだ」

 

「おいおい、そんなわけないだろう?」と肩を竦める中年男性は後に意味深な笑みを浮かべた。

 

「なぁ、その金の一割を俺達に恵んではくれないか?同じ冒険者だ。他の冒険者と仲良くしても損は無いぜ?なぁ?」

 

仲間に同意を求める中年男性に二人の男達も頷いたそんな三人の様子に嘆息する。

 

「金で友情を得るなんて安っぽいな狸のおっさん。冒険者なら、冒険者らしくダンジョンで冒険をして自分で稼げ」

 

「ならよ、俺達と一緒にその冒険をしようじゃねーか」

 

「断わる。俺より弱い奴と組むなんて足手纏いでしかならない」

 

「まあまあ、そう言わずにあんちゃん。俺達と一緒に行動をすればいい酒だって飲めるんだぜ?あの、『ソーマ』の酒だ」

 

ソーマ?改めて三人の全身を見回す最中で三日月に杯のエンブレムを見つけた。

 

「ああ、【ソーマ・ファミリア】の冒険者か。でも、生憎俺は未成年だ。残念ながら酒なんて飲めないからその誘いは遠慮する」

 

亜麻袋を手にしてアイズとリヴェリアのもとへ歩み寄ろうとするが狸の獣人が一誠の肩に手を置いた。

 

「これだけ俺達が誘っているってのにそんな断わり方はねーだろうあんちゃん。ちょいっと表に出てじっくり話をしようじゃないかええ?」

 

肩に掴む手が徐々に込められる。絶対に逃がしはしないと気配が伝わってくる。一誠を囲むように二人の男性からも醸し出している。これだけ断ってもなお執拗に誘ってくる冒険者に溜息を吐く。

 

「・・・・・なあ、おっさん達」

 

「おー何だ?一緒にダンジョンにでも行く気に―――」

 

「―――ここで、死にたいか?」

 

どこまでも冷たい感情が籠っていない声と殺意と敵意、とてつもない恐怖を感じるプレッシャーを放つ一誠。

三人の冒険者はハッキリと自分の死のイメージが目に浮かび、顔中に脂汗を浮かべ、逃げ腰となって一誠から一歩離れた。鼻で笑い、亜麻袋を担いでアイズとリヴェリアと合流しギルドを後にした。

 

「とんだ災難に遭ったな」

 

「金欲しさにあんな誘い方をする冒険者もいることはよーく解ったよ」

 

「・・・・・助けに行けば良かった?」

 

「いや、いくらでも対処はできたから問題は無い。しかし【ソーマ・ファミリア】の冒険者だったとはな」

 

酒の仕入先の【ファミリア】は金銭的に問題は無いと思っている一誠は「んー」と不思議に漏らす。

まだずさんな【ファミリア】の管理運営は改善されていないのかと考えると

 

「イッセー、まだ時間あるけど・・・・・これからどうするの?」

 

「取り敢えずこの金を仮のホームに置いて店に戻る。俺もあの店で働くことで住まわせているんだからな」

 

「もう充分に溜まっていると言うのになぜ自分達の本拠(ホーム)を構えないのだ?」

 

「なんだかあそこで働くことが楽しくなってな。まだいいかなーって先延ばしにしているんだよ。現状を満足していると言うか」

 

そう言うことか。リヴェリアは【アテネ・ファミリア】の本拠(ホーム)を構えない理由を知り、朝のあの商売の光景を思い出して薄く笑った。

 

「冒険者より酒場の店員のほうが似合っているじゃないか?」

 

と、言われてしまって頬をポリポリと引っ掻く一誠。

 

「やっぱり・・・・・?最近自分でもそう思うんだよ」

 

「ふふっ、冒険者として本末転倒だな。ロキだったら『勿体ない!』って言うだろう」

 

冒険者兼酒場の店員。どちらかが欠けても明日に生きられる選択はある為、アテネは不自由な生き方をしないだろう。

 

「・・・・・今夜、イッセーのお店で食べに来るね?」

 

「お、ありがとうな。なら何が食べたい?」

 

「小豆クリーム味のじゃが丸君」

 

「そっちかよ!」

 

おかしそうに笑う一誠。「まあ、作っておくから来いよ」と言う誘いにアイズはコクコクと頷いた。

まあ、『豊饒の女主人』のじゃが丸君がメニューに乗るようになって大人気になるのは遠くない未来だった。

 

 

アイズとリヴェリアは本拠(ホーム)に戻った。これからまた夜になれば『豊饒の女主人』の酒場に直行するが、ロキやフィンに報告をしなくてはならない。

 

「戻ったぞ」

 

「・・・・・ただいま」

 

「お帰り、思いの他早かったね。アイズのことだから数日は戻ってこないのかと思ったけど」

 

「あの子は酒場の仕事があるから早く切り上げたのだ。だがその分。私達は凄まじい体験をしてきたよ」

 

【ロキ・ファミリア】の執務室にいるフィン。二人の早い帰還に不思議と感じたが一誠の酒場の仕事と聞いて納得した。そして凄まじい体験という言葉を漏らしたリヴェリアに問うた。

 

「どんな体験をしたんだい?」

 

「とてもじゃないが・・・言葉では信じて貰えないことばかりだ。直接この目で見なければ信じてくれないだろう」

 

「君が嘘を吐くエルフじゃないって解っているつもりだけど?まあ、教えてくれ」

 

肘を立てて両手を組んで聞く姿勢の構えをするフィンにアイズはまず最初にと教えた。

 

「・・・・・イッセーと一緒に『竜の壺』を真っ逆さまに落ちて、イッセーが砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)を一蹴した」

 

「・・・・・アイズ、それが今日の出来事なのかな?」

 

「言っただろうフィン。直接この目で見なければ信じて貰えないだろうと」

 

碧眼の瞳を開く団長に副団長のエルフは疲れ切った表情で溜息を零す。

 

「続けるぞ。それから58階層を攻略した冒険者と59階層に到達した。59階層も攻略した後に、60階層・・・・・それから一気に67階層まで踏破し迷宮の孤王(モンスターレックス)を一人で倒した」

 

簡潔に説明をしたリヴェリア。アイズも差異はないと頷くばかりで、信用と信頼している二人が今日体験した出来事は本当であると認識した上で聞いたフィン。しかし聞かされるのはただただ愕然と間抜けな表情を浮かべることしかできない実体験ばかりの話だった

 

「【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】と並びかねない深層領域に進んだって言うのかい彼は・・・・・!?」

 

「これで【アテネ・ファミリア】の冒険者の情報を見せられない理由を分かった気がするよ。Lv.以前にたった一人で『深層』に行ける冒険者など滅多にいないのだからな」

 

「だとすると【フレイヤ・ファミリア】のあの、男のLv.と同等、もしくはそれ以上だと思うのかいリヴェリアは?」

 

「どうだろうな・・・・・そればかりは分かりかねる。アイズは夜になったらあの酒場に行くそうだが良いな?」

 

リヴェリアの了承を求める問いにフィンは頷いた。

 

「彼の情報をできるだけ集めてくれアイズ。僕達は【アテネ・ファミリア】の傘下に加わっているんだ、情報を共有しても問題は無いと思うからね」

 

「うん・・・・・分かった」

 

「私も行こう。今日一日、あの子の行動を見ると言った手前だからな」

 

「頼んだよ」

 

その後、一人のアマゾネスの少女がついてくることになるのだが、問題は無いと同行を許す。

 

 

二人と別れ、酒場に戻って同僚のウエイトレスに出迎えられ、主神の女神とともに自室へ入り、今日の稼ぎを金庫に貯蓄しに行く。

 

「今日も大量に稼いだわね。後どれぐらいに成ったの?」

 

「一億を切ったよアテネ」

 

「凄い!じゃあ、もう少しで私達のホームを建てられるのね!」

 

明るく喜びを表すアテネに相槌を打つ一誠は主神の女神に問うた。

 

「そうなったらアテネは一人でホームにいなくちゃいけないんだがいいのか?」

 

「大丈夫よ。この店で働くから。あーでも・・・・・またここで働くならどうせなら、もうしばらく住んじゃおうかしらね」

 

「俺は構わないぞ?それがアテネの望みならばな」

 

豪華絢爛の自室に入り、一誠とアテネは部屋の隅っこに鎮座しているどんな武器でも破壊することは絶対に不可能の縦長の金庫の鍵穴へ、懐からそれぞれ鍵を取り出して差し込んでガチャリと同時に捩じった。それから大中小のダイヤルを回して再び鍵を同時に回せばようやく扉が開く音を聞こえた。

 

「この金庫も結構厳重に作ったわね」

 

「間違ってでも開けられちゃ困るからさ。それにこうして二人で開けるのは共同作業みたいでいいだろう?」

 

「イッセー・・・・・」

 

共同作業という響きに感動してしまう。扉は二人の手によって開け放たれ―――金庫の中は真っ白で広大な空間に金色の輝きを放つ夥しい数のヴァリスが山のように積み上げられている。今日稼いだ金もその一部となる。

 

「他の【ファミリア】の溜めているお金よりあるんじゃない?」

 

「どーだろうなー?【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】の冒険者達の装備の額も合わせるとまだまだ超えていないと思うぞ。百億ヴァリスぐらい溜めないと勝てっこなさそうだし」

 

「そ、そこまで必要は無いと思うわよ・・・・・?」

 

ようやく十億ヴァリスという目標金額が達成できそうなのに、百億という膨大な額の金でなければ最大派閥が保有している貯金を超えられない。使い切れない金を持っても宝の持ち腐れに等しいことになる。

 

「分かってる。だけどオラリオは何かと金の消費が激しいんだよ。主に武器や防具、道具といった類の消費が」

 

「まぁ、俺には必要ないけれど」と付け加える一誠に思わずに苦笑いを浮かべ、アテネはそっと一誠の背中に触れながら口にした。

 

「最近【ステイタス】の更新していないけれど・・・・・今しちゃう?」

 

「んー。最近アビリティが伸びていないからな・・・・・また今度にしてくれ」

 

「そう、分かったわ」

 

金貨を積み重ねる『共同作業』を終えて金庫から出て固く扉を締め切った。

 

「イッセー」

 

「ん?」

 

「あなたが異性に人気なのはこれでも分かっているつもりだけど。他の【ファミリア】の異性からも好意を抱かれているなら私は寛大な心で許してあげる。だけど・・・・・」

 

一誠のレアスキルの効果のことを口にして、自分の主神の言わんことを理解し華奢な体を腕の中で抱き絞め、銀髪の髪を撫でる。

 

「愛に優劣なんてしたくないけど、アテネが一番だよ。最初に出会った女の子もアテネだし、俺の傍で何時もいてくれる女神はアテネだ。これからも俺の傍にいてくれ」

 

―――愛しているよ俺の女神様―――

 

優しく温かい声音でアテネの顔はこれでもかと耳までトマトのように真っ赤となった。自分の顔を見せたくないと熱くなっていることを自覚し、一誠の胸にうずめてギュッと唯一無二の眷属の少年の背中に腕を回す。

 

「うん・・・・・私も、愛―――」

 

ギィ・・・・・。

 

「「・・・・・」」

 

軋む音が聞こえ、桃色のムードが一瞬にして消え去り、アテネはゆっくりと扉の方へ灰色と青色の双眸を向けた。

 

「ニャニャ、クロエが押すから気付かれたニャッ」

 

「アーニャがせがむ様にニャーを押しのけるからニャッ」

 

「「「・・・・・」」」

 

ほぼ、酒場に働くウエイトレスの店員達が扉の隙間から覗いていた。皆、期待の眼差しでジーと真剣に見つめていたようで瞳はキラキラと輝かせていた。女性は恋沙汰に敏感なのだと一誠も理解させられた。

 

「・・・・・覗き見とはいい度胸じゃない」

 

一誠から離れてその場で大きく息を吸ったかと思えば―――。

 

「―――ミアさんっ!シル達が仕事をさぼって遊んでいるわよっ!しかもほぼ全員!」

 

酒場を轟かさんとばかりの絶叫を上げた。その声は仕事場にいるとあるハーフドワーフの耳まで届くほど。

 

「「ニャー!?」」

 

「「アテネ様ぁー!?」」

 

「・・・・・もう手遅れですね」

 

その後、鬼気迫る勢いで二階へ上がってくる恰幅のおかみを見たシル達は顔を真っ青に染め上げ、

サボった罰として拳骨一発と『女神と坊主の邪魔をするんじゃない!』と説教を食らったのだった。

 

そして、その日の夜。アイズは酒場にやってくるとちょっとだけ異変を感じた。ウエイトレスの頭に大きなタンコブができていたことに。

 

「あら、ロキのところの子供じゃない」

 

「・・・・・店員さん達、どうしたのですか?」

 

アイズを出迎えたアテネ。「ああ、サボった罰で殴られたのよ」とどうでもよさそうに軽く説明した。

 

「一人で来たのかしら?」

 

「三人」

 

指を三本立てて人数を告げるアイズの背後を見るとリヴェリアとアマゾネスの少女、ティオナがいた。人数を確認し、店内へ招き案内する。場所はカウンター。アイズがその場所にしたのだがその理由は―――一誠がカウンターでミアと料理対決をしていたからだ。

 

 

『今日も料理対決が始まったぁー!坊主に一〇〇ヴァリス!』

 

『今日こそはおかみの勝ちだろう、おかみに三〇〇ヴァリス!』

 

『赤髪に二五〇ヴァリス、おかみに三五〇ヴァリス!』

 

『どっちだよっ!』

 

 

何やら賭け事の声も聞こえてくる。アテネに「・・・・・何時もこんな感じ?」と尋ねると微笑みを浮かべながら頷いた。

 

「・・・・・あの、小豆クリーム味のじゃが丸君」

 

「少々お待ち下さいね」

 

既に予約を入れていたメニューを告げたアイズ。アテネはカウンターにいる一誠から料理を受け取り、アイズのテーブルに料理を置いた。

 

「お待たせしました。小豆クリーム味のじゃが丸君です。出来たてだから火傷に気を付けてください」

 

揚げたてのじゃが丸君が大量に盛られた皿がアイズの前に置かれた。

 

「うわー、美味しそうー」

 

隣の席にいるティオネの言葉を聞き流し一心不乱に、夢中でじゃが丸君を食べ始めるアイズ。

リヴェリアは当初の目的の一つを忘れてはいないだろうかと少しばかり内心では呆れた。

 

「イッセー」

 

仕方なしと自分が目的を果たすしかないと一誠を呼びかける。

 

「なんだ?」

 

「【ロキ・ファミリア】は【アテネ・ファミリア】の傘下に入っているが一応協力関係で結ばれている。だからお互い情報を共有するのも当然とは思う」

 

「情報なぁ~・・・・・。悪いけど、今仕事で手一杯なんだ。そう言う話しは明日にしてくれないか?明日はアテネと一緒に仕事が休みなんだ」

 

断われたものの、明日だったら問題ないと告げられリヴェリアは短く頷いた。

 

「わかった。では、また明日も朝一にここへ来る」

 

「あいよ。ああ、それと」

 

一誠が徐に緑色の飲料水と焦げ茶色な飲料水の入った容器をリヴェリアとティオナの前に置きだした。

 

「俺の新作の飲み物だ。『ホットドリンク』じゃないから安心しろ」

 

ソレを聞いて一瞬身構えてしまったが、赤ではないので安心した。ティオナは勢いよくそれを飲んだ途端。

 

「くぅ~・・・・・・っ!なに、これ、しゅわーってして頭と喉を刺激するっ。美味しい!」

 

「・・・・・」

 

同じ飲み物なのか。リヴェリアも一口含んだ。舌に伝わる甘味はすっとさわやかに喉を通り抜けた。酒ではないことはすぐに理解した。

 

「・・・・・悪く、ないな」

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