オラリオで自由気ままに過ごすのはダメだろうか(一時完結)   作:ダーク・シリウス

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冒険譚7

全身に装飾品を身につけ、ソファに深く身を沈め煙管を口にしてその時を待っていた女神がいた。今日は女神にとってくだらない催しが開催される。その騒ぎに乗じて手段を選ばず迅速にここまで連れて後は美の女神として虜にすればいいと頭の中で考えた都合の良い想像をしていた。

 

階位上昇(レベル・ブースト)能力上昇(ステイタス・ブースト)・・・・・くくくっ」

 

夢のような超越魔法(レアマジック)がオラリオに存在していようとは他の神々や冒険者は知る由もないだろう。どちらも他の【ファミリア】が喉から手が出るほど欲しがる簡単に苦労もせず高みへ至れるのだから唯一知っているイシュタルは能力上昇(ステイタス・ブースト)の存在を知ってから優越と愉悦の気持ちから零れる笑みが絶えなかった。二つの超越魔法(レアマジック)があれば敵対している【ファミリア】だけでなく【ロキ・ファミリア】も最強の座から引きずり降ろし唯一最強の最大派閥として君臨できる。その考えは魅了されているかのように頭から離れないイシュタルだった。

 

「さあ、早く来な九尾の狐人(ルナール)。この私がお前を虜にして思う存分に可愛がってやるっ」

 

女神の未来予想図(ビジョン)は―――直ぐに迎えた。

 

「随分と楽しそうじゃない」

 

「っ!?」

 

侵入してくる気配を感じなかった。それどころかその侵入を眷属達が騒ぎも立てず部屋の表にいるヒューマンのLv.4の眷属すら感知しなかった。ソファから身を起こし、警戒して周囲を見回すとバルコニーの縁に腰を預けている銀髪に青色と灰色の双眸の女神を見つけた。

 

「お前は・・・・・っ」

 

「お久しぶりね、美の女神イシュタル」

 

「・・・・・何をしに来た」

 

「何をしに来たと思うかしら?」

 

質問を質問で返され舌打ちをするイシュタル。処女神の女神の一人、気真面目で何事にも真剣な女神のアテネとは顔を合わせた程度で会話という会話はしたことがない。本当に何をしに無断で【イシュタル・ファミリア】の本拠(ホーム)に上がり込んで来ているのか理解不能だった。

 

「お前も下界に降りていたとはね。とうとう真面目になるのも馬鹿らしくなってきたのかい」

 

「・・・・・そうね。最近、楽しく行きたい気持ちも湧いてきたわね。でも、私はとある使命を受けて下界に降りて来ているのよ」

 

使命を受けている?怪訝に眉間を皺に寄せてアテネに無言で「なんだそれは」と訴えたイシュタルに対し、どんな心情と感情を抱いているのか分からないオッドアイを美の女神に向けるだけのアテネはこう口にした。

 

「下界に降りて堕落し遊び呆けている神々を天界に送還して欲しいって他の神々に言われているのよ私」

 

「なっ・・・・・」

 

「最初は何で私が―――なんて思ったけれど、神の力(アルカナム)を神相手のみとはいえ使用の許可を貰っちゃったから、しょうがないと思って下界に降りたわけなのよ」

 

馬鹿な・・・・・そんなこと有り得るのかっ!?天界の居残り組の神々がアテネを使ってまで下界に降り立つ神々を天界へ送還を願うなど痺れを切らしているのかと信じ難い心情でアテネに警戒し始めるイシュタル。

 

「本当に、神の力(アルカナム)を使えるのかい?」

 

「あなたで試してみましょうか?」

 

そう言ったアテネから神にしか分からない力の片鱗を感じ始めた。神の威厳、神威とは違うものである。イシュタルはついに焦燥と焦心で表にいるヒューマンの名を呼んだ。

 

「無駄よ。こうして私達が話し合っている間に私の眷属があなたの眷属を全員、倒しちゃっているもの」

 

「馬鹿な!そんなこと有り得―――!」

 

ドバンッ!

 

イシュタルの否定の叫びを遮る扉が吹き飛び、ヒューマンの眷属が傍にまで吹っ飛んできた。後に威風堂々と真紅の長髪を揺らしながら入ってくる隻眼のヒューマンがやってきた。

 

「呆気なかった、こっちは終わったぞアテネ」

 

そのヒューマンは・・・・・イシュタルが求めていた狐人(ルナール)の似顔絵と酷似していた者だった。

 

「まさか、九尾の狐人(ルナール)かっ!?」

 

「そう言うお前はあのデカブツのアマゾネスの主神だな?こうして会うのは初めてだな」

 

デカブツのアマゾネスとはフリュネのことに違いない。イシュタルはますます焦燥に駆られる。

 

「―――フリュネ達はどうした!?Lv.3からLv.5で編成した部隊がどうして誰もいない!」

 

「普通に倒したぞ。それはこの場にいる俺が証明しているようなもんだ」

 

「ええ、私もその証人もとい証神よ。そしてあなたのこの本拠(ホーム)に動ける眷属は誰一人もいないわ。さて、これでゆっくりと話しができるわね美の女神イシュタル?」

 

アテネはようやく縁から離れイシュタルに近づくと一誠もまた挟み撃ちにするかのように動き近づく。

前後に何度も振り返りながら焦りの色を浮かべ唾を飛ばす勢いで制止の言葉を掛ける。

 

「よ、よせ!やめろっ!こんなことしてお前はただでは済まないぞ!?」

 

「大丈夫よ?」

 

「ああ、この周辺に誰にも寄せ付けないようにしてあるし、誰もアテネがお前を天界に送還したとは思わないだろう。だから、誰も俺達に気付かないってことだがお分かりかな?」

 

楽しげに言う一誠と何とでもなさそうに近づくアテネ。イシュタルは完全に崖っぷちに立たされている。だが、まだ諦めてはおらず、あろうことかアテネに背を向け一誠に駆け寄り。

 

「た、頼む!私を助けてくれ!」

 

「あっ!」

 

一誠の足元に跪き、縋りついて誘惑するような動きをし始める。

 

「男なら、誘惑に抗えないだろう?ほ、ほら・・・・・私を助けてくれれば私の体を好きにしても構わないぞ?」

 

「あ、あなたっ・・・・・!」

 

唯一の眷属を誘惑しようとする女神に怒りが爆発しかけたアテネだったが、一誠は手で制して抑えた。

 

「悪いが、俺は女に魅了されるとすれば俺が相手を好きになった時でしか受け付けないんだ」

 

「はっ!?」

 

「それに、そう言うことは既に間に合っている」

 

意味深に笑みを浮かべ、イシュタルの顎を摘まみ上げた。

 

「それでも助かりたいなら・・・・・そうだな。これを見て平然としていられるなら考えても良いと思う」

 

徐に右眼の眼帯を剥ぎ取り不気味な濡羽色の瞳、光がない黒い目を覗かせ出す一誠。イシュタルはその瞳に吸い込まれる感覚を覚え・・・・・そして見てしまった。黒い常闇に何時の間にかいたイシュタルの周囲に蠢く巨大な生物達が。

 

 

『ほう・・・・・こいつが神か』

 

『ハッ!全然何も感じねぇじゃねぇか!』

 

『力を封印している話だっただろうしょうがない』

 

一匹、また一匹と常闇から顔を出し全貌を晒す。それは巨大なドラゴン。イシュタルは完全にドラゴン達に囲まれ、何時でも巨大な爪で引き裂かれ、凶悪な牙で噛み砕かれてもおかしくない状況下を一気に立たされてしまった。

 

《グヘ、グヘヘヘヘッ!な、なぁ?俺が、俺が喰っちまっても良いよな?良いよな?》

 

「なっ!?」

 

一匹の邪悪なドラゴンがイシュタルに近づきながら周囲のドラゴンに問いを飛ばした。

 

『我が主が意識だけをここに連れてきた理由は定かではないが好きにしろ』

 

《我もアジ・ダハーカに賛同する》

 

そう言って消えていくドラゴン達。残ったのはイシュタルをエサとして見ているドラゴンだけとなった。

 

《か、神を喰らえることができるなんてな!こ、これで俺は神喰らいのドラゴンになっちまうな!》

 

「ひぃっ!?」

 

イシュタルはついに恐怖で顔を青ざめて上下左右も分からない常闇の空間を構わず走りだしたが、ドラゴンは口を開けて追いかけ始めた。

 

《ま、まてぇっ!喰ってやるぅ!》

 

必死に逃げる女神と追いかけるドラゴンの距離はあっという間に詰め寄られた。

 

「やめろ・・・・・」

 

凶悪な牙を覗かせるドラゴンはイシュタルに迫り―――

 

「やめろ・・・・・っ」

 

巨大な口でイシュタルを喰らわんと大きく開けて

 

《い、いただきまーすっ!》

 

「やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」

 

バクンッ!

 

 

「あーあー、ダメだったようだな」

 

現実世界でイシュタルの目は生気の色がなくなり、生きる屍のごとく臀部を床に落とした状態で動かなくなった。

そんな女神に溜息を吐く一誠にアテネは質問をぶつける。

 

「イシュタルはどうしたの?」

 

「俺の中にいるドラゴンに喰われた。まあ、本当の意味じゃないからすぐに正気は戻るだろうけど」

 

一誠がイシュタルの額にデコピンを食らわせたことで意識を、正気を取り戻すイシュタル。

 

「よう、ドラゴンに喰らわれた最初の神として感想を聞かせてくれないか?」

 

「ひっ、ひぃぃぃっ!?」

 

部屋の隅まで逃げて体を丸めて怯えだす。美の女神とは思えない怯えっぷりだ。

 

「あらら、完全にドラゴン恐怖症に陥ったな」

 

「どうするの?」

 

「ん?」

 

「またロキみたいに私達の傘下に下って貰う?」と尋ねてくる女神に顎に手をやって「うーん」と悩む。

 

「俺は別に天界へ送還しても良いと思うけど、それはそれであの女神の眷属が野に放り出されてしまう。悩みどころだな」

 

「じゃあ、イシュタルから眷属を引き抜く?」

 

「・・・・・ああ、それがいいかな?それと自分の意志で【イシュタル・ファミリア】から抜けだしたい眷属がいたら全力でそうさせるようにするのも良いだろう」

 

「・・・・・優しいわね」とポツリ漏らす。だからこそ一誠は異性や同性から人気なのだろう。少し複雑なのだから仕方ない。

 

その数日後。【イシュタル・ファミリア】は【アテネ・ファミリア】の介入により、様々な条件を突きつけられ【ロキ・ファミリア】同様に【アテネ・ファミリア】の傘下に降り、一誠が欲した眷属と自分の意志で【ファミリア】を脱退したがった眷属を半ば脅しでイシュタルに無条件で受け入れさせた。

 

 

バキッ・・・・・。

 

「これで晴れて春姫は娼婦として働くことはなくなった」

 

一誠は春姫のその細い首に奴隷のように嵌められている黒い首輪を、ぐっと引っ張って、割った。春姫は何をされたのか気付き、唖然と自分の首を指で撫でる。少女を戒めてきた黒い呪縛の首輪は今、すべて取り払われた。思いもしなかった突然訪れた自由。そして結果的に【イシュタル・ファミリア】を堕とした【アテネ・ファミリア】。表沙汰にはならないがきっと今後、神々の間で零細の派閥が巨大派閥を取り込んだ話題は広がるだろう。あの派閥に手を出したら同じ運命を辿ると―――。

 

「春姫、これからどうしたい?故郷に戻りたいか?それとも極東の出身だからタケミカヅチの【ファミリア】に入りたいか?お前の自由だ。これから好きなように生きていけれるんだ。もう理不尽な人生を送らずに済む」

 

「イッセー様・・・・・」

 

「結果的にこれで良かった。ずっとお前をどうにかしたいことを思っていたが、俺自身も思いもしなかったこの結果に満足している。」

 

春姫のオラリオに来ることになった経緯を知り、イシュタルのおかげでもあることも否定しないが、望まぬ人生を送られていることに同情を覚え、自分なりに少しでも楽しませたいと時折アテネに内緒で繁華街に訪れては春姫と内密に会っていた。だからこそようやく、春姫を自由にさせられたことに自己満足する一誠。

 

「で、お前も【ファミリア】を抜けるなんてなアイシャ?」

 

ちょっとだけ態度を厳しくして春姫の後ろにいたアマゾネスに声を掛けた。

 

「お前が【イシュタル・ファミリア】にそうさせたんだろう?私はそれを効率的に利用したまでだ」

 

何度も一誠を捕えようとしたアマゾネスの女性は他のアマゾネスより一誠と接触が多かった為か、親しみを含んだ会話ができるようになっていた。

 

「アイシャさん、本当に良かったのですか?私を追うように【ファミリア】を脱退してしまわれて」

 

「いいんだよ。あのヒキガエルとか主神のやり方にはほとほと愛想を尽かしたり呆れたりしていたからね」

 

「そう言えば、祭りのときお前がいなかったな。どうしてなんだ?」

 

「春姫の傍にいたからに決まっている。これも主神のイシュタルの計らいだったよ。もしも万が一春姫に近づいてきたら私を含む数人の仲間が取り押さえる作戦だったからね」

 

なるほど・・・・・と一誠は納得した。二手に分かれての二段構えの作戦だったとは。「はぁ・・・」と溜息を零す。

 

「あのデカブツのアマゾネスに喰らわれる恐怖を味わうくらいなら、お前らんとこに行けば良かった」

 

「流石のあんたもフリュネ相手に苦手意識を持つか」

 

「当たり前だ。―――あんな奴がアマゾネスなんて絶対に認められねェ!」

 

「そ、そこまで存在まで否定しなくても・・・・・」

 

心の底からの叫びをする救ってくれた少年に春姫は戸惑う。その後一誠は気を取り直して語る。

 

「それで、春姫とアイシャはどうする?どこかの派閥に入りたいなら俺とアテネが口添えするけど。これでも色んな神々と友達になってきたから話し合いぐらいは設けられるが、春姫はやっぱりタケミカヅチがいいかな?」

 

問われた二人。特に春姫は突然自由の身となってしまい、どうすればいいのか判断しかねている。

一誠は相手の気持ちを尊重するとばかり、答えを待つ姿勢でいる。春姫はアイシャにどうすればいいのか翠の瞳を向けたが自分で考えなと、「今春姫が何がしたいのか素直に言えばいいだけだよ」と指摘した。

 

「だな。春姫の人生は春姫が決めるべきだ。こういう時一人で積極的に判断をしないとこの先、色々と面倒で大変だぞ?」

 

一誠もアイシャの考えに同感だと腕を組んで頷く。

 

「私はお前の【ファミリア】に入るけどねぇ?」

 

「はいっ?うち、本拠(ホーム)はないんだけど」

 

「はっ?じゃあ、どこに住んでいるのさ」

 

「『豊穣の女主人』っていう酒場に住み込みで働いているんだけど。だからホームなんてないんだよ【アテネ・ファミリア】は」

 

主神と唯一の眷属が住んでいる場所を知り、そんな【ファミリア】に【イシュタル・ファミリア】は負けたのかとアイシャは苦笑を浮かべてしまう。

 

「それでも入りたいのかよ?【アテネ・ファミリア】に入れば酒場で働かされんぞ」

 

「客を相手にするぐらいなら余裕できるよ。なんなら、客を誘惑してやろうか?」

 

「ダメだ。俺がミアさんに怒鳴られる。ああ、ミアさんって女将は元第一級冒険者だったらしいぞ」

 

「・・・・・そんな元冒険者が酒場を運営していたとは知らなかった」

 

「しかも、拳骨一発が強い」と付け加えた一誠にアイシャは口を噤んだ。痛い、だけではすまなさそうな一誠から発する重みのある言葉。

 

「・・・・・私」

 

そこで春姫が口を開きだした。翠の双眸は真っ直ぐ一誠に向けられる。

 

「イッセー様と一緒にいとうございます」

 

「アイシャが入りたがっているからか?」

 

「い、いえっ。私の本心です。たまに懐かしいお伽噺や童話の本を持ってきて下さり、イッセー様の、その・・・・・安心できる温かさに包まれると幸せを感じてしまうんです。だ、だから・・・・・」

 

しゅるっ、と一誠の腕に太い狐の尻尾を巻きつかせ、春姫の一生懸命の気持ちを表した。

 

「お傍にいたいのです・・・・・私の英雄様」

 

―――英雄。一誠はその言葉を聞いてどこか遠い目をした。

 

「(英雄・・・・・か)」

 

晴れ渡る晴天の空を見上げ、瞑目して首を横に振った。

 

「俺は、英雄じゃないよ春姫。その器にもなれない」

 

「イッセー様・・・・・?」

 

いや、なんでもないとまた首を横に振る一誠は二人に向かって手を差し伸べた。

 

「なら、これからもよろしくな二人とも。最初は店の仕込みから覚えてもらうぞ?」

 

「やれやれ・・・・・戦闘娼婦(バーベラ)が酒場の店で働くことになるなんてな」

 

「でも、何だか楽しそうです」

 

春姫とアイシャはそれぞれ一誠の手を掴み握り締める。後に溜息を吐くアテネだが受け入れたことでこうして【アテネ・ファミリア】はついに二人目、三人目の眷属が増えた。

 

「サンジョウノ・春姫と申します。きょ、今日からよろしくお願いします」

 

「アイシャだ。春姫と同じ元【イシュタル・ファミリア】、接客は出来る方だからよろしく」

 

『豊穣の女主人』に新たなウエイトレスが加わり、おかみのミアやシル達は二人を歓迎した。

 

「おー!ニャー達に新たな後輩ができたニャー!」

 

「馬車馬のようにビシビシこき使ってやるから覚悟するニャー!」

 

「まさか、アマゾネスが店で働くとは驚きです」

 

「わぁー、狐の尻尾・・・・・狐人(ルナール)なんですよね春姫さんって?」

 

「ふふっ、お店がより一層に賑やかになりそうですね」

 

シル達はそれぞれ歓喜の反応を示し、春姫達と触れ合い始める。ミアは意味深に一誠と話し合っていた。

 

「女神と二人っきりで良かったんじゃなかったのかい?」

 

「俺は人の気持ちを尊重する方でね。ミアさんもあっさり受け入れてくれたじゃないか」

 

「はははっ、当然だろう?不良娘が多いうちに働いてくれる娘が増えるんだ。断る理由もないさね」

 

「さすがミアさん、愛してるっ!」と感心した一誠にミアは豪快に笑って「照れるじゃないかっ!」と一誠の背中をバシバシと叩く。

 

「それじゃ、何時ものようにダンジョンに行ってくるよ」

 

「あいよ。こっちは任せておきな。勝手にくたばるんじゃないよ?」

 

アテネから愛神弁当を受け取りつつ抱き絞め合う。

 

「春姫、アイシャ。ミアさんの言うことを聞くんだぞ。拳骨は痛いからな?」

 

「が、頑張りますっ」

 

「帰ってきたら私らもダンジョン攻略にいかせてくれよ?」

 

「別に構わないぞ。―――それじゃ、アテネ。行ってくる」

 

「ええ、行ってらっしゃい」

 

シル達からも見送られ一誠は久々にダンジョンへ足を運んだ。表にいた一誠を待ち構えていた少女の冒険者達と一緒に。

 

「待たせた様だな」

 

「ううん・・・・・そんなに待ってない」

 

「それじゃ、張り切ってダンジョンに行こう!」

 

「リヴェリアは来れないから私とレフィーヤが一緒に付いて行かせてもらわよ?」

 

「よ、よろしくお願いします・・・・・」

 

「おー、よろしくな。今日は・・・・・モンスターのドロップアイテム狙いと採取目的で一日60~69階層に挑むつもりだからよろしく」

 

えええええええええっ!?と驚愕する山吹色のポニーテールのエルフが驚く余所にアイズはやる気十分とコクリと頷く。

 

「よし、それじゃまずは50階層に行こう」

 

一誠達一行は、足元に空いた穴にスポッと落ちて酒場の前からいなくなった。

 

―――○●○―――

 

とある日、ダンジョン攻略を程なくして終えた一誠はとある【ファミリア】の本拠(ホーム)に足を運んでいた。一誠にとって懐かしさを感じさせる【ファミリア】である。歩く足は軽く、その目的の場所に訪れると表で特訓をしている冒険者達がいた。

 

「おっひさー」

 

「あっ、あなたは!」

 

「タケミカヅチいる?極東の魚を持って来たんだけど」

 

ちょっと待って下さい!と黒髪の女性は特訓を中断して主神を呼びに行った。その間、巨躯の男との模擬戦をして相手をしていれば。

 

「おおっ!久し振りだなイッセー!」

 

角髪と少々貧乏臭い雰囲気を醸し出す男神が朗らかに出迎えた。一誠と相手をしていた巨躯の男は全身で息をして全く敵わないでいた。

 

「これ、極東の魚だ」

 

「鮭かっ!これもまた懐かしい物を土産に持ってきてくれるっ」

 

「まあ、今日は耳に入れて欲しいことがあるんだ。サンジョウノ・春姫って狐人(ルナール)知ってる?」

 

タケミカヅチと主神の眷属達は目を丸くし、一誠に詰め寄った真剣な表情で。

 

「知っている。だが、どこでそれを知った?」

 

「【イシュタル・ファミリア】に所属していたんだけどさ。色々と事情があって【アテネ・ファミリア】に改宗(コンバージョン)したんだ。西のメインストリート沿いにある『豊穣の女主人』って酒場に働いているから顔を出してくれ」

 

「彼女がそこに?【アテネ・ファミリア】ってもしかしなくてもアテネのことか?」

 

「うん。俺はアテネの眷属だ」

 

それだけ言い残して音も立てずタケミカヅチ達の前から姿を暗ました。

 

「タケミカヅチ様ッ」

 

「ああ・・・・・顔を見に行くぞ」

 

「はいっ!」

 

その後、『豊穣の女主人』がある西のメインストリートに戻る感じでとんぼ返りした一誠は、人気のない深い路地裏にある日当たりが悪く軽くジメジメした場所にポツンと建つ一軒家に来た。そこには五体満足の人の身体を模した【ファミリア】のエンブレムが、看板のように飾られていた場所まで足を運んだ。木製で両開きの扉を開け放ち、店内に侵入する。

 

「失礼しまーす」

 

薄暗い店内では一人の獣人の女性が戸棚の中身を物色していた。彼女は一誠の存在に気付き、半分瞼の下りた瞳を向けてくる。

 

「いらっしゃい」

 

あまり抑揚のない声音とその眠たげな表情もあって寝起きのようにも見えてしまう。尻尾の生えたスカートに、半袖の上衣を着ている。来訪者が一誠であると知ると獣の尻尾をパタパタと喜びを表現する様に振るい始めた。

 

「久し振りナァーザ」

 

「ようやく来てくれた。寂しかったよイッセー」

 

「ははは、それはごめんな。俺も中々やることが多くて。ミアハは?」

 

「来る時期が悪かった。夕方にならないと帰ってこないよ」

 

タイミングが悪いと一誠に言う犬人(シアンスロープ)の女性。

 

「店の経営は・・・・・相変わらずの様だな」

 

「しょうがない・・・・・イッセーの援助の協力があるとは言え、零細の【ファミリア】は知名度は低い」

 

「そっか。ああ、そうだ。これ、さっきダンジョンで採取してきた白大樹の葉(ホワイトリーフ)とカモドスの泉水、それに他にもだ」

 

バックパックから取り出すアイテムをカウンターに置きだす。商業系の零細ファミリアにこうして一誠は援助や協力をしていたのだ。そんな一誠にミアハと唯一無二の眷属、ナァーザは心から助かって感謝もしている。

 

「いつもありがとう。愛してるよイッセー」

 

「俺も愛しているよナァーザ。それで、例の頼んでいた物は?」

 

「うん、勿論できているよ」

 

まるで来るのを気付いていたかのようにある物をカウンターの卓の上に置きだした。

 

「イッセーのアイディアはミアハ様と私を驚かせてくれる。【ミアハ・ファミリア】新製品のクーラードリンクだよ」

 

瓶の中に詰まった水色の液体はとても涼やかそうな色をしていた。瓶を触れると硝子の冷たさだけが感じ、「試したいけど?」と一誠にナァーザはコクリと了承したので試飲してみたところ、全身に熱さが消えてひんやりとした冷たさが全身に広がった。

 

「おお・・・・・熱い時には丁度良いな。この効果はホットドリンクと同じか?」

 

「うん、そうだよ。これで対なるドリンクが完成した」

 

嬉しそうに垂れている耳がぱたぱたと動く。それを見て一誠も狐の耳と九尾の尾を生やしだして同じように動かしてみる。

 

「それで、今日は何かアイディアがある?」

 

「うん?うーん、特にないんだけど。体力も魔力と同時に回復できたらなーって思ってはいるかな」

 

「・・・・・二属性回復薬(デュアル・ポーション)

 

ポツリと尋ねたナァーザが漏らす。徐に顎に手をやって考えをしだす犬人(シアンスロープ)は何か閃いたのか「うん」と首を縦に振って頷きだし、目の前にいる頼りになる冒険者に頼んだ。

 

「イッセー。時間はある?」

 

「デートの誘いか?」

 

「うん・・・・・ちょっと都市の外に行こう?」

 

「都市の外か。いいぞ、今すぐでも構わないぞ?」

 

オラリオから抜けだすのは簡単だと言ってはばからない一誠にナァーザは直ぐに支度の準備を整える。主神に対して書き置きの手紙も忘れず支度の準備が終えると腰に腕を回され、背中に翼を生やしだす一誠が羽ばたかせて宙に浮いた。

 

「どっちに行けばいい?」

 

「あっち」

 

ナァーザが指す方角に翼を羽ばたかせ移動する。二人が目指している場所は『セオロの密林』というオラリオから真っ直ぐ東に進んだ先に連れなったアルブ山脈、その麓に広がる大森林のことである。それなりに時間がかかる場所を一誠がものの数分で辿り着き密林の中に飛び込んで足を踏み入れた。

 

「到着っと」

 

「早いね。それじゃ、探そう」

 

スタスタと歩き始めるナァーザに続く一誠。

 

「ここに何があるんだ?」

 

「モンスターの『卵』だよ。ダンジョンのモンスターとは違う、モンスターの『卵』・・・・・」

 

「へぇー、そんな卵があるのか。食べると美味しいのか?」

 

「分からない。でも、回復アイテムの材料になる、と思う」

 

何と曖昧な返事を返されたものだと一誠は内心苦笑いを浮かべた。

 

「・・・・・」

 

すると、ナァーザから手を握られた。肩を並ぶ女性の顔を見れば朱を散らす頬とぱたぱたと緩慢に振るえる尻尾に一誠は小さく微笑み、手を握り返して腰から生やす九つの狐の尾をナァーザの尻尾を絡めてやるとピクリと肩を跳ね上がらした。だが、何も言ってこなくそのままの状態で前へと歩き続ける。本当にまるでデートしている気分となるナァーザは瞼を半分下ろしたままの瞳と裏腹に羞恥心と照れが交ざった感情が胸の内に交ざる。ここまで仲が進展している理由はやはり一誠の言動と援助をしているからだ。特にナァーザの右腕の一件かもしれない。

 

ナァーザの右腕は義手だった。

 

その昔、【ミアハ・ファミリア】は中堅ぐらいの派閥であったが、中層のモンスターにパーティ壊滅的な被害を受け、ナァーザ自身も身体をモンスターに喰われてしまう経験をした。その時右腕以外は何とか元に戻ったが骨まで喰われた右腕だけは直らず同じ同業派閥の【ディアンケヒト・ファミリア】に多額の借金を抱えながらもナァーザの右腕に義手を付けることで生活に難は無くなった。だが、多額の借金を抱えることになった結果、ナァーザ以外の同胞の冒険者はミアハとナァーザを見限って去ってしまい零細【ファミリア】となってしまって二人だけで借金の返済をしなくてはならないその時―――一誠がミアハと対談を求め現れた際にあっさりとナァーザの固い銀の右腕を血が流れ、肉の弾力と温もりを感じさせる元の腕に戻したのだ。ミアハともどもナァーザは驚き、一誠に感謝の念を抱く。それからも【ミアハ・ファミリア】と定期的に交流を交わしていくにつれナァーザは一誠に対して魅了の影響を受けた。

 

「・・・・・イッセー、止まって」

 

ナァーザが制止の声を掛けた。彼女が目を細めて見つめる先には、ぽっかりと開けた広々とした窪地。

 

「あれは?」

 

「モンスターの巣」

 

「わかった。んじゃ、誘き出す必要があるな」

 

一誠の即断の判断力にナァーザは感心する。まるでこの手のスキル、経験をして慣れているようにも思える。

 

「イッセー、これ」

 

身を低くして窪地に近づいてく中、ナァーザが運んでいた何かが入っていたバックパックを受け取る一誠は呪文のような言葉を呟きだしてもう一人の一誠(分身)を増やした。

 

「あの中にいるモンスターを誘き出してくれ」

 

「了解。しっかりやれよ?」

 

「俺だぞ?」

 

自分同士の会話のやり取りを目の当たりにするナァーザは興味深そうに見つめる。バックパックの中身は血肉(トラップアイテム)でモンスターを誘き寄せるのに欠かせない道具(アイテム)だ。分身体の一誠はバックパックを開けて異臭を外へ解放させて二人から離れる。

 

「魔法・・・・・?」

 

「そうだ。魔法で分身体を作ったんだ。分身体の単純な強さは俺と殆ど変りない、だから、安心して―――」

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

 

「ああして囮役にも使える」

 

「便利だね。これからも私と付き合ってくれると凄く助かる」

 

高さ五Mはある紅色の肉食恐竜(モンスター)のブラッドサウルスを分身体の一誠は余裕で誘き寄せる光景を余所に今の内に窪地へ移動する。木々の生えていない空間には至るところに数十からなる『卵』の一塊があり、まさにこの場がモンスターの巣であることが知れた。

 

「おおっ、これがそうなのかっ!」

 

「うん、そうだよ」

 

「でも全部はダメだな。ある程度は残そう」

 

「分かった」

 

会話をしながらせっせとモンスターの『卵』を一誠のバックパックに詰めていく。どれだけ卵を入れてもパンパンにならない一誠のバックパックにナァーザは不思議に首を傾げたら、

 

「ああ、俺のバックパックは特殊でね。どれだけ物を入れても収納できて重さもこのバックパックの一定の重さという超好都合で便利な物なんだ」

 

「便利・・・・・」とナァーザが呟くほどの好都合的なバックパックであることを知れた。ある程度『卵』を乱獲し終えて分身の一誠はバックパックの中身を地面に散ばせ、ナァーザとオリジナルの一誠と合流してセオロの密林から飛び去った。

 

「ご苦労様」

 

分身に労いの声を掛けると消え去って二人だけとなった。

 

「さて、帰ったら新しい回復アイテムの調合をしようなナァーザ」

 

「イッセーは手先が器用だから、助手お願いね」

 

「任せろ。調合の経験は今後に活かせれるからな」

 

翼を羽ばたかせ、『迷宮都市』オラリオに戻る一誠に抱えられるナァーザ。ともに空を移動する経験はとても心地良い。ぶつかる空気や大気などその醍醐味として受け入れ口元を緩ます。

 

「イッセー・・・・・お礼をしてなかった」

 

「お礼?別にいいよ」

 

「ダメ。じゃないとミアハ様に怒られちゃう。だから・・・・・」

 

両手を一誠の頬を添えるように触れだして・・・・・。

 

「んっ」

 

「ん・・・・・」

 

ナァーザは唇を一誠の唇に重ねたが直ぐに離れて顔を真っ赤に染めて、「私のファーストキス。で、勘弁して?」と漏らしたのであった。お礼がファーストキス。一誠は左眼を丸くして驚いたが直ぐに口元を緩ました。

 

「もう少しいいか?」

 

それはもう一度キスがしたいと言う一誠の要求にナァーザは頭の耳まで真っ赤にし、間を空けてコクリと頷いた。

了承してもらったことで一誠は優しくナァーザの右手の指を絡め合い、左手は仄かに温もりを感じさせる頬に添えてジッとナァーザの瞳を覗き込み口を動かし言葉を発した。

 

「好きだよ・・・・・ナァーザ」

 

「私も・・・・・イッセーのことが好き、大好き」

 

空中でオラリオに戻りながら二人は抱き絞め合いながらキスをし続けた。

 

 

 

「戻ったぞナァーザ」

 

「お帰りなさい、ミアハ様」

 

「むっ、その試験管はなんだ?」

 

「イッセーが援助してくれたアイテムと都市外のモンスターの『卵』で調合した新商品」

 

「私がいない間に来ていたか・・・・・それにまた世話になったな」

 

「イッセーもミアハ様に会いたがっていた。これであの金にうるさい爺にあっと言わせれる」

 

「ふはははっ。そうであるな。それで新商品の効果はなんだ?」

 

「体力と魔力を同時に回復できる二属性回復薬(デュアル・ポーション)です」

 

「ふむ。ではそれを【ディアンケヒト・ファミリア】に次の返済時に売り込みに行こう・・・・・ところでナァーザよ。今日は良いことがあったのか?」

 

「・・・・・どうしてですか?」

 

「いやなに。長くお前を見ている主神としてお前の違いを分かるのだ。とても嬉しいことがあったとな」

 

「・・・・・」

 

「ふふっ、好きな者でもできたか?」

 

ミアハのその問いかけに、ナァーザはコクリと頷いた。唇を右手で触れながら告げた。

 

「イッセーのこと、好きになりました」

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