オラリオで自由気ままに過ごすのはダメだろうか(一時完結)   作:ダーク・シリウス

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冒険譚8

「なぁ、お前にやって貰いたいことがあるんだが勿論引き受けてくれるよなぁ?」

 

「・・・・・なんでしょうかカヌゥさん」

 

「なに、大して変わらねぇ仕事だ。紅い髪に眼帯を付けている冒険者と組んでサポーターをするだけだ」

 

「その冒険者様がどうかしたんですか」

 

「聞いたことはないか?大量の魔石とドロップアイテムを換金してかなりの額の金を稼いでいる冒険者がギルドにやってくるって噂をよぉ。お前なら疑われることもなく近づけれて紅い髪の冒険者から金を大量にふんだくれるだろうよ」

 

「その噂の冒険者の居場所は把握しているのですか?」

 

「ああ、西のメインストリート沿いの酒場にいるぜ。それはそうとお前が【ファミリア】にいられるのは誰のおかげだぁ?」

 

「カヌゥさん達冒険者様のおかげです」

 

「だろう?だったら、金を大量に巻き上げて俺達に恩返しをして貰わないとなぁ?ガッハッハッハッ!」

 

「(・・・・・本当に、見限るのに困らない冒険者(やつら)だ)」

 

 

 

 

 

 

 

「兎ゲットォッ!」

 

「ほわぁあああああああああああああああっ!?」

 

一誠は店の前に通り過ごそうとした若い白髪に赤い瞳の冒険者を補足し捕えた。当然ながら驚く少年の冒険者。

 

「やぁーやぁーベル坊。今日もダンジョンに行くのか?」

 

「ちょっ、いつも僕を驚かせながら捕まえるのは止めてください!?」

 

「おいおい、そんなこと言ってられないぞ?ダンジョンのモンスターは常識を覆す行動や攻撃をしてくるんだ。外だからモンスターがいないからって気を緩まし警戒していないとあっさり天界に召されるぞ。相手はモンスターだけじゃない、冒険者も敵なんだからな」

 

朗らかにわしゃわしゃと白い髪を掻き乱す一誠が話している相手は【ヘスティア・ファミリア】の唯一の冒険者。ベル・クラネル。よく酒場の前に通り掛かる上に容姿が兎を彷彿させ、一誠に悪戯心を抱かせるので男の冒険者の中で一番のお気に入り(弄ぶ意味で)なのだ。

 

「しかし、何だか見ない間に装備が変わったな。金銭に余裕ができたのか?」

 

白銀のライトアーマーこと軽装鎧を体の各部分に装着しているベルを興味深そうに見つめる一誠に「はい、そうなんですよ」と弾んだ声で肯定した。

 

「武器も相変わらずナイフ・・・・・うん?黒い武器?」

 

「ああこれですか?神様から頂いたんですよ。あのヘファイストス製の武器なんですっ」

 

嬉しそうにベルは腰に佩いている鞘に収まっている黒いナイフを触れた。「ヘファイストス製の武器・・・?」とあの高値で販売している派閥の店でどうやって手に入れたのか疑問は浮かぶが当の本人は嬉しそうなので感心の言葉をまず出した。

 

「へぇー、女神からの贈り物なんてまるで英雄譚のお伽噺や童話の本に出てきそうな感じじゃないか。凶悪なモンスターを倒す為に貸し与えられた風にさ」

 

「そ、そうですか?」

 

照れくさそうに頬を指で掻くベルを微笑ましく見つめた。

 

「イッセーさんも主神は女神様なんですよね?」

 

「お前の女神と同じ処女神の一人だ。この酒場の店員として一緒に住み込みで働いている」

 

「僕の神様もバイトをしてるんですよ。何だか色んなことが同じで奇遇ですね」

 

「そうだな。それでダンジョンに行くんだろう?今日は俺も一緒に同行しても良いか?」

 

一誠のパーティの参加の要請にベルは二つ返事で了承した。

 

「よし、今日は24階層に行ってみるか」

 

「ちょっ、待って下さい!?僕はまだそこまで行けれませんよ!」

 

「だーいじょうぶだって。中層のモンスターは俺が倒すから。それに、神ヘスティアと【ファミリア】の為に金は必要だろう?」

 

「え、イッセーさんってLv.2なんですか?」

 

もしそうなら確かに中層はいけれる実力を備えているだろう。ベルはその背中を追うことで強さの高みを臨もうとする。ベルの問いにただ笑みを浮かべただけで足の歩みを止めない。だが、この時のベルはこの後大変な目に遭うことを気付きもしなかった。一誠の行動は異常(イレギュラー)なのだと言うことを知る由もないのだ。西のメインストリートから真っ直ぐ摩天楼(バベル)に赴きながらベルにこれから行く階層の知識を伝授する。

 

「イッセーさんは鎧を装着しないんですか?」

 

「動きが鈍るからなー。あんまり鎧は好まん。この大剣だけでも十分だし」

 

「その大剣って凄いですよね。【ヘファイストス・ファミリア】製の武器なんですか?」

 

「ふっふっふっ、秘密だベル坊」

 

背中に背負っている封龍剣を見惚れそうになるベル。白銀の刃に【神聖文字(ヒエログリフ)】に酷似した刻印が刻まれており、刀身から柄まで宇宙を思わせるような常闇に浮かぶ星の輝きを発する球状の宝玉、剣の腹は金色で衣装や装飾が凝っている大剣。鑑賞用の装飾剣と見てもおかしくないほどに綺麗なのだ。

 

「でもお前の武器。大型モンスターを相手だと威力と攻撃範囲が貧弱だな。それじゃミノタウロスも倒すのに苦労するんじゃないか?」

 

「うっ、そ、そうですよね・・・・・」

 

「ベル坊はナイフ、または双刀装備(ダブル・ナイフ)による高速戦闘が好きなのか?」

 

「好きというか。僕が最初に武器を手に入れたのはギルドから支給される普通のこのナイフでして。でも、今の僕には大剣とか槍とか弓とかそんな他の武器を扱えるような、扱える人から教わることができないのでナイフにしたんですよ」

 

中央広場(セントラルパーク)に差し掛かったところで一誠の足は停めた。

 

「つまり、戦い方も分からないってことか?」

 

「そう、なりますね」

 

ベルを見下ろす。ヘファイストス製の武器とは言えナイフ。相手の攻撃をどう対処するのか、戦い方を教えてくれる師など、零細【ファミリア】に存在しないだろう。

 

「ベル坊、ナイフに似た持ち方ができる武器なら扱えるか?」

 

「え?まぁ、多分」

 

「だとすれば・・・・・こういう武器かな」

 

空間を歪ませ穴を開けると手を突っ込ませて二対の武器を取り出した一誠の手には。ベルが紅い目を見開く目の前に突き出されるその武器は横持ちの柄に反りのない直刀の黒光りする刃―――トンファーブレード。

 

「そ、それって」

 

「知らないか?これはトンファーブレードだ。ベル坊に合う武器だと思うが」

 

ヒュンヒュンと二対の武器を軽やかに振り回し、軽くベルに攻撃のモーションを見せた。

 

「27階層は中型や大型のモンスターが主に出現するからこれを貸してやるよ。その中で手に馴染ませろ」

 

「あ、ありがとうございます・・・・・」

 

渡される武器の柄を握りしめる。―――ナイフと同じだ。それが第一印象を抱いたベルの感想だった。

刀身が細く長く、ガードも可能そうな武器を貸し与えられ―――。

 

「あれ、これはどうやって取り出したんですか?」

 

「秘密だ」

 

肝心な事を隠す一誠であった。ベルは黒いナイフをレッグホルスターへ仕舞い込む。その試験管サイズの嚢へ、鞘ごとナイフを差し込んで、トンファーブレードは腰に差し込むことで装備完了した。

 

「改めて行くか」

 

「はいっ、今日はお願いします」

 

Lv.2の人なら中層まできっと進んで良いはずだと、ベルは今後のダンジョン攻略の勉強になると意気揚々と答えた。さぁ、初めてのパーティと中層だ!がんば―――!

 

「リリもお願いします!」

 

「「誰っ!?」」

 

二人揃ってノッてきた身長およそ一〇〇C。クリーム色のゆったりとしたローブを身につけ、深く被ったフードから栗色の前髪がはみ出ている。背には、その小さな体より一回りも二回りも、それ以上に大きい、大きなバックパックを背負っていた子供もとい小人族(パルゥム)の少女に突っ込んだ。

 

「冒険者様達。どうかリリを仲間に入れてください!」

 

快活に笑顔でパーティ参加を懇願する少女に一誠とベルは顔を見合わせた。

 

「ベル、お前の彼女か?」

 

「いやいや!?なに突然言っちゃっているんですかイッセーさん!?」

 

「だって、お前がオラリオに来た理由って・・・・・」

 

「い、言わないでくださいぃいいいいいいいいいっ!?」

 

思春期の野望を抱えてやってきたと、これ以上広められたら恥ずかしすぎて死んでしまいそうになるほど顔を発火する勢いで、赤くし一誠の口を両手で塞いだベルであった。身長の差があるので一誠が暴れるベルの顔を片手で鷲掴みにし抑えつつ小人族(パルゥム)の少女に視線を落とす。

 

「見たところ、サポーターだよな?」

 

「はいそうです」

 

「悪いが見ての通り。俺も自分のバックパックがあるからサポーターは必要ないんだ。他を当たってくれないか?」

 

「そこを、そこをなんとかお願いしますっ!サポーターである非力なリリは一人でモンスターを倒せないか弱い犬人(シアンスロープ)。今の手持ちのお金じゃ今晩の夕飯どころか明日の朝日を拝められるかどうか厳しい状況に立たされているんですっ」

 

一誠のズボンを掴んで縋りつき、必死に懇願するリリというサポーター。困り果てたと眉根を寄せてどう対処しようか脳裏で考えていると、

 

「あの、イッセーさん。話ぐらいは聞いてあげても」

 

「おい、出会いを求めてやってきた冒険者兎。何言っちゃってんの?」

 

「あんたもサラッと言わないでくださいよぉっ!?」

 

兎と龍が中央広場(セントラルパーク)でじゃれ合い始めた。

 

「ん?犬人(シアンスロープ)?」

 

疑問を抱いた一誠に「はい」とリリはフードを取り外すと小さな獣耳がピョコと生えていて、ローブの下に隠れていた尻尾をあらわにした。栗毛の尾が、軽く左右に振られる。

 

「・・・・・」

 

ふと、ベルがまるで無意識のように手を持ち上げ、リリの両耳に指を伸ばしていた。肩を跳ねらせるリリは意識の外側に置き、その獣耳をぎゅぅとつまむ。

 

「んんっ・・・・・!」

 

ベルが手を動かす度にリリは頬を赤らめて、もじもじと身じろぎを繰り返した。

 

「おいベル坊。何時まで触ってんだ?」

 

「ほわっ!?」

 

「あぅぅ・・・・・あの、お兄さぁん・・・・・」

 

「―――っ!?ご、ごめんっ!」

 

かき消えそうな声にベルはリリから飛ぶように離れた。リリはベルに弄られていた両耳をぺたりと両手で頭に押さえつけ、頬をほんのりと染めたまま上目遣いで、意地悪そうな笑みをベルに向けた。

 

「男性の方にリリの大切な(モノ)を、あんなにめちゃくちゃにされてしまうなんて・・・・・これは責任を取って貰わないといけませんね?」

 

「よぉーし、後は任せたベル坊。俺は一人でダンジョンに行ってくる」

 

「ま、待って下さい!さも他人事のように僕を一人にして置いて行かないでくださいっ!?」

 

踵返して先に一人で行こうとする仲間をベルは必死に食い止めて制止する。

 

「お兄さん。お兄さんの仲間が責任を取って貰うので一蓮托生ということでリリを仲間にしてください」

 

してやったりと不敵の笑みを浮かべるリリの発言で一誠はついに折れた。頭を垂らしたままベルに話しかける。

 

「ベル坊?」

 

「イ、イッセーサン・・・・・」

 

形容し難いプレッシャーが一誠から感じ、たじたじになってこれから自分は叱られると思ったベルだったが。

 

「―――そう言うことなら俺も触っても良いよなぁ?」

 

「「・・・・・へ?」」

 

予想とは違い、ベルとリリが間抜けな声を漏らした。数秒後・・・・・中央広場(セントラルパーク)で少女の嬌声が聞こえたのは直ぐだった。

 

―――○●○―――

 

「リ、リリをあ、あんな風に触るなんてイッセー様が変態だったとは知りませんでしたっ」

 

「何を言うんだ。俺は優しく慈愛を込めて撫でただけだぞ?リリも気持ち良さそうにあんな甘い声を出して―――」

 

「お、思い出させないでくださいっ!?」

 

すっかり警戒してベルの傍を歩くリリに俺は、やりすぎた、だが後悔はしていないと心の中で呟く。結局リリルカ・アーデというサポーターもパーティに入れてダンジョンに潜ることとなった。

 

「非力なサポーターも働いてもらうが構わないな?」

 

「・・・・・ええ、勿論です」

 

「なら・・・・・えっと、これとこれ、後これもだな」

 

バックパックを下ろしてリリに道具(アイテム)を渡し始める。

 

「イッセー様・・・・・これは?」

 

「サポーターでも簡単にできる代物だ。それは相手の動きを封じる罠道具(トラップアイテム)で引き金を引くと網が飛び出す仕組みだ。連射式だけど無くなれば専用の球を装填しないといけないからタイミングを計って―――で、これは―――」

 

一通り説明すると感心したようにリリは頷いた。

 

「イッセー様は魔道具作製者(アイテムメイカー)なんでしょうか?」

 

「の、見習いだな。リリもなにか作れるようなら教えてくれないか?情報料として一〇〇〇〇ヴァリスは出すぞ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「嘘は言わん。まぁ、使えるような道具(アイテム)だったらの話だがな」

 

驚くリリを余所に霧が発生している階層―――10階層に辿り着いた。

 

「ところでお二人はどこまで進むおつもりなんですか?」

 

「ああ、27階層だ」

 

あっけらかんに言えばリリは、愕然として焦燥に駆られたように進言してくる。

 

「リリはLv.1ですよっ!?ベル様もそうでしょうし、三人だけのパーティーではそこまでいく力量はございません!」

 

リリからの抗議に億劫そうに溜息を吐いて黙らせる為にも栗毛の頭の天辺からチョップをかます。

 

「だから、その為にその道具(アイテム)を渡したんだろう?引っ掛かれば確実にモンスターは動けなくなってその隙にベルがトドメを差す」

 

「ほ、本当にできるんですか?」

 

「できるさ。なんならここで試してみるか?丁度―――来たしさ」

 

鈍い足音を地面に鳴らしながら近づいてくる気配を感じる。俺達がその音の方へ視線を向けると茶色い肌に豚頭。低い呻き声とともに大型級のモンスター、『オーク』が姿を現した。

 

「よし、リリ。数M先で教えた通りに仕掛けて来い」

 

「・・・・・分かりました。援護をお願いしますよ」

 

「分かってる。パーティだからな」

 

ベルと頷き合い罠箱(トラップボックス)を抱えたリリをサポートする形でオークの数M先で(トラップ)を仕掛けるリリを護衛する。迫るモンスターを警戒していると、手際良く仕掛けたリリの「発動します!」と声が掛かる丁度オークも10階層以降存在する『迷宮の武器庫(ランドフォーム)』というモンスター達に提供する、この先モンスターの能力を後押しする、この階層にある枯木を引き抜き『天然武器(ネイチャーウェポン)』としてオークは手にした。

 

「離れるぞ」

 

「「はいっ」」

 

冒険者は逃げ足が早い。だから仕掛けた罠箱(トラップボックス)から離れることも容易い。一拍遅れて、僅か三秒で短い草が生えた草原に罠箱(トラップボックス)から直径五Mの蜘蛛の巣のような網がへばりついた時にオークがその網に野太い足を踏み入れた。

 

『ヴオォッ?ヴオォオオッ!』

 

両足が完全に(トラップ)の凄まじい粘着力の網に引っ掛かって動きが鈍くなった。網から抜けだそうとしたオークはやがて体勢を崩し背中や腕、頭も粘着性のある網にくっついてしまい、身動きができなくなった。

 

「す、凄い・・・・・大型級のモンスターを捕まえちゃった」

 

「実証済みだから問題はない。それにモンスターを誘き寄せる為の血肉(トラップアイテム)も使えば向こうから簡単に引っ掛かってくれる」

 

「なるほど、それはとても便利ですね。モンスターがホイホイと勝手に引っ掛かってくれるなんて今後の冒険も安心できます」

 

―――ゴギブリホイホイみたいに言わないでくれリリ。

 

「ですがイッセー様?あの網は何時まで効果が続くんです?」

 

「十分程度だな。何時までも網を展開するわけにもいかないから一定の時間が経てば箱から火が発生して、網にも燃え移り焼失すように作ってある。じゃなきゃ、後から引っ掛かっているモンスターを見つけた他の冒険者に甘い蜜を吸わせることになる。それだけはダメだ」

 

「そこまでお考えになられていたとは。ですが、モンスターを倒そうと近づいたらリリ達も引っ掛かるのでは?」

 

当然だろう。そこまで便利な道具(アイテム)じゃない。

 

「当たり前だ。俺が作ったのはモンスターの動きを御する(トラップ)だぞ。モンスターに追われる冒険者が最後の抵抗手段として時間を稼ぎ、命を狩られる前に早く地上へ戻れるように考えて作製したんだ」

 

網に引っ掛かったオークを余所に11階層へ目指す。いや・・・・・こんなのんびりと歩いていたら日も暮れるな。

 

「二人とも。こっからは移動手段を変える」

 

「移動手段を変える・・・・・?」

 

足元の影が草原を覆い尽くすように広がり、影から二Mはある二匹の黒い馬を創造した。

 

「う、馬っ!?影から馬が出た!?」

 

「ど、どうなって・・・・・!」

 

「気にするな。ほら、乗れ」

 

半ば強引にベルを乗せ、リリをベルの後ろに乗せる。手綱は勿論あるぞ。

 

「手綱をしっかり掴んでいろ。リリはベルの腰に腕を回してしがみ付け」

 

「「ちょっ、イッセーさん(様)っ!?」」

 

馬に乗りだす俺に二つの驚きの声が飛んでくるが無視だ。

 

「やっ!」

 

馬に指示を出し―――一気に18階層まで駆け抜けてもらった。その最中、二つの悲鳴が絶えなかったが・・・・・まぁ、良い経験に成っただろう。

 

 

 

「い、いらっしゃいませぇー」

 

「「「うおぉおおおおおおおおおおおおっ!狐ッ娘キタァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」」」

 

「ひえっ!?」

 

ビクゥッ!と狐耳と尻尾を激しく立てて驚く春姫。客引きと出迎えを担当することになってからというものの、光に吸い込まれていく虫のごとく無所属(フリー)の一般人や冒険者、噂を聞きつけた男神など酒場にやって来て元見習い娼婦の春姫を視界に入れてはだらしなく鼻の下を伸ばしたり興奮したりする。

 

「お、お客様三名はいりまーすっ」

 

招き入れた客に店員達は悲鳴を上げてしまう。

 

「「ニャー!朝だと言うのにこの忙しさは何なのニャー!?」」

 

『豊穣の女主人』はテラスも含めて満席状態に近くなっていた。これが夜でも続くと思うと店員達はドッと疲れの色を顔に浮かべた。

 

「春姫の人気が高まる一方だねぇ女神様?」

 

「私はイッセーがいるからいいの」

 

テキパキと手を動かして料理を運びながら話し合うアテネとアイシャ。さらに美人揃いが豊かになった酒場に足を運ぶ客も増えシル達は忙しなく動く。

 

『女神様、今日も綺麗だなぁー』

 

『しかも、アマゾネスと狐の美女まで加わったから目の保養になるよなっ』

 

『ああ、今後のこの酒場が楽しくなってきたぜ』

 

客達から聞こえる会話も酒場に対する好感度はますます上昇中。この酒場に働いて短くないアテネは今日も真面目に働く―――。

 

「よー、アテネ。今日も働いておるんやなー」

 

酒場にロキが来訪してきた。傍には【ロキ・ファミリア】の団長フィンを引き連れている。知神の来訪にアテネは溜息を吐いて応対する。

 

「・・・・・こっちは忙しいのに暇神が何しに来たのかしら。そんなに暇なら天界に送還しましょうか?」

 

「ちょ、待ちぃ!アテネに頼みがあって来たんや!これでもうちは忙しい方やで!?」

 

唯一下界に降り立った神の中で神の力(アルカナム)を行使できるアテネにビビるロキ。出会い頭に喧嘩腰で構えられ、ロキは頭を低くする思いで用件を言いだす。

 

「アテネの子供、イッセーゆうたか。次のうちの子供達の『遠征』に貸して欲しいんや」

 

カウンター席に座り、アテネと【ファミリア】の主神として対談する。イッセーを『遠征』に同行させたいというロキにすぐ理解した。溜息を吐いて。

 

「一応、どうしてなのかしらと問うても良い?」

 

「うちらみたいな超越存在(デウスデア)の冒険者がいれば誘いたくなるに決まっておる。先日アイズ達は60階層以上まで到達した。アテネの子供のおかげでな」

 

「それはどういたしまして。でも、私のイッセーを別に同行させずとも最大派閥の【ロキ・ファミリア】は問題なくダンジョンを攻略できるんじゃないの?何度も『深層』に潜っているのだから色々と把握しているはず」

 

「それはそうやけど、やっぱアテネの子供が一緒におると物事はスムーズに進めるそうや。だから貸してくれへん?」

 

「それ以上に異常事態(イレギュラー)が発生すると思うわよ」

 

話は平行線に続き、二柱の女神の会話を耳にしながらフィンは酒場を見渡す。以前見掛けなかったアマゾネスと狐人(ルナール)が目に入る。

 

「話に割り込んで済まない神アテネ。あのアマゾネスと(ルナール)は?」

 

「ああ、私の【ファミリア】に改宗(コンバージョン)した子供よ」

 

「ん?どこの【ファミリア】からや?」

 

「【イシュタル・ファミリア】よ。あの女神の【ファミリア】も私の傘下に降らせたわ。あの祭りの時にね」

 

マ、マジかいな・・・・・っ、とロキの口が引き攣る。歓楽街を牛耳、派閥としても一級品の実力派である【ファミリア】をも【アテネ・ファミリア】の傘下に【ロキ・ファミリア】同様で下らせた。

 

「そ、そんな話、噂でも聞いておらへんで?」

 

「当然でしょ?密かに会って降らせたのだから」

 

「となると、【イシュタル・ファミリア】にいるLv.5の戦闘娼婦(バーベラ)もアテネの思いのままに動かせられると?」

 

「そうね」

 

短く肯定する。あれからイシュタルや眷属達はどうなったのかと言えばあまり変わらない日常を送っている。ただし、一誠が近づけばアマゾネス達は全身を震わせ、怯えに怯え出すだろう。アテネはそう確信している。

 

「・・・・・まぁ、あなたの子供に助けてもらった貸しがあるわね。それをチャラにしてくれるなら私からお願いして同行させても良いわよ」

 

「おっ、貸してくれるんやな!おおきに!」

 

嬉しそうに口を緩ませてアテネから注文していない酒を出されても受け取って一気に飲み始めた。

 

「『遠征』は何時(いつ)?」

 

「まだ先や。早く話を付けても悪くはないと思ってなぁ。そんで、イッセーちゅう子供は?」

 

「ダンジョンに潜ってるわ。今日は多分、遊びに行った感覚で帰ってくるでしょう」

 

「あん?どーゆうことや?」とロキの疑問を「他の冒険者と行ったから『深層』には行かないかもしれない」と返したアテネ。

 

「ああ、そう言うことか。・・・・・で、話を替えさせてもらうけどアテネ。あの不気味なモンスターのことや」

 

声音が真剣となるロキを静かに耳を傾けようとしたアテネだったが、酒場の入り口に男神と黒髪赤緋の瞳のエルフが現れたことで三度目の溜息を吐いた。

 

「どうしたん?」

 

「今日は色んな神々が店に来るようね」

 

「は?」

 

ロキはぐるりと体を酒場の出入り口に向けた矢先、真っ直ぐアテネとロキに近づく男神が短く手を上げながら微笑む。

 

―――○●○―――

 

「おーい、大丈夫か?」

 

木肌が埋め尽くしている迷宮に辿り着いた俺達。しかし、慣れない馬上でベル坊とリリは疲労困憊で全身で四つ這いになって息をしている。

 

「し、死ぬかと思いました・・・・・」

 

「す、凄い速さでしがみ付くのが精いっぱいで・・・・・」

 

と、そんな返事が返ってきた。色々と無視してここまで猪突猛進のごとく来たからな。

 

精神力回復特効薬(マジックポーション)飲むか?」

 

「「別の意味で精神力が削られましたっ」」

 

それでも「いただきますけどっ」と二人は一誠から試験管を受け取って飲みほした。

 

「さて、この階層には白大樹(ホワイト・ツリー)白樹の葉(ホワイト・リーフ)がある。道具屋(みせ)に売れば高値で買い取ってくれるはずだ。他にも採取できる原料(アイテム)もある」

 

「「おおっ・・・・・」」

 

「ベルは後学の為にこの階層のモンスターを見ていろ。異常攻撃をしてくるモンスターもいるが、解毒薬も備えているから安心してくれ」

 

19階層から24階層の層域は、『大樹の迷宮』だ。木肌でできた壁や天井、床は巨大な木の内部を彷彿させる。燐光の代わりに発光する苔は無秩序に迷宮中で繁茂し、青い光を放っていた。探索する冒険者の進路の先々では、奇妙な形と色をした、大きな茸、銀の雫を垂らす花々など、地上には存在しない様々な植物が姿を見せる。訪れる広間(ホーム)によっては景色が変わり、美しい花畑も存在するほどだ。一方で出現するモンスターは既階層(きかいそう)以上に一癖も二癖もあり、雄鹿のモンスター―――『ソード・スタッグ』、巨大蜂(デッドリー・ホーネット)蜥蜴人(リザードマン)、茸のモンスター『ダークファンガス』が主に産まれ落ちる階層、24階層となればLv.2最上位の能力(ステイタス)、そして何よりパーティの密度が求められるようになるだろう。

 

「イッセー様っ、前方にモンスターです!後方にも!」

 

巨大蜂(デッドリー・ホーネット)と『ホブゴブリン』か。リリ、アレで捕えてみろ。ベル坊はゴブリンだ」

 

空中を舞っていた飛行モンスターに指差してリリに道具(アイテム)を使わせる指示を下す。バックパックから急いで連続罠(マシンガン・トラップ)―――回転式弾倉の銃を取り出して、狙いを定め、引き金を引いた直後に銃口から出てきた黒い玉も一秒も見たない時間で破裂し、『デフォルミス・スパイダー』の大糸の網が飛び出して飛行モンスターを見事に当てたことで動きを封じられ地面に落ちる。

 

「や、やりましたっ」

 

「動けなくなったモンスターはリリでも倒せるだろう?」

 

「そうですね。って、イッセー様。どうしてモンスターをリリの前に持ってくるんですか?」

 

「お前の獲物だ。だからお前が倒せ」

 

俺の言いたいことを理解したようで最初は絶句したが、ジタバタと網の中で暴れ反撃すらできないモンスターに心は余裕を持ち、警戒と緊張を抱きつつナイフで突き刺して自分自身の手でモンスターを倒した。

 

「で、ベル坊はっと」

 

大型級の巨躯を活かした攻撃をするモンスターは小さな兎の敏捷に後れを取っていて、隙あらば斬り付けられていた。そして、トドメと魔石を狙った攻撃のベル坊の勝利と幕を閉じた。俺の貸し与えた武器でだ。

 

「おー、勝ったな」

 

「は、はひ・・・・・もう、怖かったです」

 

顔に若干の恐怖の色と緊張がなくなってからの疲労感を醸しだすベル坊。

 

「怖くて当然だ。寧ろ怖がれ。恐怖を感じない勝利は傲慢や怠慢を生み、パーティにまで危険を及ぼす」

 

「・・・・・哲学なことを言うんですねイッセー様は」

 

「俺自身が経験、体験してきたことだからな。寧ろ、サポーターとしてのリリの方が理解していると思うが?」

 

意味深に話しかけてきたリリに答え、二人を引き連れて案内する。その間遭遇(エンカウント)したモンスターはベル坊とリリをフォローしつつ二人に倒させて―――通路から広間(ホーム)の奥に佇む白大樹(ホワイト・ツリー)を発見した。

 

「お二人さん。これが白大樹(ホワイト・ツリー)白樹の葉(ホワイト・リーフ)だ。採取するぞー気張れ」

 

「「はいっ!」」

 

冒険者依頼(クエスト)でよく調達を依頼される採取用の原料(アイテム)が多いのもこの階層域の特徴だ。様々な種類の薬草はそのまま食べても即効性の体力回復や解毒効果が確認されており、回復薬等(ポーションなど)を作製する薬師達に重宝されているし迷宮の光源である輝く苔でさえも、地上に持ち換えればそれなりの額で換金できる。採取し終えて俺達は他にも滅多にお目に掛かれない宝石樹―――赤や青の美しい宝石の実を宿すまさに金のなる樹―――を発見した際は、

 

「うわー・・・・・綺麗だねリリッ」

 

「す、凄いですっ!噂程度でしか聞かなかった樹をリリは初めて見ました!これを換金したら結構な額に成りますよ!」

 

はしゃぐベル坊とリリ。しかし、彼の樹を守るのは、宝石樹の根もとに体躯を寝かせている階層最強の木竜(グリーンドラゴン)だ。Lv.4に匹敵する潜在能力(ポテンシャル)を誇る怪物だ。

 

「ベル坊、リリ。10階層でしたように罠で嵌めて一網打尽にするぞ。俺が引きつけるから仕掛けてくれ」

 

「「りょ、了解」」

 

巨体も巨体だから仕掛けるのに一つでは足りない。だからリリにはもう一つの(トラップ)を設置してもらうことにした。木竜(グリーンドラゴン)を俺が引き寄せている間、リリの呼び掛けに応じて張った(トラップ)へ誘導させたことで―――。

 

ズボッ!

 

『ギャオオオオオオオオオオオッ!?』

 

―――まんまんとドラゴンは落とし穴に嵌まったのであった。

 

「今の内に攻撃!直ぐに脱出してくるぞ!」

 

「「は、はいっ!」」

 

下半身の半分以上が地面の中に、頭部と両前足だけ出す木竜(グリーンドラゴン)に寄って集って攻撃する。

そしてついに―――。

 

「た、倒せました・・・・・」

 

「リリは危うかったが、何とか一緒に倒せたな」

 

「サポーターのリリまで戦わせるイッセー様は鬼畜です」

 

と、非難を口にするが表情はやりきったというソレだ。宝財の番人(トレジャー・キーパー)を倒したことで俺達は報酬を得た。

 

「うわーうわー、まるで宝石みたいですよイッセーさん!」

 

「はぁ・・・・・っ。頑張った甲斐があったというものですよっ」

 

「ははは、だろう?ほら、どんどん採取するぞ。他の冒険者が羨ましがるほどにな」

 

「「はいっ!」」

 

で、帰りは・・・・・馬で18階層、安全階層(セーフティポイント)まで戻ってならず者達が作り上げた(リヴィラ)のとある建物に立ち寄った―――。

 

「ここって、なんですかイッセー様?」

 

「銭湯。所謂誰でも気兼ねなく風呂に入れる建物だ。入場料は一〇〇〇ヴァリスだがここは俺の店だ。タダで入れるぞ?」

 

カウンターにいる俺(分身体)に金を払って男や女、ならず者達がそれぞれ垂れている青と赤の幟、無断で入らせないように計四体の人型魔獣の横を通り過ぎ奥へと姿を消す光景を見送る。

 

「よう、順調か?」

 

「ああ、無断で入ろうとする奴はあの一件以来いなくなったからな」

 

「そうか。このまま頑張ってくれ」

 

俺と俺の話し合いに唖然としている二人を関係者以外立ち入り禁止の部屋に入れさせて休憩する。

 

「イッセー様、あの黒い人みたいなのは一体何ですか?」

 

「金も払わず風呂に入ろうとする輩を追いだすモンスターと言えばいいか?」

 

「ちょ、調教したんですかモンスターを」

 

バックパックを下ろしソファに座ったリリが信じられないと目を丸くした。実際は違うんだがな。

 

「まぁ、そんなところだな。さて、これから俺達はどうしようか。まだダンジョンに留まるか?それとも地上に戻って換金するか?ここでも換金できるが、ぼったくることを当然のようにする連中だけだからギルドの換金より半分以下の金が換えられてしまう」

 

「ぼ、ぼったくり・・・・・」

 

「地上に戻りましょう!ええ、絶対に!」

 

唖然とするベル坊と苦労して得たアイテムが通常の半分以下の金額で換金されるのはご免だとリリから伝わってくる。

 

「分かった。それじゃこの後戻ろう。その前にリリ、お前に聞いていないことがあったんだがいいな」

 

「何でしょうか?」

 

「お前ってどこの【ファミリア】だ?」

 

軽く自己紹介してそれだけでダンジョンに潜ってしまったから肝心な事を聞いていない。リリはコクリと頷いて告白してくれた。

 

「はい、【ソーマ・ファミリア】ですよイッセー様」

 

「・・・・・」

 

その名の【ファミリア】を聞いた途端に俺は眉間に皺を寄せた。

 

「あの、狸のおっさんところの【ファミリア】か・・・・・。まさかとは思うが、狸のおっさんに俺から金を巻き上げてこいなんて言われて俺に近づいたわけじゃないよな?」

 

「・・・・・どうして、そう思われるのですか?」

 

リリの纏う雰囲気が若干変わった。これは黒か・・・・・。はぁ・・・・・。

 

「俺が住み込みで働いている酒場は『ソーマ』の酒を大量に購入しているから【ソーマ・ファミリア】のずさんな運営管理や主神ソーマのことを少なからず知っている。お前も【ソーマ・ファミリア】の団員だったら金欲しさに俺に近づいた口だろう」

 

「・・・・・」

 

「沈黙は是なりだぞリリ?」

 

口を固く閉ざし、沈黙を貫く彼女に責めるじゃなく尋ねるように話しかけた。

 

「別に俺はお前のやり方に責めようなんて思わない」

 

「え・・・・・?」

 

「直ぐに信用と信頼を得れるわけじゃないから秘密だって言えない。お前の胸の奥に秘めている思いすら俺とベル坊には分からない」

 

ベル坊に目を向けると固唾を呑んで見守っている。俺とリリの会話次第ではこいつも会話に割り込んでくるだろうな。

 

「お前は何の為に金を欲している?欲望か?それとも他の何かか?」

 

「・・・・・教えたところでどうなるというんですか」

 

「うーん、少なくともソーマと交渉はできると思うが?眷属の一人ぐらいいなくたって俺が働いている酒場が大量に『ソーマ』の酒を購入しているからソーマだって自分の趣味を没頭できるはずだ。他に無関心なソーマだったらすんなり話を通せると思う」

 

リリの瞳は大きく開いた。あ、信じてないな?

 

「リリ、もしも【ファミリア】を脱退して自由になりたいというなら力を貸してやらんわけでもないぞ」

 

「なにが、目的なんですか・・・・・」

 

「なに、その後とある零細【ファミリア】に改宗(コンバージョン)してもらいたいなーって思っているだけだ。少なくとも【ソーマ・ファミリア】より気持ちが楽になるぞ?」

 

不敵に笑みを浮かべる俺と怪訝に視線を向けてくるリリと目をパチクリと状況の理解を追いつけないでいるベル坊。

 

「どうする?断わるならそれでいい。だが、俺はあの狸のおっさんの思惑通りになるつもりはない。これからベル坊と二人きりでダンジョンに潜ってもらう他ない。逆に俺を信じて自由を得たいならベル坊ともども有効的な関係を築こう」

 

そう言いながら手を差し出す。この手を握ればお前の願いを叶えてやるという意味を含めている。リリはジッと俺を見つめ、少ししてリリは動きだす―――。「・・・・・信じますよ」と。小さな手を差し伸べてきた。

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