デート・ア・クウガ   作:千藤 光

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これは、雄介が精霊と出会う少し前の話である



「ねえねえ雄介」

「はい?」

春休みのある日、客が帰った後のテーブルを片付けていると、カウンター席でスマホをいじりながらカプチーノを飲んでいたおじさんに声をかけられた。

「あのさ~俺、彼女ができたんだよね~」

といいながらおじさんは照れくさそうに頬を掻いた。

「え? おめでとうございます!」

雄介は笑顔になった。思えばこのように幸せそうにしている人を見かけたのは久しぶりのことである。

クウガに変身して未確認生命体と戦うようになってからというもの、雄介は涙の悲しさや、拳を振るう辛さとばかり向き合ってきた。

未だに未確認の恐怖が渦巻いてるなかでも、こんなに幸せそうにしている人を見ると、自分が戦ってる証というものを実感できるのである。

「で、どんな人なんですか?」

「へへ、こんな人。ちょっと大人っぽい人なんだ」

雄介はどれどれとおじさんが見せたスマホの画面を覗き込んで絶句した。

(ゲーム……かよ)

雄介が見たのは、薄紫のショートヘアーで、つり目でクールそうな容貌、スレンダーなボディの「二次元の」女性だった。

雄介はおじさんに出来た彼女は最低限でも「三次元にいる質量をもってる女性」だと思っていた。雄介はどんな女性を見せられてもその女性を褒めるつもりでいた。

しかし、画面の向こうにいる、いわば「だれの女にもなってしまう」デジタルな女性にどうコメントすればいいのか全く分からなかった。

「五所川原チマツリって名前なんだ~」

雄介の微妙な反応をよそに、おじさんは買って貰ったばかりののおもちゃを自慢している小学生のように喜んでいた。

「はは……個性的な、名前ですね……」

雄介は愛想笑いを浮かべながら必死に考えた世辞の言葉を口からだした。こんなことしか出来なかった。

「聞いてよおやっさ~ん。この娘女子柔道部の顧問でさ……」

おじさんは話の相手を雄介からおやっさんに切り替え、いわゆる「嫁自慢」を始めた。


(でも楽しそうだし、ま、いいか。)

その時は、自分には到底たどり着けない境地だ、と思った。だが、まさか数ヶ月後、実際に自分が同じゲームを訓練としてプレーすることになり、しかもハマってしまうなんて思っただろうか。

運命とは皮肉なものだ。



Ep5‥夕風

「士道どこだ~?」

 

16:17 来禅高校

 

『士道を呼んできてほしい』

 

そう言われたので、士道がいる2年4組の教室を覗いてみたのだが、件の少年は見当たらなかった。

 

教室が不自然にざわめいていたのが気になったが、他を当たってみることにした。

 

時間は16時を過ぎ、空が夕暮れに染まり出そうとしていた。

 

そんな薄い色をした空を眺めながら、雄介は昨日の事を思い出した。

 

「あの時、なんて言おうとしたんだろう?」

 

夕日が差し込む喫茶店で、茜が言い残した言葉。

 

『私、この時間になると……』

 

「あの時間になると、なんだったんだろう?」

 

昨日からずっと気になっていた。

 

士には、ゲームのやりすぎで寝不足だと説明した。だが、茜の残した言葉の続きが気になり眠れなかったのも、また一つの理由なのだ。

 

雄介は、西の空に傾いている太陽を見て、目を細めた。

 

そうやっていると、突然左腕を下に引っ張られるような強い力を覚えた。

 

「うわっ!?」

 

力の方向に顔を向けると、見覚えのある顔があった。

 

肩に触れるか触れないかまで伸びた白髪、線の細い身体。そして、機械人形であるかのように端正で、冷ややかな表情の少女。

 

「あなたが、沢村雄介?」

 

その声も、まるで感情を押し殺したかのように、冷たいものだった。

 

「そ、そうだけど? 君は昨日の……」

 

「来て」

 

「え? ちょっと!?」

 

言うやいなや、白髪の少女は雄介を引っ張りながら歩き出した。

 

「ねえ? 君の名前は?」

 

半ば引きずられるようにして少女の後を歩きながら、雄介は問いかけてみた。

 

「鳶一 折紙」

 

とだけ静かに言い、ズンズン進んでいく。

 

しばらく歩いて辿り着いたのは、用具倉庫の前だった。

 

ここは学校の端に位置していて生徒や先生の行き来が少なく、ここを利用する者は殆どいない。そのため、雄介のトライチェイサーもここに停められている。

 

一体こんなところに連れ出してどうしたんだろう。雄介は、さっきからトライチェイサーを眺めながら「フルカウルも捨てがたいけどオフもなかなか……」などとブツブツ呟いている折紙を眺めながら思った。

 

「折紙ちゃん?」

 

呼ばれた折紙は無表情のまま振り向いたのだが、どことなくムッとしたような表情をしたふうに見えた。

 

「何?」

 

「いや、何って! 折紙ちゃんが連れてきたんだよ!?」

 

「そうだった」

 

「そうだったって……」

 

さっきから折紙のペースに振り回されている。こんな経験は初めてだった。

 

「聞きたいことがあって連れてきた」

 

相変わらず表情を変えずに折紙は続けた。

 

「沢村雄介、なんであなたが仮面ライダーの力を持っている?」

 

 

 

 

 

サァーっと、春の風が吹き抜けた。散った桜の花びらが二人の間を吹き抜ける。

 

 

 

 

 

「なんでって、う~ん」

 

なんで、力を持っている。雄介はしばらく考えて、答えた。

 

「たまたま、なのかな?」

 

「たまたま?」

 

「そう。」

 

今まで表情を崩さなかった折紙であったが、僅かに眉が動いたのが分かった。

 

「長野で第1号に襲われたとき、ベルトを着けてみよう!って思って、そうしたらベルトが身体の中に吸い込まれちゃって。」

 

思い出を噛みしめるような表情のまま、雄介は続けた。

 

「そして、『このままじゃやられる!』って思って1号を殴ったら白いクウガに変身したんだ」

 

その時殴ったほうの手を眺めながら、こう続けた。

 

「あの時は必死だったから何か何だか分からなかったよ」

 

折紙は表情を変えず、黙って話を聞いていた。

 

「まあ、初めて変身した時はそんな感じだった。なんで力があるか、って聞かれてもちょっと難しいかな」

 

雄介は、ハハハと小さく笑った。だが、折紙はそれでも冷たい表情を貫いていた。

 

「なんで……」

 

「?」

 

「なんで、こんな中途半端なヤツに力があって、私には……」

 

「中途半端じゃないよ」

 

一瞬だけ、厳しい表情をみせた折紙に、雄介は笑いながらそう返した。

 

表情は笑っている筈なのに、今までの折紙の顔より冷たく、厳しい響だった。

 

雄介は、黙って拳を握り締めた。

 

雄介は、争いが嫌いだった。「殴る」という行為が大嫌いだった。それでも、みんなの為なら、戦うことができる。

 

 

『4号になってしまって、もう戦うことに馴れてしまったの?』そう聞かれたこともある。

 

『腹部に埋め込まれた石が脳まで浸食してしまうと、アイツら(グロンギ)と同じ、戦うだけの生物兵器になってしまうかもしれないんだぞ』と大室にも言われた。

 

 

 

でも、それでも、もう涙を見たくないから。そして……

 

「みんなを守りたいから。みんなにいつまでも笑っていてほしいから。だから戦う。だから負けられないんだ」

 

雄介はいつものように笑った。

 

そして、拳をほどいて、親指を立てた。

 

「笑っていてほしいから……」

 

聞こえない声で、折紙は呟いた。

 

「そんなの、エゴでしかない」

 

折紙は、力強く、雄介の手をはたいた。

 

パァン、と、強い音が空間中に響いた。

 

「私の苦しみが、分かるの?」

 

折紙は、それでも表情を崩さなかったが、瞳の奥に怒りの感情を込めているということは雄介にも理解できた。

 

「おり、がみ……ちゃん?」

 

「私の両親は、精霊に殺された……」

 

「え……?」

 

「私のような人を、これ以上増やしたくない。」

 

夕日に照らされて少女の顔は、相変わらず機械人形のそれであったが、悲しく光っていた。

 

沈黙が当たりを包んだ。遠くから響いてくる運動部の声が聞こえて来る。それくらいに。

 

 

「俺も一緒だ」

 

ゆっくり、静かに。雄介は言った。

 

「俺も、お父さんとお母さんが早くに死んじゃってさ、俺も悲しくなった。だから、俺もみんなに同じ思いさせたくないんだ。」

 

 

雄介は笑っていた。両親が早くに亡くなって、辛い筈なのに、なんでそんな簡単に笑うことができるの?」

 

 

「え?」

 

気づかないうちに、声に出してしまっていたらしい。折紙は、とっさに手で口を塞いだ。

 

「だって、悲しい顔してると、見ている人も悲しい気分になるだろ? だから笑うんだ。」

 

雄介は空を見上げた。

 

「だって、笑っていたほうが楽しいじゃん。」

 

そして、微笑みながら、折紙の方に向き直った。

 

「折紙ちゃんも、そんな怖い顔しないで、笑おうよ」

 

 

 

 

「笑ったほうが可愛いよ」

 

 

 

 

 

そういった雄介の表情は、柔らかかった。

 

「……からかわないで」

 

折紙はそう言い残し、後ろを向いて帰って行った。

 

 

「……素直になればいいのに」

 

雄介は、停めてあるトライチェイサーに「なあ?」と同意を求めた。

 

 

その時、ブレザーのポケットにねじ込んでいたケータイが鳴った。

 

画面には、「上条さん」の文字が映っていた。

 

「もしもし?」

 

『沢村か! ちょっと来てくれ! 実は……』

 

 

「はい……はい…………なんだって!」

 

雄介は、士道を探していたことも忘れて、トライチェイサーに跨がった。

 

 

 

つづく

 

 




どうも。お久しぶりです。千藤です。
更新が遅くなって申し訳ありません。学校とバイトが始まってさらに書く時間が少なくなりこのザマです。なんとか書く時間は作っているんですけど、全然進まなくて、はあ……。
でも今回短くしたのはそういう意味ではないです。どれくらいの分量だと読者は読みやすいか。そういうことが知りたくて、あえてあそこで切りました。中途半端をしたわけではありません。はい。
さて、ついに折紙さんの登場です。折紙は好きなキャラなので書いていて楽しかったのですが、感情の起伏が少なくて難しいですね。読む人によっては口調とかいろいろ不自然になってしまってるかもしれません。そしてごめんね士道。今回も君の出番カットしちゃったよ……ほんとすまねえ……。
あ、そうそう(唐突)映画見て来ましたよ。今更ですが。もういい映画でしたよ。ええ。アニメ本編より美紀恵ちゃんの見せ場が多くてもうすっごく嬉しかったです。はい。そのうち映画のエピソードも書いてみたいですね。(言うだけタダ)
ラストはとても気になる幕引きとなってしまいましたが、一体どうなってしまうのでしょう。自分も今後の展開が楽しみです。(考えてないわけじゃないです)
感想や意見。お待ちしております。まだまだ未熟者なので、読者の皆さんの声を聞いて成長していきたいです。
それでは。
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