時系列的には原作スタート前のX2の後日談的な位置かな。
ミッドウェー島のMS社倉庫で面接を終えたベルクトがハリアーに乗るバトラを見つけて声を掛ける。
「ハリアーですか?」
「ああ、シーハリアーだけどな」
コクピットから降りたバトラがベルクトに近寄るとベルクトが更に続ける。
「この機体も買ったんですか?」
自前の機体を持つベルクトとしては戦闘機を買うと言う行為が新鮮に思えるベルクトが声を掛ける。
「此れは貰ったんだよ。話してなかったか? 英国王室から贈られた物だって話」
「……えっと……何処か聞いた様な聞かなかった様な……」
「まあ、思い出話で話してやるか。その辺りで座って話そう。長いからな」
「本当に参加しなきゃダメですか?」
バトラが机に突っ伏せながらバーフォードに聞くとバーフォードは呆れ顔を隠す事無く浮かべて、何度か頷く。
「部隊が俺と隊長以外全滅なのにか?」
流石に不謹慎ではないだろうかと前世が日本人だったバトラが呟く。前世はそこまで宗教に煩くない家だったが、流石に身内が死んだばかりの時に祝い事やこう言う式典への参加は如何かと思う所が有った。
「英国としては民衆の言葉に押された形だよ。首都の1番辛い時に先陣を切って戦い、首都防衛の立役者の1人である君に勲章の1つも無しかと言う感じでな」
ヴァラヒア事変とゴールデンアクス事件が終結して暫く経った頃に英国から王室主催のパーティーに参加して欲しいと言う要請があったのだ。しかし、此れはバトラ達に英国として表立って賛辞を送り、勲章を授与する為の口実でも有った。
「俺たちは謳われざる兵士だ。本社が身元を隠したのもバーフォード中佐は知ってるでしょう?」
「そう言えばそうだが、こちらも英国にはお世話になっているんだ。王室限定のパーティーには出てくれないと……」
「なら、勲章だけ郵送すれば良いだろ?」
バトラの言葉にバーフォードはまた頭を抱える。
「あのな。英国の国民からすれば君は謎の多い英雄なんだ。そんな英雄の事を国民は知りたいと思っているんだ。彼らの持つ君の情報はとある民間軍事会社の社員と言うだけだ。何処の民間軍事会社なのか、性別はどっちでどんな性格で容姿なのか気になっているんだ」
「隠したのは国際情勢を刺激しない為だろ?
意味がなくなるじゃないか。それに堅苦しいのは嫌いなんだ」
未だに渋るバトラにバーフォードは『出来れば使いたくなかったんだがな……』と呟くと懐から茶封筒を取り出して、バトラに渡す。
バトラは顔を引きつらせながら封筒を開封して開いたのを確認するとバーフォードが告げる。
「バトラ。君には本社命令でM42飛行中隊全員、並びに護衛として片宮姉妹と共に英国王室主催のパーティーに参加して頂く」
バトラは椅子ごと床に倒れた。
「とても良く似合っていますよ」「はい! カッコ良いですよ」
アメリカ海軍で言うウェルカムドレスと呼ばれる位置に存在するMS社制服を着た片宮姉妹がパーティー会場の一角で同じ種類の服を着たバトラに賛辞を送る。
「ハァ〜早く終わんないかな〜」
祝い事や宴会などは好きなバトラだが、こう言った礼儀作法に煩い催し物は苦手なバトラはひっそりと溜息を吐く。
こう言った催し物は無礼講の中の礼儀でやるのが1番楽しいと思うバトラにとっては今回のパーティーはつまらない以外の何物でもなかった。
だが、パーティーはそんなバトラを放って進んで行き、バトラの勲章授与が終わるとMS社のお偉いさんと政府関係者の交渉が陰で始まり、そんな影の世界を隠すかの様にパーティー会場の中心では舞踏会が始まり、片宮姉妹は様々な紳士から踊りに誘われ、軽く流すかの様にステップを踏み始める。
オペレーター陣はマイケルが粗相をしない様に目を光らせている。
バトラは一瞬だけ横で行われている事を見るとパーティー会場から出て行こうとする。
「どちらに向かわれますの?」
出て行こうとしたバトラに聞き慣れない声の英語が鼓膜を叩く。
バトラが振り返ると目の前には変に飾り付ける様に結う事はせずストレートの薄いプラチナの髪に南国の海を思わせる水色の瞳もした美しい少女が立っていた。
「ん? まあ、その辺りを」
多くは語らずに会場から出て行こうとするバトラだが目の前の少女は手を差し出して来る。
「急を要する用事ではないのでしょう? 1曲踊りませんこと?」
そう言って差し出された手だがバトラは陸の踊りは踊れないからと断ろうとしたが、周りの視線に気付き、首を傾げる。
そんなバトラに踊りを終えた詩鞍が耳打ちで訳を教え始める。
『お兄様。彼女はリリウム・オルコットさん。皇太子のお嫁さんの妹さんです』
その言葉にバトラが吹き掛けるが寸前で思い留まる。
まさかの人物に驚きが隠せないが死地を何度も飛び抜けた頭は直ぐに冷静を取り戻し、詩鞍との会話を選択する。
『この場合は断ったらやばいのか?』
『情報筋では社交界で姿は見せましたがまだ、社交界デビューから1回も踊っていないそうです。さっきまで何人かに誘われてましたけど、全て断ってます。お兄様と踊りたいんですよ』
『戦闘機を用意してくれって言ったらどうなるかな?』
『警護に付いている狙撃兵から狙撃が飛んで来ても可笑しくないかと』
それはL115A3で殺されるか踊るか何方か好きな方を選べと状況が伝えて来ていると判断したバトラは1秒未満で見栄より命を選択した。
「下手と言うより出来ませんがご一緒させて貰います」
「ふふ、無理に合わせる事はありませんわ。体も……」
リリウムに手を引かれながらバトラがダンスホールに出ると周りに居た観衆全ての目に2人が映る。
皇太子の妃の妹であるリリウムにスペシャルゲストのバトラが一緒に踊るとなれば嫌でも観衆の目を引くだろう。
「言葉も、心もですわ」
2人にしか聞こえない声量でそう言いながらニッコリと微笑むと体位を調整させるとリリウムリードで2人が簡単なステップから始める。
「足元を見てると余計に踏み回すわ。相手の目を見てください」
「わかった」
暫くステップを続けると基本と流れを掴んだバトラがまあ、違和感は無いがまだリード無しでは踏めないレベルまで行くとリリウムがまた、お互いにしか聞こえない声量で語り出す。
「正直に答えて下さいませんか? 今回のパーティーは楽しいですか?」
「まさか、早く終わってくれですよ」
最初の言葉も心も無理に合わせる必要が無いと言われたバトラは普段通りに接する。するとリリウムは笑顔を浮かべて応答する。
「賞賛されるのは苦手ですか?」
「そうじゃ無い。ただ、謳われるべき兵士では無いだけさ」
「意外です。男性は皆、謳われたいと思う人ばかりだと思っていましたから」
「勲章より金かシーハリアーが欲しいね」
物欲的ですねとリリウムが語りかけるとバトラも笑みを浮かべてそれを認める。
バトラも理由はどうであれ金欲しさで操縦桿を握り始めたのだから。
「空を飛ぶ……いえ、空を踊る感じはどんな感じなんですか?」
「うん? 曲芸飛行の事か?」
「いえ、空中戦の事です」
「意外だ。高貴な身分で空中戦に惚れるとは」
「あら? 女性は殿方の凛々しくてカッコ良い姿に魅せられるものですわよ?」
リリウムの言葉にバトラも面白い事を聞いたと笑うとどう答えた物かと踊りながら思案する。
やはり、空中戦と言うのは言葉で言い表すのは難しい。
「うーん……」
「では、空を飛ぶというのはどんな感じですか?」
リリウムのその質問にも回答が導き出せないでいるとバトラの脳味噌がある情報を開示した。
「確かこの屋敷のヘリポートと格納庫にハリアーⅢが配備されてたな」
「ええ、万が一の時はそこからハリアーが出ますわ」
「1機拝借するか……」
その言葉にリリウムが面白そうとばかりに笑顔になる。
「まあ、空へ連れて行って下さるの!」
「説明が難しいからな。感じて貰うのが1番だが……」
「是非、行きたいわ。どうしましょうか?」
「普通に出るのは難しいな……ここからヘリポートに近い窓は?」
「ふふ、映画で見た事あるわよ。是非とも映画らしくお姫様だっこで行って欲しいわ。あの窓よ」
そう言って目で窓を照らし合わせる。ダンスホールから近く、人も少ない場所だった事もあり、ダンスホールを一周回った所で丁度曲が終わるとリリウムから追加情報が開示された。
「曲が終わった後はみんなはどうするんだ?」
「一旦、離れて礼をするものよ」
「じゃあ、その時だ」
そして、例の窓近くで曲が終わり、男女共に離れるのが可笑しく無い瞬間を狙ってバトラが素早くリリウムをお姫様だっこで抱えて窓から飛び出す。
会場は一階と言う事もあってか特に危険は無く、そのままリリウムを下ろすと手を引いて走り始める。
「ふふ、ドレスが汚れるのも御構い無しに走るのも面白いわ」
「そうか! 空を飛ぶのはもっと楽しいぞ」
2人は素早くヘリポートに出ると騒ぎを聞きつけた整備士達が立ちはだかるが、リリウムを見つけると全員が含み笑いを浮かべながらハリアーの発進準備を開始する。
彼らはリリウムから空を飛ぶ事とはどんな事か聞かれており、なんとか出来ないかと考えていた所でコレである。更に整備士がバトラがロンドン防衛戦でハリアーの整備をしていた整備士と言うのも後押しした。
バトラは拳銃を引っ手繰ると空き缶に銃弾を叩き込む。
彼らが脅されたと言う言い訳を作る為だ。
「良し! 頼むぞ!」
「任された!」
バトラがハリアーをヘリポートからVTOLで離陸させると海の方へ機首を向ける。
「取り敢えず、領空内を適当に飛びましょうか」
「ふふ、プロにお任せするわ」
リリウムが楽しそうに笑うのを肩越しに確認するとバトラが機体のレスポンスを確認する事も含めて上昇や下降、右旋回左旋回を何回かくる返す間もリリウムの表情はコロコロと変わり、コクピットには楽しそうな笑い声が響く。
「ねえ。クルクル回るのはどんな感じなのかしら」
「クルクル? エルロンロールにバレルロールか? 身体を固定しておけよ!」
ハリアーをエルロンロールやバレルロールを休み休み披露するとリリウムはまた楽しそうに笑う。
「楽しいわ。乗馬なんか目じゃ無いくらい楽しいわ!」
「乗馬は苦手ですね。馬の気持ちや感情が邪魔に思ってしまうんです」
「ふふ、それは確かに難しいわね。でも、それが機械には無い楽しさだと思うわ!」
「言いますね。機械を操る人には見えませんけど?」
「ふふ、思うわと言ったでしょ? 運転や操縦はした事無いわ」
「言いますね!」
バトラが機体を捻りながら旋回したり上昇や下降を行った後にナイフエッジを披露するとリリウムは興奮を隠さずに笑う。が、レーダーがそんな楽しい時間をぶち壊す。
「おっと、追っ手だ。どうする? 帰るか?」
「あら? 空戦をする良い機会では無くて?」
「(絶対にエース級だろ!)」
バトラがリリウムの無茶を聞いていると3機のハリアーがバトラを左右と背後にべったりと張り付く。
<<ANTARES02! 今すぐ引き返せ!>>
「女性!? 驚きだ!」
「あら? 女性パイロットは近くに居ましたわよね?」
「正規軍だとまだ珍しいかな」
バトラはリリウムと話しながら通信を3機に入れる。
<<ああ、お嬢さん方。お勤めご苦労様です>>
<<私達が女だとわかったの!? この暗闇で!?>>
<<嘘でしょ! なに、MS社のパイロットってみんなこんななの!?>>
<<カマかけにハマるんじゃない! もう一度言う! 今すぐ引き返すんだ!>>
再度の呼び掛けにバトラがリリウムに『どうする?』と目で問い掛けるとリリウムは『映画だとこうするんでしたっけ?』と呟きながら首を親指で切る動作をする。
「掴まって、喋るなよ?」
バトラは通信を3機に入れる。
<<今宵は良い夜だ。こんな夜には踊りたくなってくる。お姫さんもご所望な事だしな……Shall we dance?>>
バトラが機体をエルロンロールをしながら減速し隊長機の後ろに回るとレーダーをロックオンする。
<<ロックされた!? ブレイク!>>
「ミサイル持ってないだろが……」
<<落ち着きなさい! ミサイルを持っていないわ。誰かがロックオンすれば良いのよ!>>
「お! 中々に冷静。これは手強いぞ!」
模擬戦の中でロックオンされたら負けと言うルールがあるのだが、それに気付かされた2・3番機がバトラをロックオンしようとするがVTOL機能で垂直に上昇されレーダーロックオンが切れたのと2番機のコンソールに機銃が被弾したと訓練で知らせる部分が点灯する。
<<各機、気を付けなさい! 彼は戦闘ヘリの戦闘を熟知してるわ!>>
バトラは上昇したと同時に機首を2番機が通過する方向に予め向けた後に機首を下に向けて通り過ぎる瞬間に訓練モードで機銃を放っていた。
この動きは偶に戦闘ヘリが戦闘機を相手にして空戦する時に見せる技だ。
<<後ろに着いた!>>
3番機がバトラの背後に着いたがバトラは左右に機体を動かしてロックオンされ切れない様に動き始める。
そして、隙を見て機体を車のドリフトの様に動かし、射線から逃れながら相手の側面を飛び、機銃で撃破判定をもぎ取る。
<<なんて言う動きを!>>
隊長機が迫るがバトラはVTOL機能を使って機首を向けるが隊長機も垂直上昇で機銃の攻撃を回避する。
<<貰ったわ!>>
そこから背後に素早く回り込んだ隊長機にバトラが薄っすらと笑う。
<<中々やる。だが……>>
<<コレで勝ち……どこ!?>>
バトラは機体をループさせて、背面になった瞬間にノズルを動かして機首の方向を無理矢理に変えて、背面飛行のまま落下、行き違いに機銃を放ち、撃破判定をもぎ取る。
<<まだ、常識に囚われ過ぎている>>
バトラは背面飛行から戻ると海面近くでVTOLに移り、3機が待つ高度まで上昇する。
<<燃料が丁度いい、言われなくても帰るさ>>
「そんな事が有ったんですね。と言うか誘拐紛いな事をした事あるんですね」
「まあな。その後はバーフォード中佐から殴られたけどな」
「当然の流れですね。じゃあ、この機体をその時の?」
「まさか、アレはⅢでこっちはⅡだよ。こっちに来てから魔改造したからロイヤルより飛ぶぞ」
ベルクトが『純正のままだったらもう、海の藻屑ですよ』と笑う。
「そう言えば、ザイの初撃墜はハリアーだって聞きましたけどバトラさんですよね?」
「もう1人同じ日に撃墜記録出してるんだよ。俺を追撃したハリアーの隊長がな」
「あ、訓練したんですね。迷惑掛けた謝罪で」
「なんで、わかってまうかな〜」
「バトラさんがわかりやすいんです!!」
時刻はベルクトとバトラが話している時間。何処かの海の英国軽空母の一室。
「クシュン!」
「隊長? 風邪ですか? 艦内感染とか止めて下さいよ」
金髪の女性がくしゃみをすると茶髪の女性が語り掛けるとティッシュで鼻を拭いてから金髪の女性が話し始める。
「誰かが私の噂話してるのよ」
そう話すと同時にザイを確認した事を示すサイレンが鳴り響く。
「ザイが出たわよ!」
黒髪の女性が2人を呼びに来たのか扉を勢い良く開け放つ。
「早く行くわよ!」
「はい!」
そう言って、3人が出て行った部屋の中では、扉が閉まった風圧で動いたコルクボードが有り、リリウムをセンターにバトラと先程の女性が写った写真がラミネートされ、写真を傷付けない様に工夫されて、大事そうに貼られていた。
多分、原作で英国が舞台になったらこの4人は出てくるかも。
それまでは多分、出番はない。