慧の発案で海水浴に着た一同は次の作戦に備えて翼を休めていた。
作戦10 「作戦終了後 沖縄にて」を開始する。
低速で横に並んで小松に帰投するファントムとバトラ。
2人の間に何の会話も無くただ、静かだったがその静寂をファントムが崩す。
<<バトラさん。少しよろしいですか?>>
<<ああいえ、返事は不要ですし盗聴の心配も無用です。この回線はアニマとAJZシステムのデータリンク機能を応用していまから、情報も残りませんし他のアニマや回線にも拾われません。それと謝らせて貰いますが、他のAJZシステムとのリンクは切らせて貰いました。データリンクを介して聞かれかねないので。安心して下さいね。別に怪しい会話では有りませんよ? そちらは3人でこちらは1人で飛んでいましたし、こうして通信をし合う仲の仲間もいないので寂しくなっただけです。独り言の聞き役になって頂きたいと言う慎ましやかなお願いです。よろしいでしょう>>
<<ええ>>
<<まずは今回のミッションありがとうございます。おかげさまで無事に目的を果たすことが出来ました。正直に言いますとアニマの1機、AJZ戦闘機の1機は失うかと思ったていたのですが最善の結果でしたね。これでも少しは喜んでいるんですよ?私も貴方と一緒でこの国には愛着がありますからね。ただ、人類全体と天秤にかけると問題無く日本を見捨てられると言うだけです。あなた方には容認出来ない考え方でしょうね。ですが、私には至極当然の理論なのです>>
<<さておき、パイロット鳴谷 慧とレーダー/火器管制グリペンの組み合わせは悪くないと思います。何で分かるかというとアニマ・ドーター同士のデータリンクは映像もデータリンクで分かるからです。彼女の管制するミサイルは射程内であればどの距離でも、敵味方の位置も気にせずに当てられるのですから、多少の機動性の欠如など問題にならないでしょう。極端な話で言いますと最強のミサイル・キャリアーですね。HiMATを補って余りまるミサイル万能理論の権化です。人間が操縦でアニマがサポートする。こう言う運用もありなのか、発想の転換だなと普通は思うのでしょうね。普通は>>
<<普通は>>
<<ええ、私などは捻くれ者ですから少しうがった見方をしてしまうですよ>>
<<簡単な事です。何故、他のアニマはそうなっていないのかと>>
<<常識的に考えてみて下さい。私達、アニマはザイの部品を流用して作られた兵器です。コアの技術はブラックボックスでいつか制御不能に陥るかも知れません。そんな物を自律機動で飛ばすなど危険すぎると思いませんか?捕虜に核弾頭の起爆スイッチなど持たせません。本来は人間がドーターを操縦してアニマがサポートコンピューターに徹するべきなのです。しかし、技術の進歩のスタート地点は神の戯れで決まるて言っても過言では有りません。たまたまアニマの制御は自律制御でしか成功しなかった、と言うのがしっくり来る話です。事実そうだと思っていました>>
<<慧さんとグリペンに会うまでは>>
<<理想的なんですよ、慧さんとグリペンとAJZ戦闘機は人類が操る兵器としての形は。なら、ザイに挑む切り札としての一枚であるアニマが何故、そうならないのかと疑問に思った訳なのです>>
<<黙って聞いて頂きありがとうございます。それと申し訳ありません。特に結論のない話をしてしまって。忘れて下さい>>
<<ただ、これだけですと本当に意味不明でしょうから1つ雑談をしましょう>>
<<ククク、雑談か?なら、返事はして良いな?>>
<<ええ、雑談ですから。私達には一般的に生前の記憶が無いと言われています>>
<<生前………と言う事はザイの時のか?>>
<<貴方の言う通りです。生まれた時にはもうアニマだった。細かな知識は全て機械学習で詰め込まれます。機械学習が始まる前から微かにある衝動が有ったのです。空っぽだった私に唯一存在していた思い。機械学習の影響でも何でも無い感情・情動は何だと思いますか?>>
<<戦闘衝動か?>>
<<私は空戦を楽しいと思う感情を思い出しましたが、そんなバトルジャンキーの様な物では有りません>>
<<『この星を守らなければ』>>
<<………………………>>
<<この星を守らなければ………不思議な言葉と思いませんか?>>
<<仮にこれを私がザイであった頃の記憶だとしましょう。さて、私は一体何から地球を守ろうとしていたのでしょうね?>>
<<BARBIE02 ロスト>>
へ?と間抜けた声がスピーカーから漏れる。
(油断するからだ。馬鹿)
今回の訓練相手のイーグルに内心で毒吐く。
格闘戦になった状態から背後に回ったは良いが真後ろに飛んで行ったミサイルを無警戒に喰らい、機体の頭がグシャグシャになり撃墜された。
(ミサイルが真後ろには飛んでこないとは限らないんだぜ?イーグル)
見た事無いが実際に真後ろにロックオンできるパイロットと機体が居たらしい。
<<お疲れ様、訓練終了だ。戻って来い。戻って来たらデブリーフィングだぞ>>
デブリーフィングは訓練や作戦の後に行うブリーフィングの事だ。今回の訓練でイーグルもグリペン・慧ペア共に問題点を見つけたのでそれを伝える。
ファントムの意味深な通信から一晩挟んで7月28日の午前11時丁度、機体の整備、小松の受け入れ準備が整っていない事を理由に那覇に滞在する事となった俺たちは暇だからと練度向上の名目の元に模擬戦をやっていた。
まあ、実際は暇潰しだがな!
「納得いかない、納得いかない、納得いかない!なんかズルしなきゃイーグルは墜とせない筈だもん!」
何か言い合った後にそう大声で叫ぶイーグルにバトラは溜息を吐く。
「と、申してやがりますが監視役のファントムさんの判定は?」
納得させる為にお互いのデータの監視を依頼した横のファントムに訊く。
俺の後ろで片宮姉妹が凄い睨んでいるが気にしたら負けかなと思っている。
「監視してましたけど、ズルは見当たりませんよ?まあ、あの誘導性は反則級ですけどね。真後ろにも飛んでくるとは安置がありませんね」
「………だそうです。まあ、真後ろに居るからと油断したお前の負けだな。実戦で見てただろ?」
イーグルはこのペアと一緒に台湾空軍の救援に行ったのだから、かなりの誘導性である事は知っている筈だがな。
「でも、真後ろに飛んで来るなんて………」
「テメーの慢心じゃねーか!!」
軽くイーグルの頭を叩く。
頭を押さえながらしゃがみ、上目で睨むが怖く無い。
そんなイーグルの肩に白い手が置かれる。
「ファ、ファントム」
引きつった笑顔を浮かべるイーグルににっこりと微笑を浮かべる。その微笑は妹の失敗を見つけて伝えようとする前の姉の様にも見える。
「貴方は機体のパワーに頼り過ぎで無駄が多過ぎるんですよ。旋回率はあと1.5度は上げられる筈です。ロールの精度ももう少し向上出来るでしょう」
(全部、言われた………)
楽で良いのだが仕事を取られた感じでなんか寂しい。
「でも、大丈夫ですよ」
もう一度、指摘する前の姉の様な微笑を浮かべる。
「鍛え直してあげます」
ファントムが天使の様な微笑を浮かべて言ったのは地獄の様なものだった。
「え、ちょ、ちょっと」
イーグルはファントムに首根っこを掴むと、止める間も無く引きずっていた。
その後に鷲の悲痛な悲鳴が続いたが慢心した自己責任と言う事で救援に行かない。
なんか、引きずって行くファントムの口元はひどく愉しそうな笑みを浮かべていた。
(あ!)
男だと面白い事を思いついたらやりたくなる訳ですよ。
「ファントム。慧にもレクチャーを頼む。問題点は分かっているだろう?」
「ええ、勿論」
「え?今、慧ってよんだあぁぁぁぁ!?」
ファントムのその言葉を聞いた瞬間に慧を転ばせる。
そして、ファントムが素早く首根っこを掴み、イーグルと一緒に引きずって行く。
「なんか、嫌な予感がする!」
慧の叫びに俺も同意しておく。
(ファントムは鬼軍曹くさいぞ?)
鬼軍曹のシゴキはキツイがその分の見返りは充分あるだろう。
「あ、そうそう。忘れる所でした」
ファントムがスカートを少しなびかせながら振り向く。
「私のパイロットになると言う話、貴方が私のRFー4EJの前席に座ると言う件ですが」
「ん?無効だろ?それ」
ファントムが大きな目を細めて、その細く白い指を下唇に当てながら話す。
その際に慧が脱走しようとするが片手で転ばせる。
「強制的にと言う話はなしです。ですが、貴方が望むなら私は何時でもお待ちしてますよ?多分、貴方だけでは見れない景色をお見せ出来ると思いますから」
にっこりとそしてほのかに頬を紅く染めながら話すファントムに一瞬、俺はドキッとする。
「悪ふざけはよせよ。お前は充分に1人で戦えるだろ」
その感情を忘れる為に勤めて冷静に返す。
その対応を見たファントムは下唇に指を這わせたまま笑みを浮かべる。
「そうでしょうか?グリペン程度のドーターであれだけの性能向上ですよ?そこに私の力を充分に活かせる貴方が加わればもっと戦果を上げられる筈かと?」
「……………」
確かにそうだ。
「そ・れ・に私の初めてを奪った方ですからね。その責任を取って頂かないと」
隠す気が無い程に頬を紅くして、軽く握った手を顎に当てながら下を向く姿は一種の想像を作り上げるには物資量が多過ぎる。
「これは一体、どう言う事ですか?」
詩鞍の追求。
極偶に凄いプレッシャーを出すので偶に怖くなる。
「ああ、言い直します。初黒星の間違いでした」
そう言って去って行くファントムを見て、この状況からの脱出策を思い付く。
「グリペン!ミサイル誘導について教えたやるからこっちこい!」
「わかった」
グリペンに訓練をつけると言う言い訳でこの場は脱した。
「えい!」
「きゃあ!やりましたね!」
「こっちに流れ弾が!」
「倍返しですよ。詩鞍!」
海水をファントムにかけるイーグルだが、流れ弾が詩苑と詩鞍にも当たり二人でイーグルに水を掛け合う。
4人の水着美女が遊んでいるのだ。周りの男達の視線は釘付けにされる。
7月の終わりで夏本番と言う感じのこの時期に海は人が多い。
バンを運転してくれた人の計らいで余り人が多く無い所を選んでくれたが、それでもこの時期だ。人は多い。
「何やってんだか………」
作戦前に出した慧の提案で作戦成功の祝いで海に行く事になった俺たち。
俺の財布からは何故か諭吉が4人も拉致られていた。
(片宮姉妹だけのつもりだったのに………)
俺は海に来たは良いものの何をするともせず、財布の事で落ち込む俺。
それを忘れる為に片宮姉妹・ファントム・イーグルの姦しい空間に入りに行く勇気は無い。
(あれって相棒同士の雰囲気か?)
少し離れた位置で水を掛け合う慧とグリペン。その光景はもう殆どの者が想像する海デートの一幕だ。
まあ、本人達にその気は無いだろうがやっている事がカップルのそれである事は言い訳ができないだろう。
「入りに行かないのか?」
胸毛がそれなりにあるバーフォード中佐が後ろからいきなり現れた。
服装は青に白の幾何学模様の入ったトランクスタイプの海パンだ。
「あの姦しい空間とカップル空間のどちらに入れと?」
「1人で行っても良いだろう?」
「と言うか、良くあんなハイテンションになれますね。魚の排泄物の上で」
「言ってやるな。せめて、サンゴの死骸と言え」
苦笑気味に言うバーフォード中佐だが、どっち道あの視線に困る空間には行きたく無い。
姦しい空間の方にいるイーグルは白に赤いハイビスカスが左胸にだけ描かれたビキニの上に裾が股下までのジーパンの様な下の水着だ。
イーグルの少女らしからぬ胸が強調されているので視線に困る。
ファントムは薄緑の上に多過ぎない数が描かれた花柄のワンピースタイプだ。ファントムの清楚な雰囲気にマッチしている。
ただ、中の水着が見えてしまう微妙な長さの所為で水着が下着に見えてしまうのと胸元は逆デルタにカットされていて深過ぎず、浅過ぎない谷が見えてしまいこれも視線に困る。
方宮姉妹は白と黒の色違いでデザインは一緒だ。しかし、着方が問題だ。
下は普通にサイドで紐を結ぶタイプだが、上は「紐を結んで着るタイプ」だ。
これだけ聞けば普通だと思うがこの言葉の前に「胸の中央で」と言う言葉がつくと大変な事になる。
何が言いたいか。ぶっちゃけて言うとイーグルと同じサイズの尖り気味の胸。通称【ロケットオッパイ】(マイケル軍曹情報)の谷が全面的に押し出される。それだけでなく前に構造上の弱点があるので装甲板が取れやすいのだ。
そんなアクシデントが起きると分かっている空間に行く程馬鹿じゃない。
慧・グリペンのカップル空間は周りからKY認定受けそうだから行きたくない。てか、あんな空間に行きたくない。
慧は至って普通な赤いトランクスタイプのみでグリペンはオレンジ色のセパレートとリボン付きのトップスにフリルのパティオだ。
ビキニを必死の形相で止めようとする慧が簡単に想像できる。
因みに蛇足だが、俺は藍色に水面の光をイメージした白い筋が入ったトランクスタイプの水着に黒のUVカット機能付きのラッシュガード着用である。
日焼けでの面倒事と日焼け止めを塗る面倒を省く為のラッシュガードだ。
「まあ、何考えているか大体分かるが……」
なんで分かる!?
「何年の付き合いだと思っている?」
心の内を読みやがった!?バーフォード中佐は読心術の使い手なのか!?
「下らん事を考えている暇はない様だぞ?」
「こっちに来ませんか?」
何時の間にやらファントムが近づいていた。
髪は緑から黒に変えているがその髪からは海水が滴り、煽情的とも言える光景を生み出していた。
「行かなきゃ駄目ですか?」
「行かなきゃ駄目ですよ。女性から声を掛けられたなら」
横からいきなりグリアム軍曹が現れる。
「クッソ!元とは言え女王陛下の空軍だった奴に言われると説得力あるぜ」
流石は
「失礼な事を考えていませんでしたか?」
「ハハ、ソンナコトナイデスヨー」
取り敢えず逃げよう。
「オオオオオオ!!」
マイケル軍曹が叫んだ。
どうやら、水着美女を見て興奮している様だ。バーフォード中佐から制圧命令が出るまでは面白そうなので放って置く。
「フォオオオオオオオオ!!」
ファントムを見て、一段と叫ぶ。
「フィイイイイイイイイイ!!」
イーグルを見て跳ねる。
「ファアアアアアアアア!!」
詩苑を見て空にガッツポーズをする。
「フォフォフォフォフォ!!」
詩鞍を見てバルタ○星人になったな。
「ファオオオオオオオオ!!」
白に赤い縁取りだけのシンプルなビキニタイプに同じデザインのパレオを着た京香軍曹を見て砂浜に膝を着けて叫んだ。
「フィルルルゥゥゥ…………」
謎の叫びを上げかけた所で雰囲気もへったくれも無い灰色の競泳用水着を着たサラ軍曹を見て目に見えて落胆する。
「………マイケル軍曹」
呼ばれて、立ち上がり、振り向くマイケル軍曹。
「フン!!」
「ゴハァ!」
腰としなりの入った爪先蹴りがマイケル軍曹の腹にクリーンヒットする。
そのまま少し飛んで、砂浜に突っ伏した。
「綺麗に入ったな」
「10点中10点です」
「もろに貰いましたね」
「あれ位は大丈夫だろ」
誰も一切心配しないMS社一同。片宮姉妹は相変わらず水を掛け合っている。
「で?どうしますか?」
ファントムが笑いながら訊いて来る。
「………わかった。付き合うよ」
周りの視線が『こんな美少女に誘われたんだから断る訳無いよな?』みたいな視線だったのは余談だ。
「ふふ、では行きましょうか」
後ろを向く為ファントムがくるり回った時にワンピースの裾がまくれ上がり、丸みの強い女性らしいお尻と下の水着が露わになる。
その光景に一瞬、ビクッとなり動きを止める。
そんな反応をした俺に肩越しに振り返ったファントムは妖艶な笑みを浮かべていた。
(こいつ………わざとやりやがった………)
そう思いながらも良い物を見れたと脳内に浮かぶのは男の性なのだろう。
「じゃあ、泳いで来ます。バーフォードさん」
「行って来い、バトラ」
こう言った時は仕事を思わせる事は極力言わないのが俺たちアンタレス隊の暗黙の了解だ。
「お話は済みましたか?」
「ああ、行くか?」
「ええ、勿論」
ファントムと並んで白い砂浜を進んで行く。
椰子の木が夏の風に揺れて、足の裏にサンゴの欠片の感触がある。
視線を下から前にズラせば、太陽光を反射して美しく光る透明感のある波が寄せては返していく、コバルトブルーの海原が見渡す限り広がっている。
「さ、泳ぎましょう?」
膝まで海水に浸したファントムが半身で振り返り言ってくる。
ふと、今年はザイとのドンパチばかりで夏らしい事はしていなかったなと思い出す。
「良いぞ。何処まで?」
「あちらの岩の方までで」
「OK」
波打ち際から歩を進める。波が来た時に膝が沈む位になった時にファントムが完全にこちらに向く。
「あの………バトラさん………」
珍しく歯切れが悪い。
「今日、貴方に見せた全ての笑顔は本物ですから。そしてこれからも………」
そう言って、笑顔を浮かべるファントムは美しく、可愛かった。
貼り付けた様なお面の笑顔では無く、感情からくる笑顔。
俺は笑顔が苦手だ。
微笑む事は有っても、笑う事が有っても。
あの日から、あの時の様な花が咲いた様な笑顔は出来なくなった。
だが、この本物の笑顔の前で位はあの時の様な笑顔が出来るのでは無いだろうか?
「そうか………それは良かった」
俺は多分、この日一番最高の笑顔が浮かべられたと思いたい。
架空機のアンケートは第3巻終了の話を投稿してから3日後にしました。
次回予告カッコカリ
日常に戻りつつ有る一同にまた、新たな大規模作戦の影が忍び寄る。
各機は次の作戦開始までに補給を済ませてくれ。