ガーリーエアフォース PMCエースの機動   作:セルユニゾン

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戦闘区域でも平和な瞬間は有るんですよ。今回はそんな平和な時のお話。




修羅場の書き方を教えて下さい……


作戦35 平和な安息と動き出した歯車

バトラ達はセーフハウス代わりのホテルに着くと最上階のスイートルームの廊下を駆け抜け、八代通がいる筈だと言うスイートルームの扉を押し退ける様に開ける。

「おう、遅かったな。待ちくたびれたぞ。何処で道草食ってたんだ。飯の食い過ぎで動けなくなっているのかと思ったぞ」

 

デブ(八代通)デブの素(フライドチキン)を食っていた。しかも、道頓堀川にインジェクトされた爺さんが作るフライドチキンだった。しかも、足元には女性を侍らせて、足ツボマッサージを行わせている。捲り上げられたスラックスと生白い脛が間抜けな印象を与える。

 

この光景を1番に見たバトラのこめかみの部分から『ブチッ』と言う音を立てる。

心配していたのに呑気に飯を食いながら、マッサージを受けている事ではなく、自分達は食事に博打を打ったにも関わらず、デブがデブの素、しかもチェーン店と言う安碑を切っている事にだった。

 

「俺たちの勇気と円卓で空戦した労力を返せぇぇ!!」

 

今にも八代通にライダーキックを食らわしかねない勢いのバトラをファントムとベルクトで抑えに掛かる。

 

少女兵2人が暴れる少年兵を取り押さえると言うコメディー映画めいた光景を背後で行っている中で朝倉と慧は八代通に警察から逃れる為にこのホテルへ来た理由と料理店でロシアアニマ3人とエンカウントした事などを報告する。

 

その報告を受けた八代通は原因とやるべき事を指示し朝倉が即座に行動を開始する。

余談だが、八代通にマッサージしていた女性はファントムとベルクトがバトラの捕縛作業を開始するとはほぼ同時に部屋の退出を八代通が指示したために今、この部屋には居ない。

 

「ここは安全なんですかね?」(ベルクト。そっち抑えなさい)

「さぁな、ただ現状では何処に居てもそんなに危険度は変わらんだろう。状況が分かるまではどっしり構えているさ」(わかりました)

 

慧の心配そうな質問に八代通は鼻を鳴らして答える。

暫くすると朝倉が電話を切り、顔を上げる。

 

「取り敢えず、神泉3Mへの情報経路はカットしました。当面は大使館とのみ連絡を取り合います。我々はここで待機しましょう。神泉側にもセーフハウス存在までは知らせてませんから」闇雲に動き回るよりも安全です」(中々、捕まるせんね)

「どの位待機するんですか?」(もう少しなんですが)

焦燥に駆られたような趣きで話す慧に朝倉が向き直る。

 

「神泉3M内部に内通者が居るなら、そこを抑えない限りは下手に動けません。後始末はどれだけ急いでも数時間。下手したら1泊か2泊位は身を隠し事になるでしょう」(捕まえました)(捕まえました)

「そんな「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ああ"あ"」てっ……うるせぇー!!」

 

慧が叫ぶながら背後に向くとベルクトとファントムからアームロックを喰らい叫ぶバトラの姿が映った。

それを見た瞬間に慧の足は縺れて姿勢が崩れる。平衡感覚が失われた様に膝から崩れ落ちる。

 

危うい所を朝倉が支える。

 

「長距離移動したばかりの身体に慣れない土地。さらに色々有って気付かない内に疲労が溜まっているのでしょう」

「そうですよ。いざと言う時に動ける様にコンデションを整えておく事も重要ですよ」

 

バトラ相手にアームロックを掛けると言う作業はアニマでも多少の疲労を感じる作業だった様であり、額に緑色の髪が幾つか引っ付いている。

アームロックを掛けられたバトラは痛みと叫ぶ続けた疲労からかベルクトの両膝に膝枕されながら、白目を向いてぐったりとしている。

 

「見るか?」

 

それを見た慧に八代通がルームサービスのメニューを渡す。そこに様々なサービスがモンゴル語と英語で書かれていた。

 

「支払いは大使館持ち出そうだ。好きに頼んで良いぞ」

 

慧は受け取りながら嘆息する。

 

自分達は何をしに来たんだ? と……

 

 

 

 

 

バトラ達が潜伏するセーフハウスと言っても何処かのスピードジャンキー達が潜伏する様な家でもシェルターでは無く、ただの会員制ホテルだ。

都市部に用途・持ち主不明のシェルターや家が有れば不振がられるが会員制ホテルだとかえって怪しまれる事が少ない。セーフハウスと言うのは隠さないが隠れていると言う矛盾をクリアできる建物が1番良いのだ。

その辺を考えると会員制ホテルと言うのは会員の一般客も泊まるので紛れ込み易く、警戒し易いので都合が良い。因みにバトラのような金の無い奴が潜伏する場所は若者の多いピンクのホテルやビーチ沿いのホテルや宿泊施設である。

 

さて、気絶したバトラだが日が沈む始める時に目を覚ました。

 

「う……ここは?」

「あ、起きましたか? ここは潜伏するホテルの035室。バトラさんの部屋ですよ」

「……」

 

目を覚ましたバトラは不可解な物を見て、感じた所為か無表情になった。

バトラの目には異様に近いベルクトの顔と後頭部には暖かくスベスベで柔らかい感触を味わっていた。

 

「膝枕?」

「はい。膝枕です」

 

ベルクトは正座した時にできる太腿と太腿の間にバトラの頭を置き、自身の腰と脛の間にはクッションを置く事で足の痺れ対策をしっかりと施したままバトラを膝枕した様だ。だが、手元にベルクトの膝枕と同じ高さの枕が置かれている辺り、フルタイムで膝枕をしていた様では無い事をバトラは把握する。

 

「膝枕ありがとうな。他の奴は?」

「気を利かせたのか別のお部屋に。大丈夫ですか?」

「ただの気絶だ。どうという事は無い」

 

ベルクトから起き上がるバトラだが、その瞬間に何処か勿体なさ気な声を上げるベルクトだが、バトラは首を傾げるだけだ。

バトラ自身膝枕を片宮姉妹にした事があるが結構、辛かった思い出がある為にベルクトの感覚がバトラには理解できずにいた。

 

「喉が渇いたな。何か有ったかな?」

そう言いながら冷蔵庫に近付くバトラだが、ベルクトから何も無いと言われるとどうしようか悩み始める。

バックパックは火器と共に持ってきてはいるがバックパックの中身は出来るだけ非常時以外は使いたく無いのがバトラの心情だ。

バトラはホルスターとベルトが一体化したオリジナルベルトを拾い、ズボンに巻き付け、カッターシャツの上からMS社の都市部での潜入や平時、休憩時間中の外出に適した私服風隊服の上着に袖を通し、ファスナーを首元まで閉めて、ファスナーを隠す様につけられた布をマグネットボタンで閉める。

 

私服風隊服を着たバトラの今の格好は落ち着いた薄いモスグリーンの固めの布で作られ、裾にば底・蓋付きのポケットに1列に7個付けられたマグネットボタンが特徴のコートを1番上のボタン以外は付けた状態で着用している。ズボンも底に蓋付きのポケットが幾つか付いており、実用性を求めたら無骨さが増したミリタリールックと言う印象を見る者に与える格好だ。

 

バトラはコートの両サイドに作られた他人から見えづらい様に作られたスリットに手を入れて、抜き撃ちに問題が無いか確認すると財布と部屋の鍵をコートの裾にポケットに入れる。

 

「何方に行かれるんですか?」

 

あっと言う間に身嗜みを整えたバトラにベルクトが一足遅れて声を掛ける。

 

「下の売店で飲み物を買いに行くんだ。一緒に行くか?」

「その……ご一緒したいのですが……」

 

バトラは口籠るベルクトの服装を見て、何が言いたいのか察した。

 

ベルクトの服装はMS社の飛行服であり、街に繰り出すには慣れていない者だったら、少し恥ずかしい格好だ。

バトラの様な実用性を求めた故の無骨さがあるミリタリールックならまだしも、完璧な軍服であるこれで外出するのはベルクトの感性からは恥ずかしい。しかし、着替えようにもバトラを待たせたく無いと言う思いから着替えたいとは言い出せないベルクトにバトラは肩をすくめる。

 

「着替えたいだろ? 別に待つのは苦じゃ無い性格だからゆっくり着替えて来い。エレベーター前で待つ」

 

バトラがそう言うとベルクトは花が咲いた様な笑みを浮かべて、小走りで自分の部屋へと戻る。

バトラは笑みを浮かべると財布に金が有るか確認して部屋を出る。

 

エレベーター前で待つ事10分。ベルクトが着替え終えてたのか小走りで近付いて来る音にバトラはもたれ掛かっていた壁から背中を離す。

 

「あの……似合いますか?」

「……」

 

ベルクトの服装に言葉を失うバトラ。

 

ベルクトの格好は紺色が混じった落ち着いた黒色の生地で作られた胸元が見える袖無しタイプの軍服ワンピースで、飾りの要素はシンプルに燻金の縁取りのみでボタンもダブルボタンを細い彩色性の高いロープで止めるタイプだ。防寒用に短めで薄く暗い紫色のポンチョを羽織っている。

下のスカートの部分はワンピースの上部と同じ生地で作られたスカートにレース生地のポンチョと同じ紫色の一回り長いスカートが膝上数cmの長さの一枚のスカートに見える様な作りだ。

露出は胸元の谷間の始まりまでで、暗い色合いの服の為かベルクトの白い肌と髪、赤い瞳が良く映えている。

 

その美しくも可愛らしい格好をしたベルクトに言葉を失うバトラ。

 

「やっぱり……似合いませんか?」

 

不安げなベルクトの声にバトラが大慌てで褒めようとするが言葉が浮かばず、直球に『見惚れてた』という言葉を紡いだバトラにベルクトは顔を赤くする。

 

初々しい反応をする2人だが、見る者が見れば可愛さと美しさを高水準で纏めるこの服を選んだ人間のセンスの高さを伺える出来栄えだが、驚くべきはベルクトのコーディネートだけでバトラとベルクトが2人揃った時のコーディネートテーマが直ぐに思い浮かべられる事だろう。

 

バトラの服は実用性を追い求めた上での無骨さがあるがそれが一種の格好良さを産む出し、ベルクトの服は華やかさは無いが気品と可愛らしさ、美しさを醸し出す。

2人揃うと貴族出の女性士官候補生を連れて街に繰り出す、現場での叩き上げ兵士の様な構図を連想させる。

 

2人は無言でエレベーターに乗り込み売店へと赴く。

その道中で他の客から『お似合い』や『綺麗』『可愛い』などの声を聞くとベルクトは更に顔を俯かせ、バトラはベルクトの手を引いて売店に逃げ込む様に入る。

「それじゃ……適当になんか探そう」

「そ、そうですね」

 

手を繋いでいた事に今更ながら気付いた2人は気恥ずかしそうに話しながら手を離し、バトラもベルクトも確実で売店を物色する。

バトラは自分が飲む飲み物の他にアルコール度数の高いウォッカやテッキーラと言った酒類を買って行く。

 

モンゴルでは18歳から酒が買えるが、バトラはギリギリ18歳と言う事で買う事が出来る。更に買い物籠に洗剤と卵を入れる。

ベルクトも合流すると飲み物の他に色々入っている事に疑問に思いつつも菓子類などを入れていく。

 

会計を済ませて、部屋に戻ったバトラは早速、購入した酒類を開ける。

 

「お酒飲むんですか!?」

「戦闘区域で酒飲む馬鹿が居るか! 火炎瓶作るんだよ」

 

バトラの突っ込みを聞いた言葉を聞いて、胸を撫で下ろすベルクトだが、突っ込みの後に聞いた言葉を思い出して声を上げた。

 

「火炎瓶って、どういう事ですか!?」

「手榴弾より足止め効果が高いんだ。本当ならガソリンなんかが良いが、アルコール度数高めの酒に洗剤と卵なんかでも充分行ける」

 

案外、誰も気付かないが知識がある物が見れば、今のご時世では危険物は身近にゴロゴロ転がっている。

火炎瓶も発火剤があればそれを強化する添加剤は沢山ある。

今回は売店の品揃えの問題で布に火をつける必要のない火炎瓶やより強力な対戦車火炎瓶の作成はできなかった。

 

「できたな」

「本当に作ったんですね……」

ベルクトに作り方を教えながらやった為に進行が遅くなってしまい外は暗くなっていた。

ベルクトが精神的に疲れた顔でバトラの部屋を出ようとした時、バトラがベルクトを呼び止める。

 

「そう言えば、売店の近くになんかアクセサリー関係の店が有った気がするんだが、一緒に行かないか?」

 

それを言うとベルクトは笑顔で頷き、ロビーへと戻り、件の店の前に行くと慧とグリペンが居た。

グリペンの視線の先にはチャイナドレスに似ているがゆったりとしたデザインで、腰の帯が和服の様な雰囲気を感じさせるモンゴルの民族衣装だった。

 

「……なんか、お前がこれ着てるのが想像できないな」

「確かにな」

 

突然の声に慧が振り向く。

 

「バトラさん達も売店に?」

「ああ、ついさっきな」

「入れ違いだったか」

「何見てるんだ?」

 

バトラの疑問に指を指すだけで答えると慧にベルクトが反応を示した。

 

「可愛い」

「こう言うの好きなのか? 普段の服装とは大分イメージが違うけど」

「女の子なら可愛い物が嫌いな人は余りいません!!」

強く主張するベルクトの声を聞きながら、慧が何かを見つけた。

 

「なんて、読むんだ?」

「Feel free to try this on……直訳なら試着可能だな。試着してみるか?」

「そんな、お金ありませんよ」「そんな経済的余裕はない。財政的に不可能」

「フリーだから、無料だぞ?」

「じゃあ、お願いします」「OK、じゃあ」

 

バトラが店員に英語で話し始めると女性店員はにこやかに了承して、グリペンとベルクトを試着室へと連れて行く。

 

他人に着付けを手伝ってもらうのは初めてなのか、前後左右に回転したりと優雅さとはかけ離れたステップをカーテンの隙間から踏んでいる事が見えるのと、『お……お……』と戸惑う様なグリペンの声から男性陣にもグリペンが他人の手伝いを受けながら着付けを行うのが不慣れな事が直ぐに判別が出来た。

それでも、衣摺れの音とするので着替えは出来ている様だ。

それに対して、ベルクトはと言うと着方がわからない事から来るであろう戸惑う音がするがグリペンの様な右往左往する事は無く、しっかりと着付けられていた。というのも、女性オペレーター陣に休日は着せ替え人形の如く試着され、着付けも手伝って貰う事が多かった為に何処か小慣れている感じだが、それを男性陣が知らない為にグリペンよりは他人の手伝いに慣れている感じだと自己完結した。

 

「ぐぉ」

「きゃ」

「なんかすごい声がしたぞ……」

「帯でもキツくされたんだろう」

 

ハラハラする慧に冷めた対応を見せるバトラと全く違う反応の2人の前でベルクトの試着室のカーテンが開き、ベルクトが一歩一歩踏み締める様に出てくる。

グリペンの試着室のカーテンも一足遅れて開き、グリペンがフラつきながら出てくる。

2人ともホテルの白んだ照明を浴びて、絹の生地が煌めいている。

 

「う……わっ」

「……ほぉう」

 

慧とバトラは大輪の花が咲いた様に空気が華やいだのを感じた。

金糸の刺繍が、帽子につけられた宝石が、長い飾り房が鮮やかに周りの空気を彩る。

前に流された髪が緊張からか光をいつもより少し多く孕んでいる様にも見える。

愛らしい。それが慧とバトラが思った第一印象だった。ベルクトとグリペンが同時に人形の様な顔を上げる。グリペンが喘ぐように唇を開けた。

 

「重い」

「知ってた」

 

グリペンの第一声にフラついていた事からかなりの重量がある事を見抜いていたバトラはグリペンの第一声を予想していた為に出来た突っ込みだった。

慧はグリペンの第一声にがっくりと来て、ベルクトは困った様な苦笑を浮かべる。

 

それでも、慧はグリペンの姿に見惚れる。慧が見惚れている間にベルクトが一歩だけバトラに近付く。

ベルクトは袖を軽く摘み、手を少し曲げる程度に横へ伸ばす。

 

「に……似合ってますか?」

「そうだな……」

 

まじまじと見つめるバトラにベルクトは恥ずかしさを覚え、腕を少し閉じてしまうが、気にせずに見つめるバトラ。

 

元々が作り物めいた容姿のベルクトである。非日常的な装いをしたとしても全く迫力負けするどころか装いが更にベルクトを際立たせる結果となる。

 

「うん。可愛いな。写真良い?」

「え!? 少し恥ずかしいですが、構いませんよ」

 

聞くや否や、バトラが懐から携帯を取り出して、アプリを起動。ベルクトの写真を撮る準備を済ませて構える。

直球的な賛辞と写真を撮りたいと言うバトラの要望に嬉し恥ずかしいと言う様な表情を浮かべるベルクトの写真を撮ると同時にカノープスメンバーに送るバトラ。

サラと京香がこの写真を確認した瞬間に小松基地の全窓ガラスが揺れるほどの黄色い悲鳴を上げるがそれをバトラとベルクトが知る由は無いだろう。

 

小松基地の喜劇とも悲劇とも言える現状を知らない店員はバトラと慧に『良くお似合いです』、『可愛い彼女さんにプレゼント、如何ですか?』と打診し、2人の要望から値札を見せると慧が唖然とし、バトラは『マジかよ……』と呟いた。

 

慧には持ち金の数十倍の価格で被りを振るが、バトラにはMS社の補給課で買う20mm弾ワンダースより少し安めの値段だが、服が重いと言った理由から携行に問題ありとして購入は辞めた方が良いと判断した。

それをベルクトに伝えるとベルクトも了承した。

 

だが、バトラも試着だけしてサヨナラすると言うのは気が引けるのかアクセサリー売り場に目を通す。

そこである物にバトラの目が止まる。

 

「石は……なら、丁度いいな」

 

バトラは手の空いている店員を呼び、ある4つのアクセサリーを選んで、シルバーのチェーンを手に取り、店員にこれをネックレスにしてくれと頼むと店員は何か気付いたのか笑顔で了承し、店の奥へと消えた。

 

「何か買うんですか?」

「土産も兼ねてお守りにな。ベルクトの分も買ったから」

 

そう言うとベルクトが笑顔を浮かべる。

 

「ありがとうございます」

 

何時もの憂いや遠慮がある笑みでは無く、嬉しからくる自然な笑みを見せたベルクトに鼓動が一瞬だけ高鳴ったバトラだが、それを鼻で笑い飛ばして、唇を動かす。

 

「仲間に置いてけぼりにされるのはもう嫌なんでな。縋れるなら石でも藁でも、神でも縋ってやる」

「………………着替えてきますね」

ベルクトが何かを喋ったが、上手く聞き取れなかったバトラが聞き返そうとするが、それよりも早く試着室に入ってしまい、タイミングを逃したバトラは腕を組んで何と言ったか考える。

その近くで慧が複雑な感情を相手に面白い表情を浮かべているが、バトラがそれに気付く事は無かった。

だが、近付く人影には気付いたのか振り向くと同時にコートのスリットに手を入れ、何時でも抜き撃ちが出来る状態にしておく。

 

「あー、待った待った。心配しなくてもあたし1人だ。喧嘩するつもりもややこしい議論をするつもりも無い。だから、落ち着いてくれ、ロビーで流血、殺人沙汰は迷惑だろう」

「(それって、迷惑とかそんなレベルじゃねーぞ)」

 

両手を見える位置で開いたまま話すジュラーヴリクの言葉に慧は喉の所で辛うじて止める。

バトラも相手の意思を感じ取ったのかスリットから手を出す。

 

「何しに来た?」

 

直ぐにスリットに手を突っ込める位置と角度で手を止めるバトラが要件を伺う。

 

「リラックスしてくれと言った所で無理だよな。昼間の行動を見て、信用してくれと言った所で意味が無さそうだし、ここで話そう。要件は2つ。まずは昼間の事だ。悪かったな、感情的になっちまって」

そう言って深々と頭を下げるジュラーヴリクにバトラも慧も面食らうとバトラも慌てたように昼間の事を謝罪する。落ち着いて考えると古傷を抉っている様な物だと何処かで感じていた様だ。

 

「あんな態度を取るつもりじゃ無かったんだ。もうちょっと紳士的に接するつもりだったんだけど、ムカつく奴がいたからさ」

 

そう言って、横目でバトラを見るジュラーヴリクにファントムのこと込みでもう一度頭を下げるバトラ。

「そんな事を言う為にわざわざ来たのか?」

 

慧の問い掛けにジュラーヴリクは眉を寄せる。

 

「重要だろ。ロシアのアニマが、相手の食卓をぶち壊して何も気にしない不作法者だと思われたく無いからな。例え敵だとしても非は非として認める。それはあたし達の流儀だ」

「正規軍では難儀な性格じゃないか? 誇り高い激情家で独自の正義感を持っている。軍で疎んでいる奴が1人や2人居るんじゃ無いか?」

「まあな」

 

バトラの言葉に肯定すると妙な沈黙が数秒降りるが、バトラの方からそれを破る。

 

「1つ目はわかった。2つ目は……予想が付くがな」

「ベルクトの話を聞きたい。日本で何が有って、日本側に着いたのかを。元々は昼間、あんたらに会いに行ったのもこの件だったんだ。MS社も日本もあいつの扱いで腑に落ちない点が多いからな。あんたら、あいつをどうするつもりだったんだ」

「どうって」「なんと言えば良いかな」

 

慧は目の前のベルクトを可哀想に思ったが故。バトラはベルクトを過去の僚機を務めたパイロットを重ねた故に助けた。

だが、それはその場の複雑な感情からの行動であり、それを説明するとなると、簡単に出来る様な物では無い。

 

「しらばくれんなよ。ベルクトの能力は知ってるだろう。あいつを上手く使えば周辺諸国はおろか、アメリカやあたし達の祖国、ロシアだって圧倒できる代物だ。なのにあんたらはあいつの為に超大型ザイに挑んで勝利した。訳わかんねーよ」

「そこに巨大航空機が来たから」

 

実際その通りである。あくまでもあの時の相手が巨大航空機であり、それを落とさねければならない状況に陥り、それを撃墜した。そうとしか言えない状況なのである。

 

「面白い事を言うなお兄さん」

「実際、その通りだ。ベルクトからクソ忌々しい灯を消す為にあいつが邪魔だっただけだ」

「はぁ?」

 

露骨に顔を顰めるジュラーヴリク。

 

「何で【誘蛾灯】の機能を取っ払うんだ? あいつはそれ用に作られたアニマなんだぞ」

「仲間を犠牲にしたく無かった。それだけだよ」

 

死んだ仲間と外見や性格が似ていたと言う事は伏せた状態で事の顛末を話す。

出会う切っ掛けから出会ってからの経緯。ベルクトの記憶の復旧に八代通の計画や決断、バトラの行動。そして、ベルクトが囮以外の生き方を探していた事と囮以外の生き方をMS社で見つけた事も。

それを告げられたジュラーヴリクは喘ぐ様に息を吐くと問い掛ける。

 

「ただの戦闘機パイロットとして扱う為の行動だった。ベルクトを」

「ああ」

「仲間を助ける。ただそれだけの為に」

「そうだ。それ以外に何がある?」

 

決して臆せず胸を張るバトラ。

ジュラーヴリクは神妙に宙の一点を見つめて、沈黙する。大きく息を吸った後に口を開いた。

 

「あいつとは……ノヴォシビルスクの航空機工場で会ったのが最初だった。あたしもラーストチュカもゴテゴテ飾り立てられて壇上に立っていたら見えたんだ。真っ白な、この世の汚れを全て洗い流した様なアニマが舞台の袖でひっそりと立ちながらこっちを見ていた」

「……」

 

ジュラーヴリクの言葉に黙したまま聞くバトラ。

 

「その目は光に憧れていた。それだけが記憶に残っている。あいつが何を考えていたのか、何を思っていたのか、結局分からずじまいだった。が……そうか。あいつはあんたらの所に居場所が出来たんだな」

 

ジュラーヴリクはふっと視線を落とした。

 

「祖国の守護者としてあんた達の行動は全く理解出来ない。使える者は全て使い、国家を守るのがあたし達の使命だ。ベルクトを殺す事で100万のザイが倒せるなら絶対にそうするべきだと思う」

 

ジュラーヴリクの言葉に慧が何か言おうとするがバトラが片手で制してから、語り始めた。

 

「気を悪くするかもしれんが言わせてもらう」

 

クッションを敷いてからさらに口を開く。

 

「俺たちにとってはあんたらの考え方は分からない。俺たちは与えられた依頼と大義名分を持って、利益を生むのが使命だ。その為に神と手を切り、悪魔の手を取った。だがな、仲間を自分達から見捨てるど畜生になったつもりは無い。例え、世界で1人の仲間の為にそうじゃ無い奴の血が自分達の下に何万ガロン流れようが知った事でない」

 

その言葉にジュラーヴリクは

 

「狂ってるな。確かにあんたらの少数の為に大数を捨てる考えは分からない。だが、狂ってまであいつを思ってくれる奴が居るならあんたらの所にいた方が幸せかなもな」

「意外だな。祖国の為に連れ戻すと言うと思っていたのだが……」

「ここにロシア軍のアニマとして来たならそうするかも知れない。だがな、今回はSuー27ーANMージュラーヴリク、あいつの姉貴分として来たんだ。あんなアニマでもあたし達の妹だ。使い捨ての爆弾にされた何て聞きたく無いし、何の生き甲斐の幸せも無く戦っている、戦っていたなんてもっと聞きたく無いからな」

「ジュラーヴリク」

 

予想外過ぎる言葉に慧もバトラも反応出来ずに居ると背後からグリペンとベルクトの声が同時に響く。

ベルクトもグリペンもジュラーヴリクを見ると交互に視線を向ける。

ジュラーヴリクはベルクトを見ると微笑み、語り掛けた。

 

「幸せそうで何よりだ。見捨てるなよ。この狂ったパイロットをな」

 

そう言うと踵を返して、去ろうとするが、何かを思い出したのか振り返る。

 

「3つ。情報提供してやるよ。ウランバートルの主要街区にはロシア製交通管制システムが導入されているがこいつはモードを弄れば人間も撮影し続けられる。さらにモンゴルの親露派は採掘会社のモグラを潰しに掛かった事に気付いて、多少手荒な方法でも片を付けるつもりで動いている。あんたらにウランバートルを向けられると行方が分からなくなるからな」

その情報にバトラは疑問と驚愕に染まった表情を浮かべるとジュラーヴリクは獰猛な笑みを浮かべる。

 

「戦闘機同士の戦いで地上の話がゴチャゴチャ絡んでくるのが鬱陶しいだけだ。あたし達は真正面からでもあんた達を打ち倒せる。政治や謀略の助け何て必要無い」

 

そして、ジュラーヴリクはベルクトに視線を向ける。

 

「ベルクトの事に感謝してるからな。だから、これで貸し借りは無しだ。次に空で会った時は容赦無く撃ち落とす。2度目の慈悲は無いからな。そいつを良く覚えておけ」

 

バトラは『情報の提供に感謝する』と言いながら敬礼を送るとジュラーヴリクは手を振りながら去り、その背中を徐々に小さくさせる。

その小さくなる背中にベルクトが話しかける。

 

「あの……」

「何だ?」

「情報はありがとうございます。でも、私達も仕事でここに来てるんです……仕事の邪魔をするなら……」

 

それ以上の事を言おうか躊躇うベルクトだが、息を大きく数と目付きを鋭くして……

 

「仕事の邪魔するなら……MS社の社員として、貴女方を……誇るべき戦闘機パイロットとして墜とします!」

 

言い切った。

「そうか。なら、どうなっても恨みっこ無しだな」

 

笑顔でそう言うと外に広がる夜の闇に消えて行った。

 

「良く言ったな、ベルクト。もっと褒めてやりたいが時間が無い。俺の部屋の荷物を取って来てくれ。俺はファントムの部屋を見る。慧とグリペンは八代通の部屋を見てくれ。時間が無いぞ。行動開始!」

 

バトラの手拍子を合図に全員が行動を起こした。

敵は直ぐそこにまで迫ろうとしていた。残された時間は少ない。




次回こそは、次回こそは戦闘シーンを書くぞ!

それと少し予定が長期で入ってしまった為に暫くは執筆もままならない状況が続くと思います。
その為、更新を一時期ですが停止する場合がございます。申し訳ありません。
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