ガーリーエアフォース PMCエースの機動   作:セルユニゾン

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やっと、やっとの思いで終わった第6巻です。

第7巻何時でもバッチコイや!


作戦42 タリズマン……漸く

斜陽に横顔を赤く染められながら、バトラは滑走路脇に立っていた。本当ならベルクトを探し、買ったお守りを渡す筈だったのだが、ファントムからの願いに自分なりのケジメを付けるのが先と考え、考え事をする何時もの癖で滑走路脇に立ち、外の光の肌に受けながら、風に服と髪をはためかせていた。

 

「未練が無い様に……か……」

 

風に消される程の声量で夕日に赤く染められた空を見上げながら呟くバトラは自分がやっていない事を考え始める。

 

「(強いて言えば、前世で遣り残した事だが、現実的に無理だと踏ん切りは付いている。今世では……)」

 

そう思ってから髪を掻き上げて、頭を振り、顔を真上に向けて呟く。

 

「あるが……やれないよな……」

「何がやれないんですか?」

 

突然の声にバトラは目を見開き、声のした方向に顔を向ける。

そこにはキョトンとした顔を浮かべるベルクトが風に流れる揉み上げの髪を左手で押さえながら、バトラを見つめていた。

「……ベルクトか……何でも無い」

「何でも無い訳無いですよね」

そう言い残して滑走路脇から去ろうするバトラにベルクトはバトラの手首を掴んで呼び止める。

 

「……何でもねぇよ」

 

ぶっきらぼうに答えるバトラにベルクトは正面から見つめて反論をした。

 

「何でも無いなら泣く必要無いじゃないんですか」

「(俺が泣いてる……)!?」

 

ベルクトに指摘されて、始めて泣いていると自覚したバトラは手で拭うと栓が抜けた様に涙が目尻から流れる。

バトラが泣くまいと思えば思う程に涙はより多く流れる。

 

「は? 何でだよ……何で、涙が流れる……何も悲しい事も何も無いのに……何でだ、どうしてだよ」

 

涙を止めようと手で拭えばより多くの涙が流れる。それを拭えば更に流れる。徐々に手で拭うスパンは短くなって行く。

そんなバトラにベルクトは言葉を投げ掛ける。

 

「あるんじゃ無いんですか? 願っても、どれだけ強く願っても叶えられない願いが、果たす事の出来ない未練や誓い、約束があるんじゃ無いんですか?」

 

優しい言葉にバトラの心は揺さぶられ、涙と共に心に溜まっていた未練や後悔、苦しみや悲しみも溢れ出し、それと同時に瞳からも涙が溢れ出した。

 

「そうだよ。あるんだよ……もう、果たす事の出来ない約束が、腐り切った誓いが……叶えてやりたい未練が……叶えたい願いがあるんだよ!」

 

両手で顔を覆い、地面に膝を付いて項垂れるバトラ。

目の前の部下に後輩にこの醜態を晒したく無いという搾りかす程の理性と見栄が取らせた行動だった。

それをベルクトは蔑む様な視線を向ける訳でも、嘲る様な視線を向ける訳でも無く、泣き崩れる子を包む様な母の様な笑みとも、打ちひしがれる弟を慰める姉の様な笑みとも取れる笑みを浮かべて膝を付くバトラを抱く。

 

「私ではバトラさんの想いを叶えるには役不足です。でも、泣きたい時に胸を貸すくらいは出来る筈です。いえ、出来ます。ですから、私しか居ない時位はエースパイロットのバトラとしてでは無く、辛く、苦しい過去を背負った弱い人間のバトラとして存在して良いんです」

「あ……あ……あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」

 

バトラはベルクトの腕の中で顔を覆い、地面に膝を付いたまま、己の弱さに嘆き、怒り、憎む様な泣き声を上げた。

ベルクトは慈しみ、慰める様にバトラの頭に頬を付け、抱擁を強くした。

バトラは己の弱さを嘆き、怒り、憎む泣き声が弱まるとベルクトの背中に震え、力の入らない腕で縋り付いて、今までに死に別れたアンタレス隊メンバーの名前と謝罪を泣きながら吐き出し。それは溜め込んだ水を放出するダムの様だった。

溜め込んだ物全てを吐き出し、落ち着きを見せたバトラにベルクトは抱擁を解かずに優しく語り掛ける。

 

「今まで、どれだけの物を溜め込んでたんですか……少しは仲間に頼って下さい。確かに私も詩苑さんも詩鞍さんも貴方や貴方の仲間だった人に比べれば頼りないかもしれません。けど、貴方にこうして胸を貸して、溜め込んだ物を受け止める位は私でも出来るんです」

 

ベルクトはより一層、抱擁を強くして、優しい声で訴える。

 

「貴方の心が壊れるのは見たくはありません。私は貴方の吐き出す為の的でも構いません。ですから、溜め込まないで下さい、吐き出して下さい。それ位、みんな許してくれる筈です。許さないと言われたなら、私は許しますから……」

「う"……あ"あ"……あ"り"か"と"う"……べルクト……」

 

バトラはベルクトの胸でもう1度だけ泣いた。悲しみや謝罪でも、苦しみや怒り、憎しみでも無く、歓喜と感謝から泣いた。

 

それはバトラの今世と前世の人生を合わせても、初めて味わう感情だった。

 

 

 

 

 

 

数分もすればバトラの心情も落ち着き、泣き疲れるて眠る程幼稚でも無いが、心情の劇的変化は精神の疲れを誘発し、それは身体的疲労をも誘発する。

 

バトラはベルクトに連れ立たれて、ファントムからの報告を聞いていた木箱にどちらからという訳でも無く、それが当然と言わんばかりに自然な流れで背中合わせに座った。

「……」

「……」

 

だが、2人に会話は無い。

 

「ありがとうな……その……聞いてくれて、貸してくれて、何より受け止めてくれて」

「どういたして。この位しか出来ませんけど」

 

突然の言葉に肩越しに振り返れば、気恥ずかしさからか少し斜めを向いたまま、耳まで赤くしたバトラの横顔を見る事が出来たベルクトは笑顔を浮かべて、上を向いたまま答える。ベルクトの浮かべる笑顔は幸せに溢れていた。

 

「……そっか……でも、それだけでも有り難い。何も学ばず、何も準備出来ずに副隊長、事実上の隊長になったからかな? 弱い姿は見せられないって思ったのか、少し無理してた……いや、無理はしてないかな? 溜め込んだ物の吐き方がわからなかっただけかもな」

 

弱々しく笑うバトラにベルクトは後頭部をバトラの後頭部に触れさせる。

 

「そんな弱気になら無いで下さい。何時ものバトラさんの方が皆さん落ち着きますから、それに吐き方はわかったじゃ無いですか」

「そうだな。多用はできがな」

「そうやって、気を遣ったらまた、溜め込みますよ?」

 

『そうだな』と笑うバトラにベルクトは安心感を得ていた。ベルクトには今のバトラが重い何かを落とした時の様な解放感と憑き物が取れた清々しさを感じていたからだ。

 

「あの……バトラさん……」

「どうした?」

 

今なら伝えられる。そう確信したベルクトは行動に移そうとした。

 

「実は、私……いえ、辞めときます」

「どうしたんだよ。気になるじゃ無いか」

「忘れて下さい。何か、違う気がするんです」

「……」

 

だが、移せなかった。今のこのタイミングで行動に移せば、自分が卑怯者の様な気がしたのと、バトラから教わった敬意を払うべき敵に対する礼儀に反すると思ったからだ。

ベルクトの言い表せぬ感情が籠った言葉にバトラは無言の優しい笑みを浮かべるとこれ以上の詮索はしなかった。

それがベルクトには嬉しく感じた。

 

「ありがとうございます。もっとちゃんとした時に話すべき事だと思いますから。その時まで待って頂けますか?」

「わかった。その時まで待とう」

「ありがとうございます」

 

バトラはベルクトの手に自身の手を重ねる。

 

「ベルクト」

 

呼び掛けた後にバトラは手を乗せたまま、ベルクトの背中に背中を密着させる。

 

「バトラさん……何を?」

「その時は来ないかもしれない」

「……はい」

「だから、これを渡す」

 

そう言うとポケットから白い石のデールをペンダントトップにしたネックレスを取り出す。

 

「これは……?」

「お守りだよ」

 

ベルクトは嬉しそうに笑うと頬を赤くしながら、バトラに上目で見つめる。

 

「付けてくれますか?」

 

その姿にバトラも赤みが引いて来た顔に赤みが戻ってくるのを自覚するが、直ぐに平静を装う。

 

「構わない。髪を上げてくれ」

 

バトラに言われるがまま、ベルクトは細く白い両腕で白く美しい髪を軽く持ち上げる。それにより、髪で隠されていた細く白い首筋をバトラに晒す。

バトラは向き直り、ネックレスを持ったままサイドから腕を通してベルクトの前に持って行き、肩越しにチェーンを見ながら接合部を外して、1本のチェーンにすると首筋の裏で接合部を繋ぎ、輪に戻した。

 

「暖かいです」

「手で温めたからな」

「そう言う意味じゃ無いんですよ……ありがとうございます」

 

ジト目でバトラを睨むベルクトだが、気遣ってくれた事には素直な感謝を告げる。

そこからは嫌では無い沈黙が2人を支配するが、ペンダントトップにされたデールを見て、ベルクトが口を開いた。

 

「意味はなんですか? バトラさんの事ですからね。意味があるんですよね?」

その言葉にバトラはお手上げだとジェスチャーをすると口を開いた。

 

「それはムーンストーンというパワーストーンなんだが、旅や航海に安全が守られ、無事に帰ってくるお守りとしてと、家族や親しい友人の危険を知らせ、危険から守ってくれるお守りとして使われるな。他には邪気払いや魔除け、道に困った時に迷いを取り去って、正しい選択へと導いてくれるお守りだとされている」

「そう言う意味ですか。私が(出撃)しても邪気や魔は払い、正しい選択を持って、話せる時が来るまで(基地)に帰って来るように……ですか」

そう話すベルクトが何処か悲しげな顔を浮かべている事に疑問に思うバトラにベルクトは肩越しに微笑みを向ける。

 

「ですけど、その家に貴方が居ないと……その旅で貴方が帰って来なかったら意味が無いんですよ……」

 

ベルクトの言葉はバトラをハッと思わせた。

 

「すまん……残された奴の事は良く知ってる筈なのにな……」

「変な所で抜けているですよね〜バトラさんは」

 

笑いながらバトラに向き直り、肩に頭を乗せるベルクト。

自然ともたれ掛かる体勢になった事で軽く慌てるバトラにベルクトは『このまま居させてください』とお願いすれば、バトラは何事でも無いと考えたのか落ち着き、黙って肩に頭を乗せさせる。

ベルクトは幸せに満ちた表情を浮かべ、バトラもリラックスしているのか心なしか蕩けた表情を作る。

 

まったりと落ち着く空気が2人を包むが、身体を支えていた手を上に伸ばし、身体を伸ばしたバトラが沈黙を破る。

 

「落ち着いた所でまだ、やらなきゃならん事が多い。1つづつ片付けるか」

 

ベルクトもバトラの伸びに合わせて頭を肩から退かす。バトラは自由になった肩を回すのを見て、ベルクトは申し訳なさそうな顔を浮かべるがバトラは何でも無いと笑いながらベルクトの頭を梳く様な撫で方で撫でる。

気持ち良さそうな笑みを浮かべるベルクトがバトラの手が退けられると少し残念そうな表情を作るが、直ぐに軽く伸びをする。

 

「休憩はここまでですね。さぁ、片付けて行きましょう!」

 

バトラを先導する様に歩くベルクトにバトラは笑みを浮かべる。

 

「置いてくなよ」

 

そう言って、早足でベルクトの後を追いかけたバトラの足取りは幾分か軽かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で? 何で来た?」

「あのじゃじゃ馬娘を助ける為だよ」

 

八代通とファントムのドーター修理が間に合わなくなった際のすり合わせを行うバトラと八代通の前に立った慧が何を変な事を言うんだと言わんばかりの表情で言い放った言葉にバトラが頭を抱え、謝罪をする。

 

「いや、すまない。言葉足らずだったな。どうして、()()()()()()()()()()?」

「だな。どうして君らは手を繋ぎ、指を絡めている。俺はてっきりイーグルのサルページについて話しに来たんだと思ったんだが、違ったか?」

 

バトラの言葉に八代通も同調する。

事実、2人の前で慧と共に来たグリペンは慧と恋人がする様な繋ぎ方で手を繋いでいたからだ。

バトラは呆れる様な感服する様ななんとも言えない雰囲気を出しながら、口を開く。

 

「お前ら、ここがどんな場所で、どんな時期で、どんな事をするのか分かっていてそうしてるのか?」

「わかってるけど……」

「じゃあ、惚け話をするなら他所でやってくれ」

 

バトラが慧に顰めっ面を隠す事なく見せつけ、手で払い退ける様なジェスチャーを送る。

 

「別にそんなつもりじゃ……」

「素直に言えよ。青春の病ってやつに冒されたたんだろう。ったく、この非常時に」

「そう行ったか。クレイモアの道を通るドMとは恐れ入る。ったく、尊敬するよ」

 

呆れた顔で腑抜けた音の拍手を送るバトラに慧は『どういう事だよ』と冷や汗を流す。

バトラがこんな事を言うと強ち冗談でも比喩表現でも無い正真正銘、言葉通り、文字通りの意味に聞こえて来るのだ。

 

「バトラの言おうとしている事の深い事は分かんねーけどさ。こいつを疑う位なら世界と心中した方がマシに思えるんです。八代通さんだって、言ってたじゃ無いですか。『どんな絶望的な状況でも、1つ位は切れない絆がある』って」

 

慧はバトラの言葉の意味を理解し切れていないが、バトラの言おうとしている事の雰囲気は理解できた。それを理解した上で、グリペンの手を握り、ペールピンクの頭を見下ろしながら決然とした口調で言い放つ。

 

「その切れない絆って奴が、グリペンへの信頼か? その信頼は地獄から出られる蜘蛛の糸だとしよう。だが、それが途中で切れる様な胡散臭い物だとしたら、お前はどうする?」

「だとしても、登ります。自分が信じたたった1本の絆です。それが切れても後悔も恨みもしません。登らなければ地獄に残り続けるだけです。俺は自殺なんて選ぶ気はありません」

 

バトラがその信頼を裏切られらかもしれないと言う事を話すが、慧の目が一切、変わら無かった。

 

「糸を登らなければそもそもそんな事にならいだろう?」

「だとしたら、地獄に留まり続けるだけです。抜け出す努力も工夫もする事なく。それが八代通 遙って人の生き方ですか?」

 

八代通は苛立ちと舌打ちを隠す事なく出しながら、『そういう所はファントムそっくりだぞ』とブツブツと文句をひとしきり言い切ると、『お前と』言いながら、今度はグリペンに視線を合わせる。

 

「本当にこんな男で良いのか?死ぬ程苦労させられるぞ。思い込んだら最後、崖まで突っ走って一直線に落ちて行くタイプだぞ」

「ハルカと一緒。だから、別に驚くことは無い。慣れた感じ」

 

グリペンの思いもよらぬ返答に虚を突かれて、なんとも言えない表情になった八代通にバトラが『1本取られたな』とおちょくる。

八代通はバトラを目だけを向けて睨みがバトラはどこ吹く風と受け流す。

八代通は天を仰ぎ、低い罵しり声を上げる。

「俺は娘を作らん方が良いな。多分、男が挨拶に来たらぶん殴ってる」

「婚期が遅れそうだ」

 

バトラの言葉に片眉を持ち上げて、もう一度睨み八代通だが、バトラはそれを無視して続ける。

 

「話は聞いているが、本当に良いのか? お前達が受け持とうしているミッションは人命救助や人質救出に近い。敵の本拠地に2人だけで乗り込む。こちらからの支援も通信も何も無い状況でだ。何が起こるかもわからない。そんな場所に2人だけで行く。その覚悟があるか? 絶対に成功させて帰ってくると言う覚悟があるか?」

 

バトラの確認に慧とグリペンは同時に無言で頷く。

それを見たバトラは何も言わずに八代通に振り返る。

 

「覚悟は本物だ。後はあんたの決断と行動次第だ。どうする? 今ならコアを壊して何が起こるかわからないがリカバリーはし易い手段が残っているが……」

「ついて来い」

 

八代通はバトラの言葉を遮る。3人は八代通の後をついて行き、2機のFー15の前にたった。

片方は主翼と尾翼が無いだけで状態は綺麗な機体。片方は完全に焦げて錆びてしまったスクラップ状態の機体。

その2機はケーブルで繋げられ、発電機が2機の周りで低く唸り声を上げている。

 

慧とグリペンはスクラップと化したFー15の座席に普段と同じ位置で座る。

スタッフがグリペンから離れたのを見計らってバトラがグリペンに話しかける。

 

「グリペン。お前はあいつの元を絶対に離れるな、離れたら後悔するぞ。お前があいつの事を思っているなら必ず2人で戻って来い。良いな?」

「わかってる」

 

グリペンのいつもと変わらない感情がが分かりにくい表情で応答すれば、バトラは安堵したかの様に息を吐く。

 

「それだけだ。良いか、念押しするが、お前か慧だけじゃ意味が無いんだ。2人居て初めて戦力になる。それがわかってるなら2人で生還しろ。グットラック(幸運を祈る)

 

念押しと言っておきながら、グリペンの返答を聞かずに床に飛び降りるバトラにグリペンが変な物を見たと言う様に首を傾げる。

慧とグリペンの2人は大勢の人間に見送られながら、異次元とも言える世界……アンフィジカルレイヤーへと旅立った。




取り敢えず、慧とベルクトに救出させる事にしました。

ベルクトとバトラでも良いんだけどね。今回は慧とグリペンに行かせます。
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