「え? バトラの初めての僚機だった人の事を知りたい?」
誰もいない空中管制機の機内でグレアムに告げたベルクトの言葉にグレアムはついつい、オウム返しをしてしまう。
ベルクトはそうですと無言で頷くだけだった。
グレアムはベルクトが何故、知りたいのか? どうして、自分に来たのかを察して、溜め息を1つ吐く。
グレアムは吐き終わると周囲を見渡し、誰も居ない事を確認してから口を開いた。
「そうですね……あれは……」
グレアムの口から思い出される様に話し出された。
あれはバラウールという巨大電磁投射砲の破壊作戦が立案されてすぐでした。
各地でヴァラヒアというテロ組織と同調してなのか、各地で様々なテロ組織が活動を行った所為で、実力がまだ不足気味だったMS社の部隊は少なく無い被害を被っていました。
本社はバラウール破壊作戦に起死回生を掛けて、様々な場所に居た部隊に合流の命令を出し、現地で部隊再編が行われました。
私達の部隊にはバラウールへの直接攻撃と制空を行うという任務の性格から攻撃機乗りの少女が1人来ました
はい。お気付きだと思います。
バトラが持った。初めてのウィングマン、サーシャ・V・ヴァクーニアでした。彼と彼女は隊長の『互いにまだ良くわかってないでしょ? 一緒に過ごす時間を多くしなさい』と言うアドバイスを聞いて、2人は良く一緒に居ました。
お互いに部隊仲間を失って傷心になってましたから、傷の舐め合いでもあったのかもしれませんが。
それはもう、寝食を共にすると言う言葉を体現していました。
同じ部屋でですか?
はい、寝てました。テントの数が少なくて、男達は基地内のソファーや段ボールで寝てましたけど。
経緯ですか?
サーシャが段ボールで寝てたバトラを説得して同じ部屋で寝かせたんです。今、思うとその時からサーシャの……バトラを見る目が仲間以上の物になっていた気もしますね。
続けますね。
それからですね。風物詩が生まれたのは。
朝起きたらいつもサーシャがバトラと一緒に不機嫌な顔で飲食スペースに朝食を取りに来るんです。
これもバトラを遠からず想っていたからでしょうね。
そこからは訓練は勿論ですが、整備や補給も整備士に混ざって2人も一緒に作業してました。機銃への弾薬補給とか位でしたけど。スクランブルも中佐の計らいで2人一緒に実戦を経験したりと作戦に向けて2人は絆を深めていきました。
僚機として人として、仲間としても……勿論、サーシャは一方通行ですが、男性としてもバトラとの関係を深めていきました。
2人が出会ってから数週間でしょうか。ついにバラウール破壊作戦。作戦名【首長竜討伐】が発令されました。
我々の戦闘機隊は4機の内2機を護衛兼制空権確保要員に残りをバラウール直接攻撃要員に振り分けました。
バトラとサーシャは機体が攻撃機と言う事でバラウール攻撃要員として参加しました。
作戦は簡単でした。
地上攻撃部隊の第1波と制空権確保専門の部隊がバラウールまでの道中に居る敵の撃破。第2波地上攻撃部隊がバラウールへの攻撃を、その護衛の戦闘機部隊が取り逃がした航空機を倒すと言うものでした。
第2波だったバトラとサーシャは足の遅い機体や回避行動が遅れた機体は撃墜されながらもバラウールを目視範囲に捉えました。
その瞬間に電子妨害が発生。電子妨害を無力化する為に各機が散開しました。
結果的に言えば、電子妨害は無力化し、バラウールは破壊できました。サーシャを犠牲にしつつもですが……
そこからはベルクトさんも知っている通りの結末です。
「何かありますか?」
グレアムは天井を見ていた目をベルクトに向け、マグカップに注がれたコーヒーを飲む。
ベルクトは自分に注がれたカフェオレに映る自分の顔を見ながら、口を開いた。
「バトラさんは今も……」
その先は紡がれなかった。
ベルクトの心がこの先を紡ぐ事を拒否しているかの様にその喉と口は動かない。
グレアムはもう一口コーヒーを飲むとカップを置き、目を瞑った。
「本人に全て終わってからザイが出現する間のほんの束の間に聞いてみました。彼は『無念も後悔も無い……そう言ったら完全な嘘になる。でも、納得はしている。戦争だったから、遅かれ早かれ死ぬし、死に別れる。死に別れた後に最悪な事を知った、気付いたと思っている』その後は死んで行った仲間達への後悔や無念を話してくれました」
「やっぱり……」
「ですが、死んだ人間にいつまでも固執するのは、死んだそいつが安心出来ない。みたいな事も言ってましたね。彼の中に折り合いが付いているんだと思います。でも、やっぱり話したがらない内容ですが」
ベルクトは俯きながら、基地内を歩く。
悲しい過去なのは知っているが、やはり聞くとその悲しみは予想以上に深いものだった。
思いを寄せる人物には笑っていて欲しいと思ってしまうのは、女のエゴなのか……そして、自分もヤリックに思いを寄せていた。
「それでも、バトラさんは……」
好きな人と死に別れた後で恋をしたとしても、それを理由に断る事はしない筈だ。
「呼んだか?」
「へ? え、え……え? え?」
「そんな驚かれても、困るんだが……」
後ろに困惑するバトラが立っていた。
「えっと……聞きました?」
「何をだ? それより元気が無いな。ヤリック絡みか?」
その言葉にベルクトはどう言おうか迷ってしまう。確かにヤリック絡みだが、大部分はサーシャとバトラ絡みだ。
言葉を探している内にバトラが語り掛ける。
「ヤリックも言ってただろう。自分なりの幸せをって、想う事は悪い事では無いが、囚われるのは良くないぞ」
その言葉にベルクトは決心がついたのか。口を開く。
「サーシャさんに付いてはどう思っているんですか?」
「聞いたのか。うむ……そうだな」
考える素振りをしながら空を見る。
空には街の光に飲まれて見えない星があるもののしっかりと星の姿を見る事が出来る。
バトラにはその光景が思い出せる人物と思い出せない人物に分けて見えてしまった。
「どうなんだろうな。あいつのスキンシップやお願いを嫌だと思った事は少なかった気がするな。だが、それが友情なのか愛情なのかは分からない。あいつをどう思っていたのか……あいつの声が聞ければわかるかもな」
そう言って、諦めた様な笑みを見せるバトラにベルクトが抱き着く。
「私を……私をサーシャさんとして、扱っても良いですから、笑って下さい」
涙声で訴えるベルクトにバトラの手が伸びて、頭を撫でる。
「次、そんな事を言ってみろ。はっ倒すからな。でも、ありがとう。そこまでの気持ちを抱いてくれて、これはお礼だ」
そう言って、バトラはベルクトの頬に口付けをする。
「へ……」
ベルクトはそんな声を上げて、フリーズしてしまう。
だが、ベルクトの顔は恥ずかしさと嬉しさに綻んでいる。そんなベルクトを見て、バトラが愛しそうに笑みを浮かべる。
「外見は似てるが反応は似てないな。サーシャはこんな時は嬉しいが何か不満と言う表情をしたんだがな」
バトラはそれが好意からの表情だったと失ってから気付いた。
そして、同時は知らなかったが、頬へのキスの意味も強ち間違いでは無い。だからこそ、サーシャは不満に思うと同時に嬉しかったのだろうと言うのは今になって分かった。
「明日も仕事だからな、もう寝るぞ」
「へ? あ、ちょっと待って下さい!」
歩き出したバトラをベルクトが追い掛ける。
追い付いた辺りでバトラが笑いながら、冗談めかして話す。
「こっちは男子寮だぞ? あ、一緒に寝たいのか? 俺はベルクトみたいな可愛くて美人相手なら全然、良いぞ」
バトラの言葉に沸点を容易く超えたベルクトは顔を真っ赤にして否定すると走り去るように自室へと帰って行った。
その光景を見たバーフォードは微笑ましく思いながら、カノープスへと乗り込んで行った。
バーフォードが見ていた事には気付かずにバトラはもう一度だけ夜空を見上げて、頬へのキスの意味を思い出していた。
だが、暫くすると歩き出して自室へと戻り、今日を終えた。
頬へのキスは親愛と好意と満足感
活動報告にアンケートまがいな事してますのでよろしければどぞ。