ガーリーエアフォース PMCエースの機動   作:セルユニゾン

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作戦54 新たなる翼との対面

連絡が付いたMS社の現地部隊から車が手配されたバトラとベルクトに乗り込んで飛行場を目指していた。

 

「…………」

 

ベルクトは静かに何かを考え込んだ様子でベトナムの流れる景色を車窓から見ていた。

 

今回のロシア側、特にバーバチカとの顔合わせは成功とも失敗とも言えない結末だった。

 

バーバチカのジュラーヴリクから語られたのはアルタイの空にいつかのシャルル・ド・ゴールで起きたアンフィジカルレイヤーが空間単位で発生しており、そこに意図せずに突入したバーバチカはバーバチカ3機目のディー・オーの自己犠牲でジュラーヴリク、ラーストチェカだけが脱出に成功し、ディー・オーは魔の空域とも言えるあの場所に取り残してしまった事だった。

 

ジュラーヴリクはディー・オーを取り戻す為にもう一回飛び込むと公言した。

異常な経験をしたせいか眼窩と頬に深い影が落ち、橙色の髪は色艶を失ってこそいたが、その目の中には確かにギラギラと光る光があり、生気を失った顔と相まってバトラも一瞬ではあるが気に当てられ掛けた。

 

「……気に病み過ぎるなよ」

 

バトラの言葉にベルクトは『え?』と顔をバトラの方に向ける。

 

バトラはそんなベルクトに溜息を吐いた。

 

ベルクトも特殊な任務を帯びていたと言えどもロシア生まれであり、ジュラーヴリクとは少なからずロシアの頃から関係があり、献身的であると共に優しい性格でもあるために今回のディー・オーMIAの話は心に蟠りを作るに充分過ぎた。

 

「ま、気に病んでも良いが空に出たら忘れるか気にしないでくれればいい」

 

空戦ではそう言った感情は己の足を引き、最悪は自分の命を失ってしまう事になる。

ベルクトはバトラのそんな意味を含んだ言葉に自分を心配してくれていると察して、微笑むと頷いて見せる。

 

普段ならまだ心配されていると俯くベルクトだが、今の心情でその言葉は愛しく思ってしまうベルクトだが、バトラの顔はベルクトから隣に座る人物に向いていた。

 

「幽香。お前はヴィラで寝ていても良かったんだぞ?」

 

それですか。と溜息を吐くのは幽香と呼ばれた少女。普段はファントムと呼ばれる少女だった。

 

「なんで夫婦の同衾を見守らなければいけないんですか」

「あー……そうだな。可能な限りは2人っきりにさせてやろう」

 

ザイとの戦争では前線基地を破壊するなど好転はした状況だが、タイムリミットまでの時間を伸ばしただけで人類と言う存在に残された時間は多くはない。

で、あるならば小さくも深い傷跡を2つ持つバトラで無くても、恋人と過ごす目の前の時間を大切して欲しいと思いながら、バトラは徐に懐から社員手帳を取り出すと挟んでいた写真を見つめる。

 

「歴代アンタレス隊ですか……」

「ああ。最初は俺を含めて5人。それが最終的には4人となり、その後は俺1人……は、最近だな」

 

そう言ってベルクトに視線を走らせると車窓から斜め上に広がる夕陽の空を見上げ、日本に残して来た片宮姉妹の顔を思い出すとファントムから言葉を投げ掛けられる。

 

「貴方も時間は多くはありません。目の前の出来事を大切して下さい」

 

そう言って、ごく自然な動きでバトラの肩を抱き付く。

まるで自分に構ってください、自分を見て下さいと言わんばかりのファントムが行なったこの行動にベルクトは口をパクパクと動かして固まってしまう。

 

バトラもバトラで頭が混乱しており、困惑と羞恥で表情が訳の分からない形で顔と身体が固まっている。

それを確認したファントムは助手席と運転席に軽武装なMS社の社員を忘れて腕だけで無く、身体も摺り寄せるとベルクトの目と口が更に広がる。

 

「きゃあ!!」

 

そんなベルクトを見て助手席の社員がハンドルを大きく切って慣性の力を使ってベルクトをバトラの方向の投げて抱き着かせる。

抱き着いたベルクトは顔を真っ赤にして固まってしまうが助手席の脇から見えたサムズアップを見る。

 

「…………」

 

恋したのが多くの女性を魅了する人物だった故に少しは強かさを知ったベルクトはこれをチャンスと考えてファントムからバトラを取り返すかの様に身体を密着させる。

 

それから10分もの間を2人に抱きつかれたまま車に揺られて空港に着いた車はバトラとその恋人候補2人を下ろして去っていった。

 

「やぁ。どうしたんだい?」

「嫌な。10分程だが記憶が無いんだ」

 

そんなバトラに薄っらとした笑いを浮かべながら話しかけるのはスーツを着た銀髪に青い目の若い男が立っていた。

 

「それは大変だ。若年性アルツハイマーだ」

「いいから商品を見せてくれ。キャスパー・ヘクマティアル」

 

バトラは前にに立つ男の名前であるキャスパー・ヘクマティアル。

様々な物を運び売るHCLI社の社長にして、海運の巨人と称されるフロイド・ヘクマティアルの実子の1人で極東と西アジア担当の兵器運搬部門の一翼を担う人物である。

 

そして彼はバトラが今回で購入を考えている機体を持つディーラーでり、同時にこのベトナムに配備されている機体の約3割を売り渡し、整備・維持用の部品に至っては5割を握る男でもある。

 

PMC、果てはPMCの連合軍とも言えるPMCのグループ、PMU内ではベトナムはHCLI社の金庫の1つとも言われている。

 

「で? そこの綺麗で可愛らしいお嬢さん達は誰かな?」

 

バトラの背後に立っていたファントムとベルクトを見たキャスパーが語り掛けると彼女達よりも早くバトラが語り掛ける。

 

「ああ、こいつの紹介も兼ねていたんだった。カーシャ、紹介しよう。HCLI社のキャスパー・ヘクマティアル氏だ。日本で仕事している間は世話になるだろう、と言うより世話されろ」

 

そう言ってベルクトを手招いたバトラ。

ベルクトは以前に武器弾薬の補給は日本や技本はしないと聞いた際にバトラやバーフォードからは爺さんと呼ばれる人から買うと聞いており、別の武器商人が出て来た事に驚いていた。

 

「嬉しい事を言ってくれるね。バトラ君は。そっちのお嬢さんは?」

「新しい私の兵装操作員ですが、武器弾薬は俺が調達する決まりですので、彼女との商談は暫くなしです」

 

私の兵装操作員。正規軍で言えば兵装システム士官であるが、ファントムは私の兵装操作員と言う言葉に顔を赤くしながら、モジモジと身体を揺すっているのをベルクトは嫉妬と殺意が滲んだ目で見ていた。

 

「それよりも早く商談に入ろう。前にも連絡したと思うが、フライトは可能なんだろうな?」

 

後ろの修羅場は気にしないの? と言う言葉をキャスパーは飲み込む事にした。と言うよりも、言ったら言ったで何か起きかねないと嫌な予感を感じて判断したからだ。

 

「準備は出来ているよ。ただ、実弾搭載だから注意してくれよ」

 

そう言ってHCLIと書かれた見るからに新造の格納庫に通されると中には2機の戦闘機が自分の主人となり得るだろうパイロットを待っていた。

 

「右の機体がF/A-27。F/A-18E/Fを置き換える為に開発されたが、維持費が嵩むからと不採用になった機体だね」

 

F/A-27。

マクドネル・ダグラス社がF/A-18の後継機として開発した機体だが、置き換える機体よりも大型でランニングコストが嵩む構造にした所為か不採用になってPMCに販路を求めた機体だ。

 

カナード翼に可変機構に取り付けられた後退翼に上下2枚ずつ、Xの字をズラした様に搭載された計4枚の斜めに傾けた尾翼。

 

X字に近い形状で構成された尾翼と主翼は後退翼状態の所為か槍や矢を思わせる鋭角な印象を放ち、同時に尾翼も全てが寝かされた様に平たい印象も与える。

 

ハードポイントはFー14を思わせるレイアウトに加えてエアインテークにも近年のSuシリーズに見られう様に2つづつ搭載されている。

 

「正規軍モデルにはステルスがあったんだけど、PMCに卸すとなると費用のかかるステルスは捨てた方が販路は開ける。ただ、胴体はウェポンベイだからステルスカバーを使えばステルス機として使えるよ」

 

キャスパーの話を聞きながらバトラはグルリとF/A-27を見回る。

 

機体後部には方向舵に相当する動翼が無い故に機体後部の双発エンジンに水平方向への推力偏向が可能なパドル式の2次元ベクタードノズルが組み合わさることでヨーを可能にした構造だった。

 

「低速では格闘戦向き、高速では一撃離脱向きの機体だ。そして対地攻撃も出来る。こう聞くとボムキャットの発展版と言える機体だね」

「所々に猫の血が見えるからわかる。もう片方は?」

 

前進翼の主翼形状に恐ろしい程に太いエンジンを使っていたのだろうが、それよりも細いエンジンに変えたのがわかる不自然に取り敢えず機能的なパーツで埋めましたとでも言えるエンジン周りのレイアウトが目立つ一般的な機体に見られる雰囲気の機体後部に対して前部はハチドリの頭部を参考にしたかの様な形状の機体前部は近未来的なデザインと誰が見ても違和感が仕事するが、何処かマッチしていると言う不思議な機体がバトラの目の前に鎮座していた。

「ああ、これねこれは彼等から聞かせて貰いなよ」

 

そう言って声を掛けると奥の部屋、整備士の休憩室だろう場所から2人の男が現れた。

その2人にバトラは見覚えがあった。

 

「サイファーさんにピクシーさん!!」

 

PMCUBC(ウスティオ・ベルカ・カンパニー)が所有する最大戦力、ガルム隊の2人だった。

始まりはパラウール攻略戦の前段階、パラウールの有効射程距離ギリギリまでの制空権確保とパラウール攻撃隊道中と帰りの直掩のみだったのだが、バトラは始めての長機だった事と、MS社も大きくなかった故か先輩パイロットは事務や作戦会議などで暇が無く、訓練や勉学に付き合ってくれない状況下でこの2人は色々と長機としてのアレやコレの世話を焼いてくれた恩人でもある。

 

そして彼等2人のバイパスがあるからこそ小松にインディゴ隊を呼べた経緯もある。

 

「しかし、どうして此処に?」

 

ベトナムよりもよりザイとの前線に近い基地に配属されている筈の2人の登場にバトラは驚かずには居られなかった。

そんなバトラの言葉に2人は少し恥ずかしそうにしながらも訳を話し始めた。

 

「実は此奴は俺たちが持ち込んだ機体なんだが、少し値段交渉が長引いてな」

「? 資料は暫定価格ですか?」

「安くなる」

 

ピクシーの言葉にバトラが汗をたらりと一筋流すとサイファーはバトラが言わんとする事を悟ったのか口を開くとバトラが続けた。

 

「何があったんですか?」

「俺たちの会社の規定を知っているか?」

 

その言葉にファントムとベルクトはそんな事を知っている筈が無いだろうと思うが、バトラが何かを思い出した様に声を上げた事で2人の行動が止まった。

 

「事故機は使用禁止でしたっけ?」

 

実はUBCではケラーマンと言うパイロットが事故機を修復した機体で飛び、その際の欠陥が原因で数ヶ月ほど病院送りにされており、その一件からUBCでは新規習得機体は未事故機体である事を義務化した。

 

そしてその事かと確認したバトラに少し空気気味だったキャスパーがそうだと語るとこの機体の経緯を話し始める。

 

「実はこの機体は2人の機体が事故を起こして真っ二つになった2機を組み合わせたニコイチ機体でね。格納庫の肥やしにするにも金が掛かるから売りたいらしくて此処に持ち込んだ」

「ほら、MS社は自己責任でどんな機体にも乗れるだろ?」

「……零戦でザイを撃墜した人が居たような……」

 

現役パイロットでは無く、予備役パイロットが展示飛行や曲芸飛行などで使うレシプロ機なのだが、武装も施しているのでその気になれば戦闘は可能な機体だ。

そんな機体でもMS社は自費で購入するならどんな機体でも所持できると言う搭乗機に対しては緩い会社だ。

 

と言うのも、MS社はUBCと違い、規模で言えば大企業に近い中企業だ。人員の数が少ないからか厳しすぎると機体を失った社員の現場復帰が絶望的、又は大幅な遅れが生じ、その間の生産力が落ちてしまう。

 

そして、MS社の企業があるからこそ、今回の様な事故機の買い手があり、他の企業にも何かしらの益がある。

今回のガルム隊も残骸として売るよりもニコイチにして事故機として売った方が益があり、こんな機体でも買い手が居る事を知っていたからの行動だ。

 

「なぁ、もう少し高く出来ねーか?」

「事故機でこの価格出すんだ。満足して欲しいね」

「せめて原価の25パーセントは回収させてくれ!」

 

そしてガルム隊の2人からすれば全く使っていなかった機体だが、早々に事故で失ってしまった事で新しい機体の調達ないし予備機の整備費の為にも原価25パーセントは回収したいのかいまだにキャスパーと商談中だったのだ。

 

まあ、2人がこの機体の経緯を黙って売ろうとしたのが問題なのだが、キャスパー以上に問題視する人物が此処に居た。

 

「事故機なんていけません!」

「何があるかわかりません!」

 

ファントムとベルクトだ。

確かに事故機、それもニコイチとなれば何が起きるかわかった物では無い。

バトラとしても事故機と言う出自に思うところが無い訳では無いが、幸いな事に2機の速度などの数値スペックは全くの同等ならば、重要になるにはフィーリングとなり、それを確かめるには乗るしか無い。

 

キャスパーも戦闘機の改修キットは何回も売っているが戦闘機自体はヴァラヒア事変からの取り扱いだが、これでもやり手と言えるだけのブローカーでもあるので戦闘機の真っ当な売り方なら熟知しており、2機とも飛行証明は既に取得済みでパイロットさえ揃えばいつでも離陸可能だった。

 

「2人の意見だが、今回は無視だ」

 

そう言ったバトラにファントムとベルクトは考え直す様に言い寄るも、当の本人はそれを無視しながらキャスパーの手よりマニュアルを受け取っていた。




次回はテストフライトです。
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