「Link22?」
バトラは何でこんな物があるのだと言わんばかりに呟く。
Link22は最新鋭データリンクシステムなのだが、米軍が既存のLink16を推し進めた事もあってか普及しているのは欧州が中心でしかもごく一部の兵器のみ。バトラの場合は仕事が一時期ではあるがイギリスやトルコと言った場所だった事もあってかLink22対応の部品を載せており、搭載力に関して余力が溢れるウプイリにはLink16と22を両方をのせている。
「なんだコレは……」
起動する筈の無いシステム。
その起動と言う事実と今まで自分を助けてくれた首筋を蜘蛛が這う様な感覚。事実と感情に板挟みされるバトラの横からラファールが躍り出る。
その訳をバトラは視界に飛び込む様に現れたLink22の接続先がEF-2000-ANM タイフーンと言う情報で察してしまう。
バトラは直ぐにLink22の情報からタイフーンに対してコンタクトを取り、教科書通りの対応を行うも、向こうからは無言の返答しか返ってこない。
<<通信が届いていれば、その場で反転せよ。さもなければ撃墜も視野に入れる>>
それでも無言どころか反転もしないタイフーンを確認したバトラは操縦桿を握り直したのと同時に再び首筋に蜘蛛が這う感触を味わうと事実よりも感情を優先する事を決意したバトラは舌打ちと同時にラファールに通信を繋げると同時に叫ぶ様に通信機へと言葉を投げる。
<<アプローチを辞めろ! 何かおかしい!!>>
その発言が終わると同時に既にアプローチしていたラファールから対ザイ用に開発された
ザイを退ける為にLRAAMがザイでは無く人間、それも友軍に放たれた事実に慧もグリペンもパクファですら理解出来ずに反応が遅れる。だが、バトラだけは長年の戦場暮らしが功を奏したのか即座に機体をバンクさせて旋回させるとLRAAMとヘッドオンに持ち込む。
「今だ!!」
ウプイリ専用設計の電子妨害ポットを腹のウェポンベイから取り出すと同時に起動させる。
ザイのEPCMの電子妨害機能も付与されたコレはアニマが相手でも一定の効果を発揮する。が、今回はラファールの完アニュアル制動のミサイルだったが故に追尾はされるものの、電子妨害の影響でミサイルからの情報送信が無くなった事で誘導力は大きく低下する。
「躱してみせる!」
腹の下から突き上げる様な機動で迫るミサイルだが、バトラはミサイルを機体の腹で掴む様に機体を反らせるとエアブレーキにフラップを全開にして失速、そのままクルピットの様に機体を回しながら自由落下させる事で垂直下方に移動する。
バトラの回避機動をミサイルとレーダーからの情報では無く、電子妨害の影響でミサイルからの情報送信が無くなったラファールはレーダー上の情報でしか受け取れなかった故に初弾を外してしまう。それでもバトラは自由落下を使った普段ならば無茶だと称される機動で急制動を掛けなければ躱せないアニマコントロールのミサイルに息を吐く。
アニマとしての特徴を生かしたセミアクティブホーミングはバトラの腕を持ってしても呼吸を忘れる程に難しい相手だった。
<<ラファールのアビオニクスがハッキングされている>>
ラファールから推力差に物を言わせた動きで大きく逃れながらバトラは通信をグリペンとパクファに送れば、グリペンからはその可能性が大きく、タイフーンを倒さない限りはラファールが正気に戻る事は無いと告げ、Link22の接続を一方的に切る。
<<こんなならケチらずに長距離ミサイルを持ってくるべきだった>>
グリペンの通信が入ると同時にバトラは搭載武装の確認を行う。
上部ウェポンベイにEML、下部中央ウェポンベイに電子兵装、左右下部ウェポンベイに短距離ミサイル、主翼半格納型ウェポンベイに短距離ミサイルである。
遠距離攻撃が可能な武装は上部ウェポンベイのEMLのみ。だが、短距離ミサイルをロケット弾としての運用するよりも長距離を狙えるというだけで兵器の種類としては有視界戦用だ。
LRAAMと撃ち合いが出来る兵器では無いしする兵器でも無い。
武装を護衛向けにして来た事で直接的戦闘には向かないセッティングになっていた事に装甲キャノピーを苛立ちを込めて拳で殴るが即座に脳みそを空戦の為の物に組み替える。
「無い手札を求めても意味はない」
ならば、ある手札を組み合わせて強い手を作る。
ポーカーでもJやQ、KやAを集めれば強いが2でも4枚集めればかなりの勝率を叩き出す。
意識を切り替えて回避行動を取り続けるバトラだが、タイフーンのレーダーに捕まり、ラファールからデータリンクを受けた情報を持って放たれる。
露出している状態で速度を失う程の急制動を掛けていたお陰か機材の冷却は済んでいる。 バトラはタイミングを合わせて再び電子妨害を行う事でLRAAMから逃れる。
<<武装を教えろ!!>>
短距離ミサイルとEML、電子妨害系武装。この3枚では足りないと判断したバトラは僚機に頼る為に通信を入れながらタイフーンとラファールの欧州戦闘機2機から照射されるレーダーを右に左に機体を動かして引き剝がし続ける。
<<短距離ミサイルのみ>>
グリペンからの通信にパクファからも短くも申し訳なさそうにだが、ロシア語で同じくと言う通信が入る。
グリペンはバトラと同じく積極的に攻勢に出る訳ではない為だが、パクファは特に急ピッチでMS社の倉庫から融通して貰う事で用意した短距離ミサイルであるが故に高価な対ザイ用の長距離ミサイルを融通して貰うのは難しい故に致し方ない。
<<電子妨害しながら接近は……>>
<<ネガティブ!!>>
慧の遠慮がちな発言はロックオンされたバトラが機体を37度に傾けたまま上昇、スロットルをMAXどころか過稼働まで持って行く事で速度を無理矢理に上げながら上昇、電子妨害装置だが、稼働限界の内部温度に到達したのか警告音と共に自動で電子妨害が停止してしまう。
強力な電子妨害を行えるが長くは使えない。しかも一度でもオーバーヒートした場合は安全装置が起動してしまい、冷却が終了しても暫くは使用が出来なくなる。しかも、ウェポンベイに格納が出来なくなるのですステルスと速度性能、加速性能が低下する。
「(ここなら……)」
通信機からは慧の言葉が吐き出されるが、バトラにそれを気にする暇は無い。
首を上に向ければ視界にラファールから放たれたミサイルが入る角度まで機首が来るとバンク角度を90度に変更、推力偏向ノズルを可能な限りで下に倒し、迷う素振りを見せずに『押すな』と言われたボタンを押し込んだ。
それは使用は控えろと言われた瞬間的に燃料、それもガソリンを使った瞬間的な推力増強機能を起動ボタンだった。
ウプイリのアビオニクスはエンジンへの大き過ぎる過負荷に警告を発するが頑強な機体はその推力に物を言わせた垂直の横移動を行う。
擬似的にして、致命的なまでの代償を持ってラファールのミサイルをやり過ごしたバトラだが、不自然な風に煽られたのか機体が僅かに暴れ周り、錐揉み回転を起こしてしまう。
「こなクソ!! 言う事を!!」
聞けと心で叫びながらフラップやエアブレーキを閉じると同時に錐揉み回転に入ると同時に休息を取らせたエンジンに火を戻し、スロットルを入れた事で浮力が戻り、ふわりとした動きで空中に浮かぶ。
「500mか……」
錐揉みから500mも降下していた。
対ザイ戦を意識した改修で安定性向上の改造をしたとは言えども、安定性を欠くが故に高機動も意識したセッティング故に安定性の悪さは推力と揚力で補うウプイリは一度でも安定を失うとその復帰は至難の技。
ロシアでSu-57に正式採用の座を奪われ、艦載機に生きる道を探したウプイリが艦載機になれなかったのは艦載機として求められる能力を無視出来ないレベルで欠いていたからだ。
「安定した」
暫くは水平飛行したウプイリはバトラの手綱の指示で機体を45度に傾けると斜めに上方宙返りを行う事で速度を失いながらも高度を得ようとするが、ウェポンベイを全て閉じると同時に有り余る推力に物を言わせて増速しながら高度を手に入れる。
<<!!>>
そして前方に黒煙を吐くタイフーンが映るが同時に仕留めたつもりだったのだろうフレンチベージュのSu-57が空気の中から浮き出る様に現れると未だに健在のタイフーンをオーバーシュートしてしまう。
<<スラッシュ!!>>
EMLがウェポンベイから持ち上がる様に露出されると折り畳み式の銃身が伸び切ると同時に鉄杭が音速の何倍もの速度で放たれる。
急な発射故にダメージは少ない上に狙いもズレた故に垂直尾翼を奪うに過ぎないダメージしか与えられなかったがバランスを崩して錐揉み回転するタイフーンにバトラはガソリン点火の加速で一気に距離を詰めると再びガソリン点火加速を真横に使用と同時にエルロンを操作した事で背面飛行のまま、慣性により、錐揉み回転するタイフーンを中心にバトラがドリフトダンスをする様に回転し始める。
そして機首を向けたまま、という事は機銃の射線を向けている事に他ならなず、横滑りを維持したまま2門の銃身から放たれる30mm弾を浴びせ続ける。
放たれた銃弾は確かにタイフーンの装甲や翼、操縦席すらも穿つが、それで操縦桿のトリガーから指を離す理由にはならない。
ウプイリはドリフトダンスをしながら錐揉み回転をしながら降下するタイフーンと共に降下をしながら銃弾を吐き続け、遂に銃弾が切れるとトリガーから指を離し、左手のスロットルを開ける動作をする直前に右手の指でEMLを放つ。
放たれたEMLの鉄杭により穴開きチーズだったタイフーンを粉々に砕け、EMLの反動でバックをしたバトラのウプイリは開いたスロットルにより生み出された推力により浮力を得ると砕けたタイフーンの残骸を腹で撫で付ける様な機動で上を通り過ぎて高度を得ると3機で編隊飛行をしていたグリペンとパクファ、そしてラファールに合流する。
<<バ<<言うな。申し訳ないと思うなら行動で示せ>>
合流したバトラにラファールが申し訳無さそうな声で通信を繋げるがバトラは言の葉を投げる事で途切れさせる。
<<我々、飛行機乗りが犯した失態を返上したければ、行動で示すべきだ>>
ライジェル隊と言う裏切り者を出してしまったMS社とM42飛行中隊だが、バトラ達は裏切り者を出したと言う失態を世界を救う事で返上してみせた。
<<飛行機乗りが……言葉を飾る事に、意味は無い>>
<<……君は飛行機乗りの先輩だな。わかった、この失態は必ず>>
返すとは言い切らないラファール。
これがバトラの言葉を聞いたラファールの、行動で示すの答えだった。が、この雰囲気をぶち壊すには十分過ぎる音が突如として発生する。
それは、『バスッ』とでも書くのだろうか、何かが爆発した音であり、その爆発音はウプイリの両方のエンジンからのものだった。
<<いかん! 推力が低下している! エンジンをやってしまった!!>>
両方のエンジンからは推力と共に黒煙を吐いていた。間違いなく墜落一歩手前の戦闘機がこんな状況です。と動画付きで見せられたら誰もが頷いてしまう程には一大事な状況だった。
<<どうするんですか!!>>
<<推力の低下だけだ! 稼働はする! でも、流石に渡洋は……不味いなぁ……>>
ウプイリはあの赤くも白い母なる大地が生み出した戦闘機だ。頑丈さだけは他国の追随を許さぬ物を持つ。此処からパクファのエスコートを受けながらウラジオストクの航空基地までは絶対に持つ。
<<ロシア基地で直るまで宿泊だな!>>
エンジンを騙し騙しで稼働させる準備をしながらバトラが笑いを含んだ言葉で言い切る。
幸いにだが、ウプイリのエンジンはロシア製のエンジンだ。カスタムパーツまでは無理でも純正パーツを集める事は出来る。最悪は渡洋飛行が安全に出来るレベルで修理できれば良い。
が、それがわからない慧は慌てふためいており、声にならない声が通信機から聞こえるも、それを聞いたパクファが責任を持って最寄りの飛行場まではエスコートを行い、パーツ集めにも協力するとロシア語ではあるが確約した事で慧も落ち着きを取り戻した頃にはロシアの領空の至近距離まで迫っていた。
<<私は此処で別れる>>
<<ウィルコ、
流石にフランス国籍の機体がロシア領空に居座る訳にはいかないと此処で機首を振る為にバンクをしたラファールにバトラがフランス語で送るとラファールはバンクで返答しながら雲の合間に飛び込んで視界から消える。
慧もラファールを見送るとバトラの別れの挨拶をして去ろうとするがバトラが小松基地の僚機達に伝言を頼む。
「それじゃあ、少しの間だが……エプロンドレスの美女との余暇を楽しんで来るわ。他の奴に宜しく!」
通信の裏では計器板のボタンやスロットルをガチャガチャと言わせながらも心配させまいと冗談をめかした言葉遣いで投げたバトラだが、慧はこれを一字一句間違えず、アンタレス隊メンバー全員へ律儀に全員分も伝えてしまい、帰投後にバトラの死刑執行を決定した瞬間でもあった。
パクファの延長授業が決定したバトラはパクファの空中ドリフトダンスを伝授した後に帰国。
パクファは自信満々に発表された空中ドリフトダンス、間違った伝統芸能の数々と関西弁と京都弁が混じった混沌な日本語、激ウマ料理から劇マズ料理と日本から輸入された9割要らない技能によりジュラーヴリクの胃壁が決壊、病院送りとなり、バトラへのヘイトが高まったのは完全な余談である。
今回の話で取り敢えずですが、10巻での内容の更新を止めます。
理由としてはアニマ達の救済案が違和感が無いかやどんでん返しが無いかを11巻で確かめたいからです。
取り敢えずですが11巻で個人的な大問題が無ければ脳内の設定通りにアニマ達を救済します。
ファントムとベルクトだけでも生存させなければ、この作品を書いた意味が無いのです。