ガーリーエアフォース PMCエースの機動   作:セルユニゾン

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ガーリーエアフォースの12巻が何処にも無い!


作戦68 意思を示して

外の明かりが入らないカノープス機内に向けられた拾い休憩室にMS社の航空勤務の一部を除いたメンバーが集まっていた。

 

「今回の連続出撃はご苦労だったな」

 

時間となって最初に口を開いたのは疲れが残った顔のバーフォードだった。

 

ヴァラヒア事変を潜り抜けたベテランと言えども、今回の出撃では補給中は僅かでも休められる戦闘機パイロットと違い、常に上がって来る戦闘機パイロットに指示を飛ばし続けねばならなかった空中管制官の搭乗員であるバーフォードに休みなど無かった。

 

それは他の搭乗員も同じでその顔には僅かながらの疲労が見て取れる状況だった。

 

「今回のデブリーフィングの内容は被害状況についてだ。手元の資料にデータを送る」

 

バーフォードが手元のタブレットを操作して全員のタブレットにデータの送信を行うと1枚のデータと1枚の画像が表示される。

 

「最初にだが、今回の出撃では損傷機こそ多いが被撃墜機は無しだった。これは今回で出現したザイのタイプによる物だが、死傷者数も奇跡的な数と言って良い。此方はバトラが使い物にならなくなったがな」

 

バーフォードの苦虫を噛み砕いたかの様な表情にバトラは申し訳なさそうな苦笑いを浮かべる。

 

「だが、それよりも被害を受けた内約だ。これは非公式のタレコミ情報だが、2枚目の画像。この施設は対EPCM用の信管に使われるチップを研究開発する施設だ」

 

バーフォードの言葉に全員の目が強く開いた。中には席を揺らし程に驚愕する者も居た。

バーフォードの全員が反応を示した事で八代通から聞かされた言葉を自分の言葉にして吐き出し始める。

 

「グリペンの巻き戻しの情報。これは知られる前から研究していた物でグリペンのそれは関係無い。情報の規制もバッチリだ」

 

「じゃあ、偶々に突撃した場所が此処だった……とか言いませんよね?」

 

「やられた場所が運悪く研究拠点でした。ってか?なんて酷い三文劇だよ。脚本家が名乗り出たら助走をつけてぶん殴るレベルだな」

 

グレアムの言葉にバトラがジョークで返すが、それで空気が軽くはならなかった。こんな事を言っても可能性が高い仮説を全員が満場一致で組み上げていたからだ。

 

「我々がしてきた様に繰り返しの記憶はザイにもあるのだろう。事実として、今回の施設とは別に他の対ザイ研究の施設もやられていた。更には何の設備かわからない設備や施設もだ」

 

「徹底的ですね……」

 

京香の言葉が嫌に響いた。

ザイはバトラ達が取ってきた繰り返しからの記憶を使った攻略にしっぺ返しで返してきた。しかも自分達が消滅しない様に自分達とは違う技術ツリーの技術のみを的確に狙ってだ。

 

「未来への剪定作業とも言える攻撃だったんだ。今回の襲撃はな」

 

重い雰囲気が包んだ一同をバーフォードは机を叩いて自分に興味を向けさせる。

 

「今回の事で上は作戦を早める事になった。此方が滅亡するしかない未来しか残らない前にザイを消滅させる。やるかやられるかなら、やってのける! それが我々、アンタレス隊だ! Xデイは1月の9日だ! それまでに可能な限りで準備を終わらせる!」

 

バーフォードの言葉に気合を込めた返事を返す。ただ、ベルクト以外の全員は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12月31日の日曜日の夜

大晦日の今日は去年のとは違い、暇な人員など数える程であり、その暇な人員も大晦日の大掃除や年明けを祝う準備など出来る様な有様なのでは無く、小松基地はキツイ空気に満たされていた。

 

そんな小松基地に駐機された白いSu−47のコクピットにベルクトが蹲り、隠れる様に収まっていた。

外界からの光の全てを装甲キャノピーが遮り、エンジンも何も発動させていないコクピット内部にはディスプレイの明かりも無いそこは、暗く狭い箱の様な場所にとなっており、ベルクトのその姿は何かに迷い、恐怖で動けず、震える事しか出来ないか弱い乙女の様だった。

 

そんな場所に四方から明かりが漏れる様に飛び込んで来る。

 

「こんな場所に居た」

 

ベルクトが今は聞きたく無いバトラの声と共に。

 

「バトラさん……」

 

ラダーから降りようとするもラダーはバトラが乗っている物が1つのみ、降りられず、キャノピーを閉めようにも安全装置が発動していて閉じられない状況。

見つからないと思っていた場所は逃げ場が無い場所である事にたった今気付いたベルクトはどうしようも出来ずに泣きそうになっていた。

 

「何を思い詰めているんだ」

 

最終作戦も近い。そんな状態になる程の物であるなら、乗機を失い、訓練も出来ない自分に吐き出せと告げるバトラにベルクトは声を押し殺して無言のまま、周囲に小さく涙を撒き散らしながら首を振る。

 

優しく笑いかけるバトラに感謝しつつもそんなバトラに優しくして欲しく無い本心が混じったベルクトの内心ではどうしようも出来ずにただそれを続けるだけだった。

 

「なぁ、ベルクト……」

 

震えるバトラの手がベルクトの頭の上に優しく置かれ、小さく撫でられる。まるでそれはベルクトの存在を確かめる様な動きだった。

 

「お前はサーシャの件は知っているだろう」

 

バトラの言葉にベルクトが目を見開き、同時に自分のやっている事がサーシャと同じ事をしている事に気付いた。否、気付いてしまった。故にベルクトの中で感情を堰き止めていた堰が壊れた。

 

「おい……ベルクト」

 

堰が壊れた瞬間にバトラに抱き着き、蚊の鳴くような声でごめんなさい、助けて下さいと譫言の様に繰り返すベルクトにバトラは右手で頭を優しく撫でながら、左手で背中をあやす様に叩く。

 

「何があったんだ? 言えない事か?」

 

その言葉にベルクトはバトラの身体に頭を埋めたまま、擦り付ける様に首を振り、涙声で訳を話し始める。

 

「ファントムさんから……」

 

その言葉からベルクトはファントムに聞かされた事を話し始める。今回の作戦はザイの消滅、というよりはザイの生産補給と指揮統制を行うコア『球殻』を本質の世界であるアンフィジカルレイヤーへと追放した後に機能停止を行い、もう2度と現実の世界に戻る事無く封印。という表現が近い。しかしながらこの作戦、この唯一の手段では生産と補給を行う球殻の現実世界からの追放により、ザイへのエネルギー補給も断つという事であり、球殻から補充されるエネルギーを持って本質に受肉させているアニマもエネルギーが断たれる事で消えてしまう。

 

簡潔に言ってしまえば、最終作戦が成功すれば確実にアニマ全員は未帰還。アニマのみは決死作戦となる。

それを理解したバトラはベルクトの強く抱きしめた後にラダーを滑る様に降りる。バーフォードへ決死作戦という愚かな作戦にベルクトを出撃させない為に……

 

「こんな時に!」

 

駆け出そうとした瞬間を狙ったかの様に本社からの緊急メールを知らせるアラームが鳴り、苛つく感情を表に剥き出しながら画面を睨みつける。

 

「は……」

 

その内容にバトラは我が目を疑った。

 

 

 

 

 

「お得意のハッキングか?」

 

冬の風が吹き付ける小松の海岸に2人の男女の影があった。

片方はMS社の冬用制服に袖を通したバトラ、もう片方はダッフルコートに身を包んだファントムだった。

 

「まさか来てくれるとは……」

 

「タイミングが良過ぎる。お前だと判断出来る状況証拠と……ま、お前ならやれるって言う信頼だ。で? 作戦の事か?」

 

そう言ってバトラはメールを見せる。

そこには此処の位置情報と話さなければならないと言う意思表示がファントムらしい言い回しで綴られていた。

 

「この際です。言葉を重ねる事に意味は無いでしょう?」

 

優しげな言葉だが、ファントムは見抜いていた。

バトラが此処に立っている事が既に精神的に限界に近い事も、そしてこんな状態でトライクの運転を取り止めて、歩いて来る位には冷静である事も。

 

「単刀直入に聞きます。貴方はどうしたいですか?」

 

その言葉にバトラの口と鼻から呼吸の音すら消える。数秒経った頃にバトラの口が死に掛けの人間の様に動き始め、それと同時に風が止んだ事で無音の環境が出来上がる。

 

「な、に……が……」

 

ファントムが真っ直ぐにバトラを睨み付ける。それはまるでバトラを値踏みするように、そして風が強く吹いた事で鼓膜は風が揺する音のみを拾う。が……

 

「何が出来るって言うんだ!」

 

バトラの全てを壊すかの様な叫びは風の音を引き裂いて、ファントムの鼓膜を揺らした。

 

「俺たちは雇われ傭兵だ! 作戦変更を行える発言力は無いんだぞ! それに……お前らはそれで良いのか! 人の都合で産まれて! 人の都合で消えて行く! お前はそれで良いのか!」

 

「バトラさん」

 

ファントムの眉が寂しがる様な、悲しがる様な押し下がり方をする。

 

「私達は「人間じゃないって言うんだろ! わかってんだよ! 頭では理解してんだよ! そんな事は! お前達はそれぞれの戦闘機という存在を具像化された存在……そんな事はわかってんだよ! 理解してんだよ……わかってるよ……だがな……だけど……」バトラさん……」

 

両目を両の掌で抑えながら涙を止めようとするが、止められる筈が無く、腕を伝って落ちた涙は砂浜に吸われる消えて行く。

 

「だけど……わからなくなったんだ……お前らが人間なのか戦闘機なのか……アニマと人間の何が違うのか……でも、心がな……ファントムもベルクトも全てのアニマは……人間と一緒だと、なんら変わらない存在なのだと叫んでるんだ……」

 

「私達は人間ではないんですよ……」

 

ファントムが何か押しとどめる様に顔を伏せ、手はコートを強く握って耐え忍ぶ。

 

「……だから、あの娘は消える自分が貴方の記憶と思い出に残る事を、想い出に遺る事を嫌い、遠ざけようとした」

 

ファントムの声が震え始める。それでもしっかりと伝えななければならないと己を奮い立たせ、それがファントムの心にある感情を生む。

 

「……でも、あの娘の中に貴方の幸せを望む心があった。だから、隠せななかった。本当ならベルクトにも話したくなかった。話せば貴方に伝わる。貴方はただでさえ……ただ……で、さえ……」

 

ファントムの脳裏にある光景がフラッシュバックする。

 

それは初めてバトラのF–4のパーツを使ってダイレクトリンクをした際にパーツに残された残留思念がファントムの中に流れ込んできたのだ。

 

整備員と一緒に簡単な整備を真剣な目でマニュアルと格闘しながら楽しそうに、愛情をどの整備員よりも注ぎながら整備する少し若いバトラに、ヴァラヒア事変を終え、ザイの出現までの僅かな間に飛ばせない事を謝りながら機体を丁寧に磨くバトラ。

 

「ただの戦闘機にあそこまでの愛情を注げる人だから!」

 

パーツ単位にバラされながらも、最後の持ち主だったバトラへの愛情を隠さないRF−4TB AJZ ファントムⅡの残留思念。そして、もう一つ。

 

『バトラを、レオスを守って上げてね。あの子は直ぐに無茶をするしからね』

 

バトラの隊長だった。未来奈の言葉だった。

 

「私はRF−4EJ ANM ファントムⅡでは無く……」

 

『それと……あの子を幸せにして上げて。私では出来ないから。貴女達にお願いするわ』

 

「RF−4EJTP ファントムⅢです! 未来奈さんの想いを託され、貴方のF–4の血を引いています! だから!」

 

ファントムがバトラの両頬に手を這わせ、向き合わせる。

 

「貴方のF–4でもあるんです! 貴方が敵を墜とす為の矛で! 貴方の命を守る盾で! 貴方を飛ばす為の翼で! 貴方の意思を実現する為の存在です! パイロットである貴方がが居なければ、私達は何も!」

 

ファントムが貴方の意思を知りたいと、涙で輝く瞳でバトラの瞳の奥を見つめて来る。

 

「仲間を失いたくない……どんな形であれ、今のアンタレス隊を失いたくない……勿論だけど、ファントム。お前も失いたくない仲間だ」

 

バトラがファントムを抱き寄せるとファントムもバトラを抱きしめると僅かに背を伸ばして、バトラの耳元に口元を持って行くとファントムは囁く。

 

「貴方の意思も受け取りました。そうあれと命令されれば貴方の意思に添い続けましょう。この身が朽ちるその瞬間まで」

 

それを聞いたバトラがファントムを抱く力を増やして、抱き寄せるとお返しだと言わんばかりにファントムの耳元で囁く。

 

「俺はパイロットだ。君達が飛べるなら俺の意思をもって飛ばしてみせよう。この意思が求める場所に行き着く瞬間まで」




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