はい、明けましておめでとうございます。牛歩なセルユニゾンです。
おかしい、本当なら12月、最悪は1月の第1週で書き終えて投稿するはずだったのにこれだ……3/2は書いたから大丈夫だと思った矢先にこれなので慢心は厳に慎むべきですね。
「良し、揃ったな。では、ブリーフィングを始める」
息の荒い慧を気にしていないバーフォードが部屋の電気を落とすとひとりでにプロジェクターが作動し、ホワイトボードに画像が映写される。
「まず、我々は持てる戦力を結集、モンゴル南西部、カシミール、キルギス、カザフスタン南東部の四方より攻勢を掛ける事でザイの迎撃戦力を分散させる」
画像のモンゴル南西部、カシミール、キルギス、カザフスタン南東部の部分から矢印が登るが途中でバツ印で矢印の動きが止められる。
「こうする事で事で諸君らを球殻に到達させやすくするつもりだったが、作戦の前倒しした事で集結予定だった戦力が消失している」
「中佐、具体的にどれほどでしょうか?」
バトラの挙手をしての発言にバーフォードはなんて事は無いと言う様子で半分から3分の1程だと答えると集まっていた航空自衛隊の人員達は騒つくが、MS社のメンバーが対ゴールデンアクス事件作戦展開初期段階では当時所属していた連合部隊全体で僅か数パーセントでしかないMS社だけの戦力で挑もうとしていた事を思い出せばなんて事は無い。寧ろ今は補給を他の組織はしてくれる分些かではあるが気が楽なくらいだった。
「無論ながらこんな数で飽和攻撃は無理だ。故に作戦を変えて一点突破だ!」
モンゴル南西部、カシミール、キルギス、カザフスタン南東部の矢印が一本になって真っ直ぐに球殻へと伸びる画像に変わり、バーフォードの拳が地図の中央を殴ると八代通が説明を受け継ぐ。
「モンゴル南部の敵哨戒網は先の作戦で寸断済みで正面戦力も他戦線の物よりは弱体である事も確認している。そこに全戦力を叩き付けて正面突破する」
八代通の説明にバーフォードが追加の説明を行うべくプロジェクターの画像が変わるとザイの勢力圏からいくつもの夥しい数の矢印が伸びる。
「無論ながら他戦線からの救援が予測される。故に今作戦には制限時間は大目に見積もっても1時間とし、そうで無くとも他方面のザイが集まれば失敗となる。ま、即ちだ」
バーフォードがニヒルな笑みを浮かべる。
「敵が集まる前にザイには永遠に終わらない過去への時間旅行に出立して貰うと言うシンプルな話だ。正しく速度こそが今作戦の要になると思って欲しい」
納得しかけるMS社のメンバーに挙手をした事で全員の視線を一身に浴びるファントムが口を開いた。
「力押しの上に博打ですか? しかも1時間で人類存亡を決めるなんて剛毅を通り越して狂気さえ感じます」
ファントムの挑発するような言葉にバーフォードはそれは無いから安心しろと朗らかに笑う。
「ウルムチを攻撃する事で陽動とする。今作戦を成功させる上で前提となるのは敵戦力の分散だ。それを運に任せる人間は此処には居ない。今回は陽動として先の作戦で行った敵防空網制圧を同時複数箇所で行う。こうする事で敵は我々の動きが読み難くなり、更に戦力を薄く広く展開せざるを得なくなる」
「敵が分散しなかった場合のプランは?」
バトラの言葉に隊長として様々な事を気にし始めたその姿に指揮官としての成長を見たバーフォードは嬉しく思いながら言葉を発し始める。
「流石のザイも広大な中国大陸を覆い尽くす事は出来ない。故に何処かが手薄になる。そこを偵察衛星で戦果分析を行って侵攻コースを決める。十字砲火の中に飛び込ませたりなんてしないから安心しろ」
バーフォードの話が終わると八代通が話はそう簡単では無いと言って立ち上がると地図の一部を張り手で叩くと其処がズームアップさせる。
「新疆ウイグル自治区ウルムチ市……?!」
表示された文字を読んだバトラが目を見開くと八代通が話を続ける。
「天山山脈を背後に控える上にタクマラカン砂漠の入り口になる此処は敵戦力の集結地だ」
八代通の言葉に何を言いたいのか察したバトラが立ち上がる。
「球殻までの距離が複数の国境からの最短経路の上にレーダーサイトとそれに連動する地対空兵器が満載だ。確かに損害を与えられた時の戦術的な価値は高いだろうが、生きて帰れる確率より戦死する確率の方が高過ぎる場所だ!」
バトラの言葉に詩鞍と詩苑の身体がビクリと跳ね上がり、ベルクトは腿の上で静かに両手の拳を握りしめていた。
「此処に居るパイロットが主力にして唯一の戦力ですよね? 戦力比は100対1と言ったところですよね?」
ファントムの言葉に八代通とバーフォードが揃って頷く。
「無茶にも程という物がありますよ。下手をするとこの作戦の我々の殆どが撃墜されかねませんよ」
その言葉に地上要員の顔が強張る。地上要員の彼等でも飛べる機体が無ければ何も出来ない。という所くらいは最低限で把握している。
「流石のバトラさんでも戦技や技術でカバー出来るとは思えませんし、バトラさんを下ろして専用機を取り寄せたとしても同じです」
ファントムの言葉が終わるとゆっくりとバーフォードが語り始める。
「確かに其処は死地と言って良い場所だろう。だからこそ、此方も君達の為に色々と動いて、戦力比は50対1にまで下げた。と言えば何とか出来るか?」
バーフォードの言葉にファントムは重要目標の撃破であれば本当にギリギリだが可能だ。告げたファントムを見たバーフォードは満足そうに頷くとそれが合図になっていたと打ち合わせしていたかの様に扉が開く。
「まどろっこしいのは無しだ! 目標が決まったならさっさと出撃して潰すまでだ!」
入室の挨拶も無しに叫ぶ様な声が響くと全員の視線が入って来た人物に向けられるが、向けられた人物はベルクトの姿を見せると微笑みを浮かべると空気を薙ぎ払う様に腕を振るう。
「ロシア航空宇宙軍第972親衛航空戦隊バーバチカ。ジュラーヴリク以下3機。今より独飛、並びにMS社との共同攻略作戦に入る。足を引っ張ったら承知しねぇぞ! おめぇら!」
「うわぁ……」
詳細な打ち合わせが終わったアンタレス隊の一行はいよいよ出撃と勇んでブリーフィングルームから出て、自身の身に装備をフルで身に付けてから外へ出たのだが、目の前の光景にバトラが懐かしさと分かりきっていたが改めて突きつけられた事により生じた圧巻の感情から声を漏らしていた。
「わかってた事では?」
そんなバトラにアニマにしては嫌に重装備な格好をしたファントムが声をかける。
ベラヤの基地は暫定的な集結基地であったのだが、状況変化のより発生した今回の陽動作戦における出撃基地になった事で各国から集結する為に来た、正規軍とPMCの謂わゆる来る航空機の中にこれから出撃する謂わゆる行く航空機が混ざっている事で滑走路や誘導路、果ては駐機場に至るまでお祭り騒ぎの様相になっていた。
そんな中でも基地の強要はつい最近、それこそヴァラヒア事変などでは日常茶判事だったPMCの職員は少しづつ慣れ、そして思い出してきたのかスムーズに動き始め、一部では正規軍の人員に指示を飛ばす様になり始めると同時に周囲に戦闘機のエンジンが稼働する音が充満し、響き始めるとバトラが叫ぶ。
「総員搭乗!」
その指示を聞いた詩鞍・詩苑・ベルクトの3人は自分の乗機へと駆け足で近付き、バトラもファントムを連れ立って自分の乗る機体へと歩み寄り、整備士から整備状況と機体の癖の確認を行い、前席へと収まったバトラから一呼吸遅れてファントムも後席へと収まる。
バトラはミラーでファントムの姿を確認するとプリタクシーチェックを開始した事で旧式なアナログ計器と比較的新しいデジタル計器が混じったPMC魔改造機よく見られる初見殺しな計器に火が点りエンジンの脈動が2人に伝わり始める。
「エンジン回転数、タービン排気温度、油圧、燃料、全てOK」
確認すべき計器を全て確認すると後ろを僅かに振り返り、ファントムが座っている事を確認するバトラにファントムは頷いてみせる。
「レディオ・アンド・アビオニクス」
新旧入り混じった計器に外観は旧式なF−4から離れ切れていないチグハグな混沌としたコクピットに座るバトラの声に操縦桿はなく、近未来的なバケットシートに近未来的な機械の膝掛けを設けた様なコクピットシートに座るファントムが新しい座席なので慣れませんねと言いながらも頷き、バトラの言葉に答えて行動を開始する。
「セット・フォー・ディパーチャー」
「グランド・イクイップメント」
「リムーブド」
何度か一緒に飛んだ事でぎこちなさが消えたやり取りにバトラとファントムが同時に同様な安堵の感情を抱くと同時にキャノピーが下がり始めるが、安堵からか、少し広がった意識がバトラの耳にある音と首筋を蜘蛛が這う感覚を受ける。
「……なぁ」
バトラのなにか憂いる感情が籠もった声にファントムが機体の状況をチェックする為に閉じていた目を開ける。
「JAS−39 ANMだが、大丈夫だと思うか?」
バトラのこの台詞にファントムは明確な違和感を感じるがそれを敢えて押し殺して告げる。
「……グリペンのEGGは不安定です。何とか飛べるまで調整したそうですが……」
EGGの乱れはアニマの精神的な部分での乱れから来る場合もあり、ファントムはその乱れがグリペンの精神状況における物である事は把握していた。そして同時にEGGの乱れが電子機器への不調に直結する事も理解している。
「いや、そうじゃない……
ボソリと告げた言葉を聞き返そうとしたファントムだが、バトラは滑走路への進入を管制塔に要請し始めた事で聞き返すタイミングを逃してしまい、そのまま機体は滑走路を走って、空へと上がってしまう。
滑走路距離の長いフル装備の機体は後回しにされた所為か既に他の機体は空中に上がった後であり、MS社の航空機は1番機の入る位置を開けながらも編隊を組んで待っていた。
バトラは何の迷いも無く、慣れた動きで機体を編隊に滑り込ませるのと同時にファントムが離陸前の言葉を聞こうとしたが、それよりも一息だけ早くバーフォードの通信が入った。
<<編隊全機の情報をアップデートする>>
バーフォードの言葉で情報が最新の情報に入れ替わるとそれぞれのオペレーターがそれぞれの言葉でその情報の説明を始める。
ただ、今回の作戦では戦力比の関係で全滅などが目的では無く、あくまでも次の作戦を行う上で厄介な存在となる戦術目標のみの破壊が目的であり、目標はウルムチ方面の滞空型のプラットホーム・天山山脈のレーダーサイト・通信施設だ。敵の要撃機や護衛機との戦闘は必要最低限に留め、迅速に戦略目標のみを破壊、撤収する作戦だ。
敵の撃破が主任務でない事をバーフォードから念押しされたジュラーヴリクが鼻を鳴らしせせら嗤う様な口調でバーフォードに言い返す。
<<景気悪いことぬかしてんじゃねぇよ。邪魔する奴は全部墜とす、壊せるターゲットは片っ端から壊すでいいだろ>>
そのくらいの戦力は揃ってると声高らかに宣言したジュラーヴリクはこのまま本陣に切り込んでも構わないと告げるとイーグルはその判ろやすさからか歓声を上げる。
<<ジュラ姉様、この戦力で挑むのは無謀ですよ>>
妹であるベルクトから言われると強く言えないのか、流石に無線機の先で狼狽するジュラーヴリクにファントムが追撃を放つ。
<<ベルクトの言う通りですね。突撃馬鹿が早死にするだけなら、どうぞご勝手にと言う所ですが、
<<ちょっと聞き捨てならない事が聞こえた様な気がしましたが?>>
<<機体がハッキングを受けています! お兄様は大丈夫ですか?!>>
<<ファントムさん! 抜け駆け、虚偽はよろしくないと思います!>>
<<何を言っているんですか? この現実を見て下さい。バトラは私を選んだんです!>>
アンタレス隊の女性陣とファントムが痴話喧嘩をしている通信にジュラーヴリクは噛み付く気が失せたのかそっと通信を切り、ディー・オーはロシア語で楽しそうですねとバトラにだけ見えるディスプレイにメッセージを送り、それを読んだバトラはファントムにも気付かれない様に肩をすくめるがマスクの下では幸せそうな微笑みを浮かべていた。
この痴話喧嘩はバーフォードが無線封止を支持するまで続いた。
アレ?慢心は厳に慎むべきとか言っておきながら、頭は最終回後の外伝的な作品の構想を初めている……