死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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 リメイク前とは多少ストーリー進行や設定が異なるところがあります。


第一章「これが今の日常」
第1話「襲撃されて気づくこともある」


 人生には楽しいこともあれば、その分めんどくさいこともある。当然だな。どんなに楽しようとも、それは必ず自分へ返ってくるのだから。

 けど楽しいことは好き。これも当然だ。退屈を満たしてくれるからな。

 例え乱闘でも楽しいものは楽しい。だから人は生きていられるんだろう、きっと。

 

 

 

 そんなことを考えつつも、アタシは――

 

 

 

「――緒方サツキさんとお見受けします」

 

 街灯の上に立っている緑髪の女を見て困惑していた。

 今も思う。どうしてこうなった。

 

 

 

 

 

 

 

「暇だ……」

 

 ベッドでゴロゴロしながら呟く。マンションで一人暮らしをしているため、家には誰もいない。

 昨日もケンカしたけど、やっぱり手応えのある奴はいなかった。

 このミッドチルダに来てからもなんだかんだで喧嘩三昧だが、正直に言うと楽しめた奴はたったの一人だけ。試合も含むなら二人だ。

 

 

 ――当然、アタシの血は渇いたままだ。

 

 

「テレビは……いや、運動する方がまだ暇潰しになる」

 

 テレビも最近はいい番組ないからな。運動するにもこっちじゃストライクアーツしかまともなスポーツがない。流行的な意味で。――ん?

 

「ストライクアーツ……?」

 

 そうだわ、それがあったな。すっかり忘れていたぜ。

 しかし、今のアタシはきっと苦虫を噛み潰したような顔をしているに違いない。いい思い出ないからな……。

 

「はぁ、しゃーねえか」

 

 考え事は終わりだ。そう自分に言い聞かせるとアタシは行動を開始した。

 

 

 ――数分後――

 

 

「さて、どこに行こうかな?」

 

 家から出たのはいいが、目的がない以上ぶらつくしかない。しかもまだ昼過ぎだからとても困っていたりする。

 ちなみに今日の服装は久々にジャケットだ。

 学校に関しては始業式だったからさすがに行ったよ。そういやあの虹彩異色のガキは今年で10歳か。今朝も会ったけど。

 

「やっぱり考えもなしに出たのは間違いだったな……」

〈マスターはいつも喧嘩ばかりしておられますからね。そんなんだからこっちでは“()(せん)()(がみ)”なんて名前で呼ばれるんですよ〉

「うるせえよ、ラト」

 

 チョーカー型の愛機(デバイス)、アーシラトに毒づかれて思わずイラつく。まあ、コイツの言っていることは一応正論だけどな。

 

「うーん……また()()調()()するか?」

〈よく飽きませんね……〉

「飽きてたまるか」

 

 なんか不満そうに言われたが気にしない。よく集団をぶっ倒してから一人一人の財布を漁ってるっけ。

 ていうかアタシ、いろいろとやらかしてるけどよく捕まらないな。――こっちじゃ。

 

「いや、ケンカならまだしも昼間だとさすがに厳しいか……?」

〈それでもやる気はあるんですね……〉

 

 チッ、やっぱり目立たない程度の成績で済ませとけばよかったよ……。影響はあるだろうし。

 それに意識してなかったとはいえ、自分でもあそこまで進めるとは思わなかった。

 

「……たまには無心でフラフラするのもいいか」

〈どうせなら常に無心でいてくださいな。その方が私も楽です〉

 

 お前はもう黙れ、な?

 

 

 

 

 

 

 

 それからはホントに何もなく街中をぶらつき、気づけば夜になっていた。そして今に至る。

 ……うん、アタシは何もしてない。珍しく何もしてない。当然、誰かに恨みを買われるようなこともした覚えはない。

 

「――ことがあります」

 

 それにしてもアイツが着けている仮面みたいなのなんだっけ? えーと、確か……

 

〈バイザーです〉

「そう! バイザー!」

「……聞いていましたか?」

「……………ていうか名前ぐらい名乗れよ」

 

 とりあえず誤魔化そう。何を話していたのか全く聞いてなかったわ。

 

「失礼しました。――カイザーアーツ正統、ハイディ・E・S・イングヴァルト。“覇王”を名乗らせて頂いてます」

 

 バイザーはそのままか。ま、別に外せとは言ってないからな。

 にしても……覇王って噂に聞く通り魔の名前じゃないか?

 

「では改めまして……あなたにいくつかお伺いしたい事と、確かめさせて頂きたい事があります」

「ふーん、何を?」

 

 うん、これはとんだ一日になっちまいそうだ。まさか例の自称“覇王”に絡まれるとはな。

 ……まあ、ちょうどいい暇潰しにはなりそうだけど。

 

〈相変わらずですね、マスターは〉

 

 否定はしない。

 

「あなたの知己である“王”達、聖王オリヴィエの複製体(クローン)と冥府の炎王イクスヴェリアについてです」

 

 街灯から飛び降りた覇王はさっそくと言わんばかりに問いかけてきた。

 ……はい? 聖王? クローン? それに冥府の炎王って……冥王か。雷帝なら知ってるけど……聞く相手間違ってないか? コイツ。

 

「あなたはその両方の所在を――」

「いや、知らねえな」

 

 マジで。つーかアタシが聖王や冥王と知り合いだってこと自体が初耳なんだが。

 

「……わかりました。その件については他を当たることにします」

 

 おう、そうしてくれや。聞かれたときは思わず目が点になったぞ。

 

「ではもう一つ、確かめたい事は……あなたの拳と私の拳、一体どちらが強いのかです」

「…………いいねぇ」

 

 はっ、そうこなくちゃ。その言葉を聞いた瞬間、アタシはうっすらと笑みを浮かべた。

 

「防護服と武装をお願いします」

「あー…………そんじゃご遠慮なく。アーシラト、セットアップ」

〈セットアップ〉

 

 とりあえずアーシラトを起動させ、防護服もといバリアジャケットを着用する。

 

「……学生服、ですか?」

「ああ、まあな」

 

 アタシのそれは学生服、というか漫画や映画の不良がよく着ている学ランがモデルになっており、その中にパーカーを着込んだだけのシンプルな構造だ。しかも全体的に動きやすい。

 そういやシグナムの奴が騎士甲冑やらなんやら言っていたのを思い出すなぁ。うん、それらしい部分はないな。

 ちなみに元からあった部分はパーカーだけだったりする。寂しいなおい。

 

「では……参ります」

 

 へぇ、この距離で構えるか。射砲撃(ミドルレンジ)のそれとあんまり変わらな……!?

 

「おっ!?」

 

 突き出された右拳をとっさに避ける。気づいたら目の前にいやがったぞ、コイツ。しかも体勢を建て直すの早いな。

 次に流れ込むような感じで繰り出された左拳を顔面に食らってしまうも、これを難なく受けきる。

 なるほど、歩法(ステップ)か。それもコイツ独自の。似たようなやつならアタシもできる。

 

「こんだけ良いもの持ってるのに、なんで通り魔じみた街頭試合するんだよ」

 

 残念ながら、コイツは通り魔だけど。

 

「――強さを知りたいんです」

「強さを、ねぇ」

 

 強さにも種類ってのがあってだな……いや、だから知りたいのか?

 ま、どうでもいいや。別にアタシの知ったことじゃないし。コイツが何をしようと関係ない。それでも今は……

 

「テメエを叩き潰すだけだ」

 

 そう言って少し距離を置く。構えはしない。たまに構えることもあるけど基本的にはこれが合うんだよ。

 

「……」

 

 向こうは構えた。さて、どのタイミングで動くか。見たところ覇王の構えに隙はないし、見せてくれそうもない。ならば――

 

「……!?」

 

 ――アタシは覇王が動くよりも先に一瞬で詰め寄り、突き出していた左腕を引っ込めると同時に右拳を鳩尾に打ち込んだ。

 もちろんこれだけじゃ終わらない。覇王も負けじと右拳を繰り出すが、それを左拳で相殺する。

 その勢いで右脚による蹴りをかますも、空いていた左腕でガードされる。それでもお構いなく連続で同じところに蹴りを叩き込み、最後にハイキックをお見舞いした。

 全部ガードの上からぶつけたのだが、少しは押せたらしく覇王は一瞬だけ体勢を崩す。当然、それを見逃すわけがない。

 

「おらっ!」

「ぐ………っ!?」

 

 その一瞬をつき、さらに速度を上げたハイキックを左側から打ち込む。これもガードされるが、今度はそのガードごと押しきった。

 今のでアタシも体勢を崩してしまったために追撃は叶わなかったけど。

 

「ふぅ……」

 

 すぐさま体勢を整える。そしてすぐに左拳を打ち出すも、同じ左拳で相殺される。そこからは拳の打ち合いになった。

 覇王が右を出せばアタシも右を、アタシが左を出せば覇王も左を、まさにそんな感じだった。

 このままだと均衡状態に入るな……いや、入ってるか? うん、どっちにしてもそろそろか。

 

「ふんがっ!」

「っ!?」

 

 そう考えるとアタシは覇王の右拳をかわすと同時に右腕を掴んで引き寄せ、顔面に頭突きをかます。するとバイザーが壊れ、綺麗なオッドアイが晒された。

 

 

 ――オッドアイ?

 

 

「……もしかしてカラーコンタクト?」

「違いますっ!」

〈れっきとした虹彩異色みたいですよ、バカマスター〉

 

 マジかよ。あのガキといいコイツといい、カラーコンタクトが流行ってるのかと思ってたわ。ていうか……

 

「誰がバカだ!」

〈マスター以外に誰がおられると?〉

 

 そんな事実は認められない。

 

「はぁ……なんかシラケちまったからこれで終わりにするわ」

「……………わかりました」

 

 覇王は何か言いたそうにしていたが、こっちが離れてから構えると気を引き締めたような表情になった。

 そして構えた瞬間、足下に三角形の魔法陣が浮かび上がる。ほう、アタシと同じベルカ式か。

 

「…………」

 

 それに対し、アタシは何もしない。手の内は見せない派……というかほとんどないんで。覇王が何やら気を練り始めた――そこだっ!

 

「覇王……」

 

 向こうが気を練り上げているうちに突撃する。残念なことに、それでもタイミング的にはほとんど変わらないみたいだが。それなら……!

 

「……ッッッ!!」

 

 両脚でブレーキを掛け、覇王の一歩手前で急停止する。アタシは右拳に魔力を込めてから一歩踏み出し――

 

「――断空拳!」

「だらぁっ!」

 

 それを顔面に打ち込んだ。しかし、同時に断空拳とやらもアタシの顔面に直撃した。

 その衝撃にアタシと覇王は思わず二、三歩ほど下がってしまう。そして……、

 

「っ………!」

 

 先に倒れたのはアタシだった。仰向けで。覇王がどうなったかはわからない。

 だけど今ドサッ、って音がしたからおそらく倒れたんだろう。しっかしまあ……

 

「……痛いんだけど」

〈マスター、それくらい我慢してください――とはいっても軽い脳震盪を起こしてるようですが〉

「そうなのか?」

 

 顔が痛い、めちゃくちゃ痛い。体のあちこちもそこそこ痛むけど、顔の痛みはそれの比じゃない。あの技こんなに威力あったのか?

 

「痛いんだけど」

〈魔法陣を展開した時点で察してください。子供でもわかりますよ〉

「………………うっせぇ」

 

 それからしばらくじっとしていたけど、起き上がることはできるので覇王の様子を確認するとしよう。さて、どうなってるか……な……?

 

「あれ?」

 

 そこにいたのは少女ではなくロリだった。つまり幼女。アタシはこのガキにやられたのか……?

 

「そんなことがあってたまるかっ!」

〈現実を見てください〉

 

 だが断る。そんな現実いらない。っと、こんなことしてる場合じゃねえわ。

 

「さっさとずらかろう」

 

 覇王のガキが目を覚ます前に退散ってね。ホントはこのあと滅茶苦茶ケンカしたかったけど、身体的ダメージが思いのほか大きい。なので……

 

「……おつかれしたー」

 

 そう言い残し、アタシはその場から立ち去った。

 このときアタシは心のどこかで安心していたのだろう。自分には関係ないから大丈夫だと。

 

 

 そして今回の出来事を経て気づいたのだ――今年は今年で退屈しなさそうだな、と。

 

 

 

 




 なぜサツキのバリアジャケットが学ランなのかというと、『特攻服がありなら学ランもありじゃね?』という感じで決めました。

《今回のNG》TAKE 11

 それにしてもアイツが着けている仮面みたいなのなんだっけ? えーと、確か……

〈暗視ゴーグルです!〉
「え? マジで?」
「違いますよ!?」
〈違うんですか!?〉
「…………」

 アホだ。
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