「う~ん……いい朝だなぁ~」
アピニオンとの再会から数日経った日の朝。アタシは久々にスッキリと目覚めることができた。
な~んか大事なことを忘れてるような気がしてならねえんだよな~。
なんだっけか……二つほど忘れてるような……。特に一つは身内のことのような……。
「確かに二つほど忘れてるね」
「……ん?」
あれ? おかしいな。ここにいるはずのない奴の声が聞こえたぞ。
ちょっと試してみるか。とりあえず適当なことを呟いてみた。
「いやー、始業式の夜は疲れたな~」
「サツキちゃんは手加減してたよね~。偉い偉い!」
「八重歯って吸血鬼の牙みたいだよな~」
「つまりウェズリーちゃんはデイ・ウォーカーってことだね」
「………………」
「やっはろー、サツキちゃん」
「どの面下げて出てきやがったぁ――っ!!」
声がした方に振り向くと、アタシと同じ色の髪と全てを射貫くように鋭い目付きが特徴的な女がいた。しかし、アタシとは違って短髪だ。
なぜだ、なぜコイツがいるんだ! しばらくは音沙汰なしだったのに!
「スミレお姉ちゃん、帰還しました♪」
「今すぐ消えろ。そして死ね」
「もうっ、サツキちゃんのいけず~」
〈お久しぶりです、スミレさん〉
「ラトも久しぶり~」
この掴みどころがなさすぎる――ウザすぎる女は緒方スミレ。果てしなく不本意だが、不本意なんだが……アタシの姉貴だ。それも実の。
昔はこんな奴じゃなかった。かつて不良の連合軍を最年少で率いるトンデモ野郎だったのをアタシは鮮明に覚えている。
さらにJS事件の当事者で、当時はよくルーテシアと共に行動していたとか。
それが今はどうだ。ただのおてんば娘じゃねえか。どうしてこうなったんだ。
……そういや姉貴で思い出したけど、下のアイツは元気かなぁ? そこまで離ればなれではないが。
「なんで今になって帰ってきやがった? しかも最近の出来事については教えてすらいないはずだし、どうやってアタシの家に入った?」
「サツキちゃんのことならなんでもお見通し、不可能はない」
カッコいいセリフを言っているつもりなところ悪いが、どうあがいても変人でしかねえぞお前。
何より今のコイツは死ぬほど嫌いだ。なんだこのシスコン全開な振る舞いは。
「そんじゃ本題に入るね。サツキちゃん、合宿の返事はどうしたのかな? なのは、激おこだったよ?」
「…………あ」
コイツに言われてようやく思い出した。完全に忘れてたよ。一つはコイツ、もう一つは合宿だ。
確か前期試験の後にある試験休みを使って合宿するんだっけか。
アタシもなのはに誘われていたんだけど、今日に至るまで忘れていたってわけだ。
「そんだけか?」
「――そんだけだ。あとなのはから呼び出し食らってるんだぜ? お前」
「っ……」
やっぱ慣れねえな。姉貴の急な豹変いや、切り替えは。アタシが尊敬するのはこっちの姉貴だ。
ていうか呼び出しってマジか。うわぁ……またアイツと直接会うのかよ……。
「……わかったよ」
今の姉貴は間違いなく全盛期だった頃の状態だ。
実力以前の問題で勝てる気がしない。まあ、いずれブチのめすけどな。
「ちなみに私も行くからよろしく~」
「なにィィィィィィ!!」
前言撤回。最悪の朝だ。
「というわけで助けてヴィクター」
「あの人が帰ってきたのね……」
複雑そうな表情になるヴィクター。まあ、姉貴を知る人物ならそういう反応するわな。
コイツも姉貴には苦労させられていたはずだ。主にギャップで。
「というわけで助けてヴィクター」
「残念だけど、それは無理な願いよ」
「この薄情者がぁ!」
酷い。酷すぎる。必死の思いで姉貴から逃げてここに来たというのに。
残念ながら救いはなかった。まあ、ぶっちゃけコイツには期待してなかったけど。
「それにあなたの問題でしょう? しかもサツキならどうなっても構いませぶふぉ!?」
「離せエドガー! このバカを骨の髄から撃滅させてやるんだ!」
最後の一言は明らかに余計だ。
「いたた……だから顔を殴るのは――」
「やっはろー、ヴィクターちゃん」
「――やめってす、スミレさん!?」
「どの面下げて出てきやがったぁ――っ!!」
忘れていた、奴はいつでもどこでも神出鬼没だったな。あとその天然みたいな振る舞いはやめろ。
更生中に何があったんだ。会う度に思うよ。
「お、お久しぶりです……」
「久しぶり。どうやって入ってきたとかは不問にしてね」
「なんの用だ姉貴」
「――帰るぞサツキ。私から逃げようなど、一生無理なんだよバカめ」
「ちくしょう!」
ダメだ。この姉貴からは逃げ出せない。ほんの少しだけ抵抗するも、まるで赤子を扱うかのように連行された。
クソッタレめ、いつかぶっ殺してやるからな。
「相変わらず、嵐のようなお方ですわね……」
「もう着いちまったか」
「着いちゃいましたね……」
翌日。アタシは高町宅の前に佇んでいる。今すぐ帰りたい。
実を言うと呼び出しを無視しようと思ったのだが、ヴィヴィオに待ち伏せされてこのザマだ。
「サツキさん!? スゴく震えてますよ!?」
「大丈夫、これは痙攣だ」
〈マスター! それは問題でしかありません!〉
おかしいな。伊達に修羅場をくぐり抜けてきたアタシではないはず……
「た、ただいま~!」
「オイィィィィ!?」
〈知りません。私は何も知りません〉
あ、開けやがった。コイツ最後の扉を開けやがった……! しかもラトが現実逃避を始めた。
お、おう、地獄からの使者の者であろう足音がだんだんと近づいてきた……!
気づけば手遅れ。目の前には茶髪のサイドポニー? が特徴的な高町なのはがいた。
「お帰りヴィヴィオ~。それと……久しぶりだね、サツキちゃん」
ダッ(逃げ出すアタシ)
ガッ(その首根っこを掴むなのは)
「どこに行くつもりかな?」
「こ、このアマ……!」
残念ながら逃げられなかった。前に会ったときよりも怖くなってるのは気のせいじゃないはず。そのままアタシはリビングへ連行されてしまった。
クソッ、アタシのスピードを持ってしても逃げられないなんて……!
ヴィヴィオにアイコンタクトを送ってみるも、見事に理解されなかった。
「時間がないから本題に入るね。サツキちゃん、どうして無視したのかな? 言ったはずだよね? 大事なことだって」
ヤベェ、これが命の危機ってやつか。下手すると砲撃を死ぬまでぶっ放されるのだろうか?
だとしたら洒落にならんぞ。アタシが味わうのは生き地獄じゃねえか。
あとその笑顔やめろ。お前がするとさしずめ閻魔のそれでしかねえから。
「あー……合宿の件だっけ?」
「そ。で――返事は?」
ダッ(逃げ出すアタシ)
ガッ(その首根っこを掴むなのは)
「だからどこに行くつもりかな?」
「放せなのは! 後生だ、後生だから放してくれ!」
アタシはまだ死にたくねえ! やり残したことがたくさんあるんだ!
「へ、返事なんだが……却下で」
「…………」
マズイ。殺気のようなものが膨れ上がった。一歩間違えるとあの世行きだ。
いつも笑顔を絶やさないアタシもこれは笑えねえ。ケンカでもなきゃ笑えねえ。
ていうかなんで却下したらダメなんだよ。そこに関しては解せねえぞ。
「さ、サツキさん。来てくれないんですか……?」
「正直に言うと行きたくない」
ヴィヴィオがめちゃくちゃ来てほしいです、みたいな表情で話しかけてきた。
確か四日間も使うんだったな? その期間だけとはいえ、ケンカができなくなる。
練習するぐらいならケンカしてナンボだろうが。
「仕方ないなぁ。――じゃあ当日、迎えに行くからよろしくね?」
「さらばだァ!」
この間、わずか一秒未満。迎えに行く宣言を聞いた瞬間に、アタシは玄関へと駆け出していた。
逃げないと、ひたすら遠くへ! なんなら地球に行こうか?
よし、玄関が見えてきた! と同時に玄関の扉が開いた。ん? あれは……なんだ、おっぱいか。
「ただいま~……え? さ、サツキ? なんでここに――」
「邪魔だ」
「――いたぁっ!?」
突然現れた金髪のおっぱいをデコピンでどかし、高町家から脱出することに成功した。
まるでネンショーから脱獄するような気分だぜ。ていうかあのおっぱい……誰だっけ?
『ふぇ、フェイトママ大丈夫!?』
『うう~……。なのは、なんで私はデコピンされたの……?』
『そ、それは……』
背中の方で何か声が聞こえたけど、もう振り返らない。振り返ったら生きて帰れない気がしたからだ。
形は違うけど、脱獄犯の気持ちがなんとなくわかったような気がする。
そして今回の出来事により学んだことが一つある。それは――
「――生きてるって、素晴らしいな」
〈返事はどうしたんですか?〉
「言ったろ、却下だって」
帰ったらまず逃げる準備だ。ジークがいた場合は囮にしてやる。
このあと言うまでもなく姉貴に捕まり、合宿に強制参加されられることになったのは余談である。
《今回のNG》TAKE 31
突然現れた金
〈マスター。金
穴があったら入りたい。なんだよ金色のおっぱいって。気持ち悪すぎんだろうが。
一瞬想像して吐きそうになったぞ。ホントになんなんだよ金色のおっぱいって。