「ほなさっそく調査開始や!」
「待ちなさいジーク。一昨日結成したばかりよね? この……えっと……だ、団体?」
「集団かな?」
「グループでいいだろ」
なんだかよくわからないグループが結成された二日後。いきなりオレ達はヘンテコお嬢様の屋敷に呼び出された。ジークによれば『善は急げ』らしい。悪の間違いだろ。
まあ本音を言うとオレもサツキには恨みがあるのでこの機会にそれを晴らそうと思っている。主にオレの恥ずかしい写真を校内にばら撒かれた事とか公衆の面前でスカートを捲られたりズボンを脱がされたりした事とかその他諸々の恨みを。
念のために胃薬も持参しておいた。これで万が一胃が痛くなっても大丈夫だぜ。
「とりあえず、あいつに関する情報をわかりやすくプロフィールにしてみたぞ」
そう言いながら一枚の用紙を取り出し、ジーク達に見せる。ただ、弱みを握るためだけにここまでする必要があるのか正直疑わしいところだ。
名前:緒方サツキ
市立学校高等科2年
性別:(一応)女
身長:180後半
体重:外見に反して重いとのこと
出身:第97管理外世界
性格:一言で言うと傍若無人。喫煙・飲酒・暴力・怠惰と絵に描いたような問題児。
特徴:赤みがかった黒髪と鋭い目付き
趣味:ケンカとタオル風船
「サツキの名前ってひらがな表記じゃないのか?」
「わかりやすくするためにカタカナ表記に変えたとかそんな感じだと思いますが……」
確かに、あの八神司令と同じ地球人で出身国も同じだから名前がひらがな表記じゃないというのは少し引っ掛かるな。それにミッド人とのハーフってわけでもないみたいだし。
もしもサツキの名前が本当はひらがな表記だとすれば、実の姉弟であるスミレさんとイツキも同じひらがな表記の名前に違いない。それにあいつの性格を考えると、今さら変えるのが面倒だからカタカナ表記でやってきたというのもあり得る。
三人で深く考え込んでいると、唯一話に入ってこなかったジークが不満そうに口を開いた。
「…………で、他には?」
「え? 他にって……これで全部だが?」
「サッちゃんの行動パターンとかスリーサイズとか行動パターンとかいろいろあるやろ!?」
「それもうただのストーカーじゃねーか!?」
今やってることでもギリギリなのに何を言い出すんだこのアホ娘は。それと今、行動パターンって二回言わなかったかこいつ?
「あのな、オレ達の目的はあくまであいつの弱みを握ってちょっぴりこらしめるだけだろ? そんな病んでる女子がするようなことはやめ――」
「ほな今から尾行しに行こか!」
「無視すんなてめー!」
てか尾行ってなんだよ!? こっちはなんも聞いてねーぞ!?
ジークの言葉に思わず『は?』とでも言いたそうな顔になるミカ姉とヘンテコお嬢様。安心しろ、多分オレも同じ顔になってるから。
「ほら、はよ行こ!」
「……仕方ないわね」
ヘンテコお嬢様がやれやれといった感じの笑顔でジークの後へ続き、オレとミカ姉も冷や汗を流しながら苦笑しつつも後へ続くしかなかった。
――目的はどうであれ、その笑顔はさすがに卑怯だぜジーク。今回だけだぞまったく。
□
「さっそくいたな」
「しかしこれはバレるんじゃないか?」
「少し距離が近いわね……」
「大丈夫や、問題あらへんよ」
屋敷を後にしてから数十分後。少し人気のない街中にて、タバコを吸いながら暇人のようにうろつくサツキを発見した。まったく、大体検討はつくけど何してんだあいつは……。
サツキが歩いていく度にオレ達も見つからないようにかつ見失わないように尾行していると、彼女はごく自然に左へと曲がった。確かあっちは路地裏だ。前にサツキと会った場所も路地裏かつ事後だったが……ケンカの現場に鉢合わせするのは今回が初めてだな。
そう感慨深いものを感じていると、路地裏の方から声が聞こえてきた。
『ぎゃああああああっ!!』
『骨が、骨がぁああああっ!!』
『お、俺の歯が折れごふっ!』
一体何が起こっているんだ。
「……と、止めた方がいいかな?」
「無理だと思うぜ」
オレ達が割って入ったところでゴロツキ共々返り討ちにされかねない。下手したら殺される。ちなみにゴロツキってのはサツキがよく言っている不良の呼称だ。
それでも皆でサツキの暴行を止めるかどうか話し合っていると、路地裏からフードで顔を隠したサツキがそれはもう不審者っぽく出てきた。よく周りに怪しまれないなあいつ。
さっきよりも早足で歩くサツキを慎重に尾行するオレ達。するとサツキは数分も経たないうちにこれまた自然な足取りで怪しげな雰囲気の店へと入っていった。
「なんの店だと思う?」
「どう見ても子供が入ってはいけない感じの店にしか見えませんわ」
再び皆で話し合っていると、サツキが今度は堂々と店から出てきた――って!
「隠れろッ!」
サツキがこっちを向いたのでミカ姉と一緒にヘンテコお嬢様とジークを後ろへ無理やり押し込み、オレも曲がり角に急いで身を隠す。危ねえ……少しでも遅れていたら見つかってたぞ。
しばらく二人を庇うように隠れていたが、こっそり様子を見ていたミカ姉が手招きし始めた。どうやら見つかりはしなかったらしい。
ちょっと不満そうなジークとヘンテコお嬢様に手招きして大丈夫だということを伝え、尾行を再開する。いつまで続くんだこれ……。
~ 公園 ~
『ふぅ~……』
「離せミカ姉。オレは今すぐあの白昼堂々とベンチに座ってタバコを吸ってるバカをとことん殴る必要があるんだ」
「待つんだハリー。ここで見つかったらすべて終わりだぞ」
「少しは自制心を持ちなさい。こっそり抜け出そうとしているジークもね」
「ん――!?」
~ 小さな屋台の前 ~
『ここのどら焼きも悪くないな』
「離して番長。
「お前どら焼きが食べたいだけだろ」
「後で買ってあげるから落ち着きなさい」
「ぶー……!」
~ 再び路地裏 ~
『あぎゃああああああっ!!』
「……離すんだヴィクター。例え命が掛かっていようとやらねばならないことがある」
「落ち着くんやミカさん。チャンスならまだあるから」
「ちょっと意味のわからない部分があるけどジークの言う通りですわ」
「だからその刀は下ろそうぜ、な?」
「ははっ、サツキを尾行してただけなのにもう一日が終わろうとしてるよ……」
「なんというか、ここまで無駄な時間を過ごしたことはないね」
「ですがそれもあと一息。後はジークが諦めてくれるのを待つだけ――」
あれから日が沈むまでの間、何度も見つかりそうになりながらサツキを尾行していたが彼女の弱みと言えるものは未だに得られていない。マジで時間だけが過ぎていったよ……。
ヘンテコお嬢様以外は尾行している最中にイラついて飛び出し掛けるもなんとか踏み留まっている。反省はしていない。むしろ飛び出すべきだったと考えている。唯一飛び出そうとしなかったヘンテコお嬢様だが、オレらほどではないけど結構苛立ってるみたいだ。
サツキの尾行はやや距離を置きながら続けているが、そろそろどうでもよくなってきたのでやめようと思ってる。これ以上尾行したところで得られるものなんてないだろうし。
『あ、そういや忘れてたな』
サツキはふと呟くと、少し焦り気味な感じでこっちへ歩いてきた。……え?
「隠れるんだッ!」
「はにゃぁっ!?」
そう言うとミカ姉はオレ達を近くにあった建物の陰へと無理やり押し込み、さっきと同じように様子見の体勢に入った。にしては何らかの疑問を感じてるようだが――
「――いない?」
どうやらサツキを見失ったらしい。いやいやちょっと待ってくれ。あと一息ってところで見失うとか洒落になんねーんだけど!?
まさかと思い、ほぼ本能的な感覚で後ろへ振り向くも尻餅をついているヘンテコお嬢様と、どういうわけか顔面から盛大に転んでいるジークしかいなかった。よかった、気のせいか。
「どないしたんや?」
「なんでもねーよ……」
ホッとすると同時に緊張していた分の疲れが一気に押し寄せてくる。
ジークだけは痛そうに顔を擦っていたが、ミカ姉もヘンテコお嬢様も今になって疲れが……という感じだった。
「……もう帰ろうぜ」
オレが胃薬を飲みながらそう言うと、皆はなんの躊躇いもなく肯定してくれた。
ちなみに言うまでもないけど、これがサツキの弱みを握るための最初で最後の調査となった。
「なあジーク」
「んー?」
「なんで昨日アタシをつけてたんだ?」
「えへへ、実はサッちゃんの弱みを――ふぇ?」
「弱みを……なんだって?」
「あ、いや、その~……」
「…………ジーク」
「は、はいっ!?」
「――歯を食い縛りなさい」
《尾行されているサツキ》
『さっそくいたな』
『しかしこれはバレるんじゃないか?』
『少し距離が近いわね……』
『大丈夫や、問題あらへんよ』
なんか後ろの方から聞き覚えのある声が聞こえるので視野を広げてみると、ハリー、ヴィクター、シェベル、ジークが隠れながらこっちを見ていた。どうあがいてもバレバレなんだが、アタシはどう反応すればいいのだろうか。
(……放っとこう。ジークは明日シバくけど)
とりあえず泳がせてみることにした。なんか面白そうだし。