死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第85話「解放された少女」

 

「ふぅ~……」

 

 ある日の深夜。アタシは顔や手に付着した返り血も気にせず、一服しながら路地裏で一人佇んでいた。数分前まで武装したゴロツキの集団をボコボコにしていたのだが、インターミドルから解放されたこともあってやり過ぎてしまったのだ。

 これでアタシを縛るものは何もない。地球にいた頃――やりたい放題していたあの頃には及ばないが、それでも思う存分ケンカができることに変わりはねえ。問題はその相手がいるかどうかだったが、この調子なら大丈夫だろ。まあ、強い奴もそのうち現れるかもしれないし。メイビー。

 まだ油断はできないが、右足の怪我もほぼ完治したと言っていい。……それにしても解放感が凄すぎる。ホントに“選手”という呪縛から解放されたんだな、アタシは。

 

「この解放感に身を任せて空を飛べたりしねえかな……」

〈それはあり得ないです〉

 

 ちょっとした幻想を抱いただけなのに愛機のラトが釘を刺してきたんだが。というかコイツが喋るの久々な気がする。

 イチイチ苛立っても仕方がないので、とりあえず手に付着していた血をキレイに舐め取って唾と一緒に吐き捨て、続いて顔に付いた血をパーカーの袖で拭き取っていく。そしてゴロツキから調達した資金を丁寧に数え、次の予定を決めた。

 

「――そんじゃま、タバコでも買いに行くか」

 

 

 

 

 

 

 

「たでーまー」

 

 販売機にお金が飲み込まれるというハプニングが発生するもどうにかタバコを入手し、いつもなら朝飯を作っている時間に帰宅した。一言で言うなら朝帰りだ。

 朝飯なんにしようかな……和食でもいいがたまには洋食とかやってみるか。朝の洋食と言ったらスパゲティやピザ辺りか? どっちを作るにしても二人分の材料はあるからなんとかなるし。

 しばらくの間は解放感に身を任せるつもりなので朝帰りになる可能性が極めて高くなる。なんせこれからのアタシは選手だったせいで抑えていた分の衝動も解放し、ひたすら暴れるはずだ。となれば朝飯は携帯食材に変更だな……カ○リーメイト辺りでいいか?

 

「こんな時間までどこをほっつき歩いとったんや?」

 

 そんなことを考えていると、(珍しく)パジャマ姿で抱き枕を抱えたジークが目の前に立っていた。なんか髪を下ろしてるせいかいつもより可愛く見える。てかそれアタシの抱き枕じゃねえか。

 

「テメエ……人の枕を勝手に使っといて親面してんじゃねえよ」

 

 いつものようにアイアンクローをかましてやろうかと思ったが、とにかく眠いし学校にも行かなきゃならないのでスルーしておく。

 それによく見ればジークも眠たそうに目を擦っており、今にもパジャマ(特にズボン)が脱げそうになっていた。半分ほど見えてるし。――いやなんでやねん。なんでズボンが脱げそうになっとんねん。まさか(自主規制)や(放送事故)、もしくは(検問削除)でもやろうとしたのか?

 あくびしながら朝食を作ろうとしたが、それよりも携帯食材の方が手っ取り早いと思ったので今日は作らないことにした。

 

「サッちゃん、朝ごはんは?」

「ない」

「……ごめん。ちょっと耳がおかしくなったみたいやからもう一度言ってくれへん?」

「朝飯はない」

「ない!? ないやて!?」

 

 眠たそうにしていたのが嘘のようにカッと目を見開かせ、アタシの胸ぐらを掴むジーク。いやいや、どうしてこんなに怒るのか理解できないね。

 まだ揺らしてないだけマシだが、ここまで顔を近づけられるとイラついてくる。こっちは時間がないってのにこのアマ――

 

「ないってどういうことやー!?」

「お、うぷっ……!? やめろジーク……! それ以上揺さぶるなぁ……!」

 

 とうとう上下に揺さぶってきやがった。ていうかやっぱダメだこれ。スゲえ吐きそうだ……!

 

「やめろと言ってるのが聞こえんのかぁっ!?」

「ごふっ!!」

 

 ジークの両肩を掴んで頭突きをかまし、ついでに胸元へ踵落としを叩き込む。全く、コイツといいハリーといい、どうしてこう人の胸ぐらを掴んで揺さぶりたがるのかね。人が気持ち悪くなって惨めに吐いてる姿が楽しいとでも? アタシは見てて楽しいけどな!

 ――とはいえ、さすがのアタシも自分が吐きそうなときは笑えねえがな。皆そうだろう? 誰だって結局は自分がカワイイんだよ。……まあ、この世界の物好きはそうでもなさそうだが。

 

「オラ、さっさと起きろ間抜け」

「寝かすようにぶっ飛ばしたのはどこのどいつや!?」

 

 起き上がったジークは涙目で抗議してきたが、それを華麗にスルーして制服に着替える。

 えーっと時間は…………うん、あと3分で予鈴が鳴るじゃねえかこんちくしょう。半分ほどジークのせいだと思ったアタシは決して悪くない。

 

「そんじゃ、アタシは学校があるからもう行くわ。朝飯だがそこら辺の雑草でも食ってろ」

「お腹壊してまうやろ!?」

「実際に食ったことのある奴が何ほざいてんだ」

 

 川沿いにテントを張ってサバイバルしてきたお前なら多少の腹痛は大丈夫だろ。ていうかそのまま腹痛になってしまえ。できれば食中毒で逝ってくれると嬉しい。葬式には出てやるよ。

 そうなればいいなと思いつつ、アタシはタバコを吸いながら家を出た。

 

 

 □

 

 

「眠い。帰っていいか?」

「いやダメだから」

 

 それくらい別にいいだろうが。ついさっきまで授業には出てたんだからよ。

 あのあと、アタシは堂々と遅刻した。さすがに3分で遅刻するなというのは無理がある。そんで今は四時間目が終わってすぐ屋上へ行き、何故かついてきたハリーに眠いから帰っていいかと率直に申していたところだ。当たり前のように断られたけど……そこは嘘でもいいからノリでオーケーと言ってほしかった。

 とまあ過ぎたばかりの話は置いといて、まずはコンビニで買ったおにぎりでも食べるとしよう。

 

「おい待て。タバコはやめろって何度言えばわかるんだてめー」

「おいコラ返せ泣き虫。そいつはアタシが早朝に買ったタバコだぞ」

「人の話を聞け! タバコはやめろって何度言えばわかるって言ってんだよ!」

「うるせえボケナス! 人から物をパクっといて説教とはいい度胸してんじゃねえか!」

 

 そろそろコイツを下水道にでも流してやろうかと思ってる。

 アタシはすぐさまハリーから今朝買ったばかりのタバコを取り返し、ポケットに仕舞い込む。景気付けに吸おうと思っていたがこの調子だとまた取り上げられそうだ。

 

「まったく、お前も一応選手なんだからこういうのは控えろよ」

「………………」

 

 どうしよう、もう選手であることはやめたって素直に言った方がいいだろうか。……うん、言った方がいいな。後から追及されるよりはマシだ。

 

「あのさハリー――アタシはもうインターミドルには二度と出ねえぞ」

「…………え……?」

 

 アタシの言葉を聞いたハリーは一瞬固まり、今までにないほど驚愕していた。おそらく唐突な告白に理解が追いつかなかったんだな。

 ハリーは2分ほど固まっていたが、我に返ると同時に口を開いた。

 

「な、なんだよそれ……どういうことだよ!?」

「別に驚くこたぁねえだろ? 選手はいずれ引退するのが宿命だ」

「そういう問題じゃねえ! お前はまだまだやれるだろ!?」

 

 確かに、やれないと言えば嘘になる。でも選手として試合に挑めば挑むほど本来のアウトローな日常が離れていく。アタシはそれが思い出を失うかのように怖くなっていた。だからその日常が離れないように、そしてバレないように裏で暴れていた。はっきり言って優勝や強さを求めるなんざクソ食らえだ。

 けど、もうその心配はいらない。アタシは選手を引退した。これからは自由にバカをやれる。誰に邪魔されようと関係ない。ガキである内はやりたいことを存分にやってやる。

 

「ぶっちゃけ引退は去年から考えてたんだよ。まっ、一言で言うなら飽きた。それだけだ」

「お前な……っ!!」

 

 ハリーは納得がいかなかったらしく右手で胸ぐらを掴んできたが、アタシはそれを軽くいなし、彼女に背負い投げをかました。

 

「言い分なら後でいくらでも聞いてやる。今は飯の時間だ」

「くそっ……!」

 

 はぁ……先が思いやられる。

 

 

 □

 

 

「ごはぁっ!?」

 

 放課後。どうにかハリーを説得したアタシは、隣町の路地裏で昨夜のゴロツキとは別の集団を相手に蹂躙していた。

 タバコを口に咥えながら、向かってきた大柄な男をボディブローで沈め、次に背後から鉄パイプで奇襲を仕掛けてきた耳にピアスの男を裏拳で仕留める。少しは頭も使ってほしいぜ。

 ま、所詮は雑魚の寄せ集めだな。やっぱり強い奴は群れないのかもしれない。

 

「根性ぐらい見せろやァ!」

 

 適当なことを叫びつつ、スタンガンを突き出してきた小柄な男を蹴り飛ばす。運が良ければ今ので顎の骨が逝ったかもしれないね。

 続いて右側から殴りかかってきた男の顔面へ蹴りを入れ、左側にいた別の男へ向かって投げ飛ばした。挟み撃ちとは考えたな。

 

「どっせいっ!」

 

 最後に投擲されたナイフを素手で受け止め、投げた張本人であろうちょっとマシな顔立ちの男の顔面へアッパーを打ち込んだ。

 そのまま男が吹っ飛んで気絶したのを確認し、咥えていたタバコを右手に持つ。そして持っていたナイフを握り潰した。……ちょっと痛いな。

 しばらくはアタシもこういう連中もこんな調子なのかもしれない。そう思いながら綺麗な青空を見上げ、思わずため息をついたのだった。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 20

「オラ、さっさと起きろ間抜け」
「あ、もうちょっとだけ待ってほしいんよ。この角度やとズボンの隙間からパンツが見え――」

 このあとひたすらジークを踏み潰したアタシは絶対に悪くない。


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