「お帰りやサッちゃん! ご飯にする? お風呂にする? それともちゅーするごふっ!?」
帰って早々ジークを蹴り飛ばしたアタシは絶対に悪くない。なに正妻風に正座で出迎えしてやがんだコノヤロー。まるで似合ってねえんだよ。
クロはそんな状況などどうでもいいのか、独り言をブツブツと呟いている。……結構理論的な内容から察するにまた薬でも作る気か?
ジークは痛そうに顔を擦りながら起き上がると、涙目で怒鳴り始めた。
「いきなり蹴飛ばすとは何事や!?」
「テメエ自分がやったことを思い出してみろ」
「普通にお出迎えしただけやろ!」
「どこが普通だ!? あんな出迎え最近の夫婦でもしねえよバカ!」
「誰がバカやこのアホ!」
「テメエだバカヤロー! 朝っぱらからケンカ売ってんのかあァ!?」
なんなのコイツ。こんなに短気だったか?
「…………多分私が作った短気薬を飲んだせいだと思う」
「なに作っちゃってんのお前」
魔女は薬も作ると聞いてはいたがここまでやるか普通。このままいけば真○薬とか作っちゃいそうで怖い。あれは洒落にならねえぞ。
クロによるとジークが誤って飲んだ短気薬とやらは10分ほどで切れるらしい。……無制限じゃなくてよかった。
「とりあえず飯にしようぜ」
「今日のご飯は?」
「お前は生卵だ」
「…………はぇ?」
「だから、お前は生卵――」
「ご飯は!? おかずは!?」
前言撤回。もっと早く切れてくれ。
□
「オムライスならオムライスって素直に言えばええのに」
「…………クロ。短気薬よこせ」
「絶対に危ないからダメ」
いつも以上にニヤニヤしてるジークがとてつもなく気に入らねえ。
ちなみにアタシの朝飯は炊き込みご飯で、クロはコンビニ弁当だ。オムライスなんて買わなきゃよかった……!
「でもサッちゃんが作る料理の方が美味しいんよ」
「……それは同意件」
「褒めても今は拳しか出ねえぞ」
わりとマジで。
「…………今は? ほな後で褒めたらご褒美が出るんか!?」
「蹴りが出るぞ」
そんな期待するような目で見られても心底困る。だから見んな。
とにかく話を変えようと、パッと頭に浮かんだことを口に出す。
「クロ。とりあえずあの千手観音を持ち帰ってくれ」
「……どうして?」
「どうしてじゃねえよ。あれお前の使い魔だろ」
「……わかった。もう大丈夫なはずだし」
何が大丈夫なのか不安で仕方ないが、千手観音はクロに引き取ってもらうことが決定した。正体は未だにわからないが、少なくとも生物ではないことと、クロの魔力を動力源にしているということは判明している。やっぱりゴーレムかな?
炊き込みご飯を食べ終わり、隠し持っていたタバコで一服する。さて、何すっかなぁ……ケンカはさっきしてきた。今はスポーツで言うところのインターバルだ。アタシにとって休憩に値することと言えば……タオル風船か? いや、あれは風呂に入ってないと無理だし……うーん……
「サッちゃん」
「なんだ? 今考え事で忙し――」
「一緒に寝よ!」
我慢の限界がきたのでジークをブチのめそうと立ち上がったときだった。
――ピンポーン
いきなり呼び鈴の音が響いてくる。誰だよこんな朝っぱらから。少なくともジークとクロではない。だって目の前にいるし。
妙に重く感じる腰を上げ、ゆっくりと玄関へ歩いていく。
「へーい」
めんどくさいので適当に返事をしてドアを開ける。そこにいたのは――
「おっす!」
「……ハリー?」
腐れ縁のハリー・トライベッカだった。マジで何しに来たんだ?
「オラ、さっさと用件を言って失せろ」
「なんでそんなにイラついてるのかは知らねーが……遊びに来るぐらい別にいいだろ」
そう言うとハリーはアタシに断りもなく家に入ってきた。いやいやちょっと待て、なに勝手に入ってきちゃってんのお前。
無断で上がってきたハリーは近くにあるアタシの部屋など眼中にないと言わんばかりにリビングへと一直線に歩いていき、
「ば、番長!?」
「ジークに魔女っ娘!?」
クロとジークに出会っちゃった。とうとうバレてしまったか。
ハリーはアタシと二人を交互に見て口をパクパクと開いている。まるで餌を欲する金魚だな。
ジークもジークで困惑してるが、クロだけはいつも通りだった。というより、顔に出てないだけで何か感じているのかもしれない。
「サツキ、説明頼む」
「ジークは居候でクロは……まあ、常連だな」
「な、なるほど……」
嘘は言ってない。ジークに関しては紛れもない真実だ。クロは通い妻とでも言ってやろうと思ったが後がめんどいので無難に常連にしといた。
いつかバレるとは思っていたが……時期的な意味でちょうどいいかな。
「ほら、お前も食ってけよ」
「あ、いや、オレは飯を食いに来たんじゃなくて遊びに――」
「ほら、さっきまでジークが食ってたオムライスだ。召し上がれ」
「待つんやサッちゃん。
なくなってまえ。
「早く食べろ。さもないと――」
「だからオレは飯を食いに来たわけじゃ」
「――ジークのガイストが飛んでくるぞ」
「待て! それオレがオムライスを食べるかどうか以前の問題なんだけど!?」
このあとオムライスを取り返そうと大暴走し始めたジークと、なんだかんだでオムライスを食べることにしたハリーによる小規模リアル鬼ごっこが展開されたのだった。
……頼むからお前ら、そういうことは表でやってくれよ。
「…………うるさい」
□
「サツキさん! あたしを殴って――」
「リオの言うことは無視してください。構ってほしいだけなので」
気持ちはわかるがそれは親友としてどうかと思うぞ、ティミル。
ジークとクロの面倒をハリーに押しつけて外出したのはいいが、ばったりと出会ったのはチームナカジマのメンバーだった。よりによってガキ共かよ……しかもウェズリーの第一声からして不安しかないんだけど。
試合なら受け付けるが、それ以外はお断りさせてもらうぜ。
「すみません、いつもリオがご迷惑を……」
ヴィヴィオが申し訳なさそうに頭を下げるのを見てため息をつく。お前はもう少しはっちゃけるべきだ。格闘技以外でな。
ティミルはアタシとウェズリーを交互に見ながらウェズリーを羽交い締めにしている。これはありがたいのでスルーしておこう。カップリング関連を呟いてないだけマシってのもあるが。
ストラトスは苦笑いしながら年長者のように初等科組を見守っていた。……いや、チームナカジマでは一応年長者だっけか。
「それにしてもお前、いつからそんなにはっきりと笑うようになったんだ?」
「へっ? あ、えーっとですね……いろいろあったとしか……」
「殴り合いとか?」
適当にカマを掛けてみると、ストラトスはわずかに肩をピクッと揺らした。……え? マジで殴り合ったの?
「へぇ、殴られて笑うようになったのか。変態だな」
「ち、違いますっ! ヴィヴィオさんと試合をして負けて――」
「なるほど。それがきっかけで吹っ切れたと?」
「は、はいっ!」
「変態だな」
「だから違います!!」
いや変態だろ。負けて吹っ切れたとか稀によくあることじゃねえか。
ストラトスがウェズリーに匹敵するほどの変態であるということが明かされた瞬間だった。
『ヴィヴィオさん。私、この人嫌いです……』
『しーっ! それは言っちゃダメですよアインハルトさん!』
「聞こえてるぞクソガキ」
ムカついたのでヴィヴィオとストラトスの頭にアイアンクローをかます。別に嫌われようがどうでもいい。だがな、それを本人の前で言うのはご法度なんだよ。理解しろ。
なんというか、ジークの気持ちがほんの少しわかっちゃった気がする。わかりたくなかったのにわかっちゃったよクソッタレ。
アイアンクローを掛けている手の力を少しずつ強めていく。もう潰れちゃいなよ。
「お、落ち着いてくださいサツキさん! アインハルトさんは変態じゃいだだだだっ!!」
「むしろ変態というのはリオさんのことではないでしょうかぁぁぁぁぁっ!?」
いくらウェズリーが筋金入りのマゾだからって濡れ衣を着せるのはどうかと思う。
……まあ、弱いものいじめはやっても楽しくないのでそろそろ離してやろう。それにこの反応を見る限り、ストラトスはマゾじゃなさそうだし。
「アタシのことを嫌ったり憎んだりするのは自由だ。けどそれを口に出すな。オーケー?」
「お、オーケーですっ!」
「き、肝に命じておきます……っ!」
いい返事をしたところで二人を解放する。久々に力を入れちまったよ。
アイアンクローを使ったらやる気が出てきたのでさっそく路地裏に向かおうとしたら、ティミルから逃れたらしいウェズリーが可愛らしい八重歯をのぞかせながら話しかけてきた。
「サツキさん! あたしにもアイアン――」
「ティミル。押さえろ」
「わかりましたっ」
危なかった。あと少しで人として大切な何かを失いかけたぞ……!
その場にいるのがイヤになったアタシは、早々と路地裏へ直行したのだった。もちろん、憂さ晴らしもやるつもりだ。
《今回のNG》TAKE 9
「サッちゃん」
「なんだ? 今考え事で忙し――」
「一緒に抱き合おっか!」
「殺すぞキサマァァァァァァ!!」
悪くない、思わずプッツンとキレてしまったアタシは絶対に悪くない。