死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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IF第一章「歓楽街のヒュドラ」
第1話「原点回帰」


「はぁ……はぁ……」

〈お疲れ様です。無駄に暴れたマスター〉

 

 夜の公園付近にて、アタシは赤髪黄眼が印象的なノーヴェ・ナカジマとのケンカに勝利した。

 久々にやる気を出したからかめちゃくちゃ疲れた。ダメージも結構受けたし。

 気を緩めたら倒れちゃいそうだ。――結局、本気を出すには至らなかったけど。

 

〈ですが楽しめたはずですよ? マスター、珍しく笑ってましたし〉

 

 おいおいマジかよ。それ今初めて知ったぞ。

 ていうか、さっきから愛機のアーシラトがうるさい。次からメンテするのやめてやろうか。

 とりあえず口に溜まっていた痰を唾ごと吐く。珍しく血は出なかったな。口は切れたけど。

 

「お前の言う通り楽しかったよ」

 

 これはホントだ。でなきゃラトの言うように笑ったりはしなかっただろう。

 

「――けど、やっぱりダメだわ。満たされた気が全くしねえ」

 

 楽しいって気持ちだけじゃアタシの血は騒がないし滾りもしない。もっと、もっと強い奴でなきゃダメなんだ。

 アタシにとってのケンカってやつは、全力の自分と対等以上にやり合える奴と殴り合って初めて最高と言えるものになる。それ以外は消化不良、もしくは悔いが残っちまう。

 それに今のでよーくわかった。ヤンキーはケンカだけじゃない。ヤンキーの中にはケンカのできない奴だっている。それでもヤンキーであり続けた奴が地球には何人かいた。

 

 ――ケンカでダメなら常に突っ張り通せ。自分のやりたいようにやる。それでいいんだよ。アタシは今からそうさせてもらうぜ。

 

「ま、ケンカはやめねぇけどな」

 

 もちろんケンカは続ける。満たされるかそうでないか以前に、好きでやってることだからな。

 アタシの足下に横たわるノーヴェをナカジマ家へ届けてやろうかと思ったが、勝者が敗者に手を貸すってのはどうかと思うし、何よりどうでもよくなったので放置しておく。運が良ければ誰かに起こしてもらう程度で済むだろ。

 ダメージで痛む身体を少しだけ引きずり、一服しながらその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……本当に切るの?」

「おう」

 

 一時間後。無事に帰宅したアタシは最近知り合った金髪金眼の正統魔女(トゥルーウィッチ)、ファビア・クロゼルグを急遽呼び出した。

 心機一転の証として今からリビングで髪を切るのだが、一人じゃ失敗する可能性があるので念のために呼んだというわけだ。

 まずハサミを右手に持ち、首回りには使わない新聞紙を巻く。続いて机の上にスキバサミ、コーム、霧吹き、ケープ、タオル、髪の毛を止めるクリップが置いてあるかを確認する。

 後ろの方をバッサリと切るだけなので本格的な用意はいらないのだが、それを用意したファビアが言うには『髪は女の命』らしい。そのため前髪も切ることになってしまった。

 

「…………よし」

 

 さっそく手鏡で視認しつつ、慎重かつ速やかに前髪を切っていき、大体切り終えたところで一旦手を止めてズレがないか確かめていく。

 事前に髪は洗っておいたが、それでも乾いている可能性はあるので霧吹きを掛ける。

 そしていよいよ、本命である肩まで伸びている髪を切りに掛かった。

 

「んしょ……」

「…………」

 

 ファビアが少し緊張しながら見守る中、前髪のとき以上に慎重な手つきで切っていく。

 ちょっとイライラしてきた……なんで髪を切るだけなのにここまで時間を使うんだよ。

 ――ええいっ、めんどくさい。

 

「てやっ」

「!?」

 

 チマチマ切るのが面倒になったので、後ろの髪を文字通りバッサリと切った。

 サポート役のファビアはアタシの隣で驚愕してるけど、驚く暇があるなら手を動かせ。

 首筋を覆っていた髪がなくなったせいか、妙にスースーして寒いな。

 

「ふぅ……こんなもんだろ」

「……せっかく準備したのに」

 

 と、机に置いてある散髪道具を見てションボリするファビア。

 

「いいんだよこれで。心機一転の証だからな」

 

 こういうのは気を遣うようにチマチマと切るのではなく、バッサリと切ってナンボだ。

 手鏡で髪型がおかしくなっていないか確認し、首回りに巻いていた新聞紙を外す。

 

 

 ――これでアタシの不良道は原点回帰した。つまり新たな始まりでもあるわけだ。

 

 

「おいファビア」

「……?」

 

 可愛らしくきょとんとしているファビアに右手を差し出す。

 いい機会だからパートナー的存在も作っておこうと思う。万が一裏切った場合は遠慮なくぶっ殺せばいいだけだし。

 アタシは口元を軽く歪ませ、彼女の目をしっかりと見つめながら一言。

 

「改めて、()()()()()

「…………うんっ!」

 

 ようやく差し出された右手の意味を理解したのか、ファビアは快く握手してくれた。その顔には満面の笑みが浮かんでいる。

 女子とはいえ、小さくて柔らかい手だな。アタシのそれとは大違いだ。

 ファビアは握手している手を放すと顔を俯かせ、少しすると顔を上げて口を開いた。

 

「わ、私のことはその……く、クロって呼んでほしい……!」

 

 そう言った彼女は恐ろしく真剣な顔つきでアタシを見つめているが、顔は赤面している。

 まあ、それくらいなら別にいいかな。ぶっちゃけもう経験済みだし。

 

「んじゃあ……クロ。これでいいか?」

「…………!!(コクコク)」

 

 そこは返事しないのね。無邪気に目を輝かせてるから嬉しいってのはわかるけどさ。

 こうしてアタシとファビア――いや、クロの間に『付かず離れずの関係』が生まれたのだった。パートナー的存在とは言ったが、それや友達とはまた違う微妙な関係だ。友達には近いがな。

 さーて、そんな記念に一服でもしますかぁ。ついでにビールも飲もう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいねーちゃん」

「こっちこいよコラ」

 

 原点回帰した二日後。たまには外で昼飯を食おうと街へ繰り出したら、建物の隅っこにある街灯のそばで座り込んでいる二人のチンピラに呼び止められた。

 日中ということもあり、街中は人で溢れ返っているがこの辺りにはそんなにいない。

 ……よし、やっちゃいますか。絡んできたのはコイツらの方だし。

 チンピラの指示通り彼らの元へ歩み寄って耳にピアスをしている方の男を比較的軽めに蹴り飛ばし、片手で無理やり起こしてから一発殴り、街灯へ三回ほど顔面から叩きつけてダウンさせた。

 

「ひっ……!?」

 

 続いてこっそり逃げようとしていた茶髪の男を捕まえ、顔面に膝蹴りを二発入れてからピアスの男と同様、彼を街灯へ叩きつけた。

 茶髪の顔面から鈍い音が聞こえ、街灯からは金属音が響き渡る。

 当然そんなことにはお構い無くもう一度茶髪を街灯へ思いっきり叩きつけ、最後に倒れたところを踏みつけて完全に沈めた。

 

「気安く話しかけんじゃねえよゴラ」

 

 顔面からだらしなく血を流し、気絶しているチンピラ共に軽く忠告してさっさと歩みを進める。

 全く、こうしてるだけで三分も時間を食っちまったじゃねえかコノヤロー。

 それから数分後、アタシはケーキ屋らしき店の前で立ち止まった。

 

「……さすがにケーキはねえな」

 

 ないない。ケーキはおやつだ。それを昼飯として食うなんて……ちょっとないかな。

 止めていた足を動かそうとした瞬間、その店から見覚えのあるクソガキが出てきた。

 

「――サツキ?」

 

 クロだった。両手にケーキが入っているであろう袋を持ち、口元にほんの少しだけ生クリームがついている。可愛い奴め。

 

「おう、アタシだ。とりあえず動くな」

 

 両手が塞がっているクロに代わり、口元の生クリームを拭き取る。

 舐め取ったりするとでも思ったか? お生憎様、アタシにその気はない。

 

「あ、ありがとう……」

 

 頬をほんのりと赤く染め、目を泳がせながらもちゃんとお礼は言うクロ。

 ちょっとだけ微笑ましく思い、タバコとオイルライターを取り出す。

 

「なあクロ。この辺に安くてイチオシの飯屋はないか?」

「それなら良い場所がある。ついてきて」

 

 お安いご用と言わんばかりに道案内をしてくれるらしい。良かった。今回は飯にありつけそうだ。ここ三日、まともに食べてなかったからな。

 そのイチオシの店へ行く途中、クロと一緒にいたせいか四回もナンパにあったのだった。全員ブチのめしたけどね。

 

 ムカつく奴はぶん殴り、どんなに責められても頭は絶対に下げない。

 幼い頃から今に至るまで、何があってもこの姿勢を貫いた。魔法と出会ってからもそれは変わらず、ミッドチルダに来てからも同様である。

 それが災いして闇討ちやリンチに何度も遭い、果てには強姦されかけたこともある。もちろん屈することは一度もなかった。

 

 

 何故ならアタシ――緒方サツキはヤンキーだからだ。

 

 

 

 




 分岐点は本編7話の終盤です。

 本当はさらにリメイクして書こうと思ったのですが、何度もリメイクというのはどうかと思ったのでこういう形に納めました。
 ちなみにIFルートなので本編よりもギャグは少なめでいきます。


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