死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第3話「迅速果断」

「……おいクロ」

「……何?」

「――金がねえ」

 

 エアコンを買ってから二日後。家賃以外の金を払えなかったせいでエアコンはおろか、電気や水道が止められ使えなくなっていた。今はクロと一緒に歓楽街の道隅で座り込んでいる。

 さて、どうしたものか。最近は稼げるバイトがねえしなぁ……あるとしても水商売とかそういう類いのもんだ。()()調()()に関しては数日分の食費が精一杯だな。この時期じゃ。

 財布の中身を確認してみるも、そこには千円分のお札が一枚あるだけ。小銭すらない。ポイントカード? 一昨日来やがれ。

 

「……つまり飯を奢れと?」

「まだ朝だぞ」

 

 アタシに朝飯を二度も食えというのか。

 

「……そう言えば」

「? なんか秘策でもあんのか?」

「そんなものはない。昨日、ずっと家にいなかったけどどこで何してたの?」

「公園で寝てた」

 

 そうだそうだ。昨日はブラブラしすぎて疲れたから公園のベンチで寝たんだわ。

 野外で寝るのは何年ぶりだろうか。こういうケースは何度かあったからな。さすがにシャワーは浴びたぞ。今から一時間ほど前にクロの家で。

 じっと座っていても仕方がないので、求人やってそうな店を探そうと立ち上がったときだった。

 

「――あ、あいつよあいつ!」

 

 どこか聞き覚えのある声が聞こえてきたのは。

 何だと思ってアタシとクロが振り向いた先にいたのは、以前深夜の歓楽街でフルボッコにした女子のグループだった。……いや、前より数が多いな。もしかしてアイツらも“ヒュドラ”なのか?

 クロがアタシの後ろに隠れたのを確認し、その傷だらけの女共と対峙する。

 

「まだやられ足りねえのか」

「はぁ? そんなわけないでしょ?」

「ナメてるとマジで殺すわよ」

「はいはい、とりあえず落ち着きなさい。今回はやり合いに来たんじゃなくて、この街にあんたがいるって情報を耳にしたから通告しに来たのよ」

「通告だぁ?」

 

 どうやらマジでコイツらも“ヒュドラ”の連中っぽいな。しかもその言い方だともうアタシは標的にされてるってことか?

 後ろに隠れているクロの視線が痛い。まあ、あんだけ手は出すなって言ってたし当然か。

 傷跡が痛々しい黒の短髪は嫌な笑みを浮かべ、胸を張ってこう告げてきた。

 

 

「――“ヒュドラ”は動き出した。あんたがどこへ逃げようと必ず追いかけるわよ」

 

 

 そんなことだろうと思ったよ。ていうか、この手の通告って大体こんなもんだしな。

 アタシの服を掴んでいるクロの手に力が入り、震え出す。いやお前、その気になればこんな雑魚ども魔法やら呪術やらで何とかできるだろ。

 まだガキとはいえ、正統派魔女(トゥルーウィッチ)のクロがここまで怖がるんだ。少なくとも口だけの連中じゃないのは確かだ。

 

「おぉそっかそっか」

「……ナメてるでしょ? 死んでもぶっ!」

 

 いきなりししゃり出てきた青髪に頭突きを浴びせ、右の拳でぶん殴る。

 どのみち狙われてるんだから別に手を出しても問題はねえよな?

 数人ほど倒れた青髪の元へ駆け寄り、二人ほど彼女の前へ出てきた。

 

「大丈夫!?」

「くっ! 通告はしたからね!」

 

 小物臭い捨て台詞を吐くと、女共は気絶した青髪を抱えて走り去っていった。

 さてと……

 

「おい。そろそろ離れろ」

「…………」

 

 これは困った。クロが全然離れてくれない。このまま動こうにも服が伸びてしまうし動きづらい。どうしたものか。

 しっかし、まさか知らぬうちに“ヒュドラ”の連中をボコっていたとはね。悪い意味でなるようになっちまったわけだ。

 やむを得ずクロを無理やり引き剥がすことにした。そうでもしないと離れそうにないんで。

 

「離れろクソガキ……!」

「やだ……! 離れたくない……!」

 

 誰か助けてくれ。コイツ、まるでタコやイカみたいに張りついて離れる気配がない。

 

「アタシといたら巻き込まれるぞ……!」

「それでも、サツキのそばにいるのが一番安全だから……っ!」

「そもそもお前、狙われてねえだろ……!」

「サツキの次に狙われる……っ!」

 

 なんでアタシなんだよ。そこは警察か管理局にでも行けよ。十中八九そっちの方がどう考えても安全だろうが。

 そこまでしてアタシと一緒にいたいのか、クロは自分の使い魔であるプチデビルズを使役してアタシを妨害してきやがった。

 こんなことのためにわざわざ使い魔よこすか普通!? お前バカだろ!?

 

「あーもうっ! 邪魔だこんちくしょう!」

「ギターッ!?」

「ゲーッ!?」

 

 一旦クロの引き剥がしを中断し、プチデビルズを蹴散らすもすぐに復活された。

 それから数十分後、アタシの拳骨を受けたクロはようやく離れてくれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんで……“ヒュドラ”ってどんな連中なんだよ?」

 

 公園のベンチにて、アタシは一服しながらもう一度クロから“ヒュドラ”について教えてもらうことにした。

 歓楽街一つをシマにしているような奴らだ。何も知らずにいるのはさすがにあかん。

 クロは決心したのか、真剣な表情になってアタシと向き合った。

 

「“ヒュドラ”はこの歓楽街を支配している女子校生の集団。数十人程度なのにやりたい放題しているし、前にも言ったけどあっち側の人達も一目置いている」

「……それだけか?」

「うん。後は二人のリーダー格がいるって話ぐらいかな」

 

 へぇ。ソイツらはやれそうだな。その話が本当ならちょっとは楽しめるか?

 あっち側の連中と繋がっているのは大方お金絡みだろう。肉体関係にしては数が多いからな。

 これ以上は聞いても意味がなさそうなので、話題を変えることにする。

 

「ところでさ、お前は正統派魔女の末裔で記憶継承者だよな?」

「……それがどうしたの?」

「なんで聖王と覇王を恨んでるんだよ」

 

 コイツは古代ベルカに存在した魔女クロゼルグとやらの末裔らしく、ご先祖の記憶だけでなく恨みや憎しみまで引き継いでいる。

 

「――私を、私を見捨てたあの王達が許せないから。だから次に会ったときは呪ってやる」

 

 怒りの籠った声で静かにそう答えるクロ。金色の瞳には普段の彼女からは想像もできないほどの私怨が感じられる。

 私を、ねぇ。別にお前自身が見捨てられたわけじゃないだろうに……ややこしいことをしてくれるな、古代ベルカの連中は。魔女クロゼルグといい、エレミアといい、その聖王や覇王といい、ろくな奴がいなさそうだ。

 まあ、これはあくまでコイツの問題だからアタシには関係ねえな。

 それとクロは気づいていないが、さっきから後ろの方が騒がしい。そろそろか。

 

「――伏せろ」

「んっ!?」

 

 アタシは屈むと同時にクロの胸ぐらを掴み、無理やり屈ませる。

 すると一瞬前までアタシ達の頭があったその高さを、鉄パイプのようなものが風切り音と共に通過していく。

 急いで後ろを振り向くと、レディースの格好をした女子校生が五人ほど武器を持って構えていた。さっき通告してきたと思ったらもう仕掛けてきたか。まさに迅速果断ってやつだな。

 

「意外と近くにいたのね。驚きだわ」

「ほう、わざわざ命を捨てに来たか」

「奪いに来たのよ。あんたの命をね!」

 

 その直後、後頭部に鈍い音が響き渡る。なんか殴打されたっぽい。

 クロの方を見てみると、三人の女と箒に乗ったクロが魔法戦を繰り広げていた。……さすがに管理局が動くだろこれ。

 できるだけ早急に済ませるため、まず手始めにアタシの後頭部を殴った女を殴り飛ばす。次にセミロングの女が放った蹴りを脇腹に食らうもすぐに肘打ちをかまし、不意討ちを仕掛けた張本人であろうツインテールの女に前蹴りを入れる。

 

「チッ……!?」

 

 いきなり後ろへ引っ張られるような感覚を覚え、右手に視線を向けるとバインドが掛けられていた。すぐさま振りほどこうとするも顔面に拳を打ち込まれ、懐へ蹴りをブチ込まれてしまう。

 バインドを掛けられるのは今回が初めてじゃない。けど、右手にだけ掛けられたのは初めてだ。無駄に細かい技術を使いやがる。

 かといって不利になったわけでもない。さっさと雑魚共をぶっ潰すだけだ。

 

「オラァッ!」

「ぐぇっ!?」

 

 右手に掛けられたバインドをそのまま放置し、起き上がったセミロングの顎を蹴飛ばす。

 続いて背後から裸締めを仕掛けてきた短髪へ頭突きを食らわせ、懐へ後ろ蹴りを入れて沈める。

 クロの方も少し傷ついてはいたが、どうにか敵を退けていた。……頃合いか。

 

「よいしょ」

 

 右手のバインドを軽く振りほどき、脚を震わせながらも立ち上がったツインテールの女と向き合う。とりあえずコイツで最後だな。

 

「あたしを倒したところで、何も変わらないわ……! あんたは一生追われる身よ……!」

「ああそうかい。まっ、どっちにしろムカつくからブチのめすだけだ!」

「おぶっ!」

 

 ツインテールの女を殴り飛ばし、口元を拭きながらクロと合流する。

 一生追われるのなら、こっちから出向いてぶっ潰してやるよ。

 

「……終わった?」

「見りゃわかんだろ」

 

 と言って周りを見渡す。そこにあるのは屍となった女共だけだ。

 これからどうしようか……いやまあ、やることは決まってるんだがな。

 クロの小さな頭を軽く撫で、口に溜まった痰を吐き出す。

 

「“ヒュドラ”の拠点はどこだ?」

「……歓楽街のどこか。それしかわからない」

「この役立たずが」

「……私は知恵袋じゃない。だからサツキの知りたいことに何でも答えられるわけじゃないよ」

 

 そりゃそうか。変なものを継承してるとはいえ、お前も人間だからなぁ。

 明日は休もう。さすがの連中も毎日襲ってくることはないだろうし。

 メンソール味のタバコを吸いながら、アタシは空を見上げるのだった。

 

 

 

 

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