死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第12話「黒ツヤ降臨!」

「さ、サッちゃん!」

「なんだよ? 朝から騒々しい」

「ゴキ――Gが出たんよぉ!!」

「あっそ」

「ちょ、スルー!? サッちゃんなんも思わへ……!?」

「お、黒ツヤ」

「ガイスト――」

「危なーい!」

「ぐふぅ!?」

「危なかったな、黒ツ――ジーク」

「待って。(ウチ)をアレと同列に扱うのだけはやめてほしいんよ。あと蹴飛ばす必要あったん!?」

「いや、マジで(我が家が)危なかったじゃねえか」

「今小声で我が家がって言わへんかった?」

「気のせいだ。ほら、ホイホイ買ってこい」

「お金は……?」

「自腹に決まってんだろうが」

「サッちゃんのアホー!」

 

 

 

 

 

 

 

「あわ……あわ……あわ……!」

「これはさすがに多すぎだろ」

 

 イツキと再会してから二日後のこと。ジークが出たやらなんやらうるさかったのでホイホイを買ってきたのだが――

 

「――うじゃうじゃいるな」

「う、(ウチ)はなんも見てへん……! 見てへんよ……!」

 

 もはや手遅れ寸前の状況に陥っていた。黒ツヤが大きさ問わず大量発生していたのだ。おかしい、今までこんなことはなかったのに。

 しかも季節的にはまだ早すぎる。マジでどうしてこうなった。

 ちなみにジークはアタシの後ろでブルブルと震えている。携帯のバイブかってんだお前は。

 

「や、やっぱりガイストで」

「天誅!(ブスッ)」

「あ――!! 目が、目がぁあああっ!!」

 

 アホなことを抜かしたジークに目潰しを食らわせる。前にそれやって家が半壊しかけたのを忘れたとは言わせない。

 

「それよりも原因を調べ――あ、お前か」

「待って。いくら(ウチ)が居候みたいやからって決めつけるのはよくないと思うんよ」

 

 そんなことはない。どういうわけかお前がいると黒ツヤの発生頻度も増える。

 この時点で原因は明らかにテメエだろうが。それ以外に何かあるなら教えてくれ。

 

「ところでジーク。お前、食べ物を溢したりは?」

「し、してへんけど……あ」

「なんだ?」

「お菓子ならよく溢しとったあだぁああああああっ!!」

「やっぱりテメエが原因じゃねえか!」

「とりあえずアイアンクローをやめてほしいんやけど!?」

 

 これでも掃除はしているからな。しかし、コイツならアタシの目の届かないところでお菓子を食べ溢していても不思議じゃない。

 実はコイツ、黒ツヤが擬人化した姿ではないのだろうか。お菓子を溢すことで仲間を呼び寄せる。ほら、ぴったりだろうが。

 

「次からは念入りに掃除するかな」

「それよりも(ウチ)をアイアンクローから解放するのが先決うぅうううううっ!?」

「ま、その通りだな。このままじゃなんもできねえし」

「なんで強めたん!?」

「許せ。なんとなくムカついた」

 

 なんかジークがうるさいので仕方なく解放する。確かに邪魔だ。

 

「久々に使ったな、アイアンクロー」

「使わんといてほしかった……」

「それはお前の努力次第だ」

 

 アタシだってできることなら使いたくな――いや、今すぐにでも使いまくりたい。

 だってお前へのアイアンクローが一番馴染むのだから。

 

(「サッちゃんのおたんこなす……」)

 

 聞こえないように小声で言っても無駄だ。あとでシバく。

 

「とにかく、コイツらを駆除しないことには始まらないぞ」

(ウチ)、用事を思い出したからこれで――」

「手伝ってくれたらおでんを作ってやる」

「――任せてサッちゃん! やれることはやったる!」

 

 こういうときに限ってチョロい。

 

 

 

 

 

 

 

「サッちゃん! やっぱり(ウチ)には無理や!」

「今さらそれはねえだろ」

「そ、そやけど――」

 

 

 

 

「――そやけど(ウチ)が台所担当なんて無理にもほどがあるやろ!?」

 

 あれから相談した結果、ジークには台所の黒ツヤ駆除を担当してもらうことになった。

 お掃除のときに着用する割烹着(かっぽうぎ)と三角巾がなんともお似合いである。なんで着てるのかは知らんけど。

 

「大丈夫、アタシはお前を信じている。だから行ってこい」

「ほ、ほんま? ほんまに(ウチ)でええんか?」

「ああ。それに殺虫スプレーもあるじゃないか」

「あ……ほ、ほんなら行ってくるわ……!」

「あいよ」

 

 やっと行ってくれたよ。まあ、ここはジークに任せるとしよう。アタシにはアタシの仕事がある。

 

「まずはこのバ○サンを設置して……」

〈待ってください。それだとジークさんはどうなるんですか?〉

「知らん」

 

 実は黒ツヤごと駆除できればいいな~とか思っていたりする。

 初見だから効果はあるだろう。……人間がバ○サンで死ぬとかシュールだな。

 

「アイツはアイツでなんとかするだろ」

〈ところでそのバ○サン、どこにあったんですか?〉

「洗面所の下に閉まってあった」

〈ホイホイの意味ないじゃないですか……〉

 

 そうでもない。バ○サンで殺しきれなかった個体を駆逐できるという点ではホイホイも使える。

 いざというときはジークをバットにすればいい。役に立つかは知らんけど。

 

〈ならどうして最初から使わなかったのですか?〉

「忘れてた」

〈そんなことだろうと思いましたよ!〉

 

 仕方ないだろ。忘れてたんだから。

 

 

『ギャ――!!』

 

 

〈マスター。今、断末魔のようなものが聞こえたのですが……〉

「心配するな。全て計算通りだから」

「計算通りってどーゆうことや!?」

「前言撤回。これは想定外だ」

 

 どうやら生き残ったらしい。これは褒めた方がいいのかな?

 

(ウチ)を信じてるって言うたやん!」

「うん、信じてはいたさ」

「そ、そんならなんで……」

「できる方に信じたわけじゃない!!」

「キメ顔で言うたよこの人!?」

 

 黒ツヤを見ただけでガイストをぶっ放すような奴にちゃんとした黒ツヤ駆除ができるわけがない。

 それならできない方に信じるのが必然というものだろう。

 

「う~……」

 

 なぜだろう。涙目で唸っているコイツは可愛く見える。しかも今は割烹着と三角巾を着ていることもあってさらに可愛さが増したようにも思える。

 もしアタシが男だったら内心悶えていたに違いない。でも残念、アタシは女だ。

 

〈マスター。バ○サンはどうなされるのですか?〉

「トドメに使う」

〈なるほど〉

「バ○サンってなんや……?」

〈「あ」〉

 

 しまった。コイツはバ○サンの存在を知らなかったんだ。どうやって説明するか……。

 仕方がない。ありのままの答えを出させてもらおう。

 

「これはだなジーク。トドメの一撃に使うもんなんだよ」

「そうなん?」

「そうだ」

 

 あっさりと信じてくれた。素直な子は嫌いじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

「や、やっと終わったで……」

「お疲れさん。そんじゃ次はリビングよろしく」

 

 まるで地獄の底から生還したかのような状態でジークが台所から戻ってきた。

 キサマに休息などない。だが何も壊さなかったのは褒めてやろう……すまん、やっぱ褒めない。

 

「まだやるん!?」

「これを見ろ」

 

 

 ガチャッ(風呂場のドアを開ける音)

 

 カサカサ(黒ツヤが蠢く音)

 

 バタンッ(風呂場のドアを閉める音)

 

 

「アタシはこっちもやらなきゃならんのだが……お前がやるか?」

「う、ううん。リビングでええわ……」

「良い子だ」

「あ……」

 

 励ましの意味を込めてジークの頭を撫でてやる。

 

「そんじゃあと一息、頑張るか」

「そうやね!」

「ど、どった? 急に元気になりやがって」

「サッちゃん! (ウチ)、今なら頑張れそうな気がするんよっ!」

 

 なんだ? 何がコイツをここまで奮い立たせたんだ?

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、こんなもんかな」

〈見事に丸一日は使ってしまいましたね〉

 

 やっとほとんどの黒ツヤを葬ることができた。時間と引き換えにな。

 丸一日も黒ツヤ駆除に使ったのは今回が初めてかもしれない。

 

「サッちゃ~ん。こっちも退治できたで!」

 

 どうやらリビングの方も終わったらしい。残る心配は――

 

「――なんも壊してないよな?」

「だ、大丈夫や」

 

 そうか。なら後で確認するとしよう。

 

「まさか(ウチ)がGを普通に退治するなんて夢にも見んかったよ……」

 

 確かにな。いつもどんだけアタシが体を張っているか……わかっているのか? コイツは。

 体を張る度に命の危険を感じているからな。屈辱ではあるけど。

 

「そろそろ脱げよ、その服」

「えー……結構着心地よかったんやけど……」

 

 割烹着で着心地がいいとか言っている奴は初めて見たぞ。だがそれでは困る。

 このとき、割烹着姿のヴィクターを想像したのは内緒である。

 

「それアタシのだぞ。どっから引っ張り出してきたのかは知らねえけど」

「ん? クローゼットに入っとったで?」

「…………」

 

 今思い出した。そのまま放棄してたんだっけ。

 

「そんなことよりもサッちゃん、ご飯はまだなん?」

「お前の頭ん中マジで食うことしかねーのか」

 

 乞食の名は伊達じゃないか。もういっそ乞食の世界チャンピオンでよくねえか?

 乞食の世界チャンピオン……響き的には悪くねえな。実際乞食だし。

 

「ご飯の前に、まずはトドメを刺すことが先決だろ?」

(ウチ)やられるん!?」

「待て。なんでアタシがお前を殺らねばならんのだ」

「だってサッちゃん、(ウチ)のこと嫌いやろ……?」

「ああ、大嫌いだ」

 

 ここで好きとか愛してるとか言ったら今のコイツは間違いなく盛大な勘違いをしてしまうだろう。

 もし言ってしまったときのことを思うと寒気がする。あと貞操の危機も感じる。

 

「……んん? もしかしてサッちゃん、ツンデレなん?」

「お前は何を言っているんだ」

 

 わかってはいたが、面と向かって言われると思わずこの言葉が出てしまう。条件反射だな。

 

「え、違うん……?」

「違うわ」

「なんでや!?」

「お前はアタシに何を求めてるんだ!?」

「な、何をってそんなん……」

「言えないようなことか?」

〈マスターも隅に置けませんね〉

「やめろラト。このタイミングでそのセリフは寒気がする」

 

 わりとマジで何を求めてるんだコイツは。それとだな、その言い方だとアタシがラノベ主人公みたいじゃねえか。

 まあ、コントはこの辺にしてさっさと仕上げを済ませちまうか。

 

「とにかくバ○サンを起動しないとな」

「ほんまにそれで終わるん?」

「無理でもホイホイがある」

「このホイホイは伏線やったんか……」

 

 ついさっき思い付いたことだがな。それじゃあバ○サンを起動して……

 

「ジークはリビングで待機しといてくれ」

「そんだけでええんか?」

「大丈夫、問題はない。アタシはちょっと散歩してくるわ」

「わかった~」

 

 計画通り。

 

〈マスター。後が怖いのですが……〉

「大丈夫だろ」

 

 

『な、なんやこれ――――!?』

 

 

 良い子の皆は真似するなよ? 今断末魔をあげたアホミ――ジークみたいになるから。

 

 

 

 

 

 

 

「サッちゃんの嘘つき! ホラ吹き!」

「騙される方が悪いのだよ」

 

 帰ってみれば案の定、ジークは蒸せてやがった。しかしまあ――

 

「――よく生きてたな」

(ウチ)を殺す気やったんか!?」

 

 当たり前だ。でなきゃお前をリビングに待機させたりはしない。

 結果だけ言うなら当然のごとく失敗に終わってしまった。残念だよ。

 

「そんなに嫌われてるんか……」

「それ以上だ」

 

 だが生きてたのなら仕方がない。ご褒美をやらねばな。

 

「ジーク。とりあえずご飯作るから座って待ってろ」

「ご飯? ご飯やな!?」

「落ち着け」

 

 ご飯という単語を聞いただけで元気になるとは思わなかった。

 まあ、一応頑張ってはくれたし。今回は許してやるか。

 

「ほらよジーク。約束のおでんだ」

♪▲◎★□×▽◇(ま、待ちに待ったおでんや!)

「マジで落ち着け。ここは異世界じゃない」

 

 気持ちはなんとなくわかるけどな。

 

「んー! サッちゃんのおでんは最高や!」

「よせやい、照れるじゃねえか」

 

 仕事をしてから食べる料理がここまで美味しく感じるとは思わなかった。悪くない。

 この日を黒ツヤ大駆除記念日とでも名付けようか。読みにくいけど。

 

 

 

 

 

 

 

「平和やね~」

「そだな」

 

 翌日。アタシとジークはだらけていた。だって疲れたし。

 あれからジークが怖いから一緒に寝てほしいって大変だったのだ。蹴り出したけど。

 

 

 カサカサ(黒ツヤが徘徊する音)

 

 

「あ、黒ツヤ」

 

 やはり生き残りがいたか。それにしてもどこに潜んでいたんだ?

 

「ど、どこや!?」

「ほらそこ」

「~~~!!」

 

 ああ……またこの流れか。慣れてしまった自分が怖い。

 許せ――いや、許さなくてもいい。自業自得だジークちゃんよ。

 

「ガイスト――あれ? なんや急に目の前が真っ暗になったんやけど……」

「危機一髪だな」

「って痛ぁっ! 目ぇむっちゃ痛いっ! サッちゃんなにしたん!? (ウチ)まだなんもしてへんよ!?」

「いや、現在進行形でやろうとしてたよな?」

 

 しかもド派手なのを。

 

「まあいいや。ジーク、動くなよ?」

「動こうにも目が痛くてなんも見えへんよ……!」

 

 それでいいんだ。今からやることを見せたらお前は失神する可能性があるからな。

 ……いっそここで失神させてからヴィクターに引き渡すか?

 

「……そこだっ!」

 

 

 ガシッ(アタシが黒ツヤを掴む音)

 

 グシャッ(掴んだ黒ツヤを握り潰す音)

 

 

「存在の抹消、完了」

 

 今回の元凶は滅びた。もうガイストが使われる心配はない。

 

「さ、サッちゃん? い、今変な音がしたんやけど……」

「気のせいだ」

 

 久々にやってみたのだが……やっぱり次からは普通に叩こう。手を洗うのが大変だ。

 さてさて、これでホントに黒ツヤ駆除は終わったし、何をしようかな~?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで(ウチ)の目はいつになったら見えるようになるん!?」

 

 しまった。力を入れすぎたかもしれない。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 54

 実はコイツ、黒ツヤが擬人化した姿ではないのだろうか。お菓子を溢すことで仲間を呼び寄せる。ほら、ぴったりだろうが。

「……待てよ。ってことはジークってベルカ王族? の末裔じゃなくて火星に放たれた黒ツヤの進化形ではないだろうか? 外見といい人間臭さと――」
「サッちゃんのバカ! アホ! おたんこなあぎゃああああああっ!!」
「――人間臭さといい、より人間らしさを追求したという見方をすれば納得がいく」

 なんか後ろでジークが叫びながら飛び交う数匹の黒ツヤから逃げ惑っているがアタシには関係ない。


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