死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第20話「勝負の行方」

「とりあえず――落ち着きぃ!」

「ブチ殺すぞテメエッ!?」

 

 アタシの右拳とジークの鉄腕を装着した右拳が互いの頬に突き刺さり、その衝撃で後退してしまうもよろけた彼女の懐へ前蹴りを入れる。

 続いて右のミドルキックを放ち、ジークが右脚を受け止めた瞬間に空いていた左脚で顔面を蹴りつけるも右腕でガードされてしまう。

 しかし体勢が変わる前に身体を横回転させ、今度は右側から左の回転蹴りをブチかました。

 

「っ……!?」

「あはは……っ!」

 

 倒れ込んだジークの髪を乱暴に掴み、そのまま地面へ顔面から叩きつける。

 二、三回叩きつけてからジークが土で汚れた顔を痛そうに歪めていることを確認し、血を吐くまで何度も何度も手加減なしで叩きつけていく。

 そして地面に赤い液体がポタポタと落ち始めたところで彼女を立ち上げらせ、ラリアット気味に左の拳打を振るうも片手で受け止められた。

 額と口元から血を流しているジークだが、その澄んだ瞳にはまだ生気が感じられる。ついでに後ろへ目をやると、受け止められた左拳の拳圧によって地面が削り取られていた。

 

「こ、ここまでやることあらへんやろ……!?」

 

 そんなのアタシの知ったことじゃねえ。ムカつく奴は徹底的にブチのめす。相手が強い奴だろうと弱い奴だろうと、やることは同じだ。

 ギチギチと握り込まれ、鼻っ面目掛けてジークが打ち出した左拳を一歩も下がることなく受けきり、アタシが振り上げた左の拳を防ごうと彼女がすかさず構えた腕を右腕で掴み、その隙に左拳を腹部へ叩き込む。

 が、牽制気味に叩き込んだせいで威力が半減していたようで、これを難なく耐えたジークの右アッパーが下顎に炸裂してしまう。

 少し仰け反りながら後退するも、すぐに体勢を整えてジークを睨みつける。あと口元の血を舐め取り、唾と一緒に吐き捨てた。

 

「ぶっ殺してやるゴラァ……!」

 

 地面を蹴って跳び上がり、渾身の蹴撃を顔面にぶつける。見せ技のつもりだったがどうも予想以上の威力だったらしく、この蹴りをモロに食らったジークは後退しながらよろめいている。

 着地してすぐに間合いを詰め、跳び膝蹴りを繰り出すも屈んで避けられてしまい、伸びていた左脚を掴まれ後頭部から投げ落とされた。

 ゴンッという音と共に鈍い痛みを感じ、思わず顔をしかめる。コンクリートに叩きつけられたときよりはマシだが、痛いことに変わりはない。

 関節技を極めようと迫ってきたジークを蹴り飛ばし、彼女が後退した一瞬の間に立ち上がって助走をつけ、走りながらラグビーのタックル並みに低い姿勢でジークに頭をぶつけたがそのまま飲み込まれるように受け止められ、絞め技のフロントチョークへ持ち込まれてしまう。

 

「殺す殺す物騒やねんこのアホ……!」

 

 これは厄介だな。意識を遮断する絞め技が完全な形で決まっている。下手に抜け出そうものなら首を痛めるし、折れる可能性だって拒めない。

 少しずつ、本当に少しずつ意識が薄れていく。けど走馬灯が見えない辺り、ちゃんとした格闘技の一つであることがよくわかる。

 とはいえこのままやられるのは癪なので逆エビ反りの要領で身体を曲げ、右脚をジークの脳天にぶつけて腕の絞めが緩んだ隙にフロントチョークから脱出し、怯んだジークを跳び後ろ蹴りで思いっきり突き飛ばした。

 

「とっととくたばれアホが!」

「そのセリフ、そのまま返したる!」

 

 顔面にジークの右拳が突き刺さるもすぐに同じ右拳で殴り返し、流れるような動きで左の後ろ回し蹴りをブチ込む。

 次に左拳を打ち出すも受け止められ、後ろで地面が削り取られていることなどお構いなく右の拳を突き出すジーク。はっ、もう慣れたってか。

 すぐさま拳を受け止めようと空いていた右手を構えるが、ジークは突き出した拳を途中で止めるとそれを銃の形に変え、アタシの眉間目掛けて人差し指から射撃魔法を撃ってきた。

 対処法がいくらでもあるのでどうしようか考えていたが、行動に移すよりも先に魔力弾が眉間に直撃してしまい、意識が翔びそうになるも歯を食いしばって堪える。

 

「んなろっ!」

 

 少し昏倒していた意識が安定したところでジークに頭突きをかまし、前蹴りを入れて彼女との距離を開ける。

 そして開けた距離を詰めるべく翔けていき、ジークがカウンターであろう左の拳を突き出してきた瞬間に急停止。まっすぐ伸ばされた左腕を抱え込むように掴み、

 

「あが……ぁ……!?」

 

 左肩の関節を強引に外してからテンポよく右拳で殴り飛ばす。

 しかし、ジークも負けてないと言わんばかりに関節が外れた左腕をだらんとさせつつ、右の手刀をアタシの左肩へ叩き込んできた。

 激痛と共に左腕が動かなくなり、手刀を叩き込まれた衝撃で肩の関節が外れたのだと悟る。

 脱臼の痛みで涙目になっているジークをよそに、何度も脱臼を経験しているアタシはさも当たり前のように外れた左肩の関節をハメ直した。

 

「どうだ? いい経験にはなっただろう?」

「ま、まだや! まだ終わってへんよ……!」

 

 お前のためにあえて口には出さないでおくが、そのセリフはフラグだぞ。

 まあ何気に絶好のチャンスなので決めさせてもらうよ。ゆっくりと痛そうに左肩を押さえているジークへ歩み寄り、左の拳を――

 

 

「百式『神雷』!」

 

 

 ――振り上げた瞬間、聞き覚えのある声が響き渡り、膨大な魔力が変換されたものであろう雷がすぐ目の前で放電された。 

 ダメージのせいで身体が重くなっていることもあり避けようにも避けられず、なす術もなく迫り来る雷に飲み込まれ、視界が黄色ではなく青白に染まってしまう。これに関してはジークも同じだったようで、左肩を押さえた状態のまま無抵抗で飲み込まれていた。その際、裏切り者を見るような目で雷が発生した位置を睨みつけていたな。

 そんな状態でも意識だけは遮断させまいと必死に歯を食いしばって堪えていると、青白一色だった視界に拳圧のせいですっかり変形してしまった平原が入ってきた。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 視界から青白が完全に消えたことで放電が終わったことに気づくも、ホッとして気を失わないよう全身から感じる痺れに耐える。

 雷が発生した位置へ目をやると、重装備の甲冑みたいなバリアジャケットを身に纏った金髪少女が立っていた。

 緑の瞳にどこぞのおっぱい剣士並みのナイスバディ。加えて全体的な容姿が少女というにはかなり大人びている。お姉さんと言ってもいい。

 その少女――ヴィクトーリア・ダールグリュンは険しい表情で口を開いた。

 

「喧嘩両成敗ですわ!」

 

 今ダジャレやギャグが滑った際に感じる寒気と同じものを感じたのは気のせいだと思いたい。

 アタシが言い返すよりも先に、膝をつきながらも意識を保っていたジークが抗議した。

 

「ヴィクター……邪魔せんといてや!」

「今回ばかりはジークの言う通りだ。邪魔すんじゃねえよ」

「ならあなたたち、周りを見てみなさい」

 

 言われた通りに周りを見渡してみるも、目に入ったのは変形した平原だけだ。

 ……ああ、そういうことか。ヴィクターが何を言いたいのかは何となくわかった。ジークは首を傾げる辺りわかっているかどうか怪しいが。

 少しずつジークの元へ歩み寄り、警戒するかのように戦斧型のアームドデバイスを構えるヴィクターへ視線を向ける。

 

「地形が少し変わってなくもないな」

「思いっきり変わってますわよ!! どうしてこんなになるまで殴り合ったのですか!?」

「コイツがムカつくからだ」

「サッちゃんを(ウチ)のモノにするためやっ!」

「……ジーク。話の方向がおかしくなるからあなたはちょっと黙ってて」

「ヴィクターのドアホーー!!」

「グッハァッッ!!」

 

 大好きなジークに罵倒されたのがよほどショックだったのか、白目で吐血するヴィクター。夫婦漫才はよそでやれ。

 

「大丈夫か?」

「さ、サッちゃん……」

 

 とりあえず膝をついているジークを起こそうと手を差し伸べる。

 ジークは驚愕のあまり固まっていたが、頬を引っ張ってこれが夢ではないことを確かめると、満面の笑みで差し伸べた手を掴んだ。

 ヴィクターですらアタシの行動に呆然とする中、アタシはジークが掴んだ手を引き、

 

「死ねオラァ!」

「ごぶぅっっ!?」

 

 空いていた右の拳でぶん殴った。許すとは一言も言ってねえんだよ。

 涙目ながらもどこか悟った表情で仰向けに倒れたジークのマウントを奪い、右、左と一発一発丁寧に拳を叩き込んでいく。

 その衝撃で地面にヒビが入り、少しとはいえ陥没しようとお構い無く殴り続ける。

 

「あっ! 痛っ! サッちゃっ……! 殺戮的な暴力はあか……っ!」

「やめなさいサツキ! それ以上やるとエレミアの神髄が発動してしまいますわ!」

「知るかクソッタレ! 何が出ようと全部ブチのめせば同じことだろうがァ!」

「その発想なんとかなりませんの!?」

 

 このあとひたすらジークを殴り続けたが、ヴィクターが背後から羽交い締めにしてきたせいで強制的に中断させられた。

 ちなみにクロはヴィクターの執事であるエドガーと共に、少し離れたところにある大きな木の下へ避難していた。アイツの存在、忘れてたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったくあなたたちは! 久しぶりに再会したかと思えばすぐに拳を振るい合うなんて……!」

「いやいや、アタシらは川で釣りをしていただけだって」

(ウチ)は山菜を採ってただけなんよ」

「だまらっしゃい!」

 

 アタシとジークは今、平原のど真ん中でヴィクターに叱られている。アタシは胡座を掻いているが、ジークの方は礼儀正しく正座である。

 クロは未だにジークを睨みつけており、エドガーは相変わらず落ち着いた姿勢を取っている。そういやエドガーが動揺したところ、見たことないな。常に静止してるし。

 ジークとの勝負は話し合った結果、ドローとなってしまった。あれもうアタシの勝ちで良いだろ……ふざけんなよクソが。

 

「次やったときは(ウチ)が勝つからな」

「上等だコノヤロー」

「二人とも私の話を聞いてますの!?」

 

 済まん。どうでもいいからこれっぽっちも聞いてなかったわ。

 ちなみにアタシが外したジークの関節はもうハメ直されている。やればできるじゃん。

 

「……次はハロウィンだ」

「わかった。ええ記念日になりそうや」

「聞・い・て・ま・す・の・?」

 

 それから数分ほど説教が続いたものの話が全然進まないということで平原を後にし、渋るクロの首根っこを掴みながら川へと戻って釣った魚を回収。道路に駐車されてあったヴィクターの車に乗せられたのだった。

 ……ヴィクターの家であるダールグリュン邸へ行く途中、ジークが車内でプチデビルズにボコボコにされていたのは内緒である。

 

 

 

 

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