死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第21話「あなたの進む道は」

「で、どうして殴り合いに発展したのですか? 自然まで巻き込んで」

「ジークが悪い」

 

 ダールグリュン邸に着くなりこれである。今度は地べたではなく椅子に座っているだけマシだが、せめてお菓子でも出してほしい。紅茶だけじゃ物足りないんだわ。

 ついさっきまで険悪だったジークとクロ、特にクロの方はかなり落ち着いたようで持参していたお菓子を貪るように食っている。

 アタシの返答に何か物申しでもあるのか、ジークは持っていたカップを置いて口を開く。

 

「サッちゃんと会ったせいで我慢ができんかったんよ」

「「「…………」」」

 

 発情期の獣かお前は。さすがのヴィクターも固まってんじゃねえか。クロなんかドン引きして静かにお前から距離を取ってるし。

 クロの上着ポケットに入れておいたタバコを取り出し、ゴロツキからパクった使い古しのライターで火をつける。

 

「サツキ……タバコはやめなさいと何度言えばわかるのかしら?」

「さあな」

 

 あまりにも聞き慣れた注意を軽く聞き流し、口から白い煙を吐く。

 周りから冷たいような、呆れたような、そんな感じの視線を向けられるが今さらなので気にならない。クロだけはいつも通りの視線だが。

 しかしジークはそれだけじゃ我慢できなかったようで、いつかのハリーみたいにタバコを取り上げようと迫ってきた。

 

「それは没収やごぺっ!?」

 

 この手のやつは逃げても無駄なのでぶん殴って鎮静化させることを心掛けている。なのでジークの顔面に拳を一発叩き込み、彼女が座っていた椅子へ掌底で押し返す。

 躓きながらも尻餅をつくように座り込んだが、勢いがありすぎたせいで後頭部から転倒。何故か左の親指を立てながら力尽きた。どこのサイバネティック生命体だよ。

 ヴィクターはそれを見て頭を抱え、彼女の後ろで待機していたエドガーは丁寧に倒れたジークと椅子を片付けていく。執事にまで物扱いされてんのかよアイツ。

 その光景を見たクロと周りを飛び回っているプチデビルズは心底呆れるようにため息をつき、どこか吹っ切れたような表情で一言。

 

「あんなのを恨んでいた私がバカだった」

 

 先祖から引き継いだエレミアに対する恨みがあっさりとなくなった瞬間だった。まだ覇王に対する恨みが残っているけどな。

 さっきからクロを舐め回すように見つめていたヴィクターだが、プチデビルズを見た途端に何か思い出したかのようにハッとした顔になった。

 

「あなた、魔女クロゼルグの……」

「うん、魔女の末裔」

「今気づいたのかよ」

 

 どうやら今に至るまでクロが古代ベルカに存在した魔女の末裔であることに全く気づいていなかったようだ。にしても知識豊富だな。普通なら何かのコスプレと勘違いするしてるはずなのに。

 クロも雷帝ダールグリュンに対してはそこまで恨みがないのか、ジークのときよりは比較的穏やかに肯定した。

 ……プチデビルズが屋敷中を飛び回って悪戯しまくっていることにはツッコまなくていいのだろうか。なんか割れた音もするんだけど。

 

「とりあえずジークがいなくなったところで本題に入りましょうか」

 

 愛しのジークがいなくなったかと思えば、試合でも控えているかのように真剣な表情になるヴィクター。てかお説教が本題じゃなかったのかよ。

 アタシとクロが首を傾げ、悪戯を終えたプチデビルズが戻ってくるとヴィクターは勢いよく立ち上がって力のこもった声でこう告げてきた。

 

「私と勝負しなさい」

 

 彼女の言葉にアタシは吸っていたタバコを携帯灰皿に押しつけながら目を丸くし、クロはご愁傷様と言わんばかりに小さく合掌し始めた。まさかコイツからケンカを売られるとはねぇ。

 ジークやハリーならまだわかるが、お嬢様のヴィクターがアタシのようなヤンキーに挑戦状を叩きつけてくるなんて想像がつかなかった。

 とはいえケンカを売られたことに変わりはないので、アタシの返事は言うまでもなくこれ一択だ。他の選択肢など存在しない。

 

「――上等だよ」

 

 ちょうどジークとのケンカを邪魔された分のフラストレーションを晴らしたかったしな。これはこれで手間が省けて助かるぜ。

 こっちの返答を聞いたヴィクターは予想通りといった感じで微笑む。……にしても、オツム使って何がしたいんだコイツは。

 このあと何事もなかったかのようにジークが戻ってきたが、アタシとヴィクターが模擬戦をすると聞くや否や羨ましそうに睨んできた。ヴィクターが懸念していたのはこれだったか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ魔女っ子。(ウチ)がお片付けされてる間に何があったんや?」

「…………ダールグリュンがサツキにケンカを売った。それだけだよ」

 

 屋敷の庭にて、アタシとヴィクターは正面から向き合う形で立っている。コイツとやり合うのも都市本戦以来だな。

 ……アタシが異常なまでの強さを得ていたことに気づいたのもコイツとの試合がきっかけだった。当時はそれが原因で憂鬱してたんだよな。今となっては懐かしいぜ。

 棒立ちのまま呑気にあくびをするアタシとは対照的に、重装備の騎士甲冑みたいなバリアジャケットを身に纏って戦斧型のアームドデバイスを構えるヴィクター。

 言うまでもないが、アタシはバリアジャケットを身に纏っていなければ得物もない。素の状態かつステゴロである。

 ちなみにジークとクロは離れたところで観戦している。――クロはジークからどんどん距離を取っているがな。

 

「テメエ何がしたいんだ?」

「どういう意味ですの?」

「いや何、お前がただの模擬戦を目的にアタシを選ぶなんざジークが正常に戻るくらいあり得ないことだからな。何かあるだろ?」

「さらっと(ウチ)を異常者扱いすんのやめてくれへん!?」

 

 事実だから仕方がない。

 

「そうね。まずどこから話せばいいのか迷うところだけど……」

 

 そう言って考え込んでしまうヴィクター。話の段取りぐらいまとめておけよ。こっちはさっさとお前をブチのめしたいんだよね。

 三分ほど経って言いたいことがまとまったのか、ヴィクターはジッとアタシの瞳を見つめながらゆっくりと口を開いた。

 

 

「あなたは一体どこへ進もうとしているのかしら?」

 

 

 凛とした声で発せられた純粋な疑問。それはアタシの脳を揺らし、一瞬とはいえ思考を停止させるには充分すぎるものだった。

 一体どこへ? あなた……アタシが? 進もうとしている?

 アタシなりに考えたところで今度は自ら思考を停止させる。答えは出た。でも即答する必要はない。まずはコイツをブチのめすことが先決だ。

 ある程度開いているヴィクターとの距離をゆっくりと詰めていき、彼女も察したのかジリジリと詰め寄ってくる。そして――

 

「――はぁっ!」

 

 戦いの火蓋は切られた。最初に動いたのは意外にもヴィクターだ。アタシも拳を構えたが、それよりも先に彼女の戦斧が振り下ろされた。

 アタシは迫り来る戦斧の刃を右の人差し指と中指で受け止め、握り込んだ左拳を懐へブチ込む。

 拳をブチ込んだ懐の鎧部分が骨の軋むような音と共にボロボロと削ぎ落ち、彼女の綺麗なおへそが露になった。しかも相当効いたのか膝をついている。やっぱり本気でなくてもこうなるのか。

 なかなか動かないヴィクターの頭を両手で掴み、膝蹴りを三発ほど入れて乱暴に顔面から地面へ投げるように叩きつけた。

 

「質問が目的なら最初に言えよ。わざわざ挑戦状まで突き付けて聞くか普通?」

「げほっ、ごほっ……あなたの場合、こうでもしないとまともに話を聞かないでしょう?」

 

 いや、それはアタシの気分で変わることだからケンカを売られても聞かないときは聞かないし、聞くときはちゃんと聞く。今回はたまたま後者になっただけだ。

 震えながらも立ち上がり、戦斧を構えるヴィクター。彼女から一歩だけ後退し、口内に溜まっていた唾を吐き捨てて首を鳴らす。

 跳び上がろうと脚に力を入れた瞬間、戦斧に電撃を纏わせ槍のような部分を使って鋭い突きを放ってきた。確か……瞬光、だっけか。

 右脚で柄の部分を蹴ることで突きの軌道をズラし、左の前蹴りを胸元へぶつける。蹴りつけた鎧部分に亀裂が生じ、今にもポロポロと削ぎ落ちそうな状態となった。

 

「つーかよ、こんなこと聞いてどうするつもりだよ?」

「っ……どうもしませんわ。けど、返答次第ではあなたの根性を叩き直してあげます」

「はっ――最初からそれが目的かクソヤロー」

 

 とりあえずイラついたので怒りに任せて鋭い蹴りを繰り出し、重装甲を纏った彼女の身体が浮き上がったところへ後ろ回し蹴りの要領で放った踵落としを右肩に叩き込んだ。

 肩の鎧部分が砕け散り、地面に叩きつけられるヴィクター。追い討ちを掛けるべく地面を蹴って跳び上がり、両脚で踏みつぶそうとするも戦斧で薙ぎ払うように迎撃してきたので咄嗟に戦斧の穂先を蹴って宙を舞い、華麗に着地する。

 そろそろ拳でスカッと殴り飛ばしてやるべく早歩きで間合いを詰めるも、電撃を纏った左手で顔面を鷲掴みにされてしまう。この野郎、後頭部から地面に叩きつけるつもりだな。

 もちろんこの程度で怯みはせず、電撃で感覚が麻痺する前に右手でヴィクターの左腕を握り潰す勢いで掴み、空いている左拳を後ろに引く。

 

「そういや、質問の答えがまだだったなァ?」

「ぐっ――!?」

 

 掴んだ左腕からメキメキと骨が悲鳴を上げる。顔面を掴む力が緩んだところで左腕を退かし、後ろに引いていた左拳で彼女を殴り飛ばした。

 放物線を描くように宙を舞い、地面に叩きつけられるヴィクター。腕が微かに動いているのを見る限り、意識はまだ残っているようだ。

 まあいいか。意識があるなら質問の答えをこの場で返すことができる。つくづくお前は手間が省けて助かるよ。

 

「アタシは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遠慮って言葉、知ってる?」

「何だ藪から棒に」

 

 ダールグリュン邸から帰宅している途中、タバコを吸っているとジト目のクロがいきなり話しかけてきた。何が気に入らないのだろうか。

 ジークとダウンしたヴィクターは万能執事ことエドガーに押しつけた。とっとと帰りたかったし、何よりジークと同じ空間にいるのはごめんだ。いろんな意味で。

 それにしても、今になって身体中が痺れてきたんだけど……これどうすればいいんだよ。静電気で頭がパーマになっちまうかもしんねえぞ。

 

「……もう少しマシな言い方があったと思うんだけど」

「ああ、そういうことか。あれでちょうどいいんだよ」

 

 こんな感じでアタシとクロは軽口を叩き合い、我が家を目指して歩いていく。結構距離があるから帰る頃には一日経っている可能性があるな。

 まあとりあえず、インターミドルはどうしようか。好敵手探しをやめた以上、出場目的が娯楽しか残っていない。もう出る必要はねえか……。

 それにアタシは心の芯までヤンキーだ。だからこそ――

 

 

 

 

 

 ――アタシはアタシのやりたいようにやる。邪魔する奴は誰であろうとブチのめす。それがアタシの進む道だ。

 

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 5

「サッちゃんと会ったせいで我慢ができんかったんよ」
「あなたは発情期の獣なの!? サツキが絡む度におかしくなるのはやめて!」
(ウチ)は至って正常やろ!? ヴィクターこそ、たまにやるヒステリックな言動をやめてほしいんよ!」
「ひ、ヒステ……!?」


「…………帰るぞ」
「…………うん」

 付き合ってらんねえよ。


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