死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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IF第四章「たった一つの思い出」
第27話「イタチごっこ」


「いくぞお前らぁ!」

『おぉおおおおおお!!』

「……上等だコノヤロー」

 

 都会に戻ってから一ヶ月後。アタシは休む暇もなく喧嘩三昧の日々を送っている。クロと共に都会へ帰ってくるや否や武器を持った何人ものゴロツキに絡まれ、ムカついたのでブチのめした。

 そこまではいつも通りだった。しかし次の日には別のゴロツキが十人ほど奇襲を掛けてきたのだ。もちろんこれもブチのめしたが……とまあ、こんな感じの日々を過ごして今に至る。

 言ってしまうとキリがない。こういうのは初めてミッドチルダの来たとき以来だ。ケンカは好きだが場所は選んでくれ。最近なんか武装したゴロツキの集団と校内でやり合ったから現在進行形で停学処分にされてるんだよ。

 ゴロツキ達が叫び声を上げた瞬間に翔けていき、まずは拳を振り上げた男を跳び膝蹴りで片付ける。次に右から鉄パイプを振るってきた奴を殴り倒し、すぐさま振り返って背後にいた男に左の拳を叩き込んだ。

 

「ちっ、このアマ――!」

 

 正面から殴りかかってきたピアスに前蹴りをぶつけ、左で構える男を蹴り飛ばし、茶髪男のタックルで壁に叩きつけられるも難なく受け止め、膝蹴りを入れて彼の身体を真横へ投げ捨てる。

 続いて小柄な男へハイキックを放とうとするも背後から羽交い絞めにされ、腹部を鉄パイプで殴打されてしまう。

 アタシはこれに余裕で耐えて殴ってきた奴の金的を蹴りつけ、アタシを羽交い絞めにしている男を壁にぶつけて引き剥がし、顔面を殴りつける。

 さらに鈍器のようなもので後頭部を殴られ少し体勢を崩すも持ちこたえ、ひねり蹴りで後ろの奴を仕留めてさっき投げ捨てた茶髪男が立ち上がった瞬間に首を掴み、壁に叩きつけて右の拳でひたすら殴っていく。

 

「が、ごふ……!」

 

 茶髪男が大量の血を吐いたところで殴るのをやめ、背後から振るわれた鉄パイプの盾にして鉄パイプを持つ紫髪の男を前回し蹴りで沈め、盾にした男をその場に捨てる。

 残るは……何人だ? まあ別に何人だろうと関係ないか。とっととブチのめして資金を調達したら我が家のベッドに入ろう。

 流れるような動きで左斜め後ろにいる男に裏拳をかまし、緑色の服を着た奴が振り下ろした鉄パイプを片手で受け止めて前蹴りを入れ、最後に仕留め損ねていた小柄な男の顔面へボディブローからのアッパーを同時に叩き込み、他に取りこぼしがいないか目で確認していく。

 動く気配がないのでもう終わったのかと思いきや、背後で一人、また一人と立ち上がっていた。ちょっと手ぇ抜きすぎたか……しょうがねえ、死ぬまで付き合ってやるか。

 

「オラァッ!」

「あがっ……!?」

 

 赤色の服を着た男へ振り返りざまにハイキックを繰り出し、後ろから肩を掴んできた奴には頭突きをお見舞いしてから右肘の連打を入れる。

 その隙に脇腹を蹴られるも意に介さず、蹴りつけた男の顔面へ鋭い蹴りを放ち、仰向けに倒れたところでマウントを奪って茶髪男同様、握り込んだ拳でひたすら殴っていく。

 殴って殴って殴りつけ、血反吐と共に抜けた歯を吐いてもお構いなく殴り続け、終いには顔面が血だらけになろうと殴りまくった。

 その途中で胸ぐらを掴み、残った左の拳でひたすら男の顔面を殴っていると、振り上げた左腕を誰かにしがみつくような感じで掴まれた。何だよいいところで……!

 

「ダメだよサツキ……! それ以上やると死んじゃうって……!」

「………………チッ」

 

 アタシの左腕を掴んだ張本人――魔女っ子のクロにそう言われるもやめる気はなかったが、遠くからサイレンの音が聞こえてきたので渋々ながらも胸ぐらを掴んでいた手を離す。

 殴り終えたところで男の状態を見てみると、顔面が凄惨なレベルで血だらけになっており、ピクリとも動かないから死んだのかと思えば、お腹が上下に動いているのでギリギリ生きていることがわかった。虫の息ってやつか。

 さらっと周りを見渡して全員ダウンしているのを確認し、資金を調達してから警邏隊が来る前に路地裏を立ち去った。

 途中で口内に溜まった唾を吐き、血で真っ赤になった左手を払ってビシャァと辺りに血が散るのを横目で視認する。結構な量だこと。

 

「……やりすぎだよ」

「あァ?」

 

 払いきれなかった左手の血を拭いていると、怒気を含んだ声でクロが話しかけてきた。なんでそんなに怒ってるんだお前。

 

「サツキは自分のスペックをもう一度考えて。人を殺すなんて容易にできるんだから」

 

 そう言うとクロは黙り込み、アタシから目を逸らす。ちょっとイラッときたので何か言い返そうと思ったが、どういうわけか言葉が出なかった。

 ていうか、自分のスペックをもう一度考えたところで何になるんだよ。そんなもんはアタシが嫌でも一番把握してるんだよ。

 気を紛らわすべくタバコを吸い、とりあえず考えることをやめる。やっぱ一人でいる方が気楽で良いわ。アタシにとっても、コイツにとっても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのさサツキ。オレぁ思うんだけどよ……」

「何がだ」

「最近お前、会う度に傷が増えてねーか?」

 

 翌日。停学期間真っ只中のアタシの元を訪ねてきたのは、腐れ縁ことハリー・トライベッカだ。わざわざ差し入れ持ってまでアタシん家に来るとは、暇してるんだねぇコイツも。

 今日はクロもいないし久々にゆっくりできると思ったら結局こうなるのね。クロといいお前といい、当たり前のように来てんじゃねえよ。

 アタシが校内での乱闘によって停学にされて以降、毎日のように誰かが訪ねてくる。筆頭はもちろんクロ、次にこのハリー、三日前にはとうとうあの乞食――ジークまで来やがった。

 身近にいるクロと同級生のハリーはともかく、現在進行形で放浪中のジークは明らかにこのタイミングを待っていた気がする。

 

「用が済んだら帰れ」

「今日は帰らねーぞ。お前がその傷について説明してくれるまではな」

 

 彼女のいう傷とはここ一ヶ月でアタシが顔に負わされた無数の掠り傷を差している。毎日ケンカしてると嫌でも怪我はしてしまうんだよね。

 確かにアタシはそこら辺の連中に比べたら丈夫な方だが、それでも人間だ。怪我するときは怪我するし、骨が折れるときは骨が折れる。

 本日最初のタバコを吸い、口から白い煙を吐きながらハリーの顔を見つめる。今にタバコを取り上げたそうな感じでイラついてやがるなぁ。

 

「…………ちょっとな」

「お前、それ言えばどうにかなるとでも思ってんのか……?」

 

 もちろん思ってる。思ってるし何よりめんどいからこの一言で済ましてるんだろうが。そんなこともわかんねえのかテメエは。

 しかもちゃんと説明した場合、それが先公に伝わってもっと面倒なことになりかねない。まあほぼバレているようなもんだが。

 コイツのことだからどうせアタシの口から真実を聞きたいとか確証を得たいとかそんなんだな、と勝手に解釈しておく。

 

「ちゃんと説明しろ! やっぱりケンカだろ!? つーかそれしかねえよな!?」

「…………ちょっと」

「一文字なくしても意味ねえんだよ!」

 

 自分の髪と同じくらい顔を真っ赤に染め、殴りたそうに拳を握り締めるハリー。おっ、もしかしてやる気か? やる気なのか?

 それにしてもイチイチ細かい奴だな。オウムみたいに簡単な一言を繰り返してもダメだって言ったのは他でもないお前だろうに。

 差し入れが入っているであろう袋を開け、中身を確認する。えーっと……なんだこの腐ったイカみたいな生物は。めっちゃ臭うんだけど。

 あまりの刺激臭に鼻を摘み、汚物を見るような目でハリーを睨みつける。そのしてやった顔、今すぐやめろ。ムカつくから。

 

「おいコラなんだこの腐ったもんは……!」

「健康食だよ。タバコ吸ってばっかのお前にはピッタリだろ?」

「ふざけろ……!」

 

 してやった顔の次はニヤけ顔とはいい度胸だなコノヤロー。さすがのアタシもはらわた煮えくり返ってきたんだけど。

 てかよ、なぜアタシが好き好んでこんな臭いもん食べなきゃなんねえんだコラ。このイカもどき、見た目からして味も絶対にアウトだろ。

 あとで部屋の空気を徹底的に入れ換える必要があるな。加えて身体にも臭いは付くからシャワーも浴びないとダメだ。あまりにも臭すぎる。

 

「そんなことより早く説明しろ。会う度に顔の傷が増えていく理由を」

「この悪臭の中で説明しろと……!?」

 

 野郎、狂ってやがる。

 

「言っておくがお前よりはまともだぞ」

「ぐっ……人の思考読み取ってんじゃねえよサイコ(自主規制)が」

「些細な弱みを握られただけで始業式の早朝待ち伏せした挙げ句、問答無用で拳を振るう奴の言うことじゃねーな」

 

 と、呆れ顔で返すハリー。コイツマジで殺す。肉体の原型がなくなるほど殴って(放送事故)にしてやる。そして飼い犬の餌に混ぜてやる。

 こっちはイタチごっこの真っ最中なんだぞ。そろそろ弾みで人を殺してもおかしくないというのに、わずかな休みの時間まで潰す気かこのアマ。

 健康食とやらの悪臭をタバコの臭いでごまかしつつ、今日の予定を考える。今日も隣町まで行かなきゃなんねえだよなぁ。

 そろそろいつものようにこっちから仕掛けるか? 停学期間だから少しだけ大人しくしていたが、こうも終わる気配がないと関係のないところにまで危害が及ぶ。

 

「――おいサツキ!」

 

 ハリーの叫び声にも等しい大きな声が耳に入り、反射的に両耳を塞いで自分の世界から現実へと引き戻される。鼓膜破りたいのかお前は。

 タバコをテーブルの上に置いてある灰皿に押しつけ、恨みの籠った視線をハリーに向ける。予想外だったのか一瞬たじろぎ、身構えるハリー。

 

「……………あ、なんだゴラ」

「お前オレの話聞いてたか?」

 

 どうでもよくなったので全然聞いてなかった。

 

 

 

 




《ジーク来襲》

「サッちゃん停学になったって聞いたけど大丈夫なんぶへっ!?」
「唇を尖らせながらよだれ垂らして抱きついてくんなボケ!」

 玄関のドアを開けた途端にこれである。変態の一言に尽きるわ。
 校内で乱闘した結果、停学処分にされてから少し経ったある日。アタシの元を訪ねてきたのはよりにもよってジークリンデ・エレミアだった。
 なんでコイツなんだよ。せめてヴィクターにしてくれ。それかヴィクターを同伴させろよ。
 そんなアタシの心情にお構い無く、ジークは勝手に家に上がってくつろいでいる。

「サッちゃん、顔の怪我は大丈夫なん?」
「ああ、これくらい大したことねえよ」
「ちぇっ、大事なら(ウチ)がつきっきりで看病したのに……」

 大事にならなくて心の底からよかった。

「てか、なんでお前アタシが停学になったって知ってんの?」
「魔女――とある知り合いから無理やり聞き出したんよ」

 とりあえずクロの処刑は決まった。髪の毛以外全部なくしてやる。
 イラつきのあまり拳を鳴らしていると、ジークがニコニコしながら口を開いた。

「とりあえず今日は一緒に寝よか!」
「話の飛躍が半端じゃねえ!」

 ヤベェ、とりあえずの次に添い寝宣言とか頭おかしいだろコイツ。親の顔が見てみたいものだ。

「別におかしくないやろ? いつも通りやし」
「お前の頭の中どうなってんだ」
「禁則事項ぶっ!」

 イラッときたので何となくぶん殴った。ホント何なんだよこのアホは。
 こんな調子で一日を過ごし、ジークが泊まっていくことを止められずに悔し涙を流しかけたのだった。ベッドにまで入ってくんな。


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