死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第41話「全抵放射」

「…………簡単に話すとでも?」

「そう言うと思ったわ」

 

 第二の質問――固有スキルの全抵放射について聞かれたことで動揺してしまったが、はいそうですかと素直に話すほどアタシは単純じゃねえ。

 そもそもアレに関してはこっちが知りたいぐらいだ。実戦を通じてある程度把握してはいるものの、わからないことの方が圧倒的に多い。

 とりあえずタバコを吸おうとポケットを探るも、出てきたのはこないだ手に入れたロケットペンダントだけだった。コイツら、アタシが寝ている間にパクりやがったな。

 ついでにわずかな望みを掛けてクロのポケットも探してみたが、やはり何も出てこなかった。また買わなきゃなんねえのかよ。

 

「タバコなら数日前に一本も残さず処分しといたぞ」

「ふざけろこのクソガキ!」

「シバくぞてめー!?」

 

 さも当たり前のように告げてきたヴィータに軽く殺意を向ける。クソッ、手負いじゃなければ最低でも一発はぶん殴っているところだ。

 このままじゃ話が進まないと判断したのか、答える気のないアタシに代わってヴィータが仕方ないと言った感じで質問の答えを口に出した。

 

「アレは全抵放射だよ。ベルカ諸王時代に一回、それよりも前の時代に二回だけ見たことがある」

 

 そう言い終えた途端、昔の黒歴史を思い出したかの如く苦々しい表情になるヴィータ。どうも全抵放射に対してあまり良い思い出がないらしい。

 

「全抵放射……」

「心当たりでもあるんか?」

「はい。ある書籍に稀少技能(レアスキル)の中でも古くから存在し、一度使用すればあらゆる危機を打破できると記されていた代物です。私も実物を見たのは今回が初めてですが……」

 

 そこからはシグナムとヴィータによる全抵放射についての説明タイムとなった。せっかくなのでアタシも聞いておくことにする。

 

 

 (ぜん)(てい)(ほう)(しゃ)

 

 

 特に栄えた時期はないが、最初にその存在が確認されたのは古代ベルカ時代の初期。

 

 過去に実物を見たことのあるヴィータによれば全身の皮膚から魔力を衝撃波のように放出し、様々な危機的状況を打破する起死回生の切り札というものらしい。

 発動の際には全身が所有者の魔力光と同じ色に輝くという特徴があり、これにはいくつかパターンが存在する。アタシが知っているやつを挙げていくと、単に全身が輝くのと身体の所々が点滅するの二通りだな。

 使い道は主に拘束を振り払うときだが、結界による隔離や敵が作ったフィールド、迫り来る敵本体(数は問わない)に対しても効果を発揮するとのこと。口頭には出さないがここにアタシが体験した事例である、重力発生魔法を消し飛ばしたというのも追加しておく。

 条件を満たせば自動的に発動するため、それを阻止することは基本的に不可能。どういうわけか魔力発露を阻害する効果があるシャマルのワイヤーとて例外ではなく、AМFという魔法に対する強力なジャマーフィールドの中でも一切の影響を受けずに発動できる可能性があるようだ。

 

「便利すぎひんか、それ……」

 

 二人の説明を聞き終え、本当に驚いたという声を出す八神。まあ長所だけ聞けばそうなるわな。あまりにも使い勝手が良いように思えるから。

 てか当時から全抵放射って名前だったのね。全抵放射という名前はアタシが付けたものだから、それとは別に名前があるのかと思ってたよ。

 

「……短所はあらへんの?」

「それについては所有者であるサツキ本人から聞いた方が早いと思います」

「そろそろ吐いて楽になれよ、な?」

 

 やはりそう来たか。嫌な笑顔でアタシの肩をポンと叩くヴィータを見て舌打ちしそうになるもグッと堪え、どこから話そうか考える。

 こうなったら全抵放射に関する話題で他の質問ができないようにしてやる。その代わり、知っていることは話してやるよ。

 

「あー、長所だけ聞けばチートみたいなもんに聞こえるけどこいつは使い勝手が非常に悪いんだ」

「というと?」

「まず――」

 

 八神、ヴィータ、シグナム、クロの四人が耳を傾ける中、アタシは全抵放射について知っていることを丁寧に話していく。

 

 短所その一。練度に関係なく、自分の意思で発動することは絶対にできない。これはガキの頃に実証済みだ。どんな方法を取っても無理だった。

 短所その二。前述の通り自力で使用することができないため、射程範囲などの制御は実質不可能。それでも暴発が起きることはないのであまり気にしていない。

 短所その三。相手を問答無用で吹き飛ばすくらいならできるが、直接的な威力はかなり低いので攻撃には使えない。普通に手のひらから飛ばす衝撃波の方がまだ使える。

 短所その四。例え条件を満たしたとしても、必ず発動するわけではない。確率的には良くて五分、悪くてゼロ。しかも条件下とはいえ、必要のない場面で発動することもある。

 

「――ってな感じだ」

 

 今覚えていることを全て説明し終え、四人の反応を確認する。

 クロは継承された記憶の中に全抵放射に関することがないか確かめるように考え込み、シグナムは興味深そうにアタシを見つめ、ヴィータは何とも言えない表情になり、八神は……

 

「なるほどなぁ……どうりで現代には残っとらへんわけや。あと暴発はないって言うてたけど、実用化されたことはないんか?」

 

 と、素直に納得してふと思い出したかのように疑問を口にした。ぶっちゃけ平和な日常生活を送るには必要なさすぎるからな、この技能(スキル)

 今となっては古代ベルカ式魔法そのものが稀少技能(レアスキル)に認定されているほど数が少ないんだ。全抵放射が現代に残らないのも無理はない。

 仮にアタシ以外の所有者がいたとしても、発動条件がアレなだけに探し出すのは至難の業だろう。加えて見かけはただの衝撃波だし。

 

「私の知る限りでは一度もありません。おそらく自力での使用はできないという点が大きいかと思われます。それが原因で安全性の面に響いたのでしょう」

「いざというときに使えない技能(スキル)なんて宝の持ち腐れだからな」

「それ以前に稀少技能(レアスキル)ってのもあるだろ」

 

 ただでさえ特別扱いされる古代ベルカ式魔法の稀少技能(レアスキル)。その中でもさらに希少価値とされる全抵放射。しかもメリットが多い分、デメリットも多い。この極端さに関しては稀少技能(レアスキル)以外の能力でも有りがちなことだ。

 アタシ達が話している間も真剣な表情で考え込んでいたクロだが、何も出てこなかったのかため息をついて少し落胆していた。

 前線で戦っていたヴィータでもたったの三回、知識として知っていたシグナムに至っては今回が初見なんだ。そう簡単にポンポン出てくるわけねえだろ。多分、シャマルとザフィーラも今回の件を除けば実物は見たことなさそうだしな。

 

「ここまで来ると全部知りたくなるなぁ……」

 

 どうやら説明しすぎたようだ。八神とシグナムが探求心丸出しの表情でこっちを見ている。クロとヴィータも二人ほどではないが、やはり知りたそうにしている。

 つってもなぁ……これ以上はアタシも知らないんだよね。ろくに調べなかったというのもあるが、古代ベルカという戦乱の時代を生きたヴォルケンリッターの二人でも詳しく知らないやつを、アタシが知っているわけがないのだ。

 

「そんなに知りてえならお前らだけで調べろ。シグナムが目を通したっていう書籍とかあるだろ?」

 

 彼女が目を通したっつう書籍。ぶっちゃけその本、あの日見つかったらしいエレミアの手記より貴重かもしれないのでアタシも見てみたい。

 

「あればええんやけど……シグナム。その書籍を読んだのはいつ頃なん?」

「ベルカ諸王時代、ちょうど戦乱が起き始めた頃です。今も残っているとすれば無限書庫のベルカ方面、その未整理区画に埋まっているかと」

「あの中から探し出すのかよ……」

 

 無限書庫の未整理区画という言葉を聞いた途端、めんどくさそうな顔になるヴィータ。うんうん、その気持ちはよくわかるぞ。

 まあそれはどうでもいいとして、傷の痛みも引いたからそろそろ帰りたい。話せることは話したんだ。これ以上ここに居座る理由はない。

 未だに後ろから抱き着いているクロを引き剥がし、扉の方へ向かう。これなら便所とか言えば何とかなるだろう。ていうかなってくれ。

 ドアノブに手を伸ばした瞬間、後ろから肩を掴まれてしまう。気配と手の大きさ、この部屋にいる連中の位置関係からして……シグナムか。

 

「待てサツキ。まだ肝心なことを聞いていない」

「それに無限書庫の件を話しとらんから帰るにはまだ早いで~」

 

 ……何でだろう。今からシグナムが聞こうとしていることが何となくわかった気がする。あとヴィータの視線がとても痛い。

 八神の言葉を聞いて動かそうとしていた足を止め、ため息をついてベッドの上にドカッと座り込む。確かに事の結末は知る必要がある。

 タバコが吸えないので代わりにプニプニしてそうなクロの頬を両手で引っ張っていると、シグナムが涼しい顔で口を開いた。

 

 

「――原理についてだ」

 

 

 全抵放射の原理。

 

 所有者が絶体絶命のピンチに追い込まれると自動的に発動し、基本的にいかなる危機的状況だろうと必ず打破してしまう。

 それを阻止することはできず、ヴィータによるとリンカーコアが生きてさえいれば所有者自身の魔力が残っていなくとも発動するらしい。

 しかも条件下であろうと必ず発動するわけではなく、任意による使用は不可能。あくまで防御系の技能であるため攻撃には使えない。

 

 そりゃ知りたくもなるよな。こんな能力がどういう原理で成り立っているのか。所有者のアタシだって知りたいんだから。

 

「やっぱり一番知りたいのはそれやなぁ。こんな地味に見えて異質な技能(スキル)、他にはあらへん」

「書籍にも名前と簡単な詳細しか書かれていなかった」

「アレにはやられっぱなしだったんだ。中身ぐらい知ってもいいだろ」

 

 どうしよう。八神家の連中が梃子でも動きそうにない。クロも右腕にしがみついて離れなくなった。下手な嘘もつけねえぞこれ。

 とはいえ、知らないものは知らないのでコイツらの期待に答えることはどうやってもできない。だからアタシは何も悪くないはずだ。

 

「アタシから言えることは一つだけ。知っているなら教えてくれ、だ」

「…………ちょっと予想通りすぎるわ、その返答」

 

 八神が呆れたように呟き、クロは役立たずと言わんばかりに腕をつねってきた。ヴィータとシグナムにも残念そうな視線を向けられてしまう。

 

「一応言っておくが、応用するのは無理だぞ。もうこれ以上は発展できないし、他の能力との相性もよくない。能力としては一つの完成形だ」

 

 そう、自力で使用できないものを発展させることはできない。ましてや他の能力と併用するなんてどうあがいても無理だ。

 完成形という表現も、欠点の多さを除けば決して間違ってはいない。原理がわからない以上、改良や量産もできないしな。

 これを聞いた八神は「そんなつもりはないんやけど……」と困った顔で返答し、騎士の二人はまだ納得がいかないのか今度は微妙な表情をしている。探求心って凄い。

 気づけば昼飯の時間になっていたので話は一旦中断され、アタシとクロは成り行きで彼らと共に食事することとなった。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 1

「私の台詞がないんだけど――」
「それ以上は言うな、クロ」

 次があるさ、多分。


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