死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第48話「変化」

「せっかくだし、このまま散歩でもするか」

「……うんっ」

 

 ダールグリュン邸からの帰り道。アタシの提案を聞いて目が白黒になるほど驚くも、すぐに言葉の意味を理解して頷いたクロ。

 そんなクロだが初めて出会ったときよりも比較的表情豊かになっており、男だったら思わず可愛がってしまうほどグッとくるものがある。

 可愛らしく微笑む彼女を堪能しつつ、見慣れた街を歩いていく。まあここ一応、ミッドチルダの首都であるクラナガンだからな。

 ……にしても、皮肉なもんだ。他人を信じないとか言いながら、だんだんクロ――ファビア・クロゼルグという存在を受け入れつつある。

 

「サツキ」

「ん?」

「仕事は辞めるの?」

「あー……」

 

 ひょこっとアタシの顔を覗き込んできたクロにそう言われ、少し気まずくなって視線だけを逸らす。正直に言うとさっさと辞めたいが、辞めたところで状況が悪いのは変わらない。

 箱から取り出したタバコにオイルライターで火をつけ、一口吸ってすぐに白い煙を天に向かって吐く。次はリングの形にしてみようかな。

 

「まあ、辞める予定ではあるが…………あるんだけど……」

「あるんだけど、何?」

 

 仕事を始めてまだ一週間しか経っていない。せめて一ヶ月は続けたいと思っているが、ヴェルサに言われた通り嫌気がさしているのもまた事実。

 すんなり辞めるにしても闇金の連中に目をつけられる可能性があるし、続けるにしてもアタシが持つかどうかが問題だな。

 辞めるべきか、続けるべきか。タバコを口に咥えながらわりと真剣に考えていると、お腹からぐう~という音が聞こえてきた。

 ああ……そういやここ最近、まともな食事はできてない気がする。お金を得ているとはいえ、貯金しているため使うわけにはないのだ。

 

「…………何がいい?」

「そんじゃ贅沢に定食弁当を」

「別にいいけど……サツキって少食じゃなかった? いつもバナナ一本分のご飯しか食べないし」

「そりゃあれだ。ガキの頃は山に籠ってたから自力で収穫したもんしか食えなかったしな。それ以降多めに食べるのは控えてるんだよ」

 

 クロは納得したかのようにため息をつくと、コンビニかスーパーがある方向へと走っていった。おいコラアタシは置いてきぼりかコノヤロー。

 咥えていたタバコを右手に持ち、ため息をつきながら近くの公園に入ってベンチへ腰を下ろす。はぁ、結構な距離を歩いたから疲れたよ。

 少し落ち着いたところで一服し、そのタバコを当たり前のように投げ捨てた瞬間、後ろから肩をツンツンと叩かれた。あれ、何かデジャヴ。

 とりあえず振り向いてみると、緋色の髪をした少女がしっかりとした態度でアタシが投げ捨てたタバコを持っていた。またお前か。

 

「タバコのポイ捨てはいけませんっ!」

 

 そうそう、前もこんな感じだった気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自己紹介が遅れました。私はサフランと言います」

「ご丁寧にどうも。緒方サツキだ」

 

 五分後。緋色の髪の少女――サフランにしつこく迫られたアタシはやむを得ずタバコをちゃんと処理し、一段落したところで今に至る。

 このサフランという女、暇があれば近場の公園で清掃活動をしているらしい。タバコのポイ捨てを積極的に注意してきたのもその一環だろう。

 つまり何だかようわからん知り合いがまた一人増えてしまったわけだ。しかも同い年。ボランティア活動もしているときた。

 まあグダグダと考えていても仕方がない。コイツにはクロが戻ってくるまで暇潰しに付き合ってもらおう。何か情報が得られるかもしれん。

 

「とにかくタバコのポイ捨てはやめてください。衛生上よくないので」

「やなこった」

「拒否してもダメです! そもそも未成年が喫煙している時点でアウトなのに……!」

「ほざけタコ」

「クソアマの次はタコ……ほんと最低ですね。あの人達よりはマシのようですが」

「あの人達?」

 

 いきなり嫌悪感丸出しの表情になったかと思えばいきなりゴミを見るかのような目でアタシを睨み、愚痴り出すサフラン。

 だけどあの人達って誰だ。アタシに面影を重ねているようだけど。そんなアタシの疑問に、サフランは吐き出すかのように答えてくれた。

 

「金――借金取りの人達です」

「ん?」

 

 今言い直したなコイツ。単に間違えたのだろうか。それとも本当は話したらダメなことだったのか。一応記憶に留めておくか。

 それにしても借金取りね……アタシも闇金融で働いているとはいえ、いい気はしないな。世の中金が全てだとか思ってそうだし。

 あれ? もしかして借金取りと闇金融って一緒だったりするのか? 違うよな? 似ている感は拒めないけど別物だよな?

 

「……何かやらかした?」

「その言い方だと私が借金を背負っていることになるんですけど」

「違うのか?」

「うぅっ……違いませんけど、その……色々あったんです。今じゃ生活にも困っています」

 

 人がいいのか、出会って一時間も経っていないアタシにあっさりと教えてくれるサフラン。偽情報の可能性も視野に入れとこう。

 というか、こうしてみると借金を背負っている奴のほとんどが生活に困っているんだな。そういう法則でもあるのだろうか。

 

「ああそう」

「ところで私達、どうしてこんなに仲良くなってるんでしょう?」

「別に仲良くするつもりはねえし、それはアタシが聞きたいくらいだ」

 

 アタシに基本的なコミュニケーション能力はない。だが最近、変わり者を引き寄せる能力に目覚めてしまった感じではある。

 小さな子供は知らない人であろうと遊んでいるうちにソイツを友達と認識してしまうらしい。今回の件もそれと似たようなものだな、きっと。

 クロはまだ戻ってこないのかと気にしながら一服していると、サフランの視線が少し鋭いものに変わっていくのを感じた。

 それを意に介することなく紫煙を口から吐き捨て、ふと浮かび上がった疑問をぶつけてみることにした。ついでにごまかそう。

 

「お前さ、借金あるのにのんびりボランティア活動してる場合じゃねえだろ」

「……わかってます。今日はたまたま時間があっただけで、普段は仕事漬けですから」

 

 サフランは両膝に置いていた拳を強く握り締め、俯くと暗い表情になった。

 休日だからやりたいことをやる、というパターンか。確かにそういうことなら納得はいく。けど、今の言動からして何か隠してるな。

 

「…………そか」

 

 しかし、アタシはこれ以上の言及はしないことにした。お節介は好きじゃないし、悩みがあったとして相談に乗れるわけでもねえ。

 ……けどまぁ、これで仕事を続ける理由はできたな。ほんのちょっと悪いとは思うが、コイツの借金事情を存分に利用させてもらおう。

 

「そんじゃアタシはいくわ。これ、返済の分に入れとけ」

「えっ? こんなにたくさん――じゃなくて、何ですかこれ!?」

「何ってお札だよ」

「そういうことではなくどうして赤の他人であるあなたが見ず知らずの私にお金をくれるんですか!?」

「んー……知らね」

 

 財布のお札の半分を彼女に手渡し、言及を避けるように公園を後にする。

 ははっ、ダールグリュン邸で現実逃避を自覚させられた途端にこれだよ。ムカつくけどヴェルサの言う通りだな。皮肉過ぎて笑いも出ねえや。昔のアタシが知ったら卒倒するかもしんねえわ。

 右手のタバコを一口吸っていると、後ろからサフランの慌てた感じの声が響いてきた。

 

「あ、ありがとうございます!」

「…………チッ」

 

 自分が自分じゃなくなっていく。アタシが危惧していたことはこうして現実となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………まだか」

 

 急いでクロと別れた地点に着いたのはいいが、肝心のクロがいない。ていうか戻ってこない。まさかまた拉致られたのか?

 五感を駆使しても姿は見えないし気配も感じられず、臭いもしなければ音も聞こえない。どこまで買いに行ったんだアイツ。

 仕方がない、もう少し範囲を広げてみるか。そう思って五感をさらに集中させようとしたときだった――彼女の気配を感じたのは。

 距離的には跳ねていけば二分で合流できるが……妙だ。動く気配がない。いや、これは動けないと言った方がいいのかもしれない。

 

「っ……!」

 

 気づけば身体が勝手に動いていた。近くにあった街灯の上をウサギやバッタも真っ青な速度と跳躍力でピョンピョンと移動していく。

 十本目の街灯からジャンプしたところでやっとクロの気配を感じた場所にたどり着き、人目を気にしつつ街灯から華麗に飛び下りる。

 そしてすぐに周りを見渡してみると、金髪幼女を五人の男が囲んでいた。間違いない、クロだ。久々にナンパされてやがる。

 

「な、別にいいでしょ?」

「よ、よくないです……」

「そう言わずにさごぶるぁ!?」

 

 とりあえず横やりを入れる形で大柄な男の顔面に鋭い蹴りを入れ、クロの前に立つ。ストレス発散にはちょうどいいや。

 

「何だテメエ!?」

「通りすがりのヤンキー」

「チッ、このアマァ!」

 

 男の一人が掴みかかってきたので背負い投げをかまして顔面を踏みつけ、それを見た細身の男が激昂しながら蹴りを放つ。

 鼻っ面に迫るその一撃を最小限の動きでかわし、握り込んだ右の拳を鳩尾へ叩き込む。鈍い音が響き、細身は泡を吹きながら沈んでいく。

 

「オラ、さっさとこいや」

「上等だおらぁっ!」

「なめやがって……!」

 

 残るは二人。そのうちの一人が繰り出した目潰しがアタシに届くよりも先にこちらも目潰しを放ち、男の目にアタシの指が突き刺さる。

 目を潰されて悶えるソイツを前蹴りでブチのめし、最後の一人に目元を殴られるも意に介すことなく豪快に殴り飛ばした。

 ……あれ、もう終わりなのか。あと三分は粘ってくれると少しは楽しめたんだけど。

 

「っ、さすがにいてえな」

 

 全員くたばったのを改めて確認し、殴られた目元から痛みが響いてきたところで呆然としていたクロをお姫様抱っこしてその場から退散する。

 明日は謝る必要があるんだろうなぁ。正直癪だけど、やるしかないのか。

 先が思いやられると少し憂鬱になりながら、アタシは近道しようと飛び乗った街灯からちょっとカッコつけて大ジャンプするのだった。

 

 

「は、恥ずかしいから下ろして……!」

 

 

 死ぬがよろしいか。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 3

「さ、サツキ? 言いたいことがあるならちゃんと言葉で――」
「ありがとな、おふくろみたいなヴィクター」

「誰がおふくろよっ!?」

 あれ? 何か間違えた?


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