「サッちゃ~ん!」
「……よう」
アタシは今、ジークのテントに泊まりに来ている。理由は……なんだろうな。
ああそうだ、なんでもアタシと一緒に釣りをしたいらしい。すげえ嘘臭いけど。
でもさぁ――時間は選べよ。今深夜だぞ。真夜中だぞ。アタシにとってはケンカする時間だぞ。
「サッちゃん……一緒に寝よ?」
「死んでろ」
「ぶー……!」
アヒルみたいに唇を尖らせてもダメだ。あと頬を膨らますな。
「アタシはテントの中で寝かせてもらうから、お前は水中で寝ろ。いいな?」
「うん、わかった――待って。今のは少しおかしい気がするんよ」
はて? 今の丁寧な説明のどこにおかしい部分があるというのか。
アタシにしては珍しくまともな説明のはずだが。それとも言い方が悪かったか?
仕方がない。もう少しわかりやすく言ってやるか。コイツはバカだし。
「いいかジーク。――お前は水の中で寝るんだ」
「それやそれ! なんで
「邪魔だから」
「サッちゃんのアホー!」
解せぬ。
「いや実際に邪魔だし」
「そもそもここは
「いやいや、ここは客人であるアタシだろ」
「いーや、ここはテントの主である
「あァ?」
「…………っ!」
「「テントで寝るのはアタシだ(
やってやんよバカヤロー! こうなりゃタイマンでケリをつけてやる!
アタシはジークの首根っこを掴み、テントの外に出てからジークを投げた。
「ぶっ!?」
「かかってこいオラァ!」
「なんでそうなるん!?」
テントで寝たいから。
「くっ! 仕方あらへん!
「上等だゴラァ!」
このあとジークと軽くタイマンを繰り広げ、アタシはテントで寝る権利を勝ち取ったのだった。
――すぐにジークがテントに侵入してきたのは言うまでもないが。ま、元々ジークのテントだし、脱がなかっただけマシとしてやるよ。
「大物きたでー」
「……おっ、こっちも大物きた」
翌日。アタシは今、ジークと共に川で釣りをしている。ホントに釣りだったんだな。
しっかし、改めて確認してみるといかにジークが貧乏人なのかを思い知らされるな。
ていうかこの魚でかい。コイ並みにはでかいぞコイツ。
「意外と美味いなこれ」
「やろ?」
そのわりには美味いもん食ってるがな。マジで旨いぞこれ。
もう一匹くらい釣ってお持ち帰りしようかな? そして骨はイツキに分けてやるんだ。
いや、骨はヴィクターに分けるか。イツキには何もあげない。
「ちょっと物足りへんなぁ……」
「まだ食うのかよ。なら野草でも食べるか?」
「サッちゃん……ちょっと馴染んでへん?」
否定はしない。
「ジーク。これなんかどうだ?」
「サッちゃん、こっちのもいけるんよ」
これ……貧乏生活というよりサバイバルじゃね? 馴染んでる自分がマジで怖い。
やっぱり幼少期の山籠り経験が生きたか。熊に追いかけられたり、追い詰められたときは戦ったり大変だったけどな。
「あなたたち……何をしているの?」
あらやだヴィクターに見られちゃった。
ヴィクターはこっちを見て呆然としていた。そりゃ無理もねえか。
「なにってそりゃお前――ジークの食料調達だろ」
「当たり前みたいに言うのやめなさい」
頼むからアタシが悪いみたいな感じで見ないでくれ。そういやジークが大人しいような――
「――お前は何をしてんだ?」
「……ん?」
「じ、ジーク!?」
当のジークは採った雑草を食べてやがった。人が雑草をもしゃもしゃ食べてるところは初めて見たぞ。
なんて大胆な。ちょっとすげえって思っちまったじゃねえかちくしょう。
「なんてもの食べてるの!」
「あー!」
「全くだ。少しは我慢しようって心掛けはないのか?」
「さ、サッちゃん……?」
「さりげなくこちら側に来てるけど、あなたも同罪よ?」
そんな事実は……事実は……!
「認めない!」
「認めなさい」
「サッちゃん……!」
アタシは食べてない。魚は食べたが雑草は食べてない。つまり無罪なんだよバカヤロー。
あとジーク。恨めしそうな瞳でこっちを見ないでくれ。呪われたくないから。
「アタシが食べたのは魚だけだ! 雑草は食べてねえんだよ!」
「ジーク……?」
「え? これ
元はといえばお前が『川釣りしよー』とかいって誘ってきたのが始まりだからな。
アタシはケンカしたかったのに。――結局しちゃったけどさ。
「でも一緒に探そうって言ったんはサッちゃんなんよ!」
「サツキ、どうなの?」
「探したことは認める。だが、食べてはいない」
「食べていないから無罪――なわけないでしょう!」
「バカなっ!?」
探した時点で有罪なのか!?
〈いえ、提案したことがダメかと〉
もうダメだ、おしまいだ。それと身も蓋もない発言は控えてくれ。
めちゃくちゃ傷ついたじゃねえか。涙は出ねえけど。
「とりあえず、二人ともうちに来てもらうわよ」
そんなこんなで、アタシとジークはヴィクターの屋敷に連行された。
待て。なんでアタシまで連行されてんだ? 連れていくのはジークだけにしてくれよ。
「ジーク、今日は泊まっていかない?」
「アタシも賛成だ」
「んー……え? サッちゃんはどうなるん?」
「帰るに決まってんだろ」
ヴィクターの屋敷にて、ジークをどうするか会議中。ヴィクターはどうやら自分とこに泊まらせたいようだ。
正直、アタシも賛成なんだがな。自分の平和のためにも。
「泊まるのが嫌なら住んでもいいのよ?」
「ほい賛成!」
「なんや打ち合わせでもしてたんか?」
そんなものはしていない。意見が最善すぎるだけなんだ。アタシにぴったりなほどに。
とりあえずタバコ吸おう。アタシは懐からタバコとオイルライターを取り出して一服する。
「サツキ。ここでタバコはやめなさい。というか吸うこと自体をやめなさい」
「やだね」
どいつもコイツもめんどくせえなぁ、おい。
「ところでサッちゃん。ヴィクターと打ち合わせでもしてたんか?」
「そんなわけないでしょう?」
「そうだぞジーク。アタシとこの……えっと……」
「いつも通りでいいわよ……!」
ダメだ。あだ名が出てこない。あ、ヴィクターってのがあだ名か。
つまんねえにもほどがあるぞ。もう少しおもしれーあだ名はないのか?
「つまり――」
「ま、とりあえず今日は泊まっていけよ。な?」
「――つまり
「待て! 何をどうやったらそんな解釈になるんだ!? それにアタシとお前はそんな関係じゃねえだろ!」
「…………ヴィクター?」
今コイツなんて言いやがった。羨ましいだと?
「じゃあ代わってくれよ」
「ぜひともそうしたいのだけど、ジークの意思を尊重しないと――」
「その気遣いをこっちに回してくれると嬉しい」
マジでな。そのせいでアタシの人権がどんどん犠牲になってるんだよ。
そろそろアタシにも人権をくれ。ホントに。
「はぁ……どうしてあなたの意思まで尊重しなければならないの?」
「あァ?」
「前にも何度か言ったはずよ――『サツキならどうなってもいいわね』ってごふぅ!?」
「離せジーク! エドガー! このバカの頭を花火みてえに破裂させてやるんだ!」
「あかん! サッちゃんそれはあかんよ!」
結局、ジークは屋敷で泊まることになった。アタシはもちろん帰ったよ。泊まる理由もないし。
今日の晩飯はなんにしようかな~? たまにはピザとかもいいなぁ。
「おいおい、マジかよ」
さらに翌日。ヴィクターから写真付きのメールがきた。その写真に写っていたのは、なんとメイド服を着たジークだった。
いやホントにマジかよ。なんかわりと様になってんぞコイツのメイド服姿。
〈これはまた珍しいものが見られましたね〉
「実物で見たかったぜ……」
ちょっと後悔した。泊まっていけばよかったと。
「ジークってコスプレイヤーだったのか?」
〈いえ、これはコスプレではないかと〉
「でなきゃ駄メイドだぞ」
〈駄メイドですか……〉
まあいいや。今度なんか着せてやろう。おもしろいし。
そんなことを考えつつも、アタシは学校に向かった。
《今回のNG》TAKE 1
「ジーク。これなんかどうだ?」
「そ、それはあかん! 食ったらサッちゃんでも死んでまうよ!?」
「なんでそんな危ないもんが生えてんだよ!」
「わからんよ!」
なんでここの住民であるお前が知らねえんだよ。