死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第20話「テントは譲らねえ」

「サッちゃ~ん!」

「……よう」

 

 アタシは今、ジークのテントに泊まりに来ている。理由は……なんだろうな。

 ああそうだ、なんでもアタシと一緒に釣りをしたいらしい。すげえ嘘臭いけど。

 でもさぁ――時間は選べよ。今深夜だぞ。真夜中だぞ。アタシにとってはケンカする時間だぞ。

 

「サッちゃん……一緒に寝よ?」

「死んでろ」

「ぶー……!」

 

 アヒルみたいに唇を尖らせてもダメだ。あと頬を膨らますな。

 

「アタシはテントの中で寝かせてもらうから、お前は水中で寝ろ。いいな?」

「うん、わかった――待って。今のは少しおかしい気がするんよ」

 

 はて? 今の丁寧な説明のどこにおかしい部分があるというのか。

 アタシにしては珍しくまともな説明のはずだが。それとも言い方が悪かったか?

 仕方がない。もう少しわかりやすく言ってやるか。コイツはバカだし。

 

「いいかジーク。――お前は水の中で寝るんだ」

「それやそれ! なんで(ウチ)は水の中で寝なあかんの!?」

「邪魔だから」

「サッちゃんのアホー!」

 

 解せぬ。

 

「いや実際に邪魔だし」

「そもそもここは(ウチ)のテントや! テントで寝るのは(ウチ)なんよ!」

「いやいや、ここは客人であるアタシだろ」

「いーや、ここはテントの主である(ウチ)やね」

「あァ?」

「…………っ!」

 

「「テントで寝るのはアタシだ((ウチ)や)!!」」

 

 やってやんよバカヤロー! こうなりゃタイマンでケリをつけてやる!

 アタシはジークの首根っこを掴み、テントの外に出てからジークを投げた。

 

「ぶっ!?」

「かかってこいオラァ!」

「なんでそうなるん!?」

 

 テントで寝たいから。

 

「くっ! 仕方あらへん! (ウチ)がテントで寝るためにも勝たせてもらうで!」

「上等だゴラァ!」

 

 このあとジークと軽くタイマンを繰り広げ、アタシはテントで寝る権利を勝ち取ったのだった。

 ――すぐにジークがテントに侵入してきたのは言うまでもないが。ま、元々ジークのテントだし、脱がなかっただけマシとしてやるよ。

 

 

 

 

 

 

 

「大物きたでー」

「……おっ、こっちも大物きた」

 

 翌日。アタシは今、ジークと共に川で釣りをしている。ホントに釣りだったんだな。

 しっかし、改めて確認してみるといかにジークが貧乏人なのかを思い知らされるな。

 ていうかこの魚でかい。コイ並みにはでかいぞコイツ。

 

「意外と美味いなこれ」

「やろ?」

 

 そのわりには美味いもん食ってるがな。マジで旨いぞこれ。

 もう一匹くらい釣ってお持ち帰りしようかな? そして骨はイツキに分けてやるんだ。

 いや、骨はヴィクターに分けるか。イツキには何もあげない。

 

「ちょっと物足りへんなぁ……」

「まだ食うのかよ。なら野草でも食べるか?」

「サッちゃん……ちょっと馴染んでへん?」

 

 否定はしない。

 

「ジーク。これなんかどうだ?」

「サッちゃん、こっちのもいけるんよ」

 

 これ……貧乏生活というよりサバイバルじゃね? 馴染んでる自分がマジで怖い。

 やっぱり幼少期の山籠り経験が生きたか。熊に追いかけられたり、追い詰められたときは戦ったり大変だったけどな。

 

「あなたたち……何をしているの?」

 

 あらやだヴィクターに見られちゃった。

 ヴィクターはこっちを見て呆然としていた。そりゃ無理もねえか。

 

「なにってそりゃお前――ジークの食料調達だろ」

「当たり前みたいに言うのやめなさい」

 

 頼むからアタシが悪いみたいな感じで見ないでくれ。そういやジークが大人しいような――

 

「――お前は何をしてんだ?」

「……ん?」

「じ、ジーク!?」

 

 当のジークは採った雑草を食べてやがった。人が雑草をもしゃもしゃ食べてるところは初めて見たぞ。

 なんて大胆な。ちょっとすげえって思っちまったじゃねえかちくしょう。

 

「なんてもの食べてるの!」

「あー!」

「全くだ。少しは我慢しようって心掛けはないのか?」

「さ、サッちゃん……?」

「さりげなくこちら側に来てるけど、あなたも同罪よ?」

 

 そんな事実は……事実は……!

 

「認めない!」

「認めなさい」

「サッちゃん……!」

 

 アタシは食べてない。魚は食べたが雑草は食べてない。つまり無罪なんだよバカヤロー。

 あとジーク。恨めしそうな瞳でこっちを見ないでくれ。呪われたくないから。

 

「アタシが食べたのは魚だけだ! 雑草は食べてねえんだよ!」

「ジーク……?」

「え? これ(ウチ)が悪いんか?」

 

 元はといえばお前が『川釣りしよー』とかいって誘ってきたのが始まりだからな。

 アタシはケンカしたかったのに。――結局しちゃったけどさ。

 

「でも一緒に探そうって言ったんはサッちゃんなんよ!」

「サツキ、どうなの?」

「探したことは認める。だが、食べてはいない」

「食べていないから無罪――なわけないでしょう!」

「バカなっ!?」

 

 探した時点で有罪なのか!?

 

〈いえ、提案したことがダメかと〉

 

 もうダメだ、おしまいだ。それと身も蓋もない発言は控えてくれ。

 めちゃくちゃ傷ついたじゃねえか。涙は出ねえけど。

 

「とりあえず、二人ともうちに来てもらうわよ」

 

 そんなこんなで、アタシとジークはヴィクターの屋敷に連行された。

 待て。なんでアタシまで連行されてんだ? 連れていくのはジークだけにしてくれよ。

 

 

 

 

 

 

 

「ジーク、今日は泊まっていかない?」

「アタシも賛成だ」

「んー……え? サッちゃんはどうなるん?」

「帰るに決まってんだろ」

 

 ヴィクターの屋敷にて、ジークをどうするか会議中。ヴィクターはどうやら自分とこに泊まらせたいようだ。

 正直、アタシも賛成なんだがな。自分の平和のためにも。

 

「泊まるのが嫌なら住んでもいいのよ?」

「ほい賛成!」

「なんや打ち合わせでもしてたんか?」

 

 そんなものはしていない。意見が最善すぎるだけなんだ。アタシにぴったりなほどに。

 とりあえずタバコ吸おう。アタシは懐からタバコとオイルライターを取り出して一服する。

 

「サツキ。ここでタバコはやめなさい。というか吸うこと自体をやめなさい」

「やだね」

 

 どいつもコイツもめんどくせえなぁ、おい。

 

「ところでサッちゃん。ヴィクターと打ち合わせでもしてたんか?」

「そんなわけないでしょう?」

「そうだぞジーク。アタシとこの……えっと……」

「いつも通りでいいわよ……!」

 

 ダメだ。あだ名が出てこない。あ、ヴィクターってのがあだ名か。

 つまんねえにもほどがあるぞ。もう少しおもしれーあだ名はないのか?

 

「つまり――」

「ま、とりあえず今日は泊まっていけよ。な?」

「――つまり(ウチ)には飽きたってことなん!?」

「待て! 何をどうやったらそんな解釈になるんだ!? それにアタシとお前はそんな関係じゃねえだろ!」

 

(「………………羨ましい」)

 

「…………ヴィクター?」

 

 今コイツなんて言いやがった。羨ましいだと?

 

「じゃあ代わってくれよ」

「ぜひともそうしたいのだけど、ジークの意思を尊重しないと――」

「その気遣いをこっちに回してくれると嬉しい」

 

 マジでな。そのせいでアタシの人権がどんどん犠牲になってるんだよ。

 そろそろアタシにも人権をくれ。ホントに。

 

「はぁ……どうしてあなたの意思まで尊重しなければならないの?」

「あァ?」

「前にも何度か言ったはずよ――『サツキならどうなってもいいわね』ってごふぅ!?」

「離せジーク! エドガー! このバカの頭を花火みてえに破裂させてやるんだ!」

「あかん! サッちゃんそれはあかんよ!」

 

 結局、ジークは屋敷で泊まることになった。アタシはもちろん帰ったよ。泊まる理由もないし。

 今日の晩飯はなんにしようかな~? たまにはピザとかもいいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、マジかよ」

 

 さらに翌日。ヴィクターから写真付きのメールがきた。その写真に写っていたのは、なんとメイド服を着たジークだった。

 いやホントにマジかよ。なんかわりと様になってんぞコイツのメイド服姿。

 

〈これはまた珍しいものが見られましたね〉

「実物で見たかったぜ……」

 

 ちょっと後悔した。泊まっていけばよかったと。

 

「ジークってコスプレイヤーだったのか?」

〈いえ、これはコスプレではないかと〉

「でなきゃ駄メイドだぞ」

〈駄メイドですか……〉

 

 まあいいや。今度なんか着せてやろう。おもしろいし。

 そんなことを考えつつも、アタシは学校に向かった。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 1

「ジーク。これなんかどうだ?」
「そ、それはあかん! 食ったらサッちゃんでも死んでまうよ!?」
「なんでそんな危ないもんが生えてんだよ!」
「わからんよ!」

 なんでここの住民であるお前が知らねえんだよ。


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