「あー、ダルい。ケンカしてぇ……」
首を鳴らしながらダルそうに通学路を歩く。とりあえず今日は学校に行くことにした。さすがに連続でサボるわけにはいかないからな。
いや、別にサボってもいいんだけど後がめんどいじゃん。そう思いながら、アタシはタバコを取り出して一服する。
えーっとライター……クソッ、オイル切れてんじゃねえか。仕方ねえからマッチにしよう。
「やっぱりタバコにはオイルライターとマッチが一番だよな」
〈マスターが学校に行くなんて……今日は爆弾と隕石がセットで降ってくるのでしょうか……〉
マッチでつけたタバコを吸っていると、ラトがふざけたことを抜かしやがった。
お前さ、ホントにデバイスでよかったな。もしそうじゃなかったら今ごろドラム缶の中だぞ。
「いくらなんでも度が過ぎねえかお前? 少しはアタシを敬えよ」
〈残念ながら、マスターを敬うのはさすがにあり得ませんので〉
知っているか? コイツ、これでもアタシの愛機なんだぜ? 忠誠心の欠片もねえわ。
どうやらアタシは愛機にすら見放されてしまっていたようだ。この扱いはあんまりだろ。
「うぃーす」
「おっ、サツキじゃねーか」
あれから数分、遅刻ギリギリで学校に着いた。アタシの席どこだっけ……。
それと誰だ、人の名前を軽々しく呼ぶ見ず知らずのアンポンタンは……って。
「なんだハリーか。メガネはどうした?」
「オレはポッターじゃねーよ!」
あれ? 違うの?
「ったく、同じクラスになったらこれかよ」
「黙れ弱虫」
「誰が弱虫だ!」
この妙にムカつく奴の名前はハリー・トライベッカ。あだ名は
ちなみにコイツの周りにはよくリンダ、ルカ、ミアという三人の取り巻きがいる。
まるでコバンザメだな。アタシはまとめて三人組と呼んでいる。
「うーん、あれだ。シバくぞ」
「いやなんでだよ!? オレなんもしてねーだろ!」
ムカつくからに決まってんだろ? それ以外に一体何があるというのか。
今日の予定を考えていると、ハリーが納得のしてない表情である疑問を投げかけてきた。
「まったく……初めて会ったときから思ってたけど、そんなんで進級できんのか?」
「実際にこうやって進級できてんだろうが。お前はアホか」
これでもコイツよりは遥かに成績がよかったりする。だから問題は出席日数だけなのだ。
なんで成績がいいかというと、留年してお先が真っ暗にならないようにするため、ある方法で学力を上げたからだ。いや、正確には暗記だな。
決してカンニングなどではない。あれはむしろ成績が落ちる。
「一時間目、サボろうかな?」
「お前の頭の中には授業をちゃんと受けるという選択肢はないのか……?」
ない。
「う~ん、やっぱり屋上で寝るのは最高だな」
昼休み。アタシは屋上に置いてある炬燵で昼寝していた。季節に合わせて毛布を取ったりできるから使いやすいんだよね。
入学してからずっとここを使っているけど、これほど寝心地のいい場所は家以外にはないぞ。
授業はちゃんと受けたよ、二時間だけな。その二時間を使ってアタシは全ての教科書を読み終えた。達成感が半端じゃねえ。
〈たった二時間でよくあの量を読んで覚えられましたね……〉
「まあな」
炬燵の上に置いてあったミカンを食べつつ、話しかけてきたラトに反応する。
内容を覚えておけば損はない。備えあれば憂いなしってやつだ。姉貴によれば、アタシは人よりも記憶力がいいらしいからな。
まあ、完全記憶能力には及ばないので覚えるのも意外と大変だったりするんだぜ? たまに頭から抜けることもあるし。
「この方法にどれだけ助けられたか」
〈そういえば小学校の頃にも同じことしてましたよね?〉
「あー……確かに」
懐かしいな。あの頃からケンカ――もといやんちゃしまくっていたっけ。
地球にいたときはそのせいで鑑別所に収容されたこともあったっけ。
「ここにいたか」
地球にいた頃を懐かしんでいるとハリーがやってきた。へぇ、今回は一人か。
番長! 今日もへそチラありがとうございます! って男子には思われてそうな服装だなぁ。
「よくここがわかったな」
「お前がよくいそうな場所なんてここぐらいだからな、この学校じゃ。それとだな――」
ハリーは一旦言葉を句切ると、少しイラつきながらアタシに向かってはっきりと告げた。
「こんなでけー旗が立ってたら嫌でもお前の居場所なんてわかるっつーの!」
なんだ、そんなことか。ハリーの言う通り、この屋上にはアタシのお手製である『無限こそ真理』と書かれた大きな旗が立てられている。
この旗はアタシが屋上にいるときだけ立てており、それ以外のときは降ろしている。
そのせいで去年はよくこの学校の不良たちに因縁つけられたっけ。1年が調子乗ってんじゃねーぞとか、女が意気がってんじゃねーぞ、とか。
なんだかんだで全員ブチのめしたよ。それ以降は何も言わなくなったな。――コイツ以外は。
「それとここはおめーの家じゃねーぞ!? なんで炬燵があるんだよ!」
「バレなきゃいいんだよ」
「よくバレなかったなぁ……!」
さすがに旗はバレバレだろうが、炬燵はなぜかバレていない。
それとも黙認されているのだろうか? 別にどうでもいいけど。
「そうだ! 今度はラジオでも持ってくるか!」
「持ってこなくていい」
ハリーのいけず。人でなし。ペッタンコ!
「サツキ。なんかお前をシバきたくなったんだが」
「理不尽に暴力を振るうのは感心しねえな」
「それ、おめーが言える立場じゃねーから!」
やっぱり女はスタイルの話になるとやたら鋭くなるみたいだ。
そういやコイツは何しに来たんだ? まさかアタシを連れ戻すためだけにここへ来たわけじゃあるまいな?
「ほら、もうすぐ午後の授業が始まるから行くぞ」
「絶対にイヤだ」
マジでアタシを連れ戻す気だったのか。もう習う範囲なんて覚えた。これ以上やることはない!
そんなアタシの考えをよそに、ハリーは無理やりアタシを炬燵から引きずり出そうとする。
「ワガママ言うな! さっさと出てこい!」
〈そうですよマスター、ワガママ言わないでください〉
「お前らなんなの!? ダブルでなんなんだよ!?」
お前らはアタシの母親か。初めて会ったときからまるで変わってねえなおい!
当然、無抵抗なアタシではない。炬燵にしがみついて精一杯ハリーに抵抗したが、健闘むなしく引きずり出されてしまった。
なんでこういうときだけ無駄にパワーがあるんだよ。普段はアタシよりも非力なくせに。
「アタシは今からここで睡眠を取るんだ。邪魔をするなこの弱虫!」
「うっせー! 毎回おめーを連れ戻すこっちの身にもなってみやがれこのサボり魔!」
「やかましい! こっちはテメエに連れ戻してくれって頼んだ覚えはねえんだよ!」
「んだとてめー!?」
「あァ!?」
この状況をなんとか切り抜けないと……アタシのお昼寝計画が水の泡になっちまう。
そうと決まれば実行に移そう。アタシは真剣な表情でハリーを見つめながら嘘を――
「トワイライト! 実はアタシ」
「よーし行くぞー。あとオレはトライベッカだ」
「……体調が悪くて……」
――つく前に実力行使に移されてしまった。
早い! 早すぎる! まだ話の内容を言ってないのに!
「3年以上も一緒にいればお前の考えなんか手に取るようにわかるってんだ」
「このストーカー野郎!」
「お前は何を言って――だあっ!?」
嘘をついてはぐらかそうという作戦が失敗した今、アタシにできるのはこれだけだ。
アタシはハリーの手を力ずくで振りほどき、後ろから蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされたハリーは見事に地面とキスしていた。おおう、キレイな白だな。
「いつつ……てめー、いきなり蹴飛ばすやつがあるか!」
「黙れ純白! アタシを連れ戻したけりゃ力ずくでやってみるんだなぁ!」
「結局そうなんのかよ! あとさりげなく見てんじゃねーよっ!」
このあとハリーと殴り合いを繰り広げ圧勝したが、その甲斐なく連れ戻されてしまった。
……あれ? 勝ったのはアタシなのにどうして連れ戻されたんだ? おかしくね?
「やっと終わった……」
あれから午後の授業をなんとか乗りきったアタシは机の上で項垂れていた。
なんで授業ってこんなに疲れるんだ? 未だに解けない謎の一つだ。
「いやいや、お前あれから寝てただけだろうが」
そんな事実はどこにもない。
「んじゃま、帰るわ」
「ちょっと待て。オレも一緒に帰る」
教室を出る途中、後ろからハリーが同行する宣言をされてしまった。
マズイ。これじゃケンカしに行くことができない。ま、家に帰ってからでもいいか。
ちなみにそのハリーは頭に軽く包帯を巻いている。大袈裟なんだよテメエは。あれ明らかに掠り傷だったただろうが。
「よし、帰ろうぜ」
「コバンザメみたいな三人組はどうした?」
「コバンザメっていうのやめろ。三人とも、用事があって今日は無理だってさ」
もう聞いてきたのか。三人のことに関しては相変わらず手を回すのが早いな。
というわけで、アタシはハリーと一緒に帰ることになった。
今思えば、ハリーと二人だけで帰るのはずいぶんと久しぶりだな。どうでもいいけど。
「あっ、コラ! タバコはやめろって!」
「うるせえなぁ……」
一服しようとマッチを探していると、口に咥えていたタバコを取り上げられた。
お前には関係ねえだろうが全く。チッ、今回は諦めるか。
そういえば最近はビールも飲んでねえな。ふぅむ……たまには買うか。
「このあとどうすんだ?」
「知り合いのジムでスパーの予約を入れてるんだよ。まあ、つまりはそういうことだ」
ビールの調達を決意したアタシはとりあえずハリーのこのあとの予定を聞いてみた。
スパーねぇ……。ぶっちゃけ二、三回しかやったことねえわ。
それにしてもお前はホントに努力家だよな。そこまで興味はないけど。
「そういうお前は?」
「家に帰る」
「…………」
おいハリー、そんな疑うような目でアタシを見るな。家に帰るのはマジだって。
ケンカしに行くのはそのあとだから安心しろ。
その願いが通じたのか、ようやくハリーはアタシから目を逸らした。
そのあとは普通に別れて、ハリーはスパーを、アタシはケンカをしに行った。
《今回のNG》TAKE 33
「理不尽に暴力を振るうのは感心しねえな」
「それ、おめーが言える立場じゃねーから!」
「なんだとこのペッタンコ!」
「ペッタ……!? て、てめーは言っちゃいけねーことを言ったぞ……!!」
「ならどうすんだよ?」
「やるに決まってんだろ!」
「…………はっ、上等だバカヤロー!」
〈マスターもハ――ペッタンコさんも落ち着いてください!〉
「お前までペッタンコ言うなぁ――っ!!」