「なあラト」
〈どうかしましたか?〉
「久々に奴の気配を感じたんだが……」
〈……いますね〉
「いるな」
〈しかも家の中にいます〉
「マジかよ……」
〈まあ、合鍵を借りパクされている以上は当然かもしれません〉
「そんで、家のどこにいるんだ?」
〈風呂場です〉
「…………」
〈…………〉
「〈風呂場……?〉」
「たでーまー」
「お帰りや!」
――バタンッ
アタシは何も見ていない。これは間違いなく幻覚だ。
ドアを開けたら目の前にバスローブ姿で髪を下ろしたジークがいたなんてことはきっと気のせいだ。
ガチャッ
「お帰りや!」
「服着ろやこの変態がぁ――っ!!」
気のせいでも幻覚でもなかった。
「仕方ないんよ……。シャワー浴びてたらサッちゃんの足音と心臓の鼓動が聞こえたんやから」
「待て! キサマは足音と心臓の鼓動だけでアタシかどうかを判別できるのか!?」
臭いならともかく、まさか足音や心臓の鼓動だけでアタシなのかを判別されるとは思わなかった。
ていうか心臓の鼓動って……どうやったら聞き取れるんだよ。
こないだなんか気流の流れでアタシの存在を感知しやがったし。
「とにかく、服を着ろ」
「えー? 今からサッちゃんも一緒に入るんよ?」
「いつアタシが今から風呂に入ると言った!?」
今からタバコを買いに行く予定なんだけど。
「サッちゃん! ウェルカムや! はよ服を脱いで!」
「だが断る」
何がウェルカムだコノヤロー。つーかどこで覚えたんだそれ。
それとこのアホ、ヨダレ垂らしてるんだけど……言った方がいいか?
「ウェルカムや! でないと――」
「しつこい。断るつっただろうが」
「――ガイストぶっ放すで?」
「今準備するから風呂場で待ってろ」
最近アタシへの脅しに遠慮がなくなっている件について。
「ありがとうな、サッちゃん」
「なんでアタシがお前の髪を洗わねばならんのだ……」
というわけでジークと一緒にお風呂なう。相変わらず長いな、コイツの髪。
しかし痛んでいる。ヴィクターの方がちゃんと洗えるんだろうな~。
それにしてもコイツ、スポーツ選手にしてはいい体してるよな。微乳だけど。
「ほら目を閉じろ。でなきゃ片目と鼻と片耳と口に洗剤とカミソリ突っ込むぞ」
「んー!」
何がそんなに嬉しいのか理解できないな。相手が好きな異性ならともかく。
「よーし、こんなもんだろ」
「つ、冷たいッ! サッちゃんそれお湯ちゃう! 冷水や!」
「んなもん流せば同じだ」
「それは違うと思うんよ……」
やかましい。頭をちゃんと洗ってやっただけ感謝しろ。こっちは命が掛かってんだ。
さてと、やっと自分の体を洗えるぜ。まさか一人いるだけでここまで手間が掛かるとはな。
「次は
「向けるかバカ」
「なんでや!?」
「お前にやらせるとろくなことがないからな」
黒ツヤの件でもそれは明らかだ。ソイツを見ただけでガイストするような奴がちゃんと背中を洗えるとはとても思えない。
コイツにやらせるくらいならクロにやらせた方が断然マシだ。
「サッちゃん! 早く早く!」
「お前、アタシの話を聞いてたか?」
仕方がない。神に祈るとしよう。
「――アーメン」
「なんやそれ?」
「いいから。やるならさっさとやれ」
後は無事に終わってくれれば――
ザシュッ(何かがアタシの背中を切り裂く音)
ドサッ(アタシが倒れる音)
「ど、どないしたん!?」
「何をしやがったこのアマァ……!」
背中がめちゃくちゃ痛い。鋭い複数の刃物で同時に切り裂かれたかのような痛みだ。
まさか風呂場で背後から切り裂かれるなんて思いもしなかった。
「な、何があかんかったんやろ……?」
「殺すぞテメエ!? その手に持ってる物がアウトだろうがボケ!!」
両手にタワシとか鬼畜過ぎんだろ!? もはや悪意と殺意しか感じねえぞ!?
「ご、ごめんや。次はちゃんとするから……」
「いつつ……」
どうやらアタシは神に嫌われたらしい。にしても酷すぎだろ。
だからといってここまで痛い目に遭うとは思わなかったぞ。
「ほ、ほないくで!」
「頼むぜマジ……」
次こそちゃんとした洗い方であってほしい――
ザシュッ(何かがアタシの背中を切り裂く音)
ドサッ(アタシが倒れる音)
「カミソリをよこせぇ!!」
「あかんよサッちゃん! カミソリは凶器じゃないんよ!?」
「テメエに言われたくねえわクソッタレがぁ!!」
今度は両手に掃除用のブラシだと!? どんだけアタシを殺したいんだよ!?
「お前にやらせたアタシがバカだった……」
「じゃ、じゃあ前向いて!」
「絶対に向かねえよ。次また余計なことをほざいたらブチのめすぞ」
しかもお次は前からアタシを引き裂くつもりらしい。
お前はどっかの都市伝説に登場する怪人か何かか?
「お前は大人しく風呂にでも浸かってろ」
「ぶー……」
可愛らしく頬を膨らませてもダメだ。
「こういうときこそタオル風船だな……」
「……ま、まだやっとったん?」
「悪いかコラ」
身体を洗っているとジークに意外そうな顔で聞かれた。
うるせえな、こちとら好きでやってんだよ。
「それもサッちゃんらしくてええけどな」
「こんなことでアタシを褒めたのはお前が初めてだ」
まさかタオル風船で褒められるとは思ってもみなかった。
「サッちゃん、はよ風呂に浸からへんと風邪引くよ?」
「じゃあお前が出ろ。早急に」
「
いつからここまで頑固になったのか……昔のジークが消えつつある。
つーか……あれ? 昔のジークってどんな奴だったっけ?
「ふぅ……あったまるなぁ~」
「そやね~」
湯船に浸かったのはいいがなぜだろう。いつもより疲れている気がしてならない。
「どないしたん? なんや疲れてるように見えるけど……」
「それはきっとお前のせいだ。あとさりげなく抱きつくな」
「こうすればあったまるって本に書いてあったんよ」
「うん。どうでもいいからおっぱい鷲掴みすんのやめろ」
あまりにも自然体だったから気づくのが遅れたぞ。
ていうかなんの本を読んだらそういう結果にたどり着くんだ。
ただでさえ湯船に浸かっているというのにこれ以上暖まってなんの意味があるんだよ。
「チッ……何か言うことは?」
「もう一声や!」
「そうか! そんなに死にたいか!」
「サッちゃんあかん! ここでの打ち下ろしは洒落にならへんよ!?」
今の言葉を聞く辺り、反省する気は全くないみたいだ。ブチ殺すぞコノヤロー。
このあとはどうにかジークを土下座させ、無事にご飯を食べて無事に寝ることができた。
それでも寝る際にジークが顔を真っ赤にしながら侵入してきたのは言うまでもないが。
クロちゃんの出番が増えてもジークの出番が減るわけじゃない!←
《今回のNG》TAKE 48
「チッ……何か言うことは?」
「写真撮っといたで!」
「待て! 今の一瞬でどうやって撮ったんだ!?」
バカな。ここは風呂だぞ。
隠しカメラならともかく真正面から撮られるならアタシが気づかないなんてあり得ない。
「サッちゃんのことならお任せあれや!」
「ふざけんなこの変態乞食!」
「合わせてもあかんよ!
「まだそのネタ引きずってたのか……」
このあとシバき倒したのは言うまでもない。