死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

36 / 179
第36話「上目遣いってヤバイよな」

「ほら、お土産」

「…………ありがとう」

 

 ジークを連れて隣町に行った日の夜。アタシは買ってきたどら焼きをクロにあげていた。

 全く、今日も今日でいろいろあったから疲れたよちくしょうが。

 クロは水を得た魚のように喜んでいた。無表情でも目が輝くからわかりやすいな。

 しかも今は踊っているかのように体を回転させているからなおさらだ。

 

「喜ぶのはそこまでにして、晩飯作るからテーブルの上を片付けといてくれ」

「……わかった」

 

 とりあえずクロにタバコや灰皿が置いてあるテーブルの上を片付けさせる。

 アタシが誘ったとはいえ飯を食うからには手伝いの一つや二つはしてもらわねえとな。

 

「それと冷蔵庫からビール出しといてくれ」

「……了解」

「ついでにDVDも見るから準備よろ」

「任せて……!」

 

 DVDという単語が出た瞬間、クロはお菓子を見つけたとき並みに嬉しそうな声を出した。

 ぶっちゃけテレビの活用理由なんてこれしかない。ニュースやお笑い番組は最近いいのないし。

 そうしてるうちにもご飯はできあがった。メニューはもちろん約束通りラーメンだ。

 

「……サツキ」

「どうした?」

「…………どれがいいやつなのかわからない」

「あー……」

 

 そういやクロに選ばせるのって初めてだったな。

 

「そうだな……これにするか」

「……それは?」

「アニメだな。確か山登りするやつ」

「……そう。ご飯は?」

「もうできたよ」

 

 自分から聞いといて素っ気ない対応はねえだろ。

 思わずDVDケースを握り潰しそうになったじゃねえか。

 とまあ、ひとまずこれは置いといて飯にするか。

 

「……いただきます」

「あいよ」

「……!?」

「クロ?」

 

 クロが自分のラーメンを見て驚いていた。なんだなんだ?

 

「……サツキ」

「ん?」

「チェンジ」

「ダメに決まってんだろ」

「ネギが……ネギが多すぎる……!」

 

 そりゃそうだろ。だってお前のやつ――ネギまみれのラーメンなんだから。

 贅沢言うなよ。麺が入ってるだけマシだろうが。ちなみにアタシのはチャーシュー麺だ。

 

「大丈夫だ。麺はちゃんと入ってるから」

「…………そういう問題じゃない」

 

 いや、そういう問題だ。

 

「チェンジを要求する……!」

「やだ」

「ならサツキのやつを……!」

「好き嫌いは感心しねえな」

「こ、これ麺とネギしか入ってない……! せめて、せめてチャーシューを……! チャーシューをお恵み――」

「好き嫌いは感心しねえな」

「……………………」

 

 やっと諦めたのか、クロはその場で膝をついた。

 どんだけチャーシュー食べたかったんだよ。他にももやしとかもやしとかいろいろあったろうが。

 

「……サツキ」

「ん?」

「……好き嫌いは感心しない」

「アタシはいいんだよ」

 

 お前はお前、アタシはアタシなんだから。

 

 

 

 

 

 

 

「なあハリー」

「ん?」

「今度アタシん家で都市伝説の話でもしようぜ」

「……それって怖いやつじゃねーのか?」

 

 翌日。暇だから屋上で昼飯を食べつつハリーと会話している。

 ていうかお前、勝手に人様の炬燵に入ってくんなよ。

 せっかくの心地よさが台無しじゃねえかコノヤロー。

 

「バカだなお前は――怖いやつしかねえんだよ」

「ふざけんなよてめー!?」

 

 ハリーは顔を真っ青にしながらアタシに抗議してきた。

 しかしだなハリーよ……やっぱりその場で踞られると全然怖くないんだわ。

 

「ところで、あの三人は?」

「教室で弁当食べてるよ」

「あっそ」

 

 どうりでコイツ一人なわけだ。

 

「ところで、お前はインターミドルに出るのか?」

「それはこっちのセリフだサツキ。お前は出るんだろうな?」

「出るから宣戦布告したんじゃねえか」

 

 何を言っているんだコイツは。なんで出場しないのに宣戦布告する必要があるんだ?

 とはいえ、今年のインターミドル次第でアタシの今後が変わるけどな。

 

「ま、せいぜいアタシを楽しませてくれや」

「おめー何様だよ」

「不良様だよ。オラ、アタシを拝むんだ」

「断るに決まってんだろ」

 

 なんでやねん。

 

「拝めろよぉ! 拝んでくれよぉ!」

「なんでそんなに必死なんだお前は!?」

 

 ハリーの拝み姿が見たいからに決まってんだろ。

 別にアタシ自身が拝んでもらいたいわけじゃねえんだよ。

 ていうかそういうの好きじゃねえし。

 

「…………ほ、ほら、これでいいか?」

「おう(パシャ)」

「待て! 今写真撮らなかったか!?」

「気のせいだろ」

「だったらそのニヤニヤした顔をやめやがれ」

「はて? なんのことやら?」

 

 まあ、実際に写真は撮ったけどね。なかなかいいぞこれ。

 恥ずかしそうに上目遣いで拝むハリー。コイツは意外と売れそうだぞ。

 あとで校舎にバラ撒いてみよう。何かおもしろいことが起きるかもしれない。

 

「後は……下乳写真が撮りたい」

「変態かてめーは!?」

 

 失敬な。

 

「アタシは変態じゃない。ケンカ大好き娘だ」

「間違ってねーから余計に腹が立つ……!」

 

 だろう? アタシは世間にそういう人間として見られているはずだからな。

 ま、世間の目が怖くてケンカができるかってんだ。

 

「それよりもほら、下乳出せコラ」

「嫌に決まってんだろ!?」

「じゃあ水着を着てくれ」

「おめーはオレに何を求めてんだよ!?」

「えーっとなんつーか……あれだよ、エ――」

「言わせねーよ!?」

 

 じゃあどうしろってんだよクソッタレが。このままじゃ昼休みが終わっちまうぞ。

 まあ、写真を撮る理由は商売目的だけどね。お前のやつ、女子に人気なんだわ。

 

「ハリー! 頼む――」

「だから、嫌だつってんだろ」

「――裸Yシャツやってくれ」

「シバくぞてめー!?」

 

 あれ?

 

 

 ――しばらくお待ちください――

 

 

「ダメなものはダメだからな!」

「チッ! 今回だけは諦めてやるよ」

「……どさくさに紛れてタバコ吸おうとしてんじゃねーよ」

 

 あれから数分間の攻防が続いたが、結局ハリーは撮らせてくれなかった。

 まあいい。上目遣いで拝む姿は撮れたからな。あとはプリントするだけだ。

 

「さてと……」

「お、おい。何をする気だ……?」

 

 アタシはあらかじめ用意しておいたスピーカーを取り出し、校内に向かってこう叫んだ。

 

 

 

「お前らぁ!! 恥じらうハリーの写真がほしいか!?」

 

 

 

「なんてこと言うんだおめーは!?」

 

 なんてことってお前――商売だから仕方ねえだろ。それに……

 

 

『『『もちろんだあぁあああーーっ!!』』』

 

 

「お前らも応えなくていいんだよっ!!」

 

 ほら、まさに鶴の一声ってやつだ。めっちゃ盛り上がってんぞ。

 ちなみにこうしてやったのはこれで三回目だったりする。

 

「どーすんだよこの始末!?」

「お前が生徒一人一人に上目遣いを披露してやればいいんじゃね?」

「ふざけんなよ!? いやマジでふざけんなよ!?」

「はっはっは。おもしれーじゃん」

「おもしろくねーよ!!」

 

 お前の事情なんて知ったことじゃねえ。

 

「ま、別に一人でヤってる写真を拡散されるわけじゃねえんだから少しは落ち着け」

「これでもまだ落ち着いてるわっ! つーかヤってるってなんだよ!? どういう意味だよ!?」

 

 お前にはまだ早かったな。ていうか前に薄い本で見ただろうが。

 そんなこんなで、今日の昼休みは珍しく大盛況だった。主にハリーへの大歓声で。

 やったねハリー! これでまたファンが増えたよっ! ……ヤバイ、やっぱ裏声はダメだ。

 ちなみに当のハリーは周りには見えないように胃薬を飲んでいた。……何があったの?

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 1234

「こ、これ麺とネギしか入ってない……! せめて、せめてチャーシューを……! チゃッ!」


「………………もうやだ、喋りたくない」
「……いや、前のあれよりはマシだろ」
「…………そういう問題じゃない」


※クロちゃんは噛みネタが多いです。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。