死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第41話「砕け散るまで戦え」

「ジーク、先に行ってろ」

「サッちゃんは?」

「今日はちょっと先約があってな」

「先約……?」

「ああ、クラスメイトを迎えにいく」

「…………ならええけど」

「待て。なんだその決まった行動以外はダメだよみてえな顔は」

「何を今さら――」

「次は肩の関節を外そうか?」

「ごめんや。調子に乗りすぎました」

「とりあえず、これ持ってけ」

「……お金?」

「ジャンクフード代だ」

「もう少しくれてもよかったと思うんやけど……?」

「文句言うな。そんだけしか渡せないんだから」

(ウチ)、知っとるんよ? 最近サッちゃんが大金を入手したこと」

「あれはアタシのだ」

「サッちゃんのアホー!」

「やっぱ返せオラァ!」

 

 

 

 

 

 

 

「起きろハリー!」

「んー……あと五分……」

「起きろつってんだろうが!」

 

 選考会当日。コバンザメ三人組から必死に拝み倒されて仕方なくハリーを起こしに来たんだがなかなか起きない。

 なぜアタシが選ばれたのかは知らんが、さしずめコイツ特有のしぶとさが原因だろう。

 

「こんなとこでそれを発揮すんなよ……」

〈前にハリーさんが起こしに来てくれた際に彼女の顔に裏拳をかましたマスターがそれを言いますか〉

 

 そんな昔のことは忘れた。

 

「最終警告だ。起きろ!」

「んー!」

「がっ!?」

 

 なぜだ。なぜ起こしてる側のアタシが殴られるんだ。

 しかもご丁寧に顔面を狙ってきやがった。

 

〈こればかりは因果応報ですね〉

「否定できないのが悔しい」

 

 まあいい。なんにせよ、コイツは最終警告を無視した。こっからはアタシのターンだ。

 

 

 ゴキッ

 

 

「―――っっ!?」

「これで大丈夫だろ」

〈大丈夫じゃありません。大問題です〉

 

 これだけやったのにもし起きなかったらアタシはハリーを尊敬してやる。

 アタシは殴られたところを押さえながらハリーの家から出る。

 

「お、サツキ」

「リーダーは?」

「もう起きるだろ」

 

 

『右肩の関節がぁ――!!』

 

 

「ほらな」

「お前は何をしたんだ!?」

「なにってお前――関節を外しただけだが?」

「当たり前だろ? みたいに言うな!」

 

 起きなかったハリーが悪い。

 

「使命は果たした。次の約束があるから先に行っとくわ」

「お、おう――いや、せめてリーダーの関節元に戻せよ!?」

「やだ、めんどいし」

 

 アタシはミアの申し出を普通に断ってその場から立ち去る。

 全く、朝から重労働させやがってこんちくしょう。

 

 

『リーダー! 大丈夫ですか!?』

『大丈夫なわけあるか! めちゃくちゃいてーよ!』

 

 

「……大変だな、アイツも」

〈他人事みたいに言うのはやめてください〉

 

 さて、会場に行くとしよう。今日は先約がいっぱいなんだよ。

 アタシは一服しながらジョギング感覚で走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「あれはねえよマジで」

〈何がですか?〉

「タスミンの『えいえいおー!』だよ」

 

 会場なう。途中でめんどくさくなったから家でゴロゴロするつもりだったのだが、ハリーからタスミンが選手宣誓をすると聞いて笑いに来てやった。

 これは来て正解だったわ。まさかこの年になってあの掛け声を聞けたのだから。

 

「ではサツキならどう言うのかしら?」

「アタシか? そんなもん――」

 

 一旦言葉を句切り、アタシは同行していたヴィクターに堂々と告げた。

 

 

 

 

「砕け散るまで戦え」

 

 

 

 

「アウトですわ」

 

 解せぬ。

 

「いやいや、この大会にはぴったり過ぎるだろ」

「インターミドルは殺し合いじゃないのよ!?」

 

 しまった。いつもの癖が出てしまった。

 

「ま、気にすんな」

「はぁ、まったく……あら?」

「なんだ?」

 

 何かを見つけたヴィクターの視線を追うと、ジャンクフードを貪るフード野郎がいた。

 うん、奴だ。最近アタシの家に居候しやがったアイツだ。

 

「見ーつけた」

「んあ?」

 

 後ろからいきなりフードを取るとは見事なり。フードの主は言うまでもなくジークだった。

 つーかマジでジャンクフード買ってやがるよ。これには驚きだな。

 

「ヴィクター? それにサッちゃんも」

「久しぶり、ジーク」

「さっきぶりだな」

 

 今朝送り出して以来だ。

 

「そんなに深くフードをかぶってちゃダメよ。見えづらくないの?」

「目立つの嫌やもん」

「見方を変えれば不審者だけどな」

「う……」

 

 言い訳の一つもできないらしい。というか不審者扱いされてもなんにも言えねえなこれ。

 着ている服は真っ黒だし、顔はフードで隠してるし。

 

「またこんなジャンクフードを!」

「あー! せっかくサッちゃんがくれたお金で買ったのに!」

「……サツキ?」

「…………まさかホントに買うとは思わなかったんだよ」

 

 あの金額ならおにぎりくらいは普通に買えたはずなんだが。

 ていうかアタシが悪いみたいな感じで睨むのやめてくれ。

 

「念のために聞くけど、ちゃんとしたご飯は食べてるの?」

「サッちゃんのおかげで人並みには。それはたまたまなんよー!」

 

 こういうときに名前を出されるのってなんかイヤだなぁ。めんどくさいし。

 別に恥ずかしいわけじゃないぞ。うん、恥ずかしいわけじゃないからな。

 

「予選が始まる前にあなたと会えて良かったわ」

「アタシは会いたくなかったがな」

(ウチ)、なんもしてへんよ……?」

 

 今はなんもしてないな。今は。

 

「……去年はごめんやった。ヴィクターと当たる前に欠場してもーて」

「ちゃんと謝ってもらったし、それはもういいのよ」

 

 こうして見るとコイツら、マジで一つの家族に見えなくもないよな。

 確か昔馴染みなんだっけ? いつからここまでの関係になったのかは知らんが。

 

「――あなたは私の目標なんだもの」

「前から言ってるやん。(ウチ)は目標にしてもらうような選手とちゃうよ。サッちゃんにも似たようなこと言われたし」

「……サツキ?」

「……………」

 

 頼むからこっちを見るな。そして睨むな。

 

「それに、ヴィクターや番長たちの方がずっと凄い」

「それでも私は好きよ。あなたの強いところも、戦技も」

 

 確かに、コイツのそういった部分は嫌いじゃない。強い奴と戦うのはおもしろいからな。

 だからこそ、一昨年に起きたあの一悶着だけは絶対に許せなかった。

 

「見てたんでしょ? 選考会。今年の選手達はどう?」

「何人か面白い子が――」

 

 

「あーくそ! すっかり遅刻しちまった!」

「あれから大変でしたからね~。いろいろと」

 

 

 おいおい、誰だか知らねえけど空気読めよ。今おもし――おもしろいところだったんだからさ。

 その空気を読まなかった奴はこっちの存在には気づかずどんどん近づいてきた。

 

「ま、結構面白い選考試合も見れたし、良しとするか……お?」

 

 なんだ。誰かと思えばハリーじゃねえか。関節は……ちゃんとハメ直せたようだな。

 そこはハメ直すなよ。外されたまんまにしとけよ。

 

「ポンコツ不良娘! どうしてあなたがここに?」

「ヘンテコお嬢様じゃねえか」

 

 泥試合した者同士が再会するとか、小競り合いの予感しかしねえよ。つーか……

 

「誰がポンコツ不良娘だと!?」

「またなのっ!?」

「おめーが反応するのかよ!?」

 

 これ、見方を変えたらまんまアタシの悪口にもなり得るからなマジで。

 せめて不良を取り除け。でないと体が勝手に反応してしまうから。

 

「そういや、お前って今年は選考会からスタートだったか?」

「違うわよっ! 私は6組の第1枠(ファーストシード)っ!」

「あー、そうだったか?」

 

 また始まったよ。めんどくせえ。

 

「こちとら、お前の事なんざ眼中にねーから見落としてたのかもしんねーな」

「あなたこそ、今年は早めに落ちてくれると助かるわ。ていうか負けちゃって? あなたやサツキと戦うの面倒臭いから」

「なんだとてめー!?」

 

 おいコラなんでアタシの名前を出しやがった。

 しかしハリーよ、それをスルーしてくれたのはナイスだ。後で褒めてやる。

 

「あぁ、ヴィクターも番長もサッちゃんも……」

「待て。アタシは見ていただけでなんも関係ないんだが?」

 

 マジでなんもしてないぞ。いやマジで――

 

 

 ガキンッ(バインドが掛けられる音)

 

 

 突如ハリーとヴィクターの四肢にバインドが掛けられた。――そして、なぜかアタシにも。

 

「なんですか! 都市本戦常連の上位選手がリング外でケンカなんて!」

 

 声が聞こえた方を向くと、そこにはデコと眼鏡が特徴のえいえいおー! ことエルス・タスミンがいた。

 おぉ、このバインド掛けたのテメエかぁ。そっかそっかァ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――テメエは半殺し決定だなァ」

 

 

「さ、サッちゃん……? なんかいろいろと怖いんやけど……?」

 

 安心しろ。気のせいだから。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 19

「お、サツキ」
「リーダーは?」
「もう起きるだろ」


『ぎゃぁ――!!』


「ほらな」
「お前は何をしたんだ!?」
「なにってお前――ふっ」
「い、言えないようなことなのか……?」

 起きなかったハリーが悪い。


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