「たでーまー」
「サッちゃんのアホー!!」
「おおうっ!?」
帰宅早々、いきなりジークが殴りかかってきた。なんなの一体。
「なんのつもりだ?」
「なんのつもり……やと……? 自分のやらかしたことも忘れたんか!?」
「うん、忘れた。なんかやらかしたっけ?」
「
「いや、まず約束なんてしてねえし」
「一緒に試合を観るって約束したやろ!?」
「だからしてねえって」
「こ……このわからず屋――!!」
「ぬおっ!? 危ねえなクソヤローが!」
涙目になったかと思いきや拳の連打を繰り出してきた。
アタシはこれをかわしたり受け流したりしつつリビングにたどり着いた。
「鉄拳制裁やぁーっ!」
「あらよっと」
「ぶへっ!?」
ジークが突き出してきた右拳をかわすと同時に右腕を掴み、そのまま背負い投げをかます。
怒りで我を忘れていたのか、ジークはこれをモロに食らった。
投げ技を十八番としているお前ならかわすと思っていたんだがな……。
「ったく、今のは避けて当然だろうが」
「あいた~……待って。なんや今日のサッちゃん、結構理不尽な気がするんよ」
「いつもこんな感じだろ」
「いつもはもっと優しいんよ!」
「そうか。ヘドが出るな」
優しいとか、アタシは善人かっての。別にそこまで善が嫌いというわけではないが。
なんか最近は偽善とかそういった言葉が流行ってるからな。あんまり良い気はしない。
「ま、さっさとプライムマッチ見ようぜ。明日は一応早いんだし」
「うー……」
唸ってもダメだ。アタシからすればウザいだけなんだよ。
――数十分後――
「なるほどね……アホだろ」
「う、
「うん、もちろんそうだけど少し黙ろうか。な?」
ぶっちゃけるとジークのせいで集中できなかった。内容、どんな感じだったかな……。
なんかアタシが葬ったはずの眼鏡な生徒会長がいたのは気のせいだろう。もしかしたらアイツ、双子なのかもしれない。
「ただ、自分の腕を撃つのはねえわー」
「そ、そやろか?」
「ねえよ。あそこは力ずくで引きちぎってナンボだろうが!」
「皆がサッちゃんみたいにできるんとちゃうんよ!?」
え? そうなの?
「だが、鎖を口にくわえて引き寄せたのはおもしろかったぞ」
「番長らしいって感じやったね」
「アタシと当たったときはボコボコにしてやるけどなぁ」
アイツらには絶対的な差というものを見せてやる。とはいえ……
「アタシも予選あるから勝たなきゃな。余裕だけど」
「そんなんやと足元をすくわれてまうよ?」
「すくわれても勝つ。アタシを誰だと思ってやがる?」
「……サッちゃんらしいわ」
「そういうお前こそ、案外早めに負けるんじゃねえの?」
「大丈夫や。サッちゃんと当たるまでは負けたくないから」
そこはアタシではなく他の奴を意識してほしかったな。
「この話はしまいだ。あ、そういやおでんが残ってるから食べるか」
「お、おでん……やと……?」
「やんねえよ?」
「ちょい待ったぁ! サッちゃん、勝負や!」
「ほう。勝負内容は?」
「心理戦ありのジャンケン!」
「ふっ」
「待って。なんで
コイツ、わざわざ負けに来ているということに気づいていないらしい。
実はそれ、アタシは結構前にハリーとやったことがあるんだよ。
「まあええわ。ほんなら、
「そうか。ならアタシはお前がパーを出さなかったら――ぼっきりと殺す♪」
「ちょ、どういう意味や!?」
「ジャンケン」
「わぁぁっ!」
チョキ(アタシ) パー(ジーク)
「決まりだな。お前にはやらん」
「も、もう一回!」
「ジーク。命は大切にしろ」
「さ、サッちゃんに命の大切さを諭されるなんて……屈辱や……っ!」
なんだとこのアマ。
「何度でも聞くけどさ、お前はマジでアタシをなんだと思ってんだ?」
「そ、そんなん――死と戦を運ぶ女神様や!」
死+戦+女神=
アタシの呼び名を分解しただけじゃねえか。ナメてんのかお前は。
「ではお前に死を」
「ま、待ってサッちゃん! 生身の人間に身体強化打撃はあか――」
そんなこんなで今日もいつも通りだった。明日は目白押しな試合がいっぱいあるけど……アタシも試合があるから見てはやれんな、ほとんど。
「で、どうしてお前らと見なきゃなんねえんだよ」
「私に会ったのが運のツキだと思ってくれ」
「ざけんなこの負け――負け犬!」
「事実だからといって堂々と言うのはやめてくれ! それと言い直したつもりだろうがまったく変わってないよ」
「あ、あの、二人とも落ち着いてください!」
「第3ラウンドが始まりますよ!」
翌日。自分の試合を終わらせたアタシはヴィヴィオ対リナルディの試合を観に来たのだが、運悪くシェベルに捕まってしまった。
しかもティミルとマゾ――ウェズリーまでいる。なんでいんのお前ら。
一人で観ようと思ったらこれだよ。やっぱりすっぽかすべきだったのかもしれない。
「……サツキ。頼むからこの子達の前でタバコは控えて――た、タバコじゃない!?」
「タバコがなんだよ? これはガムだぞ」
「一体どういう風の吹き回しかな?」
「今切らしてるんだよ」
朝起きてみれば箱が空になっていたんだ。これじゃ一服できねえじゃんか。
そんなわけで持参したのが今噛んでいるフーセンガムだ。これがまたなかなか便利でね。
「にしてもすげえ打ち合いだな。前半がどうだったかは知らんけど」
「前半からあんな感じです」
「うん。どっちも負けてないよ」
「ふーん……!?」
おいおい、まさかとは思ったがやはりできるのか。思わず目を少し見開いてしまう。
――両手両足の抜剣。
リナルディの抜剣を初めて見たときに予想はしていたが、この目で見れるのはもう少し先だと思っていた。
それをこれほど早い段階で見れるとはな。それだけヴィヴィオが手強かったのだろう。
「これは遅刻しなきゃよかったなぁ……」
「サツキ?」
「あ? なんだ?」
「…………いや、なんでもない」
なんなんだよ、一体。
「か、会場が揺れました……!」
「途方もない魔力量だ」
「…………」
確かにすげえよ、魔力量は。だがそれだけだ。そんでもって当たればヤバイだろうが、当たらなければどうということはない。
それに今戦っているヴィヴィオが攻略法を教えてくれた。
あれの劣化版なら――やめとこう。アタシの性に合わねえや。
「へぇ、膝蹴りか」
〈何気に初めて見ましたね。今年のインターミドルで使った人は〉
「そうだな。早く
〈話、聞いていましたか?〉
すまん、聞いてなかった。にしても手応えなさすぎるんだよな、最近の連中は。
……もしかして他の組にいる奴らが異常なのか? 特にルーキーが。
「あれは決まったな」
〈はい。もう左腕は使えないでしょう〉
ヴィヴィオの左腕にリナルディの蹴りがドンピシャで直撃した。
あれはもう互いに限界だな。特にヴィヴィオは左腕が使えない。
かといってリナルディも立っているのがやっとだろう。できればもう少し見ていたいが――
「アタシ、帰るわ」
「え? さ、サツキ?」
――見てるだけじゃつまんねえ。もう抑えらんねえよ。
そう思いながら、アタシは観客席から立ち去った。そのあとはある種の衝動を抑えるために裏路地で大暴れしたけどな。
ちなみに観れなかったティミルとストラトス、ハリーとウェズリーの試合はしっかりと録画しておいたから問題はないはずだ。
《今回のNG》TAKE 12
確かにすげえよ、魔力量は。だがそれだけだ。そんでもって当たればヤバイだろうが――
――当たらなければ
〈絶対に言うと思いました〉