「お願いします!」
「んー……やっぱり悪いよー」
「そこをなんとか!」
「さ、サッちゃん……」
「いいんじゃねえの? ていうかどうでもいい」
「ええー……」
「必ずお役に立ちますから!」
「ほら、コイツもこう言ってるんだし」
「でも……」
「タスミン、オーケーだそうだ」
「サッちゃーん!?」
「ほ、本当ですか!?」
「
「そんじゃ、当日は任せた」
「はいっ!」
「さ、サッちゃん……?」
「アタシは帰る」
「サッちゃんのアホー!」
「やっほー!」
「ぶふっ!?」
翌日。久々に予定のないアタシはヴィクターの屋敷に訪れた。マジで久しぶりだわ、この感じ。
「やっほー! じゃないわよっ! 出会い頭にラリアットをかますなんてバカなの!? あなたバカなの!?」
「おもしれーじゃん」
「どこがおもしろいのか説明してほしいのだけど!?」
自分で考えてくれ。
「んで、そっちはどうなんだ?」
「今のところ問題ないわ。そういうあなたは?」
「楽勝。このままいけば都市本戦は確実だな。つーか見てねえのか?」
「あなたなら絶対に勝ち上がってくるもの」
「すげえ確信の強さだな」
どうしたらそんな確信が持てるのかぜひとも知りたいところだ。もしかしてアタシに何か期待でもしているのか?
だとしたら照れるじゃねえか。まさかそこまで注目されるなんて。
「ハリーの試合は?」
「一応、一応見ましたわ」
「じゃあ『ハナから通じない』のか『対策ができる』のかどっちなんだよ?」
「待ちなさい。どうしてあなたがそれを知っていますの?」
「エドガーから聞いた」
でなきゃ知ってるわけねえじゃん。聞いたときはおもしろくてちょっと笑ったけどな。
明らかに注目してる奴のセリフだったからな。いわゆるツンデレってやつか?
「まったく……」
「そういやお前、アピニオンをボコったんだって?」
「アピニオン……もしかしてシャンテ選手のことかしら?」
「そうそう」
「彼女は強かったわよ?」
「あっそ」
正直どうでもいいことだが、多分アイツには勘違いされてるぞ。
負けたあと絶対に拗ねただろうな。なんだかんだで天邪鬼っぽいし。
「そういうあなたはどっちかしら?」
「そうだなぁ……どっちでもねえよ。通用はするし、対策もしねえ。出したきゃ好きなだけ出しゃあいい、って感じだな。出したところで結果は変わんねえんだし」
「その自信がどこから沸いてきているのか知りたいところですわね」
アタシだって知らねえよ。ただ、お前らと違って鍛練で強くなったわけじゃない。
強いて言うなら歩んできた道が違うといったところか。
そんなこんなで、アタシとヴィクターはお茶を飲みながら共に過ごしたのだった。
「というわけでアピニオン、スパーしようぜ」
「なんでですか!?」
さらに翌日。負け犬となったアピニオンの顔を拝み、どんな戦法でヴィクターと戦ったのかを確かめるために聖王教会を訪れた。
なんかシェベルといいコイツといい、最近負け犬の顔を拝むことが趣味になってる気がするけど気のせいだと思いたい。
「ちなみに許可はとってある」
「手を回すのが早すぎる……!」
さすがに無断はあれだからな。いや、別に無断でもいいけどさ。
いざというときには全部アピニオンに押しつけることができるし。
「あれ? もしかしてビビってる?」
「そ、そんなことな――」
「本音は?」
「――今すぐ泣きたいです」
すげえ変わり様だ。いくらなんでも酷すぎる。ここは年上としてヤキを入れてやるか。
「おら、さっさと構えろ」
「え? サツキさんはそのままなんですか?」
「テメエごときにバリアジャケットはいらねえんだよ」
これはマジだ。ストラトスやイツキやノーヴェのときはフェアにするためだけに着用したけどな。
普段は着用せずにケンカしてるからなぁ。ていうかそんな必要ねえし。
「それはちょっと――バカにしすぎ……!?」
「なんだよノロマ」
いきなり視界から消えたかと思えば人様の背後をとりやがったんで、逆に奴の背後へ回り込んでやった。
双剣の向きを見る限り、どうやら左側から斬りかかるつもりだったらしい。
……へぇ、やはりアームドデバイスか。しかもヌエラと同じデザインだな。
「ふぅ…………」
「緊張しすぎだろ。もうちょい肩の力抜けよ」
一旦距離を取ったアピニオンは、いつもの余裕はどこへやらと言わんばかりにしっかりと構えていた。
ヴィクターから聞いた話だとあっけらかんとした態度だったらしいが……
「サツキさんが相手なのにできるとでも?」
どういう意味だ。
「そういやアピニオン。一つ思い出したことがあるんだわ。お前さ、アタシが前に来たときなんて言ったよ?」
「な、なんにも言ってませんが」
「『二度と来ないでください』だっけかぁ? つくづくいい度胸してんな、お前」
「聞かれてた!?」
アタシの五感をナメるな。伊達に幼少期を山籠りに費やしたわけじゃねえんだよ。
「そのときに決めてたことがあるんだよ」
「決めてたこと? い、嫌な予感しか――」
「テメエは全殺し決定だ」
「最悪だぁ――っ!!」
嘆いたってもう遅い。キサマはアタシを怒らせたんだよ。
スパーついでにボコボコの刑だコノヤロー。服ごとミンチにしてやる。
「いくぞゴラァ!」
「来ないでくださいー!」
「ならもっと早く逃げろ腰抜けが!」
「…………腰抜けじゃ、ありませんっ!!」
「おっ?」
逃げようとしたかと思えば振り返ると同時に斬りかかってきたので、こっちも弾き返す形で双剣に拳を打ち込んだ。
これは驚いたな。まさか逃げずに向かってくるなんて思いもしなかったぞ。
「逃げたところでトラウマが増えるだけですからね。どうせなら真っ向勝負した方がマシだと思ったんですよ」
「へぇ、カッコいいこと言うじゃん」
ならそのセリフに相応しいものを見せてもらおうじゃねえか。
「こいよ」
「……それじゃご遠慮なく!」
ちょっと気合いが入ったらしいアピニオンはそれなりのスピードで肉薄し、左側から斬り込んできた。
アタシはこれを最低限の動きだけでかわし、二、三歩ほど後退する。
今度はさっきと同じスピードでアタシの後ろに回り込み、頭部目掛けて双剣を振るってきた。
「よっと!」
「また白刃取りぃ!?」
「いや、普通に刀身を掴んでるだけだが?」
当然アタシはこれに反応し、すぐに双剣を受け止めた。
刃物はいろいろあって慣れちまったんだよ。主にシグナムや……ケンカのせいで。
ていうかまたってどういうことだ。まさかヴィクターに真剣白刃取りでもされたとか?
「カッコいい捨てゼリフ吐いたわりには大したことなかっ――」
「後ろががら空きだよっ!」
「――あ?」
後ろから声がしたかと思ったら新たなアピニオンが出現していた。幻術という名の増殖である。
えーっと……確かに遠慮なくって言ってたけどそこまでやるか?
これがお前の言う真っ向勝負ってやつか。けどな……
「オラァッ!」
アタシは背後から迫ってきた第二のアピニオンを後ろ蹴りで蹴散らし、最初のアピニオンに関しては投げ技をかましてすぐにマウントを奪った。
マウントを奪う経緯が少し異なるが……あのときと同じだな。この光景は。
「本体と分身の位置が反対ならよかったぞ」
「…………いつあたしが本体だと錯覚していたんですか?」
なん……だと……?
「――隙ありっ!」
「っ!?」
いきなり上から声が聞こえたかと思えば、第三のアピニオンによる奇襲だった。
なるほど。コイツが作れる分身は一人だけじゃなかったってことか。
「だったらこうすればいい。必殺、アピニオンバリア!」
「え、ちょ――」
「あ」
アタシはマウントを奪っていた方のアピニオンを盾にすることで奇襲を回避した。
身代わりとなって攻撃を食らったアピニオンは跡形もなく消失していた。
マジで分身だったのか、あれ。いつ入れ替わったんだ?
おそらく本体であろうアピニオンの動きが緩んだ瞬間を見逃さず、すぐさま奴の左側へ回り込む。
「コラ」
「しまっ!?」
「――何が隙ありだバカッ!」
そして動揺しきった奴を左拳で殴り飛ばした。
拳をモロに食らったアピニオンは数十メートルほど吹っ飛んだところで沈黙した。しかし……
「大したもんだな。まだ意識があるとは」
「あはは……もう動けませんけど」
「一応聞いておく。なんで分身した?」
「…………ダメでした?」
「アタシじゃなかったらアウトだ」
「ですよねー……」
「じゃあな」
「せめて起こしてくださいよ……」
コイツの戦法は大体わかった。
コイツはまだ弄り甲斐がある。そう思いつつ、アタシは教会をあとにした。
このあとヌエラのものであろう怒鳴り声が聞こえてきたけど、アタシは絶対に悪くない。
だって先に手を出してきたのはアピニオンだし。アタシじゃねえし。
「シャンテ。サツキとスパーしたんだって?」
「ま、まあね」
「どうだった? 見た感じは結構いい勝負してたみたいだけど」
「………………こ、怖かった」
「え?」
「もしあの人が本気を出したらと思うと……命の危険を感じずにはいられなかった……!」
「しっかりしろシャンテー!」
《今回のNG》TAKE 33
「いくぞゴラァ!」
「来ないでくださいー!」
「ならもっと早く逃げろ腰抜けが!」
「言われるまでもなくそうするつもりですよ!」
「逃げてんじゃねえぞこのアマァ!!」
「逃げていいのかそうでないのかどっちなんですかぁ――っ!?」