死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第52話「フラグには勝てなかったよ……」

「はよ行こサッちゃん!」

「離せジーク! アタシは治療中なんだ!」

「サッちゃんは試合あらへんから関係ないやろ!」

〈それに治療といっても少し手を痛めただけですし〉

「お前は黙ってろ」

「はーやーくー!」

「行かねえつってんだろ! テメエの試合なんざどうでもいいんだよ!」

「外にヴィクター待たせてるから! サッちゃん、ウェルカムや!」

「ウゼえ! お前がウェルカムを使うとひたすらウゼえ!」

「サッちゃん――」

「行かねえって何度言えばわかるんだよ」

「――生きて、いたい……?」

「よし待ってろ。三分で準備を済ませる」

 

 

 

 

 

 

 

「準備は万全よね?」

「うん」

「じゃあアタシは帰ってもいいか?」

「あかんよ。サッちゃんには聞きたいことがあるんやから」

 

 ついにやってきた運命の日。今日は地区予選最大の注目試合こと四回戦プライムマッチ――ストラトス対ジークの試合だ。

 アタシは行くのがめんどくさかったのでこれをボイコットしようと思ったのだが、ジークに脅されやむを得ず来てしまった。

 仕方ねえだろ。そのときのジークは笑顔なのに目からハイライトが消えており、両手にはガイストのような何かという死亡フラグのオンパレードみたいな状態になっていたんだから。

 もし断ろうものならアタシの我が家がお星様となっていたに違いない。

 

「んで、聞きたいことってなんだよ」

「あの子と戦ったことあるってほんま?」

「あの子って今日の対戦相手か?」

「うん」

「待て。なぜお前がそれを知っている」

「スミさんが教えてくれたんよ」

「ああ……」

 

 なるほど。それなら納得だ。姉貴なら暴露しても不思議じゃねえし。

 

「サッちゃんから見て、どう思う?」

「別に。ただ、世の中ナメんなとは言ってやりたい」

「何があったんや……」

「世の中ナメんな」

(ウチ)への言葉やったんか!?」

「いや、お前ら旧ベルカの末裔への言葉だ」

「そ、それやとサッちゃんとスミさんも含まれてまうよ?」

「ジークの言う通りですわ。あなた、仮にも真正古代ベルカ継承者でしょう?」

 

 しまった。そこまでは配慮してなかった。

 

「すみません、そろそろ入場準備を!」

 

 そんなどうでもいい会話をしていると、ジークのセコンドとなったタスミンがやってきた。

 ていうか死んだはずだろアイツ……なんで生きてんだよ。幽霊かっての。

 

「あ、これ食べてからでも……」

「いえ、そこまでお急ぎでは!」

「ごちそうさま」

「相変わらず食うのは早いな」

「おかげさまで」

「え、えーっと、お二人はどういう――」

「それ以上聞くとお前の命がなくなるぞ?」

「なんでもありません……!」

 

 危なかった。ジークがアタシん家の居候だとバレたらいろんな意味でマズイからな。

 なんとか誤魔化せてよかったよ。もしバレていたら再びタスミンを葬る必要があったし。

 

「ほんならヴィクター、サッちゃん。いってきます」

「ええ、頑張りなさい」

「おう、死んでこい」

「今日ぐらいは普通に見送ってほしいんよ……」

 

 だが断る。

 

 

 

 

 

 

 

「うはは、器用だなあいつ!」

「ベルカ古流の使い手ならそう珍しい技でもありませんわ」

「ってことはサツキも使えんのか?」

「朝飯前だ。とはいってもアイツみたいに投げ返すわけじゃねえけどな」

「お前の場合はちょっとした倍返しだっけか?」

「そういうことだ」

 

 場所は変わって観客席。アタシは成り行きでヴィクターやハリーと一緒にジーク対ストラトスの試合を観戦している。

 今起きたことを説明すると、ジークの弾丸をストラトスが投げ返したところを見たハリーが興奮し、ヴィクターが解説した。こんな感じだな。

 

「低空タックルか」

〈まるでストラトスさんを試しているかのような攻撃ですね〉

 

 懐かしいな。アタシのときはジャンプしてからの踏みつけで対処したっけか。

 ストラトスは蹴りで対処しようとするが、逆にその脚を掴まれて投げ技をかまされ、そのまま関節技(サブミッション)を掛けられていた。

 

「お、蹴りで脱出したか」

「サツキはシンプルに力ずくだったよな」

「ええ。今でも信じられませんわ」

「お前らはそろそろ現実を見た方がいいぞ」

 

 いくらアタシがジークの関節技(サブミッション)から力ずくで脱出したことがあるからってそこまで驚くことはねえだろ。

 小細工する必要がなかっただけだし。……ってことはストラトスのあれは技術的な何かか?

 

「アホかあいつ!? ダウン判定なんだから少しは休めよ!」

「焦っちゃったんですかね?」

「あの子からすればこれは試合ではなく、きっと戦場なんでしょう」

「戦場…………」

「ハリー、こっち見んな」

 

 なぜかハリーにジト目で睨まれた。解せぬ。アタシはなんもしてないのに。

 ちなみに何が起きたのかというと、ストラトスがジークに投げ技を二連続で食らわされたのにすぐさま立ち上がったのだ。

 これにはさすがのハリーも焦りの色を隠せないでいる、というわけだ。

 

「お、『鉄腕』を解放したぞ」

「確か球速が――」

「その鉄腕じゃありませんわ!」

「十万馬力の少年ロボ――」

「そっちでもないわよっ!」

「………………安心しろ、冗談だから」

 

 なんだよ、ちょっとふざけてみただけじゃねえか。にしてもあれを見るのは久しぶりだ。

 

「古流ベルカの武術の世界は広いようで狭いものですわ」

 

 なんかヴィクターが解説を始めたけどスルーしておこう。

 一般人のアタシには関係のない話だからな。それにしても……

 

「黒のエレミア、ね……」

〈どうしました?〉

「いや、あれってそんなにスゴいものなんか?」

〈凄いに決まってるじゃないですか〉

 

 そんなことは意識せずにやり合ったからなぁ。ていうかどうでもいい。

 どういうわけかストラトスは感情的になり、とにかくジークに拳を打ち込んでいる。

 つーかガンガンガンガンうるせえよ。耳障りなんだけど。

 

「なんかストラトスの奴、クラッシュエミュレートがどんどんヤバくなってるような……」

「あれは防護武装らしいからな」

「防護武装……?」

 

 え? そうなの? アタシはてっきり鉄の手袋かと思ってたよ。――飾りの。

 まあ、納得はできる。あれがあるから腕に負荷を掛けることなく全力が出せるってことだな。

 

「……ちょっとトイレ」

「ん? ああ、早めに戻れよ」

 

 このとき、まさかジークがストラトスのカウンターでクリーンヒットを食らわされていたなんてアタシは知るよしもなかった。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 19

「お、『鉄腕』を解放したぞ」
「確か球速が――」
「そっちの鉄腕じゃありませんわ!」
「十万馬力の少年ロボ――」
「そっちでもないわよっ!」
「おもしれーじゃん」
「さすがに空気読んで冗談だって言ってくれ!」
「やだよ。めんどくせえ」
「あなたの将来が心配になってきましたわ……」


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