「サッちゃん、もっとぎゅってして!」
「するわけねえだろ」
「おねーちゃん、もっとぎゅってして!」
「死ね」
ただいまクロを探すために動き回っているのだが、なんかジークがいつもよりうるさい。
さっきまで大人しかったのになんなんだよ一体。幼女になったのがそんなに嬉しいか?
ってかしがみつくな。か弱い幼女っぽくしがみつくのやめろ。
「うぅ……ほ、ほなちゅーして!」
ぶっ殺してもいいだろうか?
「はぁ、もう喋んなクソガキ」
「なんでや!?」
ウゼえからに決まってんだろ。それ以外に何があるってんだよ。
まさか人格まで幼女になったってのか? 全く、冗談じゃねえぞ……。
「サッちゃん」
「今度はなんだ」
「……あのときのこと、覚えてる?」
「いつのこと――」
「一昨年のことや」
「……………………当たり前だろ」
あれだけは忘れたくても忘れられねえよ。
「覚えとったんか……」
「忘れてたのはお前の方だろ」
「………………」
マジで忘れてたのか……いや、忘れたかったという方が正しいか?
その証拠に、指摘されたジークは気まずそうに目を逸らしつつ顔を俯けている。
「言っとくがぜってーに忘れねえぞ」
「まだ怒ってるんか……?」
「……まあな」
あれで怒らない奴は相当なお人好しに違いない。それかただの抜けてる奴か。
「ほら、行くぞアホミア」
「う、うん――
「めんどいから」
それにお前、アタシの胸に顔を寄せてばっかじゃねえか。
はっきり言って邪魔でしかない。あとくすぐったい。
ていうか手を繋いでやってるんだから感謝してほしいぐらいだ。
「お~い魔女っ子~!」
「チャンピオン――!?」
「あ?」
なんかさっきよりも広い場所に出たかと思ったら大人モードのストラトスと遭遇した。
……あれ? 確かコイツの場合は武装形態っていうんだっけ?
まあそれは置いといて、とりあえず状況を確認してみようか。
やり合った形跡がある広場、ルーテシアに大人モードのヴィヴィオ、アタシを見て構え出したストラトス。そして薄い本よろしくと言わんばかりの格好で縛られた……クロ、だよな?
ここから導き出される答えは――事後ですね、わかります。
つーかクロは外見が大人びてるから一瞬わかんなかったぞ。
「あの子の魔法にやられちゃいました? ……なんでアインハルトは構えてるの?」
「恥ずかしながら~」
「それは――」
「ストップやハルにゃん! 今攻撃したら
チッ、余計なことを言いやがって。まあ、一応感謝しておこう。
ストラトスがこちらを睨みつつも構えを解いたし。いやいいんだよ? やっちゃっても。
「クラウス、エレミア……! 私は――呪うことをやめない」
「クロ?」
恨みの籠った声がした方を振り向くと、クロがバインドによる拘束から脱出すると同時に背中の翼を巨大化させていた。
にしてもすげえ迫力だな。見た目は魔女なのに。悪魔と融合でもしたか?
そういやプチデビルズがいないな。どこに消えたんだよアイツら。
「私を見捨てたあの王たちを、私は絶対に許さないから――!」
「来ます!」
「黒炎!」
明らかに激おこなクロは無数の弾をほぼ全域に、かつ見境なく撃ち込み出した。
さすがにこれはヤバイ。こうなったらジークを盾にして――どこ行きやがったアイツ!?
「ちょっと待って!」
「あーもう! こっちにまで撃ってんじゃねえよ!」
「…………………………あ」
今気づいたのか。
「待ってってばー!」
黒炎を回避しつつクロとの距離を詰めたヴィヴィオの顔前に箒が突きつけられた。
なるほど、槍としての用途もあるのか。魔女にとっては乗り物も武器ってか?
ヴィヴィオはそれに物怖じすることなく両手を上げ、笑顔でクロを説得し始めた。
アタシはその隙にポケットからタバコとライターを取り出し、バレないように一服する。
ここで吸うのはどうかと思っていたが、状況が状況なだけに大丈夫だろう。
「それでも、私は話を聞きたいです」
「――帚星」
ヴィヴィオの申し出を拒否したクロは突きつけていた箒を撃ち出す。
普通ならあの距離で避けるのは不可能に等しいが、ヴィヴィオはそれを寸前で回避し、クロの手を掴んだ。へぇ、反射神経は悪くねえな。
「少し聞いてくださいね」
「すごいなぁ……あの距離で避けたよ」
「ええ」
「でしょ?」
「………………ん?」
なぜだろう、とてもイヤな予感がする。その予感を頼りに後ろを振り向くと、チカチカと点滅する小さな瓶があった。
ジークとルーテシアもそれに気づいたのか、アタシと同じように小さな瓶を見つめていた。
『ブチ抜けぇ――ッ!』
「ファッ!?」
小さな掛け声と共に瓶から噴射されたのはイレイザーだった。
軌道上にいたアタシはこれをギリギリでかわし、ヴィヴィオとクロもなんとか回避していた。
「おっと」
何かにぶつかったと思ったら壁だった。正確には本棚か。バックステップの要領で回避したから気づかなかったよ。
……噴射されたイレイザーをバックステップで壁側に回避、だと?
「――くぁwせdrftgyふじこlp!?」
〈マスター! 死ぬわけではないので落ち着いてください!〉
再びイヤな予感がしたので上を見てみると、イレイザーによるものであろう瓦礫が絶賛落下中だった。
一つや二つじゃねえ。光景からすればどう見ても土砂崩れのそれである。
変な声が出たせいで逃げ損ねたアタシはなす術もなく瓦礫に埋もれてしまった。
「………………お、死なずに済んだか」
わりと本気で死ぬかと思ったが、どうやら生き埋めで済んだみたいだ。
なんつーか……土砂崩れに巻き込まれた人たちの気持ちがなんとなくわかったよ。
〈死ぬと思っていたことに驚きです〉
いや死ぬだろ普通。
「ま、それよりもここから出ることが先決だよなぁ…………ん?」
とりあえず腕を動かそうとしたら赤紫色の稲妻が右腕を走った。
なんで稲妻? アタシ変換資質は持ってないんだけど。そう疑問に思っていると、いきなり全身が赤紫色に光り出した。
ノーヴェとやったときみたいに輝くような感じではなく、身体の所々が点滅している。
「――ああ、またか」
そうアタシが呟くと、全身から魔力が衝撃波のように放出された。
アタシを生き埋めにしていた瓦礫の大半が吹っ飛び、やっと外の様子が見えた。
えーっと状況は……まずクロは元の姿に戻ってる。クロを囲うようにベルカ組とルーテシアが、その近くには瓶から脱出したであろうハリーやシェベルたちがいた。それに加えさっきまでいなかったティミルとヴィクター、そしてほぼ全裸同然のリナルディまでいる。まさに全員集合だな。
アタシは近くにあったサッカーボールくらいの瓦礫を手に取り、イレイザーを撃った張本人であるハリー目掛けて思いっきりぶん投げた。
「いってぇ――!?」
「あー! サッちゃんどこ行ってたん!?」
瓦礫がハリーの後頭部に命中すると同時にジークたちがアタシの存在に気づいた。
どこに行ってたって言われても……生き埋めにされてたとしか言えない。
他の連中も気づく中、ハリーだけは後頭部を擦りながらアタシを睨みつけている。
全く、睨みたいのはこっちだよ。偶然とはいえ人を生き埋めにしやがって。
「何すんだてめー!?」
「なにってそりゃお前――仕返しだよ」
まさかその程度で許されると思ってんのか? だとしたらお前はアホだ。
首を鳴らしつつ、ハリーたちの元へゆっくりと歩いていく。
「あ、あのさサツキ。やる気になってるとこ悪いがもう終わったぞ……?」
「そういえばサツキさん、さっき番長の砲撃をかわしたとき崩壊に巻き込まれてたような……」
「そうか、見ていたのか。じゃあ拳骨で許してやる。だがハリー、テメエはダメだ」
「わたし殴られるんですか!?」
「待て! お前自分がやったこと忘れてねーか!?」
アタシがやったこと? そんなの、隙を見てタバコを吸っただけだ――
「――バカなっ!? あの小さな瓶の中からアタシが一服してるのを見たというのか!?」
「お前は何を言っているんだ!? オレが言ってんのは裏切ったことだよ!」
「……………………あ、そっちか」
なんだ、てっきりここで一服したことを責められるのかと思ったよ。
ってか裏切った覚えはねえぞ。スパイ活動をクロと合流するまでやってただけだ。
とはいってもそれらしいことはほとんどしなかったけどね。
「それはさておき、なあハリー。お前の言う通りならアタシとお前は敵同士だ」
「まあ、そうなるけど…………まさかお前」
「おうよ――」
一旦言葉を句切り、いつの間にかアタシの正面に立っていたハリーにはっきりと告げる。
「やろうぜ? 今ここで」
《今回のNG》TAKE 17
「サッちゃん」
「今度はなんだ」
「……あのときのこと、覚えてる?」
「いつのこと――」
「朝のことや」
「だからいつだよ!? 朝は大体お前のせいでろくなことがないんだぞ!?」
「祝日の朝や! サッちゃんのアホ!」
「ぶっ殺すぞテメエ!?」