死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第6話「イメージに騙されるな」

「今日はまっすぐ帰るか……」

〈あのマスターがまっすぐ帰るなんて……今日は空飛ぶ亀が現れるかもしれません〉

「それはそれでありかもな」

 

 放課後。昨日のジーク蹂躙によりケンカする気力すら失ったかもしれないアタシはとにかくベッドにダイブするため、普通に帰ることにした。

  授業? サボる気力もなかったので察してくれると嬉しい。ずっと寝てたけどな。

 

「さて、帰ってたっぷりと睡眠を――」

「サツキさ~ん!」

「――あ?」

 

 疲労回復の決意を改めてしたと同時に声をかけられる。というかこの声は……ヴィヴィオだな。

 声がした方に振り向いてみると、アタシを呼んだであろうヴィヴィオと二人のガキんちょがいた。

 一人はツインテール、もう一人はチラチラと見せている……や、八重歯? いや、吸血鬼の牙か? そんな感じの歯が特徴ってとこだな。

 

「おっす」

「はいっ! この時間帯で会えるなんて思ってもみませんでした」

 

 それは同感だな。まさか会うことになるなんて思いもしなかったぜ。

 ふとヴィヴィオの友人であろうガキ二人を見てみると、この人があの……? って言いたそうな表情でアタシを見ていた。

 一方的か。まあ、コイツらとは初対面のはずだ。練習場のあれはノーカンだろうし。

 

「で、そっちの二人は?」

「え、えっと、コロナ・ティミルです」

「リオ・ウェズリーですっ!」

 

 ふむふむ、なるほど。

 

「――ツインテールがコロナ・ビーム、そっちの……変なのが吸血鬼(オーガ・バンピエス)?」

「「違いますよっ!?」」

 

 二人同時に否定されてしまった。後者はともかく、前者は悪くないと思うんだけどなぁ。

 ほら、カッコいいじゃん。まあ、冗談でしかないってことが残念だけど。

 

「冗談だよ、ティミル」

「あたしは冗談じゃないんですか!?」

 

 ギャーギャーうるさいな、このガキは。今生えている全ての歯を引っこ抜いてやろうか。特にや……や……そう、八重歯とやらを。

 どう見てもあれ、吸血鬼が血を吸うとき首筋に突き立てるやつに似てるんだよなぁ。

 ひょっとしてコイツ、デイ・ウォーカー? だとしたら銀の杭もにんにくも効かないのか……。

 

「これは厄介だな」

〈気にしないでください皆さん。マスターはバカなんです〉

 

 そんな事実は何度言われようと認めない。

 とりあえず頭があんまり回らないので考えるのをやめた。まさかここまで影響があるとはな。

 それにしても聞いたことのある名前だな、ウェズリーって。いや、あれはウィーズリーか。

 

 

(「ねえ、この人が本当に)(あの緒方サツキ選手なの?」)

 

(「そ、そうだけど……?」)

 

(「イメージと全然違うよ……」)

 

 

 おいコラ聞こえてんぞクソガキ共。何がイメージと違うだぁ? 勝手な理想像作ってんじゃねえぞコノヤロー。

 イメージに合わないことなんて山のようにあるんだよ。現実を見ろってんだ。

 ていうかインターミドルが絡んでるな。選手呼びってことは。

 

〈マスター。髪を束ねてみては?〉

「あ?」

 

 なんで試合でもねえのに束ねる必要があるんだよ。

 そう思いながらも、アタシは髪を束ねてみる。さて、変化はあるかな?

 無事に束ね終わり、まだ騒いでいるであろうガキ共の方を見てみる。

 

「「…………」」

 

 さっきまでなんとも言えない表情をしていたウェズリーとティミルが大人しくなっていた。

 それどころか、まるで信じられないような感じでアタシを凝視している。

 どうやら効果はあったようだ。つーかありすぎじゃね?

 

「「――ほ、本人!?」」

 

 ここまで効果があるとは思わなかった。

 

「本物に決まってんだろうが」

 

 まさかそこから疑われているとは思ってもみなかったぞ。これはさすがに酷すぎだろ。

 選手としてのアタシってどんな風に見られてるんだろ? わりとマジで気になるんだけど。

 

「すみませんでした……」

「ごめんごめん♪」

 

 ティミルは素直に謝ってくれた。ファビアにはほど遠いがそこそこ良い子なのかもしれない。

 だがウェズリー、テメエはダメだ。

 

「り、リオ!」

「軽々しく言っちゃダメだよ!」

「えー、なんでー?」

 

 なぜ頭にいくつもの疑問符を浮かべながらアホ面になっているんだコイツは。

 上下関係というものを知らないのか? いくらなんでもそれはねえだろ。

 きっと残念な子なんだなと思い、もう一度だけ謝らせてみることにした。

 

「ほら、もういっぺん言ってみろ」

 

 これでコイツも過ちに気づくだろう。ちなみにヴィヴィオとティミルは必死になっている。

 別に取って殺そうってわけじゃねえから安心しろ。アタシもそこまで鬼じゃない――

 

「――ごめんごめん♪」

 

 ぶっ殺す。

 

「サツキさん抑えてください~!」

「お、落ち着いてくださいっ!」

 

 ウェズリーに引導を渡そうと迫ったらヴィヴィオとティミルがしがみついてきた。

 離せお前ら。死にたくなければ離せ。アタシは今からこの変なのをぶっ殺す必要があるんだ。

 ウェズリーはまたなんで? というアホ面になっていたがそんなことはどうでもいい。

 

「ストップだサツキ」

「あ、ノーヴェ」

 

 いざ行かん! というところでいきなり現れたノーヴェに止められてしまった。クソッタレめ。

 ウェズリー含むガキ共はホッとした表情になっていた。待て待て、なに被害者ぶってんのお前。

 チッ、もういいわ。やる気が失せちまったよ。

 

「そんじゃ、アタシはこれで」

「おう」

 

 とりあえずその場から立ち去ることにした。疲れが余計に溜まったような気がするよ。

 ……いや、暴れに行こう。気力がないとか言ってらんねえわ。それに今ので暴れたくなった。

 ストレス発散のため、アタシは再び湧いてきた気力で暴れることにした。

 

 

 

 

 

 

 

「たでーまー」

「お帰りや~……」

 

 これでもかというほど大暴れして、深夜に帰宅したアタシを出迎えてくれたのはジークだった。

 ていうかなんで起きてんだ? コイツ。

 この時間帯なら間違いなく寝てるはずだぞ。あれ? もしかしてジークの体内時計おかしくなっちゃった? そんなわけないか。

 

「なんでいるんだ? そしてなぜ起きている」

「サッちゃんを待ってたんよ……」

 

 と、眠そうに欠伸をする。誰も待ってほしいなんて一言も言ってねえがなぁ。

 しかしここはジーク。見事にアタシの予想を裏切ってくれた。

 

「う~ん……正確にはサッちゃんの()()を待ってたんよ~……」

 

 うん。コイツがこんな時間まで起きてる理由なんて大体これだ。前にもあったのを思い出したよ。

 さすがにアタシ個人を待ってはいないだろう。百合じゃあるまいし。

 

 

(「ほんまはサッちゃんと)(一緒に寝たかったんよ……」)

 

 

 百合じゃあるまいし。

 

「んで、ご注文は?」

「ん~…………サッちゃ――おでん」

 

 今アタシだと言いかけたのは気のせいだと心の底から信じたい。

 きっとジークは寝惚けているんだ。そうだよ、そうに違いない。

 

「う~……サッちゃ~ん」

「抱きつくな」

 

 わりとマジで寝惚けていたらしく、唇を尖らせながらアタシの腰に抱きついてきた。

 ねえ、頼むから離れてよ。アタシもいろいろと限界なんだよ。

 これもう殺っちゃっていいよね? いいよね? ずっと我慢してきたけどいいよね?

 

〈アホですか。ダメに決まってるでしょう〉

 

 アタシの心情を察したラトにいち早く止められた。なんでだよ。

 あー……これは力ずくだな。

 

「オラァ!」

「ごふっ!?」

 

 腰に抱きついてきたジークの後ろに回り込み、すかさずバックドロップをかます。

 別にジャーマン・スープレックスでもよかったんだけど、咄嗟にやっちまったからな。

 ジークはしばらく目を回していたが、やっと目が覚めたらしくすぐに立ち上がった。

 

「さ、サッちゃん!? あれ? なんでぇ!?」

「それはこっちのセリフだ」

 

 どうやらここにいる理由すらわからないらしい。寝惚けてるって怖い。

 つーか痛み感じねえのかお前は。あれ結構な威力だったはずだぞ。

 さすがはチャンピオンといったところか。伊達に鍛えているわけではないみたいだ。

 

「とりあえず帰れ」

「それはお断りや」

 

 なんだこの打ち合わせしたかのようなリズム感は。

 そうか。これはきっと悪ノリってやつだ。そうとわかればもう一度言ってみるか。

 

「帰れ」

「お断りや」

 

 悪ノリでもなんでもなかった。

 

「ぶっ殺すぞ!?」

「やれるもんならやってみーやっ!」

 

 しかもアタシのセリフまで取られた。マジになってやがるなコイツ。

 ある程度の距離をとり、互いに構える。どうする? 相手は打撃もできるグラップラーだ。

 だが肉弾戦ならアタシの方が上だ。これに関しては絶対に譲らねえ。

 

「年貢の納め時だなぁ、ジークちゃんよ」

(ウチ)のセリフ、取らんといてーや」

 

 このあとそれなりの小競り合いを繰り広げたが、眠そうにしているジークがアタシに勝てるわけもなくあっさりと勝負はついた。

 ちなみに決め手は一本背負いだ。投げ技くらいアタシにだってできるさ。

 お互いに万全だったら前みたいにすげえケンカができたんだろうけど……まあいいか。

 

 

 

 

 

 

 

「サツキさんとノーヴェってどんな経緯で出会ったんですか?」

「なんだよ藪から棒に」

 

 翌朝。たまたま合流したヴィヴィオと一緒に登校していると、いきなり私、気になります! って感じの表情で問いかけられた。

 ノーヴェとの出会いね……あれは忘れられないなぁ。久々に生きてる実感がした。

 

「なんでまたそんなことを?」

「それは……気になるというか、知りたいというか……」

 

 そこははっきりしろよ。どっちもあんまり意味は変わんねえけど。

 それにしても過去話かぁ。最近は振り返ることなんてなかったから細かいところは忘れつつあったよ。

 ……たまにはいいか。別に減るもんじゃねえし。

 

「別に話してもいいぞ」

「いいんですか!?」

 

 なんで驚いてるんだ? 聞きたいつったのお前だろ。まあいいか。

 

「あれは確か――いつだっけ?」

「わたしに聞かれても……」

 

 ホントにいつだっけ? でも半年前とかそこまで経ってはいないはずだ。

 だとしたら数ヶ月ほど前か。それでもわりと月日は経っているのな。

 

「ま、いつでもいいや」

 

 

 

 その日も確か、集団相手に大暴れしてたんだよなぁ……。

 そんなときだった――アイツと出会ったのは。

 

 

 

 




 というわけで、次回はサツキとノーヴェの出会いという過去話になります。

《今回のNG》TAKE 20

 ふむふむ、なるほど。

「――ツインテールがコロナ・ティミル、そっちの……えっと……ごめん、忘れた」
「違いま――いえ、その通りです!」
「今言ったばかりなのに!? それになんでコロナだけ合ってるんですか!?」
「悪い悪い。えーっと……ウェズリー・リオ?」
「惜しいっ! とても惜しいです! 苗字と名前を逆にすれば正解です!」


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