「……よう」
「大会以来、ですわね」
12月25日。大晦日――じゃなくて、元日まであと一週間。アタシは今、大会でやり合った雷帝とやらが住んでいるお屋敷に来ている。
季節がバリバリの冬ということもあり、顔に当たる風は冷たく、道には雪が少しばかり積もっていた。
ていうかこっちでも雪は降るのか……季節はあっても天気は変わらないのかと思っていたよ。
目的はパーティーへのご招待だとか。それとアタシに会わせたい奴がいるらしい。
ま、アタシとしてはパーティーを楽しむことができればそれでいいんだけど。
「にしてもよ、食事が多すぎねえか?」
「問題ありませんわ」
「いや、こんなの大食いな奴でもいない限り絶対に残るぞ」
もしかしてお前の分だったりする?
「つーか大会でやり合っただけなのにパーティーに招待とはね……」
「知り合いに頼まれましたの」
「知り合い?」
アタシの交友関係にそんな奴はいないはずだが……マジで誰なんだよ。
っと、そんなことより食事は……それなりに大きいケーキ、ローストチキン、そしておでんか。
「――おでん?」
「知り合いの好物なの」
「うわ。こっちにも和風な奴がいんのかよ」
ていうかその知り合いも来るのか。まあ、アタシを呼んだんだし顔は見ておきたいな。
雷帝の知り合いだからきっと相当なお嬢様に違いない。高飛車なんだろうなぁ。
ふと周りを見てみると、窓の近くにそこそこ大きなクリスマスツリーがあった。へぇ、わかってんじゃん。……煙突はないけど。
「ヴィクター!」
「来たわね」
「あれ? なんか聞き覚えのある声だな……」
どうやら例の知り合いが来たみたいだ。しかしなぜだろう。室内なのに寒気がする。暖房も掛かっているのに寒気がする。
アタシはその違和感の正体を確かめようと、声がした方を振り向いた。
そこにいたのは黒くて長いツインテールと澄んだ青い瞳、そしてジャージが特徴的な美少女だった。――ん? ジャージ?
「そ、ソイツが知り合いってやつか……?」
「そうだけど……なぜそんなに汗をかいているのかしら?」
「久方ぶりやな!」
「……どちら様?」
「あれ? 忘れてるんか?」
忘れてるも何も、お前とは初対面なんだが?
「前に公園で会ったやろ?」
「いや、会ってない」
「会ったやろ!?」
「会ってない」
お前みたいな美少女なんぞ知らん。アタシが知ってるのは変態だけだ。
しかもアイツはフードで顔を隠してたからどんな面かわかんなかったし。
「ほ、ほら、これで思い出せるはずやっ!」
「だから、お前なんぞ知ら……ん……」
再び奴の方を見て思わず絶句してしまった。だってそこにいたのは――
「――変態だぁああああっ!!」
「誤解って言うたやろーっ!!」
例の尻フェチだったのだから。
~~しばらくお待ちください~~
「じ、ジークリンデ・エレミアです~……」
「死ね」
数分後。なんとか落ち着いたアタシは変態に自己紹介されている。
どうやら尻フェチの名前はジークリンデ・エレミアというらしい。エロミアの間違いだよな?
ていうかフードを被っただけで変態になれるとは盲点だった。どうやってその長い髪をフードに納めてるんだよ。あのときは短髪かと思ったよ。
「だからあれは誤解やって!!」
「一体何をやらかしたの?」
「お尻に顔をうずめられました」
「…………………………じ、ジーク?」
「待ってヴィクター。そんなついに目覚めてしまったの? みたいな顔をされても困るんよ」
ついでに雷帝の名前はヴィクターというらしい。だけど本名ではなくあだ名みたいだな。
まあ、アタシとしてもそろそろ雷帝って呼ぶのめんどくさくなってたから助かったよ。
それにしても、まさかコイツが会わせたい奴だったとは……なんかイヤだ。
「ジーク。まだ辛いことがあるなら、相談に乗るわよ……?」
「ま、待って! 違うんよ!
なんて見苦しい言い訳なんだ。
「――むしろそういう形にしたんはサツキや!」
「待て! 人のお尻に顔をうずめたかと思えば、今度はその罪をアタシに擦りつけるだと!? この愚か者が! 恥を知れ恥を!」
「は、恥を知るのはそっちやろ! 人が気持ちよく寝てたっちゅうのにその上に座るなんて!」
「ベンチに座って寝るならまだしも、横になっていたお前が悪い! そもそもベンチは腰掛けの一種であって座るための道具だ! 布団でもベッドでも寝袋でもねえんだよ!」
「さらっと
「やめなさいジーク。それは胸を張って自慢するほどのものではないのよ?」
うん、バカだコイツ。タマネギとネギの区別なんかウニとイガグリを区別するよりも簡単なことだぞ。まず見た目が違うし。
そういえばこの尻フェチ、確かインターミドルにも出てたらしいな。
「なるほど、脳筋か……」
「ちょっと話があるから表に出よか?」
「一人で勝手に出てろ」
「ダメよジーク。外は寒いうえに雪も降っているのよ? 凍え死んでしまうわ」
そろそろ料理を食べたい。これ一応パーティーなんだろ?
変た――エレミアは納得がいかないと言わんばかりに雷帝ことヴィクターに抗議している。
まあどうでもいいので、とりあえずローストチキンを食べることにしよう。
「うめえなこれ」
「あーっ! まだいただきますもしてへんのに!」
「お前とするぐらいならしない方がマシだ」
想像するだけで寒気がする。
「まったく、はしたないわよ?」
「いいじゃねえか別に。そんなことより、さっきから気になってたんだけどさ……」
「何かご不満な点でも?」
いや、別に不満というわけではない。ちょっと納得がいかないだけだ。
今日はクリスマス、昨日の夜はイブ。クリスマスと言えばサンタクロース。要するに――
「――なんでケーキの上にサンタさんが乗ってないんだよ!?」
「「そこ!?」」
おいおい、クリスマスケーキつったら普通サンタさんが乗ってるもんだろうが。
サンタさんが乗ってないクリスマスケーキなんてただのケーキだ。おもしろくない。
せっかくツリーまであるってのにこれは残念すぎる。ミッドの人間には理解できなかったか。
「お前らなんもわかってねえ! クリスマスと言えばケーキ! そのケーキの上にはサンタさん! 常識中の常識だろうがボケ!」
「え、えーっと……少しは落ち着きなさい」
「あ、アホや……」
「アホはテメエだろうがアホミア」
「そろそろ
限度は誰にだってある。その言い方だとお前が特別な存在みてえじゃねえか。
むしろブチギレたいのはアタシの方だ。まだ慰謝料もらってねえんだよ……!
「ブチギレる前に慰謝料よこせや。それでチャラにしてやっから」
「離してヴィクター!
「ダメよジーク! そんなことをしたら犯罪者になってしまうわ!」
「やれるもんならやってみろ。雑魚が」
「離すんやヴィクター!! 早くこのアホの頭を粉砕する必要があるんよ!!」
「ダメだと何度言えばわかるの!? くだらないことで人生を棒に振るのはやめなさい!」
確かにくだらねえな。冷静な奴ならクールに流すことができるんだぞ。あ、お前には無理か。
「くだらなくなんかあらへんっ!
「あ?」
なんだ? 言いたいことがあるならさっさと言え。ローストチキンが冷めちまう。
何か決心でもしたのか、エレミアはかなり真剣な表情でアタシを見つめながら口を開いた。
「――
「離せヴィクター! アタシはこのクソヤローをぶっ殺す必要があるんだっ!」
「二人とも、後でお説教ね……」
このあとヴィクターにお説教を受けてからパーティーをそれなりに楽しんだが、アタシとエレミアが険悪な状態であることに変わりはなかった。
そしてクリスマスケーキにサンタさんが乗せられることもなかった。クソッタレが。
《今回のNG》TAKE 25
「――なんでケーキの上にサンタさんが乗ってにゃいんだよ!?」
「「……………………っ!」」
ひたすら殴れば全部忘れてくれるだろうか?